【4コマ小説】死んだVtuberと異世界と。 作:ケータリング
「マスター、起きてください……」
耳元で囁かれる声。親の声より聞いた声によって、すぐに目が覚める。
「プラティ……? えっ、怖っ。誰なの」
「誰って酷いです。プラティはプラティであってそれ以外の何者でもありません。今まで一緒にやってきたじゃないですか」
理解できないものは怖い。
布団に入っていた僕にずいと近づいて声を発するのはプラティだ。プラティはVtuberで、僕の人生の大きな部分を構成している半身のようなものだ。とは言ってもプラティは僕が使用していたアバターであり、今僕の目の前にいるプラティは誰が動かしているのかということは大きな疑問になる。
そもそもここはどこなのか。前後左右真っ暗な空間がどこまでも続いている。広いのか狭いのか分からない。
「マスター、もしかして気がついていないのですか? マスターはもう死んでいるんです。ほら、鏡」
くるりとプラティが取り出した姿見には、白装束と白い三角巾を身につけた僕の姿。確かに幽霊みたい。
「なんと。確かに死んだような記憶が……いや全く分からない。もっと確実な証拠を提示して」
「証拠って……ビデオならありますよ」
「ビデオ……?」
「はっ! DVDです」
「いやビデオでいいけど。媒体の話してる
「お前は俺だかんなー! 何なの、私が二人で漫才とかやりたくないんだけど!」
分裂でもしてるのか? 見ていて心配になるほど、プラティの口調がどんどん崩れていく。僕がプラティやってたときもこんなんだったけど。
「それでですね、マスターが死亡する前後の映像はこちらになります」
そう言ってプラティが下ろしたスクリーンに映し出されたのは、確かに僕がいた病室でのこと。真夜中に容体が悪化し、ドクターが来てから僕が心肺停止するまで。
「心臓止まってるなぁ……これどうにもならないの?」
「もう火葬されましたよ」
「スピード処理すぎる」
僕が死んだとして、それからそんなに時間経ってるの? 死んだ後の時間の流れなんて分からないけど。
「それでですね、マスターが亡くなったことで私も死んだというか伝説になったというか。なんか人格が目覚めちゃって。記憶と声と性格はマスターのなんですが」
「それほとんど僕だねえ。でも話し方とか、つまり僕がプラティやっていたときの?」
「そうなります。どっちにしても現世では活動できないんですけどね。肉体がないですし」
「ほえー。まあ死を受け入れたんだから何があってもおかしくないけど。ところで、僕の記憶があるならなんでマスター呼びなの?」
「元々そういう呼び方だったでしょ。相手が自分でも、変えません……」
「そうだけど。違和感があるなあ」
ボイスチェンジャーを使用していても自分の声だ。これを評価するとただの自画自賛である。
「結局のところ、僕はいつまでここにいればいいの? これからは地獄配信でも始まるのか?」
「あはは、流石に死んですぐ配信はしませんよ。行先は一応決めてあるんですけどね、地獄ではなくて……なんというか異世界ですね」
「異世界?」
「設定上、私がいたはずの世界です。私は異世界から来たVtuberとして作られたので、私が実在しているのなら私が生まれた世界というところもあるって訳ですね」
「なるほどめっちゃ分かり辛い」
「なんでですか……」
いや、そんな卵が先か鶏が先かの話をされても。プラティの設定を考えたのは僕なんだけど、実は違ったのか?
死期が近いとは思っていたので未練はない、訳はないけれど。プラティがいる世界ならちょっと見てみたいかも。
「まあまあ行ってみればわかります。こんなところにいるよりは外に出た方が建設的ですよ」
「そうかな。そうかも。それでどうやって行くの?」
「私の魔法を使えばすぐにでも。魔法円を描いていきますね。幸いマスターの心臓は焼却される前に取ってきたので、これを触媒にすればどんな遠い世界でも行けるはずです」
そういってプラティが、プラスチック水槽に入った心臓を見せる。
「心臓が痛い気がする。僕の心臓返して!」
「私の心臓と言ってもいいのでは。実際止まった心臓なんて減価償却してもういくらにもなりませんよ……」
プラティは僕の周りに5メートルほどの円を描き、その周りに僕の心臓を含む触媒を設置していく。何をやっているのか分からないが、プラティの設定にある魔法使いという部分が知識の源泉となっているのだろうか。
「マスター、知っていますか? 魔法陣なんて言葉はフィクションでしか使わなくて、魔法円っていうのが正しい名称なんですよ」
「いやそれは知ってる。というか僕の知識にもあるだろ」
「そうですか……どこまでが自分か分からなくなってくるんですよね」
また分裂してるのか?
「よし、完成!」
十数分、いやもっとかもしれない時間が経過し、地面には複雑な文様が描かれていた。
「早速行きましょう」
「え、ちょっといきなり? 心の準備が」
「ハートはあそこです」
魔法円の外側にある心臓を指さされる。いや、そうだけど。よく考えないと失敗するかもしれないし。
「行きますよ……。せーの。【
魔法円が黄金に輝き、その光の中に僕の感覚は呑まれていった。