Fate/kaleid liner advanced プリズマ☆サクラ 作:風早 海月
美遊に肩を貸してもらいつつ、橋の下へ退避する。
その時、少し後ろでイリヤの方…いや、イリヤを中心に莫大な…それこそセイバーの黒い霧なんて目じゃない位の魔力がほとばしる。
「な…なに…?なにが起きてるの…」
「だめ…イリヤ………それは……!」
「もう、戻れなくなる…!」
サクラはそれを知っていた。サクラもまた、イリヤのそれを監視していた1人なのだから。イリヤのホムンクルスとしての調整を受けた部分…その封印が、解かれてしまった。
「うっ……あ…ぁ………」
それを扱いきることは可能だ。
小聖杯の機能の一部。理論を飛ばして結果を出す、それは彼女の魔力で可能な範囲内ならば、理屈を知らずとも実現することができる。
そして、今の彼女の魔力は、平凡な魔術師なら一生かけても蘇生一回分用意できるかどうか分からない程の魔力を要する「
「
「えっ…」
「イリヤ……」
イリヤの口から零れた言葉。サクラは申し訳なさそうな顔を逸らす。魔術回路がオーバーヒート寸前のサクラはもはやただの小柄な小学生女子でしかない。
「
「
イリヤの瞳が力を帯びる。
―――どうやって?
「どうやって?」
「
「
「
―――ああ……そういえば
「
イリヤはスカートのポケットから『アーチャー』のカードを取り出す。そこに小聖杯で理論を飛ばして結果を得る機能が稼働する。
「
「嘘…どうして…?」
「……ここでも、アーチャーはアーチャーか。でも、エ…アーチャーではセイバーには…」
イリヤの姿は英霊エミヤとイリヤという存在が掛け合わされたような、そんな姿だった。
黒い洋弓に3本の矢…いや、細長い杭のようなもの…を投影してセイバーに放つ。
本来のエミヤなら、30秒かけないと体勢を崩せないセイバーであっても、黒化と自我喪失に加えて、イリヤの膨大な魔力と小聖杯というセットは簡単に防御の上から体勢を崩すことが出来た。
そこに、干将莫耶を投影したイリヤはセイバーを斬りつける。
(…今の動き……セイバーは自我を喪失してない…?)
だが、その動きをセイバーは見切っていたかのように左手の篭手で、いなすように流す。
その動きに、イリヤは一度距離を取り、弓で今度は剣を投影して打ち出す。
その威力だけで見れば、エミヤは目じゃないだろう。
だが、セイバーはそれをバイザーに掠るものの、紙一重で避けた。
(信じられない―――あの姿…あの戦闘能力…彼女は今、完全に英霊と化している…!そんな…まさか…
美遊はイリヤの事情を知らないから、一部誤解がある。英霊と化している…が、現在のイリヤの戦闘能力は、本来の凛がマスターのエミヤより数段は高い。恐らく今の彼女なら、
「―ッ!?」
《ご無事ですか、美遊様ー!!!》
「きゃーーッ!?」
地面を掘り返して美遊の元へ戻ってきたサファイア。その登場の仕方に悪意しか感じないが、いつもクールな美遊の本気で驚いた顔が見れたのはサクラにとって微笑ましい光景だった。
「サ…サファイア!無事だったの!?」
《はい、何とか地中に潜って緊急回避を。負傷はしましたが、ルヴィア様たちもご無事です》
こうしているうちにも、イリヤとセイバーは何合も斬り合う。
恐らく、かつての聖杯戦争でも、イリヤがアーチャーを召喚したならばこれだけの強さを誇ったのではないだろうか…という程に、セイバー…しかもライダーが命をかけてようやく倒したセイバーオルタだろうそれに、たった1人で互角に渡り合っている。
凛とて、一流の魔術師だ。いや、超一流と言っても過言ではあるまい。だが、その彼女が召喚したアーチャーよりも、恐らく今のイリヤの方が確実に強い。もちろん魔力量によるゴリ押しという面もあるが、
その恵まれた魔力量に、遠慮なく
だが、セイバーの方も
本来、この黒化英霊はサーヴァントではなく、英霊の座から漏れ出た現象の一部。自我のない彼らは持てる技術を遺憾無く迎撃に用いてくるが、そこに気迫や感情といったものはない。
「
干将莫耶オーバーエッジを投影したイリヤがセイバーに斬り掛かる。
それを見ていた美遊とサファイアは疑問を持つ。
美遊はチラリとサクラを見るが、固く握りしめた拳が今の彼女の想いを物語っており、話しかけるのを躊躇ってしまった。
イリヤは黒い斬撃を干将莫耶オーバーエッジを投げることで相殺。飛び上がって様々な宝具を投影・投射・
業を煮やしたセイバーは宝具発動体勢に入る。
「不味い…宝具の2撃目…!逃げてイリヤスフィール!いくら英霊化してもあの聖剣には勝てない…ッ」
あの聖剣…
「
それは、相手と同じく
本来の色を持つ聖剣と、黒い聖剣。その2振りが相対する。
―――
2振りの剣からでた魔力の荒々しい光。それは、いくら現在のイリヤでも完全な投影ではなかったのか、徐々に押される。だが、小聖杯の機能と10年間溜め込んだ魔力量を侮ってはいけない。
全ての魔力出力を聖剣に割り振ったことで、聖剣同士の押し合いは互角に終わった。否、イリヤはその余波を受けて、吹き飛ばされ、英霊化が解ける。
「イリヤ!」
「イリヤスフィール!」
《イリヤ様!》
サクラと美遊とサファイアはイリヤの傍に駆け寄る。
「イリヤ!」
《大丈夫なようです。意識はありませんが、生命反応に異常はありません》
「良かった…」
セイバーはどうなったのか…と振り返ると、身体に傷をところどころ残しつつ片膝をついていた。
「…ッ!あれでもまだ…!」
サクラはふと、スカートの下の太腿にあったカード入れから熱が発せられていたことに気付く。
「
ライダーのカードを地面に置き、その周りに魔法陣を描く。
「サクラ…何を…?」
美遊の疑問に答える余裕は無い。セイバーが立ち上がり、ジリジリとこちらに近づく。
「
激痛を走らせ、暴走1歩手前の魔術回路に鞭を打ち、膨大な魔力を小聖杯へ受け入れる。
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
我が聖杯の下、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
たとえ小聖杯であっても、魔力量と理論を飛ばして結果を得る機能を使うことで、英霊の召喚に必要な条件は揃う。
丸っぽい3画の令呪がサクラの左手に宿る。丸っぽいが、その端は剣のように鋭い。
「サーヴァント、ライダー。馳せ参じました。……また会えたことに感謝します、士郎、桜」
そこには、長身の女性の姿があった。
「ライダー…あの…」
「みなまで言わなくても分かっています。聖杯からのバックアップのように、今はあなたとパスが繋がっています。今のあなたがどんな存在なのかも分かっていますから、安心してください。そんなことよりも、
サクラが口を開いた途端にそれを押しとどめて、ライダーはセイバーオルタを指し示す。
「うん。だから… 令呪を以て命ず。全力でセイバーを倒して、生きて帰ってきて、これからずっと一緒にいてください」
令呪は3画共に消えた。ライダーはギュッとサクラの顔を自らの胸の下辺りに押し付ける。
「もちろん、今度こそ…」
かつて、セイバーオルタとの戦いで相打ちとなったライダー。あの時、士郎がもっと強ければ…と何度も後悔した戦いだった。
それに多分、サクラは桜の魂が死んでないような気がするのだ。凛の件しかり、ライダーの件しかり。
サラりと髪を留めていたリボンが崩れ去る。それと同時に、サクラの身体に走っていた激痛が消え去る。桜が遺してくれた使い捨ての蘇生魔術。それを使って魔術回路を十全に使えるようにする。
2人の意志が魔力に乗ってライダーへ流れる。
ライダーが魔法陣を引き、天馬を召喚する。
そして、魔眼を封じる
1度離脱して助走を取り、セイバーへ突撃する。
その攻撃力は城壁が高速で突っ込んでくるレベルであり、魔法クラスとも言われる。サクラから送られる膨大な魔力と想い、令呪によるブースト…その攻撃力と防御力はもはや手を付けられないレベルだ。
セイバーの黒い斬撃が当たってもビクともしない。それを見たセイバーは聖剣に魔力を貯める。
「
一瞬の溜めで放たれたセイバーの聖剣は、まるでビームのようにライダーへ走るが、ライダーはスレスレを躱す。
「それはもう知っています…」
競り勝ったライダーの天馬がセイバーを轢き潰し、セイバーはカードと化した。
「ライダー…お疲れ様」
「ええ。これを集めているのでしたね」
セイバーのカードをサクラに渡す。
「これで5枚目…」
こうしてセイバー戦は幕を降ろした。
とりあえずセイバー戦だけでも書き切ろうと思って、約2年振りに投稿。
次話は未定です