Fate/kaleid liner advanced プリズマ☆サクラ 作:風早 海月
分けてもなお、前半は6,000字オーバーとなっています。すみません。
今後は3,000前後に抑えるので、セイバー戦だけは許してください。
サクラはそっと髪のリボンに触れて、安心する。
このリボンは桜が着けていたものであり、桜がサクラに遺してくれたもののひとつだ。
「あんたたちはあの子を迎えに行ってあげて」
イリヤの頭をグリグリとしていたルヴィアを押さえつけた凛に感謝しつつ、行こうか、とイリヤに目線をやる。
「うん、行こう。…ところでサクラの箒は?」
「あの砲撃で消し炭にしちゃった…」
「うーん、じゃあさっきのミユさんみたいに…」
ふわっとした浮遊感の次に見えたのは、イリヤの顔だった。そう、イリヤはサクラをお姫様抱っこしたのだ。
(……あぁ、義姉と同じ顔の女の子にお姫様抱っこされてる…)
かつて、サクラ…いや、士郎にとってイリヤスフィールという存在は義姉であり義妹である存在だった。でも、最期は《お姉ちゃん》として士郎を守って死んだ。士郎にとってイリヤはそんな存在だった。
その
「ミユさん!」
「お疲れ様」
「…うん」
美遊はサクラから親しげに話しかけられて戸惑うが、サクラからすると死線をくぐり抜けた戦友であり、それくらい普通の事だった。
「あれ?どうしたの?なんか空気が…」
「なんでもない……いこう」
美遊が立ち上がった、その時だった。
凛とルヴィアのいた方から変な重い音が聞こえてきたのは。
「そんな…ありえるの?」
《最悪の事態です!》
「こんなことって…!」
《完全に想定外…ですが、現実に起こってしまいました》
「……2人目のサー…敵」
その敵に、不意打ちを受けたのか、時計塔主席候補の2人の魔術師が倒れていた。
「凛さん!ルヴィアさん!」
☆☆☆☆☆
サクラはその黒化英霊を見た瞬間、セイバーだと分かった。だが、だからこそ自分の力では勝てないことを理解していた。
あの時でさえ、ライダーが命を賭して繋いでくれたから勝てたのだ。正規のサーヴァントでは無いから性能は下がってはいるだろうが…
「2人とも、私が気を引くから、2人を確保。その後すぐに離脱する。いい?」
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。イリヤも美遊も、凛もルヴィアも、全員一緒に生きて帰るために。
仮に敵わない相手だとしても、抑えることはできるだろう。それに…いや、それは最後の切り札だ。
「あれは、基本性能が桁違い。今の私たちでは逆立ちしても勝てないよ」
「…分かった。イリヤスフィール、あなたは森側から、私は川側から」
「うん、サクラ…気をつけて」
―――
先程の小聖杯砲撃で悲鳴を上げていた魔術回路が軋む。サクラの魔術回路は衛宮士郎の時と比べ、それほど頑丈では無い。既に無理をしていた所へさらに無理を重ねる行為。全身に痛みが走る。
小聖杯砲撃でふとサクラは理解してしまった。これは自分の責任なのではないか?と。鏡面界に穴を開けて元々セイバーがいた鏡面界までトンネルを作ってしまったのではないかと。
尚更負けられない…と両手に握った干将莫耶と身体に強化をかける。現在の状況・条件に合わせて最適な戦い方を選ぶ。
「いざ…!」
黒い斬撃を飛ばしてくるが、当たらなければどうということはない。左右に避けつつ距離を詰める。エイム下手か。小柄な体躯を活かして避けに避ける。
「……ッ
痺れを切らしたかのように縦横無尽に黒い斬撃を連続して出してくるのをみて、スカートの中にしまっておいた宝石剣・突に魔力を通し、空間を斬る。
セイバーの後ろをとって、干将莫耶で斬りつける…が、それを防がれるのは予測済み。剣を受け流し、少しづつ後退。
「
そして、再び背後を取り、斬りつける。干将莫耶が壊れたら再投影。これを繰り返す。
しかし、数度繰り返した時だった。
魔術回路の酷使からか、魔力の指向性が整わずに空間を切り裂くことに失敗。黒化していて自我はないとは言え、その機を逃すセイバーでは無い。きちんと踏み込み叩きつけられる剣を干将莫耶を交差して防ぐが、それは衝撃をサクラ自身へ与えた。
その体を易々と弾き飛ばし、木の間を抜けていたイリヤごと吹き飛んだ。
《イリヤさん、サクラさん!?》
その光景を見た美遊は時間を稼ぐ役割の変化と認識して、すぐさまセイバーへ砲撃を行う。
「ッ…!」
《ミユ様!?》
だが、セイバーは黒い霧で出力の高い魔力砲を寄せ付けない。
「サファイア、あの黒いのはいったい!?」
《まだ断定は出来ませんが、恐らく信じられないほどに高密度な魔力の霧…あの異常な領域に魔力砲が弾かれているようです》
「まさか飛ばしてきてる黒い斬撃も…」
《恐らく》
サクラが避けていたのは間違えではなかったのだろう。それを受けていれば干将莫耶の防御を超えてくるほどの攻撃力を保持している。
気を失ったサクラを抱えて、距離をとろうとするイリヤに、容赦なく黒い斬撃を放つ。
「イリヤスフィール!」
《イリヤさん、横です横!避けてください!》
「ひゃぁ!?」
イリヤは間一髪で避けるが、左腕を掠り切り傷…いや、刀傷を負う。その事実に、一般人で普通の女の子であるイリヤにこれが魔法少女ムサシと違う、殺し合いの場であることを認識してしまった。
「あ……ぁあ…………」
《追撃来ます!》
「何をしてるの!早く逃げて!」
《イリヤさん!》
―――
―――
―――
干将莫耶オーバーエッジを一対、持てる力最後の1滴を振り絞り、投影した。それを手にイリヤの前に立ち塞がり、黒い斬撃を受け流す。
「イリヤ…逃げて……」
あの時、衛宮切嗣に再び拾われた時、イリヤを見た時、必ずその笑顔を守ると誓った。ただその想いだけで今のサクラは気絶から立ち上がり、セイバーの斬撃を逸らした。
もう目もボヤけて、まともに戦える状態では無いのは明白。だがそれでも、大切な人を守れる正義の味方であるために、2度と桜から目を背けないために。
《魔力砲も魔術も無効、遠距離も近距離も対応可能…こちらのアドバンテージは全て真正面からことごとく覆されています!その状態のサクラさんでは次は持ちませんよ!》
「ッ!」
2人のところに降り立った美遊。そっとサクラの肩を後ろから引く。そのまま倒れたサクラを抱きとめる。
「み……ゅ……」
サクラは再び意識を失った。
状況は絶望的。離脱するにもその隙もない。
我に返ったイリヤと打開策を考える美遊は言い合いとなるが、それどころでは無いとルビーが止める。
1歩、また1歩と近づくセイバーに、万事休す…
という時だった。宝石がキラリと光ったのは。
☆☆☆☆☆
腹部にダメージを負いながらも、ルヴィアに小石を投げつつ立ち上がった凛。負けじとルヴィアも立ち上がる。
だが、セイバーの黒い霧が魔術を無効化している。
「無傷…か」
「全く…嫌になりますわね」
2人の時計塔主席候補は宝石を構える。
「行くわよ!」
「言われなくても!」
魔術師としての攻撃火力は高い方…というよりこの2人が争って出た時計塔での損害を聞けば、その優秀性は分かるだろう。だが、それでも意味の無いものとして寄せ付けない強さがセイバーにはある。対魔力Aは黒化していて劣化しているとはいえ、それ以前に魔力の霧を突破することさえ難しい。
「だめっ!…下手に手を出すと…かえって!」
「どうしよう、ルビー!?どうすればいいの!?」
「落ち着いて、イリヤスフィール!私が敵に張り付いて足止めする!その隙に―――」
「だめっ!それじゃあさっきと…!」
「物理保護を全開にすれば10秒は持つ!」
「ダメだってば!それじゃあミユさんが危なすぎるし、サクラも動かせない!」
《必殺、ルビーちゃんチョップ!》
ルビーに(まあまあ強く)叩かれて、2人とも頭を抑える。
「いったぁい!こんな時に何するの!」
《お二人共こんな時に喧嘩してはいけません!まったくもう…そんなことでは立派な魔法少女にはなれませんよ〜?》
「だ、だって…」
《分かっています。このままじゃ勝機無し。ですから…いいですね、サファイアちゃん!》
《はい、姉さん》
《最後の手段です…》
魔力を込めた宝石は、複数同時に使うことでAランクの攻撃が可能だ。それを2人の同時に威力を高め合うような魔術ならば倍プッシュだ。
だが、それでもセイバーの黒い霧を越えられない。
「宝石も残りわずか…こんなところで…!」
「凛さん!ルヴィアさん!」
木の影から走り出したイリヤと美遊。
「バカ!引きなさい!あんたたちじゃコイツは倒せない!」
(倒せない…救出も出来ない…だから!)
一対のカレイドステッキは投げられた。
《まったく…世話の焼ける人達です。見捨てるのも忍びないので、今回だけ特別ですよー?》
「よく言うわ。最初からこうしてれば良かったのよ」
凛は赤を基調としたケモ耳尻尾のついた服に。
《ゲスト登録による一時承認です…不本意ですが》
「何を偉そうに…これが本来の形でしょうに」
ルヴィアは青を基調とした、これまたケモ耳尻尾のミニスカ姿に。
「それじゃあ…本番を始めましょうか」
ニヤリと笑った凛ほど頼りに見えるものは、この戦況では、無かった。
今、2本のカレイドステッキが元のマスターの元へ戻った。
《いやー、しかし相変わらず、いい歳こいて恥ずかしい格好ですねぇー》
ピクリと凛の顔が動き、次の瞬間には両手で地面に何度も何度もルビーを叩きつける。
「お前が着させてるんだろーがー!」
それを見て、イリヤは何かを悟ったように呟く。
「傍から見ると、魔法少女ってやっぱり恥ずかしいなぁ」
「うふふふふ。この服を着こなすにも、品格というものが必要なのですわ…このわたくしのように!」
ルヴィアは見せつけるように胸を張る。
「うわぁー、馬鹿だー。馬鹿がいるー」
《流石、セレブはファッションセンスも斜め上ですか》
ルヴィアをいじる時だけは意気投合する凛&ルビー。
だが、戦場で和気あいあいしているだけの余裕はない。お約束の通り変身シーンとその後の多少のおしゃべりは待ってくれたが、痺れをきらしたようだ。
黒い斬撃が凛とルヴィアに飛ぶ…が、2人は易々と避ける。カレイドステッキの効果で傷も回復しているのと、身体強化を魔力に相談せず使えるからだ。
《ボケっとしてる暇はありませんよ〜!今は戦いの真っ最中です!》
「年中ボケ倒しのあんたに言われたくないわ!」
黒い斬撃を飛ばすが、避ける凛。
「気をつけてください!その攻撃は魔力と剣圧の複合攻撃です!魔術障壁だけでは無効化出来ません!」
「厄介ね…防御に魔力を割きすぎると、攻撃が貧弱になるわ」
「けれど、その貧弱な攻撃ではあの霧を突破出来ない」
サクラを含めた今までの戦闘で分かったことを美遊が報告すると、時計塔主席候補の2人は、分析を行う。いくら無限の魔力供給があるとはいえ、一度に使える魔力量は決まっている。それをどう振り分けるか…という問題なのだ。
「「ならば…!」」
そして、その2人は同族である。思考回路も魔術師というより…変人?だが、だからこそ天才なのである。
「行きますわよ…
基本的な魔力行使量は単純値ならイリヤたちの方が圧倒的だ。イリヤは本来身体の7割が魔術回路だと言われるほどの資質を持っているし、美遊はそれ以上の何かを持っている。だが、肝心の魔力行使の感覚を知らない上に、カレイドステッキの性能を最大に引き出す使い方をしていないために、この2人の性能はイリヤたちを上回るように見える。そして、何より
「なんて威力…!」
「で、でも全然当たってないよ!?」
ルヴィアが目隠しに盛大に土煙を上げた砲撃。そこに凛が不意打ちを仕掛ける。
「それでいいのよ」
高密度の魔力で編まれた刃をつけたルビーを振るう。
これならいちいち砲撃にチャージしないで済む上に、燃費が良いため防御や強化に魔力出力のリソースを分配できる。
「かったいわねコイツ…!筋力が足りてないわ!ルビー、身体強化7、物理保護3!」
《こき使ってくれますねー》
「砲撃だけが能じゃないのよ!」
凛の振るうルビーの魔力刃に弾かれたセイバー。
「こんな戦い方があったなんて…」
美遊は自分の知らない戦い方に魅入られていた。だが、ひとつ言うとこれは近接戦闘の才能が無ければ悲惨なことになる。かつてのサクラ…士郎のように。
《フー。わたしとしては泥臭い肉弾戦は主義に反するのですけどー。魔法少女はもっと派手でキラキラした攻撃をするべきです。絵的にもいまいちですし、コレ。》
「うっさい!刃を交えて見えるものもあるのよ」
《そんなもんですかねー》
凛が打ち合えるのは、カレイドステッキの性能と実の身体能力もそこそこで、かつ近接戦闘にある程度の才があるからだ。そうでなければ意志を奪われて黒化しているとはいえ、英霊たるセイバーと打ち合えるはずがない。
事実として、サクラは最初から勝ちを取りに行かない戦い方を強いられている。
だが、それを持ってしても、徐々に防戦に以降する。才があろうとも、経験の薄い近接戦闘に防戦もすぐに途切れる。上段に構えたルビーを腕ごと抑えられ、がら空きになった胴にセイバーの剣が振るわれる。
「リンさ…」
「物理保護全開!」
だが、そこは魔力を物理保護に全力を注ぐことで防御に成功する。そして、その剣の柄を今度は凛が抑える。
「ようやく捕まえたわ」
凛はセイバーの脇腹にルビーを構える。
「
高密度に編まれた刃を魔力に還元してそれを砲撃に利用することで、チャージの溜めを作らずに高威力砲撃をゼロ距離で叩き込む。
「ゼロ距離砲撃…!」
「うわっ、なんかすごいデジャブ!」
イリヤと凛の出会いでもゼロ距離での攻撃が行われていた、ということを踏まえると凛の必勝パターンのひとつなのだろう。
「いったー…剣士相手に接近戦なんてやるもんじゃないわね」
《両手持ちだったらやばかったですね》
その時、凛の隣にルヴィアが現れた。
「ま、ひとまず時間稼ぎご苦労様といったところですわね」
「準備出来てるんでしょうね、ルヴィア」
「フン…当然ですわ」
戦闘による土煙が晴れた時、凛とルヴィアの後ろには巨大な魔法陣が出来上がっていた。
「魔法…陣…!?」
「まさかはじめからこれを狙ってたの!?」
イリヤと美遊はその戦略眼に驚く。なんの相談もなしにこれだけのコンビネーションができるものなのかと。
「シュート6回分のチャージ完了…ちょうどさっきの敵とは立場が逆ですわね」
「魔力の霧だろうがなんだろうが―まとめて吹き飛ばしてあげるわ!」
「
6本の魔力砲はある意味でこの2人の全力攻撃。
「ホーーーッホッホッホ!楽勝!快勝!常勝ですわー!」
「よーやくスカッとしたわ」
岸壁を削り、水を押しのけ、川底を掘り返す。
到底ダイナマイト程度では出来ないだろう、大規模な破壊力だった。無くなった部分に川の水が流れ込み、滝のようになっていた。
カレイドの本当の力はイリヤと美遊の想像を遥かに超えていた…
しかし、最優と言われるセイバークラス。
「嘘っ…!?」
「あれを受けてまだ…」
黒化してない正規のセイバー…アルトリアならば、対魔力はA相当。現代の魔術師に魔術で彼女を傷つけることは不可能に等しい。
黒化や自我喪失などでかなり弱体化しているとしても、
「……ッ!それはダメ!避けて!」
あまりの異常な魔力に当てられて、目を開けたサクラが叫ぶ。
それは、聖剣というカテゴリの最上位に属し、星の創り出した最後の幻想、神造兵装である。
―――
黒化している影響か、その聖剣の放った極光は黒かった。黒い光という矛盾した破壊力は鏡面界すらも切り裂いた。
その時、イリヤは死への絶望と畏怖で心を埋め尽くされた。
―――――カチリ
「だめ…イリヤ………それは……!」
イリヤを中心に、魔力の嵐が吹き荒れた。