Fate/kaleid liner advanced プリズマ☆サクラ   作:風早 海月

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改訂版・無印
間桐桜


衛宮士郎。半人前の魔術師―魔術使いだが、彼には一つだけ秘密があった。

『固有結界』とそこから溢れ出る『投影』。それらは魔術協会に知られれば、封印指定に指定されるのは間違いない。

 

間桐の家の束縛から逃れ、稀有な魔術属性を持っている桜もまた、ホルマリン漬けにされかねない立場である。間桐の束縛から逃れたということはイコール庇護下からも離れたのだから。

 

だが、間桐・衛宮の各家の遺産によって2人の生活は今のところは順風である。間桐は特に数々の霊地の持ち主である上に間桐臓硯は堅実な資産運用をしていたため、桜曰く「アインツベルン城がいくつも建てられる」らしい。

逆を返せば、間桐の研究結果(衛宮はたかが知れてる)を求めてくる輩もいるかもしれない。

更に、桜は間桐の蟲と小聖杯としての後遺症が体調を不安定にさせていた。

 

 

そういうこともあり、士郎は凛の『遠坂の宿題』に乗っかってゼルリッチの下へ赴くことにした。

だが、弟子入りして数年。案の定、士郎は凛に遅れをとっていた。宝石剣は遠坂家のアゾット剣や儀式用のアゾット剣などと同じく本質は『剣』ではなく『杖』であるため、第二魔法には近づけていなかったのだ。

 

だが、士郎の適性を見抜いたゼルリッチが作った『穿刀(うがちがたな)』という時間と空間を斬るための剣を手本に第二魔法に近づき、とうとう自力で『宝石剣・突』を作り上げたのだ。

 

そんな時、安寧の時間は過ぎ去る。

 

『封印指定』

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ゼルリッチや凛が口を割ることは無いはずだし、どこからバレたかなんて気にしている暇などなかった。

 

「世界を穿て…穿孔開始(トレース・オン)!」

 

迫り来る封印指定執行者を退けつつ、逃避行と洒落こんでいた。

 

『元』が時間と空間を斬るための刀であるため、同じ世界の中ならば簡単に空間に裂け目を作って移動出来た。ちなみに穿刀とは異なり、刀状ではなく短剣状なのは持ち運びを考えてだ。

 

 

 

 

そして、数年。世界中を回るうちにとうとう執行者も諦めた様に襲撃が減ってきた時だった。

 

「久しぶりね、衛宮君」

 

遠坂凛が目の前に来たのは。比喩でもなんでもない。『宝石剣』を中心に研究していた凛は空間の転移が苦手だったはずだった。

 

「遠坂…」

 

だが、士郎はそこまで驚いていなかった。なぜなら固有結界に関係せずに自分に出来て、凛が『王道で』出来ないわけが無いと思っていたからだ。

 

「いきなりで悪いけど、直ぐに帰ってきなさい」

 

その後に続いた言葉に、士郎は頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

「桜が危篤なの」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

遠坂の話もそのままに、宝石剣・突で空間を斬り開いて遠坂邸に行く。桜は衛宮邸よりも堅い護りだから、遠坂邸に住んでいるのだ。

 

遠坂邸の結界は士郎が入れるようになっているため直接玄関へ出た。1秒でも早く桜の下へ行くために。

 

桜は部屋にいた。呼吸も浅く、遠坂邸の霊脈から引いている魔力で動く生命維持魔術でなんとか生きている状態であった。

 

追いついた凛が士郎に説明する。

 

「どうやら、イリヤスフィールと同じみたいね。聖杯戦争に向けて身体を弄り回されてたみたいなのは知ってると思うけど、小聖杯の重みは人としての寿命を一気に削ったみたいなの。かなり大きい魂を取り込んでたみたいで、こんなに早く…」

「どうにかならないのか!?」

「出来るならもうやってるわよ!」

 

必死に凛に聞くが、凛もまた無力感に苛まれていた。

 

「…まだ分からないだろ…なにか…アインツベルンは…?」

「………あそこはもう…なにも」

 

アインツベルンは『最高傑作』たるイリヤとバーサーカーの組み合わせで勝ち抜けなかったことから、本家の方はアハト翁の本体たる管制機構はほぼ停止しておりホムンクルスの寿命を待っているだけ、イリヤの住んでいた城もメイドのセラ1人が短い余生を彼女の愛する自然の中で過ごしているだけだ。

 

「それに、私の伝で大師父にも診てもらったのよ。それで打つ手なしなんて、もうどうしようもないわ」

「…クソッ!」

 

士郎はやり場のない怒りと悲しみを抱え、凛もまた…

 

「桜とも話し合ったわ。たまに起きた時に…大師父も交えてね。結論だけ言うと、桜を素体に蒼崎橙子によって人形を作ることになったわ。あなたにはその人形に移ってもらう。あなたの体が蒼崎橙子への等価交換よ。そして、更に平行世界に飛んで貰うわ。この世界の執行者や代行者たちには、あなたの魔術や第二魔法の片鱗は理解されてしまっているもの」

「…どういう…ことだよッ」

「落ち着いて、衛宮君。あなたは封印指定。今は桜のために大師父に協会を押さえてもらってるだけよ。しかも、魔術協会を出た封印指定は聖堂教会からも狙われるわ。特にあなたの異端さを知ってしまったら。それこそ埋葬機関が出てきてしまうかもしれないくらいには。そこで、あなたの姿を変えることでとりあえず問題はクリアという訳よ。……そして、もうひとつ。あなたここ何年も桜の所に帰ってないでしょ?せめて死んでからは一緒にいたいっていう桜の思いもあるわ。…正直、私はあの時あなたと時計塔に行ったのは間違いだったと思ってる。確かに衛宮君はかなり力を得たわ。でも、その代わりに衛宮君は桜との時間を失ったのよ。それと同時に、桜の最愛の人との時間も奪ったのよ。それを自覚しなさい。それでもなおこの話を蹴るなら、私は衛宮君を殺さないといけなくなるわ」

 

士郎は自責の念と後悔が心に広がっていた。その時だった。

 

「…せ、せんぱ…い…?」

「桜!」

「よか…た。やっ…ぱり、死ぬまえ…に会いた…かった…」

「すまん、桜!桜のこと、ちゃんと考えれなくて…!」

 

士郎の涙ながらの謝罪に、微かに首を横に振る。長いことは言えないのだろう。

 

「……ありがとう………せん…ぱ…い…」

 

また眠りに着いた桜に、もういつ逝ってもおかしくないことを肌で感じ取った。

 

「遠坂、しばらくここに住まわせてくれないか?」

「ええ、もちろんよ」

 

士郎はせめて最期だけでも…と、桜の細い手を握る。

 

 

 

 

それから2週間後、間桐桜は息を引き取った。あれから最期まで、二度と目を覚ますことはなかった。だが、その顔は満足したように微笑みながら逝った。

 

「これから1年、人形の作成に入るわ。衛宮君はどうする?」

「…衛宮と間桐の家の()()()しとくよ」

「そう…」

 

もうこの世界から消えることが確定しているから、研究成果や持っているものを整理して、凛に譲渡する予定なのだ。

 

「弓を引けない弓兵なんて、弓兵(アーチャー)じゃないよな」

 

弓道は士郎にとって、桜との思い出の中のものだった。

士郎にはもう弓を引くことは出来なかった。唯一一流となれた弓は番えることすら叶わず。

 

桜を失ったやるせなさや悲しみや怒りをぶつける先はもうない。間桐臓硯は没しているし、アインツベルンは崩壊している。遠坂は凛しか残っていない。

 

それでも、桜の意志を無駄にしないように。いや、遺志とでも言うべきか。

 

間桐の土地を遠坂に移譲し、衛宮邸を掃除して出てきた切嗣の起源弾1つをお守り代わりに貰う。間桐も衛宮も大した研究結果など出てこなかった。

 

 

そして、1年が経った。

1年も経てば、気持ちもだいぶ整理が着くものだ。

 

 

「大師父…遠坂…ありがとう。新たな体の命が尽きるまで、俺は桜と共に生きる。最期まで」

「うむ、それが良い」

「さあ、桜を呼ぶわよ」

 

凛が襖を開ける。

 

「えーと?」

「その…桜の身体は間桐の魔術で汚染されてたのよ。だから素体の半分くらいしか使えなくて…」

 

2歳から3歳位の可愛らしい紫髪の女の子がそこにいた。まるでお人形さんのような…実際人形の女の子だ。

 

「女の子の成長期手前位までは成長出来るそうだから、安心してちょうだい。…さ、意識を移すわ」

「頼む」

 

この日、士郎は文字通り『桜と一つになった』のだった。

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