ニューギニア島の奪還を終えると、すぐさまビスマルク諸島へ上陸が行われた。
ニューギニア島は残敵掃討が残るだけで防衛に4個師団を配置し残りの部隊は全てビスマルク諸島へ転出となった。
ビスマルク諸島自体はニューギニアに比べれば大したことは無く、1か月ほどでビスマルク諸島の奪還を終えるとすぐさま同地に飛行場を建設し、陸軍航空隊を進出させた。
この頃になると陸軍航空隊の方にも徐々に陣風が配備され始め、機種転換訓練を終えた部隊が前線に投入され始めている。
陣風は防御力も高く信頼性も良い。
航続距離こそ烈風より少し長い程度であるが、何よりも20mm機銃6艇と武装は強力だし、弾数も各門200発の合計1200発と継戦能力も申し分無い。
陸海軍で纏まった数を投入することが出来れば戦局をより有利に働かせることが出来る。
しかしそう簡単に行かないのがソロモン諸島での攻防戦だった。
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「大分損害が大きくなっているな……」
「はい。ソロモン諸島全域が航空要塞に変貌しております。各地の飛行場が電探による誘導や哨戒基地と上手く連携し迎撃も苛烈、敵機の搭乗員の腕もかなり良いです」
ソロモン諸島奪還作戦が開始されてから4か月、深海棲艦から奪還が出来たのは僅かにショートランド諸島と辛うじてチョイスル島の二つのみ。
ブーゲンビル島を航空兵力の最前線としてチョイスル島2個師団、ショートランド諸島1個師団の守備隊を置くに留まっている。
今はべラ・ラベラ島以東のニュージョージア島までの奪還を目指して作戦を展開している訳だが、御覧の通り大規模な航空戦が続いているばかりで上陸など夢のまた夢だろう。
やはりソロモン諸島をこの方面での決戦地と敵は定めているらしく、集められている敵兵力は軒並み高練度でしかも数が多い。
距離もあるから、一気に敵地を飛ばして攻撃を仕掛けることも出来ないから、これに関しては地道に島を一つづつ奪還していくしかない。
「幸い搭乗員は救助して無事な者が殆どです。しかし機体の損耗が激し過ぎて補給が限界です」
「特に酷いのは連山だよねー……。あの機体、頑丈だから撃墜されるとか搭乗員が死ぬってことは中々無いけどその分滅茶苦茶に撃たれるから機体がボロボロになって使える部品取ったら廃棄するしかないってのが出撃事に20機は出るからね……」
「連山は陣風10機分の資材を使うからな……。まぁ、取り合えず搭乗員が無事なら何でもいい」
機体は幾らでも作れるが、どれだけ訓練期間を短縮したとは言え搭乗員はそうもいかないのが現実だ。
しかも爆撃機の搭乗員ともなれば、より専門的な訓練も積まなければならない。
目標としている島や当該海域などには第1潜水艦隊、二式大艇が数十機、敵地に脱出、降下した搭乗員は陸海軍双方の特殊部隊が派遣され救助を行い潜水艦に乗って帰投と言う手段を取っている。
敵地に降下した場合に備えてStg44を装備させている。
歩兵と違って、30発弾倉では無く携帯性を優先し弾倉は15発入りとなっている。
それを4本乃至5本程度携行して搭乗するのだ。
携行段数が少ない理由は特殊部隊が到着するまで取り合えず凌げれば良いからだ。
連山や陣風は可能な限り生産性の向上のための設計と生産ラインの構築が為されているが、機体そのものの補給が追い付いていない。
生還率は高いが、機体が無いから再出撃が出来ないのが現状だ。
それこそ部隊によっては迎撃戦を行う為に部隊予備保管兵器として倉庫に仕舞われてあった疾風を引っ張り出したりなんて言う状況なのだから、どれだけ機体の補給が追い付いていないか分かるだろう。
今のところ、連山の補充に関しては搭乗員が本土まで戻って来て機体を受領し、前線まで飛ばしていくと言うのが実際だ。
連山に限らず陣風や二式大艇などの航空機と言うのは大きいから船便で輸送するとなると再組立てとエンジンの調整が兎に角面倒だ。
連日連夜航空戦が繰り広げられて爆弾を落とされる飛行場の格納庫でそんな作業を悠長にやっていたら空で撃墜されるよりも先に格納庫で爆弾の餌食になる。
飛行機と言うのは空の上なら機銃弾が飛び交うだけだから、生き残れるが地上じゃあ何にも出来ない、無力なのだ。
だから搭乗員が直接受領し、飛ばしてきた方が安全であるし効率がいいのだ。
それに日本本土からビスマルク諸島まで、各地を経由しても合計24時間、更にスラウェシ島で合計6時間の訓練飛行時間を設けているから、新しい機体に慣れるぐらいは出来る。
機体には当然だが個癖がある。
個癖は小銃や戦車、対空砲と言ったあらゆる兵器に共通することだが30時間の飛行時間があれば個癖を掴むぐらいは出来る時間だ。
廃棄となった機体は前線に物資を輸送して船倉が空になった輸送船で本土へ運ばれ、再び鋳潰されたりして再資源化される。
こうした事は出来うる限りやって、資源の消費を可能な限り抑えなくてはならない。
ベラ・ラベラ島に取り合えず陸戦隊を上陸させて、前哨基地を作れればあとは島伝いに飛び石の様に輸送艦などの上陸用舟艇を使って兵力を送り込めばいい。
艦隊を出して一気に作戦を進めたい気持ちもあるがなんせ敵艦隊が強力だから下手に出してしまうと暫く作戦行動が取れないレベルの損害を食らう可能性が大きい。
敵基地航空隊も強力だし、艦隊は二正面戦闘にどうしても持ち込まれてしまうわけだ。
最低限敵飛行場を少しでも叩いておかないと、ただでさえ優勢な敵艦隊とは戦えない。
「それと、敵の戦闘機に新型が確認されました」
「……予想はしていた事だ。予想される性能は?」
「最高速度は時速700kmに迫る、或いはそれを超えているかと。上昇力も優れております。防弾性能は深海棲艦機らしく強力、武装は12.7mmが4~6門。航続距離の方は不明ですが、増槽を付ければ2000kmは飛びそうだと実際に会敵した搭乗員は言っております」
「陣風と良い勝負だな……」
「しっかしここに来て敵も新型機を投入して来たかぁ……」
「機体性能での有利は、あっさりと埋められたわけだな」
「ですが配備が間に合っていないのか、まだF6Fがその殆どを占めているようです」
参謀達が収集したデータを報告してくる。
敵新型戦闘機は性能的にはやはり陣風と同程度、と言ったところだろう。
問題は新型機を投入して、F6Fに対する機体性能差によるアドバンテージを失ったと言う事だ。
いや、敵の配備数が極々限られている今であればまだこちらが優勢と見るべきだろうが、その差など深海棲艦の物量であればあっさりと埋められてしまう。
「新型機が確認されてから、今までに確認された機数はどれぐらいだ?」
「搭乗員から新型機の報告があったのが1週間前、この時は凡そ10機が確認されました。最新の情報は本日の午前中に敵に対して行われた攻撃です。本日は凡そ40機程度だと」
「大分、急いで配備を進めているらしいな……」
「はい、もう1週間もすれば100機は出てきてもおかしくは無い、と試算されております」
航空参謀の報告を聞いて、腕を組んで考える。
敵新型機が100機も出てくれば、今より戦いは辛いものになるだろう。
こっちは現状補充機体を用意することも満足に出来ていない。
本土じゃ、機体待ちの搭乗員がわんさかと居る。
ブーゲンビル島の飛行場は、その殆どが野戦飛行場でも100機は置いておけるものだ。
奪還作戦開始をした時は陸軍の陣風だけで700機以上、連山だって400機はあった。
それが今じゃ陣風400機、連山も250機にまで減っていると言うのだからどれだけ損耗が激しいか分かるだろう。
搭乗員はしっかり救助して生き残っているから良いが戦闘機搭乗員だけでも250人以上、連山でも1400人は機体が無いと言う事で本土で待機させられている状況なのだ。
これ以上損耗が広がれば、作戦の一時中断をせねばならなくなる。
敵に再び備えさせるどころか、反攻の機会を与えてしまうことになるわけだ。
そうなればズルズルと戦線は後退していくのは目に見えている。
……これが最後の機会か。
「参謀長、輸送船団を含めて艦隊はどれぐらいで出撃可能か?」
「は、はっ、3日頂ければ出撃可能です」
「よし、艦隊出撃準備、出撃日は3日後夕刻。陸軍師団は輸送船団に分乗、陸戦隊は上陸戦準備。陸軍航空隊の各隊司令を呼んでくれ」
「「「「「はっ!」」」」」
命令を言うと、いよいよだと全員が表情を引き締めて駆けていく。
それほどこの4か月は耐えに耐えた期間であったと言えるだろう。
ケアンズ、ブリスベン、ポートモレスビーの3港では慌ただしく作戦準備が進められていた。
燃料補給や各種物資の積み込みを大急ぎで艦隊は行い、輸送船団は陸軍師団、陸戦隊をそれぞれ乗せて集結する。
「諸君、急な呼び出しにも関わらず飛んできてくれたこと、感謝する。しかし状況はかなり逼迫しているから、早速だが会議に入りたい」
ソロモン諸島の地図を大机の上に広げ、指揮棒を指す。
「今我々が奪還を進めているべラ・ラベラ島だが、敵の激しい抵抗で思うように進んでいないし、ましてやそれ以外の島々の奪還など夢のまた夢になる」
「つい先日、敵が新型戦闘機を配備し始めたのが確認された。これは近い内に我々の機体性能差によるアドバンテージを失うことを意味し、それ以降の戦いは今以上の泥沼の消耗戦となるのは目に見えているのは各人承知の通りだろう」
「そこで、少しでもアドバンテージがある今の内に、多少強引でも良いから作戦を進めた方が良いと結論に至った」
「では、目標はべラ・ラベラ島ですな?」
「いや、べラ・ラベラ島だけではない。サンタクルーズ諸島までのソロモン諸島全域を一気に奪還する。その勢いを利用して、バヌアツ、ニューカレドニア、ニュージーランドまでの奪還を行いたい」
俺が指揮棒でサンタクルーズ諸島を指しながら言うと、会議室がにわかに騒めき出す。
「閣下、それは余りにも冒険が過ぎるのではないでしょうか?今も航空機の補給が間に合っておりませんし、それだけの一大攻勢を遂行出来るだけの能力が、果たして陸軍にあるのでしょうか……?」
「分かっている。だが、このままここで足踏みをしていても、より劣勢になるだけだ。であれば、纏まった戦力を投入出来る今こそ、最後の機会だと考える」
「……なるほど、承知しました。ですが、ソロモン諸島に対する作戦は我が陸軍も全力を以て参加させて頂きますが、バヌアツやニューカレドニア、ニュージーランドに対しては我が陸軍は航空隊は出せませぬ」
「分かっている。あれだけの長大な距離を片道切符にさせるつもりは毛頭無い。ソロモン諸島にさえ全力を尽くしてくれるのならば文句はない。ソロモン諸島以東に対する攻勢における制空権は海軍が責任を果たす」
「閣下がそこまで言われるのであれば小官は従うのみです。分かり申した、我が陸軍も航空隊は出せませんが、地上部隊は最精鋭を搔き集めて事に挑ませて頂きましょう」
「感謝する」
頭を下げ、作戦の説明に入る。
三日後、出撃準備の整った艦隊と輸送船団はそれぞれ出港、目的地を目指す。
ポートモレスビーから出撃する部隊はベラ・ラベラ島からガトカエ島までの奪還を。
ケアンズから出撃する部隊はサンタイサベル島、ラッセル諸島の奪還を目指す部隊とフロリダ諸島の奪還を行う部隊に分かれる。
ブリスベンの部隊はガダルカナル島、マライタ島、マキラ島の奪還を目指す部隊に分かれる。
それぞれ、ポートモレスビーは2個師団4万。
サンタイザベル島に2個師団4万、ラッセル諸島に1個師団2万。
ガダルカナル島に5万、マライタ島に5万、マキラ島に4万。
そして陸戦隊をウラワ島に2個連隊、ベロナ島2個連隊、レンネル島に3個連隊の派遣が決定している。
これらの護衛には第1、第2護衛艦隊と第1補給艦隊が当たる。
1航戦から3航戦は敵艦隊に備えてソロモン諸島近海で備える。
各護衛艦隊は空母1隻を残し、第1航空艦隊に合流する。
でないと敵艦隊との戦力差が厳し過ぎて話にならないのだ。
かと言って護衛艦隊に戦艦が居るとは言え輸送船団に全く空母を付けずにと言うのも問題だ。
軽空母1隻でも40機の搭載機数はある、主力級の敵空母が纏まって出てこない限り、陸軍や豪空軍の戦闘機も護衛に就くからやられはしない。
対潜用に各艦の水偵や二式大艇もフル活用するし、その辺は急に決まったものとは言えど最大限の戦力を割く。
「潜水艦隊からの報告です」
「読み上げてくれ」
「はっ、読み上げます。『我伊401、敵大艦隊ニューカレドニア出港ヲ確認ス。空母戦艦合ワセ30隻以上、随伴艦100隻余リ、第1航空艦隊ニ向カフ』以上です」
「22対30かぁ、随分と戦力差があるね」
飛龍が声を漏らして言う。
「……いや、それだけで済むはずがない。何処かにもっと居る筈だ」
「どこにいるのでしょう?」
「近辺で艦隊が停泊出来る場所は限られている。エファテ島のメレ湾、ウンディネ湾辺りにもう1個艦隊ぐらいはいる筈だ」
「確かにヌーメアとエファテ島ならば距離も十分に近いですし、有り得ますな。索敵を命じますか?」
「あぁ、頼む」
敵艦隊の追跡任務を行っている第1潜水艦隊にそれを命じようとしたところに、再び報告が入る。
それは我々が予想していた通りエファテ島からも空母8隻、戦艦10隻の艦隊が出撃したと言う報告が入った。
これで、主力艦だけでも22対40となったわけだ。
「倍の戦力差ですか……」
「艦載機数は3倍、しかも高練度が予想される。今までの様に迎撃に徹していれば勝てる相手じゃなさそうだね」
「あぁ。航空参謀、攻撃隊の編制を急げ。今回の戦い、先制攻撃をやった方の勝ちだ」
「攻撃隊はどのように振り分けますか?」
「先に発見した敵艦隊をまず叩く。戦闘機も各艦8機づつを残して全て攻撃隊の護衛に就けてやれ。装甲艦隊の戦闘機隊でどうにか凌ぐ」
「了解しました」
この戦いはどちらがどれだけ早く敵艦隊を発見し攻撃隊を出し、先制を取れるかが鍵になる。
少なくとも現段階では、我々が敵艦隊を発見したと言う先手を取っているからそのまま敵を叩かないと戦力差に物を言わせて潰される。
であるならば、確実に敵空母を今この段階で叩かないとならない。
そのためならばこちらの直掩機を大きく削ったとしても攻撃隊に陣風を多く就け、何としてでも攻撃を成功させなければならない。
飛龍
陣風33機 流星32機 計65機
蒼龍
陣風33機 流星32機 計65機
瑞鶴
陣風33機 流星52機 計85機
隼鷹
陣風33機 流星32機 計65機
飛鷹
陣風33機 流星32機 計65機
天城
陣風29機 流星36機 計65機
阿蘇
陣風29機 流星36機 計65機
グラーフ・ツェッペリン
陣風29機 流星20機 計49機
アークロイヤル
陣風29機 流星24機 計53機
加賀
陣風62機 流星48機 計110機
鳳翔
陣風16機 流星12機 計28機
神鷹
陣風16機 流星12機 計28機
龍驤
陣風16機 流星12機 計28機
大鳳
陣風12機 流星12機 計61機
信濃
陣風12機 流星12機 計110機
陣風391機 流星404機 計795機
一度の攻撃に全力を掛ける総攻撃だ。
艦隊直掩は大鳳と信濃の戦闘機隊を主力に各空母から8機づつを残し、計243機を残す。
予想される敵攻撃隊の機数を考えれば直掩隊は相当少ないが、敵空母を叩くことが最優先だ。
装甲艦隊を前に出し、今まで通り耐えてもらうしかない。
「敵艦隊との距離が予定に達しました」
「攻撃隊発艦始め」
1時間半ほど25ノットで敵艦隊に向かうと、攻撃隊の射程に入る。
すぐさま発艦を命じ、カタパルトで次々と射出されて行く。
「装甲艦隊を前に。艦隊輪形陣」
空襲に備えて装甲艦隊に1航艦から戦艦、巡洋艦、駆逐艦を多数出し、守りを固めさせて全面に出す。
敵の空母の数はこちらの倍だ、空襲も当然激烈なものになるのは簡単に想像出来る。
デカい獲物を目の前に、しかもあれだけの戦艦に守られた目立つ色の装甲甲板を備えた巨大な空母2隻だ、敵もどうやったって無視は出来まい。
他の空母も飛行甲板に装甲が施されているとはいえ、あの2隻ほどの装甲は無い。
改装を施されたお陰で、2000mぐらいの高度からであれば800kg爆弾の水平爆撃にも耐えられる装甲を施されている大鳳と信濃だ。
水雷防御やダメージコントロールも強化されているから、片舷に5~6本食らわない限りはどうにでもなる。
新しい素材が開発されていなければ、こんなことはとても出来ない。
しかしそれでも、軽く1000機を超えるであろう敵攻撃隊を一身に受けては、その防御力もどれほど通用するか分からない。
「後の事は、頼んだぞ」
『勿論だよ。提督こそ気を付けてね』
「あぁ。飛龍達の働きに掛かっているからな」
『うん、大丈夫。それじゃぁ、本当に気を付けてね』
「武運を祈る」
『提督も、御武運を』
確実に装甲艦隊を目標とさせるため、大和に将旗を掲げそして俺自身も乗り込んでいる。
本当ならば艦隊旗艦の大鳳に、と思ったが流石に空母であるのに加えて俺が乗るなど二重に狙われやすくなる、何かあった場合大事では済まなくなるからせめて防御力の高い大和か武蔵に乗ってくれと皆に言われた結果だ。
通信でも、平文で俺が大和に乗っている事は流した。
これで幾分か、大鳳と信濃を狙う敵機は減る筈だが、それは勿論大和が余計に狙われると言う事を意味している。
辛い役目を背負わせてしまうが、納得してもらう他あるまい。
「大和、損な役割を持って来てすまんな」
「いえ、大和は提督にとても感謝していますし、それに嬉しいです」
「嬉しい?」
「はい。あの戦争の時は、私は勿論武蔵も殆ど活躍らしい活躍の場を与えられずに、あんな最後でしたから。だからこうして大きな活躍の場を何度も頂けるのは嬉しい事です」
「そうか……」
大和の言葉に、頷いて空を睨む。
敵艦隊から攻撃隊の発艦が第1潜水艦隊より報告されている。
距離を考えれば、30分ほどで我が攻撃隊が敵艦隊に到達、2時間ほどで敵攻撃隊が来襲するだろう。
「提督、合戦飯をお持ちしました」
「ん、ありがとう。乗組員の皆には配ったな?」
「はっ、既に腹拵えを済ませているか、丁度している頃でしょう」
「そうか、ご苦労。有難く頂かせてもらうよ」
「はっ」
給料長が見慣れた合戦飯、塩の効いた握り飯に期限の近い牛缶を使った牛肉の煮付け、そして和布の入った味付けの濃い目の味噌汁が盆に乗せて運んでくる。
艦橋に詰めているのは俺の他に、俺の従卒が二人、それに大和の要職の面々だけであり、艦隊司令部は飛龍にそのまま載せているから人員は少ない。
全員に合戦飯が配られ、手を合わせてから食べる。
戦闘行動を考え、しっかりと塩分補給を出来るように濃い味付けがされた合戦飯は、質素ながらやはり上手い。
握り拳ほどの大きさの握り飯をガッと頬張り、手掴みで牛肉のしぐれ煮を口へ放り込む。
沢庵との組み合わせも良いが、牛肉のしぐれ煮と食うのも美味い。
和布の味噌汁も味が濃いが、これからの事を考えれば寧ろ足りないぐらいと思える。
「ふぅ……、御馳走様でした。給料長、ありがとう。美味かった」
「はっ。有り難うございます。それでは盆をお下げします」
盆に乗せられていた濡れた手拭いで手を綺麗にしてから下げてもらう。
するとそのタイミングで攻撃隊から敵機の迎撃を受けた旨の報告が入った。
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攻撃隊が迎撃を受け始めたのは、敵艦隊から150km程の地点であった。
攻撃隊全体を束ねる石田大佐は予め敵機から激烈な迎撃を受けると聞かされていたこともあり、高度有利を取る為に通常ならば4000mほどで進軍するところを、今回は8000mで進んでいた。
進軍高度が高過ぎると、その分雷撃の難易度が高くなるがそこは練度で補えると踏んでいた。
各戦闘機隊を8500mと7500mに配置し、高高度或いは低高度から敵機が襲ってきても良いように備え、機上電探に目を光らせていた。
『敵機右下方!機数600!』
「戦闘機隊は高度有利を生かして本隊に敵戦闘機を近付けさせるな!』
襲い掛かって来た敵機は1航艦の戦闘機機数と同等である。
本来ならば、攻撃隊本隊も甚大な被害を出す機数であるが、高度有利が1500mほどあった為に陣風各機は一撃離脱に徹することが出来た。
幸いにも敵の新型戦闘機の機数は全体の1割程度、恐らく空母1隻か2隻分程度であった事も有利に働いた。
『いいか、攻撃に失敗しても深追いするな!絡め獲られて墜とされるぞ!』
『本隊にさえ近付けさせなけりゃ良い!撃墜に目を眩ませるなよ!』
高度有利さえとっていれば、常に頭を押さえながら突っ込んで一撃を食らわせ、さっさと離脱してしまえばいい。
それでもやはり絡め獲られて撃墜される機や、深追いしてしまい撃墜される機もいる。
敵艦隊が攻撃隊から視認出来るようになった頃、陣風は300機ほどに数を減らしていた。
それでも多くが脱出し、1000m程の高度帯に真っ白な落下傘が幾つも開いき、海面には機内に内蔵されたボートで浮かんでいる者、それに寄って行って一緒に乗っている者もいる。
既に高度を下げていた本隊は、雷撃隊が100m、急降下爆撃隊が4000mの高度でそれぞれ進軍している。
対空砲火で撃墜される機を出しながらも攻撃が開始された。
空母の数は大小合わせて20隻、十分な攻撃兵力があるとは言い難いが集中攻撃をするよりも確実に敵空母の飛行甲板を潰して二の矢を放てなくさせる事を総隊長は選んだ。
まず最初に急降下爆撃隊が敵の対空砲火を黙らせるために8機づつ、戦艦や巡洋艦に突っ込んでいく。
8機となると、大分少ないように感じるが全機が激戦を潜り抜け訓練を積みに積んだ搭乗員達だ、8機もあれば確実に3発は命中弾を得られる。
その期待通り急降下爆撃隊はしっかりと戦艦、巡洋艦に最低3発の50番を叩き込んで対空砲火を黙らせる。
空母の飛行甲板も同様に50番を食らって炎上し、黒煙を上げている。
雷爆連携攻撃を徹底的に磨いた雷撃隊がその隙を見逃す筈が無かった。
対空砲火が数瞬沈黙したのを突いて、一気にヲ級や姫級、鬼級に肉薄し魚雷を次々に投下していった。
敵艦も30ノットを超える速度で回頭しているが、少しすると技量抜群の彼らはしっかりと敵空母の横っ腹に魚雷を突き立てた。
魚雷の命中の瞬間、80mは超えているだろうと言うほどの大きな水柱が次々とあちこちの敵空母から空に向かって伸びていく。
「命中命中ッ!でっかい水柱が立ってますよ!!」
「何本だっ!?」
「4本です!敵空母の防御力を考えれば撃沈出来るかは、ちと分かりませんが4本も命中させれば戦闘は出来ません!」
「よくやった!」
総隊長が歓声を上げ、離脱していく。
魚雷を食らった敵空母のうち、ヲ級やヌ級は傾いて行き足が止まっていく。
しかし姫級や鬼級は4本食らっても、まだ航行している。
流石にあれだけ飛行甲板に50番を食らっていては空母としての機能は無いだろうが、生き残らせると厄介なのは確実だから後々確実に仕留めなければならないのは間違いなかった。
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攻撃隊から攻撃成功、敵空母の飛行甲板は全て破壊、二の矢は放てないと言う報告が来る。
艦橋ではそれを皆で喜び、そしてより一層気を引き締める。
次に攻撃を受けるのは間違いなく俺達だからだ。
暫くすると、170km程の距離で敵機編隊を捉えた。
その数はどう見積もっても1000機を超えていた。
「直掩隊も、この数を抑えることは出来んな」
「私の操艦技術の見せどころですね」
「頼むぞ」
すぐさま対空戦闘用意が下令され、艦内に喇叭が吹かれる。
各員がそれぞれの持ち場となる機銃や対空砲に飛び付いて動作の確認をする。
敵機の侵入方向に主砲や10cm連装高角砲が向けられ、射撃の時を待つ。
「直掩隊が戦闘を開始しました!」
1000対243だ、どれだけ彼らの腕が優れているとはいえ生き残る事で精一杯の戦場となるだろう。
無茶はしてもよいが無理はしてくれるな、と心の中で思う。
艦隊の対空砲火の射程内に入ると、直掩隊は離脱していく。
報告によれば700機程の敵機が迎撃を無傷で抜けて行ったらしい。
長い長い戦いになりそうだ。
戦艦は予め敵機編隊の高度と進路に合わせてある。
300、250、200、150、100で主砲照準を合わせている。
50口径46cm砲の威力と射程は伊達では無い。
戦艦の主砲は全て50口径に砲身長を伸ばし、射程と威力を増大させている。
でないと深海棲艦の、姫級や鬼級レベルの装甲を持つ敵艦相手では大和や武蔵を始め40cm以上の主砲を持つ艦以外は装甲貫通がかなり厳しい。
手っ取り早く攻撃力を増す方法は、主砲口径を41cm砲に換装することだが、艦体の大きさの関係や砲塔リンクの直径を大きくしなければならないと言うのもあって現実的では無い。
やれなくは無いが、防御力を捨てる事になる。
だから残された手段として主砲の砲身長を伸ばすと言う方法を取ったわけである。
「主砲、撃ち方始め!」
号令を出すと、大和を始めとした戦艦が一斉に主砲の砲門を開く。
15秒程度で高度3000m、距離3万mの空に三式弾が次々と炸裂していく。
編隊の手前に上手い事三式弾は突っ込んで炸裂してくれたらしい、敵機が落ちていく。
「数十機は撃墜破しましたが、さしたる影響では無さそうですな……」
「空襲をしてくる敵機が1機でも減るのならそれでいい。全く無傷の敵編隊に集中攻撃されるよりかは随分楽だ」
主砲が火を噴く度に1tを超える三式弾が飛んでいく。
敵編隊のど真ん中で次々に炸裂する重巡以上の砲弾は、周囲を3000度の地獄に変えながら燃焼し、更に弾子を撒き散らして被害を与えていく。
「高角砲、撃ち方始め!」
大和が号令を出すと、10cm連装高角砲が凄まじい勢いで砲弾を撃つ。
1分間に15発の射撃速度は伊達ではない。
一瞬で空一面が真っ黒に染まっていく。
「信管調定が甘い!しっかり計算しなさい!」
「連中、最大速度で突っ込んで来ていますな。こっちの想定より早いので炸裂が遅いのでしょう」
『敵機大鳳、信濃に集中!』
『信濃取舵、回避始めたァ!』
『大鳳被弾!』
見張り員から続々と報告が入ってくる。
やはり狙われたのは大鳳と信濃だ。
どうやら魚雷の回避に専念しているらしく、装甲甲板に爆弾を次々に喰らっている。
だが持ち前の装甲で弾き返しているらしい、爆弾の炸裂が収まると平気なように30ノットの速力で右へ左へ魚雷を回避していく。
周りには外れた爆弾が上げた水柱が乱立しているが、致命打になるものはない。
『敵機我に向かう!方位156、距離7000!!』
「対空機関砲射撃開始!」
40mm機関砲が火を噴く。
艦隊中からの射撃だ、空母を主に守っているとは言えその火力は絶大だ。
射程に入るとすぐに3.7cm機銃、25mm機銃、20mm機銃が次々に射撃を開始し、真っ赤な火箭が敵機に向かって伸びていく。
7000mなど時速450kmに迫る速度で突っ込んでくる敵機からすれば一瞬だ。
敵機の投雷コースを逸らすために、大和は既に舵を切っている。
武蔵も同様に狙われているらしいが上手く回避しているようだ。
それでも700機を超える敵機のほんの100機が攻撃を終えたばかりだ、まだまだ先は長い。
『大鳳被雷!左舷中央の模様!』
「何本だっ!?」
『今のところ1本だけです!それ以上の被雷は認められません!』
1本の命中では、余程当たり所が悪くなければ速力低下も起こさないだろう。
事実、双眼鏡で覗いた大鳳は速力を落とした様子も無く続けて回避行動を取っている。
『武蔵被弾、艦後部!』
それを最初に武蔵に対する被弾報告が立て続けに上がってくる。
どうやら最も敵の侵入方向に近い場所の武蔵が戦艦の中では最も狙われているらしい。
とは言え武蔵を案じている暇も無い。
『右舷雷跡4!』
大和が咄嗟に巻き込んで回避するために面舵に舵輪を回す。
「回避しきれない!総員衝撃に備えッ!」
艦内に一斉放送が走った次の瞬間、ズドン!ズドン!と2回大きな衝撃が走る。
『報告!右舷中央後部被雷2!』
「ダメージコントロール!詳細な被害状況知らせ!」
『被雷箇所で火災発生!消火班急げ!』
『敵機左舷7機!距離800、投雷!』
『降爆2000m、突っ込んでくる!』
「急降下爆撃機は機銃で対処!雷撃の回避を優先します!」
一度舵が聞き始めれば速いが、一度直進に戻してしまうと再び舵を効かせるのに時間が掛かる。
立て続けに大和の艦前方、第1砲塔付近に3発の爆弾が命中するが、大した被害はない。
だが魚雷は違う。
左舷から迫る7本の魚雷は、機銃か対空砲の射撃で照準を狂わされたのか先頭の4本は艦首を抜けていく。
だが後の3本は角度が絶妙で敵ながら天晴れと言う他無いほどに、綺麗に艦首から艦中央に万遍無く命中して、艦橋よりも高い水柱が上がる。
『敵機さらに来る!右舷より6機!』
右へ左へ大和は必至に舵を切る。
だが流石に両舷合わせて5本の魚雷を食らって速力が落ちた状態では全てを避けきることは出来ない。
5本程度の魚雷で沈むことはまず無いが、それとは話が別だ。
空襲が終わるまでに大和は魚雷9本、爆弾23発を食らい戦死者133名。
武蔵は魚雷7本、爆弾26発、戦死者203名。
武蔵の戦死者が多いのは、爆弾の命中が機銃群がある場所に集中したからだ。
主砲の射撃自体は可能だが、この状態での砲雷撃戦は危険だ。
少なくとも大和と武蔵が戦闘に参加出来る状態では無いと言うのは確かだろう。
大鳳は魚雷を両舷に1本づつ、爆弾を11発食らったが艦載機の発着艦などには一切支障はない。
信濃は右舷に2本、左舷に1本の合計3本を食らうも速力は26ノットの発揮が出来る。
爆弾自体は30発以上を食らった辺りで数を数えられなくなったらしいが、着艦制動柵や制動網が軒並み吹き飛ばされたのと、一部の機銃が直撃を受けて吹き飛ばされただけで戦闘行動に支障はない。
どうやら集中的に狙われたのはこの4隻で、他の艦は被害らしい被害は爆弾が幾らか命中した程度だ。
「大和と武蔵は駆逐艦6隻を伴ってケアンズまで後退。応急修理を受けた後にバリクパパンで入渠してくれ」
「分かりました」
「大鳳と信濃の損害状況は?」
「はっ、飛行甲板の制動柵などの修理に1時間ほどを要するとのことです。浸水は全て食い止め、両艦共に速力27ノットを発揮出来ます」
「戦闘行動に支障が無いのなら、攻撃隊の帰投までに修理をどうにか終えさせられないか」
「着艦ワイヤーの殆どが切れてしまっていますので、流石に無理があるかと」
「分かった、それならば仕方が無い。大鳳と信濃の攻撃隊は1航艦の各空母に着艦し補給、出撃に備えよ」
指示を出しながら、艦の移乗準備を進める。
敵の主力たる大多数の敵空母は撃沈とは行かないまでも飛行甲板は全て使えないように50番徹甲爆弾を何発かづつ叩き込んであるから心配は要らない。
問題は二つ目の敵空母郡だ。
あっちはまだ全くの無傷で、しかも正規空母が5隻もいる。
間違いなく600機を超える艦載機を擁している強力な艦隊だ。
先に叩いた敵艦隊も勿論二の矢を番えて確実に叩かなければならないが、かと言って全く無傷の敵艦隊があると言うのも大問題だ。
大和から射出された水偵に乗り、着艦作業を行っている飛龍達を眼下に収めながら考える。
飛んでいると、陣風が数機こちらに向かってくる。
機体のナンバーを確認してみるとどうやら飛龍戦闘機隊の隊長である平澤少佐の中隊らしい。
『こちら飛龍戦闘機隊隊長平澤少佐だ。これより護衛を行う』
「感謝します」
装甲艦隊と1航艦の距離は100kmほど離れている。
その間に襲われないように飛龍が直掩隊の中から護衛を出してくれたらしい。
「平澤、ありがとう」
『はっ、命に代えてもお守りさせて頂きます』
「そこまでする必要は無い。いざという時は着水して泳ぐさ」
平澤少佐以下12機の陣風に守られながら、飛龍に乗艦する。
幸いにも攻撃隊の帰投はまだの様で、慌ただしく余計な作業を増やさずに済んだ。
「お帰り、提督。怪我は無い?」
「大丈夫だ。状況は?」
「戦果報告は先にした通り。艦隊の被害は装甲艦隊が敵攻撃隊の殆どを吸収してくれたからゼロだよ」
「そうか。攻撃隊を収容したらすぐに敵の2つ目の艦隊に攻撃を仕掛ける。何が何でも戦闘が出来る空母を1隻も残さないでおきたい」
「二の矢を放たないのですか?」
「そっちは潜水艦隊に狩りをさせる。第1、第2潜水艦隊が既に敵空母を仕留める為に網を張っている筈だ」
「分かりました。敵空母への攻撃は、再度総攻撃で宜しいでしょうか?」
「あぁ、それで構わん」
「そうなると、収容から攻撃隊の発艦までに3時間は必要になりますが、それでも宜しいですか?」
「あぁ、二つ目の艦隊とはまだ距離がある。それぐらいの時間はどうにかなる」
攻撃隊の収容が開始されると、真っ先に陣風の補給と修理が開始された。
装甲艦隊が十分な戦力として機能出来ない以上、無傷の敵艦隊からの攻撃に備えて直掩機は1機でも多い方が良い。
だから流星の修理や補給は取り合えず後回しにして、陣風への補給と修理を何よりも迅速にやって装甲艦隊の頭の上を守らないとならない。
大鳳と信濃の応急修理が終わったと言う報告を受けると、所属の陣風と流星を取り合えず優先して修理と補給を行って送り出す。
魚雷や爆弾を抱えている訳では無いから敵艦隊への攻撃自体は出来ないが、1航艦の格納庫内はある程度すっきりしたから作業がやり易い。
「あと1時間で陣風の補給と修理は完了します。流星の修理と補給はもう1時間頂ければ敵艦隊へ向かわせられます」
「流星の補給と修理をもう10分早められないか?」
「分かりました、整備班に伝えておきます」
「ありがとう。装甲艦隊が生きている内に何としても敵空母だけは叩いておきたい」
「了解しました、急がせます」
指示を出していると潜水艦隊から色々と報告が上がってくる。
敵艦隊に対して網を張っていた第1、第2潜水艦隊が次々と敵空母に攻撃を仕掛けたようで、戦果未確認ではあるがそれでも破壊力の大きい61cm酸素魚雷、しかも弾頭に乗せられているのは通常陸海軍で使われている爆薬よりも生産加工技術が高度で難しいが、より破壊力に優れた新型高性能爆薬となる。
それを弾頭部分に850kgも乗せているのだから、普通ならばそれで一撃大破だ。
幾ら防御力に優れている深海棲艦とは言えども、それを食らっているのだから、攻撃隊が命中させた魚雷も勘定に入れるなら撃沈が期待出来る。
電池式魚雷に比べると、やはり扱いは難しいが潜水艦1隻辺りの配備本数を限る事で問題は解決している。
1隻辺り、4本しか配備されないがそれでも対大型艦相手ならこれで十分な数になる。
しかも音響誘導魚雷だからより命中精度は高くなる。
問題と言えば、高度な音響誘導装置の開発はまだまだ先であるから、目標を選び辛い所だ。
誘導装置には音の大きさ、拾える音の大きさを調整することで目標を選べるようにはなっているのだが、これがまた、まだまだ信頼性が低い。
基本的に排水量の大きさや推進器、スクリューなどの大きさによって発する音は大きくなったり小さくなったりするわけだ。
と言うよりも、大きさ云々よりも音紋が駆逐艦と戦艦や空母の推進器音、機関室から発生する音の大きさは全く違うわけだ。
本来なら高度なコンピューターなどを搭載している魚雷ならこの音紋を入力することで目標艦を選定するわけであるが当然そんなものは無い訳である。
だから推進器や機関室から発される音の大きさで区別して追尾するわけなのだが、聞くだけなら凄い進歩に聞こえるがこれがまた厄介だ。
設定した音の大きさが大きいと、目標が速度を落としたりして目標から発生する音の大きさが小さくなると追尾が出来なくなると言う課題があるのだ。
だからこの酸素魚雷が効果を発揮するのは敵に雷撃を感付かれていない最初の一撃だけでしかないのだ。
潜水艦による対大型艦雷撃なんて最初の一撃以外は殆ど意味は無いのだが。
なんせ周りにいる駆逐艦や巡洋艦の数が桁違いに多いから、一度魚雷を撃ったらすぐに潜航して隠れたり逃げたりしなければ爆雷の雨が降ってくることになる。
「最初に攻撃をした敵艦隊はどうにか撃滅、と言う事でしょうか」
「まぁ、あれだけの攻撃を食らって無事かと言われると否だろうからそれでいいだろう。あとは残りの敵空母を叩いたら、可能ならば再度攻撃を仕掛けて確実に撃滅を図っても良い」
2時間もすると、陣風全機の修理や補給が終わって流星への補給と再武装も次々と開始される。
どうしても修理不可で廃棄された機体もあるが、530機もあれば十分だろう。
撃墜された機の搭乗員も第3潜水艦隊が救助に当たっているし、豪州から二式大艇も出ているから心配は無い。
既に編成は終えているから流星への補給が済めば攻撃隊を出せる。
「流星の再武装には、あとどれぐらい掛かる?」
「4割が補給を終えていますので補給と修理、魚雷や爆弾の装備にやはりもう1時間は必要です」
「計画通りだな。速められるかどうかはどうだった?」
「流石に整備班の手が足りませんでしたので、10分の短縮は無理でしたが5分ぐらいならばどうにか、と回答が返ってきております」
「よし、それでいい。速ければ速いほどいいのだから5分でも十分だ」
遅れて届けられた戦闘配食を全員で頬張りながらの会話だ。
メニューは握り飯、味噌汁、沢庵だ。
やはり塩味が聞いていて上手い。
搭乗員と整備員達に優先して配らせていたから届くのが遅くなったのだ。
搭乗員達にはまだまだ激戦を戦い抜いて貰わねばならない。
大和の方が若干豪華のように思えるが、それにも理由がある。
単純な話、大和は艦の大きさがあるからその分食糧庫も飛龍のモノと比べて余裕があるから、色々と積んでいけるわけだ。
排水量だけでも大和は満載時は軽く8万tを超えるのに対して飛龍は改装を重ねた今でも精々3万t程度。
それだけ大きさに違いがあるのだ、載せられる量にも大きく違いが出て当然だろう。
長い作戦で長期間洋上に居るとどうしても艦上での娯楽は限られてくる。
食事と言うのは乗組員にとって数少ない日に3回しか無い娯楽なのだ。
戦闘配食を食べ終えて、再び指揮を執る。
大鳳と信濃の応急修理が完了し、装甲艦隊の上空を守る陣風が交代で補給を受けている。
大鳳と信濃は流星の搭載数が少なく、それに伴って爆弾と魚雷の搭載数が魚雷10本、爆弾20発と少ない。
重装甲で守られた2隻は前進して敵の攻撃を吸収するだけでなく、より後方から来る友軍機に対しての中継補給基地としての役割も兼ねているから、魚雷と爆弾の搭載数が極端に少ない代わりに、機銃弾と航空燃料を多く搭載している。
だから自分達の頭の上を守る他の空母の戦闘機にも補給が出来ると言う寸法だ。
「提督、装甲艦隊の電探が敵機を捉えました」
「やはり来たか。機数は?」
「400機です」
確か、2つ目の敵艦隊は正規空母6隻に軽空母を2隻を擁していた。
となるとこれで大体700機ぐらいの航空機を抱えていることになるが、400機と言うのは多分艦隊防空を重視して攻撃機の数を多くして戦闘機の数を少なくしての編制である可能性が高い。
敵艦隊には直掩機が250機程度はあると見積もれるが、ちょっとばかり数の帳尻が合わせ辛いな……。
空母の数で劣勢になったのなら、攻撃隊を分けずに全てを注ぎ込んで放つ方が成功率は高い。
有り得るのは、今捉えた敵編隊は囮の可能性だろう。
この攻撃隊の攻撃が成功すればそれはそれで良し、ぐらいの扱いなのかもしれない。
ならば別動隊を警戒しておいた方が良いだろう。
「装甲艦隊の直掩に就いている陣風は何機だ?」
「全て合わせて230機程です」
「よし、直掩隊は全て敵攻撃隊の迎撃に向かわせろ。もう40機ぐらいを装甲艦隊の直掩に出して、我々は残る陣風で敵の別動隊を警戒する」
「了解しました」
1航艦が迎撃に上げられる陣風は今のところ250機ほどだ。
730機の内、500機が生き残っている。
残りの230機ほどは敵機との戦闘と、修理不可として廃棄されている。
装甲艦隊の方に270機もあれば敵攻撃隊を十分に防ぎ切れるだろうし、こちらにも240機いれば十分以上だろう。
「迎撃を突破した敵機が装甲艦隊に攻撃を開始したようです」
「状況は?」
「400機を途中で分離させ、50機ほどが無傷ですり抜けたようです。それによって大鳳に魚雷2本爆弾5発、信濃に魚雷2本爆弾4発が命中しました」
「2艦とも大破判定だな……」
魚雷を4本づつも食らって、寧ろこれだけの被害で済んだのを喜ぶべきだろう。
「装甲艦隊はケアンズで応急修理を行った後にバリクパパンで入渠、修理を受ける様に」
「了解しました」
「別動隊は映ったか?」
「いえ、今のところは」
電探にはどうやら敵機は映っていないらしい。
仮りに別動隊があったとすればここまで時間を空けて来るか?
「考え過ぎか……?」
「それでは、敵艦隊に攻撃隊を放ちますか?」
「……その場合、1航艦の直掩に就いていた陣風を全て攻撃隊に付けるとして、装甲艦隊の直掩隊の補給をどれぐらいで終えられる?」
「そうですね……、収容作業と再出撃可能な機体の選定、補給で取り合えず100機揃えるのに1時間と言うところでしょうか」
「よし、やろう。直掩隊は全て攻撃隊に付けてやれ。流星の出撃準備は?」
「魚雷と爆弾の装備に15分頂ければ」
「頼む」
「はっ」
航空参謀がすぐさま準備を指揮していく。
すると見事に15分で攻撃隊の準備が整い発艦が始まった。
「収容した陣風の補給を急げ。今艦隊の頭の上にはほんの20機しか守っている陣風がいないんだからな」
「承知しております」
装甲艦隊を守る為に戦った陣風を次々に収容していく。
修理を必要としない陣風の補給を最優先に、修理可能な機体を選定、修理に取り掛かる。
そうでない機体は修理不可として使える部品を根こそぎ取ったら投棄だ。
2時間ほどすると、攻撃隊から攻撃開始の報告が入る。
直掩には100機ほどの敵戦闘機が存在したらしいが、陣風の方が多いのを良い事に攻撃隊本隊には殆ど損害らしい損害も無く攻撃を始められたようだ。
1時間掛けて敵艦隊を攻撃し、きっちりと全ての敵空母を撃沈乃至大破となった。
第1潜水艦隊と第2潜水艦隊に命じてこれらにトドメを刺すように命令した。
これで上手くいけば出撃して来たバヌアツ辺りで修理の為に入港する敵艦隊を再捕捉し、魚雷を叩き込める。
酸素魚雷は無いが、あれだけ被害を被っているのなら電池式魚雷でも十分に沈められる。
その後輸送船団に乗せられた陸軍部隊や陸戦隊は各島に強襲上陸を仕掛け、無事にソロモン諸島での戦いに大きな楔を打ち込むことが出来た。
敵の地上部隊は内陸部に撤退しつつ抵抗しているようだが、それも時間の問題だった。
上陸から3週間で掃討戦に移り、防衛の為の部隊を残して他の陸軍部隊はバヌアツ、ニューカレドニア奪還に備える事となる。
敵艦隊は勿論きっちりと仕留めた。
2個潜水艦隊によってバヌアツ近海で捕捉し、徹底的にありったけの魚雷を叩き込んである。
ニューカレドニアに対しても先に叩いた空母や戦艦が撤退し、修理をしていたからそこを1航艦の艦載機と戦艦で叩いたからこの方面における敵戦力は完璧に撃滅したと言える。
ソロモン諸島での戦いから2週間後にバヌアツ、ニューカレドニアに上陸。
1か月ほどを経て完全奪還、シドニーとブリスベンで待機していた15万人がニュージーランドへ上陸。
北島に6万名、南島に9万名が上陸し1か月掛けて奪還を成功させるとそのままの勢いを利用してフィジー、サモアに対する攻勢を開始。
こちらには大した兵力は配備されておらず1週間足らずで奪還成功となった。
フィジー、サモアに対する作戦を以て一連の作戦を終了とした陸海軍は各地の防衛体制の確率、補給線の構築、戦力の再編と補充を暫くの間は行うこととなる。
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