【4コマ小説】死んだVtuberと異世界と。 作:ケータリング
~が見たい。とかは感想欄ではよく見かけますし僕も書いちゃいますけど、わりとすぐ消されるので書かない方がいいですね。
うちの感想欄は白紙なので関係ないですけど。
「マスター、マスター。大変です……」
のんびりとした声のせいで大して焦っているように聞こえないプラティの声。誰だよこんな設定にしたの。僕ですね、ゆっくり話した方が聞き取りやすいから。なんてそんなことを言っていられる状況ではない。
いきなり放り出された先では身体がぐんぐんと落下していく。澄んだ星空と、丸い地平線。眼下には青い海が遠くに見える。
「落ちているな。どこかのゲームで見た光景。腕とか足とか赤熱している気がするんだけどやばくない? 死なないか、これ」
「転移直後は無敵なので大丈夫です。あと30秒ですけど」
「先に説明して! いきなりどうするんだ」
「マスター、スマホ持ってますよね」
「何故ここでスマホ? あった」
転移する前には持ってなかったはずだけど。
「アプリをダウンロードしてください。“耐熱アプリ”と“耐衝撃アプリ”ですね」
「これか。ダウンロード! “……には数秒から数十秒かかる可能性があります。”うおお、気張れ!」
「無敵時間が切れますね……」
「ちょっと、待っ、ああっー!」
眼下の海も急激に迫ってくる。僕は衝撃波を発生させながら海の中へと飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
「死ぬかと思った」
ぎりぎりのところでダウンロードが完了したのか不思議な力が発生して、海中に突き刺さっても平気だった。それはそれとして溺れそうだけど。
海から顔を出して立ち泳ぎ。プラティはすいすいと両足を動かして海中を遊泳している。お前……確かにマーメイドをモチーフにしたけど人間の脚だし、何より淡水魚だぞ。
「マスター、10時の方向に島があります。とりあえずそこまで泳ぎましょう」
「分かった、けど、アプリでどうにかならないの?」
海水を飲まないように一言ごとに話す。
「初期ポイントでは耐性2つとると残りませんので」
「世知辛いというかしょっぱいというか」
「塩辛い?」
「それが一番だな」
◇ ◇ ◇
何とか島まで泳ぎ切った。そういえば。
「プラティ、僕は何で泳げるんだ? 病気だったんだからもう動けないような状態だったと思うんだけど」
「転生したから健康体ですね」
「転生ってそういうものか。ん……でも赤子からやり直しているわけではないから転移なのでは?」
「一度死んだので転生です。そこはどうでもいいでしょ?」
「どうでもいいところが気になっちゃうんだよなぁ」
◇ ◇ ◇
「くしゅん」
「マスター? そういえば人間って風邪ひくんですよね。乾かさなきゃ」
「お前は人間じゃないみたいな発言だな。どういう立ち位置だっけ」
「じっとしていてください」
プラティが、濡れた服越しに僕の腹に手を触れる。
――
ぶわりと風が吹き付けたかと思うと、僕の身体と衣服についた水分・塩分などが一気に吹き飛ばされた。
「魔法かあ」
「そうです。私はマーメイドでメイジ。つまるところマーメイジなのです」
「それはよく知ってる。でもプラティが使える魔法の種類なんて考えてなかったから驚いた。死に設定だったし」
「本当に。一応言っておきますと、私の魔力特性は【転移*1】です。私の魔力が届く限りどこへでも跳べますよ」
「やっぱり転移じゃん。それならこの無人島から別の島へも行けるんじゃないの?」
「いや、ここはかなりの孤島みたいで近い場所に他の島はないんですよね。もっと遠くへ跳ぶんだったら触媒が必要です」
「もう心臓はやらんからな」
◇ ◇ ◇
「それにしても小さな島だな」
「ですねぇ」
島の周りをくるりと回っていくと、全部で2キロほどだった。スマホの万歩計で確認したから間違いはなさそう。マッピングもしたし。
これだけ小さな島では生き物もいなさそうだ。島の中心にわずかな林があるだけだし。水没はしないよね?
「マスター。魚を取ってきたんですけど、どうですか?」
海に入っていたプラティが上がってきた。
「食べられる魚なの?」
「勿論です。どうぞ」
そう言うと、プラティが手につかんでいる二匹の魚の内一匹を渡してくれる。素潜りで魚取ってくるのはやばいな。
「このまま貰ってもなぁ。僕は焼くぞ。プラティはどうする?」
流石に自分の知らない生魚を食べる勇気はないな。
「マスターが焼くのなら、私も……」
じゃあなんで渡した、って思うけど趣味嗜好は自分と同じだからなあ。
◇ ◇ ◇
焚火。火を起こす方法はいくつかある。もっとも原始的なものとしては、木の板に棒を突き立てて回転させ摩擦を引き起こすというやり方がある。
「いいですよ……もっと早く、高速に……」
耐熱アプリケーションの効果によって、摩擦を起こしても掌が熱くならない。いや実際は熱を発しているんだけど、ダメージにならなくなったと言うべきか。
火種ができたので木の皮を投入し火を大きくする。次は乾いた細い木の枝。炭があればよかったんだけど、キャンプでもないし流石に。
ある程度は大きくなったので、木の枝に魚を刺して焼いた。火力が強いのか表面が真っ先に焦げた。
「おかしいな、そんなに熱くないのに」
「熱耐性があるから分からないんですよ」
◇ ◇ ◇
実食。
「意外とイケる。塩の味と、……そう、磯の香りが……」
「食リポ下手くそか。カメラ回ってないんでしなくていいですよ」
「でも水が欲しいな。スマホから買えないかな。あ、あった」
僕が死んだときの財産も使えるみたい。ペットボトル飲料を――。
「プラティは何にする?」
「コーラがいい」
「分かった」
僕はこの状況で、というか魚を食べながらコーラを飲む習慣はないので日本茶を選択して購入する。
すぐに上空二メートルほどのところに円形の力場が発生し、そこから真っ黒な箱が現れた。内部には日本のペットボトルだけ。梱包材の無駄遣い……。
「プラティ、これはどういう原理なんだ?」
「さあ?」
ペットボトルを受け取ったプラティは首をかしげている。お前も知らないのかよ。
「でも送料無料でよかったですね」
そこ? いやまあ重要だけど。もっと重要なところがあるだろう、電波とか。
ゴミを海に流してはいけないのでどうしようかと悩んでいたら、プラティが焚火の中に放り込んでしまった。お前……ダイオキシンとか何とか出るぞ。
「ここファンタジー世界で環境問題が出てくるのは最低でもあと100年先でしょう。タイムを縮めたい」
「加速させるな」
◇ ◇ ◇
「暗くなってきましたね」
そう言ってプラティは炎に薪をくべていく。
「火力が強ければ野生動物もやってこないでしょう」
「野生動物なんていたか?」
「楽観はできません。今日のところは私が一晩見張っているので、マスターは眠ってもいいですよ。一日目なのですることもないですし」
「どういうことだ。それはそれとして、一晩も起きていて大丈夫なのか?」
「そこは大丈夫。Vtuberは寝ない生き物なのです。72時間の耐久配信だって余裕です」
「僕はやったことないけど。その設定はどこから来たんだ」
「うーん、電子生命体だからですかね。睡眠欲とか食欲とかないみたいです」
「さっきまで魚食べてたじゃん」
「そこはほら、生前の記憶?」
「死んだのは俺だけどな」
「もう、寝て」
静かにさせられた。