暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第79話

 

 

 

タ号作戦を無事に終え、被弾したネルソンも修理を終えた。

第一機動艦隊の各艦も入渠を終え、続々と戦列に復帰している。

 

ニューギニアに対しては豪州に進出、展開した連山によって連日爆撃が続けられ航空戦力に始まり陸上戦力の漸減も行われている。

既に存在する敵飛行場は使用不可能状態であることが知らされており、継続して使用不可能とする為に爆撃を続けている。

 

ニューギニア、ソロモン諸島方面に対する作戦実施は物資備蓄などを考慮し半年後に予定されている。

豪州が早い段階で耕作地として復旧出来たことから同地から直接食糧供給の2割を担える状態であるからだ。

流石に地雷や不発弾の除去が終わり切っていない場所を農地として再び使用する事は出来ないからな。

目下の最優先事項はニューギニア、ソロモン諸島方面に対する作戦準備と豪州全土の戦後処理と復興だ。

日本だけでは不足している農地や畜産業の為に、戦争で荒れ果てた広大な土地を再び開墾し、整備して行かなければならない。

 

既に浄水施設の建設や石油、鉱石資源を採掘する為の設備やそれらを輸送するためのパイプライン、鉄道も主要なものは敷設が完了している。

あとは網目状に豪州全土に拡げていけば良い。

 

相変わらず地雷や不発弾の除去に加えて各種建設、敷設などあらゆることに動員され続けている工兵の皆達には常々重い負担を掛けてばかりだ。

 

不発弾処理は想像以上のストレスが掛かる。

これでも週休3日はどうにかして確保しているのだが、これ以上休みを削ると精神に異常をきたしたり、過労死や自殺をする者が冗談抜きで出て来てしまう。

 

建設などは手隙の他兵科の兵達を応援に出しても問題無いのだが、専門知識と専門技能が必要とされる不発弾処理は駆り出せない。

だからこれに関しては時間を掛けて地道にやって行くしかないのだ。

 

豪州の防備も万全とは言い難いが、それでも日本本土やバリクパパンに投錨する艦隊が救援に駆け付ける時間稼ぎぐらいは十分に出来る。

豪州空軍は当初2個航空隊から現在3個航空隊、各隊12機づつの予備機を有し、計36機を含めて138機に増えている。

航空機の格納はソロモン諸島からの敵機からの攻撃に備えて地下となっている。

防御力は、地下5mに厚さ40cmのコンクリート厚だからそこまででは無い。

遅延信管付きの大型徹甲爆弾を食らえば簡単に貫通されてしまうが、通常の陸用爆弾なら十分に防げる。

 

豪州空軍は更に1個航空隊の錬成が開始されており、早ければニューギニア作戦中には戦力化の目処が立っている。

練度は我が母艦航空隊や陸軍航空隊に比べれば劣るが、兎に角ある程度の練度と何より数を揃えなければならない現状では、ある程度の技量があるならばあとは実戦で経験を積むしかない。

訓練だけでは得られぬ経験値と言うのが、実戦には明確にあるからな。

 

 

 

ここまで短期間の内に多数の搭乗員を揃えられた理由には、原田中将による搭乗員訓練課程の合理化及び短縮化などが絶大な効果を発揮していると言える。

今までの搭乗員訓練課程は、良く言えば士官候補生訓練課程のように手厚いものであった。

平時であればそれでも良いが、常に最前線における人的資源の損耗が発生する戦時だと養成に余りにも時間が掛かり過ぎてしまう。

事実、丸2年は掛かるほどの教育を施していた。

これでは搭乗員が大きく損耗した時に補充が利かなくなってしまう。

 

言いたくは無い事ではあるが、戦争と言うのは命すらも資源として考えねばならない。

だから戦時に於いては戦場で生き残り続ける為に本当に必要な教育のみを施し、前線に送り込む必要があるのだ。

それを実現したのが原田中将による功績だ。

 

この功績が無ければ航空戦力不足が理由となって豪州空軍の戦力化には更に1年以上は確実に要する見込みであったし、ニューギニア作戦やソロモン諸島作戦も同様に1年以上は実施が出来ないで居ただろう。

今までは搭乗員の損耗を徹底的に抑え、生還させてどうにかしていたがやはりそれでは足りないのは事実だからな。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

艦隊や母艦航空隊の練度は十分。

陸軍部隊の輸送も大詰め、物資の備蓄も十分。

 

艦隊はスラウェシ島トミニ湾まで進出し、同地で待機させていたタンカーから補給を受ける。

 

「艦隊の準備が整いました」

 

「支作戦の方はどうか?」

 

実施されている支作戦はニューギニア島全域の敵基地や防御陣地に爆弾を落とし続けると言うものである。

単純でありながら、効果は大きい。

 

「現在、豪州に進出した連山と疾風による爆撃を実施しておりますが、継続的に爆撃を続けて来ている為かほぼ沈黙しております。迎撃も散発的であり、迎撃と言うよりは稼働機の空中退避と言った様子です」

 

「被害は?」

 

「敵機との偶発的戦闘により疾風が11機と連山が3機。対空砲により連山7機の計21機となります」

 

「搭乗員達は?」

 

「戦死17名、重傷者18名、軽傷者39名となっております。軽傷者については治療後に戦線復帰済み、重傷者に関しても同様、もしくは前線勤務が出来ないと判断された者は後送されております」

「洋上に不時着した機の搭乗員は捜索救難隊や潜水艦によって救助を行っております。敵地に不時着した機に関しては現地で活動中の各特殊部隊によって救助、潜水艦に送り届け乗艦し帰還しております」

 

損害は小さい方だろう。

撃墜されても搭乗員さえ助かれば、それで良い。

 

何度でも言うが機体など本土の工場で幾らでも作れば良いのだ。

命には変えられない。

 

「遺体は?せめて国に還してやらねばならん」

 

「そちらも可能な限り、収容しております」

 

「そうか。だが、遺体に固執し過ぎるな。死んだ者達も、死んだ自分の為に誰か死ぬ事は望むまい……」

 

口にしながら、締め付けられる気分だ。

戦争だから死人無しとは行かないのは当たり前だし、俺自身も何度も将兵達が死ぬところを見ている。

 

だが、それでも一人でも死んで欲しくないのだ。

 

 

 

 

 

「これよりニューギニア島奪還作戦を開始する。艦隊抜錨」

 

号令により、既に出港準備が整えられていた艦隊が次々とトミニ湾から出ていく。

前路哨戒の為に湾の入り口付近辺りを二式大艇と南方航路護衛隊が対潜警戒を行っている。

陸軍の疾風も夜の空を飛んで、頭の上を守ってくれている。

 

報告は無いから、敵潜や敵機の脅威は無しと見て良い。

仮に何かあれば報告が最速で打たれるか、或いはそれよりも先に爆雷やら機銃弾が飛び交う事になる。

 

「2航戦、トミニ湾を出ます」

 

2航戦に続いて1航戦、装甲艦隊、3航戦がトミニ湾を出る。

更に後方には第1護衛艦隊、第2護衛艦隊、第1補給艦隊が陸軍部隊を載せた船団を守りながら続く。

 

艦隊の間を南方航路護衛隊旗艦夕雲と占守、対馬が抜けていく。

彼女達はこれから輸送船団をモルッカ海を抜け、ハルマヘラ海に入るまで護衛した後に南方、豪州向けの輸送船団護衛任務を引き続き行う事になる。

エアカバーは護衛に就く空母に加え、ハルマヘラ島の陸軍航空隊、二式大艇となる。

 

 

「手隙員上甲板」

 

艦隊を抜ける際、南方航路護衛隊が敬礼をしていくから手隙の乗組員に並ばせ、そして自分も艦橋から出て答礼をする。

 

進路を反転させ、トミニ湾へ戻って行く。

艦隊は輸送船団を後ろに控えさせ、マノクワリ周辺の制海権と制空権を奪取し、強襲上陸を仕掛けた後に飛行場を全力で奪取。

陸軍航空隊を進出させ、艦隊はダーウィンへ。

 

ダーウィンで待機する輸送船団を伴いドラク島へ。

渡河をしなければならない都合上、この陸軍部隊には指揮下に海軍陸戦隊があきつ丸や神州丸共に待機している。

 

同じ様にドラク島の飛行場奪取が済み、滑走路の修理と陸軍航空隊、豪州空軍の一部が進出した後にケアンズの部隊を迎えに行き、ポート・モレスビーへ強襲上陸となる。

 

これらの一連の強襲上陸作戦は1週間を目安に繰り上げなどを視野に入れつつ行う。

同時上陸も考えられたが、こちらの艦隊戦力が限られており敵艦隊出現の可能性も捨て切れない上に、輸送船団の護衛に就けられる戦力が限られる以上は出来ない。

 

他にも洋上機動の為に各地点に上陸する部隊の司令部には200号型輸送艦が4隻、特大発動艇と大発動艇がそれぞれ25隻、計54隻が与えられている。

これらの上陸用舟艇の扱い自体は各司令部に一任されている。

これらを繋いで一時的に仮設橋としても良いし、河川機動や洋上機動、物資の運搬に役立ててもよい。

使い方は多い。

 

 

 

潜水艦隊や航空機による偵察の結果、敵艦隊は迎撃には出て来ていない。

どうやらニューギニアでの艦隊を用いた防衛は捨て、ソロモン諸島での戦いに戦力を集中させるつもりらしい。

確かにソロモン諸島は深海棲艦の手によって要塞の様なものになっている。

艦隊を展開させて連携することが出来れば強力なものになる。

 

とは言えそれでもニューギニア島に展開する敵地上兵力は強大だ。

航空戦力こそソロモン諸島方面に後退したらしく存在しないが、侮る事は出来ない。

特にビスマルク海側からの敵補給線も未だ健在である事も懸念される。

だから敵地上兵力はその能力を十全に発揮出来る状態であるのは間違いない。

 

マノクワリに上陸する兵力は機甲師団含めて7万、ドラク島に対しては4万、ポートモレスビーに対しては10万となる。

合計21万名と、今までの作戦規模と比べれば精々半分以下の戦力だ。

 

投入戦力が少なくなったのには理由がある。

ニューギニア島中央を走る山脈がある事などの理由で大部隊の展開が他と比べてより困難である事や、単純に兵力不足であることから投入出来る兵力が限られているからだ。

 

海軍同様、陸軍も、特に地上兵力が不足している。

どれぐらい不足しているかと言うと、陸戦隊を貸してくれと海軍に泣き付いてくるぐらいだ。

陸軍で特に不足しているのは上陸戦の専門訓練を受けた部隊だ。

 

海軍陸戦隊は、上陸戦の訓練を徹底して行われた上陸戦専門の部隊だ。

通常の地上戦訓練も行われているが、単純な練度だけで言えばやはり各種上陸戦の方が圧倒的に練度が高い。

陸軍は性質上、どうしても地上戦訓練が主になり、さらには南方方面特有のジャングル戦の訓練が主体となる。

上陸戦と同じくジャングル戦も専門の知識や訓練が必要になる。

 

となればやはりどうしても上陸戦訓練は各部隊2回行えればよい、部隊によっては1回やっただけで実戦投入、となる事も往々にしてある訳だ。

規則としては訓練を行っていない部隊の作戦投入は禁止としているが、かと言ってたった1回訓練をしただけで上陸戦に、しかも敵の重要拠点で守りも固い場所に殴り込むなど狂気の沙汰だ。

 

陸軍も重々承知している事だし、今までは陸戦隊がその任務を行なっていたのだが事今回に限っては、実は政治上の理由が絡んでいる。

今までの作戦は俺と言う存在がある以上餅は餅屋と言いながらどうしても海軍主導の作戦になりがちであった。

とは言え陸戦は俺も詳しくは無く、当然陸軍に任せていたし、直接指揮を執るのは精々補給関係ぐらいなもの。

 

そこに噛み付いたのが陸軍派閥の政治家である。

後々に聞いた話ではあるが、陸軍としてはどちらが作戦を主導しようが気にしている奴のが少ないと言う意見であった。

 

確かに俺は陸海軍どちらもの最高指揮官ではあるが、とは言え流石に俺も、海戦ならば指揮を取る事が出来るが陸戦は大まかな指揮以外は無理だ。

出来るのは後方兵站線を維持する事ぐらいなもので戦闘部隊、しかも軍団規模の部隊指揮を行うなど白旗である。

 

だから無理なものは無理、出来る奴に任せたらば良いと海を渡って補給せねばならない以上、補給線の維持以外は陸軍に一任していた。

陸軍だってそれは承知の上で海軍が作戦を主導しても陸戦を任せてもらえていると言うことで全く気にしていなかったのだが、それに噛み付いたのが陸軍派閥の政治家だ。

 

陸軍としても頭を抱えるしか無いらしい。

なんせ今まで問題が無かったのにイチャモンを付けて無理矢理問題にさせられた挙句に無理矢理議題として起こされたのだから溜まったものでは無い。

 

結果、陸軍共々今まで通り海軍主導で問題無いと御前会議などで散々説明したのだが全く折れる気配は無く、それどころかニューギニア作戦そのものに噛み付き発動を遅れさせようとすらして来たのだから悪夢だ。

作戦発動は決められた時期や期間に合わせて様々な調整をしているから、延期などにさせられたら全て水の泡だ。

 

結局、紆余曲折のすったもんだを経てから、

 

「じゃぁ……、まぁ……、今回の作戦は陸軍主導でやりますか……」

 

と陸軍が渋々頷いた訳である。

頷いて作戦主導権を得たのは良いが、これで困ったのは陸軍だ。

なんせ渡洋を含む補給やら敵艦隊の対処やら、陸軍航空隊が進出するまでの制空権維持やら、余りにも専門外もいいところばかりで主導を握らされても操り切れないと言うのが現実だ。

 

海軍だって地上戦を任せると言われても無理だと、首を横に振るしか無いのだから当たり前と言うか、仕方がない事だ。

陸戦隊は確かに海軍の陸上部隊ではあるが、上陸戦が最専門なだけであって純然たる陸戦は陸軍に負ける。

 

ではどうしたかと言うと陸軍と話し合い体面上は陸軍主導ではあるが実際は今まで通り海軍主導でやろう、となった。

 

陸軍としても操れない手綱は要らぬ、と言うしか無い。

陸の戦いは確かにどんと任せて貰ってもよいが、海の戦いなど俺達にどうしろと言うのだ、と愚痴を溢していた。

彼らの上官も俺であるから、労うしかない。

 

厄介なのはその政治家連中は良い仕事をしたと勘違いしてただでさえ、むかつく顔を余計にでかく、むかつかせていることだ。

余計なことしかしていないと言うのに、なんとも腹立たしい。

 

結果、戦力不足であることに加え陸軍が主導していると言う体面を保つ為に陸戦隊を陸軍の指揮下に入れた訳である。

陸戦隊なら海軍組織の一部隊だから、上陸支援や上陸後の艦砲射撃もやり易いし何より陸軍部隊に比べて訓練が足らない上陸戦を担えるのだから特に問題らしい問題は無い。

上陸戦と海岸堡の確保をしたら陸戦隊は撤収し、再び別作戦に備える事になる。

 

陸軍とは意思疎通がしっかりと取れているが、やはり組織が違うとどうしても齟齬が生じてしまう。

 

とある事例ではあるが陸軍から大口径による砲撃支援を要請されて、海軍は戦艦による艦砲射撃を実施したら威力が大き過ぎて危うく陸軍側に死傷者が出るところだったなんて話もある。

 

陸軍が使う火砲は、どれだけ大きくても15cmが精々、海軍の常識で言えば15cmは中口径クラス、しかも下から数えた方が早い大きさだ。

だが陸軍では15cmと言えば最大クラスの大口径になる。

 

陸軍としては軽巡や重巡からの砲撃支援を要請したつもりが認識の差として、海軍は戦艦での砲撃を要請されたと思い確認を取らずに実施してしまったのだ。

これは双方に非があり、その点を留意させなかった俺に最大の責任がある。

死傷者が出なかったのが幸いだが、危うかった。

これを機にこの辺りの擦り合わせが徹底的に行われ、確認を取るようにとマニュアルが作られる事になる。

 

とまぁ、様々な理由があってニューギニア作戦に投入出来る兵力が限られたと言う訳だ。

 

 

 

 

 

3日ほどの航海の後、マノクワリ沖に達する。

直掩機を上げ、攻撃隊を発艦させる。

 

連山による爆撃で飛行場は継続的に叩いているとは言え稼働状態に無い訳ではないだろうし、飛行場周辺の陣地そのものは健在、或いは強化されていると見るべきだろう。

偵察でも敵地上部隊の動きはマノクワリやドラク島、ポートモレスビーを含めて各地で活発状態にあると分析されている。

 

艦砲射撃だけで叩いてもよいが、爆撃と艦砲射撃の二段構えで確実に敵防御陣地は破壊しておきたいのだ。

陸用爆弾の他に、対地攻撃用のタ弾が主な装備となる。

 

急降下爆撃は通常の50番陸用爆弾だが、水平爆撃は800kgのタ弾だ。

タ弾は精密爆撃には向かないが、広範囲に打撃を与えるには優れている。

 

対空陣地などの精密性を要求される目標には急降下爆撃で、滑走路などの大きな目標にはタ弾を、と使い分ければ最大限攻撃効果を高められる。

 

事実一度の攻撃で敵の滑走路は穴だらけ、航空機の離着陸はどれだけ急いでも3日は掛かるし、それも戦闘機を運用出来るようにするので精一杯だろう。

 

爆撃が済んだらば、戦艦と重巡が沿岸部に接近し、次々と砲門を開く。

以前の艦砲射撃と同じ様に三式弾を空中炸裂させ、辺り一帯を薙ぎ払いつつ一式徹甲弾を深い角度で落下させ地面に突き刺すようにさせて炸裂させる。

 

その砲声と炸裂音は幾らか離れた飛龍の艦上でも雷鳴の様な砲声が聞こえて来る。

 

「上陸予定時刻まで……、あと3時間か」

 

「陸戦隊の準備は完了。今は……、合戦飯を食べてるか、受領してる頃かな?」

 

「腹ごなしもあるから、そうだろうな」

 

「私達はまだ先だね」

 

「まだ9時だ、ついさっき朝飯を終えたばかりだろうに」

 

艦砲射撃は丸4時間続けられる予定だ。

上陸は正午に開始される予定であるから、まだ時間がある。

 

戦闘中は飯を食っている時間など無い。

だから否が応でも食っておかないと戦えなくなってしまうのだ。

朝飯からまだ2時間程度しか経っていないが、それでもだ。

 

「敵艦隊、敵機、敵潜に関する報告はあるか?」

 

「ありません。艦砲射撃を除けば、静かで穏やかな海です」

 

「そうか。だが警戒は怠るな」

 

「勿論です」

 

艦橋でぐっ、と椅子に座り直す。

窓から見える風景は、穏やかとは言い難い。

 

艦隊が進むそれさえ無ければ穏やかな南洋の一風景にしか見えないだろう。

 

「いつか、終戦となって平和になったらば、この景色も違ったものに見えるのかもしれんなァ……」

 

「なにー?感傷中?」

 

飛龍に揶揄われるが、軽く笑って返す。

願わくば、そんな未来を自分の目で見てみたいものだ。

 

 

 

「暫くは、出番は無さそうだな」

 

「そうだね、航空隊は出撃後だから直掩隊と対潜警戒を除いて整備中。早ければ、2時間後には攻撃隊編成が出来る程度にはなるかな」

 

「2時間もあれば、上陸開始時には陸戦隊の頭の上を守りつつ対地支援も出来るだろう。十分だ」

 

話している間にも、戦艦と重巡による凄まじい勢いの砲撃が続く。

砲撃地点はさながら火山が噴火しているような、地獄の様相を呈していた。

 

きっかり12時、あきつ丸と神州丸にそれぞれ乗り込んでいた2個陸戦隊5000名を第1波とし、大発動艇、特大発動艇、それにパンター戦車を載せた200号型輸送艦が海岸目掛けて突っ込んでいく。

海岸近くに飛行場があるから、海岸線の奪取を完了したならばすぐさま飛行場を巡る攻防となる。

陸戦隊が海岸に着くと、微弱ながら飛行場付近から敵の火砲と機銃が火を噴く。

兵士が何人か撃たれ、倒れる。

衛生兵や周りに居た兵士が駆け寄り、応急処置を施したり、大発や輸送艦に担架に乗せて運んでいく。

 

機銃はパンターの主砲ですぐに沈黙し、火砲も上空を飛ぶ陣風がロケット弾を撃ち込むと、砲弾や装薬に引火したのか大爆発と共に沈黙していく。

 

それを空中で見ていた流星が敵の火砲やトーチカが破壊された事を陸戦隊に伝え、陸戦隊は戦車を盾に前進して行く。

 

本来なら対戦車障害物を除去する為に戦闘工兵が真っ先に前進するのだが、艦砲射撃で海岸線の障害物は殆ど吹き飛ばされて無力化されていると言うから最初から戦車を前進させることが出来る。

 

機銃や主砲を撃ちながらパンターが前に進み、その影に隠れながら歩兵達が内陸に向かって進んでいく。

やはり敵の防衛部隊は防御陣地ごと艦砲射撃で吹き飛んでいるらしく、飛行場で抵抗らしい抵抗があったのみで、殆どの生き残った部隊は更に内陸部、山中に散り散りに逃げたようだった。

 

その日の内にマノクワリを奪還し、更に3日ほどをマノクワリ近辺の残敵掃討や防御陣地構築、物資揚陸や集積、飛行場修理に充てる事とした。

陸軍側にも特に問題らしい問題は起こらず、陸軍航空隊の進出が完了したと同時にバードヘッド半島の奪還を開始した。

 

 

 

 

 

バードヘッド半島奪還を陸軍が進める中、艦隊はポート・ダーウィンに向かうと同地で1日の半舷上陸を各員に設けつつ、砲弾薬や燃料水、食料等の補給を受けてから輸送船団を伴いドラク島を目指す。

 

途中、スコールに降られたがさしたる問題ではない。

上陸地点付近の波は少し高いが、作戦を延期するほどではなく、マノクワリと同様に敵飛行場を爆撃し、戦艦と重巡による艦砲射撃を実施する。

 

ドラク島は精々小高い丘がある程度の平らな島だ。

遮蔽物も無く、狙う側からすれば苦労らしい苦労は無いに等しい。

強いて言えば奪還した後に、砲撃で穴ボコだらけの島を平らにしたりと言う整備が大変な事ぐらいだ。

 

広い平地だから飛行場を建設するのに適しているし、前線における飛行場としてはかなりの好立地だ。

深海棲艦も勿論飛行場を建設し、豪州や輸送船団に対しての航空攻撃拠点として活用していたが、我々がニューギニア方面に対する圧力や飛行場破壊などを継続的に始めると敵は航空戦力の殆どをニューギニアからソロモン諸島に後退させ、それに伴いドラク島飛行場は放棄、守備隊が残るだけどなった。

 

ドラク島に飛行場を建設する事が出来れば、ニューギニア島全域への満遍ない航空支援を与えられる。

他にもアラフラ海の警戒監視任務、船団護衛任務、ソロモン諸島奪還の航空兵力の中継地点としても活用できる。

 

とは言えやはりビスマルク海の敵補給線の寸断、破壊が出来ていない以上ニューギニア島の戦いは激しくなるだろう。

本来ならこの補給線は真っ先に叩いておかねばならないのは間違いないが、足踏みをする理由がある。

 

実は敵の輸送船団に護衛空母だけで無く、大型の正規空母まで出張って来ている。

しかも1隻2隻と言う数ではない。

空母6隻戦艦4隻はくだらないガッチリとした機動部隊だ。

 

これを叩くとなったらこちらも総力を上げなければならないし、損害も出よう。

ニューギニア、ビスマルク諸島、ソロモン諸島を含む海域では我々の攻勢に備えて敵は空母を4隻一塊りの機動部隊を複数揃え、更には戦艦と重巡を軸とする艦隊も多数確認されている。

 

確実に言えるのは、艦隊戦力だけで比べれば敵は最低でもこちらの倍は戦力を有する事が判明しているし、更には飛行場を多数建設し、ビスマルク諸島とソロモン諸島を航空要塞としている。

 

航空戦力も、母艦航空隊だけで挑めばこちらの5倍は下らないだろう。

陸軍航空隊や豪州空軍を投入出来るだけ投入し、数的不利を覆すだとか、拮抗に持ち込むのは無理でも戦いに勝って次に繋げられる可能性はある。

 

その為に陸海軍の戦略を司る者達と共に知恵を絞り、作戦を立てたのだ。

 

 

 

 

ドラク島奪還も順調に進み、損害らしい損害と言えば対戦車地雷によってパンター戦車を20両ほど失ったぐらいで、乗員は無事だから機材の補充を受けたら戦線復帰となる。

同地の飛行場も整備し終わり、野戦飛行場としては十分立派な滑走路が2本並んでいる。

 

燃料タンクが無いから、ドラム缶頼りの燃料補給だが早いうちに燃料タンクを地下に建設し終える予定だから、燃料が詰まったドラム缶を、擬装しているとは言え野晒しにしなくても良くなる。

大量に積まれているドラム缶と言うのは中々壮観な光景ではあるが、その中に燃料がたっぷり詰まっている事を考えると、あれは本当に心臓に悪い。

何時爆撃を食らって黒煙と大爆発、大火災になってしまうのかと気が気で無いのだ。

 

陸軍の主力戦闘機は疾風だが、疾風は1機当たり500Lの搭載が可能だ。

ドラム缶缶2本半分と言うことになるが、ドラク島には疾風が216機配備されている。

予備機は勘定に含めていないが、予備機はまぁ良いだろう。

 

となると、216機が全機全力出撃するとなれば、108000L。

KL換算にして108KLと言う数字になる。

これはドラム缶540本分に相当する量だ。

ついでに言っておくならばこれだけでは到底足りない。

 

結果ドラク島飛行場には現在、5000本余り、約100万Lもの燃料がドラム缶に詰め込まれて置かれている訳である。

これだけの量が置かれている理由はニューギニア島における航空隊の最前線であるからだ。

 

連日連夜、航空支援の為に飛び続ける陸軍航空隊の燃料消費量は母艦航空隊を有する我々とは規模が比べ物にならない。

母艦航空隊は出撃機会が多くは無いから、訓練ぐらいでしか消費をしない。

これでも空戦らしい空戦が無い分、まだ抑えられている方だがそれでも十分とは言えない。

 

こんな量の燃料に、マッチ1本どころか火の粉を一つでも落としてみろ、三式弾や一式徹甲弾の絨毯艦砲射撃を食らった敵地と同じような地獄絵図になる。

 

だから滑走路を整備し終えたらすぐに燃料タンクを作るのだ。

そうすれば、少なくとも250kgぐらいの爆弾が着弾しても安心していられる。

 

 

 

 

 

ドラク島飛行場の燃料タンク建設に着工した頃、艦隊はケアンズから輸送船団を率いてポートモレスビーに一路向かっていた。

 

陸地の比較的近くを通るといっても、やはり珊瑚海を通るから敵艦隊や敵潜水艦に襲われる可能性は他の上陸地点よりも高い。

 

「霞より入電、『敵潜探知。我是ヨリ江風ト敵潜捜索ヲ開始ス』以上です」

 

「やはり襲ってくるか」

 

「ここで時間を稼げば、その分ビスマルク諸島とソロモン諸島の要塞化を進められるからね」

 

「群狼作戦か、あるいは個別に仕掛けてくるか……」

 

「これだけの船団だからね、数を揃えて来られたらどっちも有効打だよ」

 

「敵潜の対処は取り敢えず、護衛艦隊に任せておこう。俺達は、上陸に備えなければならん」

 

恐らく、ポートモレスビーの上陸は今までと同じように楽には行かないだろう。

何故なら豪州を除けばこの方面に於ける数少ない重要拠点だからだ。

ラエやフィンシュハーフェンを叩いた事で、使える港があるのはポートモレスビーだけだ。

と言うよりも、敵は復旧をポートモレスビーに集中していると言うべきか。

 

ここを失えばニューギニア島陥落は時間の問題となる。

以前の砲撃で叩いた筈だが、やはり重要拠点と言うだけあって復旧もかなり早い段階で成されていた。

飛行場こそ復旧されていないが、防御陣地や要塞などは復旧され実戦に耐え得るものとなっている。

 

航空偵察による分析の結果だが、市街地だけで無くポートモレスビーの周りを囲む山々にも多数の陣地があると予想されている。

そこで、やはりと言うか艦砲射撃で敵陣地を軒並み吹き飛ばすと言う方法を先ず行う。

 

と言うよりも、これぐらいしか方法が無い。

爆撃でも良いがそれだと投射量が少ないから時間が掛かる。

沿岸部に対して手っ取り早く、確実にやるならば艦砲射撃が一番確実と言える。

三式弾の破壊力は、どうやっても爆弾では発揮し得ないからな。

 

 

ポートモレスビーへ、絨毯艦砲射撃を実施した後に海岸堡を得る為に陸戦隊が上陸を開始した。

やはり敵の抵抗は他地点とは比べ物にならないほどに激しいものだったが、航空支援を受けながら陸戦隊は海岸堡を確保し、陸軍と交代。

 

陸軍は被害を出しながらもジリジリと、確実に前進。

17日ほどでポートモレスビー市街地、飛行場、周囲を囲む山地を確保することに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

ニューギニア島奪還は想定通り、島の中央を走る山脈にぶつかり始めると我が軍の進軍速度は極端に落ち込んだ。

やはり山脈と言う地の利を生かし要塞や重防御陣地などを構築して激しく抵抗してくる。

しかもビスマルク海からの補給線が健在であるから武器弾薬も大量に、大量投射による火力こそ正義と言わんばかりの射撃量だ。

とは言え我々も馬鹿ではない。

 

こうなる事は想定の範囲内であるし、作戦初期の中にはこれら要塞や防御陣地の奪取は含まれていない。

 

中央の山脈を包囲するように進軍し、完了すると先ず飛行場を各地に建設し、陸軍航空隊を進出させる。

こうすることで航空支援をたっぷり付けながら、地上部隊は進める。

海軍の役目は補給を企む敵艦隊を寄せ付けない事だがどうやら敵はニューギニア島を捨てたらしい、敵艦隊が近寄ってくることは無かった。

 

 

 

損害を出来る限り抑えつつ、航空支援を受けながら山脈を奪還し終えたのはニューギニア島上陸から2ヶ月と2週間が過ぎた日であった。

 

 

 

 









第一機動艦隊

第一航空戦隊
艦隊総旗艦兼旗艦 飛龍

蒼龍 瑞鶴 加賀 

第一戦隊

戦艦
金剛 霧島 長門 リシュリュー

重巡洋艦
鈴谷 ザラ ポーラ 

第一水雷戦隊 

軽巡洋艦
能代 阿賀野 

駆逐艦
秋月 照月 Z3 陽炎 雪風 
浦風 萩風 初梅 初雪 浦波



ーーーーーーーーーーーーーーー



第二航空戦隊
旗艦葛城
  阿蘇

第二戦隊
戦艦
ビスマルク ティルピッツ ヴァンガード 

重巡洋艦
熊野 アドミラル・ヒッパー プリンツ・オイゲン 

第二水雷戦隊
軽巡洋艦
矢矧

駆逐艦
若月 村雨 時雨 
綾波 朧  夏雲
暁  雷  電  響
 

ーーーーーーーーーーーーーーー


第三航空戦隊
旗艦隼鷹
  飛鷹 グラーフ・ツェッペリン アークロイヤル

第三戦隊
戦艦
リットリオ ローマ 比叡 榛名

重巡洋艦
青葉 古鷹 足柄 

第三水雷戦隊
軽巡洋艦
多摩 由良

駆逐艦
宵月 初雪 浦波 
望月 村雨 霜月 


ーーーーーーーーーーーーーー


第一護衛艦隊

第四航空戦隊
旗艦 鳳翔
   大鷹
   神鷹  

第四戦隊
戦艦
日向 山城 クイーン・エリザベス 
ウォースパイト

重巡洋艦
那智 羽黒 愛宕 摩耶 

第四水雷戦隊
軽巡洋艦
名取 天龍 龍田  

駆逐艦
花月 涼月 グレカーレ 
リベッチオ ジャーヴィス 
マエストラーレ 東雲 白雲 
浦波 狭霧 子日 有明 海風 
江風 峯雲 霞 


ーーーーーーーーーーーーーー


第二護衛艦隊

第五航空艦隊
軽空母
旗艦 龍驤 
   海鷹

第五戦隊
戦艦
ラミリーズ ネルソン 
デューク・オブ・ヨーク

重巡洋艦
キャンベラ ゴトランド 
デ・ロイヤル

第五水雷戦隊
軽巡洋艦
神通 鬼怒

駆逐艦
沖波 清霜 白雲 有明 
長月 荒潮 親潮 黒潮 
竹  桃  椿  楓  
樺  楠  大波 涼波 
柿  梨



第一補給艦隊

軽空母
旗艦 千代田

重巡
加古

軽巡洋艦
名取 鬼怒 大井

駆逐艦
白雲 有明 長月 荒潮、親潮、黒潮
磯風 時津風 山風 初春 若葉

給油艦
神威 速吸 鷹野
龍舞 塩瀬 高崎

給料艦
間宮



装甲艦隊

空母
旗艦 大鳳
   信濃

戦艦
大和 武蔵

重巡洋艦
筑摩 最上

軽巡
酒匂

駆逐艦
春月 初月 満月 長波 Z1 Z3 菊月 霜月 藤波 雄竹


ーーーーーーーー

南方航路護衛隊

第1護衛隊
駆逐艦
艦隊総旗艦兼旗艦 夕雲
海防艦
占守
対馬

第2護衛隊
駆逐艦
旗艦 江風
海防艦
三宅
佐渡

第3護衛隊
駆逐艦
旗艦 初雪
海防艦
国後
石垣
松輪


ーーーーーーーーーー


母艦航空兵力

飛龍
陣風41機 流星32機 彩雲9機 計82機

蒼龍
陣風41機 流星32機 彩雲9機 計82機

瑞鶴
陣風41機 流星52機 彩雲9機 計95機

隼鷹 
陣風41機 流星32機 彩雲9機 計78機

飛鷹
陣風41機 流星32機 彩雲9機 計78機

天城
陣風37機 流星36機 彩雲9機 計82機

阿蘇
陣風37機 流星36機 彩雲9機 計82機

グラーフ・ツェッペリン
陣風37機 流星20機 彩雲6機 計63機

アークロイヤル
陣風37機 流星24機 彩雲6機 計67機

加賀
陣風70機 流星48機 彩雲6機 計124機

鳳翔
陣風24機 流星12機 彩雲4機 計40機

大鷹
陣風24機 流星12機 彩雲4機 計40機

神鷹
陣風24機 流星12機 彩雲4機 計40機

海鷹
陣風24機 流星12機 彩雲4機 計40機

龍驤
陣風24機 流星12機 彩雲4機 計40機

千代田
陣風24機 流星12機 彩雲4機 計40機

大鳳
陣風57機 流星12機 彩雲9機 計78機

信濃
陣風106機 流星12機 彩雲6機 計124機


陣風730機
流星352機
彩雲120機
 
計1202機



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