だいたい川内と会話するだけの文章   作:ほし。

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休暇の暇

 休暇をもらってから5日目。

 急なものであっても休みなら思い切り休もうと思っていたが、今日は朝から司令室の席についていた。理由はない。なんとなく。

 特に何をするわけでもなく座ったままでいると、いつもの時間に川内が司令室に来てしまった。なんとなくらしい。

 

 会話もなく、2人していつもの席でぼうっとしていると、小鳥の囀りが少し開いた窓から聞こえてくる。

 憎いほど清々しい朝だ。豪雨かつ暴風な天気なら、少しはやることがあるのだが。

 

 頬をついて虚空を眺める私と川内に、もはや生気は感じられないはずだ。

 やけに感覚が研ぎ澄まされ、そのおかげで、川内が口を開く動きがすぐに分かった。

 

「……休暇もありすぎるとだめだと思うんだよね」

「具体的にはどこがだ」

「こんな風に、なーんにもやることなくなるから」

「ぐうの音も出ない」

 

 昔から長期休暇は向いていない性格だった。

 学校などのそれもそうだ。最初は後回しにしようとしていた課題だって、長期休暇への飽きが来てしまうと自主的に取り組んでしまっていた。

 課題もすべて終わってしまったあとの残りの日々は、ひどく退屈だった。遊び呆けるのも飽き、やるべきこともない。死人のように日々を過ごしていた。

 

 振り返ると、長期休暇を満喫できたためしなどないように思う。

 川内も、きっと同じなのだろう。

 

「そういえば提督、ここ3日いなかったけど、なにしてたの?」

「実家にいた」

「帰郷してたんだ……せっかくの休みだもんね」

 

 しまった。初日の突発菓子集会で川内型たちには伝えたと思っていたが、記憶違いらしい。

 下手をすれば失踪事件と間違えられたかもしれない。次からは気をつけなければならなかった。

 

「どんなことしてたの?」

「特に何もしていない。両親に挨拶をして2日過ごしただけだが」

「……じゃあさ、提督の故郷って、どんなところなの?」

「特に何もない。蓮根がそこら中で見つかるような田舎だ。これといった施設も娯楽もない」

 

 高度が高い土地だった。土壌にもそこまで恵まれていない。

 それでいて付近に平野があるわけでもなかったので、昔から栄えようがなかったようだ。

 

 最低限電気と瓦斯と水道、あと気休め程度にネット環境が整ってはいたが、コンビニひとつもありやしない土地だった。

 

「そこまで田舎なんだ……? でも田舎って、のんびり暮らせる感じがしていいよね」

「ああ。ゆっくり過ごすのに最適だ。まず空気が綺麗。見た目がおぞましい虫や害獣などにも遭遇できる。田舎はいいところだな」

「……プラスポイント、空気が綺麗しかなかったの?」

 

 そんなもんだ。都会に住む者が抱くイメージ通りの環境は、実際にはないことが多い。

 田舎の自然には、誰もが避けたがるモノが溢れかえっている。逆に、誰もが触れていたがる娯楽はほとんどない。

 

「……ああいや、娯楽はひとつあったかもしれない」

 

 私にはせめて、たったひとつ娯楽だったものを教えてやることしかできなかった。

 

「幼少の頃は、町内会の爺婆が集まる会議所に友人数人で押しかけると、活発でいい子だと可愛がられ菓子を恵んでもらえた。それが唯一の娯楽だった」

「……提督、幼少期は元気で可愛い子だったんだ」

「…………」

「ご、ごめんって」

 

 言いたいことは分かる。私だって、幼少期の自分を振り返ってそう思うものだ。

 しかし川内にそう思われるのは、なんとも言えない感情があった。……自分がよく分からない。

 

「……本当に何も無いところだったが、採れたての蓮根は美味かった。悪くはない土地だとは思う」

「そっか。そうだよね」

 

 私が故郷を肯定するような発言をすると、何故か嬉しそうな表情をする。

 ……川内のことも、よくわからなかった。

 

「提督、故郷のことなら饒舌だね」

「そう思うか」

「うん。普段仏頂面で喋るのに、さっきは楽しそうに話してた」

「……そうか」

「……提督、今も可愛いね」

「…………」

「……あ、謝らないよ」

 

 本当に分からない。こんな性格をしていただろうか。調子を狂わされる私も、調子を狂わせる川内も。

 神通をこの場に呼べばいつもの調子に戻るのだろうが、そのときは私も軽くない傷を負う。呼ぶに呼べなかった。

 

「……川内はどうなんだ。君の故郷は」

 

 苦し紛れに話題の主役を譲る。

 強ばった表情をする川内を見て、すぐに後悔した。

 

「え……あ、その、えっと」

「あ、いや……すまない。本当にすまない」

「……ううん。大丈夫」

 

 ──最悪の選択をしてしまった。目の前にいるのが何者なのかを忘れていた。少し考えれば分かるはずだったが、発言に思考が伴っていなさすぎた。

 彼女が人間でないことを忘れるなど、最も忌避すべきことだった。私の立場なら、尚更。

 

「……すまん」

「もういいって」

 

 慎重に言葉を選ばなければならない。

 空気が重い。彼女に与えてしまった不快感を消すにはどうすべきか、その考えだけが頭に残る。

 自責と後悔に押しつぶされそうだった。

 

「……って言っても、提督は気にするよね」

「…………」

「提督」

「……はい」

「なんで敬語なの……ま、いいや。私はべつに気にしてないけど、提督はこの先もずっと気にしちゃうだろうから」

 

 川内は普段の調子で私に話しかける。私の失言などまったく気にしていないような素振りで、苦笑を浮かべながら私の性格を語る。

 本当になんでもないような表情をしている。

 

「明日、買い物に付き合ってよ。服買いに行きたいんだよねえ」

「……わかった」

 

 それでも、声が震えるのは、隠せないようだった。だんだんと、表情も崩れそうになってくる。

 

 こんな()()()()()をここまで追い込んだのが自分なのだという自覚に、むしろ冷静になる。

 自身が辛い時に他人を慮ることができるような艦娘に、自責だの後悔だのと落ち込んで、これ以上気を使わせるわけにはいかなかった。

 

「川内」

「ん、なに?」

「ありがとう」

「んー? よく分からないけど、どういたしまして」

 

 震えた声のまま、川内は笑ってみせる。

 彼女の性格は、よく分からなくなったままだ。

 

 それでもひとつ確かなのは、思っていた以上に、私が川内に支えられていることだった。

 

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