イマジンズ、転生す   作:ねこどん

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8話 旅立ちはいつも必然。

「ちょっとぉ、ラックちゃん。そんな恐い顔してちゃお客さんが逃げちゃうじゃないのぉ。キープスマイリングよ。キープスマイリング」

 

 ツインテールで髪をまとめている店のオーナーがニコニコとMラックに指導する。眉間に皺を寄せながらMラックは小さく舌打ちする。

 ここは王都で人気のある菓子店「ラッキー&キャンディ」。現在モモタロスはラックに憑依してギルドに来た依頼でここにいる。

 オーナーが店の奥へ消えていったのを確認してからMラックは悪態をついた。

 

「ったくよぉ。なんだこの依頼。俺もサリィと害獣狩りが良かったってのに」

 

『仕方ないじゃない。モモタロスは弓使えないでしょ?それに今僕らが受けられる依頼は簡単なものしかないんだから』

 

「そりゃそうだが、だからってこりゃねーだろ。何が悲しくってこんな所で菓子売らなきゃならねぇんだ。俺は暴れられるからギルドに…」

 

 カランコロンと入口に設けられた木製のドアチャイムが来客を告げる。Mラックは不満をぶつけるように挨拶した。

 

「いらっしゃいませぇ!」

 

 驚いた客の女子2人組はMラックの不機嫌そうな顔を見るなり怯える。そしてその内の1人が震える手でショーケースの中のケーキを指さして注文した。

 

「あ、あの。ぶ、ブレイブアラモードカップをふっ、2つ…」

 

「あぁ?どれだかわかんねぇよ。…あ、これか?」

 

 乱暴にショーケースの扉をスライドさせ、素手でケーキを掴むとそれを箱に押し込んだ。案の定ケーキはぐちゃぐちゃになってしまう。それを蓋してラッピングをするが、元来こういった作業が苦手なモモタロスは適当に包装紙で包む。かなり不格好に包装された箱はあちこちが凹み、お世辞にも上手とは言えないものになっていた。

 

「ほら。これでいいだろ。2つで500Lになります!」

 

 怒鳴りつけるように言われた彼女達は涙目になりながら無言で店を出ていってしまった。

 バツ悪そうにMラックは舌打ちし、振り返るとオーナーが立っていてドキリとした。オーナーはため息をついて残念そうに言った。

 

「悪いけどラック君、もういいから今日は帰ってもらえるかしら?あれじゃお客さんが来てくれても困るもの」

 

「あぁ?上等だコラ。こっちから願い下げだぜ」

 

 乱暴にフリル付きのパステルピンクのエプロンを外して床に叩きつけ、そのままずんずんと店を後にした。

 

 

 *

 

 

 ニライカナイに着くなり、モモタロスはラックから出てテーブル席に足を組んでふてぶてしく座った。隣にちょこんとラックが腰掛け、モモタロスはコーヒー(練乳入り)を、ラックはコーラをそれぞれ頼んだ。

 

「ホントによぉ。なんなんだよここの依頼は!せっかくギルドに入ってやったってのにここんとこ庭の草むしりや店の手伝いばっかじゃねぇか。退屈過ぎてイライラするぜ」

 

「うーん。確かにちょっと依頼にしてはお使いレベルのばかりだものね。もう少し難しいものでもできると思うんだけど」

 

「そう思うだろ!?あ゛ー、これなら前みたいに旅してた方がよっぽど良かったぜ。好きに暴れられたしよ!」

 

「まぁまぁ。まだ王都に来て2週間なんだからさ」

 

 モモタロスを宥めているとフロアガールのメイシーがコーヒーとコーラを銀のトレーに乗せてやってきた。半袖の白いワイシャツに大きな赤いリボンとへそ出しが目を引く。ピンクと赤紫のチェック柄の超ミニスカ。最大の特徴といえば筋肉で引き締まった腕と足。

 

「はぁーい、お・ま・た・せ。ご注文のコーヒーとコーラでーす。モモちゃんにそんなしかめっ面は似合わないぞ♪」

 

 コーヒーとコーラをテーブルに置くとメイシーは彫りの深い濃い顔でウインクしたかと思うと続けてモモタロスに投げキッスする。ゾクゾクッと背筋に悪寒が走ったモモタロスはちょこちょことラックの方を向く。

 

「なぁダック。このオッサンなんで俺にあんなおぞましい事すんだ?」

 

「さぁ?モモタロスに気がある…とか?」

 

「マジでやめてくれ。ホント吐きそうになる…」

 

 コソコソと小声で話しているとメイシーはドスンとモモタロスの隣に座った。

 

「ねぇ、モモちゃん。私この後予定無いのよねぇ…。誰かに構って欲しいなぁ」

 

 チラッチラッと上目遣いで目配せしてくるメイシーにモモタロスは全身に鳥肌が立つ。なるべく見ないようにして首を向ける。

 

「いや、俺はその、これ飲んだら新しい依頼を探しにいこうかと思ってて。な?ダック」

 

「う、うん。そうなんですよメイシーさん。でもなかなかピンと来る依頼が無くって。何かオススメのものとかありませんか?」

 

 左頬に人差し指を当ててメイシーは考える。しばらくしてポンッと手を打ち、カウンターからリストを持ってきた。

 

「この前の事件があったせいで人手があのドクトルを探す方に割かれてるのよ。それでこっちの方まで手が回ってないのよね。もし良かったらモモちゃん達やってみる?少し難しいかもしれないのだけど」

 

 ラックはメイシーから依頼のリストを受け取ってそれを眺めた。モモタロスにもわかるように声に出して読み上げる。

 

 ────────────────────────

 

『農村を困らせる盗賊団の討伐』

 

・ジャオ村に女盗賊団「バイパーアイズ」が蔓延っていて、村人から金品だけでなく食糧をも巻き上げていてほとほと困り果てている。助けてほしい。

 

 

『亜人集落の調査』

 

・トレントの森に人ならざる者達の集落があるらしい。度々冒険者達から目撃されているとの報告がある。ぜひ実態を調査してもらいたい。

 

 

『砂漠の村の井戸作り』

 

・砂漠にあるカエサ村に井戸を作ってもらいたい。しかしサンドワームの群れが近くにあり、迂闊に井戸を掘る事ができない。サンドワームを何とかして欲しい。

 

 

『謎の白い幽霊』

 

・ドーカッサ城跡地に夜な夜な白い幽霊が現れるという。その昔無念の死を迎えた城の当主の霊がさ迷っていると付近の村の住人は不安がっている。

 

 

『渓谷の竜人族の里』

 

・幻と言われた竜人族の集落がハイロード渓谷にあるという。そこの秘宝「大地の宝玉」を手にした者は世界を統べる事ができるとかできないとか。

 

 

 ────────────────────────

 

 

「これだよこれ。こういうの待ってたんだ。なんで俺らに回してくれねぇんだ?いくらでもやってやるぜ」

 

 リストを見たモモタロスは嬉しそうに言った。今度は自分の頬にゴツゴツした手をあてメイシーは左右に腰をくねらせる。

 

「だってモモちゃん達まだギルドに入って10日くらいじゃない?いくら強いからっていきなり難しいのは任せられないものーん」

 

「オッサン、心配してくれるのもありがてぇがな。俺はカッコよく戦えればそれでいいんだよ」

 

「いやーんモモちゃん。私見た目はおじさんだけど中身は19歳の乙女なんだからぁ。でもそういうワイルドな所も私好みぃ〜」

 

 クルクルとモモタロスの胸板に指を這わせて弄ぶメイシーに再び鳥肌がぞわわわっと立つ。

 

「じ、じゃあダック。宿に戻って作戦会議でもしようじゃないか。オッサ…じゃなくてメイシー、コーヒーごちそうさん」

 

「またお願いしますね。それじゃ!」

 

 2人は脇目も振らず逃げるようにニライカナイを後にした。

 

 

 *

 

 

 その日の夕方にサリィは依頼を終えて、疲れた様子で宿に帰ってきた。あちこち泥が着いていたり擦り傷ができていた。

 

「あーっ、疲れたぁ。朝から10頭もアバレツノイノシシ狩ったせいであちこち痛くって叶わないわ」

 

「サリィお疲れ様。その様子じゃかなり手こずったみたいだね」

 

 ラックはホットココアの入ったマグカップをサリィに手渡して隣の椅子に腰掛けた。もらって早々にマグカップに口をつけると疲れ果てた身体に暖かなココアの温もりが染み渡る。

 

「ありがとうラック。ん…、美味しい。こういう時のココアって本当に染みるわ。そういえばモモタロスは?」

 

「あぁ、モルガの所に行ってる。ほらデネブがこの世界に来た時に消滅しそうだったって言ってたでしょ?だからもし仲間のイマジンが見つかった時に消えかけてたら大変だろうってコントラクトブレスが余ってないか聞きに行くって。まぁ本人はここまで言ってなかったけど」

 

「あー、わかるかも。アイツそういう所ぶっきらぼうよね。変に悪ぶってるじゃないけど仲間想いの癖して素直になれないっていうか。そういう所がモモタロスらしいんだけどさ」

 

 笑ってサリィは再びマグカップを傾ける。ラックは思い出したように昼間ニライカナイでメイシーからもらった依頼のリストを取り出した。

 

「そうそう。それで思い出した。今日ニライカナイでメイシーさんから新しい依頼のリストをもらってきたよ。ドクトルを追ってるせいで手が足りないみたい」

 

「なになに……。へぇ、トレントの森にそんな集落があったのね。村の近場だったから意外。それでどれから受ける事にしたわけ?」

 

「モモタロスとも話したんだけど上から順にしてみようかって。王都からだとトレントの森は遠いからこのリスト通りしていけば必要な時に王都にも戻れるしね」

 

「なるほどね。じゃあまずは5番砦から出た方が近いわね。明日出るんでしょ?ならアタシは疲れたから先にお風呂に入って寝るわ。少しでも休んでおかないと」

 

 そう言ってサリィは席を立ち、うーんと身体を伸ばした。そのまま部屋へ行こうとするサリィの手をラックは掴んだ。

 

「何?どうかした?」

 

「えっと、その…。モモタロスがいないって久しぶりかなと思って」

 

 サリィは小首を傾げる。いつにも増してモジモジとするラックにそれがどうしたのかと聞こうとして気が付いた。急に意識してしまいサリィの顔は耳まで真っ赤になる。

 

「え?え?いきなり?ちょっと待って。まだ心の準備が。それにお風呂にも入っ…」

 

「それでその…。もう少しサリィと話したいかなって」

 

「へ?はな、話?あぁ話しね。それならまたお風呂入ってからね。じゃ!」

 

 逃げるようにサリィは部屋を出た。

 

(もう!ドキドキして損した!何よ話って!紛らわしいのよバカラック!)

 

 残念なようなホッとしたような複雑な心境のサリィであった。

 

 

 *

 

 

 モモタロスは椅子の背もたれに顎を置き、デネブからもらったロリポップにかじりつきながら2人の作業をボケーッと眺めていた。

 ここは王都にあるモルガの工房である。八畳程の広さの工房にガンガンと熱い鉄を叩く音が木霊する。デネブが大きなやっとこで熱い鉄をはさみ、モルガがそれに槌を振り下ろす。2人ともとても真剣な顔だ。

 

「なぁおデブ。まだ終わら…」

 

「ごめんモモタロス。今は黙っててくれないか。もう少しで終わる」

 

 手持ち無沙汰なモモタロスは両手を頭の後ろで組み、退屈そうに喉を鳴らす。

 程なくしてデネブが焼けた鉄を水桶に入れてジュワーっと蒸気が辺りに立ち込めた。

 

「よし、こんなもんだろう。後は明日にでも組み立てりゃ完成だね。お疲れさん」

 

「わかった。それじゃ疲れただろうからごはんにしよう。今日は活きのいいサンマが入ったんだ。モモタロスも食べてくよね?待っててくれ」

 

 壁に掛けてあった割烹着を羽織り、デネブはそそくさと隣の台所へ向かっていった。モルガはと言うと手拭いで汗を拭きながらテーブルに置かれた水の入った

 グラスを傾け、中身を飲み干す。

 

「ぷはーっ、仕事を終えた後のコレはサイコーだね。あ、待たせてすまないねモモすけ。で、どうしたんだい?」

 

「折り入って相談なんだが前におデブを呼び出した腕輪あっただろ。あれ貸してくんねぇか?」

 

 何の前フリもなくストレートに頼んでくるモモタロスに思わずモルガは眉を八の字にして顔をしかめる。

 

「お前さん、アタイに借金ある事忘れちゃいないだろうね。まだ2999万9266Lもあるんだよ?更に増やしてどうすんのさ」

 

「忘れる訳ねーだろ。…明日からギルドに来た依頼でしばらく王都を離れんだ。それで行った先でおデブみてぇに俺の仲間が消えかけてたら夢見悪いじゃねぇか。だから頼みに来たんだよ」

 

「なんだそういう事かい。なら餞別として1つくれてやるよ。但しそれ以降欲しいというなら買ってもらうけどね」

 

 にししとモルガは笑って汗をたっぷり吸ったシャツの裾を掴む。慌ててモモタロスは後ろを向いた。

 

「そういやあの2人は今日はどうしてる?お前さん1人ってのも珍しいじゃないか」

 

「ん?あぁラックとサリィか。ラックは宿で留守番しててサリィは害獣狩りだ。そろそろ帰ってくるんじゃねぇか?」

 

「へぇ………ん?ちょっと待て。もしかしてコントラクトブレスの事、言い出したのはラックじゃなかったかい?」

 

「お?鋭いじゃねぇか。そうなんだよ。アイツが『他の仲間が消えたら大変だよね』なんて言うもんだからよ。それで今日来たんだ」

 

 着替え終えたモルガはニヤニヤしながらモモタロスの前に回る。モルガの様子に今度はモモタロスが眉をひそめる。

 

「そうかそうか。そういう事ね。いやー、若いって本当いいねぇ。アタイも長らくそういう甘酸っぱいのと縁が無いから羨ましいよ」

 

「はぁ?何言ってんだお前」

 

「何って若い男女が1つ屋根の下でする事と言えば決まってるじゃないか。それくらい察しがつくだろ?」

 

 ニヤニヤが止まらないモルガに対してモモタロスは何を言っているのかてんで検討がつかず、腕を組んでうーんと唸る。

 

「まぁお前さんは今日ウチに泊まってきな。その様子じゃ邪魔するだけだ」

 

「あぁ?何だそれ。邪魔になるってどういう意味だよ」

 

 半ギレするモモタロスの肩にポンと手を置き、諭すような口調でモルガは言った。

 

「その内わかる時が来るさね。いいから今日は泊まってきな。ほら、魚の焼けるいい匂いがしてきただろ?飯も食ってけ」

 

「お?おう。じゃあお言葉に甘えて…」

 

 なんだか腑に落ちないがとりあえず今夜は泊まっていく事にしたモモタロスであった。

 

 

 *

 

 

 翌日。モモタロスとラック、サリィは旅の荷支度を済まして王都の第5砦方面に続く門に来ていた。モルガとデネブ、そして何とスタッシュも見送りに来てくれていた。

 

「モモタロス、気を付けて行ってくるんだぞ。ちゃーんと手洗いと歯磨きは毎日してな。これは小腹が空いた時用のデネブキャンディー。それと3人分のお弁当とお茶。あとは…」

 

「いや。お前は俺のおかんかよ。ったく…」

 

 ツッコミつつもデネブが用意してくれた弁当入りの袋を受け取る。すかさずモルガもモモタロスに腕輪を手渡した。

 

「昨日言ってた餞別だ。それも本当なら高いんだからね。…あっ言い忘れてた」

 

 何かを思い出したかのようにモモタロスの腕を引き、つられてモモタロスは身を屈める。

 

「モモすけ、もしあの2人に進展があったらアタイにすぐ知らせるんだよ?いいね?」

 

「あ?これから旅に出んだぞ?いちいちここに戻れってか?やだよ面倒くせぇ」

 

 小声で話しながらモルガはエプロンスカートのポケットに手を入れ、1つの指輪を取り出した。

 

「これはチャネリングっていう離れてても話ができる指輪だ。お前さんに渡しておくからそれを使いな」

 

「はぁ!?使い方わかんねーよ。それにバレたらどーすんだ?」

 

「大丈夫大丈夫。じゃ任せたからね。ほらデネブ。行くよ」

 

「あぁ、モルガ待って!ラック、サリィ。大変だろうけど頑張ってね。俺もモルガも応援してるから〜」

 

 にししと笑ってモルガはデネブの手を引き、スタスタと去っていった。

 リングを片手に突っ立っているモモタロスの脇腹をサリィが肘でつつく。

 

「モルガに何もらったのよ?あらそれ、チャネリングじゃない」

 

「あ?え、あー、借金の事で話がある時に連絡よこすって渡されてよ」

 

『あー』と納得し、サリィはそのまま話しているラックとスタッシュの輪に入る。どうも嫌な役を引き受けっちまったと内心後悔するモモタロスだった。

 

 

 *

 

 

「もう傷はいいのかい?ラック」

 

「はい。やっぱり王都って凄いんですね。本当に死ぬかと思った傷でもすっかり良くなるんですから」

 

 ラックの言葉にスタッシュの表情に影がさす。悪気があって言った訳ではないが慌てて訂正する。

 

「あ!別に恨んでるとか痛かったとかじゃないんで!ただ単純に王都の治療魔法ってすごいなと」

 

「はは、大丈夫だよ。わかっているさ。でもやはりその、騙されていたとは言え申し訳なくってね」

 

 お互いに気まずい雰囲気で話しているとモモタロスと何か話してたサリィがやってきた。屈託のない笑顔で話しかける。

 

「スタッシュ。来てくれたのね。傷はどう?」

 

「おかげさまでね。君達が旅立つと聞いて来たんだ」

 

「やぁね。旅立つって言ったってギルドの依頼でよ?それにまた王都にも帰ってくるんだし」

 

「それもそうだが君達には世話になったし、きちんと顔を見て礼を言いたかったんだ。あの時は本当にありがとう」

 

 深々と頭を下げるスタッシュにサリィは恐れ入ったようにそれを制する。

 

「よしてよ。あれは仕方なかったんだから。それにアタシ達だって貴方の仲間を助けられなかった。だから、ね?ラック」

 

「あ、うん。そうですよ。スタッシュさんだけが悪いんじゃないんだ。それに僕らはもうギルドの仲間でしょ?」

 

 2人の言葉に顔を上げたスタッシュは一瞬泣きそうな顔になる。すぐに凛とした表情に戻った。そして腰に下げていた腕章を3つ取り出してラックに手渡した。

 

「これはギルドメンバーである事の証だ。きっと君達の旅の助けになるだろう。無事を祈ってる。また会おう」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ラックはスタッシュに手を差し出した。右手の甲冑を外してそれに応える。

 

「サリィ、モモタロス。行こうか」

 

「へっ、遅いんだよ。このまま夕方になるかと思ったぜ」

 

「それはさすがに言い過ぎじゃない?」

 

 3人は並んで王都ヘキサレイズを後にした。目指すはジャオ村である。こうして3人の旅が再び始まった。

 

 

 *

 

 

 時同じくしてジャオ村。

 女盗賊の下っ端達が村人を広場に集めていた。手にはそれぞれ三日月型の刀や鞭等の武器を手に村人達を威圧している。皆怯えた表情で身を寄せ合って震えている。

 その村人達の前に1枚の大きな布が敷かれてあってそこには果物や酒の入った樽、少量の硬貨、上質な反物などが置かれてあった。アイパッチの女盗賊がその中から林檎を1つ摘みあげると徐に齧り付いた。

 

「これっぽっちの貢ぎ物で足りると、本気で思ってんのかい?村長さんよ」

 

 女盗賊団のリーダー、ジャスミンが齧ったばかりの林檎を投げ捨て、1人の老人の胸ぐらを掴んで吊り上げる。村長と呼ばれた老人は怯えきった表情で答えた。

 

「そ、それが。今年はいつもより作物が不作でして。これ以上出したらわしらの食べる分が…」

 

 口ごたえする老人の態度にイラついたジャスミンはそのまま突き放し、腰にぶら下げた荊棘の鞭を手にして振り上げた。

 

「あぁっと、ジャスミン。そこまでにしてあげなよ」

 

 若い男の声がそれを制した。色気のある、俗に言うイケボである。声の主はくるりと一回転してジャスミンの隣に立つ。そして文字通り青い手をすっとジャスミンの肩に回す。

 

「そんな事しなくたっていくらでも稼げるじゃない。ほら、あの貢ぎ物の中にある反物で素敵なドレスを作ってあげるからさ」

 

「ダーリン……。うん。ダーリンがそう言うなら、私、やめる!」

 

 さっきまでのドスを効かせた声が一転し、甘えた猫なで声になる。そして持っていた鞭をポイッとほおり投げてそれを手下の盗賊が拾う。男はふふふっと怪しげに笑って言った。

 

「『敢えて逃がして大物を釣る』ってね。それじゃ村のみんな、次もまたよろしく」

 

 女盗賊団バイパーアイズとイマジン・ウラタロスは村を去っていった。




今回からギルド編になります(章わけのやり方がわからんので名目はそういう事で)。今までみたいに2話完結にならないパターンが増えるかと思いますが、御容赦ください。
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