長門への移乗後、電探に捉えていた敵機編隊以降、ピタリと敵の攻撃が止んだ。
恐らく、攻撃兵力を全て出し尽くしたか、これだけの大規模攻撃を続けて行ったことによって爆弾はまだしも、魚雷ぐらいは使い切ったことも考えられる。
機数的に考えても攻撃可能兵力の殆どを動員した総攻撃であったことは間違いないし、その殆どを撃墜もしくは損傷を与えて追い払ったのだから再出撃可能機が極小になって居たとしてもおかしくは無い。
「提督、迎撃隊の被害集計が終わりました」
「報告せよ」
「烈風167機が撃墜、61機が修理不能と判定され合計228機が失われました」
「搭乗員は?」
「今現在も潜水艦以外に駆逐艦を派遣しての救助作業中ですが、現在までに133名が救助されています。誘導中の流星によるとまだいる、とのことで救助作業は終えておりませんので、まだまだ増えるかと」
「全員、一人残らず救助せよ」
「提督、敵艦隊への攻撃はどうされますか?」
「やろう。敵が疲弊した今が好機だ。艦載機を使い果たしている今しかない。今なら被害を抑えられるだろうし、敵艦隊の近くで墜落しても艦載機に大打撃を被った今なら撤退する動きを見せる筈だから救助もし易い」
今やらねば、敵艦隊を全くの無傷で返してしまうことになる。
そうなれば艦載機さえ補充してしまえば、いやそうしなくとも空母数隻分の艦載機はあるのだから豪州作戦の途中で影響が出る。
輸送船団がやられたら、陸軍将兵は干上がってしまうことになるし、何より敵に立て直しの機会を与えてしまう。
いまなら敵の迎撃も大したことは無く切り抜けられるだろうし、そうなれば技量抜群の搭乗員達だ、確実に空母を撃沈してくれる。
こちらも少なくない数の艦載機を失っているし、長時間の迎撃戦で特に烈風搭乗員達は疲弊しているだろうが、正念場だ。
「各母艦に流星の爆装と雷装を下令。攻撃隊は2波に分ける。第一波は烈風による制空隊、第二波攻撃隊を攻撃隊主力とする。今まで通り、制空権を奪ってから降爆で敵の対空砲を黙らせて、雷撃で止めを刺す」
今から出撃準備を整えて、出撃し敵艦隊に攻撃を仕掛ける頃には恐らく辺り一帯は夜闇に包まれているだろうが寧ろ好都合だ。
それに全機が夜間戦闘が可能な機体だ、闇夜に紛れて敵空母の甲板やどてっ腹に魚雷や爆弾を叩き込んでくれるだろう。
恐らく敵機の夜間戦闘機は、我々の基地攻撃か防空戦闘によって数を減らしている筈だ。
そもそも、敵機そのものが大幅に数を減らしている。
我々の迎撃によって撃墜された機体や不時着水をした機体、母艦に戻れたとしても再出撃不可や廃棄された機体など多数ある筈。
こちらの迎撃は、確かに1航戦の全空母が戦闘不能、退避させる状況になったが、それでも大小合わせて11隻の空母がまだまだ健在だ。
艦載機は烈風730機中228機損失、凡そ3割を失っているが、搭乗員は無事だ。
交代での出撃も念頭に入れられる。
戦闘力は十分に保持していると言えるだろう。
500機も烈風がいれば、艦隊防空の為に100機ほど残すとしても400機は制空と攻撃隊の護衛に割くことが出来る。
そうすれば攻撃を集中させるとしても、空母2~3隻はやってくれるだろう。
「提督、出撃準備完了時刻は3時間後の1830を予定しております」
「では攻撃隊出撃時刻を1850としよう。その前に偵察機を放って敵艦隊の詳細な位置を掴もう」
「了解しました。出撃する偵察機は何機に致しますか?」
「各空母から120から270方向に5度づつ30機を2段索敵で出そう。敵艦隊を発見したら追跡、位置を随時攻撃隊に知らせる様に」
「それならば、敵艦隊を追跡する為に彩雲を更に8機ほど出してはいかがでしょうか?」
「ふむ」
「2機づつを敵艦隊に可能な限り張り付かせるのです。敵艦隊はどうやら4つに分かれているようですし、それぞれの敵艦隊の動向を探る為にもやる価値は十分にあるかと存じます」
「そうしよう。各母艦は急ぎ攻撃隊の編制を実行せよ」
「了解しました」
参謀長達とのやり取りが終わった頃、下士官達が艦橋に合戦飯を運んでくる。
「ありがとう」
「いえ」
メニューは握り飯4つに沢庵3切れ、卵焼きが2切れ。それと出港して日が経っていないこともあって和布や大根と言った具材が入っている。
味は美味い。
卵焼きは味付けが艦毎に違うので、長門の卵焼きは薄甘い味付けだ。
手早く済ませ、再び指揮を執る。
「提督、早めに空母に乗り移った方が良い。まだまだ航空戦は続く。戦艦の上に居るより空母の上で指揮を執った方が良いだろう」
「あぁ、準備が出来次第移乗する」
長門に言われた通り、移乗する準備は終わっているが、今空母の艦上は収容機の対応と攻撃隊の準備に追われている。
そこに更に移乗作業が加われば余計な手間になる。
それならば攻撃隊発艦が終了してからでも良い。
「提督、どの艦に移乗されますか?」
「3航戦旗艦の隼鷹にしよう。艦橋も大きさがあるし旗艦ともあって通信設備が整っているからな」
「了解しました、その旨を伝えておきます」
「頼む」
辺りは夕日によって茜色に染まっており、機上電探が無ければこんな時間に攻撃隊を発艦するなどまず有り得ない。
「隼鷹に繋いでくれるか」
「はっ」
無線電話で隼鷹に呼び出しを掛ける。
と言っても、話したい相手は隼鷹ではないのだが。
『どうしたのさ提督』
「すまないが、制空隊と攻撃隊のそれぞれの総隊長を呼んで貰えるか」
『あいよー』
少しすると、制空隊の総隊長機である穂村中佐が変わった。
穂村中佐は元々水上機勤務であったのだが、戦闘機乗りに転科したと言う珍しい経歴を持つ。
転科した当時は周りからやんややんやと、言われたようであるがところがどっこい、訓練をしていく内にとんでもない技量の持ち主だと知ることになる。
当時、戦闘機乗りを養成するために練習母艦航空隊に勤務していた彼は、4機編隊同士の空戦訓練(空戦訓練は4度目だと言う)でなんと3対1と言う圧倒的不利な状況下にも関わらず見事全機撃墜と言う逆転勝利を飾ったのである。
高度有利を取られ、どうにかこうにか僚機が1機を撃墜したは良いものの、中佐以外は全機撃墜判定を食らってしまう。
そんな中にも関わらず、残った3機から撃墜を奪ってみせたのだ。
その時は誰もが偶然だと思ったが、続く5度目以降の空戦訓練でもその圧倒的な技量で最初からの機数差があろうと勝ってしまうほどの力を見せ付けた。
原田少将曰く、
「あれほど技量抜群の搭乗員は、私と同じぐらいの生き残りの中でもまず居ない」
とのことで、母艦航空隊配属後に当時戦闘機隊の総隊長を務めていた原田少将と模擬戦をやって10回中4回勝つと言うとんでもない力量の持ち主だ。
言っておくが、原田少将は現役搭乗員を引退し、陸海軍航空隊の新米教育に携わる道を歩んでいるがそれでも半ば伝説となって居る存在だ。
総撃墜機数は確実なものだけでも、10年以上もの激戦を潜り抜けたことで単機での撃墜数は600機を超える。
不確実なもの、僚機との共同撃墜などを含めればその数は優に1000機を超える。
戦闘機乗りは口を揃えて、空戦の神様と言うほどだ。
そんな彼に10回の内4回も勝つと言うのは未だ誰も成し遂げたことの無い偉業であるからだ。
穂村中佐は勝ち逃げされた、と言っていたが原田少将に言わせれば腕を磨けば確実に俺以上になる、とも。
勿論個人技だけでなく、部隊指揮も一級品だからな
この二人が目立ち過ぎるだけで、母艦航空隊は他の基地航空隊などから見れば化け物揃いだと言う事も言っておこう。
『穂村中佐、変わりました。どんな御用でしょうか?』
「忙しい時に申し訳ないな」
『いえ、今は丁度食後の休憩中でしたので』
何時も思うが、彼らは良くあれだけの空中戦をやる前に食べて吐かないな。
俺だったら一瞬でコックピットが吐瀉物塗れだぞ。
「さてと、制空隊の皆には迎撃戦から戦いっ放しにさせてしまう。すまない」
『いいえ、それが職務です。提督のお陰で撃墜された機の搭乗員も生きて帰ってこれました。これ以上高望みは出来ません』
「そうか。だが、ここからが正念場と心得よ。敵の夜間戦闘機は居ないだろうが、心して掛かれ。攻撃隊本隊が敵艦隊を撃滅せしめるかどうかは、中佐以下制空隊の働きに掛かっているのだからな。とは言え機銃掃射はするな。そんな事で墜とされてはならないぞ」
『はっ、粉骨砕身の心構えで戦います」
「あぁ、それとだ。……皆、命を掛けて戦え。そして何よりも、命を掛けて戻って来なさい。いいね?機体など捨てていい。お前達の命の方がよっぽど大事だ」
『はっ、何よりも心に刻んで戦います』
「では、武運長久を祈る」
『はっ。失礼します。坂田中佐に変わります』
穂村中佐から、攻撃隊総隊長機の坂田中佐に変わる。
坂田中佐は根っからの航空雷撃屋だ。
その命中率たるや、投下した魚雷は全て命中するだとか、敵が魚雷に当たりに来ているだとか言われるほどの雷撃の名手だ。
彼もまた、母艦航空隊の中でも古株に位置しており古くは南方方面奪還作戦の際から勤務し、敵艦隊と戦い続けている。
一番の古株は沖縄奪還作戦時から戦い続けている半藤大尉や、俺が着任する前からの艦爆乗りである城嶋少佐であるが、彼らは坂田中佐と比べると大部隊の部隊指揮と言う点で劣る。
各母艦航空隊の隊長ぐらいならば問題無く勤められるが、攻撃隊の総隊長機ともなるとやはり坂田中佐に見劣りしてしまうのだ。
指揮官機に求められるのは個人の技量だけでなく、全体の把握とその指揮だ。
その点、彼はなんせどこか他に目玉が飛んでいるんじゃないかと思うぐらい現状の把握が上手い。
攻撃隊の総隊長機を任せるならば、彼を置いて他に居ない。
『坂田中佐、変わりました』
「ご苦労。初めての夜間対艦攻撃だが、自信はあるか?」
『勿論です。その為に模擬魚雷や模擬爆弾を味方に何十発も撃ち込んできたのですから』
「それもそうか。恐らく、この戦いの趨勢を決める総攻撃になることは間違いない。敵空母をやっつけてしまえば、豪州作戦は安泰だ。頼むぞ」
『はっ、ご期待に沿えるよう、命を掛けて攻撃隊一同全力で励みます』
「あぁ。だが生きて帰ってくる事、これが何よりも重要だ。これにも命を掛けてくれよ」
『勿論であります。こんなところで死ぬわけには参りません』
「それでいい。それでは、攻撃隊の武運を祈る」
『有難うございます、失礼します』
無線電話を切り、息を吐く。
戦争とは、犠牲が付き物だ。
命懸けで戦うものだし、戦いで自分や他の誰かが死ぬのも当たり前だ。
それでも彼らには、戦う事と同じぐらいに命を掛けて無事に帰って来てほしいものだ。
1915までに攻撃隊が全て発艦を終え、その後に隼鷹へ移乗することとなった。
隼鷹の出迎えは相変わらず、ゆるっとしているが気を張り続ける戦場では良い塩梅の緩衝材になる。
艦長達は苦笑していたが。
「そう言えば提督がアタシに乗んのは久しぶりだね」
「あぁ、だが乗り心地はとても良い。よろしく頼む」
「任せな。っと、早速だけど、先に敵艦隊に飛んだ偵察機から入電だよ」
「聞かせてくれ」
「『我偵5番機、敵艦隊上空到達、追跡開始。敵艦隊距離方位224、250km、敵空母4群ニ分カレテ航行中。速力29ノット、風上ニ向カウ』ってさ」
「随分と距離が近いな。流星が巡航速度で飛んでも1時間も掛からんぞ、これは」
流星の最高速度は魚雷などの武装無しで621km/hに達するが、魚雷などを抱えた状態だと530km/hになる。
巡航速度は430km/h程度だが、魚雷を抱いた状態での航続距離は2100km。
500kg爆弾搭載であれば2600kmになる。
200kmほど余裕を見ても、片道900kmの攻撃が出来る。
因みに深海棲艦の中で最も航続距離の短い艦載機は現状だとSBDドーントレスになる。
武装にもよるが1000km程度しかない場合もある。
敵艦隊との距離は250km。
流星が巡航速度430kmで飛んでも、多方向からの同時攻撃を計画したとして、攻撃位置へ就く事も考えれば、それでも燃料満載で1000km分は燃料に余裕がある。
恐らく制空隊も攻撃隊も巡航速度より圧倒的に速い速度で突っ込んでいくだろう。
そうなれば、間違いなく40分か30分ぐらいで敵艦隊に到達して、攻撃位置に付いたり各隊の攻撃目標の選定をやったりしても1時間ぐらいでト連送が発されるに違いない。
「まぁ、こっちもあっちも特に回避したりしないで接近してたからね、近くなって当然さ」
「空中での編隊集合は間に合ったのか?」
「勿論。距離が近いから増槽無しで飛んでそのまま編隊形成の為に空中で待機してても余裕だって」
「それはそうか。にしても風上に艦種を向けているとは、こちらの攻撃隊を察知しての迎撃機発艦か、もしくは攻撃隊の着艦収容作業中か?」
「この電文の時には確認されてないけど、多分そう見て間違いないね。時間的に攻撃隊の迎撃機説が濃厚だね。ただ、問題はここじゃない」
「どうした?」
「この後発された電文によれば、どうやら敵の戦艦が丸々消えたらしい」
「……退避したか、或いは」
「夜間の切り込みを狙ってるかのどちらかだね」
「切り込みにしろ、撤退にしろ空母を全て捨て駒の囮にするとは、我々じゃぁ考えられんな」
「羨ましい戦力量なこって」
空母を囮にして一時退避、そこから戦艦と重巡、水雷戦隊による夜間の砲雷撃戦が最も有り得そうな展開だ。
深海棲艦の事だ、我々の空母を6隻撃破した程度では気が済まんだろう。
間違いなく仕掛けてくるだろうな。
「まぁ、なんにせよ敵の空母に再度の攻撃隊発艦の兆候は無さそうとみて間違いないね。あとは敵戦艦の事だけ」
「俺達の攻撃隊は1度限りの全力出撃に加えて夜間攻撃だ。余程の事が無い限り敵空母を撃沈せずとも無力化は出来る」
「どうやら、航空隊の連中の話によれば敵さん今までに比べて随分と練度が高かったらしいね」
「あぁ、どうもあちこちから搔き集めた熟練が多いらしい。報告によれば敵機の撃墜数よりも遥かに撃破数が多い。と言う事は撃墜では無く撃墜に集中出来る状況では無く、撃破を優先せねばならなかったと言う事だ」
「攻撃隊の練度も遠目に双眼鏡やら望遠鏡で覗いたけど、中々のもんだった。ありゃぁ、失ったら戦力回復が大変だ」
「どうせそうなれば、ニューブリテン島などから基地航空隊で攻撃を仕掛けて時間稼ぎをしてくる。その間に立て直すだろうさ」
「で、敵空母は早急の問題じゃ無いとして、敵戦艦はどうする?」
「……取り合えず、索敵機を更に放って敵艦隊を捜索しよう。位置が分からなければ対策のしようが無い」
「りょーかい。そんじゃ各母艦に伝えるよ」
「頼む」
隼鷹にそのことを頼んで、対策を考える。
「提督、念の為艦隊を反転させて現海域から距離を取っては?このままだと位置が完全に敵にバレているので危険ではないでしょうか?」
「そうしよう。それと全艦に対水上電探を稼働させろ。気付かぬうちにいきなり殴り込まれては敵わん」
「了解しました」
「それならばいっその事、戦艦と重巡、水雷戦隊を分離させて敵戦艦に備えては?」
「……どう思うか?」
「賛成します。空母を伴った砲雷撃戦など危なくてやりたくありません」
「よし、そうしよう。ただ、敵戦艦の位置が分かってからでも遅くは無いと思うのだが」
「……敵戦艦の位置が割れてからでも遅くは無いでしょう。偽装航路を取って、仮に敵戦艦が300、いや150km離れていたとしても、艦隊分離と隊列の組み直し、空母が逃げる時間ぐらいは余裕であります」
「よし、ではそうしよう。対空、対水上、対潜警戒は厳だ。全戦隊と1水戦、2水戦は艦隊分離とその後の砲雷撃戦に備えよ」
そう下令した30分後、制空隊が少数の夜間戦闘機と会敵、これを余裕をもって撃墜し、その20分後に攻撃隊が敵艦隊へ突入した。
1時間半に渡る攻撃で、敵空母4群全てに空襲を仕掛け、そして見事10隻を撃沈、他の空母にも大小様々な損傷を与えたことが確認された。
これを受けて敵空母は艦隊を率いて撤退を開始。
搭乗員救助を二式大艇に任せ、手隙の潜水艦隊に可能ならば攻撃を命じた。
敵戦艦を求めて発艦した偵察機が、発艦から2時間後にこれを発見。
戦力は戦艦22隻に巡洋艦が同数、随伴艦もたっぷり40隻と言う大艦隊だ。
距離は130km。
敵艦隊の速力は25ノット、こちらも25ノットで進めば互いの速度もあって1時間で110km/hは距離を詰められる。
砲戦開始距離を250に設定しても、確実に会敵までに1時間は掛かる。
「提督、どうする?移乗するかい?」
「あぁ、距離もある、移乗して砲戦の指揮を執る」
「了解。アタシらはどうする?」
「一緒になって突っ込む訳には行くまい。艦隊分離後すぐに制空隊、攻撃隊を収容して再武装を施してくれ」
「敵戦艦をやるっての?」
「あぁ、敵戦艦の方が射撃レーダーなんかは性能が良い。まともに撃ち合えば負ける可能性もある。そこで敵に空襲を仕掛けてほしい」
砲戦をやっている中で航空攻撃を受けると言うのは、物凄く厄介だ。
回避せねば航空攻撃が確実に命中してしまうし、回避すれば主砲の射撃諸元は全てお釈迦になるから計算し直しだ。
命中させられずとも敵の砲撃の妨害は確実に出来る。
上手いこと魚雷を命中させて速度低下と浸水による傾斜か射撃レーダーの損傷で砲撃をし辛くしてくれれば十分。
「なるほどね……。でも、攻撃隊を編成するとなったら収容作業と再武装、暖機運転全部合わせて2時間か3時間は掛かるよ?」
「構わん。距離もあるし、戦闘が始まってもそれぐらいの時間は稼いで見せる」
「小隊事に突っ込ませるのは?」
「駄目だ。対空砲火でやられる。最低でも50機以上の攻撃隊を編成してから発艦させてくれ」
「あいよ。それぐらいなら、まぁ急げば1時間で準備出来るね」
「撃沈を狙わなくていい、薄く広く損害を与えて、砲撃の妨害や敵水雷戦隊の突入阻止をしてくれればいい。特に敵の水雷戦隊を念入りに頼みたい。報告通りの数の敵水雷戦隊に切り込みを掛けられたくない」
「それぐらいなら、敵は艦隊上空に戦闘機を張り付けていないし余裕。それなら烈風にも噴進弾をぶら下げさせるかい?」
烈風には爆弾か噴進弾を搭載することが出来るが、どうするか。
対地用の噴進弾は有効射程距離が300~600mと短いんだったな。
対地支援なら、十分だが対艦攻撃となると使い勝手が悪い。
対空用もあるが、こちらは射程が800mと長い。
主に重爆編隊に使用され、その効果はB‐29迎撃戦での活躍を見てもらえれば十分に分かるだろう。
とは言え、対艦用の噴進弾なんて無いので対地用のものを使うしかない。
それでも潜水艦や駆逐艦や軽巡、輸送船と言った装甲の薄い、もしくは存在しない艦艇なら効果は抜群である。
しかし、流石にこれ以上戦闘機隊には無茶をさせられない。
彼らにはこれからも輸送船団の護衛なんかもやって貰わねばならないのだからな。
「……いや、いい。噴進弾は射程に難がある。余程近付かなければ命中どころか妨害も出来ない。無理はさせられんさ」
「了解、そんじゃ内火艇を出すから行っといで」
「あぁ、艦隊指揮は隼鷹に任せる」
「了解。ただ提督、ちゃんと帰って来なよ?」
「勿論だ。内地の馬鹿政治屋共にお前達の指揮権を与えて殺されて堪るか」
隼鷹から降り、そして大和に乗り込む。
近くにいた長門か金剛でも全く良かったのだが、
「提督が砲雷撃戦の陣頭指揮を執られると言うのならば、安全性も考えて私達では無く一番分厚い装甲に守られている大和に乗ってほしい」
と言われてしまった。
まぁ、雰囲気からしてもだが、そもそも説得する理由は無いので素直に頷いておいた。
「提督にー、敬礼っ!」
大和へ内火艇で乗り込むと、大和以下20名ほどが出迎えてくれる。
「態々出迎えありがとう」
「いえ、提督が座乗されて、しかも砲雷撃戦の陣頭指揮を執られると言うのですから当然です」
「そんな大袈裟なものでもないだろうに」
「いいえ、全く足りないぐらいです」
「そうなのか」
「はい」
うぅむ、やっぱり大和は戦艦なだけあって砲雷撃戦となるとテンションが上がるらしい。
若干、普段と比べて気分が上がっているのか声が弾んでいる、と言うか上擦っている。
心なしか、顔も輝いていると言うかこう、なんだろう、やる気に満ちているな。
やはり敵戦艦と砲撃戦による殴り合いは彼女ら戦艦娘にとって何物よりも勝るものらしい。
出迎えは、他にどうやら給料長以下、烹炊所の皆が来てくれているらしい。
砲術科などは今、敵艦隊との砲戦に向けて大忙しだろう。
とは言え烹炊所も乗組員達に合戦飯を作らねばならないから忙しいはずだ。
「給料長が出迎えとは、忙しいところ無理をさせたな」
「はっ。とは言え既に仕事は済ませました。恐らく大和艦上で食事を摂られていないのは提督だけかと」
「そうか。それなら良いんだ。とは言え飯は大事だ、皆にはしっかりと食わせてやれ」
「勿論であります」
烹炊所は右舷後部にある。
恐らく出迎えてくれる寸前まで握り飯を握って、配食していたのだろう。
しかも正装に着替えて、小銃まで持って出迎えてくれているのだ。
さぞ出迎えの支度を整えるのは大急ぎにして大変だったろう。
大和は3400人もの乗組員を抱える。
長門が1600人ほどだと言う事を考えても、倍近い人数を食わせねばならないのだから大変だ。
烹炊所はそれ相応に大きく、そして勤務する者も多い。
3400人の腹を満たすのは並大抵の事では無く、毎日朝から晩まで働き詰めであり、最も過酷と言われる事もあるほどだ。
とは言えそのお陰で皆、戦えるのだから頭が上がらない。
「さて、では艦橋に上がろうか。出迎え有難う」
「はっ」
大和と共に艦橋に上がる。
参謀長達には後の事を任せて隼鷹の指揮下に入って貰った。
隼鷹の事だ、敵艦隊への攻撃も上手くやってくれるに違いない。
「提督、艦橋に上がられます!」
「敬礼ッ」
「ご苦労。早速だが、敵状の報告を頼む」
「はい」
大和が前に出て、説明を始める。
「現在敵艦隊上空には、空母からの偵察機が2機在空しております。報告によれば、距離120km方位は224。陣容は戦艦22隻を主力とし以下重巡洋艦22隻、軽巡以下は詳細を掴めておりませんので、凡その数になってしまいますが、50隻は下らない数が続いています」
「こっちは戦艦20隻に重巡が18隻、それと2個水雷戦隊23隻の61隻に対して敵は確実に100隻以上か……。最悪、倍の敵と正面から殴り合わねばならないな」
「圧倒的に数的不利です」
「ほとほと呆れる物量だな、連中は」
航空攻撃に専念しても良かったが、敵戦艦から逃げながら航空隊を発艦させて着艦させてと言う作業を繰り返すのは危険だ。
最悪混乱状態になって事故でも起きたら、取り返しのつかない事態に発展しかねない。
最もな安全策を取るならば、戦艦で敵艦隊を防ぎつつ航空隊による攻撃、になる。
完全に逃げても良かったのだが、豪州奪還作戦と言う目的と作戦がある以上退くのは得策では無い。
仮にここで撤退したとして、敵艦隊に輸送船団を伴った状況で再び攻撃を仕掛けられる方が最悪だ。
ならばここで決着を付ける以外に他は無い。
「戦術としても、T字有利は望めないでしょう。取ったところで、敵航空隊と同じように練度が高ければ数の利を生かして覆されてしまうでしょう。突破、もしくは水雷戦隊による突入を許してしまう可能性も高いです」
「となれば、同航戦か反航戦になるわけだな」
「はい。とは言えそれも中々危険ですね。なんせ数で負けているので敵水雷戦隊が突入して来たら、我が方の水雷戦隊は防ぎ切れるかどうか分かりません」
「一応の作戦、と言うよりも布石は打ってある」
「布石、ですか」
「あぁ。隼鷹以下空母に攻撃隊の発艦を命じておいた。これで敵艦隊に打撃を与えつつ砲撃戦を行う」
「攻撃隊ですか」
「と言っても最初の発艦までに1時間ほどは必要らしいがな」
「攻撃隊の目標は?」
「敵水雷戦隊を主目標にするように言ってある。敵戦艦は2隻向こうが多いだけだが、水雷戦隊に切り込まれて魚雷を射出されたら堪らんからな」
「なるほど、と言う事は我々は取り合えず時間を稼げば良い、と言う事でしょうか」
「そうだ。1時間稼げば、攻撃隊が水雷戦隊を叩いてくれる。そうなれば思う存分主砲を振り回せるし、水雷戦隊も存分に切り込んで暴れ回れる」
「分かりました、その作戦で行きましょう。皆、良いわね?」
「「「「「「はっ!」」」」」」
「では諸君、持ち場に」
皆がそれぞれの持ち場に戻っていく。
「電探、反応有り次第別命無しで即座に報告」
『了解』
暫く進むと、電探に反応があると報告が上がる。
『対水上電探に感有り!凄い数です!』
「敵で間違いないだろう。詳細を報告せよ」
『はっ、数100以上、内大型艦40前後!距離500!方位227!』
「陣形は分かるか?」
『恐らく水雷戦隊が前路哨戒で警戒陣を敷いています。その後ろに4列の複縦陣、両脇と後ろをがっちり水雷戦隊が固めております』
「了解した、ありがとう。引き続き見続けてくれ。何かあれば即座に報告」
『了解』
電探の情報によれば、どうやら敵はがっちり陣形を組んで突っ込んできているらしい。
あれを崩すのは、並大抵の事では無いだろう。
それが単純な砲雷撃戦であれば、の話だが。
「全艦に合戦準備を下令」
『艦隊合戦準備、艦隊合戦準備!』
「初めての砲戦だ、気を引き締めて掛かれ!」
合戦準備を下令すると慌ただしく、騒々しくなる。
「対空電探、友軍攻撃隊は捉えたか?」
『いいえ、まだです』
「分かった。引き続き監視頼む」
「早ければ、もう来てもおかしくは無いのだが……」
「隼鷹さんは兵力集中を採られたのでしょうか」
「恐らくな。普段の態度やらからは到底想像出来ないが戦術や戦略には明るい。兵力分散はせずに叩くつもりなのだろう。あれでもう少し酒癖が落ち着いてくれれば良いんだがなぁ……」
本当に、ずっと酒の付き合いがあるが、隼鷹だけでなく酒飲み連中と飲むと一年分の酒量を一晩で呑むことになる。
俺は、自慢じゃないが酒も煙草もやらないから、酒豪連中と飲む時以外は殆ど呑まない。
彼女達に誘われなければ呑まないからな。
だから後始末が大変なんだ。
流石に吐かれた時はどうしてくれようかと思ったが。
簀巻きにして窓から吊るすか、いやいやそれは不味いから上官命令で禁酒を命じるか。
臭くて臭くて堪ったもんじゃなかった。
真面目にそう考えるぐらいだったのだ、あの時ばかりは。
仕方が無いから執務室で寝ることにしたが、あれはもう勘弁してもらいたい。
とは言え、翌日になって朝一番に土下座で謝りに来たもんだから「まぁ反省しているならそれで良いか……」と許してしまった。
それはそれとして2週間禁酒と言う罰は与えたが、隼鷹もあの時ばかりは相当に反省しているらしく素直に頷いていたな。
鳳翔には甘過ぎると言われたが頭から吐瀉物を被ったわけでもないし、一晩寝たら怒りも収まっていたから別に良かったのだ。
それ以降酔い潰れてそのまま寝ることはあっても吐くことは無くなったから特段気にしてはいない。
「そう言えば提督、偶に隼鷹さんとか那智さん達に酒盛りだって殴り込まれてますものね」
「ザルだぞ、あの面々は。こっちはとっくに水を飲んでいると言うのに。しかも酔い潰れてそのまま爆睡するから余計質が悪い。下手に触ったらセクハラだぞ、セクハラ。何度艦娘の皆に頼んで運んで行ってもらった事か」
「でも、それだけ皆さんが提督の事を信頼して、気を許しているってことじゃないですか?じゃなきゃ酔い潰れるまで殿方の前でお酒を飲んだりしませんから」
「そう言われると弱るな。いやしかし、もう少し抑えて欲しいのは確かなところだ。何時だったか俺の部屋で思いっ切り吐かれたこともあるからな?」
「それは……、ちょっと行き過ぎですね……」
大和は苦笑する。
と言うかそうするしかないだろう。
「お二方、ご歓談のところ申し訳ありませんが対空電探に感有りです」
「友軍か?」
「方角、機数からして友軍かと」
「機数は?」
「100機ほどです」
「分かった。敵艦隊との距離は?」
「380です」
「分かった」
皆が俺を見る。
俺の号令を待っているのだろう。
応えねばなるまい。
一息息を吸って、号令を出す。
「総員合戦準備!砲雷撃戦用意!観測機上げ、弾着観測用意!各種全電探は常時稼働、何があっても電源は落とすな!」
「反航戦用意、主砲左舷向け!弾種徹甲、第1射照準は距離250、速力28ノットに合わせ!」
「「「「「「了解ッ!」」」」」」
号令が発されると、艦内、艦上問わず皆が持ち場に付き、そしてやるべきことを行う。
主砲は仰角、俯角、主砲塔の旋回や揚弾筒などの各部の点検確認をし、機銃や高角砲は弾薬を集積する。
大和の高角砲は、浮揚修理時に秋月型駆逐艦の主砲と同じ10cm連装高角砲だ。
毎分19発に加え、12.7cm連装高角砲よりも旋回速度が速く、装填速度も速く、揚弾筒と半自動装填装置の改良によって毎分20発を可能としている。
砲塔内部には即応弾が40発格納が可能であり、集積弾を合わせると、各砲塔にもよるが60発程度は即応弾として使うことが出来る。
これは敵航空機編隊の先頭集団を撃墜、撃破するには高射砲弾150発が必要であり、最低限とされた数値であるが、敵機を確実に落とすための弾幕形成を行うには最低でも各門が10発は撃たねばならない。
この10発と言う数は、射撃速度を考えれば2分に1機の割合での撃墜が理論上は可能であるが砲塔内にある即応弾が切れてしまえば即応弾だけでは僅か2分しか全力射撃が出来ない。
即応弾と集積弾を全て撃ち尽くしたらそれ以降は
20~30発は必要であるが、そこは他砲塔と連携することでカバーしている。
集積した砲弾の数にもよるが最初の2~3分は、確実に全力射撃を行うことが出来、貫通力や破壊力は高初速と欧州から齎された新型爆薬によって対空砲弾は従来の3倍になる。
徹甲弾は2倍程度であるが、それでも主目標たる駆逐艦や軽巡程度の敵、戦艦などでも非装甲区画や構造物を貫通し破壊するには十分な威力だ。
射程も装薬を新型にした為、20000mにまで伸びている。
大和と武蔵は片舷に8基16門、両舷16基32門を搭載する。
元よりも4基多いが、これは艦中央部にある25mm機銃を3基づつ撤去し増設した為だ。
全ての砲塔は4cm厚の特殊装甲に守られ、乗組員の保護に一役買っている。
敵の機銃掃射は確実に防ぐことが出来るが、ロケット弾や爆弾には耐えられない。
勿論、敵の主砲弾なんて論外も良いところだ。
内部には火災時に備え自動消火装置、それと駄目になった時の為に消火器が2本設置されている。
主砲と同じく、排煙装置と砲塔内気温の上昇を防ぐ為の冷房もある。
対空速射を長時間行い続けると、気温の上昇が激しく排煙による酸素濃度低下などもあるので必須装備だ。
砲塔内温度が上がれば、砲弾の暴発やそれによる誘爆や火災もありうる。
これら8基16門が射程200に入り次第一斉に火を噴く訳である。
毎分20発、それが16門なので毎分320発が敵を襲うことになる。
幸い駆逐艦と違って大和はその巨大な艦体を存分に利用して大量の徹甲弾備蓄があるので問題は無い。
とは言え本来は対空射撃が主任務だから徹甲弾の数は対空砲弾に比べて少ないが、最悪対空砲弾でも対空用信管を上手いこと調整して敵艦にぶち当てることも出来る。
当たらなくとも艦上構造物に大なり小なりの被害が出ることは間違いない。
観測機が各艦から射出され、敵艦隊上空で観測を始める。
『観測機から入電。『各艦400m程度、距離ヲ維持シ航行中、速力28ノット。敵艦隊180度急速転舵、同航戦ヲ挑ム模様』』
「ここで転舵?そんな事せんでも敵の数ならこっちを磨り潰せるだろうに、なぜこのタイミングで……?」
艦長が首を傾げる。
このタイミングでの転舵なんて全く意味が無い。
砲塔も取り舵にしろ面舵にしろ、右舷側に砲門は向いている筈だから指向をし直さないとならない。
深海棲艦の主砲旋回速度が幾ら速いとは言えど、この位置関係では場合によっては先手を取られてしまうし、奇跡に近い事だが初弾命中などしようものなら一方的に撃たれる可能性だって大きい。
このまま反航戦を行った後に、転舵してこちらの右舷に付くなどした方が絶対に良いはずである。
「いや、敵はこちらの攻撃隊を電探で探知したのだろう。まっすぐ突っ込むよりも安全だと思って転舵したのだろうが……」
「寧ろ逆ですね。攻撃隊との距離を考えるなら、最大戦速にしてこちらとの砲戦を一時断念なり中断なりして我が攻撃隊に向かって突っ込むべきでしょう」
「その方が狙い辛いし、何より相対速度が大きく跳ね上がる。爆撃はまだしも、雷撃はかなり避けれただろうに」
「なんにせよ敵はこれで我が艦隊と攻撃隊の二つを相手取らねばならなくなりました。どう出てくるでしょうか?」
「俺だったら、判断ミスを理解した段階でさっさと逃げの一択だな。砲戦を仕掛けても攻撃隊に確実に先手を取られるしそのまま敵艦隊にも先手を取られる。どうやっても余程の奇跡が起こらない限りは有利は取り返せない」
奇跡、と言うのは例えば初弾数発命中だとかそのレベルのものだ。
そんなものをアテにしている時点で負け確と言うやつだ。
「魚雷が命中すれば、と言うのも考えられますが?」
「魚雷なんてこの距離じゃ射程外、命中させようとするなら無誘導だからどれだけ遠くても70までは接近しないとならん。そんなことしている間に敵に滅多打ちにされて壊滅待った無しだ。航跡が見えないから牽制にも使えん」
「戦うだけ無駄、と言う事ですか」
「あぁ」
大和と一緒に言う。
攻撃隊にとって逃げる敵を負う方が楽だ。
なんせ航空機の速度を以てすれば、魚雷を抱えた足の遅い雷撃であろうとも先回りすることも簡単であるし、急降下爆撃だって投下すると爆弾は前方方向に流れながら落ちていくから当てやすい。
それに比べ、今の攻撃隊と敵艦隊の彼我の距離は僅か50km程度。
これなら航空機は一分も掛からずに敵艦隊に到達するだろう。
この時点、もしくは今すぐに最大戦速にする。
航空機からの攻撃は的が移動目標である場合、目標の移動速度が速ければ速いほど命中させ難くなる特性がある。
それを利用するのだ。
仮に的が33ノットで攻撃隊に突っ込んだ場合、攻撃隊の速度を400kmと仮定した場合彼我は460km/hで擦れ違うことになる。
そうなると本来よりも60km/hで擦れ違うことになるのだ。
この60km/hの差は大きい。
想像としては、高速道路を並行して走る車と、反対車線の擦れ違う車、どちらが速く見えるかと言うのが分かり易い。
高速道路では大抵100kmかそこらで走るだろうが、反対車線の車も100kmで走ったとすれば200km/hになるわけだ。
あれだけでも十分速く感じるし、もし仮に反対車線の車にボールや棒を命中させよ、となれば慣れている者でも恐らく命中率は10回中1回程度になる。
慣れていない者ならば、100回投げて数回まぐれ当たりを期待するしかない、そんな状態だ。
ところが敵艦隊が逃げの一手を選んだ場合、今の状況であるが、400km/hの相対速度が340km/h程度にまで落ちる。
攻撃隊の足の速さを考えても、こちらが時間稼ぎをして最高とまでは行かずとも、我が航空隊の練度を考慮して小隊で魚雷を投下すれば1本は命中確実と言う攻撃位置と射点に付くことが可能だろう。
しかし攻撃隊に敵が突っ込んでくるとなると、攻撃隊が攻撃位置に付き、必中確実の射点に付くには旋回性能や距離を考えると、十数秒以下で付かねばならなくなる。
どれだけ熟練搭乗員でもそれは殆ど無理な事で、しかも目標は俺が指示した通りに行くならば小型高速の駆逐艦や軽巡だ。
大型艦を狙うよりも難しい。
それを考えると、敵の一手は現状考えられる最悪のものと言える。
敵は我が戦艦群と攻撃隊を同時に相手取ると言う愚行を犯したのだ。
「艦隊へ打電!『敵ノ一手愚カ也。敵艦隊トノ距離250マデ一気ニ接近セヨ。攻撃隊ノ空襲ト同時ニ射撃始メ。攻撃隊ノ目標ハ小艦艇ニ付回避運動ハ考慮セズ』!」
「はっ!」
艦隊は取り舵に、距離250まで一気に接近するとともに一斉転舵。
敵艦隊に並ぶと同時に面舵に切り、平行。
敵艦隊が我が艦隊と並ぶと同時に、攻撃隊が空襲を仕掛け始めた。
「敵水雷戦隊、隊列乱れるも戦艦及び重巡群の隊列は乱れず!」
「回避運動を一緒に取っておけば良かったものを。よし、絶好の射撃機会だ、主砲射撃諸元良いか!?」
『1番主砲塔射撃準備良し!』
『2番主砲塔射撃準備よぉし!』
『3番主砲塔射撃準備良し、後は敵に叩き込むだけです!』
「提督、全主砲射撃準備完了しました、何時でも行けます!」
「他艦はどうか?」
「既に準備完了しております。あとは撃つだけです」
「よし、各艦1番艦より20番艦までを標的に設定!諸元入力後、各艦は各個射撃を開始せよ」
命令を下すとともに、艦隊から発砲音が次々と聞こえてくる。
「私達も撃ちます。評定射撃始め。電探と観測機は各種修正値を随時報告、砲術はそれを元に射撃諸元を設定。甲板上の乗組員は総員艦内に退避。別命あるまで待機!」
命令を下したすぐ後に、大和自身が号令を出した。
20秒ほどの間を置いて退避完了のブザーが鳴り響く。
次の瞬間、主砲射撃のブザーが鳴った。
1から3番砲塔の1門づつが一斉に射撃を始めた。
その衝撃は1門毎とは比較にならなく、腹の底から来るもので艦が射撃の衝撃で横滑りしたのではないかと思うほどだ。
砲炎も目を反らしたのにも関わらず周りの艦の艦影を映し出すほどに明るい。
今は夜だから、もし直視をしてたら一瞬の内に失明していたかもしれない。
『観測機より入電。全弾遠弾!下げ2、右1!』
射撃諸元を修正したのち、再び主砲が撃たれる。
観測機から次々と修正値が送られてくるが、中々命中しない。
その間に敵艦隊も撃ち返してくる。
流石に隊列を乱されていないからか、射撃はしてきているが今までの深海棲艦に比べて精度に欠けている。
恐らく我が攻撃隊から受けた動揺が収まりきっていないらしい。
敵艦は次々と撃ち返してきては、大和や他の艦の周りに魚雷よりも遥かに大きな水柱を立てては崩れていく。
流石は16インチ砲搭載なだけはある。
確認されている戦艦は姫級、鬼級が10隻ほど。
水鬼や棲鬼クラスがわんさかだ。
他の戦艦もル級やタ級、それも16インチ砲搭載の強力な艦ばかりだ。
大和以下長門やネルソンと言った40cm砲以上の主砲やビスマルクやティルピッツ、ヴァンガードと言った艦は十分に渡り合うことが出来るが、金剛達35.6cm砲を装備する艦は幾ら長砲身化を行って射程と初速向上による貫通力が上がったとしても、依然として相手取るには重い相手であることには変わりない。
35.6cm連装砲は、現在50口径に砲身長を改められている。
あちこちから46cm砲は無理でも41cm砲の搭載が提案されていたのだが、金剛と長門の艦体の大きさの違い故に断念している。
試算の結果ではあるが、35.6cm砲装備艦に41cm砲の搭載を行うと艦のバランスが維持出来なくなることや、そもそも艦幅を広くしたり砲塔環を広げなければならないなど、改装に実に丸々1年も掛かる上に訓練を考えれば1年半は前線から離れることになるとされた。
常に戦力不足である我が軍にそんな余裕は無く、この41cm砲搭載案は廃案とされ、変わりに攻撃能力の向上として長砲身化が採用された経緯がある。
これならば砲身長を5口径分長くし、砲塔各部の強化をすればよいだけで工期も2か月で済む。
扱いは殆ど同じだから新しく訓練を施す必要は無いので改装後に長砲身化による特性の変化などを掴むための習熟訓練を行えば実戦配備は簡単だ。
どれだけ掛かったとしても、5~6か月程度で終わる。
結果長砲身化案が採用されたと言うわけである。
実際貫通力の向上や射程の向上は叶ったが、それでも35.6cm砲であることには変わり無く、攻撃力不足であることは否めない。
しかも相手は3連装3基9門で、4基8門の金剛達よりも火力で圧倒している。
日向と山城は航空戦艦から戦艦に戻された上で全部と後部主砲2基ずつを残して艦中央にあった主砲2基は撤去、代わりに10cm連装高角砲や対空機銃、機関砲をこれでもかと載せたので砲門数でも負けている。
お陰で日向、山城は大和武蔵をも凌ぐ対空砲火を撃ち上げ艦隊防空の要であるのだが、それはまた別の話だ。
重巡や水雷戦隊にも同様に姫、鬼級が多数混ざっており、もし攻撃隊を出していなければ想像をしたくない事態に陥っていただろう。
そちらは今のところ敵が混乱しているからか、随分と一方的らしい。
それでも戦艦、重巡と言う砲火力どちらもが数的不利を背負っているこちらとしては態勢を立て直されたらどうなるか分からん。
それぐらいに敵は強力だ。
平均的に電探射撃での命中弾を得られ始めるであろう7射目を迎えても中々命中せず、更に撃ち続けついに13射目になった。
「敵艦発砲!」
「大丈夫、取り合えず撃ち返してきているだけ!あれじゃ当たりはしないわ!」
大和の言葉通り、周りに巨大な水柱を立てるだけに終わる。
「どうした砲術!?大和初めての敵戦艦との殴り合いだぞ!初弾命中ぐらいの心持ちで撃たんか!」
砲術長が怒鳴る。
そりゃ他の艦が命中弾を出している中で大和だけが未だに命中弾を出せていないのだから言いたくなる気持ちも分かる。
しかしその叱咤は被弾によって消えてしまう。
叱咤の数秒後に大和の艦体が凄まじい衝撃と共に大きく揺れる。
それは主砲射撃の衝撃とは全く違うもので、誰もが被弾したことを瞬時に理解した。
「先を越されてる!次は当てるわよ!」
「艦前部に被弾!火災発生!」
「ダメージコントロール!応急班と消火班を大至急向かわせろ!」
どうやら今のはまぐれ当たりであったらしい。
それ以降は全く至近弾すら無い。
発生した火災はものの数分で消し止めた。
問題無い。
敵戦艦の砲弾は次々と先頭を進む大和や武蔵、長門に着弾しているが空襲からの混乱がまだ抜けきらないのか精度は良くない。
とは言え、流石に立て直し始めたのか次第に散布界も縮まって精度が良くなってくる。
砲撃戦が始まって30分も経つと、敵は完全に指揮統制を取り戻したのか艦列を組み直してこちらに猛烈ともいうべき程の砲撃を仕掛けてくる。
こちらが使っている射撃用レーダーよりも高性能な物を使っていることもあるだろうが、練度も高い。
艦隊の周りに落ちる砲弾はどれもこれも40cm砲弾、水柱の大きさは軽く艦橋の高さを超えている。
何発かが近くに着弾し、爆圧によって空を舞う海水が艦にドドドドッ、と凄い勢いで落ちてくる。
「水柱で攫われた奴は居ないな!?」
「機銃や機関砲群は射程外に付き操縦要員は全員艦内に退避しているので問題有りません!高角砲も動作異常無し!」
しかし、こうして撃ち合うと分かるが……。
「連中、相当練度が高いぞ」
「電探射撃とは言え、これほどまでに精確な射撃とは」
「旗艦が碌に命中弾を与えないでどうするか!?しっかり計算をやって正しい諸元を砲術に送らんか!」
幸いにも大和自身は最初の1発以外に被弾は無かったが、その後ろに続く武蔵以下は窮地とは行かないまでも若干の劣勢を強いられていた。
『武蔵に被弾!艦中央バイタルパートへの被弾の模様!火災等は認められず!』
「武蔵より信号、『被弾ナルモ装甲ニテ弾ク。損害軽微我異常無シ、戦闘続行ス!』」
武蔵は尚も意気軒昂、46cm砲を撃ちまくっている。
艦列は前方に2水戦を配置し、敵潜の警戒を行っている。
その後ろに、
大和
武蔵
金剛
霧島
長門
リシュリュー
ネルソン
ヴァンガード
ビスマルク
ティルピッツ
比叡
榛名
リットリオ
ローマ
日向
山城
クイーン・エリザベス
ウォースパイト
ラミリーズ
デューク・オブ・ヨーク
と並び、更にその後ろに1水戦が位置に就いている。
闇夜に主砲射撃の閃光が繰り返し光り続ける。
「不味いな、敵が完全に統制を取り戻したぞ」
「1水戦、2水戦に敵水雷戦隊の突入に備えさせて!」
流石に敵も統制を取り戻し、初動の失敗が嘘であるかの様に見事な艦隊運動を取っている。
『ッ!命中命中命中!敵一番艦に本艦の主砲弾直撃!』
「良くやった!主砲次より斉射!敵艦を漁礁にしてやる!」
『射撃諸元そのまま、どんどん撃て!』
敵艦の艦上に大きなの爆発が起きる。
観測機から歓声の様な叫びが無線を通じて聞こえてくる。
漸くの命中弾に艦橋は湧き上がる。
あとは敵艦が回避行動を取るまで、出来る限り多くの砲弾を叩き込むだけだ。
回避されたらまた諸元を測定し直さないとならなくなるからな。
主砲3基は1基に付き1門、一度に3門が撃つ。
大和の主砲は反動が強過ぎるが故に、金剛の様に全門斉射と言うのが出来ない。
と言うよりも、戦艦の主砲は基本は交互撃ち方であり、全門斉射と言うのは殆ど行わない。
他の艦も交互撃ち方による斉射だ。
これは、大和であれば1番砲塔から3番砲塔の右、中、左とそれぞれ一斉撃つ撃ち方である。
それでも3門同時射撃は艦が少しとは言えど横滑りするほどの衝撃と反動だ。
『対空電探に感!』
「敵か!?機数と高度は!?」
『出現方向と機数から考えて友軍の可能性大!』
『見張り員より報告!多数の航空機が敵艦隊に突っ込みます!……友軍機です!』
「これで、上手くやってくれればまた敵の混乱とまでは行かなくても動揺ぐらいは誘える訳だが……」
双眼鏡で覗いてみても、攻撃隊は見えない。
今日は新月だから月が辺りを照らしてくれることは無い。
大空に瞬く星々の光はあれども、それは光源足り得ない。
それでも攻撃隊は照明弾も無しに敵艦へ突っ込んで行っているらしい。
程なくして敵艦隊への攻撃が開始されると電探にははっきりと隊列や足並みが乱れたことが映し出されていた。
遠くの方では魚雷命中時の爆発音と思しきものや、爆弾による火焔が上がっているのが双眼鏡を覗くと良く分かる。
今使っている双眼鏡は、光学機器分野では我が国の数歩先を行くドイツ製のものだ。
欧州からの輸送船団の中には光学機器、双眼鏡の設計図や生産設備も含まれていたのだが、他の装備などの優先度の方が高かった故に細々と生産を続けられているに留まっている。
それでも戦艦と空母分だけでも数を揃えられたのは大きい。
より鮮明に見えるし、敵機などの判別もし易い。
敵戦艦は空襲下でもなお、果敢にこちらへ砲撃を行ってくる。
距離も140にまで接近しているし、敵艦の両用砲の射程だからか小口径弾もわんさか飛んでくる。
そしてその内の1発が大和の艦橋に突き刺さる。
そこは、折しも俺達がいる場所であった。
刹那、腕と足、頬に鋭い痛みを感じた。
幸いにも弾いたようだが、砲弾か艦橋のものかは分からないが、破片か何かが俺に飛んで来たらしい。
触って確認するが、そこまで深くはなさそうだ。
じくじくと痛むが、死ぬはしないだろう。
「軍医を今すぐ呼べ!早くしろ!」
「提督!」
「大丈夫だ、見た目よりも傷は浅い!」
「今すぐ医務室へ……」
「これぐらいの傷なら治療しながらでも指揮は取れる。それよりも他に怪我人は居ないかを確認しろ、居たらすぐに医務室に運べ」
問答を続ける間も砲戦は続く。
軍医が大急ぎで艦橋に入ってくる。
取り合えず痛み止め、モルヒネの注射をされた後に消毒と止血をしてくれる。
諌山軍医大佐は、なんだかんだと昔から世話になっている。
俺の主治医は畑軍医大佐であるが、畑軍医大佐と並んで世話になることが多い。
畑軍医大佐が俺を診る事が出来ない時に、諌山軍医大佐が診てくれるのだが実を言うと諌山大佐の方が優しいのだ。
畑大佐は何と言うか、結構容赦が無いと言うか、かなりボロクソに言われることが多い。
「傷はどうか?」
「……頬と腕の傷は大したことはありません。縫うことには変わり有りませんが。足の傷は思っているよりも深いのでちゃんとした治療が必要でしょう。放っておけば大事になります」
「分かった。取り合えず止血と応急処置だけ頼めるか」
俺の顔をじっ、と見た諌山大佐は頷いた。
「戦闘が済んだらどれだけ暴れようとも医務室に担いで行きますので、ご承知の程を」
「分かった、迷惑を掛ける」
「職務ですので」
軍医は手早く止血をして、消毒と包帯を巻いてくれた。
念の為、諌山軍医大佐が俺の側で待機しているとのことで、それよりも兵士達の手当や治療をしてやれと言ったら向こうは手が足りているから問題無いときっぱりと断られてしまった。
大和は乗組員が多い分、軍医が多い。
今回は艦の損害自体も軽微であるから、負傷者も少ないのかもしれない。
流石に命令と言う形を取るわけにも行かず、大人しく頷いた。
「提督、もう水雷戦隊に突撃を命じてよいのでは?」
「電探、見張り員どうか?」
『敵艦、敵水雷戦隊の抵抗は微弱です。戦艦や重巡は健在の様です』
敵水雷戦隊は数回の航空攻撃で壊滅したとみていい。
水上電探には敵の水雷戦隊と思わしき艦影が写っているが、大きくばらけていたり、落伍している艦ばかりで戦闘能力を有しているとはどうやっても判断し難い。
個艦毎の戦闘はまだ可能かもしれないが部隊規模の戦闘行動はあれでは取れまい。
舞台は整ったと判断出来るだろう。
後は敵艦隊への止めと言う最後の締めをきっちりやるだけである。
すぐさま1水戦、2水戦に突撃を命令。
敵には健在な重巡や戦艦が残っているが、抵抗自体は余り無い。
再び態勢を整え戻される前に決着を付けておいた方が無駄に被害を出さずに済むし、その方が良いだろう。
「戦艦、重巡は突撃を行う水雷戦隊の支援。決して彼女達を撃たせるな」
「提督、取り合えず医務室で治療を。後の事はお任せ下さい」
「……分かった、そうしよう」
戦いの趨勢は決した、そう言わんばかりに大和に治療を勧められる。
諌山軍医大佐に連れられて医務室に向かうと、傷病者で溢れていた。
大和は合計4発の被弾で済んだし全てを装甲で弾き返したが、高角砲を撃っていた者や見張り員の中などにはその弾片を受けて負傷したものもいる。
被弾時の衝撃で怪我をしたりなどもだ。
そう考えると俺の怪我など大したことは無い。
「むさ苦しいところで申し訳ありませんが、我慢してください」
「問題無い。他の者は大丈夫か?」
「戦死者が20名ほど。他の者は重軽症者合わせて50名程度です」
「……そうか。あとで、弔ってやらねばな」
「そうですが、提督はご自分のお身体の事ももっと慮って下さい」
「すまん」
傷病者の中で、手当をされる。
麻酔をされているからか縫う時も痛みは無い。
抜糸の時や治るまでの痛みがあるだろうが皆の怪我に比べれば大したことは無いだろう。
傷が再び開かぬように用心するだけである。
大和の艦内にある長官室が自室として充てられ、そこで諌山軍医大佐の言い付け通り大人しくしていると戦闘終了、用具収めの喇叭に続いて艦内放送がされた。
どうやら決着が付いたらしい。
それから暫くすると大和が訪ねてくる。
「提督、大和です。お怪我をされている所申し訳ありませんが、報告に参りました」
「報告頼む」
「はい。戦艦同士の砲撃戦での撃沈戦果は武蔵による戦艦1隻のみですが、水雷戦隊による切り込みで戦艦と重巡へ大損害を与えました。撃沈確実14隻、撃破は更に20隻ほどになります。敵艦隊が撤退の動きを見せた為に追撃はさせず戦闘終了を下令しました」
「我が方の損害は、私が被弾4発で小破。いずれも機銃座への損害程度なので修理も数日で完了します。ビスマルク、霧島、ローマ、クイーン・エリザベスが中破。他に被弾した艦はありますがいずれも数日程度の修理で済むものです」
「水雷戦隊は?」
「敵艦隊が完全に混乱していたので、砲撃を行いながら距離40にて投雷。敵艦の撃沈戦果は全て雷撃によるものです」
「航空隊の戦果は、分からんか」
「はい。敵の水雷戦隊にも大損害は与えたとのことですが詳細は確認中です」
「報告ありがとう」
「追撃を行おうと思ったのですが、こちらは水雷戦隊と完全に分離していましたので断念しました」
「いや、それでいい。俺達の任務は豪州奪還で敵艦隊の殲滅ではない。輸送船団を無事に守り抜いて、豪州奪還さえ出来れば取り逃がした敵艦は何時でも叩ける」
「はい。それで、隼鷹さんに連絡を取ったらそのまま大和で休んでいろ、と……」
「あいつ……。まぁ、ここは隼鷹の言う通りそうするよ。残りの任務は輸送船団の護衛だけだ。航空戦の指揮も隼鷹に任せておけば問題無かろう」
隼鷹にはとっくに手を回されていたらしい。
ちゃらんぽらんではあるが、なんだかんだと気遣いが上手い。
「それでは、これからの行動ですが、予定通りスラバヤまで輸送船団を迎えに行くで宜しいですね?」
「あぁ、頼む。大鳳と信濃、それと1航戦はどうなった?」
「今のところ特に報告は入っておりません。大鳳と信濃は3日後にはバリクパパンに入港、修理を開始する予定です。1週間もあれば戦線復帰が叶うかと」
「問題は1航戦だが……」
「ドックの数もあるので一度応急修理をバリクパパンで行ってから本土で本格的な修理をするとのことです。修理と再訓練に4か月ほどを頂ければ戦線復帰は可能とのことです」
「それでいい。バリクパパンは前線での軽微な損傷艦の修理を優先させてくれ。その方が戦力の維持はしやすい。中破以上の艦は全て本土に回せ。設備も整っているし乗組員の訓練も必要だからな」
「艦隊には燃料の補給を、主に駆逐艦と軽巡に行っています。戦闘でかなり消費してしまったので」
「給油はケチらなくていい。足りないとか後々に影響が出るかもしれないと判断したら本土か南方方面から直接タンカーを送ってくれるように俺の名前で要請して構わない」
「了解しました」
報告を終えた大和は一礼して艦橋に戻った。
恐らく今は烹炊所が戦闘終了後の食事を配る為に奮闘していることだろう。
時計を見ると、既に夜中の0300を回っている。
もう30分ほどで0400になる。
艦隊はこれからスラバヤまで戻り、輸送船団を伴って豪州上陸、そして奪還作戦を本格的に開始する。
本当の戦いはこれからである。
寝ていてくれと言われたが、戦闘後の興奮で寝付ける訳も無い。
椅子に腰掛けていると大和が再び部屋を訪ねて来た。
手にはトレイ、その上には作り立てであろう、湯気を立たせた食事が乗っている。
「提督、早いですが朝食をお持ちしました」
「ありがとう。皆には食事を摂らせたか?」
「滞り無く。今は交代で入浴と就寝をさせています」
「大和は配置中か?」
「いえ、先に休憩を頂きましたので提督の食事を作りました」
「それはすまない、ありがとう」
「はい」
大和と共に食事を食べる。
相変わらず、大和の作る食事は美味しい。
メニューはロールキャベツにスコッチエッグ、それにコンソメスープ。ヨーグルトも添えられている。
主食は米だ。
戦闘後の空腹でも、満足出来るように腹にしっかりと溜まるものだ。
食べながらから水雷戦隊の話をする。
「あれだけの好条件での切り込みによる砲雷撃戦に参加出来ないだなんて、神通や龍田辺りが悔しがるかもしれませんね。私達の実力を見せる良い機会だったのに、って」
「いや、案外分からんぞ」
「?」
「あの二人なら、温いとか言い出しそうだ。普段あれだけ過酷な訓練をやっているのだからもっと厳しい状況下でこそ砲雷撃戦と言える、とかなんとかな。下手すればこれでは実力の半分も出せないとか」
「有り得そうですね……」
苦笑いと共に頷く大和からみても、あの二人の訓練は厳しいらしい。
食事を終え、大和に手伝って貰いながら身体を拭く。
流石にこのままベッドに潜るのは憚られる。
大和が帰った後、俺は少しだけ椅子に座って休んだ後に就寝した。
第一機動艦隊
第一航空戦隊
飛龍 蒼龍 瑞鶴 加賀
第一戦隊
戦艦
金剛 霧島 長門 リシュリュー
重巡洋艦
鈴谷 ザラ ポーラ
第一水雷戦隊
軽巡洋艦
能代 阿賀野
駆逐艦
秋月 照月 Z3 陽炎 雪風
浦風 萩風 初梅 初雪 浦波
ーーーーーーーーーーーーーーー
第二航空戦隊
葛城 阿蘇
第二戦隊
戦艦
ビスマルク ティルピッツ ヴァンガード
重巡洋艦
熊野 アドミラル・ヒッパー プリンツ・オイゲン
第二水雷戦隊
軽巡洋艦
矢矧
駆逐艦
若月 村雨 時雨
綾波 朧 夏雲
暁 雷 電 響
ーーーーーーーーーーーーーーー
第三航空戦隊
隼鷹 飛鷹 グラーフ・ツェッペリン アークロイヤル
第三戦隊
戦艦
リットリオ ローマ 比叡 榛名
重巡洋艦
青葉 古鷹 足柄
第三水雷戦隊
軽巡洋艦
多摩 由良
駆逐艦
宵月 初雪 浦波
望月 村雨 霜月
ーーーーーーーーーーーーーー
第一護衛艦隊
第四航空戦隊
鳳翔 大鷹 神鷹
第四戦隊
戦艦
日向 山城 クイーン・エリザベス
ウォースパイト
重巡洋艦
那智 羽黒 愛宕 摩耶
第四水雷戦隊
軽巡洋艦
名取 天龍 龍田
駆逐艦
花月 涼月 グレカーレ
リベッチオ ジャーヴィス
マエストラーレ 東雲 白雲
浦波 狭霧 子日 有明 海風
江風 峯雲 霞
ーーーーーーーーーーーーーー
第二護衛艦隊
第五航空艦隊
軽空母
海鷹 龍驤
第五戦隊
戦艦
ラミリーズ ネルソン
デューク・オブ・ヨーク
重巡洋艦
キャンベラ ゴトランド
デ・ロイヤル
第五水雷戦隊
軽巡洋艦
神通 鬼怒
駆逐艦
沖波 清霜 白雲 有明
長月 荒潮 親潮 黒潮
竹 桃 椿 楓
樺 楠 大波 涼波
柿 梨
第一補給艦隊
軽空母
千代田
重巡
加古
軽巡洋艦
名取 鬼怒 大井
駆逐艦
白雲 有明 長月 荒潮、親潮、黒潮
磯風 時津風 山風 初春 若葉
給油艦
神威 速吸 鷹野
龍舞 塩瀬 高崎
給料艦
間宮
南方航路護衛隊
駆逐艦
江風
初雪
夕雲
海防艦
占守
国後
石垣
松輪
佐渡
対馬
三宅
空母
大鳳 信濃
戦艦
大和 武蔵
重巡洋艦
筑摩 最上
軽巡
酒匂
駆逐艦
春月 初月 満月 長波 Z1 Z3 菊月 霜月 藤波 雄竹
母艦航空兵力
飛龍
烈風41機 流星32機 彩雲9機 計82機
蒼龍
烈風41機 流星32機 彩雲9機 計82機
瑞鶴
烈風41機 流星52機 彩雲9機 計95機
隼鷹
烈風41機 流星32機 彩雲9機 計78機
飛鷹
烈風41機 流星32機 彩雲9機 計78機
天城
烈風37機 流星36機 彩雲9機 計82機
阿蘇
烈風37機 流星36機 彩雲9機 計82機
グラーフ・ツェッペリン
烈風37機 流星20機 彩雲6機 計63機
アークロイヤル
烈風37機 流星24機 彩雲6機 計67機
加賀
烈風70機 流星48機 彩雲6機 計124機
鳳翔
烈風24機 流星12機 彩雲4機 計40機
大鷹
烈風24機 流星12機 彩雲4機 計40機
神鷹
烈風24機 流星12機 彩雲4機 計40機
海鷹
烈風24機 流星12機 彩雲4機 計40機
龍驤
烈風24機 流星12機 彩雲4機 計40機
千代田
烈風24機 流星12機 彩雲4機 計40機
大鳳
烈風57機 流星12機 彩雲9機 計78機
信濃
烈風106機 流星12機 彩雲6機 計124機
烈風730機
流星352機
彩雲120機
計1202機