偽典・女神転生~フォルトゥナ編~ 作:tomoko86355
ボーグ・・・・スカーと同じ”ドルイド族”の戦士。
専門は、見た目に反して魔導士職を三つ程習得している。
性格は、典型的な快楽主義者で退廃的。
ダンテがケビンの元で指導を受けている時に、何度か一緒に仕事をした事がある。
木々が生い茂る深い森の中を、ネロが懸命に疾走していた。
その後を追いかける醜悪な姿をした巨大な龍。
樹が薙ぎ倒され、地表が大きく抉れる。
この追いかけっこが始まって数分が経つ。
因みに、ライドウの仲魔であるマベルは、ネロの着ている上着のフードの中で、未だに目を回して気絶していた。
「ちっ!! 」
反撃の糸口が掴めず、苛立ちにネロが舌打ちする。
太い樹を駆け上り、枝から枝へと飛び移る。
常人より遥かに優れた膂力を持つネロだから出来る、芸当であった。
「うおぉおおおっ!! 」
樹の腹を蹴り上げ、遥か上空を舞う。
悪魔の右腕、『デビルブリンガー』を操り、邪龍・エキドナの鱗の一部を掴んだ。
途端、矢鱈目たらと暴れ捲る邪龍。
それでも、振り落とされない様にネロが必死でしがみつく。
「この野郎ぉ!! 」
しがみついている邪龍の尾の部分に、”デビルブリンガー”で何度も殴りつける。
しかし、エキドナはビクともしない。
飛び回るスピードが緩むどころか、どんどん速くなり、今にも振り落とされそうになる。
「うわぁ!!! 」
振り落とされない様にするのが必死で、周りにある樹の枝を失念していた。
容赦無く躰にぶち当たり、掴んでいた手を離してしまう。
「妾の子を受け入れるが良い! 」
宙に投げ出されたネロに向かって、エキドナが花弁の蕾を思わせる種子を飛ばす。
生物に寄生する為の鋭い棘を露わにする無数の種子。
しかし、何処からともなく飛来してきた円盤状の投擲武器が、その刃でネロに襲い掛かった種子達を次々に両断していく。
「ぎゃぁああ!! 妾の大事な子供達がぁ!!! 」
種子を破壊され、怒りを露わにする邪龍。
龍形態から、顎を四方に開き、蛇形態へと姿を変える。
一方、何者かに救われたネロは、器用に空中でトンボを切ると地面に着地。
円盤状の投擲武器、レイザー・ディスクが飛来して来た方向に視線を向ける。
するとそこには、側頭部まで覆うマスクを被った筋肉質な体型を持つドレッドヘアーの大男が居た。
廃墟と化した教会で、ディヴァイド共和国の対悪魔特殊部隊を率いていた、”スカー”という名を持つ悪魔だ。
教会内で乱入して来たアサルトとキメラシードの群を駆逐し、ネロの後を追い掛けて来たのだ。
「貴様ぁ!!何奴だ!!!!」
折角、我が子を寄生させるに相応しい獲物に出会えたというのに、ソレを邪魔され、邪龍の女王は大分ご立腹の様子であった。
歯を剥き出しにし、怒りで顔を醜く歪ませる。
「お前がこの森を異界化した張本人か・・・・お前のせいで大勢の人間が死んだ。報いは受けて貰う。」
立っていた高台から飛び降り、銀髪の少年の前へと降り立つ。
真紅のバイザーが冷たく、目の前で対峙する邪龍を照らした。
「貴様ぁ!ベルセルクか? 人間に尾を振る裏切り者め!! 」
スカー達、ベルセルクは人間に媚び諂(へつら)う裏切り者として、魔界では有名であった。
ベルセルクには三つの氏族が存在し、スカー達、ドルイド族は、思考が人間寄りの為、数百年前から彼等とは友好的な関係を築いている。
それが、魔界に住む悪魔達には、人間の下僕に成り下がった裏切り者として映っているのだ。
「ふん、先見の明が無い愚か者め・・・・貴様の様な奴がいるから、魔界は衰退したのだ。」
レイザー・ディスクを腰に収め、代わりに伸縮自在の槍を取り出す。
槍を持っている腕の手首を振ると、伸縮した槍が伸び、二股の穂先を露わにした。
「おい!邪魔するなよ? オッサン!」
散々、邪龍に弄ばれ、怒り心頭のネロが、六連装大口径リボルバーの銃口をスカーの背に向ける。
どうやら助けてくれるつもりらしいが、ネロにとっては大きなお世話だ。
「それは此方の台詞だ。 お前がいると邪魔になる。教団本部に行くならさっさと行け。」
「あぁ? 俺に命令するんじゃねぇよ! 悪魔野郎が!! 」
コイツが一体何者なのか? 何て関係無い。
人間に味方をする物好きな悪魔らしいが、敵対国であるディヴァイドの仲間なら、ネロにとっては敵と同じであった。
「駄目! 今はスカーの言う通りにして!!」
ネロの頭に飛び乗った小さな妖精が、慌てて止めに入る。
上着のフードの中で、気絶していたが、漸く目を醒ましたのだ。
「だって、コイツは・・・・・っ!」
「スカーはアンタより強いの! 彼に喧嘩を売っても簡単に負けちゃうわよ!」
マベルの剣幕に、ネロは渋々と言った様子で従う。
大口径の六連リボルバー、ブルーローズを腰のホルダーに収めると、仮面の大男に背を向けた。
魔剣教団本部前、アルブム大橋。
右眼にモノクルを掛けた、やや大柄な男が、黒革の手帳を捲りながらブツブツと一人つぶやいていた。
「だ、堕天使アムトゥジキアス・・・・17年前にフォルトゥナ公国に出現し、多くの死傷者を出した上級悪魔・・・・ううっ、サンプルとして是非回収したかった・・・しかし、花火が上がった以上、此処に居るのは非常に危険だ・・・・メイ・ロンに連絡して私を回収して貰わねば・・・・。」
苦虫を100匹以上、噛み潰した様な苦渋の表情で、魔剣教団、技術局総責任者であるアグナスが足早に歩く。
寐龍(メイ・ロン)とは、アジア最大の秘密結社、天智会の幹部の一人だ。
アジア最大の企業、『九龍グループ』の重役を務めており、組織の窓口的役割を担っている。
「はぁい、こんな所で会うなんて奇遇ね? 」
そんなアグナスの前に、一人の女性が現れた。
大胆にへその辺りまで開いた制服に浅黒い肌。
エキゾチックな色香を放ち、目の前の巨漢の科学者を妖しく眺めている。
教団の幹部の一人、グロリアだ。
「貴様・・・・市街地に行ったんじゃ無かったのか? 」
侮蔑を多分に含んだ双眸で、アグナスは目の前にいる女を睨み付ける。
「オイレに本部に還って来いと命令されたのよ。次の段階に計画を進めるそうよ? 」
そんな巨漢の科学者に、グロリアは大袈裟に肩を竦める。
オイレは、グロリアとアグナスが所属する”組織”の上司だ。
上司の命令は絶対であり、決して逆らう真似は出来ない。
「ちっ、黄色い猿の分際で生意気な・・・・。」
「そういう言葉は関心しないわね? アグナス。」
口内で小さく悪態を吐いたつもりが、しっかりとグロリアには聞こえていたらしい。
やや軽蔑の色を含んだ蒼い双眸で、巨漢の科学者を見上げる。
「元々、私達が此処に来る羽目になったのは、貴方のせいじゃなかった? 不用意に地獄門(ヘルズゲート)の複製品を作った挙句、それが制御出来なくて隣国の”ディヴァイド共和国”まで侵入を許し、事を公にした・・・・その責任はどう取るつもりなのかしらねぇ? 」
「・・・・・っ、その件に関しては、上層部にも報告している!いかな処罰も受けるつもりだ・・・だが、私の研究が”組織”の利益を生んだのも又事実だ! 氷川だってそれは認めているだろう!」
「そうね・・・・貴方の様な優秀な人材を失うのが惜しくて、私達二人が派遣されたんですもんね・・・本当、彼って昔から甘すぎるわ。」
冷徹なサイバース・コミュニケーションの重役の顔を想い出し、女幹部は苦笑を浮かべる。
確かに、アグナスが述べる通り、彼の生み出した『ゼブラ』は、膨大な利益を”組織”にもたらした。
悪魔の薬『ゼブラ』は、更なる改良が加えられ、副作用である『食人欲求』がかなり抑えられている。
しかし、以前、依存度が高く、それが今後の研究課題となっていた。
「誰が見ているか分からん、私は先に行くぞ。」
忌々し気に舌打ちすると、アグナスはグロリアを押し退け、教団大聖堂の入り口へと向かう。
その大きな背を、軽蔑を含んだ眼差しでグロリアが見つめていた。
ミティスの森、伐採許可区。
自らの大剣によって大岩へと縫い付けられた銀髪の男が、震える手で何とか引き抜こうとする。
しかし、大剣の柄に巻き付けられた呪符によって魔力を奪われている為、力が全く入らない。
舌打ちし、諦めたのか、ダンテはだらりと両腕を下に降ろした。
「・・・・糞、やっぱり強ぇなぁ・・・・。」
手も足も出ない完全な負けであった。
4年間、CSI(超常現象管轄局)のNY支部長、ケビン・ブラウンの元で修練を積んだが、それでも彼の足元にすらも及ばない。
もう一度、戦えば何とかなると思ったが、どうやらそれは甘い考えだった様だ。
「・・・・!」
その時、何かの気配を感じた。
目を凝らすと、大きな樫の木の上に人の形をした何かが自分を見下ろしているのが分かる。
姿を透明化している為、ソレが何か分からないが、どうやら自分に敵意は無い様であった。
何の躊躇いも無く地面に飛び降りると、左腕に装着してある何かの装置を弄る。
すると蒼白い光と共に、光学迷彩機能が解除された。
「何だ? 性格が悪いな・・・まさかそこで一部始終を見てた訳じゃねぇよな? 」
「お前が、串刺しにされた所は、バッチリと見た・・・・後、セックスが下手糞って話もな・・・・。」
ダンテの軽口に同じ様な憎まれ口を叩いたのは、側頭部まで覆う特殊なマスクを被った巨漢の大男であった。
頭部の側面から後頭部にかけて黒色の先細りの管が数十本生えており、まるでドレッドヘアーの様にも見える。
CSI(超常現象管轄局)に協力関係にある悪魔・・・・ベルセルクのボーグだ。
スカーと同じく、彼もこの地に派遣されていたのである。
「黙れよ、不細工。」
「何だぁ? 折角助けてやろうと思ったのに、そんな減らず口叩いて良いのか?」
ボーグは、マスクの下で呆れた様に溜息を零すと、ダンテの傍らへと近づく。
ボークとは、ケビンの元で訓練を受けている時に、何度か仕事をした事がある。
皮肉屋でやや斜に構えた性格をしているが、仲間想いで任務に対しても忠実だ。
何故かダンテと馬が合い、悪魔絡みの仕事ではコンビを組む回数が多かった。
「はぁ、こりゃ神道系の法術だな・・・・ちと、厄介だが何とかなるだろ。」
ボーグは、大剣の柄に巻かれている札を一目見ると、口内で短く呪文を呟く。
すると、札は効力を失い地面に落ちた。
「何をした? 」
「解術の呪文を唱えた・・・・こういった術は法則に従えば、簡単に解除出来る。」
外見からは想像出来ないが、ボーグはれっきとした魔導師職(マーギア)である。
解術師(スペルキャスト)の専門家であり、あらゆる法術に精通している。
乱暴に大岩に縫い留めている大剣『リベリオン』を引き抜くボーグ。
鮮血が地面に飛び散り、ダンテが苦痛の呻き声を上げる。
「おい、もう少し丁重に扱ってくれよ? 」
「おいおい、助けた相手に”アリガトウゴザイマス。”って言うのが、普通じゃねぇのかぁ? 」
大剣を肩に担ぎ、ボーグが大袈裟に肩を竦める。
ストイックで好戦的、戦士としての誇りを重んじる種族である”ベルセルク”の中で、ボーグはかなりの変わり種である。
人間の世界に興味を持っており、帰化した氏族の長『ガンナー』と同じくアバター体を使って、人間社会に溶け込み、生活を送っていた。
しかし、任務の際は、非力な人間であるのが気に喰わず、殆ど元の姿で仕事を行っている。
「何でお前が此処に居る? 師匠(マスター)の命令か? 」
魔力が戻ったとは言え、ライドウから受けた傷は相当深い。
未だ流れ出る血を手で抑え、ダンテが目の前に立つ大男を見上げた。
「そうだ・・・ついでにお前を回収しろとボスから命令を受けている。」
ボーグの説明によると、現在、”フォルトゥナ公国”と”ディヴァイド共和国”の関係は一触即発の状態にあるらしい。
理由は、両国の国境沿いにあるミティスの森から、悪魔が大量発生。
国境付近を警備していた”ディヴァイド”の兵士達を大勢惨殺し、遺族達から怒りの声が上がっているのだそうだ。
事態を重く見た”ディヴァイド”政府は、国連に事の次第を報告。
国防総省の依頼を受けたCSI(超常現象管轄局)が、軍事顧問としてスカーとボーグ両名を派遣した。
「成程・・・・爺さんの心配事が現実になったという訳か。」
両国間で大規模な戦争が起きる。
ライドウは、その事を危惧していた。
戦争状態に突入すれば、仕事どころの話では無くなる。
故にケビンは、依頼の中止とダンテの身柄を回収する為に、ボーグ達、”ベルセルク”の中でも手練れな両名を送り込んだのだ。
「・・・・ボーグ、コイツを師匠(マスター)の所に届けてくれ。」
大剣『リベリオン』を自分に返す仮面の男に向かって、ダンテがある物を差し出した。
それは、ライドウが去り際に自分の手元に置いて行ったUSBメモリーである。
この中には、ケビンがダンテに依頼した『ゼブラ』の顧客データが入っていた。
「おい、何処に行こうってんだぁ? 」
大剣を背負い、未だ覚束かぬ足取りでこの場を去ろうとしている銀髪の大男の背に、ボーグの呆れた声が掛けられた。
「決まってんだろ? 爺さんを取っ掴まえに行く。」
「はぁ? お前、俺の言った言葉の意味理解してるかぁ? ボスの命令は絶対なんだぞ? 」
自堕落で破綻的なこの男らしからぬ行動に、ボーグは内心驚く。
それ程までに、ダンテの中で”17代目・葛葉ライドウ”は大きな存在なのだ。
周りの状況が見えなくなってしまう程、彼は悪魔使いを愛している。
「師匠(マスター)には、悪かったとだけ伝えてくれ。」
口元にニヒルな笑みを浮かべて、ダンテが振り向く。
そんな便利屋に対し、ドルイドの戦士は大袈裟に肩を竦めた。
「本当に大馬鹿野郎だな?お前は・・・・。」
そう言って、ダンテに向かって何かを投げで寄越す。
自然とソレを受け取る銀髪の大男。
見ると、ソレは掌に収まるぐらいの大きさをした筒状のカプセルであった。
「その管の中には、デビルアーツが入っている。 攻撃力偏重型の近接武器だ。お前なら扱えるだろ。」
単体でミティスの森を調査中、偶然にも地獄門(ヘルズゲート)を見つける事が出来た。
そして、門(ゲート)の動力源として使用されていた魔具・ギルガメイスを回収したのである。
因みに、この魔具は、アメリカの国防総省と日本の防衛省が合同研究していたモノであった。
「良いのか? 」
「良いも何も、どうせボスの命令に従う気はねぇんだろ? 」
戸惑うダンテに対し、ボーグは溜息を吐く。
凶悪な見た目に反し、このドルイドの戦士は友情を何よりも尊ぶ。
それは、ベルセルクという悪魔共通に言える事で、血族同士の強い繋がりが、繁栄の秘訣であると考えられていた。
「悪ぃ・・・生きて帰れたら一杯奢るよ。」
「へっ、期待しないで待ってるぜ。」
ダンテの軽口を、憎まれ口で返してやる。
背を向け去っていく銀髪の便利屋。
ボーグは、暫くの間、その場に佇んでダンテを見送っていたが、諦めたかのようにもう一度溜息を吐き出すと、仲間と合流するべく、その場を後にした。
「ぎゃぁああああああああああ!! 」
静寂な森の中を引き裂く、邪龍の悲鳴。
胸を槍(スピア)で貫かれたエキドナが、矢鱈目たらに暴れ回る。
その背には、槍を根元まで突き刺したドルイドの狂戦士が、しがみついていた。
「何故じゃ? 同じ悪魔でありながら、何故貴様は人間等に味方する!? 」
血を吐き、暴れ回る邪龍の女王。
彼女が投げかける疑問は、悪魔の身であるならば至極当然であった。
同族であるスカーが、何故、卑しく下劣な人間共に味方する?
「・・・・お前には分かるまい・・・・遊び半分で喰い散らかして来た者達の無念など・・・。」
血塗れ、悶え苦しむ邪龍の問い掛けに応えたのは、地の底から響く様な低く、怨嗟に塗れた言葉であった。
殺意と憎悪で濡れた赤い双眸が、苦痛で顔を歪める邪龍を睨み付けている。
「分かるまい・・・愛する者を奪われた怒りと哀しみなど・・・・。」
握る槍の柄に力を込める。
腹から右の肩口へと抜ける凶悪なる刃。
血飛沫が宙を舞い、邪龍が再び絶叫を上げる。
「おっ!おのれぇ!! 蛮族風情が妾によくもぉおおお!! 」
槍を引き抜いた反動で、宙へと投げ出されたスカーに向かって、手負いのエキドナが襲い掛かる。
しかし、その攻撃は既に予測されていた。
左肩に装着されている自動制御のプラズマ砲が、邪龍の腹を撃ち抜く。
躰を半分以上抉られ、地面へと叩き付けられるエキドナ。
スカーが、器用にプラズマ砲の反動を空中で身を翻す事で殺し、地面に着地する。
ゆっくりと立ち上がるスカー。
ヘルメットに内蔵された3本のレーザーが、ピタリとエキドナの額に狙いを定める。
「ま、待て!! 妾を撃たないで・・・・。」
「命乞いをした者達に、お前等は何をした? 」
無情にも放たれるプラズマ砲。
エキドナの巨体が、爆散する。
辺り一面に飛び散る、肉片と内臓。
変わり果てた姿となった邪龍の女王に一瞥を送ると、スカーはヘルメットに内蔵されている無線機を起動し、部隊に連絡を取る。
「私だ・・・・この森一帯を異界化していた張本人である”エキドナ”を始末した。お前達は本部に帰還し、ヴァチカンの対悪魔掃討部隊と合流しろ。」
それだけを伝え、一旦無線を切る。
すると、間髪置かずにコール音が鳴った。
同じ様にこの地に派遣された同僚のボーグからであった。
「どうした? 」
「あー・・・・ちょっと先に謝ろうかなぁって・・・。」
「・・・・・例の便利屋の事か・・・・仕方ない、”人修羅”が関わっている以上、予想は出来た。」
ボーグの言わんとしている事は、大体分かる。
自分達の上司であるケビン・ブラウンの依頼で、先に”フォルトゥナ公国”に潜入させていたダンテが、依頼取り消しの要請に応じなかったのだ。
勿論、その事は依頼主であるケビン本人も既に承知済みだろう。
ライドウがこの国に居ると分かった以上、あの男が取る行動は唯一つだ。
「まぁ、その事は一旦、置いといて・・・・例の魔具はちゃんと回収したんだろうなぁ? 」
「・・・・・・回収したにはしたんだがぁ・・・・どっかに落としちまったみたいで・・・・。」
「見え透いた嘘を吐くな・・・お前の事だ、便利屋に渡したんだろ? 」
「うっ・・・だってよぉ、ムカつくじゃねぇか。何で俺等がよりによって国連の政治家共の言いなりに・・・。」
「分かった・・・・もうそれ以上言うな・・・今回の任務で腹を立てているのは貴様だけではない。」
スカーはそれだけ言うと、通信を切った。
初めて彼と出会った時、まるで絵画から抜け出した天使を想い出した。
幼い頃、図書館で何気なく見た油絵の画集。
その中に、リュートを弾く天使の画があった。
彼は、そのリュートを弾く天使と同じく、中性的かつ神秘的な美しさを持っていた。
思えば、自分はあの時から既に、彼の虜になっていたのかもしれない。
この歳まで独身を貫いて来たのは、魔剣教団の騎士団長としての職務が忙しかった訳でも、異性と付き合うのが面倒だった訳でも無い。
あの悪魔使いの美しさに純粋に惹かれ、世の女性達が色褪せて見えてしまったからだ。
彼は、初めて出会ったあの時から全く変わらない姿であり続けている。
クレドは一つ溜息を吐くと、アルブムの大橋の遥か向こう・・・旧修練場へと視線を向ける。
その視界の中に、一つの影が映った。
真紅の呪術帯で口元と左目を覆い、黒革のバッファローレザーに、同色のパンチングレザー。
超国家機関 『クズノハ』最強の悪魔召喚術師、17代目・葛葉ライドウだ。
右肩には、蝙蝠の姿に変身した代理番のアラストルを乗せている。
数メートルの位置を置いて対峙する二人。
暫しの沈黙、それを先に破ったのは、呪術帯で顔の殆どを隠した悪魔使いであった。
「・・・・まさか、こんな結果になっちまうとはな・・・・出来る事なら、被害が出る前にお前と話をしたかった。」
「・・・・・。」
悪魔使いが何を言わんとしているのか、大体察しは付く。
彼は、全てを知っている。
今迄、自分達魔剣教団が犯して来た罪と、そしてこれから行うであろう悲劇を。
「クレド・・・・今すぐ武装を解除して、国連に投降しろ。」
唯一覗く右眼が哀し気に歪む。
無駄と理解しつつも、どうしても説得せずにはいられなかった。
「今ならまだ間に合う、サンクトゥスが死亡した今、教皇代理が務まるのはお前だけだ。教団の騎士達や市民達から信頼の厚いお前なら、彼等も納得する・・・・。」
「教皇猊下はまだ生きておられる。」
そんなライドウの言葉を、クレドが無情にも切って捨てた。
呪術帯の下で、悪魔使いが唇を噛み締める。
「君が予想している通り、一連の事件は我々が関与している。 しかし、誤解しないで欲しい。 大儀を貫き通すには、多少の犠牲は矢無負えないんだ。」
「大儀? 罪もない命を大勢犠牲にする事の何処に大儀があるんだ。」
クレドの言わんとしている事は、大体察しが出来る。
過去、フォルトゥナ公国は、国連から幾度も経済制裁を受けていた事がある。
敵対行動、若しくは違法な行為を行ったと言われているが、その真意は定かではない。
裏で、大国ロシアとの繋がりがあるにしろ、アメリカや国連に連なる国々に対し、相当なフラストレーションを抱えている事に間違いは無かった。
しかし、だからと言って、何の罪もない市民や観光客達を巻き込んで良いという理由にはならない。
「今ならまだ間に合う! 頼む!武装放棄して国連に戦争の意志が無い事を伝えるんだ!このままじゃ、ヴァチカンの虐殺部隊まで・・・。」
そう言い掛けたライドウの言葉は、突然の爆発による轟音で掻き消された。
後ろを振り向くと、ミティスの森の方角から、黒煙が幾つも上がっている。
その遥か向こうから見える艦隊の巨大な影。
ヴァチカンの悪魔掃討部隊・・・・『ドミニオンズ』だ。
「どうやら、奴等は本気で我々を潰したいみたいだな? 」
既に覚悟を決めているのか、クレドの声は何処までも冷静であった。
唇を真一文字に引き締め、”死の軍団”を睨み付けている。
「ライドウ・・・・無理は承知の上で、君に頼みがある・・・我々と共に奴等と戦ってはくれないか? 」
「クレド・・・・? 」
予想外な親友の申し出に、ライドウは思わず戸惑う。
「君の立場は知っている・・・この国に来た理由は、防衛省の依頼で我々の内部事情を探る為に来たんだろ? 」
「・・・・・そうだ。」
この男は、何もかもを知っている。
下手な隠し事は、事態を悪くする一方だと判断したライドウは、素直に頷いた。
「俺は、八王子と横浜にある研究施設で強奪された魔具の回収、並びに襲撃者であるお前達『フォルトゥナ公国』の内部事情を探る為に、内閣防衛相事務次官から依頼を受けた。」
無意識に右拳を硬く握り締める。
本音を言えば、嘘だと思いたかった。
何か質の悪い噂話だと信じたかった。
しかし、友は何も応えない。
自分の糾弾に対し、沈黙を貫くままだ。
「何故だ・・・・何故、こんな犯罪に手を貸した? お前なら幾らでもサンクトゥスを止める事が出来た筈だ! 」
地下研究所で見た非人道的な実験の数々が、脳裏を過る。
魔剣教団騎士団長であるクレドが、この事実を知らない訳が無い。
全てを理解した上で、黙認していたのだ。
「何故・・・・か・・・・理由を言うなら、大国に対する”復讐”だな・・・。」
「クレド・・・・? 」
「今から17年以上前・・・・”ソロモンの魔神”がこの国に出現する少し前に、フォルトゥナの外れにある小さな港町の近くで、大型貨物船が座礁した。」
何処か遠い目をしたクレドが、ポツリポツリと話し始める。
フォルトゥナ公国の外れにある港町、ヴェルデ。
その近海でヨーロッパ行きの大型貨物船が、突然の嵐により座礁した。
その貨物船には、極秘裏に米陸軍が開発したマスタードガスが積まれており、座礁した衝撃でカプセルが割れ、船から流出した油と混じって海に流れ出た。
発癌性を含む特殊な液体は、プランクトンを媒介に魚に感染、それを食べた港町の住民が、大腸癌や皮膚癌等、様々な癌の病気を発症した。
「当時、私は魔剣教団に入団したばかりで、事件の詳細を知るのが大分遅れてしまった・・・・全てを知らされた時・・・・両親は癌があちこちに転移して手の施しようが無い状態だった。」
その時の無念が脳裏に浮かぶのか、クレドは苦渋の表情をして唇を噛み締めている。
「まさか・・・・キリエも・・・・? 」
「そうだ・・・幸い、あの子は早期に癌が発見されたお陰で、直ぐに治療が出来た・・・しかし、それはあくまで延命の為・・・・完治する事はまず無理だと医者から言われた。」
クレドの言葉に、ライドウの顔色が真っ青になる。
キリエが現在患っている慢性骨髄性白血病は、早期に発見すれば、透析治療等で延命する事は可能だ。
しかし、医療技術が昔よりはかなり発達し、様々な治療法が開発されたとはいえ、癌を全て消す事など当然不可能だ。
延命する事は可能でも、透析を続ければ躰の中は疲弊し、いずれ限界が来る。
「余命半年・・・・長くて後1年だそうだ・・・。」
「・・・・彼女はその事を・・・・。」
「知っている・・・只・・・・ネロには黙っていて欲しいと言われた。」
流石に気丈な彼女でも、最愛の弟であるネロに、真実を語る事を躊躇わせた。
知ればきっとネロは哀しむ。
そんな姿を、キリエは見たくないと思ったのだろう。
「私は・・・・奴等を・・・・アメリカ・・・否、それに群がる蛆虫共を決して許さん・・・あれだけの罪を犯していながら、奴等は事実を隠蔽し、今も尚、同じ事を繰り返している! 」
腹腔から怒りのマグマが競り上がる。
事故発生後、国連はすぐに赤十字組織やNGO団体等を現場に派遣。
癌を発症した住民達の迅速な治療、並びに復興支援が行われた。
しかし、裏で貨物船が積んでいた発癌性のウィルスを除去。
人道支援の裏で、巧みに証拠を握り潰し、世間では貨物船により流れ出た重油による海上汚染と発表していた。
「クレド・・・一つだけ聞く、誰がお前にソレを教えたんだ? 」
ライドウの中で一つの疑問が生まれた。
国連が絡んでいる以上、隠蔽工作は外部には決して漏れぬ様、二重、三重の手が加えられている。
それを知り得るとしたら、内部の人間しか有り得ない。
「サンクトゥス教皇猊下だ・・・・。」
ライドウの問い掛けに、クレドはあっさりと応える。
その瞬間、悪魔使いは全てを悟った。
あの悪党は、自分の野望を達成させる為に、優秀な手駒としてクレドを引き込んだのだ。
その方法が、クレドの両親並びに妹のキリエを巻き込んだ”タンカー座礁事故”である。
暫しの沈黙。
それを打ち破ったのは、ヴァチカンの攻撃ヘリ、Mi-35から放たれた焼夷弾の爆音であった。
轟々と燃え上がるミティスの森。
幾つもの黒煙が天へと昇っている。
「もう、時間が無い。頼む!正義の為に私と戦ってくれ!!」
我が物顔で空中を飛び回る数機のMi-35の攻撃ヘリを見つめるライドウの背に、クレドの悲痛な声が掛けられた。
真紅の呪術帯の下で唇を噛み締めるライドウ。
誰よりも家族を愛し、大切にしているこの男の怒りは痛い程分かる。
自分もそうだ。
家族を・・・・自分の唯一の拠り所となるべき場所を護る為ならば、幾らでも冷酷になれるし、実際、その為に、己の両腕を血で染めて来た。
「クレド・・・・俺は、葛葉四家の当主の一人だ・・・・日本を護り、この命を捧げる覚悟は出来ている・・・。」
「ライドウ・・・・。」
「だから・・・国に害を及ぼしたお前達を見過ごす訳にはいかない。」
ゆっくりと、クレドへと向けられる鋭い隻眼。
ハッキリと見て取れる拒絶の意思。
クレドが、力無く下に俯く。
「そうか・・・・君は、私の理解者になってくれると思ったんだがな・・・非常に残念だ。」
腰に携帯している機械仕掛けの大剣を引き抜く。
出来る事なら戦いたくは無かった。
あの時の様に、共に正義を貫く為に、巨悪と戦ってくれると信じていた。
しかし、この二人には決定的な違いがある。
クレドは、愛する家族がいる”フォルトゥナ公国”の騎士。
そして、ライドウは、遥か海の向こうにある日本という島国を護る召喚術師であるという事。
日本は、大国アメリカと密接な繋がりがある。
いくら友の良心に訴えた所で、彼が葛葉四家の人間である以上、日本を・・・その同盟国であるアメリカを裏切る筈が無いのだ。
投稿が大分遅れてしまいました。