偽典・女神転生~フォルトゥナ編~ 作:tomoko86355
猿飛佐助・・・日本の超国家機関『クズノハ』の暗部である”八咫烏”に属する暗殺者。 正当な忍で、”八咫烏”の中でも精鋭中の精鋭が選ばれる『十二夜叉大将』の一人、摩虎羅大将の称号を持つ。
普段は飄々としており、人当たりも良いが、いざ任務となると冷酷な一面を見せる。
フォルトゥナ城、光の間2階。
吹き抜けとなっている階下では、『魔剣祭』に招待された政財界の大物達が、思い思いに連れて来たパートナーと一緒に過ごしている。
テーブルに並べられた各国の珍味や豪華な食事。
高級なワインを乗せた盆を持つ給仕達が、忙しなく動き回っている。
そんな様子を真紅の呪術帯で左眼を覆った小柄な悪魔使いが、ぼんやりと眺めていた。
「麗しの姫君が、壁の花・・・・か? 」
聞き覚えのある声が背後から聞こえる。
舌打ちし、面倒臭そうに後ろを振り返ると正装したこの国の第三皇子が立っていた。
「私が何処で何をしていようと貴方には関係が無いでしょ? ヨハン皇子。」
人形の如く感情が籠もらぬ顔と声。
傍から見れば、少女の如く華奢な肢体と容姿をしている。
この10代半ばぐらいの少年が、実は30をとうに越しており、日本にある超国家機関『クズノハ』最強の悪魔召喚術師であるなど、誰が想像出来るだろうか?
「つれないねぇ・・・・それと、その呼び方は止めて欲しいと、何度も言っている筈だが? 」
銀髪の美丈夫は、大袈裟に溜息を吐くとライドウの傍らへと近づく。
彼の名は、ヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリー。
この『フォルトゥナ公国』第三皇子であり、魔剣教団騎士団長を務めている。
時期剣聖と目される程の実力者であり、魔導師職、剣士職の二つの役職を全て習得した”マスターオブマスター”の称号も得ていた。
「そんなとこでパーティーを眺めていても楽しくないだろ? コッチに来いよ。」
「お、おいっ! 」
手摺に頬杖をつくライドウの細い腕をむんずと無遠慮に掴むと、銀髪の優男は窓辺へと引きずり込む。
有無を言わせぬ傲慢な態度。
鍛え上げられた腕が悪魔使いの華奢な腰へと巻かれ、腕の中に閉じ込められる。
「・・・・これが高名なヒュースリー家の作法ですか? 皇子。」
「ヨハンと呼べ。 俺達はパートナーだろ? 」
「貴方とは”ソロモン12柱の魔神”を討伐する為の代理関係だ。 下手に勘違いしないで頂きたい。」
「はぁ・・・・日本人ってのは礼儀に正しい人種で結構だが、頭が固すぎてつまらんぞ? 」
互いの頬を寄せ合い、ゆったりとしたリズムで踊るチークダンス。
月の光に照らされ、幻想的な美しさを持つ二人だが、交わされる言葉は甘い睦言ではなく、憎まれ口の叩き合いであった。
「もう少し肩の力を抜けよ? そんなツンケンしてたら疲れるだろ? 」
「生憎、これが俺なんだ・・・アンタと馴れ合う気は無い。寂しいんなら女の所へ行けば良いだろ? 」
先程までの敬譲語は完全に成りを潜め、多分に皮肉を込めて自分を見下ろす銀髪の男を睨み付ける。
そう、こんな戯言をする為に、自分は態々、海を幾つも超えた遥か遠い島国から来た訳では無い。
国連からの要請で、『フォルトゥナ公国』と『ディヴァイド共和国』との国境付近で出現した”ソロモン12柱の魔神”を討伐する目的で訪れたのだ。
「可愛くないな・・・でも、攻略難易度が高ければ高い程、俺は燃えるタイプなんだ。」
「は? 寝言は寝て・・・・。」
そう言い掛けたライドウの口をヨハンが軽いキスで黙らせる。
一瞬、何をされたのか分からず、ライドウが戸惑う。
そんな悪魔使いに悪戯っぽい笑みを口元に浮かべると、ヨハンは何度も軽いキスを繰り返した。
「ば、馬鹿! 誰かに見られる! 」
瞼や額に降り注ぐ優しいキスの雨。
顔を背け、拒絶の意志を示すも、相手は一向に取り合う様子が無い。
「大丈夫、アイツ等に俺達は見えないさ。 」
「バルムング卿が・・・・アンタの父上がいるんだぞ? 」
ライドウの指摘通り、階下では集まった来賓達をヨハンの実父であるバルムング・ハインリッヒ・ヒュースリーが直々にもてなしている。
隣国との戦争で膨れ上がった債務を何とか回収しようと、教皇猊下自ら国の特産物を宣伝しているのだ。
数々の美しい工芸品に、美味な料理。
それらを来客として招かれた各国の首脳達に振舞う事で、”フォルトゥナ公国”を売り込んでいる。
そんな父親の努力を他所に、放蕩息子は番の悪魔使いをからかって遊んでいるのだ。
「俺が居ない方が、親父殿も安心する。」
「はぁ? アンタ、何を言って・・・・。」
「そのまんまの意味だ・・・親父は俺が目障りなんだよ、”まともな人間”じゃないからな。」
何処か冷めた表情で、各界の大物達と談笑を交わす父親を眺める。
ヨハンの実父、バルムングは息子とは違う黒髪の持ち主であった。
同色の髭を顎に蓄え、来客達に採掘場で採れた粘土で生成した化粧品や陶磁器等を紹介している。
フォルトゥナの採掘場で採取される粘土は、他国で採取されるモノと違い、肌の年齢を若返らせる作用がある。
それで造り出された化粧品は、裕福層の婦人達から人気が高く、数社の化粧品会社と取引を行っていた。
「魔剣士・スパーダと霜の巨神・ヨトゥンヘイムの優れた血統を持つお前を、目障りに思う筈が無いだろ? 」
頭脳明晰、類稀な剣の才能、そして、強靭な肉体。
誰もが羨む要素を、ヨハンは全て持っている。
実父であるバルムング卿も、”マスターオブマスター”の称号を持つ息子を誇りに思っているに違いない。
「餓鬼の頃から、口を開けば死んだ二人の兄貴達の話ばかり・・・・俺の名前なんて一度も呼んじゃくれなかった。」
「・・・・っ、皇子・・・・。」
腰に回された手に更に力が入る。
服越しでも分かる厚い胸板。
腕の中に完全に閉じ込められ、ライドウの頬が僅かに紅くなる。
「どうして、そこまで親父が俺を毛嫌いするか知りたいか? 」
「・・・・・? 」
耳元で囁かれる不穏な言葉。
腰に回された手が下に下り、ライドウの鍛え上げられ、引き締まった臀部をまさぐる。
「俺は・・・・曾祖父、ウィリアム・ハインリッヒ・ヒュースリーの遺伝子を元に創り出された合成人間なのさ・・・・一応、お袋の躰を代理母体として自然分娩で生まれたらしいが・・・。」
ヨハンから語られる衝撃的な事実。
一瞬、何かの冗談かと思い、自分を腕の中に閉じ込める男の顔を見上げるが、その蒼い双眸は何処までも真剣であった。
「俺が生まれる以前・・・・40年ぐらい前かな? この国(フォルトゥナ公国)は、爺さんのウィリアムが支配していた。 俺と同じで、魔剣士・スパーダと霜の巨神・ヨトゥンヘイムの血を併せ持っていたらしい。 800歳まで生きたってんだから凄いよな。」
ヨハンの説明によると、曾祖父のウィリアムは恐怖によってこの国を支配していたらしい。
自分に逆らう輩は、例え血縁者であろうと許さず、優れた後継者を生み出す為に、厳しい戒律を強いて、我が子達を教育して来た。
実父、バルムング卿もその例に漏れる事は無かったが、内心ではそんな傍若無人な祖父を軽蔑していたという。
「親父にとっちゃぁ良い反面教師だったんじゃないのか? その証拠に爺さんが老衰で死んだ後は、鎖国制度を撤廃し、積極的に他国と貿易を始めたからな。」
それまで閉鎖的だった国政を、王権を継いだバルムングは一新させた。
他国と外交を行い、フォルトゥナの特産物である石油鉱(オイルシェル)や特殊な鉱物を売り込んでいった。
そのお陰か、国にある古い遺跡を見る為に、他国から多くの観光客が訪れ、フォルトゥナは観光都市としても、有名になったのである。
「でも、そんな親父の唯一の誤算が、優秀な後継ぎがいないと云う事・・・・二人の兄貴は隣国との戦争で死ぬか、病で亡くなった・・・・悩んだ親父は、ある魔術師に相談したんだ・・・・サウロンって言う頭のイカレたサイコ野郎にな。」
「サウロン・・・・? まさか、死霊使い(ネクロマンサー)のサウロンか? 」
サウロンとは、その道の術者なら有名な死霊使い(ネクロマンサー)である。
秘密結社(フリーメーソン)の黒手組(ブラックハンド)に所属し、組織の長、アポフィスの絶対的信頼を勝ち得ている術者であった。
驚いて自分を見上げているライドウに、ヨハンは皮肉な笑みを浮かべると、顎で階下に居るある人物を示す。
悪魔使いが其方に視線を向けると、大広間の隅のテーブルにモーニングコートを着用した浅黒い肌の男が、ワイングラスを片手に立っている。
金のモノクルを右眼に付けたその人物は、一目で裕福層と知れる婦人達数名と、にこやかな談笑をしていた。
「マジかよ・・・・本物なのか? 」
階下に居る一団を、信じられない様子で悪魔使いが見下ろす。
「多分、本物だと思うぜ・・・・アイツは金に目が無い守銭奴野郎だからな・・・・親父がどう思っているか知らないが、”魔剣祭”には必ず招待している。」
ヨハンが指摘する通り、サウロンは金さえ積めばどんな願いも叶えた。
ヨハンの父、バルムングもその噂を聞き、優秀な後継ぎを得る為に、彼に大金を積んで依頼した。
そして、禁術を使用し生まれたのが、現在、ライドウとチークダンスをしている銀髪の青年なのである。
「どういう技術を使ったのか知らないが、爺さんの墓を掘り起こして死体の一部からDNAを採取したらしい。 そんで、お袋を代理母体に使って俺を産ませた・・・・親父にとっちゃぁ、過去のトラウマだった奴が息子として復活したんだから、毛嫌いするのは当たり前・・・・だよな。」
「・・・・・。」
ヨハンの告白をライドウは黙って聞いている。
荒唐無稽な話だと一蹴すればそれまでだが、人体の構造を熟知した死霊使い(ネクロマンサー)が実在する以上、ホラ話であるとは言い切れない。
「誰にその話を聞いたんだ? 」
「そんなの決まってる。 親父本人から聞いたんだよ。 徴兵制度でリビアに出兵する前日にな・・・。」
ヨハンも魔導士ギルドが行っている徴兵令により、悪魔が出現している激戦区へと送り込まれた。
リビアのトリポリ地区は、ギガント級の悪魔が数体目撃されており、その地区に住む住民や兵士達が大勢、餌食にされている。
超特A級の危険地帯に、ヨハンは数名の魔剣教団に所属する騎士達と共に、その地へと招聘(しょうへい)された。
「何故? 」
「あの人にとって、俺は生きた罪の証なんだ。 後継ぎ欲しさに愛する女の命を犠牲にした事へのな・・・。」
ヨハンの実母は、一般家庭の生まれであった。
当然、周りから反対されたが、父・バルムングはそれらを黙らせ、母と結婚し、二人の子宝に恵まれた。
しかし、戦争と病により二人の息子は若くして他界。
王位継承権を誰に譲るかで迷い、挙句、禁術に手を出し、それが元で唯一の理解者であった妻を失ってしまった。
「普通の人間なら、目の前に自分の黒歴史があったら気が狂うだろうな・・・俺は正にソレなんだ、一時の気の迷いが取り返しのつかない事をしてしまった。 だったら、どんな汚い手を使ってでも、消してしまいたくなるだろ? 」
「・・・・・。」
「今、あの人が何を想い、どんな感情で俺を見ているかなんて知らん。 王位を継承させると口では言っているが、それが何処まで本気なんだか・・・・。」
そう言い掛けたヨハンは、自分の腕の中にいる悪魔使いの様子がおかしい事に気が付いた。
見ると、押し黙り、顔を俯いている。
ヨハンの告白が余程、ショックだったみたいだ。
「俺に同情してくれたのか? ライドウ。 」
耳元で優しく囁く。
すると、人形の如く無表情な相貌を此方に向けた。
「まさか、不幸な境遇がアンタだけだと思うなよ? 」
返って来たのは、可愛気の欠片も無い憎まれ口。
そんな悪魔使いに、ヨハンは苦笑を浮かべる。
「どうしてそんな話を俺にした? もしかして同情して欲しかったのか? 」
ライドウが疑問に思うのは当然であった。
ヨハンの告白は、下手をすればヒュースリー家のスキャンダルになりかねない。
口外する気は毛頭ないが、相手を口説く為に話したのなら、質が悪すぎる。
「別に・・・・只、アンタに覚えて欲しかっただけだ。 俺って言う存在をな。」
冬の湖面を連想させる薄く蒼い双眸。
言葉を失い、見惚れるライドウの唇に、ヨハンが触れるだけの優しいキスを送る。
抵抗も無く受け入れる悪魔使い。
何度も繰り返されるキスは、次第に情熱的になり、お互い舌を絡み付かせる程になる。
「おい! 何をしている!? 」
そんな二人の甘いムードを第三者が割って入った。
魔剣教団騎士団長を務めるクレドだ。
嫌悪感丸出しのその表情に、ヨハンは思わず天を仰いだ。
「大事な式典の真っ最中なんだぞ? 特にヨハン、お前は王位継承者だろ? その上、父上のバルムング教皇陛下もいるという事を忘れたのか? 」
クレドが怒り心頭なのは、最もである。
傾いた国の経済を何とか立て直す為に、実父が懸命に他国の首脳相手に外交をしているというのに、その息子であるヨハンは、パートナーとはいえ、同性である悪魔使いと城の片隅で、危険な遊びに興じている。
こんな所をもし、マスコミなどが見たらどんなスキャンダラスな記事を書かれるか分かったものではない。
「下に行け、教皇猊下がお前を探している。」
大袈裟に溜息を吐き出したクレドは、幼馴染みであり、困った性癖を持つ男を階下に居る父親の元へ行く様、促す。
仕方なくソレに従うヨハン。
去り際、悪魔使いの耳元で「今夜、部屋に行く。」とだけ伝えると、広間にいる父親の元へと向かった。
後に残される二人。
クレドの鋭い視線が、幼馴染みから呪術帯で左眼を覆う悪魔使いへと変わる。
「ヨハンに何を言われたか知らないが、余り奴の言葉を鵜呑みにしない方が貴方の為だ。召喚術師(サマナー)殿。」
どんなに甘い言葉を並べても、初めからヨハンは本気では無い。
小さい頃から、彼を見ているクレドは、人間(ヒト)として大事なモノが欠落している事を知っている。
「ああ・・・分かっている。 」
それはライドウ自身も薄々ではあるが、理解していた。
ヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーは、人を愛する事を知らない。
否、そんな感情がある事すらも理解出来ないだろう。
己の中にある欲求を只解消したいだけ。
それが、代理番という関係でしかないライドウに向けられているというだけだ。
「・・・・っ!ハッ!! 」
覚醒は唐突であった。
気が付くと、視界いっぱいに見知らぬ場所が映っている。
ブヨブヨとした肉片の様な壁と床。
そこに人間の臓器を思わせる管が這い回り、ドクンドクンと時折脈打っている。
一目で、此処が現世では無い事が理解出来た。
「気が付いたか・・・。」
暗闇から聞き覚えのある声が聞こえる。
触手に四肢を束縛され、動けぬライドウが声のした方へと顔を上げた。
そこに、騎士団長の礼服を纏う紅茶色の髪と顎髭を蓄えた40代半ばぐらいの男が立っている。
魔剣教団騎士団長、クレドだ。
「クレド・・・・。」
壁から生えた触手によって動けぬライドウが、右の隻眼で鋭く睨む。
魔人化から人間体へと戻った男は、後ろ手に両手を組むと、ゆっくりとした歩調で、壁のオブジェと化した友人へと近づいた。
「此処は一体何処なんだ? あの後どうなったんだ? 」
矢継ぎ早に、かつての友人へと質問を浴びせ掛ける。
ライドウが最後に残っている記憶は、ヴァチカンの2機の戦闘機、ラプターの機影と悪魔と化した友人、クレドの姿だけ。
その後、苦痛と疲労で気を失い、今、漸く目が覚めた。
「ふむ、どうやら傷は完治したみたいだな・・・・回復魔法の類は一応習得してるが、流石に使うのは初めてだった。」
目の前に来たクレドが、愛おし気にライドウの頬を撫でる。
跡形も無く傷が消えている事を確認すると、クレドの口元に満足そうな笑みが浮かんだ。
「俺の質問に応えろ・・・・あの後、ヴァチカンの偵察機をどうした?まさか、撃墜したのか? 」
友人の手から逃れる為に、顔を背ける。
「1機だけ取り逃した・・・・流石、対悪魔用に創り出された兵器だけはあったよ。」
甚大な被害を出しつつも、クレドが召喚したビアンゴアンジェロの一団は、見事偵察機を堕とす事が出来た。
しかし、もう1機は、仲間が撃ち落とされたのを確認すると瞬く間に、本艦隊がいるディヴァイド共和国の国境辺りへと逃げてしまったのである。
「馬鹿な事をしたな・・・あの”氷の女王”は必ずお前等に報復するぞ。」
あのロシアの女軍曹が、大事な部下を殺害されて黙っている筈が無い。
彼女が操る軍隊は、死すらも恐れぬ狂気の殺戮集団なのだ。
このままでは、確実にフォルトゥナ公国(この国)の市民全員、一人残らず皆殺しにされるだろう。
「ふん、 君はまず我々の事より自分の身を案じた方が良いんじゃないのか? 」
そんなライドウに対して、クレドが皮肉気な笑みを口元へと張り付かせる。
本当に彼は変わってしまった。
初めて会った当初は、冷酷で残忍、任務遂行の為ならば、手段は問わない男であった。
しかし、今のライドウは全くの別人。
裏切られても尚、友人であった自分を信じている部分がある。
何故、苛烈だった彼が、これ程までに甘い性格へとなってしまったのだろうか。
「此処が何処か分かるか? 今現在、我々が建造している”神”の体内なのだよ? 」
「”神”・・・・・? 天使の次は神様かよ。」
呆れてモノが言えないとはこの事だ。
この場所が、何かの体内である事は理解出来るが、クレドが言う、神とは到底かけ離れている。
卑しい悪魔の臓物の中だ。
「そうだ・・・・そして君は、その神に捧げられる心臓となる訳だ。」
何処か夢見心地の心境で、クレドが説明してやる。
余りの嫌悪感に、ライドウの表情が歪んだ。
「俺はお前等の言う通りにはならんぞ・・・いい加減に目を醒ませ。」
「眼ならとっくのとおに覚めているさ・・・・。」
愚かだったかつての自分達に吐き気がする。
これ程、潤沢な精霊石の鉱脈と優れた魔導の技術があるのに、何故、大国や周りの国々に気を使っていたのだろう。
大国アメリカやロシア連邦が世界を掌握するのではない、我々”フォルトゥナ公国”こそが、世界の王に相応しいのだ。
「・・・・・っ! 」
その時、ライドウの背後から無数の触手が現れた。
細い管の様な触手の群は、四肢だけではなく悪魔使いの躰全体に巻き付いていく。
「無駄な抵抗は止めておけ、ソレは君の魔力を糧としている。」
ライドウから一歩離れたクレドが、無感情に眺めていた。
「く・・・・クレド。」
顔にもソレは巻き付き、ライドウの視界を塞いでいく。
徐々に肉の壁へと呑み込まれていく悪魔使い。
「心配するな・・・・全てが終わったら、私も必ず君の元へと逝く。」
何処か哀し気に揺れる紅茶色の瞳。
ライドウの躰は、完全に肉の壁へと取り込まれ、その姿は跡形もなく消え去った。
「起きろ! この馬鹿蝙蝠!! 」
尻を思い切り蹴り上げられ、アラストルは情けない悲鳴を上げて目を醒ました。
気が付くと、目の前に怒りの形相をした小さな妖精が、仁王立ちで立っている。
「いっ、いきなり何しやがるんだぁ!この糞ピクシーが!! 」
折角、人が気持ち良く寝ているというのに、何なんだぁ? この下級妖精が。
鋭い歯を剥き出しにして、黒い毛並みの蝙蝠が吠える。
「うっさい! ライドウは一体何処なの? それと番のアンタがどうして馬鹿面してこんな所で寝てる訳? 」
怒り心頭の蝙蝠に、マベルが矢継ぎ早に質問責めにする。
彼女と十二夜叉大将の一人である猿飛佐助が此処、アルブム大橋に来た時、周りの様子は惨憺(さんたん)たるモノであった。
石畳は砕け散り、悪魔の死骸と思われる鎧が幾つも転がっている。
そして、橋の下には悪魔の群によって撃墜されたと思われる戦闘機の残骸。
右翼に刻まれたエンブレムから、ヴァチカン13機関に所属する戦闘機であると分かった。
「ハッ! そうだった! 人修羅様が! 人修羅様が危ねぇ!!? 」
対悪魔用に改良された戦闘機、F22・ラプターの銃撃から、親友を護る為、ライドウは半ば捨て身で防御シールドを張った。
しかし、魔法術式が組まれた特殊な弾に、あっさりとシールドを破壊され、衝撃で吹き飛ばされてしまったのだ。
主の手から離れたアラストルは、そこで意識を失った。
「落ち着きなって・・・アンタ、17代目と契約状態だろ? だったら呼び掛けてみたらどうなのよ? 」
慌てふためく蝙蝠に、佐助が呆れた様子で助言した。
「はぁ? オタク誰? 」
「良いから! 早くライドウに呼びかけなさいよ!! 」
訝し気な表情で、迷彩柄の忍を見上げる蝙蝠を小さな妖精が怒鳴りつける。
マベルの剣幕に、渋々、従うアラストル。
佐助の言われた通りにテレパシーを使って、主に呼び掛ける。
刹那、底の見えない暗闇の谷底へ一気に落下する感覚に襲われた。
「うわぁ!! 何だこりゃぁ!! 」
思わずアラストルが悲鳴を上げる。
蝙蝠の精神波を受け取ったのか、マベルの表情がみるみる青ざめていった。
「どうした? 」
二人の状況が呑み込めない佐助が、傍らにいる小さな妖精へと問い掛ける。
「ら・・・・ライドウが、敵に掴まって・・・神の供物にされた。」
呻く様にマベルが応える。
アラストルを通して見た最悪な映像。
それは、偽造の神に呑み込まれる主の姿であった。
魔剣教団本部、戦闘力解析場。
マベル達よりも逸早く教団本部へと辿り着いたネロは、義理父・クレドの姿を探していた。
しかし、幾ら探しても父・クレドの姿が見つからない。
それどころか、教団本部であるにも拘わらず、人の気配がまるでしないのだ。
まさか、ヴァチカンが送り込んだ軍隊と交戦しているのだろうか?
焦りがネロの正常な判断力を狂わせる。
『やぁ、私の予想通り此処へ来たね? ネロ君。』
室内に設置された拡声器から、魔剣教団諜報部責任者、オイレの声が響き渡った。
余りの出来事に動転して、ネロが周囲を見回す。
しかし、当然、そこにフードを目深に被った修道士の姿は無かった。
『ふむ、”武田の忍”の姿が見えんな・・・・まぁ、良い。その方が此方としても好都合だ。』
「訳の分かんねぇ事言うなよ! 父さんは何処だ!? 応えろ!! 」
もう、相手が自分の上司であるとか、教団幹部の一人であろうが構わなかった。
ヴァチカンの軍隊が、すぐそこまで来ているのだ。
このままでは、本当に戦争が始まってしまう。
否、もう既に起こっているのだ。
早く、父親のクレドにどうにかして貰うより他に術が思いつかない。
『ふふっ・・・君の大事な父上は、最上階の降臨の間におられる。 17代目・葛葉ライドウ殿と一緒にな・・・。』
「何だと!? 」
ライドウという予想外の名前。
何故、父・クレドがあの悪魔使いと一緒にいるんだ?
その時、教団本部の建物全体が大きく揺れた。
ディヴァイド共和国の国境沿い、”ミティスの森”から進軍したヴァチカンの対悪魔掃討隊『ドミニオンズ』が攻撃を仕掛けて来たのだ。
『うーむ、 どうやら”氷の女王”は相当お怒りの御様子だな・・・君の父上が不用意に冷血女の部下を殺してしまったのが原因だ・・・・全く困った事をしてくれたよ。』
言葉とは裏腹に、オイレの声は何処か楽しそうであった。
久し振りに肌で感じる戦の匂いに、古の記憶が蘇っているのかもしれない。
一方のネロは、顔色を真っ青に変えていた。
クレドが、ヴァチカンの兵隊を殺した?
何故だ?
普段は温厚で、無駄な暴力を嫌い、教団内部でも穏健派だった父が何故?
『大丈夫、怯える事は無い・・・・私の言う通りにすれば、君や君の大事な姉上を助けてあげよう。』
戦闘力解析場内に無数の法陣が精製。
そこから、ビアンゴアンジェロの軍団が実体化する。
「キリエ!! 」
黄金の鎧を纏う騎士、アルトアンジェロに拘束された紅茶色の髪をした美しい女性を見た瞬間、ネロの顔色が変わった。
養父、クレドの実の妹であるキリエだ。
しかし、彼女の様子が何時もと違う。
血の気がすっかりと失せた紙の様に白い顔。
苦痛に眉根を寄せ、時折、浅い呼吸を繰り返している。
「ネロ・・・・ネロなの・・・・? 」
弟の声を聞いたキリエが、弱々しく俯いていた顔を上げる。
全身を襲う倦怠感、貧血による頭痛と吐き気で立っているのも辛い。
慢性骨髄性白血病特有の症状が出ている彼女は、今にも倒れてしまいそうな状態であった。
『おおっと・・・・これは大変だ。 早く透析をしないと君の姉上が大変な事になってしまう。』
「透析? 一体何を言っているんだ? 」
キリエの病気を知らないネロが、訝し気な表情になった。
途端、姉の表情が驚愕に歪む。
懸命にアルトアンジェロの拘束から逃れようと藻掻くが、倦怠感により力が全く入らず、僅かに身体を動かしただけであった。
「やめて・・・・お願い・・・・言わないで・・・。」
『ふーむ、どうやら君の姉上は、大事な弟を心配かけまいと、敢えて病気の事は伏せていたのだな・・・何という健気な・・・。』
「病気・・・・・? 病気ってどういう事なんだよ? 」
何を言っているのかさっぱり分からない。
鼻を啜り、声を殺して無く姉の姿。
教団本部の外では、ミティスの森に巣くう悪魔共を殲滅せんと、ヴァチカンの虐殺部隊が焼夷弾を雨の様にばら撒いている。
ガラガラと音を立てて、少年の日常が壊れていく。
『君の姉上は、慢性骨髄性白血病という血液の癌に犯されている。早く適切な治療を受けねば命が危ういのだよ。』
呆然自失となっているネロに、止めの一撃が下された。
その瞬間、少年の視界から色が消え失せた。
『どうかね? 愛する姉上を救いたいだろう・・・君がもし、私達の命令に素直に従えば、君の姉さんに適切な処置をすぐにしてやろう。 』
拡声器から放たれる悪魔の甘言。
魔剣士スパーダと霜の巨神”ヨトゥンヘイム”の血を引くネロの躰を、検体として差し出せと言っているのだ。
ネロの血を使えば、優秀な造魔を造り出す事が出来る。
その時、ネロの耳に何かを投擲する風切り音が聞こえた。
突如として跳ね飛ばされるビアンゴアンジェロの頭部。
頭を無惨に斬り落とされた数体の鎧の悪魔が、次々に倒れ伏す。
『 ちぃ・・・・君を招待したつもりは無いんだがな? ドルイドの戦士。 』
鋭利な刃が付いた円盤を投げたのは、光学迷彩で姿を隠した巨漢の大男であった。
自分の手元へと戻って来た”ディスク”を難なく片手で受け止め、ドルイドの戦士は壇上から軽々と飛び降りる。
光学迷彩を解除したその姿は、ミティスの森で邪龍・エキドナから救ったマスクの大男、スカーであった。
「アンタ・・・・? 」
「気をしっかりと持て、少年。 少しでも迷いを見せれば敵に漬け込まれるぞ? 」
傍らに立つ少年に一瞥を送る事無く、スカーが鋭く叱咤する。
腰に吊るした伸縮自在の槍を取り出すと、柄に仕込まれたスイッチを押す。
すると槍は、本来の禍々しい姿へと変わった。
『どうやって此処まで潜り込んだんだ? 溝鼠(どぶねずみ)。』
「・・・・部下に命じて、この少年の上着に発信機を仕込んだ。」
オイレの質問に対し、スカーは意外にもあっさりと応える。
ネロが慌てて自分の着ている上着を調べると、フードの端に小さなボタンと同じぐらいの大きさをした発信機を見つけた。
『成程、それは盲点だったな。 』
流石、教団幹部を父親に持っているだけはあって、ネロは教団本部の構造を熟知している。
どうやったら、セキュリティーに引っ掛からずに入り込めるかを知っているのだ。
故に、スカーは光学迷彩を巧みに使って、同じ様に本部内へと侵入したのである。
「此方も一つ質問だ・・・・貴様らがファティマ大聖堂から強奪した魔導書は何処にある? 」
無慈悲な赤外線スコープの光が、黄金の鎧を纏うアルトアンジェロを照らす。
途端、アルトアンジェロの肩がまるで笑っているかの様に、小刻みに揺れた。
『成程、One-man army(一人だけの軍隊)否・・・アメリカ合衆国もソレを嗅ぎつけていたとはな・・・・しかし、残念だ。 貴様の様な薄汚い溝鼠に教えてやる気は毛頭ないよ。』
あからさまな侮蔑の言葉。
しかし、鋭い刃の如く研ぎ澄まされたスカーの心は、微塵も揺るがない。
「そうか・・・・・出来るだけ穏便に済ませるつもりではいたんだがな? 」
スカーが言い終わるのと、キリエを拘束していたアルトアンジェロの躰が真っ二つに切り裂かれたのは同時であった。
突然、拘束が解かれ、バランスを失うキリエ。
その身体を光学迷彩で姿を隠したもう一人の仲間が抱き留めると、強靭な脚力を使ってビアンゴアンジェロの軍隊を軽々と飛び越える。
キリエを横抱きに、ネロのすぐ傍らへと降り立ったソレは、光学迷彩の機能を解除した。
アルトアンジェロを一撃で倒し、キリエを救ったのは、スカーと同じドルイド族の戦士、ボーグであった。
「ネロ・・・・。」
「キリエ! 」
床に降ろされたキリエの所へと、堪らずネロが駆け寄る。
しっかりと抱き合う二人の姉弟。
その姿を一瞥したスカーが、マスク越しに鋭い視線をアルトアンジェロとビアンゴアンジェロの軍団へと向ける。
「総員、光学迷彩を解除! 第一戦闘態勢に入れ!! 」
スカーの命令と共に、何もない空間からディヴァイド共和国の対悪魔特殊部隊が姿を現す。
アサルトライフルに備え付けられたレーザーの照準が、目の前に立つアルトアンジェロの軍団へと次々に向けられた。
「オイ、坊主。 俺に付いて来い。安全な場所まで誘導してやる。」
周りの喧噪を他所に、抱き合う二人の耳にボーグの声が聞こえた。
どうやら、医療班が待機している安全区域まで、案内してくれるらしい。
そこに行けば、キリエに適切な措置が施せる。
「・・・・・キリエ、俺はと・・・・クレドを探して来る。コイツと一緒に避難してくれ。」
「コイツってもしかして俺の事かぁ? 」
悪魔とはいえ、初対面に対する態度、とはとても言えない。
おまけに自分達は、ネロとキリエの窮地を救っている。
呆れた様子で、ボーグが大袈裟に肩を竦めた。
「駄目よ・・・・貴方も一緒に・・・・・。」
紙の如く血が通わぬ顔色をしたキリエが、悲痛な表情で弟を止める。
「そうだぜ? 坊主。 姉ちゃんを困らせちゃぁいけねぇ。」
既に、魔剣教団の悪魔達と、ドルイドの戦士が率いる特殊部隊の戦闘は開始されていた。
流れ弾が当たらぬ様、安全な物陰へと逃れる三人。
ボーグがその巨体を生かし、二人の盾となる。
「それと、俺が言うのもなんだが、どうして初対面の・・・しかも悪魔を信用するんだ? 普通は警戒すると思うんだけどな。」
コンピューター・ガントレットを操作し、対物理防御シールドを張る。
対戦車砲すらも凌(しの)げる優れモノだ。
「・・・・・ライドウさんの・・・・17代目の使い魔がアンタのツレと知り合いだ。それに、アンタが居なかったらキリエは救えなかった。」
自分でも、何故こんな言葉が出るのか不思議に思う。
以前までのネロなら、激しく警戒し、決して大事な・・・・しかも、淡い恋心を抱いている相手を任せる等しなかっただろう。
しかし、今のネロはこのドルイド族の戦士は、信用しても構わないと判断していた。
「クレドは俺の大事な家族だ・・・・絶対に助ける。 」
「・・・・・分かったよ。 」
ネロの常にない真剣な表情を見たボーグは、何処か満足そうに頷くと、戸惑うキリエを軽々と肩に担ぐ。
余りの出来事に短い悲鳴を上げるキリエ。
それに構わず、ボーグは右腕に装着されたガントレットを天蓋(てんがい)の窓へと向けると、そこに内蔵されているアンカーを射出した。
「一つだけ忠告しとくぞ?坊主。 絶対死ぬな・・・大事な姉ちゃんの為にもな。」
ワイヤーを巻き取る反動で、一気に天蓋の窓まで跳ぶ。
丸太の様な脚で、ガラス窓を割り、キリエと共に外へと逃れるボーグの姿を見届けたネロは、義理父であり、己の上司であるクレドを探す為、上階へと続く階段に向かった。
魔剣教団本部、円卓の間。
戦闘力解析場で行われている血みどろの殺戮劇が繰り広げられている立体映像を前に、フードを目深に被った修道士が、机の上に両手を組んで静かに眺めていた。
「あらあら、大変。 ご自慢の造魔兵団がまるで紙人形ね。」
そう言ったのは、円卓に腰掛けた浅黒い肌を持つ美女であった。
ブロンドの髪を綺麗に肩口で切り揃え、大胆に臍の辺りまで開いた教団の制服を纏っている。
「ふん・・・・クローン兵相手に良くやっている方だと思うぞ? 」
「クローン兵? 」
「そうだ・・・コイツ等は、旧ロシア・・・・ソ連の軍人、セルゲイ・ウラジミールという男の細胞から造り出されたクローン兵士だ。表向きはディヴァイド共和国が所有する対悪魔特殊部隊となっているが、その実、”ドミニオンズ”の実験部隊として戦闘データーを収集している。」
フードの修道士、オイレは、傍らのテーブルに腰を下ろす女に説明してやる。
画面内では、ディヴァイドの兵士に身の丈程の槍を突き立てるビアンゴアンジェロの姿が映っていた。
しかし、その鎧の悪魔も、特殊部隊の兵士に蜂の巣にされ、粉々に砕かれる。
被害は明らかに魔剣教団側が多く、あれ程いた造魔兵は徐々にその数を減らしていた。
「クローン兵は、脳の代わりにチップを埋め込まれ、戦闘に関して邪魔になる感情を全て除去されている。 おまけに、肉体にはナノマシンが注入され、どんなに深手を負わされても心臓(コア)さえ無事なら、たちどころに再生してしまうのだ。」
オイレの言う通り、腹を貫かれた筈の兵士が、ゆっくりと起き上がっていた。
出血は既に止まり、防護服の下から新しい肉片が盛り上がり、傷口を塞いでいく。
「まるでゾンビ映画を観ている気分だわ。」
「ゾンビよりも更に質が悪い・・・・ナノマシンにより動きが洗練され、優れたチームワークが行える様になっている。 恐らく司令塔は、あのドルイドの戦士だな。」
彼等は、指揮官の思考を正確にトレースし、まるでチェスや将棋の駒の如く、忠実な動きを行っている。
オイレが指摘する通り、チームの核たる存在は、ドルイドの戦士、スカーであった。
彼の指示通り、兵士達は動き、確実に敵勢力を殲滅している。
「こんな化け物達が量産されたら、私達、魔導士(マーギア)や騎士(ナイト)は廃業するしか無いわね。」
「そうでもない・・・・コストが異様に掛かる上に、彼等は短命だ。 今の技術ではナノマシンを半永久的に稼働させるのが難しいらしい・・・それとクローンの元になっているセルゲイにも問題がある。」
「どんな問題があるの? 」
「オリジナルになっているセルゲイ自身に染色体の異常があるらしい。 本人に全く自覚症状は無いが、彼から造り出されるクローンには何かしらの疾患が必ず発症されると聞いている。 」
「良く、そんな欠陥品を元にクローン兵を造ろう何て考えたわね? 」
グロリアが呆れるのも当然である。
莫大な資金を投入して、遺伝子に異常がある兵士など量産して一体どんな意味があるというのだろうか。
「セルゲイもヒュースリー一族同様、魔剣士・スパーダの血を色濃く継いでいるからだ。 」
「それ、本当なの? 」
オイレの意外な言葉に、グロリアが驚いて傍らの修道士へと視線を移す。
今から2000年以上前、悪魔の身でありながら、人間に味方し、同胞を裏切り人類を救った救世主。
その血は、ヒュースリー一族以外居ない者とされていた。
しかし、魔剣士・スパーダの血族は、他にもいたのである。
「伝承には記されてはいないが、魔剣士・スパーダは、各地に自分の子孫を残している。 だが、長い交配の末、その血は薄まり、今や彼の血は完全に途絶えたと思われた。」
オイレは座っている席から立ち上がると、上座にいる現教皇、サンクトゥス・ハインリッヒ・ヒュースリーの元へと近づく。
何かの催眠暗示でも掛けられているのか、眼前に置かれたメトロノームを凝視したまま、サンクトゥスはピクリとも動かなかった。
「しかし、偶に彼の血が目覚める時がある。 ヒュースリー一族が良い例だな。」
オイレは、サンクトゥスが座っている椅子の背凭れに右手を置く。
教皇の眼前に置かれたメトロノームは、右に左にと規則正しいリズムを刻んでいた。
「セルゲイもそうなのね。」
「ああ・・・・おまけに彼はヴァチカンの13機関(イスカリオテ)に属する異端審問官だ・・・コードネームは確か・・・ハイランダー(不死の戦士)だったかな? 」
フードに隠れた双眸が、催眠暗示により自我を失っている哀れな『裸の王様』を見下ろす。
その口元は皮肉な笑みへと歪んでいた。
やっとこさ投稿。