フィリピン奪還作戦が開始されてから2カ月が経つが着実に進んでいる、とは言い難い。
投入師団の上陸は全て完了しており、交代で進軍をしている。
既に第2段階を終了し、第3段階に取り掛かっている。
進行速度は予定より若干の遅れを生じているだけであるが、問題はそこでは無い。
敵ゲリラの対処に思ったよりも苦慮していることだ。
敵の抵抗はやはりゲリラ戦が主であり、奪還地域も含めてフィリピン全域が戦場で後方地域も前線も変わない。
後方地域で休息中でも関係無しに、一過性の夜襲やら奇襲、強襲が仕掛けられる。
小銃や機関銃だけならまだ良い方で、酷い時には迫撃砲弾などが降り注ぐのだ。
これでどうやって気を休めろと言うのか。
それどころか歩哨の数を増やすぐらいの対処しか出来ないのだから負担が増えるばかりである。
とは言え前線に比べれば後方地域はまだマシだが、いつ襲われるか分からないと言う状況は、陸軍将兵達にとって宜しいものではない。
敵の何時来るか分からない奇襲に怯えて、しっかりとした休養が取れないと言う状況は心理的に負担が大きい。
特に大きさ故に狙われやすい戦車や自走砲などは、いかに機関銃や小銃と言った装甲で防げる攻撃だとしても銃弾が装甲を叩く音と言うのは心地の良いものでは無い。
攻撃が集中こそはするが、余程運悪く戦車であれば砲塔天板に設置されている車長用キューポラや搭乗員用ハッチ、ペリスコープに直撃するか、自走砲なら天板が無いので戦闘室内に直撃しない限り撃破されはしないが、銃弾や迫撃砲の破片などが当たって弾かれる音と言うのは、やはりどうしても精神的に大きな負担となる。
それによって搭乗員が精神的に限界が来て後送されると言う事態が起きている。
対処法としては、攻撃を受ける前に敵を叩くなどが挙げられたが結局あの密林の中を夜闇などを利用して忍び寄ってくる敵歩兵を事前に察知するのは難しい。
特に野営中だと難しく、進軍している部隊や途中途中で野営中の部隊は結局、戦車兵に関しては交代要員を準備して1週間ごとに交代させるぐらいしか今のところは無い。
飛行場や補給拠点と言った場所であれば、基本的に部隊が動くなんてことは余程のことが無い限りは有り得ない。
なので集音器を飛行場や補給拠点などの周辺に大量に設置して、事前に敵部隊を察知し駐屯し防衛に当たる歩兵部隊が迎撃に乗り出す、なんてことが出来るが、そうでない前進を続ける各戦闘団は、一々野営する度に集音器を設置して回収してを繰り返さなければならなくなる。
これでは迅速な移動などはやりようもなく、用兵の基本理念の一つである「兵は拙速を聞く」から大きく外れることとなる。
結局野営中に敵ゲリラへの対処は歩哨を多く立てて警戒する他に無い。
我々もカリマンタン島などでの戦訓を取り入れているが、敵もカリマンタン島での戦訓を十分に取り入れている。
カリマンタン島奪還の時は敵の戦術も今と変わらず、ゲリラ戦が主であったがここまで洗練されたものでは無かった。
ゲリラの拠点をこちらが把握する前に別に移して、破壊されるのを防いでいたりあちこちに武器弾薬食料を隠していたりだとかで、こちらが作った道も通れば横から銃弾を浴びせられたり、地雷で擱座させられて擱座した車両の回収に時間が掛かったりと補給線への攻撃も、空中投下があるから前線部隊への大きな影響は無いものの、頻発しているので物流が数日滞ったりするのだから馬鹿に出来ない。
どこかの村や町と言った市街地などになると彼我共に大規模な部隊同士がぶつかる事も多いが、フィリピン全域の敵軍の総数は15~20万が精々であちらこちらの大きな町などを防衛しようとしたりゲリラ戦に兵力を投入するとどうしても兵力分散を強いられることになる。
装甲戦力はこちらの敵地後方破壊作戦によって各地の燃料貯蔵施設などを吹き飛ばしたことによって燃料不足が発生、それが原因で行動は芳しくない敵側はその殆どが偵察用のオートバイや精々装甲車ぐらいだ。
それでも市街地や開けている場所だと航空支援の下で戦車を活用してきている。
こちらは確かに陸海軍航空隊によって制空権を奪取しているが、場面場面や要所要所にのみ戦力を投入すれば航空戦においてギリギリ拮抗する程度にはなる。
だからそちらへ装甲戦力と航空戦力を投入しているためにゲリラ戦では敵戦車は数回見られただけでそれ以外は市街地戦や戦車が十分に戦える場所以外でしか見られない。
全体的にはこちらが優勢になるだろうが、何ともやり辛い。
敵ゲリラとの戦闘は彼方此方のジャングルで発生している。
カリマンタン島などの奪還時のように、道に迷って迷子になる部隊は航空支援や通信機を使った相互連絡などで随分と少なくなっているが、やはり迷子になる部隊はある。
幾ら相互連絡で位置を把握しているとはいえGPSと言った正確に位置情報を知ることが出来る機器が無い。
航空機での位置把握も結局のところ紙の上で印を付けて、それを機上の搭乗員が指示を出すと言ったものだから、全ての部隊を同時に把握することは出来ない。
だから思わぬ場所に出てしまい、どこに居るか分からなくなって連絡は取れているが互いにどこにいるか分からなくて数日ジャングルを彷徨うだとか、川に出て喜ぶも束の間に位置を測定したら予定地とは全く別地点であるなどだ。
川に出たなら、まだ空から見つけやすいし大発なり小発なりで回収に向かっても良い。
しかしこれがジャングルの中だとどこに居るのやら把握するだけで時間が掛かる。
幸いなのは、通信を逆探知してどこにいるかを大体把握することが出来ることだろう。
これが無かったら目視で目立たない目印を見つかるまで探す羽目になっていた。
訓練を積んでも足を踏み入れたことの無い詳細な地図の無い土地では、それは仕方がない。
作戦が若干遅れている主な理由は敵ゲリラへの対処と部隊の迷子が原因だ。
「提督、パナイ島の奪還が終了し現地部隊が掃討戦へ移行しました」
「良くやった。奪還に当たった部隊に慰労の電文を送ってやってくれ。予定通り休息を挟んだらギマラス島の奪還へ向かうように」
「了解しました」
パナイ島の奪還が完了したと報告を受ける。
予定より2週間遅れであるが、被害は小さく抑えられている。
休息は3日であり、その間に再編と補充を済ませれば問題無い。
「提督、第一護衛艦隊から入電だよ」
「どうした?」
「2日後の1530までには合流出来るって」
「予定通りだな」
当直指揮官である飛龍から報告を受け取る。
今は制海権と制空権を奪取、陸軍飛行戦隊も進駐を次々と開始しているので艦隊は交代で本土へ戻り、整備を受けている。
第一護衛艦隊が最後で、合流すれば艦隊の全戦力が揃い踏みとなる。
外洋への長期航海は途中に泊地などを持たない我々にとって大きな負担だ。
艦と言うのは1か月も外洋に出るとあちらこちらが錆だらけになってしまうのだ。
毎日手入れをしてはいるが、それでも追い付くものでは無い。
だから定期的に本土へ戻って機材を入れ替えたりなどの重整備を受ける必要があるのだ。
整備を受ける艦の数は少ないから、瀬戸内海全域にあるドックへ入渠することが出来る。
修理中の艦艇や浮揚作業が大詰めになっている大和、武蔵を除いても可能なのだ。
輸送船の建造の他に戦闘艦艇が損傷した場合に備えてドックは常に20箇所は空けている。
だから多くても30隻程度を擁するに留まる各艦隊は交代でも昼夜問わず行えば10日もあれば十分に整備を終えられる。
これは作戦中であるから昼夜問わずであるだけで、作戦が無ければ昼夜問わず運転しているのは輸送船建造を担当しているドックぐらいである。
工員妖精達も抜き打ちの検査を不定期に実施しているが、十分に休息を取っている。
そちらに関しては、問題無い。
作戦に関係の無い問題として今あるものとすれば、各地への補給問題ぐらいなものだ。
護衛艦隊をさっさと輸送任務に回しては、と言う意見もあるが敵艦隊が出張って来た時を考えるとどうしても第一機動艦隊ないしは護衛艦隊だけでは対処しきれない。
だから確実にフィリピンを奪還してから再開するのが堅実であるのだ。
輸送任務を再開して、これで輸送船団と護衛艦隊どちらにしても大損害を食らっては大事だからな。
ともかく、早く第3段階を終えて第4段階に移りたいものである。
「提督、独立工兵大隊からだけど……」
「増援の懇願だろう?」
「まぁ、そうだね」
「もう少しだけ待つように言ってくれ」
「……分かった」
今日もまた、独立工兵大隊から増援を願う暗号文が届く。
それは何故か?
簡単な話だ、独立工兵大隊の被害が大きいからである。
実のところ、フィリピン戦で最も損害を被っているのは独立工兵大隊に他ならない。
第二に各戦闘団、そして次が陸軍飛行戦隊である。
戦闘団は前線で直接戦うから損害が出るのは当たり前だ。
ゲリラにしろ、市街地戦や村の奪還、進軍中に地雷を運悪く踏み抜いたり、低調とは言えども時折現れる敵機が落とす爆弾や機銃掃射を食らったり。
もっと運が悪いのは友軍戦車の砲撃に誤って巻き込まれたりしたときだ。
我が軍では、歩兵に関しては無線機を5人に一つの割合で配備している。
戦車や自走砲と言った車両類と航空機は全てに無線機が設置されている。
これは戦術的な意味で、物凄く大きい。
単純な話、GPSや衛星、C4Iと言ったものに比べればお笑い程度だが、それでも相互の位置を把握し易くなるし、目標の選定から始まりあらゆることが円滑に進めやすくなる。
何より誤射の危険が少なくなる。
なんせ戦場と言うのは混沌だ。
どれだけ相互連絡、相互連携を密にしても情報はある程度は錯綜したりしてしまう。
敵味方の識別なんて、精々軍服などの服装か肩、胸、背中のそれぞれに縫い付けられている3cm四方に収まる程度の小さな国章だけ。
戦車でもそれは同じで部隊章か、国章ぐらいなものだ。
それも偽装などで簡単に分からなくなってしまう。
更に言ってしまえば南方方面に派遣される兵士に支給される被服は、実は簡単な迷彩色が施されている。
ジャングルの中で迷彩服を着ているだけでも分かり辛いのに、更に偽装を施している奴を、どうやって敵か味方かを判別出来ようか?
しかも戦車にとって歩兵と言うのは、実は敵戦車よりも恐ろしい存在だったりする。
戦車は装甲を纏っているから強い、と思われがちだが実は歩兵に対してかなり脆弱である。
歩兵の支援があれば絶大な威力を発揮するが、歩兵支援の無い戦車など、対戦車火器を携帯した歩兵からすれば恰好の獲物だ。
だから戦車は歩兵に対してかなりの警戒心を持って対処せねばならない。
逆も然りで、歩兵は装甲に守られていないから、着弾した時に飛び散る破片どころか、吹き飛ばされた石でも歩兵は死ぬ。
戦車の支援がある歩兵は敵歩兵に対しても敵戦車に対しても挑めるのだが、戦車に限らず車両は迷彩塗装が施されている。
大抵は工場で塗装が為されるが、現地ではそれに加えて偽装を施したりどうやったのか、何故か染料を抽出してどこに居るのか分からないレベルの迷彩を勝手に施すなんて連中まで居るのだ。
歩兵からしても戦車は恐ろしくも、歩兵支援が無ければ良い戦果だから狙いたくなる。
撃破を重ねようものなら昇進だってあるし、戦車撃破勲章なんかを貰えるわけだ。
これが互いに歩兵支援、戦車支援が無い状態で友軍同士が不意に遭遇しようものなら、驚きの余り不意にどちらかが発砲してしまえば敵味方の確認をする余裕も無いままに完璧な同士討ちが発生してしまう。
実際、南方方面作戦ではそのような事が起きていたし、今のフィリピンでも起きている。
しかも厄介なのがこちらがそうするように敵だって我々の兵器や迷彩服を鹵獲して使用してくる。
味方の振りをして対戦車火器や戦車砲でドカン!と撃たれたら終わりだ。
いままでも、敵の反撃で擱座した戦車や戦死した兵士から奪った武器兵器、迷彩服を使って奇襲を何度かされている。
そうなると、戦場では疑心暗鬼が始まる。
どこから現れるか分からないゲリラに加えて、鹵獲したもので襲い掛かってくるかもしれない。
疑って当然、寧ろ疑わない奴が居たら神経がおかしいか、ただの阿呆である。
故に友軍歩兵や戦車の服装や迷彩であっても敵である可能性を疑わなければならないのだ。
そんな同士討ちをする可能性を低くしてくれるのが、無線である。
互いに互いが出くわして、どっちか分からないとなった場合は無線で連絡を取ってどこに居るのかとか、どんな動作をして欲しいだとかで判別出来るのだ。
結果、効果抜群である。
流石に全てを防ぐことは出来ないが、同士討ちは滅多に起きない。
ついでだから迷彩服、戦闘服についても話しておこう。
迷彩というのは、その土地その土地によって効果が発揮される調色や配色が全く異なる。
極端な例を挙げるとすれば、アフリカ大陸の迷彩と欧州の迷彩をそれぞれの土地で使ったとする。
迷彩なのに、物凄く目立つのだ。
そりゃぁ、植生や土の色が全く違うわけだから当然だ。
日本本土には日本本土用の効果を発揮する迷彩、旧自衛隊が使っていた迷彩がそうだ。
アレをフィリピンやカリマンタンで使ったら、それはもう目立つ目立つ。
自己主張が激しいのかと言うぐらい目立つ。
そして、前述の通り今の陸軍、特に南方方面に展開する部隊には例外無く迷彩戦闘服が支給されている。
と言うのも、元々はカーキないしは単色迷彩の戦闘服が支給されていたのだが、戦訓として陸軍は、南方方面攻勢が終了した際に従来のカーキや単色の緑色では偽装を施さないとジャングルの中で、単色戦闘服はまだしもカーキは馬鹿みたいに自己主張をするが如く目立つことを確認しており、それが大問題となっていた。
これは単純に敵からの視認性を大きく上げてしまうだけでなく、隠れても隠れても簡単に位置を悟られてしまうのだ。
そうなると極論、隠れた敵に対してこちらは一方的に撃たれてしまうことになる。
それはあまり損害を出したくない陸海軍にとって致命的だ。
兵士の損耗を抑える意味でも、早急に迷彩戦闘服を最低限南方方面軍に支給、配備する必要があった。
南方方面作戦の時は互いのゲリラ戦や対ゲリラ戦の戦術が未熟であったため、問題は表面化しなかったが、それでも敵の狙撃手にやられたと言う報告が頻発したし、作戦後半になるとそれが表面化、兵士達の間では、「俺達の仕事は進軍中でも草木のフリをすることだ。戦闘は二の次」なんて冗談まで始まる始末。
敵からすればジャングルの中で偽装していないカーキ色はそれはもう良い的にしか写らない訳だから、そんな冗談が流布しても仕方が無い。
そもそもカーキ色の戦闘服が使われていた理由は、単純に迷彩を行うことで生産性の低下を招くからだ。
増える兵員全員に迷彩服を支給するのは、爆撃で工業能力が壊滅的と言っていい日本にとって死活問題足り得る。
流石に下着や訳の分からない民兵紛いの服装で戦地に送り込めるわけがない。
だから生産性に重きを置いてカーキが主で、単色迷彩もある程度は生産するみたいな状況だった。
しかし更なる、来るべき南方での作戦を考えると、カーキや単色迷彩を使い続けるのは現実的では無かった。
そこで陸軍は、奪還作戦中から迷彩の研究を始めたのだ。
日本本土なら旧自衛隊が使っていた迷彩を流用して、と言う事が可能だが南方方面はそうもいかない。
数か月の研究の結果、南方方面では色調が濃い目の3色迷彩、濃緑、濃茶、暗く色調したカーキを混ぜた色になった。
大至急、最低限フィリピン奪還作戦に参加する部隊だけには行き渡るよう生産が開始され、今に至ると言うわけだ。
話を戻そう。
独立工兵大隊の損害が大きい理由は、単純な話、狙いやすいから。
他の戦闘団に比べ、大した火力も無ければ護衛の歩兵こそいれど守りも薄い。
忍び寄ってしまえばあとは一撃食らわせジャングルの中に再び逃げてしまえばいい。
道から一歩外れれば同じような光景が延々と続いているのがジャングルだ、追撃も容易じゃない。
それで自分達が迷子になったら笑えない。
それに、特に最前線で道を切り開く独立工兵大隊は損害がでかい。
真っ先に敵陣への道を切り開くから当然敵の攻撃に一番最初に受けてしまう。
だから機材も人員も損耗が大きく、速く補充を寄越せとせっつかれているわけだ。
部隊の損害は、どれだけ技術が進歩しようと、生身の兵士が戦地に出て戦う以上決して避けられないことだ。
損害0で戦闘に勝とうなんて、どれだけの夢物語を見ているのか、と普通なら再び軍大学なり教育隊に戻して、と言う以前より戦争とはなんなのかと言う事をみっちりと叩き込まねばならなくなる。
俺の仕事はそれを出来うる限り少なくすること。
別に何も無しにその要請を保留にしているわけではない。
あと1週間もすれば、本土から交代の独立工兵大隊が到着し交代出来る。
そうすれば前線に居る大隊と交代が出来る。
前線の独立工兵大隊の損耗率は、人員こそ2割に抑えられているが、独立工兵大隊たる所以の機材は損耗率5割に達しており進軍速度が低下しているのも損耗によって予定速度で道が開けないことによる。
やはり独立工兵大隊には固有の装甲戦力を護衛として付ける必要があるとのことで、新しく送られる独立工兵大隊には、損害理由を加味して装甲戦力であるパンター4両を含め歩兵30名ほどを擁する警戒隊を新しく編入することにした。
建設機材はパンターの車台を流用したⅤ号開削機やⅤ号引揚機、ベルゲパンター、Ⅴ号架橋戦車を装備しているが、あくまでも建設機材であるから装甲戦力としては自衛火器を積んでいるだけで大して期待は出来ない。
だからパンター戦車を1個小隊組み込んで、それに随伴出来る、戦車との相互連携訓練を積んだ歩兵を合わせて警戒隊とするのだ。
これで前方後方を戦車で守れる。
正直部隊規模が大きくなり過ぎている気もするが、今は取り合えずである。
正直Ⅳ号戦車でも良かったのだが、すでに戦車の生産はパンター、センチュリオン、ティーガー、ティーガーⅡの生産に振り切っているのでⅣ号戦車は自走砲用の車台や部品を除いて行われていない。
態々Ⅳ号戦車の生産を再開するぐらいなら、別にパンターで良いじゃないか、と言うわけだ。
取り合えずこれで凌いで、前線から下がった2個独立工兵大隊を優先し再編と人員、機材の補充に警戒部隊の編入を行う。
その間は訓練と休養を兼ねるので大体2週間を予定している。
そのあとはその独立工兵大隊を後方地域での任務に充てて、代わりに後方地域で活動していた2個大隊を再編、補充、編入、休養を行う。
2個大隊を休養などに回し、4個大隊を任務に就かせると言うローテーションを組む予定だ。
「あと1週間だけでいい、耐えてくれ」
「了解。どうする?戦闘団に命令してその間の護衛戦力を増やさせることも出来るだろうけど」
「……いや、止めておこう。戦闘団は戦闘団で任務があるし、損害もある。今はそれをやれる状態じゃないのは確かだ」
「分かった。それじゃぁ、お昼ご飯にしよっか」
「もうそんな時間か」
「給料長がさっきから待ってるよ」
「そうだったか、それは悪かった」
「いえ、お気になさらず。本日は少し奮発して握り飯4つと具入りの味噌汁、それに卵焼きと、沢庵ではなく漬物にしました」
「豪勢じゃないか。どうした?」
「昨日補給を受けたので、食材には余裕がありますから」
昨日の内に艦隊は燃料弾薬、それと食料や水の補給を受けている。
冷蔵庫の中は、一昨日はすっからかんで何もないみたいな状態だったのに今は満載状態だ。
弾薬は今でも散発的に航空攻撃や敵潜水艦による攻撃があるので消費してしまう。
激戦続く陸軍の方に対空機銃や対空砲弾を幾らか融通することもあるので、以外と馬鹿に出来ない消費だ。
海軍は敵艦隊の脅威自体が別方面から新しく転用されない限りは偶に現れる敵機と潜水艦にさえ気を付けておけば特に何かあるわけではない。
陸軍の支援で戦艦を始めとした砲火力のある艦が艦砲射撃を沿岸部に行うこともあるが、言い換えればそれだけだ。
とは言え、母艦航空隊は大忙しだ。
補給物資の空中投下任務を行う連山の護衛から、航空偵察の護衛に支援、陸軍の地上支援、爆撃、対潜警戒任務、艦隊直掩任務etc……。
陸海軍の航空隊に与えられている任務は多岐に渡り、連日交代で烈風と流星が飛んで回っているのだ。
損失した機体と搭乗員に関しては既に本土に整備に戻った際に補充を受けており、しっかりと定数を満たしている。
新兵達も十分に実戦経験を積めている。
潜水艦隊の方も任務は上々。
フィリピンへ向かう敵増援を載せた輸送船に対して大打撃を与えているし、次に控えているスラウェシ島と小スンダ列島奪還に備えてそちらの方でも通商破壊を行っている。
どちらともこの2か月で50隻以上の輸送船やタンカーの損害を挙げている。
だがそれでも有り余る物量でもって、こちらの通商破壊網を突破してきている。
毎日10隻単位の敵輸送船団が昼夜を問わず突っ込んでくるのだ。
潜水艦に搭載されている魚雷なんて精々20本が良いとこだ、すぐに使い切ってしまう。
浮上して砲撃戦を仕掛けるわけにはいかないし、そもそも潜水艦で砲戦を行うなんてまず有り得ないし水中での抵抗力を減らす目的もあって機銃も砲も下ろされている。
実際、微々たるものではあるが0.5ノット程度の速度向上が認められているのは確かだ。
だから魚雷を使い切ったらさっさとバリクパパンかスラバヤの潜水艦基地に戻って魚雷や燃料、食料の補充を受けて再出撃するしかない。
潜水母艦は無いから、仕方が無い。
通商破壊戦に艦隊から空母と戦艦を1隻か2隻づつと巡洋艦1隻、駆逐艦10隻程度の艦隊を編成して送り込んでも良いのだが、そうなると敵の対抗馬として陸上機や潜水艦、果てはポート・ダービーやポート・ダーウィンを根城にする空母や戦艦がいる敵通商破壊艦隊が出張ってくるだろう。
そうなると不味いので、やるなら同時に相手をしても勝てる程度の戦力を出さないとならない。
と言うかそこまでやるならポート・ダービーとポート・ダーウィンを直接攻撃してしまった方が手っ取り早いし、後腐れなく通商破壊を行える。
まぁ、元々それをやろうとしていたのだが、いざ実行するために艦隊が出港し南方方面までやってきたら、そんな時に北海道に敵が上陸したのだが。
元々の計画自体はあるので、やろうと思えば事前偵察を行って場合によっては作戦を修正すれば実行自体は可能なのだ。
豪州奪還やスラウェシ島と小スンダ列島の維持を考えれば、やって損は無いどころかやるべきだろうが、やるならフィリピン奪還が完了してからだな。
なんならフィリピン奪還前に艦隊事に本土で整備を行ってから、ここからそのまま叩きに行けばいい。
奪還地域をいきなり増やすのは、兵站やその奪還地域の整備を行う観点から望ましくないが、一過性の攻撃ぐらいなら、奪還作戦に比べて必要な計算などは片手間程度だろう。
必要物資も艦隊の食料燃料弾薬ぐらいだけで済む。
備蓄の必要も無いし、輸送船の用意やら護衛やらをしないで良い。
普段の作戦から考えれば、輸送船団を伴わないから自分達の身さえ守っておけばいいのだからなんとも気楽なものだ。
実行した場合は上陸もしなくていいから、陸軍との作戦の擦り合わせをしなくていいし、海軍単独で敵艦隊と敵港湾施設を徹底的に破壊しておけばいい。
そうすれば、再建にどれぐらいの労力を投入するかで変わるだろうが艦砲射撃も加えれば半年は確実、下手をすれば年単位での使用が出来なくなる。
中代大将の方からも、作戦実行自体は検討して欲しいと連絡が来ているから取り合えずのところ返信として航空偵察の実行と作戦課にその情報で作戦の修正はさせておきます、と返答しておいた。
取り合えず今はフィリピン奪還が最優先である。