暁の水平線に勝利を刻めるか   作:ジャーマンポテトin納豆

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第7話

攻撃隊を収容し始めたのはも1830ともう殆ど太陽は傾き沈んでいた頃だった。

完全に太陽が沈む前に大急ぎで攻撃隊の収容が行われ、完全に収容しきったのは1910ともう辺りはかなり薄暗くなっていた。

 

そして第1護衛艦隊と第2護衛艦隊は攻撃隊を収容後、砲撃戦に巻き込まれるのを防ぐ為に後方に退避した。

既にその位置は第3護衛艦隊から50kmも離れていた。

 

その間、第3護衛艦隊は敵艦隊は会敵し戦闘が始まっていた。

 

「攻撃隊収容完了しました」

 

「分かった」

 

「第三護衛艦隊はどうなっている?もう会敵して暫く経っているが」

 

「交戦距離が遠いからか互いに決定打を打ち出せずにいるようです。鈴谷に敵駆逐艦の砲弾が何発か命中しているようですが損害は無し、カタパルト付近で小規模な火災が発生したようですが即座に消火を完了したようです」

 

「そうか……」

 

事実、第3護衛艦隊と敵艦隊の距離は約17000mとかなり離れていて、重巡である鈴谷の主砲射程は約29500mと余裕はあるが神通や駆逐艦達の主砲は最大射程が20000mも無く命中弾を得られずにいた。

 

両艦隊とも27ノットとかなりの高速で同航戦になっている為、それも要因だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、命中弾が出せないね」

 

「交戦距離が遠いので命中弾を得られずにいます。雪風が既に挟叉を出していますがやはり命中弾は無しです」

 

「距離を詰めたいんだけど近づこうとすると離れて行って今の距離を保とうとするからね」

 

「はい、しかもこの速度ですからね……」

 

「うーん、数と攻撃力じゃ私達が勝っているんだけど」

 

「敵は軽巡までしかいませんから一撃でも当てられれば良いのですが

 

今更だが第3護衛艦隊の隊列は以下の通りだ。

 

 

  

 

 

 

  陽炎       

         イ級

 

  雪風

         イ級

 

  神通

         ヘ級

 

  鈴谷

         ハ級

 

  浦風

         ニ級

 

  萩風     

 

 

  村雨

 

 

 

 

 

 

第3護衛艦隊の各艦の距離は250mほどの距離を保っている。

ここで対水上電探を全艦が装備をしていれば各艦の電探から得られた情報を元に所謂レーダー射撃の実行も可能だったのだが対水上電探を装備しているのは鈴谷と神通だけで駆逐艦は対空電探とソナーの両方、もしくはそのどちらかを装備していた。

 

既に戦闘開始から2時間以上の膠着状態で辺りはもう真っ暗闇、見える明かりは船の艦橋から漏れる最低限の照明か主砲から敵艦を仕留めようと砲弾が放たれるときの砲炎だけだ。

 

「おぉっと……今のは近かったね。軽巡へ級の砲弾かな?」

 

「その様です」

 

「雪風が敵の最後尾の駆逐艦に命中弾3を数えました!」

 

決定打に欠ける中、雪風の放った砲弾が一番後ろを航行していたニ級の艦首付近に2発、艦中央部に1発命中した。

 

雪風は幸運艦と呼ばれ、この戦争の初戦から常に最前線で戦い続けている。所謂武勲艦と呼ばれる艦である。

その名に恥じる事無く戦果や参加した海戦も数多く、空母機動部隊の護衛、夜戦への参加と多岐に渡る。

 

「さっすが雪風達じゃん!幸運艦とか言われてるけど練度も十分以上に高いからね、幸運艦って言葉だけで片付けられない」

 

「その通りですな」

 

『鈴谷さん!私やりましたよ!』

 

「あー、雪風?嬉しいのは分かるけど今戦闘中だかんね?関係無い通信は駄目だよー」

 

『はっ!?ご、ごめんなさい!』

 

(嬉しいのは分かるけどこの戦闘中に意味の無い通信をしちゃう癖治させないとなぁ……下手したら混乱の原因になっちゃうね)

 

「にしてもこう、決定打に欠けて長引いちゃうと面倒だね」

 

「対空戦闘能力を上げる為に駆逐艦から魚雷を全て降ろしてしまったのはかなり痛いです」

 

彼女達には元々命中すれば一撃必殺となる酸素魚雷が搭載されていた。

しかしながら想定されていた戦闘が敵空母から放たれた航空機との戦闘だったために誘爆の恐れもある魚雷を降ろして代わりに対空機銃を増設したのだ。

 

魚雷を装備しているのは鈴谷のみでそれも片舷に61cm3連装魚雷発射管を2基装備しているだけ。酸素魚雷を持って来ては居るが撃つ機会があるかどうかは分からない。被弾によって火災などが発生し誘爆の危険が出てきてしまうと投棄せざるを得なくなる。

 

「ま、それも戦闘が予想されてたのが敵の空母だったから仕方ないって」

 

「魚雷を装備しているのが我が艦のみですから。突撃する訳にも行きません」

 

「この距離と速度じゃまず魚雷なんて当たらないからね、最低5000m以内までは接近しないと」

 

魚雷は砲弾と比べると格段に速度が遅い。

それでも他国の艦娘や深海棲艦が使用する魚雷に比べると速度も射程も長いのだが。

因みにだが6000m先の目標に対して魚雷を放った場合、到達までに凡そ3分ほどかかる。

 

「どうしましょうか」

 

「敵の増援は?」

 

「電探には何の反応もありません」

 

「目視は……この暗闇じゃ使えないね」

 

「敵の増援が来ると?」

 

「うーん、どうかな……でもその可能性は否定出来ないね」

 

「そうですね」

 

「空母がやられたら普通撤退するし。まぁ夜戦に持ち込んで輸送船団を狙うのが目的なら分からなくもないけど数で負けてる上に相手には重巡洋艦がいるんだよ?夕立とか綾波程の戦闘狂じゃなければ普通は撤退するって。なのに撤退もしないでズルズル戦闘を長引かせてるのはおかしいでしょ。そうなると増援が来るかも」

 

「ならば早めに決着を付けなければなりませんが……」

 

「こうも一定の距離を保ったままチマチマやられるとどうしようも無いですな」

 

一応言っておくと、既に各艦とも挟叉弾は出しているし、更に言えば命中弾も与えている艦もいる。

だが射程ギリギリの距離で砲撃をして、更に言えば27ノットとそれなりの高速で互いに進み、回避行動も取ったりするからどうしても決定的な、敵艦を沈める一撃を双方共に与えられないのだ。

 

決して練度が低いと言う訳ではない。

 

「……峰艦長、神通に電文を送って」

 

「はっ、なんと送りますか?」

 

「陽炎と雪風を率いて突撃するように」

 

「了解しました」

 

『我鈴谷。神通ハコレヨリ陽炎、雪風ヲ率イテ敵艦隊ニ突撃ヲ敢行セヨ。実施ハ10分後』

 

「打電完了しました」

 

「それじゃ私達は突撃支援だよ」

 

その10分後、神通率いる突撃部隊が敵艦隊目掛け大きく舵を切った。

既に戦闘開始から2時間半。各艦ともに、特に駆逐艦は弾薬面で不安が出てくる頃合いだが未だ、戦意は旺盛、主砲や副砲の発砲炎が収まる様子は無い。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、突撃命令です」

 

「おぉ!漸くですか!待ち草臥れましたな!」

 

「今より10分後、前方陽炎、雪風と共に敵艦隊へ突っ込みます。良いですか、華の二水戦旗艦の恐ろしさ、思い知らせてやりましょう」

 

「そうですな。先に散って行った戦友達の仇も取れず、悔しい思いをしていましたがまさかこんな形で仇を取る機会が唐突にやってくるとは」

 

神通の艦橋内ではそんな会話が繰り広げられていた。

流石と言うべきか、神通自身も、そして神通に乗艦している妖精達も艦娘と妖精が現れた頃から長年最前線で戦い続けてきているだけあって他の艦娘や妖精とは比べ物にならない程に落ち着き払っていて、戦闘中で無いかのようだ。

 

「10分経過しました」

 

「……では、行きましょう。速力を33ノットへ増速。敵艦隊の前方へ出て針路を塞ぎます」

 

「了解。陽炎、雪風も増速、続きます」

 

神通が右へ舵を切り、敵艦隊の針路を塞ぎにかかる。

だが深海棲艦もそうはさせまいと前方の駆逐艦2隻が速度を上げて妨害しようとした。

 

だが相手が悪かった。

これが神通ではなく他の軽巡や駆逐艦のみであったなら確かにその妨害は成功しただろう。だが彼女はそんな事お見通しとばかりに既に命令が出されていた。

 

「各砲塔には敵が私達を妨害するために出てくるでしょう。予め照準を距離5000に合わせておくように。5000になったら命令を待たずに射撃を開始するように」

 

そう、この行動もすべて読まれていたのだ。

そうとは知らずに何とか神通達の足を止めようと進んでくる。主砲だけでなく機銃まで乱射してきている。

 

だが神通、陽炎、雪風は主砲も、機銃も1発も撃たずに突っ込んでくる。

そして、予め照準を合わせていた5000mになった時、彼女達は一斉に左に舵を切った。すると、T字戦になった。

 

東郷平八郎元帥がバルチック艦隊を破った時に使われた戦法である。

神通達の砲門は一斉に深海棲艦2隻を捉え、瞬時に射撃が始まった。神通の放った14cm砲弾の1発が前を進んでいた敵駆逐艦の2番砲塔正面を貫いた。

 

すると砲塔内にあった砲弾か、それとも揚弾筒内か、弾薬庫かに誘爆したのか大きな音と火を上げて吹き飛んだ。同時に大量の水も水柱となって空に向かって飛んで行き、その水柱が収まった時にはもうそこに敵駆逐艦は沈んだ後だった。

 

残る1隻は、それに驚き慌ててしまったのか一瞬砲撃の手が緩んでしまった。

そんな明らかな隙を彼女達が見逃す訳が無く、陽炎、雪風の12.7cm砲弾を雨の様に浴び、周囲には外れた砲弾が水柱を立てる。

 

そこに神通の砲撃が加わり、残った1隻も物の2分程度で沈んでいった。

 

 

 

 

「敵駆逐艦2、撃沈」

 

「では、予定通り敵艦隊の針路を塞いで叩きます」

 

3隻は予定通り、敵の残存艦隊の針路上に一気に出て鈴谷達と共に砲撃を浴びせる。

鈴谷達は前方に神通達が出たことで速力を落とした隙を見逃さず、速度を33ノットまで上げ一気に距離を詰めた。

 

もはやたった3隻しか残っていない深海棲艦には成す術は無く、軽巡へ級は鈴谷の20.3cm砲弾が複数命中、そのうちの1発が弾薬庫を捉え木端微塵に吹き飛んだ。

その後ろに続いていたハ級とニ級は袋叩きにされて沈むのに10分と掛からなかった。

 

結局、2時間半も膠着していた戦闘はこんなにもあっさりと決着が着いた。

 

その後、鈴谷は艦隊を集合させ、周辺海域に他に深海棲艦が存在しない事を確認した後、輸送船団に合流。

 

 

戦果は軽巡洋艦1撃沈、駆逐艦5隻撃沈。

大して第3護衛艦隊の損害は鈴谷が敵軽巡の砲弾を食らった際に機銃座2つが破片によって電気系統の配線を寸断されて旋回が出来なくなった。

そしてカタパルト付近で火災が起きていたが小規模で特に損害らしい損害は運良くなかった。

水上機も搭載されていなかったし、そのための航空燃料も積んでいない。

 

もしこれで両方共に搭載されていたならば火災の勢いが大きくなり狙い撃ちにされていただろう。

 

そして故障した機銃座も翌日には修理が完了し使用可能となり、実質的には損害は0となった。

 

 

一言で言ってしまうならば完全勝利と言うものである。

第3護衛艦隊は手を上げて数年ぶりの大戦果に大きく沸いた。

 

 

 

 

 

 

その結果を受けて、輸送船団はパレンバンへ入港した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー side 提督 ----

 

 

 

 

 

輸送船団がパレンバンへ入港してから5時間後。

石油とゴムの積み込み作業は順調に行われた。と言っても同時に積み込みを出来るのが5隻づつで、更に満載にするにはかなり時間が掛かる。

タンカー10隻、ゴムを搭載する為の輸送船2隻を伴っての行動だ。

 

残りのタンカー1隻、輸送船7隻は第2護衛艦隊と行動している。

タンカー1隻は燃料を補給するために伴わせた。

 

補給用の燃料を積んできたタンカーも、重なる洋上補給によって90000トン近く搭載してきた燃料も、主に駆逐艦への補給によって2隻分60000トンが空になってしまっていた。残る1隻も帰りの分を考えるとギリギリだ。

 

秋月型10隻だけで10000トン以上の燃料を消費する。

 

思いのほか昨日の夜戦が響いてきている。速力を30ノット近くまで上げたりと高速で3時間近く戦い続けていたから燃料の消費が馬鹿にならなかった。

 

それによって消費した分の燃料を第3護衛艦隊全艦への補給をした。万が一の時に戦闘行動が取れなくなるようなことは絶対に避けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1護衛艦隊はバンカ島とリンガ島の間、かなりバンカ島寄りに航行して上空支援の為の戦闘機を常時12機飛ばし続けていた。

更に周辺に偵察機も飛ばし昼間は奇襲を受けないように務めている。

 

と言っても夜間は飛ばせないので無防備になってしまうが、一応タンカーの甲板上に海軍陸戦隊合計2500名の精鋭妖精が警備についているから多少の安全は確保されているだろう。

 

ただ、戦闘機隊の皆が完全に真っ暗になってから帰投するもんだから心配でしょうがない。一応飛行甲板に誘導灯が無い代わりに飛行甲板外周に沿って電灯を無理矢理くっつけている。

 

まぁ戦闘機隊の面々は真っ暗闇でも艦橋から漏れる灯りだけで当たり前のように着艦するもんだからそこまで心配はいらないのかもしれない。彼ら曰く、

 

「艦橋の位置さえ分かってしまえば飛行甲板や着艦制動装置の位置も分かりますよ。頭に叩き込んでおいて正解でした」

 

と。いや、そんなこと普通出来ないしやろうとしないだろう。

 

その間、第2護衛艦隊は輸送船7隻を伴いボーキサイトを始めとした航空機生産に必要な資源を各地に回収しに行かせている。

 

第3護衛艦隊は我々第1護衛艦隊と共に行動している。

 

 

……今更だが深海棲艦は燃料とかどうしているんだろうか?幾ら深海棲艦と言えども燃料も無しに行動は出来ないだろうし航空機を補充するのには作らなければならないし、砲弾だって鉄が無ければ作れないと思うのだが。

 

しかしパレンバンや各地の鉱山には深海棲艦が使用した形跡は無い。

 

人類がここまで追い詰められた原因や無尽蔵とも言える深海棲艦の戦力の所以はそこにあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦橋内にいるのは俺、艦長、参謀長の3人だ。

飛龍は仮眠中、他の司令部要員はそれぞれ別の持ち場に行っているか飛龍と同じく仮眠中だ。

 

「提督、増派艦隊は2日後に我々と合流出来るようです」

 

「2日後か……輸送船団への積み込み作業はどの程度まで進捗している?」

 

「現在、タンカー10隻中5隻が積み込みを完了。残る5隻も明後日までには完了する予定です。輸送船に関しては既に2隻とも積み込みが完了しております」

 

「丁度、合流予定日と同じか」

 

「はい、かなり急いで積み込みを進め、タンカー乗組員や技術者達が不眠不休でやってくれているお陰です」

 

参謀長から報告を受ける。

今の所問題無く進んでいるようで、寧ろ作業スピードは予定よりも早いそうだ。

 

「何か問題は起きているか?」

 

「そうですね、すぐさまと言う訳ではないのですが航空燃料が少々心許無いですね」

 

「やはりか……タンカーから補給を受けたいが……」

 

「第2護衛艦隊の方に回してしまいましたからね、第2護衛艦隊と合流するまでは無理でしょう」

 

問題らしい問題は無いが、やはり航空燃料が心許無い。

それはそうだ、昼間は常に12機の烈風を増槽付きで飛ばして上空警戒をしているからそりゃ消費量は馬鹿にならない。

 

今すぐに底を着く、と言う訳では無いが、一度補給を受けないともし敵機と戦闘になった場合少々不味いことになる。今回の出撃において、空母である飛龍と蒼龍は基本的には迎撃、防空を主眼に置いているから、何度も敵機が来襲しその度に迎撃戦闘機を上げなければならない。

 

そんな最中に、敵機が向かってきていたり予想される時に航空燃料が無いから、と言ってタンカーから補給なんて受けられるはずも無く。そんな事をしていたらただの良い的だ。

合流したら早急に航空燃料の補給を受けなければなるまい。

 

 

 

 

「潜水艦隊から何か報告は?」

 

「無しです。マラッカ海峡を監視している第1潜水艦隊第1分遣隊、ジャワ海監視の同第2分遣隊、バンダ海第2潜水艦隊第1分遣隊、セレベス海同第2分遣隊も、定時報告以外は何も無し、至極平穏で深海棲艦を1隻も見ないぐらいだ、と」

 

「それならいいんだが……やはりこの方面の深海棲艦は根こそぎインド洋に出たか」

 

「そのようです。残念ながらその後の動向は探れませんので分かりませんが今現在マラッカ海峡からも遠回りとなるジャワ海ルート、更に遠くのバンダ海方面にも一切引き返してくる艦隊はありません」

 

今現在、インド洋に出て行った敵大艦隊が戻って来ないとも限らないのでマラッカ海峡、ジャワ海、バンダ海、セレベス海で2個潜水艦隊を4つに分けて警戒監視任務に就かせている。その際、敵艦隊を発見しそれが戦艦や空母を含む有力な艦隊であった場合は出来るだけ戦力を削るために攻撃を許可している。

 

だが報告によればどうも引き返してくると言う事は無さそうだ。

俺達は軽空母ヌ級2隻を含む艦隊を殲滅したのだから、その攻撃を受けたときに救援の連絡が言っていれば普通引き返してくるが、それを放置してでもやらなければならない目的があるのだろうか。

 

「敵さんは、本当に何を考えているんだろうな」

 

「分かりません。ですが幾つか仮説は立てられます」

 

どうやら、山田参謀長は敵艦隊の目的にある程度の見当を付けているらしい。

 

「ほう、その仮説とは?」

 

「深海棲艦の目的がインド洋ではなく更にその先なのでは?」

 

「先、と言うとアフリカ大陸か?」

 

「いえ、その可能性は皆無かと」

 

「ならばどこを目指してあんな大艦隊が出発したというのだ?」

 

「スエズ運河を超えた先、地中海や大西洋方面です」

 

「……まさか奴ら欧州を完全にこの戦争から脱落させる気か?」

 

「その可能性が大いにあります。スエズ運河は陸続きとあって各国陸軍妖精や航空戦力が死守していました。ですが1年程前に陥落した際、その戦力の殆どは欧州方面へ撤退し燃料等を考えなければ戦力はまだ島国である日本よりはあるでしょう。もし、その戦力が攻勢に転じ欧州近海の深海棲艦戦力を押し返す、もしくは駆逐したとなれば……」

 

「危機感を募らせた深海棲艦が戦力を搔き集めてそれを潰しにかかる、か」

 

今現在、日本は欧州、大陸方面、南北アメリカ大陸、アフリカといった全ての国々との連絡が断たれている。一切通信が出来ない状態にある。

人工衛星に関しては流石の深海棲艦と言えども宇宙空間にある物は攻撃出来ないのか中継衛星や気象衛星は無事だ。だが、地上にあるその電波を受け取るための施設が軒並み1つ残らず爆撃や砲撃で吹き飛んでしまった為に使用不可能なのだ。

 

再建しようにも資材は無く、したとしても直ぐに破壊される。

それにこちらが使えても向こうが使えなければ意味が無いのだ。

だから今では通信と言えば有線の電話か先程から戦闘などで使っている物になる。

 

俺からすれば、スマートフォンや個人用のデスクトップ、ノートパソコンで瞬時に通信が出来ていた、それももうすぐで5G回線なるものが普及し始めようとしていたところに、いきなり旧石器時代に放り込まれたような感覚だ。

 

流石に黒電話やモールス信号まで持ち出して使用していると知ったときは軽く絶望感を覚えた。

 

「はい。欧州において今現在深海棲艦に対抗可能な海上戦力を保有しているのは、イギリス、ドイツ、イタリア、フランスとなっております。しかしながらイギリス以外の国は艦娘とその艦体の数が少なく、イギリスを主戦力としています」

 

「確か、欧州各国の全体的な戦力は深海棲艦による地中海大攻勢でかなり消耗したんだったか」

 

「はい、連絡手段が途切れる以前の1年前までの戦力になりますが空母は、

イギリスのグローリアス級が1隻、

アークロイヤル、

イラストリアス級が2隻、

ドイツのグラーフ・ツェッペリン級が2隻の計6隻だけです。

戦艦は多少余裕がありイギリスのクイーン・エリザベス級2隻、

リヴェンジ級2隻、

ネルソン級1隻、

キングジョージ5世級3隻、

ライオン級1隻、

ヴァンガード。

ドイツがグナイゼナウ、ビスマルク、ティルピッツの3隻。

イタリアがヴィットリオ・ヴェネト級4隻。

フランスもリシュリュー級を2隻。

と計18隻のみです。他艦艇を含めれば総数はそれなりの数を数えるでしょう。ですが1年前の情報なので信頼性は皆無です」

 

「日本の現状を考えると、今言った戦力の4分の1が動かせればマシか……」

 

「はい。どちらにせよ、あれほどの規模の深海棲艦隊の大攻勢を止められる程の戦力は持ち合わせていないと考えるべきです」

 

「かつてのロイヤル・ネイビーも今や影も形も無い、か」

 

「えぇ」

 

「そう言えばロシアはどうした?」

 

「ロシア海軍は文字通り壊滅しました。北極海沿岸部を全て防衛しようとした事、ソ連時代の影響力を取り戻そうとしたのかむやみやたらに北海方面に派遣した結果、壊滅しました。ロシアは今現在沿岸部をすべて捨て内陸部に後退しました。どうやら幾らかの艦娘と妖精、陸軍妖精は残っているようですが詳しい情報はありません」

 

「警告する手段もなければ援軍を送る戦力も無い。必然的に見捨てるという結果になってしまうのか」

 

「そうなります。燃料も北海油田は深海棲艦の勢力下、頼みの綱だったバクー油田も重爆撃機によって破壊されつくしましたから……」

 

「我が海軍以上に燃料問題は深刻か」

 

「スエズ運河は放棄時に徹底的に破壊したそうですが既に使用可能になっていてもおかしくはないかと」

 

「そうか……」

 

日本は全国中が焼け野原になっているが戦える力と、その戦力を立て直せる設備が多少なりともあるだけマシだ。

 

援軍の話をするとすれば、向かわせる事はほぼ不可能。

太平洋から行くにしてもインド洋から行くにしても超が付くほどの遠回りだ。

 

パナマ運河、スエズ運河は深海棲艦に支配されているから必然的に南米大陸、アフリカ大陸をぐるっと迂回して行かなければならない。

 

しかもその道中には深海棲艦の一大拠点、棲巣と呼ばれるものがある。

ここには、陸上型の深海棲艦が存在している。鬼、姫級の名前が付いているとんでもなく厄介な存在だ。

しかも陸上型だけならばまだいい。だがそれだけではなく戦艦や空母、軽、重巡洋艦クラス、駆逐艦クラス、潜水艦とそれぞれの艦種まで全てに存在している。

 

太平洋には南太平洋方面のラバウル、パプアニューギニアのポートモレスビー、ソロモン諸島、ニューカレドニアと確認されているだけで4つ。

 

北太平洋にはアリューシャン列島沿いに1つとダッチハーバーの2つ。

 

中部太平洋にミッドウェー諸島、ハワイ諸島。

正直、このハワイ諸島が一番厄介なのだ。大敗北を期した日米合同艦隊での奪還作戦時に確認されただけでも陸上型の、飛行場姫などが最低でも5~6。そしてそこにいる各艦種を合わせて最低でも20以上。

 

それに加えてヲ級やヌ級と言った空母にル級などの戦艦、随伴艦の巡洋艦や駆逐艦。

総戦力はインド洋に向かった300隻よりも少ないが、質が桁違いだ。

 

インド洋にはコロンボ軍港とモルディブのアッドゥ環礁の2か所。

 

地中海にはジブラルタル海峡、シチリア島、ダーダネルス海峡、ボスポラス海峡。

 

大西洋にも存在するらしいが未だに確認できていない。

 

これほどの一大勢力地を通り抜けるか、潰して漸く海路が確保出来て派遣可能となる。

それにパナマ運河、スエズ運河も棲巣となっていると予測されるし、その2か所を奪還しなければ燃料を無駄に消費し、日露戦争時のバルチック艦隊と同じ運命を辿る事になる。

 

正直、どうにかして助けたいという思いこそあれど、見捨てるしかないのだ。

そもそも今の日本には自国の防衛すら危ういのに出来るわけがない。

 

 

俺達に出来る事と言えば、心の中で謝る事ぐらいなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後、増派艦隊と合流。

 

第2護衛艦隊と増派護衛艦隊は航空機生産資源を運ぶ輸送船を護衛し各地を回り、第1護衛艦隊と第3護衛艦隊は引き続きリンガ島の間、かなりバンカ島寄りの海域を遊弋し護衛に務めた。

 

数日を掛けて増派輸送船団も石油やゴム、各種資源の積み込みが完了。

 

気が付けば62隻の大艦隊となっていた。

まぁ輸送船が半分以上を占めるので疑問は残るが。

 

幾ら敵艦隊が1隻も見つからないとはいえ、のんびりとはしていられない。

積み込みが完了し、即座に日本へ向けて針路を取った。

 

途中、スコールに何度か襲われたが風呂に入る機会の少ない船の上では恵みの雨として下士官妖精達が素っ裸で体や頭、衣類を洗っていた。

 

艦娘的には自身の体の上で入浴され、洗濯されているような物だからどうなのか、と思った。

 

その時、思わず女性としてどう思っているのかと飛龍に聞いてみたがかなり意外な返答が返って来た。

 

「え?あぁ、正直気にしてないかな。あの戦争の時なんか目を逸らす事も出来なかったし。今は目を逸らせるからねー。それにこれは仕方が無いと思う。ていうか提督、女性として扱ってくれるのは嬉しいけどあんまりそう言う事聞かない方が良いよ?」

 

だそうだ。

心なしか艦長や参謀長達が申し訳なさそうに顔を背けた気がした。

 

 

 

 

日本へ向けて航行している道中、これと言って何か問題が起きた訳では無く、寧ろクルージングでもしているのかと思うほど平穏だった。

 

 

そして日本から出撃して2週間と3日。

 

「提督、四国が見えてきました」

 

「そうだな……最後までしっかりと警戒を怠るな。最後の最後に被害が出るなぞあってはならないからな」

 

「勿論承知しております」

 

漸く日本に帰国した。

 

 

 

 

ーーーー side out ----

 

 

 

 




今回はどちらかと言うと、誰の視点でもない?3人称視点を入れました。初めて書いてみましたが、如何だったでしょう?
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