雁夜おじさんは聖杯戦争を主人公補正とチート満載でやり直すそうです 作:そまっぷ
目を覚ますと俺は、国内の空港にいた。
夢だったのだろうか。いや、そんな訳はない。
その証拠に、俺の体内には信じられないほど大量の魔力が渦巻いているのが分かった。
きっとこれが、あの道場で施された改造の一つなのだろう。
これだけの魔力があれば、少なくともバーサーカーを使役しても魔力枯渇による敗退は無くなる。
だが、これだけじゃいけない。
今は俺に施された改造とやらの成果を確かめなければならない。
その為には……。
「オプションって、どうやって開くんだよ……ハァ……」
考えてみたらゲームの世界じゃないんだから、スタートボタンを押したらウインドウが出てステータスやら何やら表示される訳じゃない。
目を瞑ってみたり念じてみたりしたがオプションらしきものは一向に垣間見る事は無い。
とりあえず俺はこれからのスケジュールを立てる為に手帳を出すために胸ポケットをまさぐった。
その時だった。
「うわっ!?な、何だこれ!?」
突然空中に『スーパーカリヤ・取扱い説明書』というウインドウが現れた。
まさか、これがオプションというものなのだろうか?
だけどこんな目立つ物、人の多いこんな場所で展開させておけない。
どうにかして消そうと試行錯誤してみるが、目の前のウインドウには不思議と触れる事が出来なかった。
目の前のウインドウを仕舞おうとしている俺を、空港利用者は不審者を見るような目で見る。
そりゃそうだろう。こんな所で訳の分からない物出してりゃ不審者ないし頭が可哀そうな人だ。
そうやってどうこうしている内に、俺はある事が分かった。
どうやら、目の前のウインドウは俺以外には見えていないらしい。
傍からみていると俺はただ宙を仰ぐ変人にしか見えていないようだった。
次に、このウインドウは俺が思った通りに見れるみたいだ。
俺に施された改造項目で、自分が大体の能力を知覚しているものであればその詳細を閲覧する事が出来るというものだった。
逆に、俺自身が知覚していない能力は詳細を確認できないという不親切設計だという事も分かった。
取りあえず今の俺が分かるのは魔力の大幅アップ程度だった。
だがまだ聖杯戦争までは時間がある。それまでに色々と試してみればいいだろう。
そして、このウインドウのオンオフの切り替え方が判明した。
それは俺の乳首だ。
乳首を押す事によってオプション画面のオンオフの切り替えが可能となる。
………………………。
どうしてこんな機能つけたんだあいつ等!!!!
俺は変態か!!?
まあ、人が居ない時にだけスイッチすればいいか。うん、そうそうバレるものじゃないよな。
取りあえず分かった事実を纏める為に、俺は手帳を開いた。
そして気づいたんだ。今日が一体何の日かを。
「大変だ……。くそっ!間に合ってくれ……」
俺は荷物を引っ掴んで冬木を目指した。
あの子を助ける為に。
◇
「くっ……もうこんな時間か……」
冬木に着いた時にはもう日付けは変わっていた。
それでも俺は深夜の街を駆け抜け、間桐邸を目指した。
なんせ今日は、桜ちゃんが遠坂家から間桐家に養子に出される日だ。
早くしないと蟲蔵へとやられてしまう。そうなったらある意味手遅れだ。俺の、いや、桜ちゃんの幸せの為にそれだけは何としても阻止しないといけない。
だけど、行ったからといって俺に阻止できるのか?
臓硯は勿論、臓硯の蟲は強力だ。改造されたといっても自身の能力が如何程のものか分からない俺に何ができるのだろうか?
だけどそれでも桜ちゃんだけは救わなきゃ。
そう心に誓い、間桐邸へと急ぐ道中で俺はある店の前で足が止まった。
それは深夜営業もしているごく普通のコンビニエンスストアだった。
普段なら雑誌の立ち読みで時々足を運ぶ事もある。
だけど今は必要ない。こんな所に立ち寄っている暇なんてない。
だけど俺はこの店に心惹かれた。
立ち寄らなければいけない。
そう誰かに強要されているかの様に感じた。
そして俺はそれに従う様に、店内へと足を踏み入れた。
◇
「桜ちゃん!無事か!!?」
間桐邸に入り、一番にそう叫んだ。
だけど誰の気配も感じなかった。
「蟲蔵か……」
俺は間桐邸奥の蟲蔵への入り口へと急ぐ。
そして道中コンビニ店で手に入れた幾つかの品を準備した。
こんな物が役に立つのか分からない。
それでも俺は信じている。
きっと俺が主役のこの聖杯戦争における、最初の難関を突破出来る可能性を秘めた物だという事を――――――!!
蟲蔵に飛び込むと、そこには嫌がる桜ちゃんを無理矢理引きずる臓硯の姿が見えた。
「臓硯!!桜ちゃんを放せ!!」
俺は石段を駆け下り、臓硯と桜ちゃんの背後へと近寄った。
そこまで来ると臓硯は立ち止まり、俺の方へと視線を向けた。
「何じゃ、誰かと思えば……。その面もう二度とワシの前に晒すでないと申し付けた筈だがな」
「うるさい!!桜ちゃんをこちらへ寄越すんだ!!」
「ほほう。余程この小娘が大切に見える。ならば……」
臓碩はそう言いながら枯れ木の様な腕で桜ちゃんを軽々と持ち上げた。
「何をする気だ!?」
「なぁに……そんなに大切ならば」
臓硯はチラリと蟲共が蠢く蟲蔵を伺う。
まさか……。
「ほうれ!拾ってくるがいいわ!!」
「助けて!おじさんっ!!」
蟲蔵へと放り投げられ、今まで黙っていた桜ちゃんは俺に助けを求めた。
その瞬間、俺は臓硯を脇目に落ちていく桜ちゃんへと駈け出した。
「うおおおおおおおおおおおっっ!!!」
文字通り駆け飛んだ俺は桜ちゃんを空中でキャッチした。
だがそうした所で空を飛ぶ術の無い俺は重力に従って下へと落ちていった。
桜ちゃんを抱えたまま、俺は背中から底へと落ちる。
蟲が下敷になったお陰で肉体的なダメージはない。
だけどすぐに周りの蟲共は俺達を苗床にしようと群がってきた。
「お、おじさん……」
桜ちゃんは俺の腕の中で体を震わせて不安げに呟く。
俺は彼女の不安を少しでも和らげようと優しく体を抱きしめた。
「大丈夫だよ……おじさんは桜ちゃんを助ける為にここに来たんだ。おじさんがどうにかする。少しの間だけ我慢してくれ」
俺は桜ちゃんにそっと囁く。
その所為もあってか、桜ちゃんの緊張がほんの少しだけ和らいでいた。
だが次の瞬間、俺達の体は蟲共によって覆い隠されてしまうのだった。