暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第81話

 

 

 

ソロモン諸島の奪還が成功し、フィジー、トンガ、ニュージーランドを結ぶラインでの防衛線を繋ぐ事が出来た。

 

問題は南太平洋にあるミクロネシアなどの小さな島々だ。

小さな島々と言っても、飛行場を設置して爆撃機を繰り出すことが出来る程度の大きさは十分にある島も幾つかある。

爆撃機の機種こそBー24やBー17が主力で、偶にBー29の編隊が飛んでくる程度だ。

恐らくBー29はマリアナ諸島への補給を最優先にしているらしい。

 

しかしPー51やPー47、Pー38と言った陸上高性能戦闘機の護衛に加えて高度9000mを軽く超える高さで来襲してくる。

 

ここで問題になるのは敵機の高度じゃない。

我々の防御縦深が無い事が問題なのだ。

 

防御縦深と言うのは単純な話、本土と硫黄島の関係が最も分かりやすい例だ。

硫黄島には1個師団と対空砲や対空機関砲、対空機銃を多数装備した専門の1個防空旅団、2個防空大隊の駐屯兵力に加え、長距離大型電探基地が設置されている。

 

日本本土防空に際して最も重要な役割を占めているのがこの硫黄島にある電探基地な訳だ。

ここで敵の編隊を捉えてその情報を本土にある防空司令部に送信し、その情報を得た防空司令部が各部隊に迎撃を命じる。

硫黄島から東京までは1200km余りだから、この距離が防御縦深と言う事だ。

これだけの距離があれば震電は十分な高度を取り、待ち構えられるし対空砲も迎え撃つ体制をとる事が出来る。

 

その防御縦深が、ソロモン諸島やニューギニアには存在しない。

だから電探基地を設置しても探知範囲がどれだけ大規模な編隊でも250kmが限界で敵機が時速450kmで飛んできた場合、それだけの距離しかないと準備に掛けられる時間が精々20分前後しかない事になる。

 

これは如何ともし難い問題なのだが、解決策は南洋諸島の奪還以外には余りにも危険な、駆逐艦や巡洋艦を洋上に配置するぐらいしかない。

早期警戒管制機は敵戦闘機の脅威がある以上無闇矢鱈に飛ばせない。

 

早期警戒管制機型の連山はユニットコストが諸々の装備などの関係で爆撃機型の2.3倍にもなるし搭乗員も操縦士2名を含めて17名。

何れも何百時間と訓練を積み、何千時間と言う操縦時間を持つ熟練中の熟練だ。

早期警戒管制機に搭乗する乗組員は機上電探などの特殊機械に精通した選りすぐりとなる。

1機でも失えば機体は作れば良いから大したことは無いが、人員の面でそれこそ取り返しが付かない大きな穴が出来てしまう。

だから配備も出来ないのだ。

 

今の陸海軍には、大規模な作戦を実施する余裕は備蓄などの関係もあって無い。

だからミクロネシアなどの南洋諸島に対して攻勢を仕掛けられないのだ。

この対策が、目下最優先事項だ。

 

 

 

 

豪州に避難していたニュージーランド国民500人が帰国した。

とは言え戦後処理が済んでいないから元の生活に戻るにはまだ暫くは掛かるだろう。

半年もあれば戦前ほどとは行かないまでも、羊の放牧も出来るようになる。

 

防衛は勿論、2個小隊100人程度の兵力しか持たないニュージーランド軍の代わりに我々が北島と南島に3個師団づつを配置し航空隊も多くが豪州から引き抜かれて配置されている。

 

フィジー、サモアにも3個師団づつが置かれており、バヌアツに3個、ニューカレドニアには4個師団。

 

ソロモン諸島、ビスマルク諸島、ニューギニアに3個師団づつ。

この3方面に関しては航空兵力が主体で陸軍航空隊の陣風と疾風が1000機づつ程度が配備されている。

これも豪州などから引き抜いた戦力になる。

取り敢えず戦力上の防衛体制は整えたと言う形だ。

 

ニューカレドニアは資源の宝庫だから、産出が軌道に乗れば資源問題はより軽くなる。

ニュージーランドも羊を含めて家畜の飼育などが復興すれば食糧問題の解決にも目処が立つ。

 

やはり300万を超える軍隊に、3000万人もの民間人を食わせていくのは並大抵の事ではない。

どうしても軍への食糧供給が優先され、民間人は基本的に主食類である米や麦、あとは肉なんかはどうしても配給頼りになってしまう。

 

今でこそオーストラリアからの食糧供給がどうにかこうにか軌道に乗り始め、北海道の不発弾除去やインフラ整備などの戦後処理がつい先日終了宣言が為されたから、飢えに苦しむとか餓死者や食糧難や燃料不足で越冬が出来ずに死んでしまうなんて事は無くなった。

しかしそれでも食糧事情は宜しくないのが、実情だ。

 

首都直下型地震の影響や連日連夜の空襲で北海道と東北の一部を除けば全国がBー29の爆撃可能半径にある。

これではどうしようもない。

 

マリアナ諸島の奪還も、やはり戦争を続けなければならない以上どうしても資源などを優先せねばならず、マリアナ諸島を奪還しても爆撃が無くなるのと中部太平洋に対しての圧力を加えられる拠点が得られるぐらい。

 

前者はまだしも、後者に関してはニューギニアで良いし後方拠点もオーストラリアがあるから別に必要が無い。

マリアナ諸島は今や、奪還を企図して奪還したとしてもマーシャル諸島などとの消耗戦で兵力を無駄に損耗するだけで戦略上殆ど重要では無い、意味の無い場所になっている訳である。

 

だから手を出さないのだ。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

本土で艦隊の修理や重整備、小改装をしている中で東京に呼び出される。

呼び出しとなるとよっぽどの事態なのだろうか。

 

人員輸送と連絡用の輸送機型連山に相乗りし、東京へ向かう。

この方が敵に飛行を悟られなくて良い。

とは言え戦闘機の護衛はある。

 

前線の陸軍部隊を優先して陣風に機種転換をしている為、本土を守る海軍航空隊はまだまだ紫電改が主力機となっている。

それでも改良を重ねた今では、流石に互角とは言い難いがそれでも十分に敵機と渡り合える性能を有している。

まだまだ一線級の性能である事は間違いない。

それが8機も護衛としているのだから安心出来る。

 

今日は特に誰かを伴っている訳ではない。

護衛に4人が付いてきてくれているが、それだけだ。

2時間半の空路だが、書類仕事は良い機会だとは取り上げられているからやる事もない。

だったらば昨日は遅かったから少しばかり仮眠を取るかな。

 

「大尉、向こうに着くまで仮眠を取るから着いたら起こしてくれるか」

 

「了解です」

 

一言告げてから、3種軍装の略帽を目深に被って目を閉じる。

海軍規定では上官に会う場合正式な軍装であれば何でも良いとなっている。

基本は1種軍装か2種軍装のどちらかになるが、3種軍装でも問題は無い。

 

 

 

 

肩を揺らされ、目を開けると立川飛行場の上空を旋回しているところだった。

恐らく着陸許可待ちなのだろう。

 

少しすると許可が降りたらしく、高度が下がり始める。

着陸時の特有の衝撃で揺れるとすぐに減速し始める。

窓から外を見ると、本土防空を担う震電改が格納庫や掩体に収容され、スクランブルに備えた震電改が待機している。

 

 

海軍立川飛行場は、関東圏の防空を担う飛行場の一つだ。

元々は陸軍の飛行場であったが陸軍は奪還地域、海軍は本土防空を担当すると役割分担が決定された後に海軍管轄に移されたのだ。

 

本土にある陸軍飛行隊は数える程度しかない。

鹵獲機や新型機、空に関する兵器類の性能テストを行う陸軍飛行審査部。

他には搭乗員を養成する為の航空学校に属する練習飛行隊や教導航空隊ぐらいなものだ。

 

 

 

連山から降りると、迎えの車が来ていた。

どうやら中代大将が寄越してくれたらしい。

 

震災と空襲を受けた関東圏は、今まで煩雑な道路を良い機会だと一気に区画整理や道路整理を進めたお陰でだいぶ楽になった。

立川からでも1時間もあれば統合参謀本部に着く。

 

到着したら、取り敢えず身形を整えて略帽を被り直して中代大将の元へ向かう。

 

「湯野、入ります」

 

「いらっしゃい、いきなり呼び出してごめんなさいね。事が事だから直接話したかったの」

 

「いえ、問題ありません」

 

「それじゃ、早速本題に入りましょうか。あぁ、楽にしてくれていいわ」

 

「はい」

 

椅子に座り、略帽を脱ぐ。

目の前に幾つかの書類を出され、それを受け取り読む。

 

こっちの書類には観閲式、こっちには観艦式と書かれているな……。

ははぁ、用件が何か分かったぞ。

 

「上からの要望なんだけれど、陸海軍でそれぞれ観閲式と観艦式をやって欲しいの」

 

「観閲式と観艦式、ですか」

 

「えぇ。国民に勇気と希望を、と言う事らしいわ」

 

「因みに上、と言うのはどれぐらい上なんでしょう?」

 

「一番上よ」

 

「なるほど……」

 

「忙しいのも分かるわ。だけどどうにかならないかしら」

 

「観閲式ならまだ可能ですが、観艦式となるとどれぐらいの規模でやるかによりますが、今すぐにとなると少し厳しいですね……」

 

「やっぱりそうよね」

 

「なんせ艦隊全体が長期作戦明けの重整備に改装中ですし、終わったとしても各方面に対する船団護衛任務は外せません。奪還地域が増えましたから、1航艦も船団護衛任務に出さねばならなくなることも考えているほどです」

 

中代大将も頷きながら溜息を漏らす。

どうやら厳しいと分かっていながらも、一番上からの要望ともあって断るに断れないらしい。

 

「やるにしても、小規模にならざるを得ないかと」

 

「どれぐらいの規模でならやれるかしら?」

 

「取り敢えず、今すぐにと言われるのならば装甲艦隊だけでやる事になります。既に戦線復帰はしていますし、インパクトと言う面であれば十分かと。もう暫く時間を頂けるのであれば、更に1個航空戦隊ぐらいはどうにか出来ます」

 

「それなら丁度良いわ。大和と武蔵は有名だから、是非って言われているの。どれぐらいの時間が必要?」

 

「点検整備に1ヶ月と訓練にもう1ヶ月、合計丸2ヶ月頂ければ」

 

「陸軍の方は?」

 

「取り敢えず確認してみなければ分かりませんが、本土の部隊と再編で引き上げている部隊でやれるかと。こちらも2ヶ月頂ければ参加部隊の選定と訓練を終えられます」

 

「そうしたら、それでお願いしても良いかしら」

 

「承知しました、謹んでお受け致します」

 

観艦式と観閲式の実施が、十数年ぶりに決定された。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

呉に戻るとすぐに観艦式に参加する艦を選ぶ。

装甲艦隊は決まりとしても、他が問題だ。

 

どの航空戦隊も、点検整備の進捗率は殆ど同じで変わりは無い。

なんなら装甲艦隊だけでも良い気すらして来ているのだが、2ヶ月で航空戦隊を一つ参加出来るようにすると言ってしまったからな……。

 

さて、どうしたものかな。

 

「提督、用事って何だったの?」

 

「まぁ諸々だな。特に観艦式と観閲式に関してだ」

 

「観艦式!?」

 

「あ、あぁ」

 

秘書艦である愛宕が騒ぐ。

やはり彼女達からすると観艦式と言うのは一大イベントらしい。

まぁ、観艦式となると戦闘以外で唯一華がある場だからな。

 

「それでそれで!?」

 

「実施自体は決定したが、参加する艦を選ぶのに難儀しているんだ」

 

「あら、全員で参加は駄目なのかしら?」

 

「無理だな。護衛艦隊と補給艦隊は船団護衛任務や各地への輸送任務でてんてこ舞い、最悪1航艦も護衛任務に駆り出さなきゃならん。ただでさえ戦力は少ないんだ、観艦式を理由に他を疎かにするぐらいならやらんよ」

 

「やっぱりそうよねぇ」

 

「上からの要望で装甲艦隊の参加は決まりだが、もう1個航空戦隊ぐらいは見栄の為に参加させないとならん。それが決まらん」

 

「あら、普通に1航戦かと思ったのだけど違うのかしら?」

 

「そうは思うんだがなぁ……」

 

1航戦は海軍の中でも特に選りすぐり、やはり主力中の主力だ。

彼女達を戦線から抜くと言うのはやはり考えものだ。

 

とは言えまず間違いなく有名ではあるし、これほど人目を引くことも無い。

観艦式に参加するとなれば、これ以上は無いぐらいだ。

 

「仕方がないな、1航戦と装甲艦隊で観艦式をやろう。点検整備が終わったら、それに備えて訓練だな」

 

愛宕に頼んで書類を作り、各艦に通達する為の書類もそれぞれ認めてから各艦長や戦隊長達を招集し観艦式が実施されそれに備える旨を伝えると、戦う以上に意気込んでいた。

 

最終的に観艦式に参加する事になったのは1航戦と装甲艦隊、それにビスマルク、ローマ、ウォースパイト、デ・ロイヤル、ゴトランドの参加が決定された。

他にも輸送船、輸送艦が5隻づつ。

航空機は1航戦の各空母所属機に加え、基地航空隊の紫電改48機、爆撃機型の連山20機となる。

 

観艦式には完全応募制とし、輸送船で見る事となった。

政府側からは陛下、総理大臣が参加される。

中代大将、広野中将は付き従うこととなり、俺は艦隊指揮官としての参加になる。

 

それを受けて、臨時に観艦式艦隊を編成。

1ヶ月間訓練に励むこととなった。

 

 

 

 

観閲式に関しては、本土各地から集められた陸軍の6個連隊に加えて2個海軍陸戦隊。

更に1個機甲連隊と1個砲兵連隊

再編中の5個陸軍航空隊より20機づつ計100機。

他にも独立工兵大隊や軍病院から軍医達、陸軍大学や海軍大学などの各教育機関からも参加する。

 

陸軍の連隊は全て戦闘団編成に変えられているから、各連隊にはそれぞれ独自のあらゆる兵科の部隊が属している。

朝霞駐屯地にて観閲式は行われ、観艦式の1ヶ月後になる。

 

開催時期が遅く取られた理由としては日本本土だけでなく、各方面から部隊を集めるからだ。

陸軍観閲式にはオーストラリア軍とニュージーランド軍からも参加がある。

オーストラリア軍からは1個連隊。

ニュージーランド軍から1個中隊。

 

これらの部隊の移動と訓練に時間が掛かるからだ。

こちらにも俺は指揮官として参加することになる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

観艦式当日、当選した民間人1万人が20隻の輸送船に分乗する。

どうやら倍率は大分高かったようで、かなりの応募が殺到していたらしい。

 

陛下や首相、中代大将と広野中将は専用として用意された輸送船相模丸を御召艦として駆逐艦時雨を先導艦に、初雪を供奉艦としている。

 

戦前のイージス艦や汎用護衛艦、戦車が日本にはまだ何隻とか十何両と残っているが、修理中であるから参加は出来ない。

と言うより、沈まないようにドックにぶち込まれているだけの状態で、修理中とはなばかりのギリギリ保存状態と言うべきものだ。

理由はそれらの艦に供給する事が出来る武器弾薬や各種装備品が作れないからに他ならない。

 

旧自衛隊に供給される装備は民生技術が多数含まれており、しかも特定の中小企業にしか開発製造が出来ないなんてものもある。

勿論その中小企業は、大企業もだが開戦してから暫くして爆撃で吹き飛び、海外に頼り切りだった材料が入らないから倒産した。

 

だから作らないではなく、作れないが正しいのだ。

一応、幾らかの生産設備や技術者は軍がどうにかこうにか確保しているが、それも陸上装備のものや航空機関連のものだけで、艦艇用のものは沿岸部に集中していたから呉の1箇所以外は瓦礫の山になった。

 

その呉にある各造船設備も今は海軍が使っているから使用出来ない。

イージス艦と汎用護衛艦は場所を神戸に移しており、そこで入渠状態が続いているのだ。

 

戦前の武器装備類は全て年に1セットのペースで細々と生産されているのに加え研究開発を常に進めているが、これには勿論技術と技術者が絶えることを防ぐのと同時に戦後を睨んでの措置となる。

日本は周りを海と言う天然の要害に囲まれてはいるが、近隣諸国はほぼ敵、或いは黒寄りのグレーな国家に囲まれている。

今その国々がどうなっているか、知った事では無いし知り得る手段も無い。

どうなろうがどうでも良いが仮に戦争が終わり再びその国々が、となれば備えておかねばならないのも事実だからな。

 

漸く戦争が終わって、復興に向けて歩まねばならないと言うときに横やりなぞ入れられたら堪ったもんじゃない。

抑止力としての戦力は必要不可欠であることは間違いない。

 

 

 

 

 

 

最初は停泊状態で観艦式が始まり、各艦を陛下や民間人達が一通り見た後に航行状態での観艦式に移る。

観艦式は全艦が速力4ノットで航行しつつ、輸送船は速力15ノットで航行する。

航行する艦隊の周りをぐるっと1周し、次に各艦の空砲射撃を行う。

駆逐艦は対艦戦闘を想定した通常射撃、対空戦闘を想定した速射を行う。

 

軽巡洋艦も駆逐艦と同様の射撃となる。

重巡洋艦は主砲の各個射撃、一斉射、交互撃ち方の3射法。

 

戦艦も各個射撃、一斉射、交互撃ち方となるが、大和、武蔵の2隻は一斉射を行えない為に各砲塔1門づつの3門からなる斉射を実施する予定だ。

 

口径が小さい艦から順々に1隻づつの射撃になる。

 

 

「右舷より輸送船」

 

「距離に十分留意させろ」

 

「了解」

 

「艦隊単縦陣。弾種空砲、仰角5度。右舷砲戦用意」

 

「艦隊単縦陣右舷砲戦用意、宜候!」

 

模擬対空戦闘を終え、空を一面の黒煙に変えた後に陣形を単縦陣に変更させる。

駆逐艦、巡洋艦の射撃は輸送船との横距離300mで実施するが戦艦の主砲射撃は距離500mで実施する。

距離を離す理由は危険だからだ。

 

艦隊に砲戦用意の喇叭が鳴り響き、各員は何時も通り訓練通りそれぞれの持ち場に走っていく。

砲戦用意の喇叭は輸送船の中でも放送され、これから砲撃が行われる事が伝えられる。

 

「観測機発艦始め」

 

観測機はあくまでも飛ばして見せるだけで今回は弾着観測は行わない。

 

「砲戦準備完了、何時でも行けます」

 

「駆逐艦より順に主砲斉射3回。撃ちー方始め」

 

号令が伝えられると、駆逐艦が一斉に主砲を撃つ。

10cm連装砲の一斉射ともなれば口径は小さくても迫力がある。

 

10秒置きに射撃が行われ、ものの30秒で射撃が終わる。

 

次は巡洋艦だ。

軽巡洋艦は駆逐艦と同じ主砲を装備しており、重巡は20.3cm連装砲が主装備になる。

改装されて防空巡洋艦になっている鈴谷は主砲を全て撤去し10cm連装高角砲を多数装備しているが、それでもあれだけの門数による一斉射撃だからな。

 

同様に3斉射を終え、次に戦艦の射撃に移る。

と言っても今までのように全艦での射撃、とはならない。

戦艦の主砲射撃は目玉と言っても良い展示だから、1隻づつの射撃になる。

と言うより全艦による射撃を予定していたのだが、やはり目玉だから1隻づつにしてはどうかと提案を受けたのだ。

 

少し悩んだが、その提案を受け入れることにしたのだ。

 

 

 

射撃に輸送船には距離を500mにまで開けさせる。

 

その確認が取れたらば、射撃開始となる。

金剛から順に霧島、長門、リシュリュー、ビスマルク、ローマ、ウォースパイトと射撃をした後に、大和と武蔵がそれぞれ射撃となる。

 

比べ物にならない大きさの爆炎と砲声が一斉に海面と空気を殴り付ける。

 

仰角5度と言う水平射で放たれた爆風によってべこんと海面が凹む。

そりゃぁ、あんな爆風を近距離で喰らったらぐちゃぐちゃに吹き飛ばされる訳だ。

 

 

 

 

 

観艦式を終え、呉に戻る。

観艦式を終えてもまだ観閲式があるから、その準備を進めなければならない。

 

「部隊の集合状況です」

 

加賀から手渡されたクリップボードを見る。

殆どの部隊は集合を終えて観閲式に向けた訓練を本格的に初めているらしいが、豪軍と新軍の到着が10日遅れているらしい。

 

「……オーストラリア軍とニュージーランド軍の到着がかなり遅れているようだが、何かあったのか?」

 

「この時期ですから。南方方面では天候が随分荒れているそうです」

 

「あぁ、それなら仕方が無いか」

 

台風、向こうだとサイクロンと言えばいいのだろうか?が発生している状況の海と言うのはそれはもう危険だ。

空母や戦艦みたいな大型艦なら大丈夫な荒波でも、巡洋艦や駆逐艦のような中、小型艦艇、ましてや輸送船にとっては試練の連続と言っていい。

 

だから無理して出港しても最悪沈没、乗船している者達は荒れ狂い凍える海に放り出され漂流して死ぬしかなくなる。

ならば到着が遅れても、安全に来てもらった方が良い。

 

「到着があと一週間も遅れそうなら天候が良い日に輸送機を手配して空路で来てもらおう。事前訓練もある。重装備は……、近隣の連隊から借りよう」

 

「分かりました」

 

観艦式の後始末もあるし、観閲式の準備に合同訓練もある。

のんびりはしていられない。

 

 

 

 

 

どうにか到着が間に合い、訓練が進められる。

 

「提督、ソロモン諸島方面軍より緊急電です!」

 

「どうした」

 

「はい、読み上げます。『我敵艦載機及ビ重爆撃機大編隊ヨリ猛爆ヲ受ク。迎撃スルモ突破、飛行場及ビ港湾施設爆撃サル。直後敵艦ヨリ艦砲射撃受ク。飛行場使用不可。偵察機ヨリ沖合ニテ敵艦隊発見。戦艦、空母ヲ含ム艦隊也。輸送船団ハ見エズ。至急来援ヲ請フ』以上です」

 

「なんとまぁタイミングの悪い……」

 

情報を聞くに、制空権の喪失は確実だろう。

爆撃だけで無く艦砲射撃を受けたと言うのだから、突貫で修理をしても2週間は使えまい。

 

艦隊を出そうにも、なんせ距離があるのに加えて未だに入渠中の艦も多い。

すぐさま出せるのは1航戦と装甲艦隊のみ。

ソロモン諸島各地にある飛行場や港湾施設を軒並み使用不可能にした艦隊相手では、空母6隻では手も足も出ない。

 

「どうされますか?」

 

「取り敢えず飛行場の復旧を急がせ、豪州方面軍とニューギニア方面軍に即応体制を下令、ソロモン諸島方面軍は全軍敵上陸に備えさせろ」

 

「艦隊はどうされますか?」

 

「今すぐに出撃が可能なのは?」

 

「金剛型の4隻と先日入渠から出た鳳翔さん、それとグラーフだけです」

 

他の空母や戦艦は軒並み入渠中か、或いは船団護衛任務に就いている。

手が足りないからだ。

 

「少ないな……」

 

「少ない戦力だけで向かうのも危険ですから、兎に角今は様子を見ては?大艦隊と報告してきているのですから、1機艦を総出撃させなければならない事態である事は間違い無いかと」

 

「……そうだな。現地司令部には敵上陸を確認したらすぐに報告するよう言ってくれ」

 

「はい」

 

悩ましい問題だ。

偵察機の報告では輸送船団は居ないと言うし、かと言ってソロモン諸島の飛行場が軒並み使用不可になるほどの爆撃に艦砲射撃を加えてきて何も無いと言うのも腑に落ちない。

 

艦隊もまだ再建途中、戦力不足で主力艦隊まで輸送船団護衛に駆り出しているほどだから直様の対応は不可能。

出来なくは無いが、明らかに戦力が足りない。

今打って出ても結果は目に見えている。

 

対応策を考えながら、執務を進めていると再び通信科の大尉が駆け込んできた。

 

「緊急報告!豪州沖に敵大艦隊出現、現在豪州南部全域が猛爆撃を受けていると!」

 

「加賀、南太平洋の地図を持ってきてくれるか」

 

「はい」

 

「都司大尉、ソロモン諸島、豪州の現地司令部から詳細な攻撃を受けた飛行場や港、町を全てリストアップして送らせてくれるか。被害報告も頼む」

 

「了解しました」

 

「提督、地図です」

 

「ありがとう。さてと……」

 

執務机のペン立てから青色と赤色の鉛筆を抜いて友軍基地や飛行場、駐屯地、港を青で囲む。

主要なものはやられている筈だから、赤で×を書く。

 

 

1時間もすると、現地から続々と被害報告が届き始める。

それらを集計していくと、やはり殆どの基地が打撃を被っているのが分かる。

しかも最低1週間は使い物にならないレベルだ、復旧は容易じゃない。

 

2時間もすると、詳細な損害報告が入り始める。

それと同時に豪州西部、クイーンズランド州の沿岸部に位置する飛行場や都市、港が空襲を受け始めた。

どうやらかなりの低空で飛んで来たらしい、ギリギリまで電探に反応は無かった。

 

しかも主兵力の殆どをソロモン諸島、ニューカレドニア、バヌアツ、ニュージーランド、フィジー、サモアに引き抜いてしまったから、特に航空兵力は船団護衛に必要な戦力を残しているだけだ。

 

敵の主力艦隊や戦略爆撃機の大編隊を十分に迎え撃つ戦力はどうやったって存在しないし、こちらの戦力が限られている以上は仕方がない事だ。

 

それを踏まえて我々は索敵網や哨戒網を最前線に構築していたが、敵はこれを突いたのだ。

最前線にそれを集中しているから1箇所がやられると、暫くの間大きな穴が空くことになる。

上手いことやられた、と言う他無いだろう。

 

 

「さて、敵の目的はなんだろうな……」

 

「後方拠点の豪州と前線の切り離し、補給線の破壊でしょうか」

 

「いいや、だったらニュージーランドやニューカレドニアなんかも叩く筈だ。豪州だけを叩いても補給物資の受け入れ先が無事なら他ルートから送り込める」

 

秘書艦である加賀を始め、艦隊司令部の面々が執務室の隣にある会議室に集まり頭を捻る。

 

「妥当なのは、ソロモン諸島の切り離しと言ったところか?」

 

「ニューギニアではなく何故ソロモン諸島なのです?」

 

「ニューギニアは特にマリアナ諸島と直接対面している都合上、戦力的に守りが固い。展開している兵力も、各地への補充兵力を考えたら南太平洋の中で一番だからな。その点、ソロモンは防御縦深が無いのと広範囲の哨戒索敵網が無いから攻め易いのだ」

 

「であるならばすぐにでも救援に向かわなければなりません」

 

「いや、無理だな」

 

「何故……」

 

「こちらが出せる戦力が殆ど無いからだ。出せても1個戦隊程度の戦力だ。報告では空母、戦艦を含む大艦隊だそうだからな、今打って出ても太刀打ち出来ん」

 

こちらが打つことの出来る手と言うのは現状限られている。

艦隊を出せないから制海権や制空権を奪還しに行く事も難しいし、飛行場が使えない以上航空隊の増援を送り込む事も出来ない。

航空機と搭乗員だけを送ればいい、と言う話でもない。

予備部品や予備の機体、増員に伴う食糧や燃料と言った補給の増大もある。

 

ましてや輸送船団で陸軍部隊を送り込むのも出来ない。

輸送船団の手配だけでなく、陸軍師団の準備にも時間が掛かる。

援軍と現地部隊の兵力を大きくすればするほどその分補給線も大きくしないとならない。

ソロモン諸島は赤道直下の過酷な環境だ。

まともな補給をしていても感染症や伝染病に罹る兵士がいるし、高温多湿と言う環境で物品の損耗も激しい。

定期的にそれらを入れ替えないと戦えなくなるのだ。

 

それを考えたらどれだけ早くても2週間は打てる手が無いと言うのが現状なのだ。

 

「取り合えず、敵艦隊は輸送船団を伴っていないと報告が上がってきているので、現状こちらの攻勢を遅らせる為の一過性の攻撃の可能性が高いのでは、と考えますが」

 

「あぁ。ただ、そうなるとソロモン諸島だけでなく何故豪州本土まで、しかも南部と東部と言う広大な地域に掛けて攻撃を仕掛けて来たのか、と言う事に対して明確な説明と理由が分からない。ただの戦力不足によるものか、はたまた別の意図があるのか……」

 

「現状、続報を待つ以外に他はありません。何か不足の事態が発生しても良いように艦隊と増援の為の陸軍部隊の準備を進めましょう」

 

「頼む」

 

加賀の提案により、それが決まった。

敵の戦略目標が分からない以上こちらの戦略目標も定められない。

 

敵戦略目標を変えさせる事も出来なくはないが、こちらの被害も相当な物になる。

余りにも情報が少な過ぎる今は出来る限りの準備と情報収集に努めるべきで、積極的な行動は起こせないのは確かだ。

もう幾らか情報があれば、行動を起こせるかもしれないんだがな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告から2週間。

状況は深刻であった。

 

結論から言うならば、敵はソロモン諸島に限定してこちらの補給線を絶つ作戦を採ってきている。

ニューギニアの飛行場からだとこちらの陣風は航続距離が足りずに船団護衛任務はソロモン海と、粘ってもブーゲンビル島辺りまでが限界だ。

そのブーゲンビル島の近海には敵の機動部隊が張り付いていて長距離の飛行に加えて空戦になるから危険過ぎて出せない。

もし危険を承知で護衛任務を任せても結果はかの大戦でのソロモン諸島を巡る戦いをなぞる事になる。

 

数少ないソロモン諸島にある程度距離が近く、十分な数の戦闘機を配備し得るウッドラーク島やバナチナイ島にある飛行場は艦砲射撃で周辺まで派手に耕されて使用不可能。

再び稼働状態にするにはこれまた2週間は掛かる。

 

何よりも問題なのはソロモン諸島方面軍の備蓄物資の底が見え始めてきていると言う事だ。

敵は少数部隊、それこそ小隊や大きくても大隊程度の部隊でこちらの物資を蓄えている倉庫やそこから各地に運ぶための道路などを破壊して回っているのだ。

本来なら孤立しても数か月は全力で戦える物資を蓄えていたのにも関わらず、破壊工作によって今や10日で底を付く悲惨な状況だ。

 

潜水艦の数も尋常じゃないし、数十隻の機動部隊まで駆り出して完全に補給線を絶ってきている。

今ここで手を打たないとソロモン諸島方面軍の全滅なんて事になる。

 

それならまだいい、最悪ニューギニア、フィジーやサモアなども危うい。

 

「提督、ソロモン諸島方面軍司令部からです……」

 

「ありがとう」

 

何度目になるか分からない救援要請が届く。

その文面は悲痛に溢れている。

 

とは言え感傷に浸っている場合でもないし、その文面を見て悲観的な想いを抱える事も無い。

何故ならば、敵を倒す為の準備をしているからだ。

 

「輸送部隊の状況はどうなっている?」

 

「高速輸送船、高速タンカーどちらとも全てが揃っています」

 

「艦隊は?」

 

「補給にあと36時間頂ければ完璧に終えられます」

 

「よし、出撃準備命令を下令」

 

「はい、分かりました」

 

何も手をこまねいていた訳では無い。

今現地で必要とされているのは物資だ。

それも食料と医薬品を早急に、それも現地で戦う10万を超える人数分。

 

そしてそれらを運ぶ為の車両を動かす為の燃料。

武器弾薬は締め付けが殆どで、戦闘らしい戦闘と言えば時折嫌がらせのように行われる、精々20機かそこらの少数の戦爆連合による攻撃だけ。

だからそちらの消費は殆ど無い。

 

早急に運ばねばならないのは、燃料と水、そして食料医薬品だ。

これらが無ければソロモン諸島方面軍だけでない、我々の防衛戦は1週間後には崩壊するだろう。

 

それを解決するべく、まずはソロモン諸島に対しての輸送作戦を決行するのだ。

しかし一つ問題がある。

用意出来る高速輸送船と高速タンカーが10隻づつ、計20隻しかないと言うことだ。

これでは到底足りない。

だから何度かに分けて輸送を行うのである。

 

最低限の物資量を送り込むのに島々を区画分けをしたとしても5回、余裕を持たせるならば倍の10回は必要になる。

それも、全ての輸送船とタンカーが無事に辿り着く事が出来たならばと言う前提だ。

途中で何隻かを失ったら、輸送回数は増える。

 

参加するのは高速輸送船10隻、高速タンカー10隻。

そしてそれら20隻を守るべく金剛、比叡、霧島、榛名、長門を中心に鈴谷、プリンツ・オイゲン、青葉、古鷹、足柄を付ける。

 

それに2水戦、4水戦から花月、涼月、海風と江風の4隻が加わる。

合計25隻の護衛艦隊となる。

 

他にも残る1機艦と装甲艦隊が突入支援に当たる。

敵主力艦隊の注意を引き付けてもらい、突入をし易くしてもらう。

あれだけの数の主力艦が揃って敵艦隊を目指すのだから、無視は出来まい。

全ての空母は兎に角注意さえ引き付けて、輸送艦隊に敵艦隊が向かわなければ良いだけだから、対潜警戒と早期警戒管制機の流星だけを搭載して他は全て陣風だ。

 

ソロモン諸島に数か所残る飛行場から戦闘機を出し、輸送艦隊を敵機と潜水艦の脅威から守ってもらう。

とは言え出せる機数は合計しても70機前後だから精々隼鷹や飛鷹単艦の艦載機数程度しか無く、もし敵の大規模な航空攻撃があれば只では済まないだろう。

 

潜水艦隊も投入して、警戒線も張るし可能な限りの万全を尽くす。

第1潜水艦隊には機会を見て敵艦隊に攻撃を仕掛けても良いとしているし、運があれば空母か戦艦の1隻か2隻ぐらいは撃沈出来るかもしれない。

 

敵潜水艦も多く展開しているとソロモン諸島方面軍から連絡を受けているし、輸送船が多く撃沈されていることからもそれは明白だろう。

どうにかして敵の潜水艦に捕捉されないように祈るしかない。

 

どれだけ頑張って潜水艦を探しても、今の技術では100mまで潜られたらどうしようもない。

50mぐらいなら磁気探知機で見つけられるが、それ以下の深度に潜られてしまったらどうしようもない。

 

磁気探知機も前線配備が開始されたばかりの新兵器で、信頼性は確かだがその性能が敵潜水艦の性能に追い付いていないと言うのが実情だ。

改良を重ねていくしかないが、現状の性能が今出し得る最高だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後、輸送艦隊は長門を旗艦にしポートモレスビーに一度停泊し補給を挟んだ後に輸送艦隊は夜間を狙って突入を開始した。

一度目の突入ではチョイスル島に、二度目の突入でべラ・ラベラ島、ラノングガ島、ギゾ島、コロンバンガラ島、ニュージョージア島に物資を送り込んだ。

 

3度目はサンタイザベル島とラッセル諸島。

4度目の突入はガダルカナル島、フロリダ諸島に。

5度目の突入はレンネル島、迂回航路を採ってマキラ島、ウラワ島に送り込んだ。

 

 

5度目の突入はマライタ島に輸送を行った。その際インディスペンセイブル海峡通過時に敵潜水艦群による攻撃を受けて高速輸送船第4雄大丸、室蘭丸、函館丸の3隻が撃沈、高速タンカー第5清栄丸、第2能登丸が被雷、退避。

結果輸送量の低下計画の修正を強いられた事で、計画の修正を行うとともに第二次マライタ島輸送が決定される。

 

 

「提督、敵潜探知です」

 

「対潜戦闘用意、航空支援は?」

 

「陸軍航空隊が先程対潜爆弾投下の報告を打電したとのことです」

 

「寄せ付けるな、対潜対水上警戒厳」

 

「電探に感有り!大型艦の反応複数、他多数!」

 

「詳細な数は?」

 

「島の影に隠れているので、ざっと5~10と言う事しか……」

 

「1機艦に打電、我有力なる敵艦隊に捕捉さる、至急支援求む」

 

「了解」

 

10分ほどすると返電が報告される。

 

「1機艦より入電、『我攻撃受ク、支援出来ズ』」

 

「出迎えられたか……」

 

間違いなく迎撃の網を張っていたのだろう。

前回の輸送で敵潜水艦隊に捕捉されて損害を出したのが決め手だったのだろうな。

 

「提督、反転しましょう。今戦えば結果は目に見えています」

 

「……電探、発見時と現在の敵艦隊の凡その速力と距離は分かるか?」

 

「はっ、発見時は約20ノット距離約60km、現在約35ノット距離50ノットです」

 

「逃げられんな」

 

「ですが……」

 

「こちらの艦隊最高速力はどれだけ早くても30ノットが限界だ。それに敵艦隊の速力は35ノット、もうとっくに捕捉されている。逃げ切れん」

 

「ではどうする?輸送船とタンカーを見捨てる訳にも行かんだろう」

 

「足止めをする。輸送船団に暁、雷、電、響を護衛に付けて退避させろ。他は敵艦隊を足止めする」

 

「はっ、了解しました」

 

「艦隊合戦用意、砲戦!」

 

艦内放送で喇叭が鳴り響くと各員が持ち場に付く。

 

「提督、数的不利はどう覆す?流石の私でも50口径の16インチ砲相手に2対1は厳しいぞ」

 

腕を組んで敵艦隊の方をじっ、と見据えながら長門が聞いてくる。

 

「流石の俺もそこまで馬鹿じゃない。決戦じゃないし輸送船団を逃がして1機艦か装甲艦隊からの支援が来るまで耐えれば良いんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「なに、真面目に戦う必要も無いと言う事だ」

 

「艦隊速力を30ノットに、敵艦隊との距離は300を保て」

 

「それでは金剛達の射程ギリギリではないか。命中弾を出して装甲を貫くなら最低でも150にまでは接近しないとならんぞ」

 

金剛達の射程は50口径に主砲身を伸ばしたとは言えど、それでも3万8000mが限界だ。

長門の主砲射程は50口径で4万2000mだ。

 

とは言え300と言う距離は射撃管制装置や射撃用電探をフル活用しても中々当たる距離ではない。

本当ならば350ぐらいにまで距離を離したいが、それだと遠過ぎて敵に意図を察知されかねない。

 

300ならば数的不利での戦闘を恐れて距離を開けている、と思わせられる可能性がある距離だと思う。

 

「いや、いい。さっき言っただろう、真面目に戦う必要は無い、とな」

 

「なるほど、そういう事か。中々良い性格をしているじゃないか」

 

にやっ、と笑みを浮かべる。

 

「しっかり逃げ回るぞ」

 

「艦長、聞いたな?」

 

「はい、操艦技術の見せ所ですな」

 

「敵艦隊接近!戦艦13、巡洋艦11、他随伴艦多数!」

 

「同航戦に持ち込むぞ。艦隊面舵一杯」

 

敵艦隊の戦艦の数がかなり多い。

かなり不味いかもしれんな、これは。

 

「了解。おーもかぁーじいっぱぁーい!」

 

「敵艦隊面舵に転舵、同航戦です!」

 

「距離300で各艦射撃開始、付かず離れずで距離300を維持するように。他艦は周辺警戒。特に対潜警戒を厳とせよ」

 

命令通り、艦隊は敵艦隊に対して3万mの距離を維持しながら砲戦を開始した。

流石に3万mも距離が離れていて互いに30ノットの高速で駆け抜けてしかも回避行動をしている中では命中弾と言うのは100発撃って1発ぐらいの命中率だろう。

 

こっちには1隻辺り2隻分の砲弾が次々と降り注いでいる。

長門、金剛、比叡には3隻が狙いを付けているらしく榛名と霧島の周りに弾着する砲弾数よりも明らかに多い数が次々と巨大な水柱を乱立させている。

 

「榛名が命中弾を得ましたが、有効打ではないようです」

 

「この距離での砲戦なんだ、35.6cm砲じゃバイタルパートに当たれば弾かれる」

 

「敵弾弾着5秒前!……だんちゃーく、今!」

 

「今のは近かったな」

 

「至近弾だ、段々と精度が上がっているな。これだと命中弾を食らうのも時間の問題だ」

 

「1機艦より入電、『敵艦隊ニ戦艦見当タラズ、我航空攻撃ヲ凌グ、コレ以上ノ攻撃ハ無シト認ム。戦艦ヲ応援ニ送ル』以上です」

 

「200kmはあるから今回ばかりはアテには出来んな」

 

「ならば友軍に向かって、少しづつ後退しては?それならば合流可能時間を早めることが出来ます」

 

「そうだな、そうしよう」

 

その意見を受けて、少しづつ悟られない程度に友軍に向かって艦隊は後退を続けた。

3時間半ほど掛けて徐々に後退を重ねつつ、友軍艦隊と合流する頃には長門、金剛、比叡、榛名、霧島の砲弾は可能な限り節約していたとは言え、僅かに3割程度が残っているのみだった。

 

「艦隊反転、敵艦隊を叩くぞ。制海権を奪い返す」

 

「了解した」

 

長門と霧島が2発づつの被弾を許していたが、戦闘能力は依然として有している。

戦力差も12対13になったし十分勝ち目はある。

航空攻撃は残念ながら搭載している艦載機の都合上全く期待出来ないが、それでも頭の上を守って貰えると言うのは心強いことだし敵潜水艦の脅威を気にしながら砲戦をしなくていいと言うのは大きい。

 

「敵艦目標を再選定、各艦と戦闘を開始しました!」

 

「我々はどの敵を叩く?」

 

「最初から狙いを付けている艦で良い。照準をやり直すほど砲弾も余っていないからな」

 

「目標艦が重複するかもしれんが、良いか?」

 

「構わん」

 

長門も負けてはならぬ、と41cm連装砲を撃つ。

すると3射目に命中弾を出した。

 

「敵艦に命中弾2!火災発生の模様!」

 

「幸先が良いな」

 

「散々じれったい思いをしながらの砲撃でしたから、砲術の皆も鬱憤を溜めていたのでしょう」

 

結果として友軍と合流して勢いを得た我々は反転攻勢に出、翌日の午前7時頃まで続いた戦艦同士の殴り合いの結果、敵戦艦2隻の鹵獲、7隻撃沈、他撃破と言う大戦果に終わった。

 

こちらは長門、霧島、ビスマルクが大破。

ヴァンガード、ローマ、榛名、霧島が中破。

2水戦の各艦を始めとして多くの中、小型艦艇が戦艦の至近弾を食らったり、最後の魚雷戦で砲弾を食らったりで小破、中破した艦が目立つ。

 

結果としては輸送作戦自体も成功し、ソロモン諸島から敵艦隊を撃滅、撃破し制空権制海権共に奪い返す事が出来た。

1機艦の損害は少なく、100機程が撃墜されたが搭乗員は殆どが無事に救助されて補充の機体と搭乗員を待っている状況だ。

戦略目標を達成し、戦術レベルでも十分以上の勝利を掴んだは良いが、こちらの損害も大きい。

 

鹵獲した敵戦艦2隻はポートモレスビーまで曳航し取り合えず防水などの応急修理をした後にバリクパパンで排水と被弾孔や被雷孔を塞ぎ本土に回航、ドックに入渠となった。

乗っていた敵兵とは臨検中隊が乗り込んだ際に戦闘になったが無事に制圧、深海棲艦娘もどうにかこうにか捕虜とすることが出来た。

 

とは言え安芸と違ってこちらは敵意剥き出しで到底話をすることなど出来そうになく、安芸とは別の収容所を安芸がいる収容所の隣に用意することとなった。

勿論自殺や脱走を防止する為に、艦娘の中から10名ほどを選抜し監視に当たらせることとなった。

 

勿論監視に当たる艦娘は可能な限り他業務の免除を図っている。

出撃に際しては特殊部隊から人員を引っ張って来て当たらせるつもりだ。

 

ひとまずは、これでソロモン諸島での戦いは落ち着いたと言っていいだろう。

 

 

 

 

 

 

 








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