暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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ニューギニア・ソロモン方面
第77話


 

 

 

 

豪州政府と豪州軍、そして民間人を合わせて4万1345名を無事救い出す事が出来た。

戦闘によるものや治療中に死んだものなど、1267名が死亡する事となった。

 

挺進隊の損害は各連隊合わせて2500名余りとなり、ほぼ1個連隊の戦力を喪失したことになる。

投入した空挺兵力の内の4分の1が喪われた事になる。

 

特に第1挺進連隊が被った損害が大きく、連隊2500名の内、1019名が戦死乃至傷病者となった。

各挺進連隊は本土へ戻り、再編と訓練を行う事が即座に決定した。

 

イナミンカに常駐するには周囲の敵戦力が大きい事、突出部が出来ている状況であり分断包囲の危険性が高い事から放棄が決定、民間人達を伴い撤退を開始し、民間人はポート・ダービーの軍病院へ移された。

ポート・ダーウィンにも軍病院や設備はあるが、今現在ニューギニア方面からの空襲に連日晒されている事から見送られたのだ。

 

ポート・ダービーの軍病院で一旦の治療を行った後に、豪州政府と民間人達、軍人には一度カリマンタン島へ順次退避してもらう。

確かに作戦は順調に進んでいるが、ニューギニア方面から敵重爆などが飛来して来ているし、アラフラ海やティモール海、スラバヤ島から豪州を結ぶ航路は敵潜水艦の脅威が強く残っている。

 

被害もそれなりに出ており、安全とは言い難い。

だから安全が確保されているカリマンタン島で集中して治療を受けてもらうのだ。

日本本土も考えられたが、距離の関係で断念せざるを得なかった。

 

豪州政府とは後日、退避先のバリクパパンで会談を行う予定であるが取り敢えず数ヶ月は先である。

 

 

傷病者に対する治療は行われており、豪州軍は回復した者からリハビリを、それが終わったら訓練を施す予定だ。

流石に短期間で終えるのは無理であるから、リハビリ、訓練を含めて大体1年程度の期間を予定している。

 

暫くの間は養生してもらう他無い。

病人を戦わせたり働かせる訳には行かないからな。

 

 

 

 

 

作戦も順調に進んでおり、ノーザンテリトリー州と西オーストラリア州の殆ど全域を奪還し終える事が出来た。

今はクイーンズランド州奪還の為に部隊の集結と編成、物資の集積を進めており、陽動として南オーストラリア州側に対しての圧力を強めている。

 

クイーンズランド州奪還に際して最も警戒すべきなのは、やはりニューギニア方面からの敵機や敵艦隊だ。

作戦では、陸路での迅速な展開は難しいから、カーペンタリア湾から上陸作戦や河川機動戦術でノーザンテリトリー州側に展開する敵兵力の包囲撃滅を狙う。

 

レイックハルト川やニコルソン川、ノーマン川、バイノー川に対して河川機動戦術を行う。

遡上には遡れる場所まで第200号型輸送艦を用い、途中からは大発や小発を使う。

川幅と水深がある程度ある事から可能な戦術だ。

 

支作戦として、モーニントン島やベンティンク島などの攻略を行う。

同地に飛行場を建設し、そこからの航空支援を行いながら本作戦を進めるのだ。

 

 

 

 

 

 

作戦は既に動いており、モーニントン島、ベンティンク島の奪還は終わった。

飛行場もあと2日もあれば戦闘機の離発着が可能になり、そうすれば本作戦の発動となる。

 

3日後、本作戦が発動され、敵地後方に4個師団が強襲上陸、河川機動戦術を開始した。

敵も対応して来たが、先の救援作戦で敵航空戦力の撃滅をしていた事から航空優勢は我々にあったからある程度楽に事が進んだ。

 

敵戦力の方位に成功し撃滅、3ヶ月掛けてクイーンズランド州の奪還を行った。

そのままニューサウスウェールズ州、ビクトリア州を3ヶ月で奪還すると、包囲される形になった南オーストラリア州に対して最後の攻勢を開始。

 

撤退した敵戦力が集結し、防衛体制を整えていた事から抵抗は強かったが、ケアンズ、ブリスベン、シドニー、タスマニア島に設けた飛行場からの敵輸送船団に対する通商破壊作戦により事前に弱体化されていた事もあり、2ヶ月半ほどで作戦が完了となった。

 

 

これを最後に、豪州奪還作戦の完遂が宣言され、各地の防衛体制の確立にシフト、同時並行で残敵掃討戦が開始された。

 

これで丸1年に及ぶ豪州奪還作戦は終了となった訳である。

 

 

 

 

 

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豪州作戦から1ヶ月余り、豪州の防衛には陸軍から20万人を抽出している。

戦力は本土と南方方面から引き抜き、作戦に参加した師団は全て日本本土や南方方面に後退し人員や機材の補充、部隊再編と補充、訓練が施される事になった。

 

損害は全体で10万名ほどとなり、投入兵力の7分の1を喪う事になったが、作戦は成功と言って良いだろう。

 

それに続いて豪州軍の戦力化が開始されている。

既に1個連隊ほどが作戦投入可能状況にあると豪州政府から伝えられており、最終的には2万程度の兵力となる予定だ。

戦後処理が終了次第、民間人には豪州へ戻って貰い、各地で食料生産などに従事してもらう事が豪州政府との間で決められている。

 

他にも各種資源の提供などが確約されており、その見返りに我々は豪州の防衛と武器弾薬の供給を担う。

 

 

 

今は豪空軍に対する訓練を開始したばかりであり、供与される機体は隼と零戦となる。

 

二機種が選ばれたのには、各地での損耗補充で精一杯であるのと、まずは経験を積み空を飛ぶ事に慣れるべき、との原田中将からの意見により倉庫に予備保管とされていた隼36機、零戦36機の各1個航空隊分が供与される事となった。

 

暫くの間、これらの機材で慣れた後に順次疾風に機種転換を行う。

豪州には続けて陸軍主体の陸空から成る防衛兵力を駐留させ、共同で防衛に当たる。

 

 

 

海軍は長期作戦明けと言うこともあり、全ての艦が本土にてオーバーホールを受ける事になっている。

艦によっては機関部を丸々取り替えるなんて事もしなければならず、向こう1年は大規模行動の実施は出来ない。

今動かせる戦力は第1補給艦隊に、1航戦の空母4隻と金剛、比叡、榛名、霧島、ネルソンの戦艦5隻。

 

他には防空巡洋艦の鈴谷と熊野、能代の3隻。

水雷戦隊は龍田以下4水戦の駆逐艦涼月、リベッチオ、浦波、狭霧、有明、海風、江風、峯雲、霞、藤波となる。

 

1航戦は先の海戦による損傷修理を終え、余裕がある事から先に入渠、点検整備を済ませて動かせる戦力とした。

他には南方航路護衛隊があるがこちらは船団護衛任務に従事する為に動かせるものではない。

 

第1護衛艦隊と第2護衛艦隊は船団護衛任務中の損傷修理とオーバーホール中で、終了次第船団護衛任務に再び就く。

 

今はネルソンを旗艦とし、金剛、榛名、霧島と熊野、有明、海風、江風、霞、藤波が練習航海訓練中である。

暫くの間はネルソンが旗艦と秘書艦を担当し、臨時編成である艦隊を纏めている。

 

戦艦

ネルソン 比叡

 

空母

飛龍 蒼龍 瑞鶴 加賀

 

防空巡洋艦

鈴谷 能代

 

軽巡洋艦

龍田

 

駆逐艦

涼月 リベッチオ 浦波 狭霧

 

以上が即応可能な戦力となる。

 

 

 

 

次期作戦に関しては、既に準備が進められている。 

目標はスラウェシ島以東の島嶼帯、ニューギニア、ビスマルク諸島からソロモン諸島に駆けてである。

 

大仕事になる事には間違いなく、特にニューギニア島における作戦は規模としてはカリマンタン島奪還作戦に匹敵するのは間違いない。

問題は、ニューギニア島中央には険しい山脈が連なっている事だ。

 

西からマオケ山脈、ビスマーク山脈、オーエンスタンリー山脈と、オセアニア最高峰もここに含まれる。

最低でも4000m級の山々が連なっており、これを踏破するのは困難極まる。

単純な話、富士山よりも場合によっては1000m以上も高い山々を、兵達の足のみで登り、降らねばならない。

高山病の危険性や山岳地帯である事から野戦重砲などの重機材の運搬が不可能に近い事、地形の性質上防衛側、敵が圧倒的有利である事。

 

それに加えて補給線の構築維持が今までの作戦に比べ圧倒的に難しい事が挙げられる。

ただこれらの問題は解決の目処が立っている。

 

単純だが相手をするだけ無駄だから、相手をしなければ良いのだ。

幸いにも我々にはスラウェシ島のトミニ湾、豪州のダーウィン、ケアンズと言った港が使える。

 

三地点からそれぞれ部隊が別地点に対して上陸を行うのだ。

トミニ湾の部隊はマノクワリへ、ダーウィンの部隊はドラク島へ。

そしてケアンズの部隊はポート・モレスビーへ。

 

マノクワリに先ず上陸し、同地の飛行場を整備、陸軍飛行戦隊と対潜用の二式大艇の部隊を送り込んだならばすぐさまアラフラ海へ艦隊を移動させ、ドラク島へ上陸させる。

ここの支援には、ヌランベイに進出させた豪州空軍を使う予定だ。

距離としては約650kmほどであるから、増槽を装備する隼ならばある程度の任務は熟せる。

飛行場が整備されたなら、そちらに零戦部隊共々進出して貰う予定だ。

 

最後にポート・モレスビーへ上陸することになる。

ポート・モレスビーはニューギニア島最大の市街地があった場所であり、現在は深海棲艦の、ニューギニア方面における重要拠点の一つである事には間違いない。

飛行場は3箇所も整備され、敵機の総数は700機を超えると予想される。

 

当然敵もこちらの作戦を砕く為に艦隊を出してくるだろうから、ニューギニア島奪還の最大の山場はここであろう。

 

 

3箇所への上陸を行う事で、これで敵戦力の分散を狙えることに加え、山脈を包囲する様に部隊を展開出来る。

この様な作戦になったのには、勿論戦術上の事もあるが、何よりも使える港全てが修復や建設を十分に終えておらず、必要な能力に達していないから、と言うのもある。

 

トミニ湾にある港こそ、前々からの整備で機能は整っているが敵の攻撃で少なからず被害を被っている。

ダーウィンはまだ整備が進められ始めてから1年足らず、ケアンズに至っては半年だ。

作戦実施時期を1年後としても、どれだけの規模まで押し上げられるか分からない。

最低限必要な能力は、どうにかしなければならないがアラフラ海、珊瑚海は敵通商破壊が盛んで、スラウェシ島を奪還する前までのカリマンタン航路を思わせるものだ。

距離を考えれば豪州を南回りする訳にも行かないし、陸路は限界がある。

 

となれば海路しか無いわけだが、それも中々上手くいかない。

既に輸送船に対して30隻の被害が出ており、護衛艦隊への被害も無視出来るものでは無い。

喪失こそ無いが、山城、ウォースパイトの2隻が敵潜の魚雷を受けて中破、デューク・オブ・ヨークが大破している。

他にも航空攻撃によって摩耶、愛宕、キャンベラ、ゴトランド、デ・ロイヤルが大破、駆逐艦も20隻が大小の損害を受けて入渠中となる。

 

護衛艦隊の空母群には損害は無いが、かと言って艦載機の損害は大きい。

搭乗員こそ大多数が生還出来ているが、全員が全員すぐさま戦線復帰を望めるわけではないし、大怪我のせいで退役止む無しと言う者までいる。

今でこそ、義手義足技術を発展させたおかげで腕や足を失っても戦える場合が多くあるが、やはり五体満足よりも劣ってしまう事から積極的に投入するには行かない。

 

彼らを戦いたいと言う希望があったとしても無理に戦わせてしまえば、それだけ貴重な熟練搭乗員を失うことになる。

特に母艦搭乗員にしておくには余りにも安定性が無く、基地航空隊配属となる。

 

ダーウィンに対する輸送船団は2隻の輸送船が失われただけで大した被害は無いが、ケアンズに対する輸送船団は甚大な被害を被っている。

特に被害が集中して起こるのは、トレス海峡からケアンズに掛けての海域だ。

 

ケアンズに北航路で向かうにはどうしてもトレス海峡を抜ける必要があるのだが、トレス海峡は150kmと狭い上に水深が浅く、島と岩礁で迷路になっており必然的に大型艦が通れる場所は制限されてしまう。

 

しかもポート・モレスビーからケアンズまでは1000km程度しか離れておらず、飛来する敵機の活動範囲内だ。

潜水艦も補給は容易に行えるから魚雷や機雷の払底に気を使わなくて良い。

しかも距離だけでなくカバーしなければならない面積も小さいから、その分潜水艦や航空機の密度を多く出来る。

 

そこを敵潜や敵機に狙われて損害を喰らうのだ。

失われた物資は既に60万tに達し、兵員こそダーウィンからの陸路になるから損害は無いが、各種資材や物資、陸路で運ぶのには些か面倒な重機材が多数失われている。

だからと言ってダーウィンから陸路で輸送しようとすれば、鉄道の増敷設は不可欠。

しかしそれには時間も掛かるし何より輸送量が船舶輸送には足元に及ばない。

船なら軽く1万tの物資や資材を軽々輸送出来るが、鉄道は100両単位でも何回、何十回と往復しなければならないか分からない。

 

それだけ時間が掛かるし、恐らく作戦実施時期までに間に合わないのは確実だ。

 

 

 

そうなれば海路を使うしかないのだが、このまま続けてもジリ貧は間違いないし何より損害が無視出来るほどのものでは無い。

どうにかして解決せねばならないが事は単純な話では済まない。

 

何らかの作戦を行う場合の投入出来る兵力自体は揃えられるが、問題は内側にある。

政治家連中が大陸反抗作戦の実施を懲りずに言い始めたのである。

 

しかも今回ばかりはどうやら一筋縄では行かなさそうらしく、色々と手を回したのかあちこちで同じような声を上げる存在が居る。

 

今俺が居るのは東京であるが、ここにいる理由も大陸反抗作戦の実施は可能かどうかと言うのを聞かれる為である。

中代大将達が説得を試みてくれていたし、今までもそれで解決していたのだが今回ばかりはどうにもならず実働部隊のトップである俺の意見を聞かせろと騒いでいるらしい。

 

そのために俺が召喚され、陛下を含めた会議で決定されることになったのだ。

 

 

 

 

「それでは、大陸反抗作戦における会議を始めさせて頂きます」

 

この場にいるのは俺を含めた中代大将、広野中将の3名にそれぞれの従卒数名、反対派、賛成派を含める政治家連中に各省庁の官僚、そして陛下である。

 

「単刀直入に聞かせて欲しい、大陸反抗作戦の実施は可能か?」

 

最初に発言されたのは陛下であった。

中代大将から聞いた話では陛下自身は大陸反抗作戦に反対の立場であると言う。

 

ただ、政治家連中の声が大きくなり過ぎた為に抑えておけなくなっていると言う事から今回の会議が開かれたと言う側面もあるらしい。

 

「お答えさせて頂きます。はっきりと、申し上げますが大陸反抗作戦の実施は何時如何なる時期時勢であっても不可能であります」

 

「それは何故か?」

 

「単純な兵力の問題もさることながら、補給の問題も大きい事が挙げられます」

「今現在我々は、優勢に立っているように見えますが、その実劣勢と言っても良い状況であるのは間違いありません。概算ではありますが、大陸に兵力を派遣するとなれば、現在の陸海軍総兵力が凡そ300万ですので、各地の防衛兵力などを考えれば最低でもこの倍の兵力は必要となるでしょう」

「それに加えて輸送能力は現時点の3倍、輸送船数にして今の保有隻数1500隻を加えて3000隻は必要になるかと。確実に成功させるために必要な数字は、現実的云々の話ではありません」

 

俺の発言にどよめくが、賛成派の連中は俺を睨んだりとよほど気に食わないらしい。

 

「これでもまだ少ない方です。仮に今、作戦を実行すると言うのならば豪州から南方方面だけでなく本土の兵力も全て、一兵残らず動員する必要があります。勿論、それらの地の防衛は一切捨てて、です」

 

「軍ならば我々の命令に従うのが相応なのではないか?」

 

「正規の手順や手段を踏んだわけでもないのに命令とはとんだ御冗談を」

 

「なっ……!?」

 

一瞬で顔を真っ赤にして睨んでくるが、怖くもなんともない。

 

「そも、命令だと言うのならば実現可能な、まともな作戦を立ててから言うが宜しい。この会議は、貴方方の一方的な主張が理由で開かれていると言う事を知るべきだ」

「私には300万の部下達を死地に追いやる権限があり、それと同時に彼らを守らねばならない責任がある。勿論命であるのは前提だが、彼らを死なせる命令を下す者としてせめて彼らが無駄死しない命令と作戦を下さねばならない。それを考えれば、到底大陸反抗作戦など賛成も実施も出来ようはずは無い」

 

余裕と言うのは、大抵慢心を生み、そして敗北をする。

余裕と慢心は全くの別物ではあるが、どういう訳か近付いて行ってしまうものなのだ。

 

目の前にいる連中は、正しくそれに囚われてる事に違いない。

でなければ荒唐無稽なことなど言うはずもないのだから。

 

「だが今までは作戦を成功させてきたではないか!」

 

「リスクを取らずして成功など有りはしない!」

 

「それは勝算があり、それを成功させるための算段があったからだ。確かに博打に近い作戦があったのも事実だが、貴方方の言うリスクはリターンが0の物だ。履き違えているのではないか?」

 

言い合いと言うには余りにも無様なそれを、陛下が止めて聞く。

 

「では聞くが、何故我々は今勝ち続けて来られたか?」

 

「海と言う存在があるからです」

 

「海?」

 

「海と言うのは天然の要害であり、島国である我が国においてもそれは例外ではありません。何処かへ向かう場合は海を渡らねばなりませんが、それは敵も同じ。だから守ることがある程度容易に行えるのです。海を隔てていますから、直接的な戦いと言うのは避けられます。ですが大陸は地続きで、常に戦線に兵力を張り付け、そして戦い続けねばなりません。島を奪い合う戦いとは根本的に違うのです」

 

「カリマンタン島や、オーストラリアもか?」

 

「はい。面積が大きいからこそ勘違いしてしまいますが、それらも大きな、と言う言葉が付くだけで結局は島です。ですので面積が広いと言う点を考慮して練り直したりはしなければなりませんが基本的な戦術は島嶼帯の戦術と同じで良いのです」

 

「もしそれでも作戦の実施を主張されるのなら、まずは貴方方が銃を取って、最前線で泥濘や汚物、戦友の血肉に塗れ命を懸けて戦ってから言うのが良いでしょう。そんな気概も無く、他者に犠牲を強いるだけならば何を言う権利も貴方達には無い!」

 

俺のその言葉を最後に、陛下が大陸反抗作戦は実施しないと仰ってくれた事で会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、豪州作戦の成功と日豪両政府の国交が再開されたことを記念した式典、と言うよりパーティに参加するように言われ、真っ白な2種軍装に身を包んで参加している。

本来ならば立襟燕尾服がこういう場では正装となるが、急な参加と言う建前で着ていない。

 

勲章をじゃらじゃらとぶら下げるのも好きではないし、この格好ならそのまま執務や何かあった場合に出向くことが出来る。

 

パートナーにはウォースパイトに隼鷹に頼んで、俺達の護衛に413大隊の6名。

別の場所にさらに10名の兵士が待機している。

 

ネルソンは艦隊旗艦であるから、留守を任せている。

隼鷹とウォースパイトならその辺の礼儀がしっかりしているから心配は要らないと言う事で頼んで付いてきて貰ったのだ。

 

貸し出されたドレスに二人は身を包んで薄化粧をしているからか、野郎共がお近付きになる機会を狙っている。

とは言え二人は傍を離れずに、護衛の兵士達宜しく表情や雰囲気には出さないが周りを警戒している。

 

これで好きにしていいと言うと、そんな事は言うものではないと二人に怒られる事は分かり切っているから大人しくしているのが吉だ。

 

料理は、時勢を考えれば豪華であることは間違いなく、それを適当に突きながらおべっか塗れのゴマスリやや見合い話を適当にいなしていく。

 

やっぱり皆が作ってくれる食事の方が美味しい。

 

そう思いながら普段余り食べないローストビーフを口に入れる。

 

 

「にしても、提督はモテるねぇ」

 

「あんなもの範囲に入らんだろう」

 

さっきまで淑女然としていた隼鷹がニヤニヤしながら弄ってくる。

 

「ですがお見合い話が多いと言うのは本当だったのね」

 

「毎日来るぞ。しかも別のだけじゃなく同じところから何度もな」

 

「提督は結婚なさらないの?」

 

「軍人だから何時死ぬかも分からないし、殆ど考えたことなど無いな」

 

ウォースパイトもやはり俺の身の振り方と言うのは気になるようで聞いてくる。

 

今は会場の端に逃げて適当に食べつつ話している。

 

実のところ、周りにいる女性と言うのは全員艦娘の皆だ。

しかも誰も彼もが世間一般に出れば間違いなく10人中10人は振り向く美女ばかりで、言い方は悪いが彼女達に見慣れてしっているからそこらの女性が眼中に入らなくなっているのだ。

しかもただ見目麗しいと言うだけでなく、家事全般に加えて仕事も物凄く良く出来ると言うのだからこれで勝てる存在の方がおかしいだろう。

 

適当に時間を潰し、機会を見て中代大将に一言言って帰路に就く。

主役の一人である俺が途中で抜けるのは宜しく無いが、仕事もまだ多く残っているから、と言って抜けさせて貰った。

 

と言うかこれ以上見合い話をされて堪るか。

 

 

 

近くの陸軍駐屯地に少しばかり間借りさせて貰う。

横須賀は連日の空襲と先の震災で大損害を被っているから使用なんてとても出来るものでは無い。

 

本土の港湾施設で整備の優先度が高いのは外地、佐世保、大湊、横須賀となる。

呉にはこれ以上の能力を求めるのは酷な話であるから、リソースの5割を外地、3割を佐世保、残り2割を大湊と横須賀に振り分けている訳である。

 

佐世保は整備計画が進められている段階であるが、外地における前線泊地整備計画を優先せざるを得ない状況で、進捗率は全体の二割と言ったところだ。

それでも戦艦、空母と言った大型艦が入渠可能なドックが6つ、他に中小艦が入渠出来るドックが7つある。

これらは普段修理に使われず、輸送船や輸送艦の造船、修理や点検を日夜担っている。

 

瀬戸内海の、主に呉近辺のドックの数は佐世保の比ではない。

大型艦の入渠が出来るドックだけで15を数え、更に巡洋艦や駆逐艦、潜水艦などが入渠出来るドックが他に17ある。

しかも同時に並列2隻入渠が可能なものだ。

 

輸送船や輸送艦の建造を担うドックは瀬戸内海中に、凡そ30はある。

以前までは輸送船の被害が少なくなってきていたから全力稼働状態ではなかったが、今は被害が増え始めていると言う事で増産体制の準備をさせている。

早ければ年内にもドック1つ当たり月産2隻体制を整えられるだろう。

 

こちらのドックは200mほどの大きさがあるから駆逐艦や軽巡ぐらいならば入渠させられるから、重宝している。

長期作戦明けなどは一斉入渠となることが多い為、殆どのドックを艦艇が埋め尽くしている状況で、今もそのような状況だ。

輸送船の損害はまだ佐世保工廠で賄える程度であるから、今の内に戦力の立て直しを図るのだ。

 

 

 

 

陸軍駐屯地と言っても、そこまで豪勢なものでは無い。

一応鉄筋コンクリートで作られてはいるが、作り自体は簡素だ。

必要な機能のみを有しているだけで、それ以外は全く無い。

 

兵舎や官舎を問わず二階建ての建物しかない。

と言うのも敵重爆は高層建築物を見つけるとそこに集中的に投弾することが良く知られており、4階建て以上になるとよく狙われてしまうのだ。

だから建物の殆どは、ダミーを除いて2階建てに制限するようにとしてあるのだ。

 

ダミーの建物は難燃性塗料を塗布した木枠に、難燃性塗料を浸してある紙を張っただけのものが殆どで、これなら一日程度ですぐに修復することが出来る。

工場などもダミーを用意してあるが、兎に角連中は物量で押してくるから被害は抑えきれていない。

 

恐らくこれらの被害を受けた工場が、被害を受けずにいたならば今頃物資不足に困ることなど無かったかもしれない程の被害を被っているのだ。

 

 

とにかく、敵重爆B-29も問題であるが、それもニューギニア方面の問題解決が先だろう。

こちらをなんとかしなければ作戦実施は覚束無い。

 

空路で呉に戻り、作戦を考える。

投入出来る兵力を考えるならば、まず戦艦での砲撃が有効だろう。

爆撃と比べれば投射出来る鉄量が桁違いだ。

1000機の攻撃機と戦艦2隻の火力は大体同じだから、効率良くより広範囲を叩けるのは戦艦だ。

沿岸部と言う戦艦の射程内に対する場所であれば、これに勝る者は無い。

 

と言うよりも、連山を使えない、と言う実情がある。

ただでさえ補給で苦労しているのに、そこに更に連山の為の補給が増えたならば、敵の攻撃を待たずして補給戦で負けることになる。

連山の投入による爆撃は、ポート・モレスビーの飛行場を最低限叩いてからでなければ迎撃による損害が大き過ぎて実施出来ない。

 

空母も今のところ4隻しかいないから、攻撃兵力としては不足しているから使えない。

飛龍、蒼龍、加賀、瑞鶴の総艦載機数は383機だ。

ポート・モレスビーの航空兵力は倍近くと見積もられるから、機上電探が実用化される前ならばやりようはあったが流石に今は無理だろう。

 

かと言って1航艦の全空母が揃うには丸半年は掛かるし、流石に待っていられる状況では無い。

護衛艦隊の空母を引き抜く訳にも行かないから、4隻でどうにかするしかない。

 

航空兵力は使いたくても使えないと言うのが現実なのだ。

 

それにタイムリミットもある。

ポート・モレスビーを叩く場合、作戦準備に掛けられる時間そのものが殆ど無いのだ。

待つ事が出来るのは、輸送船の被害状況から考えて精々1ヶ月ぐらい、それ以上は輸送船の被害、損耗が所用限界を超えてしまうのと、ニューギニア方面作戦の準備が間に合わなくなる。

 

輸送船の被害が所用限界を越えれば、少なくともケアンズに対する海上輸送航路は破綻、と言う結果になる。

立て直しを図るか、或いは陸路での輸送に頼るしかなくなる。

そうなったら、ニューギニア方面への作戦を実施するなぞ夢のまた夢となるだろう。

延期は必須、敵に戦力立て直しの時間を与えてしまう。

ニューギニア方面作戦を実施するには、やはりポート・モレスビーの無力化が必要となる。

 

 

 

数日後、艦隊司令部を召集し作戦計画を練った。

結果としてポート・モレスビーの他にラエ、フィンシュハーフェンに対する攻撃も盛り込まれることになった。

 

ラエとフィンシュハーフェンには大規模な飛行場があり、ポート・モレスビー無力化後に継続して打撃を与えるには、同地からの迎撃が懸念されたからだ。

 

航路はパラオを出港後に、ビスマルク海からヴィティアス海峡を抜け、隊を一度分けてからラエとフィンシュハーフェンに対する同時攻撃を実施。

それが終了後、艦隊を再合流させダントルカストー諸島とニューギニア島の間、ゴーシェン海峡とドーソン海峡を抜け、モレスビー島沖を抜けてポート・モレスビーを目指す。

 

ポート・モレスビー砲撃後は、トレス海峡を抜ける。

事前に海軍特殊部隊が艦隊の航行可能な場所に発信機を設置し、通過時に一斉に点火、全力で疾る。

その際に余力があるならばダル島の飛行場を叩くが、敵艦隊が出て来ればそんな余裕は無いだろう。

作戦自体は夜間に行われるが、敵夜間戦闘機や攻撃機の襲撃があると当然予想される。

 

参加する兵力は以下の通りとなった。

 

空母

1航戦

飛龍 蒼龍 加賀 瑞鶴

 

戦艦

ネルソン 大和 武蔵 金剛 比叡 

 

重巡洋艦

足柄 古鷹

 

 

防空巡洋艦

鈴谷 摩耶 能代

 

軽巡洋艦

龍田 天龍

 

駆逐艦

 

宵月 満月 霜月 春月 花月 

涼月 若月 春月 秋月 照月

リベッチオ 浦波 狭霧 江風

長波 有明 海風 藤波

 

タンカー15隻

 

 

以上40隻が参加する。

少数での突破も考えられたが、叩く目標が3つである事、目標の都合上敵地のど真ん中を突っ切る事、生半可な戦力では逆効果になる事から決まった。

 

先ず最初にフィンシュハーフェンを、次にラエを砲撃する。

この2箇所は夜間の砲撃とし完全な秘匿、奇襲とする。

ポート・モレスビーは2箇所を砲撃した後に砲撃となるから強襲を意図している。

 

艦隊旗艦はネルソンだ。

主砲配置が前部3基と、後方に対する手段を持たないが対地砲撃任務であるから問題は無い。

追撃されたら苦しいが、反撃はせずに艦隊は全力で逃走を図るからこちらも気にしなくて良い。

 

今回は敵飛行場の無力化只一点にのみ投入兵力の全力を叩き付けるのだ。

目標に対する諸元の算定は事前に航空偵察、潜水艦偵察、敵地上陸偵察により予め距離150、速力2ノットで計算している。

 

5隻の戦艦による砲撃は、三式弾、一式徹甲弾を飛行場1箇所に付き各門20発、5隻で1720発の砲撃となる。

ポート・モレスビーに対しては港湾施設に対しても打撃を与えねばならないから各門30発の射撃になる。

 

三式弾は空中炸裂に調整し、一式徹甲弾は着発となる。

対地砲撃任務に於いて、三式弾は空中炸裂が、一式徹甲弾は着発が最も効果が大きいからだ。

実戦や実験で得られた情報を基にこうなった訳である。

 

一式徹甲弾は着発だから良いが、三式弾は空中炸裂だから事前に綿密な弾道や飛翔時間の計算が必要になる。

既に必要な数値は算定済みだ。

 

一式徹甲弾は柔らかい土壌でも爆発し易いように改良された信管を搭載し、更に落下角が深くなるように装薬を調整している。

砲弾の弾道としては、頂点に到達したら急に落ちる弾道となる。

地面に刺さる形で落下させるのだ。

 

何故こうしたのか、と言うと砲弾の落下角が浅いと地面で跳ねたり十分な衝撃が足りずに起爆しない可能性が高くなるからだ。

飛行場の滑走路に落ちれば問題なく起爆するが、柔らかい土壌だとそうは行かない。

1番分かりやすい想像としては石を水面で跳ねさせる水切りが良いだろう。

厳密に言うならば、水切りも違うのだがあくまでも想像するだけならこれで良い。

普通に撃つと柔らかい土壌、飛行場の周りに落下すると信管が作動しない可能性があると言うことだ。

だから落下角を深く取るのだ。

 

 

基本的に、砲撃時以外はニニゴ諸島辺りまでは16ノットだが、それ以降は20ノットを基本として状況により増速、高速を維持しながら迅速性を重視し敵艦隊の追撃や迎撃は可能な限り無視、速力で振り切る。

タンカーを15隻も用意したのにはそれが理由だ。

 

海軍でも保有隻数が15隻と数少ない高速艦隊に随伴可能と言うコンセプトで建造された高速給油艦も全て引っ張って来た。

万が一の場合、敵制空権下でも生存性が高い事と言う理由もある。

ただ、高速力を優先した為に経済性が宜しくないのと、建造に戦時急増型のタンカーに比べて造船に必要な金額が20倍と言うこともあって、3年に1隻のペースでしか建造されない。

輸送船型もあるが、こちらも保有隻数が20隻と少ない。

 

最高速力は高速艦隊に随伴可能と言う事もあって30ノットを発揮出来る。

ただし先に言った通り経済性に難があり、普段は一桁ノットに制限されている。

だから本土近海で輸送任務に就いている。

外洋などだと低速力が要因で被害を被る可能性が高く、本土近海以外では任務に就く事が出来ないのだ。

 

今回の作戦はパラオからダーウィンに寄港するまで軽く5000km、2700海里を超える航海と戦闘となる。

大和やネルソンでも速力を出す関係上、戦闘行動を取らねばならないとなれば燃料不足になる。

天龍や龍田、駆逐艦達は間違いなく燃料不足に陥る。

途中で立ち往生なんて事になったら不味い。

だから普段能力を発揮出来ないのだから、こう言う作戦の時に使わないでおくのは余りにも意味が無い。

だから今回投入をするのである。

 

 

 

 

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作戦は1ヶ月前から始められた。

先ず駆逐艦10隻が先んじてパラオに向かい、同地の航空隊と協力して潜水艦狩りを2週間掛けて行い、可能な限り情報の秘匿に努めた。

2週間で潜水艦19隻の撃沈破を記録し、パラオ周辺の安全は確保されたと言えるだろう。

それに加え艦隊の呉出港時期を2週間遅く暗号文にすることで万が一暗号解読がされても良いようにしてある。

パラオには航空機で直接指令書を届けたから問題無い。

 

1週間遅れて艦隊がパラオに入り、泊地に投錨。

更に1週間後15隻の高速給油艦と、それとは別のタンカーを伴い第1補給艦隊が到着し、燃料や各種物資の補給を受ける。

 

全艦が燃料を満載した状態になると、いよいよ出撃となった。

 

 

 

 

 

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