だいたい川内と会話するだけの文章   作:ほし。

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昔読んでたポケモンのssが6年ぶりに更新されたので。1年前に。書くかなぁって。1年ぐらい。
誰も覚えてないと思いますが。




SKIT

 

 

 思っていたより依存していたらしいというのが、ここ最近で得た実感だ。

 

 何をするにしても「今どうしてるかな」などと思考が寄ってしまって、手が付かないとまではいかずとも、仕事の処理能力に陰りが見える。

 これはよくないと思い直し、気合を入れて執務を終わらせたあとの休憩中、湯呑を指で突いたりして弄んでいると、不注意ですこしこぼしてしまったりする。

 慌てて拭き取る前に、「すまん」と誰もいないところに謝ってしまうから、もう重症で。

 

「私は明日死ぬのかもしれない」

「し、司令官……?」

 

 誰に吐き付けるわけでもなかった独り言を、切羽詰まった末の吐露だと勘違いされて、

 

「寂しいのは分かりますけど、めげちゃダメです! すぐ帰ってくるんですから!」

 

 と、懸命に励まされてから、そういえば吹雪と一緒にいるんだった、と思い出す。

 そうした散漫な注意力で、数えきれないほど失態を晒した。

 

 それらすべて川内が出撃してから十日後とかの話だったから、いかに彼女なしで生きられなくなったか、いやでも自覚した。

 

 

 

 冬も更けつつある。

 優柔不断らしく川内との距離感に未だ悩んでいると、時間のほうも早く過ぎ去ってしまった。作戦参加艦の選出などあって、二か月前には大規模作戦海域への出撃が実行された。

 北方の逼迫した友軍への輸送作戦で、最終的には北極海の航路を確保するのが目的とされた作戦だった。初参加にしてはそれなりに重要度の高い作戦だったろう。

 とはいえ、担務としては後方支援や前哨戦に回っただけなので、特にこれといった滞りもなく進んだ。あとは単純に輸送船団の往復を護衛するだけで、敵方の阻止艦隊を適度に相手取るくらいだ。

 

 任された輸送護衛だけ慎重に終わらせて、あとの本戦は先達に任せる。

 この鎮守府から送り出した艦娘たちは、一足先に安全な航路を選んで帰ってきてもらうことになった。

 二正面作戦らしく、台湾方面への戦力強化も行うらしいが、これは私の預かるところではない。緊迫した雰囲気だけは理解しつつも、やはり安堵の方が多い。

 

 すべて順調だった。

 

 変わったことといえば、ただちょっと、川内と二か月ほど会えずにいたことくらいで。ほんとうに、それだけ。

 秘書艦に関してもそこは吹雪が務めてくれたので、特に問題はない。

 失態があったとしても、ちゃんと些事程度で済んだ。

 

 注意力が散漫になって飲み物をこぼしたり、見えているはずの棒にぶつかったりするくらいでしかない。

 ほんとうに、それだけ。

 

 …………。

 

 自分に嘘はつかないほうがいい。今のうちに撤回しておこう。些事ではなかったかもしれない。

 

 川内のいない期間、精神的な負担が以前より跳ね上がったのは間違いなかった。

 それが誰のせいなのかは分かっているが、どうしても他の言い訳がしたくなる。はじめて大規模作戦に触れるから、とか、全艦無事に帰ってくる保証がないから、とか。

 そうやって心労の原因を他のどこかに預けてしまえば、きっと私はまともでいられるはずだった。

 

 まともじゃないので、私は今日も茶をこぼした。

 それも今日で改善されるはずだ。

 

 数日前に某所を出航した彼女は、このまま何もなければおそらく今日の夕方ごろに帰ってくることになる。

 今はいつ来るか分からない通信を相手に一喜一憂しているところだ。

 

『……びっくりするくらい何もなかったね』

「そんなもんだろう」

 

 来たら来たで、味気ない返事を返してしまうのが私のよくない部分だ。

 

『うまくやれてた?』

「そう聞いてるが」

『そっか、それならいいけど』

 

 作戦中は彼女たちと直接やり取りをすることはなく、本隊の指揮官や大淀を通した連絡が主だったため、彼女の声を聞くのは久しぶりだった。

 

 作戦の内容に関してはただひとつの滞りもなかった。もともと練度も高く経験も多い艦娘ばかりなのだし、当然だった。

 むしろうまくやれていたかどうか聞きたいのは私の方だ。

 

『ねね、提督』

「ん」

『帰ってきたらすこしくらい褒めてくれればいいなって思うんだけど、どうかな』

「ああ。もちろん今回の作戦参加艦には全員に褒賞を──」

『いや……うーん』

 

 期待に沿えない返答だったらしい。

 いや、何を言いたいかはわかるつもりだが、ほんとうにその意味で言っているのか、確証が持てない。

 

『提督』

「なんだ」

 

 だから、なにかしらそうしたサインや根拠が見つかることを望んで、私は次の言葉に期待を寄せるしかない。

 

『あー、やっぱいいや』

 

 ……まあ、そういう奴だ。

 

『じゃあそろそろ切るね。あと数時間かかりそうだけど、あったかいお茶用意して待ってて』

「いや」

『ん? なに?』

「そういえば君は、その、えー……」

『君は?』

「……牛乳、氷入れて飲んだことあるか」

『ないけどなんの話?』

「いやすまん忘れてくれ。いや、そうじゃなくて」

『…………』

「発泡スチロールは燃えるゴミでいいんだったか?」

『なんの話?』

 

 なんの話だろう。分からなかった。

 もっと自然な話題の引き延ばし方を懸命に探した。

 

『じゃあそろそろ』

「いや」

 

 自然なやり方。

 

「そういえば、風邪はひいてないか」

『大丈夫』

「怪我は」

『あったとしても治るでしょ』

「変なものを拾い食いしてないか」

『私のこと犬だと思ってる?』

「変な人についていってないか」

『大丈夫だよお母さん』

「牛乳に氷入れて飲むと案外まろやかになるらしいが」

『そうなんだ、帰ったら一緒に試してみようよ。じゃ! そろそろ』

「いや」

 

 自分に失望した。

 川内と会わないうちに、会話の仕方すらも忘れてしまったらしい。

 

『提督、これいつまでやるの』

「……すまん」

『全然いいんだけど。大丈夫? どうかしたの?』

 

 彼女の声も、若干心配の色を帯びてしまっている。

 

 自分でも何をどうしたいのか、よくわかっていなかった。

 会話を引き延ばす理由すら分かっていない。ただこの時間がもう少しだけ生き長らえてほしい、と願っているのは間違いなかった。

 

「……その。もうすこしだけ繋げないか」

『えっ? う、うん。べつにいいけど。どうしたの?』

「いや……」

『……ふーん、へーえ』

 

 なにか察したように声を和らげる。

 この無線の向こうでにやにやと口角を上げている彼女の表情が鮮明に想像できる。

 

 想像できてしまうからだ、と彼女のせいにした。

 

『寂しくなった?』

「そうかもしれない」

『だから無理に話を引き延ばそうとしてたの?』

「ああ」

 

 しかし寂しいのとは違った。

 その時期はとうに過ぎていて、虚無で日々を過ごしていたから、それ以外だ。

 

「いや」

『?』

「嬉しかったんだ。声を聞けて。寂しかったわけじゃない」

『そっか』

 

 彼女は嬉しそうに笑った。

 

『今日の提督、ちょっと素直で、ちょっとめんどくさいね』

「すまん」

『あっいやっ、べつに悪い意味じゃなくて』

「…………」

『……むしろその、めんどくさいところがかわいいっていうか』

「…………」

『嫌いじゃないよ』

 

 嫌いじゃない。

 

 そういえばこういう言い回しをする奴だったな、と思い出す。

 大事なところを彼女は妙にぼかしてしまうから、私は踏み出せないようになっているのだ。

 そういう仕組みだった。

 

『ね、提督。帰ってきたら私のこと、ちゃんと褒めてね』

「……ああ、そうだな」

 

 少し時間を開けただけで、もう懐かしい。

 頭を支配していた靄が、立ち消える気配がした。

 

「……川内」

『ん、なに? まだ寂しい?』

「冷静になってしまった。君には本当に申し訳ないが」

『うん? うん』

「君の周りには僚艦がいるはずだ」

『うん、うん……うん? あれ?』

 

 彼女のことだ。今きっと、私の言葉に我に返って、あたふたと周囲を見渡しているのだろう。

 

『……あっ』

 

 僚艦たちの生暖かい目に彼女はすこしだけ顔を赤らめて、どうしていいかわからず数瞬だけフリーズする。

 そうやってしばらく固まったあと、間違いなく彼女はこの通信を切ろうとするから、私はそれをなんとか繋ぎ止めなければならない。

 

「川内、その……」

『っ切るから!』

「まだ話していたい」

『切るってば!』

 

 無理だった。今度こそ本当に切られてしまう。

 まあ数時間後には実際に会えているだろうからいい。

 

「…………」

 

 背もたれに体を預けて、天井を見上げた。

 なんだか気が抜けるのを感じた。悪い感覚ではなかった。

 

 今まで覆いかぶさっていた泥が、さっぱりと立ち消えていくのを感じていた。

 ぼやけていた脳の輪郭が、もとにもどったようだった。

 

 …………。

 

「まあ、私も人のことを言えないか」

「みたいですね?」

 

 秘書艦の席でにまにまとこちらを見つめる吹雪に、私は苦笑を返すしかなかった。

 

「なんだ、その顔は」

「いえ、べつに」

「そんな愛おしそうな目で見るな」

「お二人がかわいくて」

「やめてくれ」

 

 勘弁してほしい。

 ……と思うのと同時に、自然と口角が上がるのが分かった。

 

「楽しそうですね、司令官」

「ああ。楽しみなんだ」

「楽しみ。会うのがですか?」

「さあ」

 

 一応隠しておく。

 隠すまでもなく知られているだろうが。

 

 吹雪が文句ありげな表情をしたので、詰められる前に答えることにした。

 

「再会とまで大げさじゃなくても、久しぶりに会えるから」

 

 らしくないかもしれないが、それも心地よかった。

 

 

 







復帰直後でしたが、久しぶりのイベント海域はわりと楽しめました。モチベはあると思います。
ブルアカとか書いてるので同時にこっちも……やれたらなあ……って……
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