偽典・女神転生~フォルトゥナ編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

アレフ・マクスゥエル・・・ヴァチカン13機関(イスカリオテ)、第13席の異端審問官。 年齢はネロと同じ15歳。
幼い時から優れた英才教育を実父から受け、12歳で名門大学を卒業。その後神学校へと通い、そこでセルゲイ・ウラジミールから剣の手ほどきを受ける。
神器『アダマスの鎌』の正統継承者。



第12話 『 仄暗き闇の中で。 』

北西ヨーロッパに位置する国、スコットランド。

その海岸沿いに、一軒の古びた教会が建っていた。

聖堂の中に幾つか設えてある告解部屋・・・・所謂(いわゆる)、懺悔室に一人の見事な銀の髪をした長身の男性が入り込む。

見事に仕立て上げられた上質な紺色のスーツ。

一目で、上流階級出身の人間である事が分かる。

 

銀髪の男が告解部屋に入ると、早速、目の前にある小窓から司祭と思われる壮年の男性の声が聞こえた。

 

「神の許しを求め、心から悔い改め祈りを唱えて下さい。」

 

狭い告解部屋の椅子に座った銀髪の男が、習わし通りにカトリック教の祈りを唱える。

そして、小窓の向こう側に座る司祭も、型通りの祈りを捧げた。

 

「全く、何とかならないのか? このやり方。 」

 

スーツの男・・・・ヴァチカン13機関・総司令、ジョン・マクスゥエル枢機卿が呆れた様子で溜息を零す。

 

「神の信徒とも思えぬ言葉だな? ジョン。 」

 

告解部屋の薄い壁越しから、相手の押し殺した笑い声が聞こえる。

どうやら、このやり取りが面白くて仕方が無いらしい。

 

「私用で、スコットランド(此処)まで来たので、貴方の様子を伺いに来たのですよ?師匠(マスター)。」

「うん? すると君の奥方は、外で待たせているのか? それは申し訳ない事をした。」

 

この教会の司祭・・・セルゲイ・ウラジミールは、薄いブルーの双眸で、壁越しに居るであろう愛弟子へとその視線を向ける。

 

剣士職全ての役職を習得し、その中でも最高の称号、シュヴェーアトケンプファー(剣豪)を持つ13機関(イスカリオテ)所属の異端審問官。

第3席の地位を持ち、多くの剣士達を育て上げ、世に排出した剣巨匠(ソードレーサー)としても有名である。

ジョン・マクスゥエルも彼の育てた教え子の一人であった。

 

「妻はエディンバラで観光中です。流石に此処まで連れてくる訳にはいきませんから。」

 

マクスゥエルの言う通り、この場所は特に目立った観光ポイントも無い、寂れた漁村だ。

それに、これから話す内容は、彼女に聞かれたくはなかった。

 

「・・・・・何故、私の息子を今回の作戦に参加させたんですか? 」

 

暫しの沈黙後、マクスゥエルは小窓の向こうに居るであろう、師に鋭い視線を向けた。

 

「何だ? もしかして、怒っているのか? 」

「当然です。 あの子はまだ15だ。 子供を戦場に送り込む等、聖職者がやる事ではない。」

「私が戦地に送り込まれたのは、10歳の時だ。」

「今と昔では違います! 」

 

普段の冷静沈着なマクスゥエルからは、考えられない程声を荒げる。

それ程までに、彼にとって我が子は特別な存在であった。

 

「過保護は良くないぞ?ジョン。 あの子はお前が考えている以上に優秀だ。」

 

セルゲイの言う通り、ジョンの愛息子、アレフは1万人に一人の逸材だ。

15歳という幼さで大学院を首席で卒業。

その後、本人の強い要望で、ヴァチカン13機関(イスカリオテ)の異端審問官となり、以降は、セルゲイの元で剣の指導を受けている。

魔導師職(マーギア)の役職を全て習得し、現在は、実戦も兼ねて、剣士職を学んでいた。

 

「それに、今回の”フォルトゥナ侵攻作戦”は、あの子が自ら志願したのだ。剣士職(ナイト)は、技術も大事だが、それよりも経験がモノを言う・・・あの子はその事を誰よりも良く理解しているのだよ。」

 

セルゲイの言葉を、マクスゥエルは黙って聞いていた。

 

流石に、多くの優秀な騎士を育て上げただけはあり、セルゲイは実の父親であるマクスゥエルよりも、アレフの本質を見抜いている。

幾ら技術や才能があろうとも、その場に適応出来る能力が無ければ、実戦では何の役にも立たない。

その結論に至ったからこそ、息子のアレフは今回の”侵攻戦”に自ら進んで志願したのだ。

 

「それでも、一言ぐらいの相談は欲しかった。 」

「相談?・・・・・フフッ・・・・相談か・・・。」

「何が可笑しいのですか? 」

 

セルゲイの余りな態度に、マクスゥエルが気色ばむ。

 

「相談したところで、君が素直にうんと頷くか? 必ず反対するだろう・・・それどころか、自分の持てる権限をフルに使って、決してあの子を此処から外に出さないつもりだ。」

 

師に核心を突かれ、銀髪の美丈夫が口籠る。

 

アレフが、飛び級で大学院を卒業し、父親と同じ道を歩む為、ヴァチカンが所有している神学校へと進もうとした時、マクスゥエルは、猛反対した。

息子が持つ才能をもっと別の場所で生かして欲しいと思ったからだ。

しかし、息子、アレフの決意は非常に硬く、父親の言葉を決して受け入れ様とはしなかった。

なので止む無く、一番信頼が置けるセルゲイの元へとアレフを預けたのである。

 

「我が子の事を想う君の気持は分からなくもない・・・しかし、時としてその愛情が、子の才能を握り潰す恐れがある。 私はね?ジョン。 あの子は第二の”スパーダ”になれると思っているのだよ。」

「第二の”スパーダ”。」

「そう・・・・私や君が到達出来なかった、遥か先の領域へとあの子は行ける・・・古の時代、悪魔の軍団からこの地を救った魔剣士・スパーダと同じ領域へとね。」

「・・・・下らない。単なる御伽噺ですよ。」

 

もうこれ以上、師と話していても時間の無駄だった。

平行線を辿り続ける不毛な会話を一方的に切り上げ、マクスゥエルは告解部屋の席から立ち上がる。

 

今から2000年以上前、たった一人で悪魔の軍勢から人類を救った正義の魔剣士。

幼い頃は、その英雄譚を眼を輝かせながら読み耽(ふけ)っていたが、成人し、ある程度の年齢を重ねた今は、只の荒唐無稽なホラ話にしか聞こえない。

 

「あの子は、”人修羅”すらも超えるよ・・・。」

 

告解部屋から出たマクスゥエルの背に、セルゲイの声が掛けられた。

振り返ると黒を基調としたカズラとアルバ、そして異端審問官を示す、真紅のストラを両肩に垂らす壮年の男が立っている。

 

「7年前、魔剣士・スパーダの力を得たダーク・サマナーが居たそうです。愚かにも17代目・葛葉ライドウに戦いを挑み、完膚なきまで叩きのめされ、滅せられました。 アレは・・・・あの”絶対者”は、誰にも敵いません・・・例え、私の息子でも。」

 

自分と同じ、銀の髪を持つ神父にそれだけ告げると、マクスゥエルは一礼してから教会の聖堂を後にする。

その弟子の背を、セルゲイは暫く無言のまま見送っていた。

 

 

 

魔剣教団本部、1階・降臨の間。

真紅の長外套(ロングコート)に見事な銀の髪をした大男が、周囲を警戒しながら脚を踏み入れた。

NYにあるレッドグレイブ市で荒事専門の便利屋をしているダンテだ。

ライドウの呪符で動けなくなったダンテは、CSI(超常現象管轄局)と協力関係にある悪魔、ボーグに助けられ、ミティスの森を何とか抜けて、教団本部内へと辿り着く事が出来た。

 

「ちっ、無茶苦茶やりやがるな? あの狂信者共。 」

 

忌々し気に、外套(コート)に付着した煤(すす)を乱暴に払い落とす。

雨の様に降り注ぐ焼夷弾を掻い潜りながら、此処まで来たのだ。

途中、何度も悪魔と遭遇したが、一々相手にしていたら丸焼きにされてしまう。

適当にあしらい、転がり込む様にして本部内へと入り込んだ。

 

その時、頭上から悪魔の断末魔が聞こえた。

訝し気に振り仰ぐと、巨大な影が上から落ちて来る。

そのまま受け身すら取れず階下へと叩き付けられる悪魔の巨躯。

鎧の如く硬い殻に覆われ、時折、静電気の様な蒼白い電流が躰全体を走っている。

その上に、漆黒のカソックを纏う一人の男が居た。

長い黒髪を無造作に後ろで束ね、肩に真紅のストラを垂らしている。

ヴァチカン13機関(イスカリオテ)に属する異端審問官・・・・『ガンスリンガー』だ。

悪魔に突き立てている機械仕掛けの大剣を引き抜き、肩へと担ぐ。

 

「あん? 何だぁ? まだ、教団の生き残りがいたのかよ。」

 

緑色の色眼鏡を掛けた男は、既に息絶えている悪魔から降りると、ダンテに一瞥を送った。

一方のダンテは、魔法の様な速さで双子の巨銃”エボニー&アイボリー”を腰のホルダーから引き抜いている。

 

「まさか、こんな所で再会するとはな? 」

 

この異端審問官には見覚えがあった。

今から丁度4年前、とある事件で自分の右手首と左脚を正確に撃ち抜いた男だ。

5kmという、超遠距離狙撃で、である。

 

「うーん・・・・魔剣教団の人間じゃねぇみたいだな・・・ま、面倒だから殺しておくか。」

 

デザートイーグル並みの銃を両手に構えるダンテを暫く眺めていたZEROは、どうしたものかと考えあぐねていたが、殺してしまった方が手っ取り早いと判断し、音速を超える速さで大型ハンドガン・・・”ルーチェ”をホルダーから引き抜く。

互いの急所へと定まる照準。

そこへ、第三者が割って入った。

 

「何時まで時間を潰しているんだ? ZERO。」

 

燃える様な赤い髪を後ろに撫でつけ、ZEROと同じ黒いカソックに異端審問官を現す真紅のストラを両肩に垂らしている。

悪魔との戦闘時、階下へと落ちたパートナーが中々戻らないので、気になって降りて来たらしい。

髪の色と同じ赤い双眸が、苛立ちで鋭くなっていた。

 

「おや? 確か貴方は17代目と一緒にいた便利屋さんじゃないですか。」

 

そこで初めてダンテの存在に気が付いたのか、異端審問官、第7席『フランベンジュ』ことケン・アルフォンス・ラ・フレーシュは、皮肉な笑みを口元へと浮かべた。

 

「何だぁ? お前、コイツの事知っているのかよ? 」

 

ダンテの額にハンドガンの照準を向けたまま、ZEROが呑気な声で相棒に問い掛ける。

 

「4年前のキャピレットシティでの事件で、17代目・葛葉ライドウの傍に居ただろ? 薄汚い街の便利屋さんだ。 」

「あぁ、あの時のモブ男か・・・。」

 

相棒の説明に漸く合点がいったらしい。

如何にも人を小馬鹿にした様子で、銀髪の大男を眺める。

 

「モブ男だと・・・? 」

「だって俺お前の名前知らねぇし・・・それに、雑魚の名前なんて一々覚える気もねぇしなぁ。」

 

あからさまな挑発の言葉に、ダンテの双眸がみるみる険悪になった。

 

コイツ等二人には、キャピレットシティでの借りがある。

この色眼鏡の男は気に喰わないが、それよりも、その傍らにいる赤毛の異端審問官は、もっと許せなかった。

7年前の空爆で死んだ、ガンスミスのニール・ゴールドスタインを散々、侮辱したのだ。

気難しく、頑固な婆さんだったが、ダンテは彼なりに、彼女を母親の様に慕い、又信頼もしていた。

 

「ダンテだ・・・。」

「あぁ? 」

「今からお前等二人のドタマに鉛の弾をぶち込む相手の名前だ。 よおおっく心の中に刻んで地獄に逝きやがれ。」

 

怨嗟の吐息を吐きつつ、”エボニー&アイボリー”の銃口をケンとZEROへと向ける。

この二人の実力がどれ程か等知らない。

しかし、自分の家族を侮辱され、黙って引き下がる程、ダンテのプライドは安くない。

 

「面白れぇ・・・ケン、お前は絶対手を出すなよ? 」

 

凶悪な笑みを口元に張り付かせたZEROが、相棒へと釘を刺す。

そんな困ったパートナーに大袈裟な溜息を吐く赤毛の異端審問官。

何故、ダンテがこの場所に居るか等、知らないが、自分達の任務に障害となるならば排除するしかない。

 

「分かった・・・なるべく早く済ませてくれよ。」

 

少々、大袈裟に肩を竦めると、大理石で出来ている柱に背を預ける。

ダンテの実力を下に見ているのか、番の加勢に入るつもりは無いらしい。

 

「舐めやがって・・・・二人纏めて掛かって来ても良いんだ・・・・。」

 

そう、ダンテが言い掛けた時だった。

目の前に居る筈の色眼鏡の異端審問官の姿が、突然、消失。

咄嗟に真横へと跳ぶダンテ。

先程まで、自分が立っていた床に機械仕掛けの大剣が大きく穴を穿つ。

 

「ちっ!! 」

 

舌打ちし、背負った大剣『リベリオン』を抜き放とうとする。

しかし、相手の動きは更に速かった。

強化手術により、常人よりも遥かに優れた筋力をフルに活用し、ZEROがダンテとの距離を一気に詰める。

超重量級の大剣から放たれたとは思えぬ音速の斬撃。

それを大剣『リベリオン』で防ごうとするが、左肩と右の太腿を大きく切裂かれ、大理石の床を血で汚す。

 

(こっ、この動き・・・!まさか!!)

 

戦闘スタイルをトリックスターに変更し、ダッシュ技で、ZEROの死の斬撃から逸早く逃れる。

しかし、その動きすらも既に見抜かれていた。

ZEROが、ダンテと同じ様に戦闘モードを切り替え、ダッシュ移動で再び間合いを詰める。

ぶつかり合う二振りの大剣。

ZEROの操る機械仕掛けの大剣、『ガンブレード』とダンテの『リベリオン』が激しく火花を散らす。

 

「あの、狸親父・・・・!こんなの聞いてねぇぞ!? 」

「ハッ!もしかしてお前も、大佐の下で指導を受けた口かぁ? 」

 

まるで示し合わせたかの如く、両者大きく離れて間合いを取る。

 

「お前もU.S.Army Special Forces(アメリカ陸軍特殊部隊)出身かよ。」

「正確に言えば違うな・・・確かにUSSFには在籍していたが、俺があのオッサンに指導を受けたのは陸軍士官学校時代だ。 」

 

寸分違わぬ同じ構え(ポーズ)に、同じスタイル。

僅か十数秒の撃ち合いではあるが、両者は完全に同じ師の元で、全く同じ指導を受けていたと理解した。

 

「へぇ・・・・これはまた何という運命の悪戯・・・。」

 

そんな二人の戦いを、一人安全圏で傍観する赤毛の異端審問官。

 

まさか、二人が同じ師の元で教育を受け、そうとは知らずに戦う事になるなど、誰が予想出来ただろうか。

数合での撃ち合いから予想するに、両者の実力はほぼ互角。

否、あの伝説の魔剣士・スパーダの血族であるダンテの方がやや有利か。

 

「どうした? とっとと悪魔の力を使ってみろよ? 」

 

それは、ZERO自身も十二分に理解していた。

悪魔の力を使えば、ダンテの方が有利に戦いを進める事が出来る。

しかし、ダンテは一向に魔人化する気配が無かった。

ZEROの剛剣を受け流し、常人離れした斬撃を繰り出すだけ。

それを悉(ことごと)く、撃ち落とす色眼鏡の異端審問官。

フラストレーションだけが否が応に、溜まっていく。

 

「てめぇ如きに悪魔の力を使う必要なんてねぇよ。」

 

額を切り裂かれたのか、蟀谷から血を流すダンテ。

流石、13機関(イスカリオテ)に在籍しているだけはあり、ZEROの方がダンテよりも若干、戦闘経験が豊富だ。

悔しいが、技術やセンスにおいては一枚上手である。

しかし、ダンテには魔人化という奥の手があった。

悪魔の力を使えば、力量の差は当然埋まる。

 

(悪魔の力に頼ってちゃ、爺さんには勝てねぇ・・・。)

 

自然、ミティスの森で戦ったライドウの言葉が脳裏に蘇る。

 

『お前の弱点は、その驚異的な再生能力だ。』

 

呪符によって魔力を奪われ、動けぬダンテにライドウが放った言葉。

確かに、悪魔使いが指摘する通り、ダンテは自分の中に備わる驚異的な再生能力に頼り過ぎるきらいがある。

悪魔特有の自己再生能力は、大きな戦力ではあるが、知らず動きが緩慢になり、立ち回りも雑になり易い。

ケビンの下で訓練を受けている時も、師から幾度も注意されたが、身に付いてしまった癖はそう簡単に治せるものでも無かった。

 

今、現在、対峙しているこの男は、自分にとっては更なる高みへと登る踏み台と同じだ。

故に、悪魔の力は使わず、生身(ノーマル)な状態で勝てねば、一生”人修羅”はおろか、その背後にいる”人喰い龍”には勝てない。

 

「へっ、そうかいそうかい。 随分と舐められたもんだなぁ?オイ。」

 

そんなダンテに対し、ZEROは大分、矜持を傷つけられたらしい。

身の丈程ある機械仕掛けの大剣『ガンブレード』を地面に突き刺し、柄の部分に取り付けられたトリガーを引く。

すると刃の部分から、小型のノズルが現れ、そこから圧縮されたガスが噴射される。

強化ワイヤーによって繋がれた刀身が、蛇の如く激しくうねる。

血を求める凶悪な刃達は、大理石の床を大きく抉り、数歩離れた位置に立つダンテに襲い掛かった。

 

「・・・・・!? 」

 

咄嗟に真横に跳ぶダンテ。

しかし、鞭状に変化した刃の追撃は止まらない。

途中で軌道を変え、銀髪の便利屋へと肉迫。

斬撃により発生する真空の刃が、床や壁、柱等を粉砕し、ダンテの肉体までも切り裂いていく。

戦闘スタイルをトリックスターに切り替え、死の嵐から逃れようとするが、衝撃でバランスを大きく崩し、背中から壁に叩き付けられる。

 

「ぐはっ!! 」

 

大剣で急所を庇ったが、真空の刃はダンテの肉体を情け容赦なく抉り取った。

傷口から血が噴き出し、床と壁を汚す。

だが、それに気を取られている暇は無かった。

すぐさま、第二撃がダンテに襲い掛かったのだ。

舌打ちし、スカイスターで異端審問官から大きく距離を取る。

粗い呼吸音が、辺りに木霊した。

 

「おらおら、早く本性を現せよぉ? この悪魔野郎が。」

 

グリップに設置されたトリガーを巧みに操り、鞭状になった刃を再び大剣モードへと戻す。

一方、血塗れとなったダンテは、大剣『リベリオン』を正眼に構え、粗い呼吸を整えていた。

 

正直言って、このZEROと名乗る男は強い。

今迄、戦って来たどの敵よりも強いだろう。

しかし、17代目・葛葉ライドウと比べると霞んでしまう程弱い。

決して”勝てない相手”では無いのだ。

 

その時、身に着けている長外套のポケットに何か筒状の物体が入っている事に気が付いた。

CSI(超常現象管轄局)と協力関係にある悪魔の氏族、ボーグから渡された管であった。

ボーグ曰く、中には近距離用武器”ギルガメス”という魔具が封印されている。

それを想い出した途端、ダンテの口元に笑みが浮かんだ。

 

「何笑ってんだよ? 気色悪い。 」

 

そんなダンテに対し、身の丈程もある機械仕掛けの大剣を肩に担いだZEROが胡乱気に睨む。

どう考えても絶望的なこの状況で笑うとは、気でも狂ったのだろうか?

 

「嫌、お前のドタマに鉛の弾をぶち込む良い方法を思いついたのさ。」

「はぁ? なぁーんだそりゃ? ふざけんのも大概にしとけよ? モブ野郎が。」

 

傲岸不遜なダンテの態度に、ZEROのボルテージが否が応でも上がる。

そんな二人の様子を、少し離れた位置で静観している赤毛の異端審問官。

苛立つパートナーと違い、その表情は極めて冷静だ。

人形の如く無表情に、ダンテの様子を只、眺めている。

 

「けっ!手加減なんてしねぇ、ズタズタのミンチにしてやるぜ。 」

 

柄に設置されたトリガーを引き、再び、鞭形態へと変化させる。

死の暴風が、ダンテへと容赦なく迫る。

しかし、全てはダンテの予想通りであった。

凶悪な刃を纏った蛇が、銀髪の魔狩人を切り裂くよりも早く、大剣『リベリオン』を地面へと突き立てると、ソレを支点に大きく上空へと逃れる。

 

「・・・・・っ!」

 

獲物を見失った鞭が、大剣『リベリオン』に絡み付く。

トリガーを操り、慌てて引き戻そうとするZERO。

しかし、その僅かな隙が命取りとなった。

上空に舞うダンテが、素早くポケットから管を取り出すと、開閉のスイッチを押す。

そこから広がる眩い光。

管に封印されていた魔具が解放され、銀髪の魔狩人へと装着される。

 

「ジャックポット!! 」

 

魔具『ギルガメス』を纏ったダンテが、色眼鏡の異端審問官に向かって急降下蹴りを放つ。

咄嗟に、獲物を捨て後方へと逃れるZERO。

刹那、ダンテの渾身の蹴りが異端審問官の躰を貫いたかに見えた。

 

 

 

 

「・・・・ドウ・・・・ラ・・・イドウ・・・。」

 

遠くで誰かが自分の名を呼んでいるのが聞こえる。

薄っすらと閉じていた隻眼を開く悪魔使い。

見ると逞しい腕が、自分の華奢な躰を優しく抱きしめていた。

 

「・・・・クレド・・・・? 」

 

見上げると、紅茶色の髪と同色の顎髭を蓄えた友人の顔が映る。

騎士団長の礼服を纏う友人は、優しく悪魔使いを見下ろしていた。

 

「どうした? 式典で疲れてしまったのかな? 」

「え・・・・? 式典・・・・・? 」

 

そこで漸くライドウは、周囲の様子を伺う余裕が生まれた。

 

気品ある調度品の数々と壁に掛けられた絵画。

煌びやかな照明が、吹き抜けとなっている階下を照らし、幾つもあるテーブルに乗せられた豪華な食事と、如何にも上流階級と分かる人々が思い思いに談笑等をして過ごしている。

 

どうやら此処はフォルトゥナ城であり、自分達二人は、光の間2階の隅に居る事が分かった。

 

「・・・・・何故、此処に? 俺は確か教団本部前でお前と・・・・。」

 

そう言い掛けて、ライドウは思わず口を噤(つぐ)んだ。

その後に続く言葉が、どうしても出て来ない。

急速に記憶がぼやける。

自分は、今一体何を言おうとしたのだ?

 

「どうやら”魔剣祭”で疲れているみたいだな? 無理もない、任務続きで君も大変だったみたいだからな。」

 

ゆったりとしたムードの曲が場内に流れる。

ライドウの細い腰へと回されるクレドの逞しい腕。

チークダンスの曲に合わせて動くクレドに、抵抗も無くライドウが付いていく。

 

「”魔剣祭”・・・・そうか、無事に終わったんだな・・・。」

 

クレドの鍛え上げられた厚い胸に頬を寄せ、ライドウが隻眼を閉じる。

年に一度、元旦に開かれる国を挙げての祭りは何事もなく終了したらしい。

今は、政財界の裕福層をもてなす夜会が開かれ、主催者である教皇のサンクトゥスが、教団の幹部数名と共に、彼等の相手をしていた。

 

「キリエは・・・・? チビ姫は何処に行ったんだ? 」

 

何故か、教団の唄姫の姿が階下の何処にも見当たらない。

少し不安になって、ライドウが頭一つ分高いクレドを見上げる。

 

「キリエなら、ネロの居る寄宿舎に行ったよ。」

「寄宿舎・・・・? 」

「”魔剣祭”が始まる少し前に、アイツが晩餐室に忍び込んで、そこに隠してある酒を騎士見習い数名と一緒に呑んでいたんだ。」

 

困った様子で、クレドが昨晩起こした騒動を話して聞かせる。

ネロが、騎士見習いの少年達と一緒にフォルトゥナ城の晩餐室へと忍び込んだ。

そこには酒と煙草が隠してあり、おまけに如何わしい雑誌も数冊置いてあったらしい。

ちょっとした酒盛りを始めた少年達を、運悪く警備していた騎士達に見つかってしまったのだ。

 

「流石に、1週間の謹慎処分は厳し過ぎないか? 」

「何を言っている? 由緒ある魔剣教団の騎士が規律を破った上、酒盛りなど言語道断だ。 」

 

盛大に溜息を吐くクレド。

確かに、飲酒や喫煙は立派な戒律違反だ。

おまけに彼等は、まだ未成年、大人として断固たる処罰を与えるのは当然だと言える。

義理父であるクレドに、一週間の謹慎処分を喰らったネロを不憫に思ったのか、キリエは式典が終わると早々に、差し入れを持って寄宿舎へと向かった。

 

「・・・・そんな頭のお堅い父親殿が、人目を忍んで同性の・・・しかも50手前のオッサンとチークダンスか? 」

 

クレドの腕の中で、意地の悪い笑みを口元に浮かべる。

 

「私だって羽目を外したいと思う時はあるさ・・・・それに・・・。」

 

ライドウの耳元へとクレドが唇を寄せる。

 

「ダンヴェール嬢の様に、君は美しい・・・・。」

「・・・・・っ、お前な・・・・。」

 

ルノワールが描いた8歳の美少女と自分を例えられ、ライドウの頬が微かに赤くなる。

確かに外見は、餓鬼っぽく見えるだろうが、流石に8歳の少女と同じに見られるのは心外だ。

何か抗議の言葉を述べようとした薄い唇を、クレドが軽いキスで塞いだ。

 

「よ、止せ・・・・誰かに見られる。 」

「大丈夫、誰も私達など見えやしないさ。」

 

瞼や頬に何度も何度も口付けを繰り返す。

謹厳実直を絵に描いた様な男にしては、らしく無さ過ぎる行動だ。

最初は、嫌がる素振りを見せていたライドウであったが、等々諦めたのか、素直に男の口付けを受ける事にした。

深く合わさる互いの唇。

刹那、ライドウの脳裏に電流が走る。

 

違う、これは・・・・この男は、クレドではない。

 

両腕が男の逞しい腕を跳ね除ける。

親友の眼前に翳す右掌。

そこには、紅蓮の炎を宿す魔法陣が形成されていた。

 

「ライドウ・・・・? 」

「消え失せろ!外道が!! 」

 

火炎系最上級魔法”アギダイン”が放たれる。

吹き飛ぶ親友の躰。

それと同じくして周囲の情景も霧散する。

 

暫しの静寂。

粗い吐息を吐く悪魔使いの頬を、不意に氷の礫が叩いた。

気が付くと、煌びやかな城内の様子は一変し、粉雪が吹き荒れる闘技場の中央に立っていた。

 

「ちっ、舐めて真似しやがる! 」

 

口元に撓(たわ)んでいた真紅の呪術帯を鼻の頭まで引き上げる。

 

一体誰がこんな余興を仕掛けたのかは知らないが、大した度胸じゃないか。

100の肉片に切り裂いて、後悔させてやる。

 

その時、ライドウの背後から何かの雄叫びが聞こえた。

殆ど条件反射で、真横へと跳ぶライドウ。

その目の前に地響きを上げて巨体が現れる。

魔界の南・・・ホドにある湿地帯中心に生息する邪龍の種族、ダゴンだ。

 

「ブワッハハハッ! 畜生! あともう少しでお前を喰えたのになぁ?人修羅! 」

 

黄土色の粘液を周囲に吐き出しながら、ダゴンが憎々し気に小柄な悪魔使いを睨み付ける。

見ると、釣り餌である人型を模した触手が一本消し飛んでいた。

どうやら、この人形に友人と同じ姿に似せ、自分を取り込もうとしていたらしい。

 

「お前は・・・・確か卑しい牛蛙(うしがえる)じゃねぇか・・・あんまり醜いんでユリゼンの奴に毛嫌いされた挙句、俺に駆逐されたんだったよなぁ? 」

 

この悪魔には嫌という程、見覚えがあった。

20数年前、ライドウが魔界を放浪している時に、パトロンであるユリゼンから『資源を喰い尽くす害虫が居るから駆除して欲しい。』という依頼を受けたのだ。

ダゴンは底なしの食欲と、繁殖力を持っている為、放置していると魔界の生態系を大きく破壊しかねない。

それに、領地拡大の為にも、豊富な土壌を持つ、ホドの湿地帯は何としてでも手に入れたかった。

 

「お前のせいで、俺の大事な兄弟達は皆死んだ! 仇取らせて貰うから覚悟しろ!」

 

悪臭を放つ汚水の唾を吐き散らしながら、ダゴンが怨嗟の雄叫びを放つ。

背にある鋭い棘の様な氷塊が、まるで砲弾の如く、ライドウに向かって数発射出。

それを華麗に躱す悪魔使い。

トンボを切る様に後方宙返りをすると、地面に着地する。

 

(落ち着け・・・・コイツは俺の心が生んだ虚像だ。 本物は既に死んでいる。)

 

腹腔から湧き上がるマグマの様な怒りを、強靭な精神力で何とか抑え付ける。

 

此処は、クレドが”神”と称する魔人像の中だ。

現実の自分は、その中に囚われており、恐らく魔人像の中に渦巻く大量の瘴気を吸ったせいで、ロクでもない幻覚を見ているのだ。

 

隻眼を閉じ、意識を集中する。

これが自分自身が造り出した悪夢ならば、必ず目覚める術はある。

そんな悪魔使いを他所に、再度、氷塊の砲弾を放つ牛蛙の悪魔。

小柄な躰を押し潰さんと、頭上から降り注ぐ巨大な氷の塊。

次の瞬間、真紅の閃光が幾度も閃き、巨大な氷を粉々に切り刻んでいく。

見ると、悪魔使いの右手には真紅の魔槍(まそう)”ゲイボルグ”が握られていた。

 

 

 

ミティスの森上空、そこに、空中艦隊『アイアンメイデン』が数隻の護衛艦と共に待機していた。

そのメインデッキ内に、15歳ぐらいと思われる漆黒のカソックに金の刺繍が施された真紅のストラを両肩に垂らす少年が入って来る。

 

13機関(イスカリオテ)13席、コードネーム『ソードダンサー』こと、アレフ・マクスゥエルだ。

 

不満そうな表情を隠しもせず、少年は艦長席に座る妙齢な女軍曹の元へと真っ直ぐ進んだ。

 

「どうした? 随分と臍を曲げているな? 」

 

自分の隣に立つ、見事な銀髪の少年を『アイアンメイデン』の艦長、13機関、第8席、マウア・デネッガーが見上げる。

 

「何時になったら出撃命令を出してくれるんですか? 見学をする為に今回の侵攻作戦に参加した訳じゃないんですけど。」

 

まるで棺の如く巨大なケースを背負った銀髪の少年は、何ら物怖じした様子を微塵も見せず、隣にいる上官に皮肉を言った。

 

「”フランベンジュ”と”ガンスリンガー”を先行部隊として教団本部に向かわせている。 彼等の報告が無い以上、卿にはこの船で待機していて貰う。」

「その割には随分と時間が掛かっている様に見えますが? 」

「まだ潜入させて間が無い。 少しは忍耐力を鍛えたらどうだ? 坊や。」

 

血の気が多い、若き異端審問官をマウアは、溜息を吐きつつ窘める。

 

ヴァチカン13機関(イスカリオテ)総司令、ジョン・マクスゥエルの愛息子、アレフ・マクスゥエルは、人外の力を持つ異端審問官の中でも、飛びぬけた異彩を放っている。

 

弱冠12歳という若さでイギリスの名門大学”オックスフォード”を首席で卒業。

その後、父親と同じ道を歩む事を決めたアレフは、教皇庁立グレゴリアン大学へと進学。

神学をそこで学び、又、セルゲイ・ウラジミールの元で厳しい剣の修練を積んだ。

そして、約2年間という短期間で、アレフは剣士職全ての役職を習得し、到達者(マイスター)の称号を得たのである。

 

「何時までも子供扱いは勘弁して下さいよ? デネッガー将官殿。 13機関(イスカリオテ)の末席を汚す身ですけれど、一応、女王陛下から剣豪(シュヴェアトケンプファー)の称号を頂いたんですから。」

 

マウアに軽くあしらわれ、アレフは憮然とした表情になる。

その時、天井の約半分以上を占めるメインパネルに、信じられない光景が映った。

ミティスの森を抜けた先、魔剣教団本部に巨大な人影が映る。

ソレは、本部の建物の壁を破壊すると、ゆっくりとした仕草で、日の光にその姿を現す。

頭の側頭部辺りに生えた大きく湾曲した二本の角。

額には巨大な精霊石が埋め込まれており、両眼は閉じられている。

背中に眩い光を放つ後光を背負い、真っ白い肌をした巨人は、破壊された梁と土塊を撒き散らしながら、上空へと舞い上がった。

 

「あ、アレは一体・・・・? 」

 

あんな悪魔、今迄見た事も聞いた事も無かった。

恐らく、魔剣教団が造り出した人造破壊兵器であろう。

 

「へぇ、凄いや。 アレが彼等が神と崇める”魔剣士・スパーダ”かな? 」

 

棺の如く巨大なケースを背負う銀髪の少年が、目を輝かせて、メインパネルに映る”巨人”を眺める。

 

彼等の眼前で繰り広げられる異変は、それだけでは無かった。

魔剣教団本部の地中を突き破り、巨大なオブジェがせり上がる。

それは、フォルトゥナ公国の地下に眠るオリジナルの”地獄門”であった。

 




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