Fate/kaleid liner advanced プリズマ☆サクラ 作:風早 海月
「美遊・エーデルフェルトです」
「はーい、みんな仲良くしてあげてねー」
藤村大河のいつも通りな高いテンションの隣に真顔の美遊。
(うん、やっぱこうなるよね…)
(なるほど、転校生展開ですかあ。なんともベタですねー)
(………昔…どこかで……)
おのおの、思うことはあるのだろうが、美遊のサクラを見る眼圧が凄まじい。怨念こもってるんちゃうか?というほどに。
だが、サクラはそんな彼女をどこかで見たような覚えがあった。別に彼女自身を知っているという訳では無いが、なんとなく知っているようなそんな感覚を持っていた。
朝の会…中学以降で言うところのSHRだが、それが終わった途端に美遊の周りに駆け寄る4人。いつものメンツ。
さすがにそんな状態では…
「いろいろ聞きたいことはあるけど…これじゃムリだね」
「神秘の秘匿は魔術師なら当然…まあ、魔術使いなんだけど」
イリヤとサクラはそれを少し離れながら見てボヤく。
《では、代わりにわたしがお話を伺います》
「わっ!?」
《あらあら、サファイアちゃんも来てたんですねー》
「イリヤ、静かに!バレるよ」
緊急避難的に窓の外にステッキ共を出す。
《紹介がまだでしたよね。こちらわたしの新しいマスターのイリヤさんです》
《サファイアと申します。姉がお世話になっております》
「はぁ、ども…」
イリヤを紹介するルビーと、ぺこりと頭を下げるように傾くサファイアになんとも言えないシュールさをイリヤは感じた。
「ステッキ、2本だったんだ…」
「私はそもそもあなたたちが何者か聞いてはないんだけど…?」
《わたしとサファイアちゃんは同時に造られた姉妹なんですよー》
《魔力を無制限に供給し、マスターの空想を元に現実に奇跡を具現化させる。それがわたしたち、カレイドステッキの機能です》
「つまり、魔術礼装なのね?」
《どちらかといえば…そうですねぇ》
《…わたしたちを制作した―――》
「宝石翁、第二魔法…であってる?」
《分かっていたのですかー。ルビーちゃん驚きです》
「第二魔法については造詣があるから…」
「サクラ、魔法少女だったの?」
「…遠坂…さんも言ってたと思うけど、魔術師…または魔術使いが正しいかな。魔法少女ではないね。…ま、第二魔法に造詣があるって言うところで魔法少女って言われても仕方ないんだけど…」
サクラは第二魔法を極めたという訳では無いものの、宝石剣を超える性能(多機能という意味で)の宝石剣・突を造ったことで、会得してはいる。ステッキから感じる感覚は第二魔法の感覚があった。
「ところで、サファイアの話に戻ると…?」
《あ、はい。先日までルヴィア様にお仕えしていたのですが、故あって…》
「乗り換えたのがあの子ってわけね」
イリヤとサクラは美遊の真顔を思い浮かべる。
「魔法少女らしくない…って思ってるでしょ、イリヤ」
「えっ!?なんで分かったの!?」
「だって、イリヤの魔法少女像ってムサシでしょ」
「う…」
サファイアの持ち主の話になったところで、ルビーはふと思い出したことがあった。
《そう言えば、美遊さんも大したものですねー。あの時クラスカードの宝具使いかけてましたよ》
攻撃中だったサクラと、敵と砲火を交えていたイリヤを除き、みんながサクラの攻撃に目を取られていた中で唯一美遊のことを観察していたルビー。サクラはその言葉に「ルビーの前でむやみに突は使わない方がいいかな」と思った。
「宝具…?」
《説明していないのですか、姉さん?》
《そういえばカード周りの詳しいことはまだでしたね!一度に説明しても混乱させるかと思いまして》
ここから始まるルビーの話を要約すると、以下の通りだ。
・約2週間ほど前突如として
・歪みの元はクラスカード
・既に2枚のカードを回収済み
・解析出来たのは英霊の力を引き出すという効果のみ
・ライダーの対魔力スキルの高さにカレイドステッキが参戦
・観測したカードの枚数は7枚
・残り4枚
(やっぱり聖杯戦争…でも、冬木の大聖杯は起動してないはず。小聖杯たるアイリスフィール…ママが冬木にいないし、イリヤは封印されてる。私のは私自身が使おうとしなければ使えない。そもそもカードなんてこの世界でも使われてない。なら…平行世界?…ううん。平行世界でも冬木の聖杯戦争は全てサーヴァント使役式なはず。なら…異世界?それとも…さらに外の世界?そもそも、もしもあのカードがただの礼装なら…7枚である保証は無い)
《わたしたちも全力でサポートしますので、
「うん…いまいち自信ないけど、頑張ってみるよ」
《大丈夫ですよ!わたしがついてます!…あ、そうそう、ちょっと聞きたいんですが美遊さんのあの苗字って…》
サクラの思考の横でイリヤたちが親交を深めていると、後ろから美遊が来た。だが、イリヤは気づかなかったので…
「サファイア、あまり外に出ないで」
「いっ!?」
ビクッとしたようだ。
《申し訳ありません、マスター。イリヤ様にご挨拶をと思いまして…》
「誰かに見つかると面倒。学校ではカバンの中にいて」
美遊はあの真顔でイリヤを見る。
「あ、あの…」
だが、イリヤが話しかける前に去っていく。
「なんか…話しかけづらい雰囲気?」
「うーん、なかなか気難しい人みたい」
「……みんな何してるの?」
例の4人が美遊を追っかけて来たらしく、教室の扉に張り付いていた。
「やー、美遊ちゃんにフラれちゃって…」
「観察よ、観察」
「美遊ちゃんとお話しようと思って、みんなでいろいろ質問とかしてたんだけどね……」
「なんかキョトンとした感じでなにも答えてくれなくてさー」
「そしてしばらくしたら急に立ち上がって……『少しうるさいね』……って」
「わぁ…」
いつもの4人組…栗原雀花・森山那奈亀・嶽間沢龍子・桂美々の4人。特に前者3人は悪ノリが大好き…に見える。
「ああいうクールキャラは今までクラスにいなかったよな!ちょっと新鮮だぜ!」
「苗字とか凄いし、お嬢様系?でも、それだとサクラと被るか…?」
「とりあえず美人さんだよねー」
「あれが噂のツンデレなのか!?実物初めて見たぜ!」
「そうね、ああいうのに限って1度落とせば尽くしてくれるのよ」
「頑張ってフラグ探そうかー」
この会話で3人の悪ノリ加減がわかると思う。コイツら本当に小学生か?
「うちのクラスは平和でいいねー…」
「ホントだね…」
「これは平和なの…?」
美々・イリヤ・サクラは基本的に彼女たちを見ながら乾いた笑いをこぼすのが普段のこの女子6人グループである。
「ま、ひとまずここはみんなに倣って…」
《美遊さんの観察といきましょうか》
コソッとルビーとイリヤがそう相談するのを横目に、サクラは一時間目の準備…算数の教科書とノート2冊と参考書を取り出す。サクラは基本的に、学校の授業を片手間に中高レベルの勉強も行う。と同時に魔術の勉強も行う。
だが、それはサクラが士郎として築き上げてきた知識と努力を見れば当然と言える。他の人がそれを出来るとするならば、本当の天才なのだ…
☆☆☆☆☆
算数の時間
「この円錐の体積を求めてくださーい。そうねー、せっかくだから美遊ちゃんお願い出来る?」
「はい」
問題は半径1cm高さ3cmの円錐の体積を求めるというものだ。美遊のために少し前に戻っているらしいが…
美遊が黒板に書き始めた内容を理解出来ているのは恐らくサクラと担任の大河だけだろう。何を書いたかと言うと…
―――――
この円錐をy軸を中心とした三角形の回転体として考えた場合、円周率をπ、体積をVとすると
V=π∫[0→3]x^2 dy
xy平面上における直線式は
y=3-3x
よってx=1-1/3yなので
V=π∫[0→3](1-1/3y)^2 dy
これを解くと
V=π
―――――
えー、イリヤのクラスは小学5年生の5月でございます。大事なことなので、もう一度繰り返しますが、イリヤのクラスは小学5年生の5月でございます。
「…いや、そんな回転体とかじゃなくていいのよ……インテグラルなんて使わなくていいの!錐体の体積は体積=底面×高さ÷3よ!」
大河は少しこめかみを揉みつつ、次の問題も美遊にやらせるらしく…
「今度は頭の体操になるわ!みんなも一緒に考えましょー!」
ヤケになってるらしい大河の横で、スラスラと数式を書き連ねていく美遊。
問題は円に内接する三角形と外接する三角形の面積の比だ。
「まず、円の半径を1として考えると、円に内接する正三角形の頂点をA、B、C、また点Aから辺ABへの垂線との交点をHとして…」
―――――
三角形OBHの角度はそれぞれ30°、60°、90°
よって三角比を取って
OH=1/2
BH=√3/2
よって、円に内接する正三角形ABCの面接をSとすると
S=(1/2)×BC×AH=(1/2)×√3×(3/2)=(3√3)/4
また、円に外接する三角形の頂点をD、E、Fとして、点Dから辺EFへの垂線との交点をIとする
三角形OEIの角度もまたそれぞれ30°、60°、90°なので、
OE=2
EI=√3
また、正三角形なので、OE=OD
よって円に外接する正三角形DEFの面接をTとすると
T=(1/2)×EF×DI=(1/2)×2√3×(DO+OI)=√3×3=3√3
したがって、面積比はS:Tとなるので
S:T=(3√3)/4:3√3=1:4
―――――
「いや、そうなんだけどね、小学生的には内側の三角形を回して同じ三角形が4つできるよねーっていう話だったんだけど…いやそんな不思議そうな顔されても!」
大河の叫びの後ろで、イリヤの内心。
(なんだかよく分からないけど…学力はすごいらしい)
サクラの内心。
(今、算数の時間…だよね?)
図工の時間
「こっこれは…」
「自由に描けとの事でしたので、形態を解体して単一焦点による遠近法を放棄しました」
「自由すぎるわ!つーかキュピズムは小学校の範囲外よ!」
「?」
「いやだからそんな顔されてもー!」
そもそも積分も三角比も小学生のやることでは無いのだが。
(全然意味がわからないけど…美術力もすごいらしい)
その頃のサクラ。
(あれ?キュピズムダメならこれもダメかな?)
さらりと幾何学構成的絵画を描いていた。
家庭科の時間
ふたつの班で、とてつもない料理が出来ていた。
ひとつはサクラ。もうひとつは美遊。
(いやいや、これでも洋食マスターするのに時計塔時代かなり苦心したんだけど…)
苦手だった洋食であるハンバーグが調理実習の課題だったのだが、サクラは洋食もマスターしていた。
だが、それに匹敵する料理を美遊…つまり10歳の少女が作ったことに、サクラは自分の才能のなさを嘆いた。
体育の時間
短距離走だったこの時間。
今度はイリヤの得意分野…のはずだった。
「……え?6秒9?あの子女の子だよね?男子でも6秒台って小学生で全国トップクラスだよね?え?」
美々が驚きのあまり情報垂れ流しにしているが、イリヤより速いということは間違いない。イリヤは7秒3ほどだから、間違いなく早くゴールしてると見えるならば6秒台でもおかしくない。
「8秒ジャストで3位…」
ちなみに、サクラは士郎の時に弓道部の走り込みで6.44sを記録したこともあるだけに若干落ち込むのであったが、小学五年生の女子の50mタイムは8秒ジャストでもトップクラスで速いのを忘れてはいけない。
遅くなりましたが、3話目です!美遊きちのキチガイスペックの片鱗シーンなので、頑張っちゃって4,500文字超えてしまいました…
数式間違ってたら教えてください!数学嫌いなので間違えてるかも…
誤字報告1件、ありがとうございます。
また、お気に入りなど、励みになります!今後ともよろしくお願いします!