テントから出ると村はそれまでの平穏さを失い、阿鼻叫喚の地獄に変わり果てていた。
泣き叫ぶ声、逃げ惑う村の住人達、それを追う灰色の影。既に何人かの村人が襲われており、無惨に食い殺された後が点々と残っている。
「なんてこった…。本当にこのままじゃみんな…」
「ぼやいてねーで走るぞダック。ここで食い止めねぇとますます被害が増えっちまう」
しかしラックは目の前の惨劇から目を逸らそうとしない。いや、逸らすことができなかった。大好きだった村が悪意に蹂躙されている事実を受け止めきれていなかった。呼吸が早くなり、自然と拳を握る手に力が入る。
「オイダック、しっかりしろ!…っち、仕方ねぇ。よっと」
戦意を失いかけ、呆然と立ち尽くすラックの横でモモタロスはひょいっと飛び跳ねた。すると彼の身体は赤い光を帯びてそのままラックの身体に重なる。瞬間、ラックの身体はビクンと波打ち、頭を下げる。ゆっくりとまた頭を持ち上げ、握っていた掌を開いて身体を確認する。
「お、これはまだできるんだな。これなら村の奴らに見られても騒がれねぇか」
ラックは不敵に笑う。先程と違い髪に赤いメッシュが入り、固めたように逆立つ。瞳の色も赤くなり、何より変化したのは身体つきだ。数秒前まで細かった腕や足が筋肉質に膨れ上がる。
腕や首をコキコキと鳴らし、自分の身体の調子を確かめる。
『え?えぇ!?ど、どうなってるの?なんで?え、僕の身体が。え?』
「わーわーとうるせぇな。ぶるって何もできないなら少し俺に身体を貸せ。悪いようにはしねぇからよ」
そう。モモタロスはラックの身体に憑依したのだ(以外Mラック)。
Mラックはざっと周りを見渡した。幸いテントが立っているのは村の外れにある小高い丘の上。どうやら村の入口から中心部にかけてが1番被害があるようだった。
「オイ、逃げ遅れた人達は何処に逃がせばいい?」
『えっとこういう時は教会に避難するようにって取り決めてあるけど』
「なら村の中心に向かうぞ。あとはやるだけやりながら村のやつらを教会に逃がす。そうと決まれば、行くぜ行くぜ行くぜー!!」
雄叫びをあげながらMラックは斜面を走って下っていく。
斜面を降りきり、中心部へと駆け出した。走りながら再びどこからともなくモモタロスォードを取り出し、肩に担ぐ。
民家の脇を通り、視界が開ける。泣いて蹲る少女に人狼が襲いかかろうとしていた。どこかで見たようなシュチュエーションだが、今は気にしていられない。
「見つけたぜ犬っころ。オラァッ!」
モモタロスォードを肩から下ろし、走りの勢いをそのままにMラックは今まさに振り下ろされようとしている人狼の腕を目掛けて切り上げた。
切った手応えが刀の柄から伝わってくる。勢いに乗った人狼の前足はクルクルと宙を舞ってぼとりと地面に落ちた。
切られた方は何が起こったのか分からず、把握する前に二太刀目が胴を捉える。上半身と下半身が離れて人狼は絶命した。それと同時に人狼の身体はシュポンと煙と化す。
「なんとか間に合ったぜ。それにしてもなんだこりゃ?犬っころが消えたぞ」
『え?知らないの?魔物は死ぬと無に帰るだよ』
「そーかよ。じゃあこのままアイツらをやっちまっても問題ねぇって事だな」
『そうなるかな?あ!でもモモタロス、ほら』
「あん?なんだよ?」
振り返ると目にいっぱい涙を溜めて今にも泣き出しそうな女の子が小さくなって震えていた。
こういうのは苦手なのでこのまま去ろうとしたが、助けたのだから責任を持つべきと考え直した。
「オイチビ。大丈夫か、い?」
こくこくと頷く女の子。Mラックはぎこちない笑顔をして親指を立てて教会の方をさした。
「みんな教会に避難してるからおま…、君も早く逃げな」
女の子を立たせて背中を押す。女の子は教会の方にパタパタと走っていった。女の子の背を見送り、中心部の方を向く。
『いい所あるじゃないモモタロス』
「へっ、うるせーよ。それより急ぐぞ」
再びMラックは走り出した。その間に3頭の人狼とすれ違い、人狼達はモモタロスォードの刃の錆となっていった。
そしてようやく巨大な石のモニュメントが設けられた村の中心にやってきた。被害が1番出ていたらしく、あちこちに村人の死体が転がっている。そしてそれに群がる数頭の人狼。モニュメントの上に1頭だけ毛の色が黒い人狼がこちらをジッと睨み付けていた。
「アイツが親玉って訳か。オイテメー!そんな所で偉そうにしてねぇで降りて来やがれ!」
黒い人狼はふんと鼻で笑い、「ウォンッ!」と一鳴きした。すると死体に群がっていた人狼達がピタリと貪るのを止めてこちらを向く。
『も、モモタロスぅ。これピンチじゃないの?向こうは1…2………、6頭もいるんだよ!?』
「上等じゃねぇか!1対6で俺が勝ちゃ最高にカッコイイだろうが。それにな…」
そろりそろりと人狼達がMラックとの距離を詰めてくる。Mラックはモモタロスォードの切っ先を黒い人狼に向けて言い放った。
「俺は最初から最後までクライマックスだぜぇぇぇ!」
叫び上げながらMラックは駆け出した。同時に人狼の群れも飛びかかってくる。
最初の1頭を華麗に躱し、すれ違いざまに切りつける。2頭目、3頭目も同じ要領で煙と化していった。
「へん。やっぱり犬っころは犬っころだな!全然大した事ねぇじゃねぇか」
思いの外あっさりと仲間がやられてしまった事で生き残った他の人狼達はMラックから距離を置き、グルルルと威嚇する。
終始戦いの様子を見ていた黒い人狼がモニュメントから降り立つ。
「ようやくボスのお出ましってか。退屈で仕方なかったぜ」
『気をつけて。アイツは普通の人狼じゃない。群れのボスのブラックバックだ』
「なーに。黒犬なんざイチコロだぜ」
呆気なく人狼を倒せた事でMラックは調子に乗っていた。しかしその油断が仇となる。
ブラックバックと呼ばれる黒い人狼はあっという間にMラックとの距離を縮め、鋭い横蹴りを腹に食らわす。もう少しで胃の中身を吐き出しそうになるが何とか堪えた。しかし続けざまに右フックがMラックの頬を捉える。よろけたMラックの腹や胸、顔目掛けてリズミカルにジャブの嵐が襲う。ブラックバックの口角がぐにゃりと釣り上がり、笑みを浮かべる。
『モモタロス!モモタロス大丈夫!?』
答えたくても凄まじいジャブの猛攻の前ではガードをする事がやっとで応えることができない。
(この黒犬マジでやべぇ。悔しいが頭張ってるだけあるぜクソッ)
トドメと言わんばかりの渾身のアッパーがMラックの顎を的確に捉えた。拳を撃ち抜き、Mラックの身体がふわんと宙に浮く。モロにアッパーを食らったせいか、倒れるまでの時間がゆっくりと過ぎていくような錯覚を覚えた。
ガランと音を立ててモモタロスォードが転がり、そのまま後方へ大の字で地面に倒れ込む。
「あててて、こりゃまずいな…」
今のでかなり体力を持っていかれた。意思が飛ばなかっただけ儲けものだが、受けたダメージによって膝が笑って立つことができない。
ゆっくりとブラックバックは背負っていた剣を抜き、その刃先をMラックの顔に向けた。トドメをさすつもりなのだろう。そしてすーっと剣を振り上げ、Mラックの胸目掛けて突き刺そうと構えた。
「すまねぇダック。折角身体借りたのにやられっちまうみてーだ…」
Mラックが諦めて目を瞑った瞬間、ヒュンッと何かが素早く飛んでいくような高い音が聞こえた。続けてガランという金属が地面に落ちる音。ゆっくりと目を開けるとブラックバックの右腕に矢が刺さっていた。足元に剣が転がっている。
「こ、こりゃあどういう事だ?」
「アタシよ!ラック、大丈夫だった?」
サリィだった。弓を構えたままの体勢で矢筒から次の矢を取り出し、狙いを定め放った。ブラックバックはそれを警戒し、すんでのところで躱す。
外した事に舌打ちをしてサリィはMラックの所に駆け寄った。手を貸りてMラックは身体を起こす。
「向こうの雑魚共はなんとか片付けたわ。後はここの人狼だけよ」
『サリィ!無事で良かった!ありがとう、助かったよ』
「オメーの声はこの筋肉女にゃ聞こえてねぇよ。ま、確かに助かったがな」
『助けてもらったのにそんな言い方はないと思うよ』
「ちょ、何よ筋肉女って!貴方本当にラックなの?なんだか雰囲気が違うけれど…」
「あぁやかましい!少し黙れお前ら!」
サリィと小競り合いをしている間に再びブラックバックが迫ってくる。地面に転がっているモモタロスォードを拾い上げる間にサリィがカバーで矢を射る。当たりはしないが牽制にはなった様でブラックバックは再び距離を置いた。
「その頭の悪そうな汚い言葉遣い、もしかして貴方あのオーガ?なんでラックの身体に?魔術でも使ったの?」
「訳は後で話してやるから協力しやがれ筋肉女。あの黒犬はオメーの弓矢に警戒してやがる。俺が何とかするから援護しろ」
「はぁ!?何言ってんのよ。オーガの言う事を信用できる訳ないでしょ。それにその身体はラックのなんだからもし怪我でもしたら大変じゃない」
「だぁぁっもう!今はギャーギャー喚いてる場合じゃねぇだろが。それに俺だってこれ以上ダックに怪我させるつもりはねぇ。とにかく俺の方に向かってくるようやってくれ」
体勢をなんとか立て直し、身体の状態を把握する。流石にあの攻撃の後なのであちこち痛い。刀を構えるのがやっとだ。
(ダックの体力だとこれ以上無茶はできねぇ。決めるなら今しかねぇか…)
Mラックは両手を広げ、身体をさらけ出す。そして声を張り上げた。
「オイどうした?どうせへなちょこな矢が恐くてビビってんだろ。俺はまだやれるぜ!」
「へなちょこって何よ!助けてやったのに!それになんで挑発するような事言ってるのよ!」
「黙ってろって!…へへっ、黒犬よ。来ねぇのか?それとも俺の言ってる事がわかんねぇのかよ!バーカ」
今の挑発でブラックバックは頭に血が昇ったのだろう。「ワォーン」と怒りの遠吠えを発したブラックバックは地面を蹴って突進してきた。
反応したサリィが反射的に弓を構え、不本意ながらMラックの方に誘導するよう矢を放つ。ブラックバックの回避する動きを完全に予測した射撃で上手く誘導する。
正直満身創痍に近いコンディションであるが、気力を振り絞りモモタロスォードを構える。
「やるじゃねぇか筋肉女。後は俺に任せろ。行くぜ、必殺…」
Mラックの首に下げているペンダントがその闘気に呼応するかのように光り始める。その光はモモタロスォードの刀身へと移る。知っている者が見たらそれはまるでデンガッシャーのソードモードがフルチャージした時の様を彷彿させただろう。
そうしている間にブラックバックとの距離が徐々に縮まっていく。
「俺の必殺技、パート1!」
あと2mもないくらいの所までやってきた。ブラックバックは勢いを付けて身体を捻って拳を引く。そこでMラックはモモタロスォードを横一閃で思い切り振った。
「きまったわ!」
サリィは嬉しそうにそう叫んだ。モモタロスォードの刃先がブラックバックの胴を見事に捉えた
かに思えた。刃先が触れる寸前の所でブラックバックは歩みを止め、減速。タイミングがズレてしまった事でモモタロスォードは空を切る。
逆にブラックバックの方はブレーキをかけた事で踏ん張りが効き、拳の威力が増す。
「へん。行動を読んでたのが自分だけだと思うなよ黒犬野郎」
頭上からの声にブラックバックはハッと頭を上げる。そこにはモモタロスの姿があった。
ブレーキをかける事を直感的に予測していたモモタロスはモモタロスォードを躱される直前で憑依を解除していた。憑依の解けたラックは慣性の法則でそのままモモタロスォードを振り抜く。刀の重さに耐えきれずバランスを崩し、勢い良く後ろに倒れた。その為今度はブラックバックの方が空振りする。
「オラァァァァァッ!」
モモタロス会心の飛び蹴りが炸裂。そのままブラックバックは吹き飛び、モニュメントに身体を強く打ち付けた。そして力なく地面に倒れ込み、シュポンッと煙になった。
群れのボスを呆気なく失った人狼達は文字通り尻尾を丸めて村から逃げていった。その背中に向けてモモタロスは勝ち誇ったように叫ぶ。
「負け犬はとっとと小屋にでも帰るんだな!っと、いけね。ダック!大丈夫か?」
慌ててラックに駆け寄る。サリィに支えてもらい、ラックはゆっくりと身体を起こす。
「すまねぇ。少し無茶し過ぎちまった」
「とりあえず大丈夫…。あちこち痛いしちょっと立てそうに無いけど、いててて。でもモモタロスが戦ってくれなかったら村はもっと酷い事になってたよ。ありがとう」
身体中生傷だらけのラックは力なく微笑んだ。照れ臭いのと申し訳ないのとモモタロスは複雑な気持ちになった。
「とにかく今は教会に行って手当をしましょう。ほらオーガ!アンタは責任持ってラックを連れていってあげて」
「はぁ?俺がか?お前が行けば良いだろうが」
「そうしたいけどラックより重症の人達が他にもいるのよ。いい?アタシも貴方の指示に従ったんだから今度は貴方の番なんだからね」
そう言ってサリィは村の入口の方へと走っていった。このままラックを置いておく訳にも行かないのでモモタロスはラックに肩を貸す。
「本当に、君はオーガじゃないんだね。っててて…」
「何度も言ってるだろうがバカかお前」
「はは、ごめんごめん。あ、それとそうだ。僕はラックだからね?ダックじゃアヒルになっちゃうよ」
「あー、わかったわかった。それだけ話せりゃとりあえずは大丈夫みてーだな」
2人はゆっくりと教会を目指して歩き始めた。
*
翌朝。モモタロスは再び檻の中にいた。教会に着くなり守っていた男達に取り押さえられ、ご丁寧に新しい檻まで作ってそこにぶち込まれたのである。体力には自信があったが丸一日の疲れが溜まっていたせいもあり、抵抗も虚しく呆気なく捕まったのだった。
幸いなのはラックがすぐ教会の奥へ通された事とあの変な夢を見なかった事だ。あれぐらいで死ぬ事はないと思うが、自分のせいで怪我をさせてしまった事に負い目を感じているのだった。
「クソッ。誰が村を救ってやったと思ってやがる!こんな扱いしやがって!」
悪態をつき、檻の柵を蹴飛ばす。やはりビクともしない。
するとサリィが腕組みをしたままテントにやってきた。少し様子がおかしい。
「あら。しおらしくしているかと思ったけど意外と元気にしてるのね」
「なんだオメーかよ。ダックは大丈夫だったか?」
「ラック?えぇ、彼にはポーションを飲ませたからそのうち元気にしてるわ」
内心ホッと胸を撫で下ろす。これで少しは安心できそうだ。悟られないように普段通りに話し掛ける。
「そりゃ良かった。で、オメーは何しにここに来た?」
「貴方を笑いに、と言いたい所だけどお礼を言いに来たの」
「はぁ?何言ってんだ」
「貴方のおかげで村の被害を抑える事ができた。犠牲になってしまった人もいたけれど、貴方がいなければブラックバックは倒せなかった。ありがとう」
(なんだよ。しおらしいのはそっちじゃねぇか。調子狂うぜ、ったく)
頭をポリポリかいているとモモタロスの態度にサリィはムッとする。
「ちょっと、人がお礼を言ってるのになんて態度で聞いてるのよ貴方」
「あぁ?ちゃんと聞いてただろうが筋肉女」
「またその呼び方を…。いい?アタシはそんなに筋肉なんてついてません!」
「どーかな?犬っころ相手に善戦してただろうが。説得力ねーんだよバカ」
「何言ってるの?貴方だって見たまんまのオーガじゃないのよ!」
「なんだとこのアマ!やんのかコラ!?」
ギャーギャーと口論をしている内に村長が男達を引き連れテントにやってきた。
「何を騒いでおるのじゃサリィ!」
「お、おじい様」
「全くオーガと口喧嘩しとる場合ではあるまいに。犠牲者の埋葬は終わった。これからそやつの処遇を皆と決議する。来なさい」
「しかしおじい様、このオーガは村の為に戦ってくれたのですよ?」
「そうかもしれぬが皆で処遇を決めるのが古くからの習わしなのじゃ。こればかりは変えられぬ」
「そんな…」
黙って様子を見ていると村長はモモタロスの方を向き、深々と一礼した。
「理由は知りませぬがこの村を救っていただき感謝いたします。本来、恩人に対してこのような扱いをするのは大変な失礼であると心得ております。しかし貴方様の姿に恐怖する村の者もおる。村の長としてこのような扱いをしてしまった事、本当にお詫び申し上げます」
「そういう事なら俺を出してくれ爺さん。アンタなら権限くれぇあるだろ。もういい加減ウンザリしてんだ」
「いえ、そうもいきませぬ。先程も孫娘のサリィに話しましたがこれから村の者達と処遇を決めますので。さ、お前たち。頼んだぞ」
村長の合図で後ろで待機していた4人の男達が檻ごとモモタロスをテントの外へと運ぶ。そしてあらかじめ用意していた荷車に乗せる。
「オイ、マジか!俺は村を救ってやったんだぞ!出せよコラ!」
モモタロスの叫びをまるで聞かず、男達は教会へと荷車を押し進めた。
*
教会に着くと既に多くの村人が集まっていた。村人達は好奇や恐れの眼差しを運ばれてきた檻の中へ向ける。腹が立ったが今はキレるのは流石にまずいと思い、なんとか堪えていた。
やがて村長が到着し、教会の入口の手前に置かれた木の踏み台に上がる。するとそれまでひそひそと話をしていた村人達はピタリと話すのを止めて視線を向けた。
「えー、皆の者。昨日は皆にとって最悪の日となってしまった。人狼の群れに村が襲われたからのぅ。中には自身が怪我を負った者もいれば、愛する者を失った者もおるはずじゃ。まずは皆でこの悲劇の犠牲者達に黙祷を捧げようではないか」
村長の合図で皆は目を瞑り、黙祷を捧げる。その様子を檻の中から見ていると、器用に人を避けながらこちらに近づいてくる者がいた。しかしフードを被っていていて顔がよく見えない。
「では、今日皆に集まってもらったのは他でもない。わしの孫娘サリィが捕らえたというオーガについての話じゃ」
ザワザワと騒ぎ出した。村人の視線が再びモモタロスへと移る。村長は続ける。
「皆も知っていると思うが、今までこうして魔物を捕らえた時は採決をとってきた。危険が無いと判断された魔物は野に放ち、村にとって災いをもたらす可能性があれば様々な手段を用いて処分してきた。
さて、このオーガは魔物であるにも関わらず、この村を襲った人狼共を追い払ってくれた。信じられないと思うが我々を襲うこと無く奴らのボスも退治してくれたのじゃ」
信じられないと言わんばかりにどよめきが起こる。その内1人の村人が声をあげた。
「村長、そんな話はにわかに信じられませんぜ。あの血も涙もない残虐で有名なオーガの種族が俺達を助けるなんて考えられない」
他の村人もその意見に賛成のようで頷くばかりだ。村長は顎髭を撫でながら答える。
「うむ、それは一理あるのぅ。かく言うわしもラックから話を聞いた時は眉に唾をつけたわい。しかしな、この目で奴がブラックバックを撃退した様を見てその話が真実であったと実感できたのじゃ」
「それでもイマイチ信じられないな。オイラの娘から聞いた話じゃ助けてくれたのはラックだったぜ?」
「私もラックに助けてもらったわ。でもなんだか様子がおかしかったけれどねぇ」
「そうそう。なんかこう…、逞しくなったというかなんというか。上手く言い表せないんだが、確かにいつもと違ってたな」
「まぁまぁ、皆の者。少し静かにせんか。ふーむ、ならば本人に直接聞いてみるのはどうじゃ?疑問もそれで無くなるはずじゃて。ではラック、前に来ておくれ。そしてどういう事なのか話してくれんか?」
村長の鶴の一声によりラックから話を聞くことになったが、肝心の当人の姿が見られない。
すると1人の村人が気付く。
「おい、オーガがいなくなってるぞ!守衛も倒れてる!」
一斉に檻の方へ目がいく。守っていたはずの男たちは倒れていて、檻の中はがらんとしている。
「ま、まさかラックの奴、オーガを逃がしたのか!?でもどうやって…」
「とにかくあの2人を見つけ出すんじゃ!おそらくそう遠くまで逃げとらん!」
村人達は蜘蛛の子を散らしたように一斉に2人を探すべく村の方へと走り出した。
*
一方、ラックに憑依して檻から逃げ出したモモタロスは村の入口を目指して走っていた。
「しっかしお前が逃がしてくれるとは思わなかったぜ。意外と根性あるんだな」
『へへへ、モモタロスのおかげだと思うよ。前の僕ならこんな大胆な事できなかったと思うし』
「でもいいのかよ?お前まで一緒に来る必要はねぇんだぞ」
『いいんだ。この村は大好きだけど、僕もモモタロスと一緒に村の外をもっと知りたいんだ。だから、後悔はないよ』
「へっ、いっちょ前な事言いやがって。まぁ好きにしな。身体があった方が俺も無駄に襲われる事も少ないしな」
村の入口が見えてきた。村の入口を塞ぐように人が立っている。
「ありゃ筋肉女か?」
『え?なんでサリィが?』
「だから、筋肉女じゃないって言ってるでしょ」
「お前なんでここに?あ!さては俺達を行かせねぇつもりだな!そうはいかねぇぞ」
Mラックはサリィに詰め寄りメンチを切る。サリィは欠片も臆せず、さらりとそれをかわす。
「貴方にラックを任せたらまた怪我させかねないでしょ?それに村の外は魔物が多いわ」
「コンニャロ〜、じゃあ何か?また俺を閉じ込めて火あぶりにするつもりかよ。俺は…」
「モモタロス。それでオーガじゃなくてイマジンなんでしょ?あれだけ言われればいい加減わかるわ。貴方じゃあるまいし」
「なんだとぉ?人の事バカにしやがって!」
『まぁまぁモモタロス落ち着いて』
「落ち着いていられるか!それにコイツは俺達を行かせるつもりがねぇんだぞ」
後ろからラックを探す村人達の声が迫っている。焦ったMラックは強行突破しようとサリィに掴みかかろうとする。
「時間がねぇ。そこをどけ筋肉女!」
「本当に貴方ってつくづく馬鹿ね!宛もなく村から飛び出て、それからどうするの?アタシが言いたいのは貴方達だけじゃ心配って言ってるの!」
言ってから「しまった」という顔をしてサリィはプイっとそっぽを向く。それを見てMラックはニヤニヤと笑う。
「なーんだ、そういう事かよ。それなら最初っから一緒に行きたいって言えばいいじゃねぇか」
『はは、サリィらしいといえばらしいけどね』
「えぇ、そう。そうよ!なんか文句ある?アタシも一緒に行きたいの」
顔を真っ赤にさせながら、半ば開き直ってサリィは言った。Mラックはサリィの手を取り、村の外へと出る。
「へっ、ちょうど案内役が欲しかった所だ。よろしく頼んだぜ筋肉女」
「アタシにはサリィって名前があるの!その呼び方やめてもらえる?」
こうしてラックとモモタロス、そしてサリィの3人は村の外の世界へと旅立った。Mラックとサリィの後ろ姿を村人達は入口から見送る。
「村長本当にいいんですか?ラックとサリィ、行ってしまいますよ?」
「ほっほっほ。まぁ可愛い子には旅をさせよと言うじゃろ?行かせてやろうじゃないか」
寂しさもあるが孫の旅立ちを少し誇らしく思う村長であった。
おおよそ今回みたいに2話で一区切りの構成で考えています。
今回は人狼撃退〜3人の旅立ちまでの話を詰めたので少し長くなってしまいました(^^;
本当はもう少し人狼とのバトルを長くさせたかったんですがこれ以上は長過ぎかなと思い、泣く泣くカットしたので申し訳ないです。
補足までにモモタロスは『レッツゴー仮面ライダー』あたりをイメージしています。超スーパーヒーロー大戦のモモタロスはデータだし、他のはゲスト参戦扱いだった気がしたので。
平成ジェネレーションズForeverはまだ見れてないし(苦笑)
次回かその次くらいに他作品ライダーを登場させる予定なので乞うご期待!