偽典・女神転生~フォルトゥナ編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

百地三太夫(ももちさんたゆう)・・・・ライドウの同期。組織『クズノハ』の暗部、十二夜叉大将の一人だった。
”八咫烏”に入っていた当初の番であり親友。
16代目の一人娘・月子を連れ出し『葛城の森』を出奔しようとしたが、ナナシに捕まり、そこで交戦。友の手により殺害される。

月子・・・・16代目・葛葉ライドウの一人娘。
強い”稀人(まれびと)”の力を持っており、先天盲(せんてんもう)な為、他者の眼を借りる事が出来る。”神上げ”の巫女であり、背中に神を降ろす為の呪式が刻まれていた。外部との接触を完全に断たれた環境で育った為か、かなりの世間知らず。


第13話 『偽りの神 』

愛など無い・・・・。

愛なんて知らない・・・・・。

そんなもの、全てまやかし・・・・。

人間個人が勝手に抱くエゴの塊・・・・。

最も美しく、最も醜いモノ・・・・・それが、人間が持つ『愛』。

 

 

無数に降り注ぐ氷塊を白銀の鎧を纏う騎士が、巧みに躱していく。

魔槍”ゲイボルグ”の力を借り、”魔鎧化”したライドウだった。

大岩の如く巨大な氷の塊を、まるでバターの様に縦に切断。

氷の塊を足場に、一気に蹴り上げ、眼前の醜い牛蛙へと肉迫する。

邪龍の中でもエキドナに次ぐ、最上位種の”ダゴン”でも、光速で移動する悪魔使いに対処する方法など無かった。

真紅の切っ先が、ダゴンの弱点である心臓を深々と貫く。

そこを支点に牛蛙の尻尾の先まで、駆け抜けるライドウ。

地に着地した刹那、ダゴンの巨体が真っ二つに切り裂かれ、断末魔の悲鳴すら上げる暇もなく、粉々に砕け散る。

 

「さて、いい加減、目を醒まさねぇとな。」

 

吐息一つすら乱す様子も無く、ライドウが”魔鎧化”を解く。

 

此処は、彼自身の『悪夢』が造り出した幻想の世界だ。

現実の自分は、偽の神に捕えられ、深い眠りの底へと就いている。

早く目を醒まさなければ、心臓の一部へと同化し、二度と現実世界へと還る事は叶わなくなるだろう。

 

気が付くと、周りの様子が再び一変していた。

深々と降り注ぐ粉雪。

鬱蒼と茂る深い森の中。

見覚えのある光景に、ライドウの顔色がみるみるうちに青くなる。

 

「まさか・・・・そんな、此処は・・・・。」

 

否が応にも蘇る忌まわしき記憶。

 

父親の様に慕い尊敬した師、先代ライドウからの命令。

 

『百地三太夫(ももちさたゆう)と一緒に里を出奔した娘を連れ戻して欲しい。』

 

情けなく弟子の足元で土下座する師。

これが、文武両道に優れ、若き召喚師(サマナー)達から慕われる16代目であろうか?

我が目を疑いたくなる光景であった。

それ以上、師の情けない姿を見たくなくて、ライドウ・・・ナナシは、親友を殺し、16代目の娘を連れ還る事を了承する。

 

「ナナシ・・・・。」

 

背後から掛けられる親友の声。

振り返ると、革の肩当と胴鎧、両手にはナイフが仕込まれた鉄の手甲を装備した元番がいた。

ライカンスロープ独特の縦に走った瞳孔が、戸惑うナナシを静かに見据えている。

 

「三太・・・・・。」

 

緊張で口の中がカラカラに乾く。

そんなナナシに対し、三太夫(さたゆう)は腰に帯刀した柄がやや湾曲した剣を鞘から抜き放つ。

 

「見逃してくれって言っても無駄なんだろうな? 」

 

何処か諦めた様子の友。

 

同じ『クズノハ』の暗部に属する人間だから分かる。

彼等にとって掟は絶対。

背く者が例え親兄弟であろうと、同じ釜の飯を喰った同士であろうと、一切の許容や慈悲など無い。

 

「・・・・っ、三太・・・・俺は・・・・。」

「良いんだよ・・・・俺も立場が逆だったら同じ事をする。」

 

俯いた顔を上げる三太。

愛する者を護る為に、全てを投げ出した男の目。

死を覚悟した者の目であった。

 

 

 

 

降臨の間、1階。

 

吹き飛ばされ、壁に激突する真紅の長外套(ロングコート)を纏う銀髪の大男。

壁に大穴を穿ち、減り込んだ銀髪の魔狩人は、そのままの態勢で床へと頽(くずお)れる。

その数メートル先には、緑の色眼鏡に長い黒髪を背後で無造作に束ねた異端審問官が、双子の巨銃”ルーチェ&オンブラ”を構えた状態で立っていた。

 

「ケン!てめぇ!余計な手出しはするなと言っただろうが!!」

 

舌打ちし、少し離れた場所に立つ番(パートナー)に向かって、怒りを隠しもせず怒鳴る。

ZEROの目の前には、赤く光る魔法陣が展開されていた。

あらゆる物理攻撃を弾き返す物理反射防壁『テトラカーン』だ。

 

「黙れ未熟者、私が手を貸してやらなかったら、貴様の躰は真っ二つに切り裂かれていたんだぞ? 」

「・・・・・っち!! 」

 

ケンの言う通りであった。

あの時、番(パートナー)が防壁を張っていなかったら、ZEROの肉体は、魔具『ギルガメス』によって、無惨に引き裂かれていただろう。

 

「ううっ・・・・糞ったれが・・・・。」

 

瓦礫を押し退け、呻きながらダンテが立ち上がろうとする。

しかし、蓄積されたダメージが、彼の再生能力の許容範囲を遥かに超えていた。

右太腿から血を噴き出し、再び床へと倒れ込む。

物理反射防壁『テトラカーン』によって、渾身の一撃を全て弾き返された為だ。

肉体が疲弊し、自慢の再生能力すらも落ちている。

そんな銀髪の魔狩人を、赤毛の異端審問官が冷たく見据えていた。

 

「やはりこの男は危険だな・・・・貴重な検体ではあるが、此処で始末してしまった方が良さそうだ。」

 

何とか起き上がろうと片膝を突くダンテに向かって、右掌を翳す。

光速で展開される炎の魔法陣。

火炎系最上級魔法『アギダイン』の地獄の業火が、銀髪の便利屋へと放たれ様とする。

しかし、ソレを何処かから飛来したのか、巨大な卍手裏剣が邪魔をした。

自分に向かって放たれた手裏剣を後方へ跳ぶ事で躱すケン。

巨大な卍手裏剣は、大きく弧を描き、主の腕へと戻って行く。

 

「・・・・”クズノハ”の暗部か・・・。」

 

戻って来た得物を掴んだのは、茶褐色の髪をした忍装束の若い男であった。

二階の手摺部分に立つ迷彩柄の若い男は、未だ起き上がれぬダンテと彼を始末しようとしている異端審問官二人組の間を割って入るかの様にして、降り立つ。

 

「何の真似だ? まさか、我々と戦争をするつもりではありまいな? 」

 

ケンが鋭い視線を、目の前に立つ茶褐色の髪をした若い男へと向ける。

 

「まっさかぁ♪ おたくらみたいなおっかない連中と喧嘩する度胸なんてないよ。」

 

二ヘラっと迷彩柄の忍・・・・猿飛佐助が口元に苦笑いを浮かべる。

 

本音を言えば、ダンテなど見捨てて、17代目の行方を探りたかった。

しかし、頭の上に乗る小さい友人が「助けないと、ぶっ飛ばす!」と脅しをかけて来たので、渋々、従っているだけだった。

因みに、魔剣教団本部前で拾った17代目の代理番”アラストル”は、人間形態で2階エントランスから、事の成り行きを眺めている。

 

(クズノハ・・・・・まさか、爺さんの仲間か・・・?)

 

息を整え、傷の治癒に集中していたダンテが、目の前で此方に背を向ける忍装束の若い男を見上げる。

若いと言っても、自分とそれ程、年齢は離れてはいないだろう。

もしかしたら、同年代かもしれない。

この予想外の助っ人に、ダンテは只、戸惑うばかりであった。

 

「そのまま動くんじゃないわよ?ダンテ。 」

「チビ助か・・・・。」

 

何時の間にそこに居たのか、ライドウの仲魔であるハイピクシーのマベルが、ダンテの傍らへと寄り添い、得意の回復魔法で、傷を治療していく。

 

「お前等、何故此処に・・・? てか、爺さんは一体どうした? 」

 

回復系中級魔法『ディアラマ』を唱える妖精に向かって、ダンテが問い掛けた。

 

マベルはライドウの使い魔である。

しかし、肝心の主の姿が何処にも見当たらない。

ミティスの森での一件以降、ライドウの行方が分からないダンテは、急に嫌な予感に襲われた。

 

「ライドウは、敵に捕まった。 一刻も早く助け出さないと大変な事に・・・。」

 

そう、マベルが言い掛けた時であった。

突然、ホール全体を原因不明の地震が襲う。

建物全体が大きく揺れる。

この突然の出来事に、佐助達は、何とか倒れない様にバランスを保つので精一杯であった。

 

「おやおや、どうやら敵さん、秘密兵器を出して来たみたいだねぇ。」

 

茶化す佐助は、目の前に立つ異端審問官二人組に鋭い双眸を向ける。

 

「どうする? アンタ等の目的は”魔導書”の回収だ。 こんな所で無駄に時間を潰している暇なんて無いでしょ? 」

「・・・・・。」

 

この男は、自分達の目的を知っている。

一体何処で情報が漏れたのかは知らないが、確かに佐助の言う通りであった。

四冊の経典の一つ、”ファティマの書”奪還は、何物にも代えがたい最優先事項である。

こんな所で無駄に足止めを喰らっている場合ではない。

 

「アンタ等の探し物は、この本部の地下にある。 さっさと行かないと此処の技術責任者に持って行かれちゃうかもよ? 」

「・・・・・何故、ソレを知っている? 」

「企業秘密♡ 態々オタク等に教える義理は無いよ。」

 

飄々とした佐助の態度が無性に癇(かん)に障る。

氷点下の如く、冷めた表情をするケンは、右掌に展開していた紅蓮の魔法陣を握り潰した。

そして、あっさりと踵を返し、地下へと続く通路へと向かう。

てっきり派手な喧嘩をおっぱじめるとばかり思っていたZEROは、番の意外な行動に面食らい、慌ててその背を追った。

 

「おい!アイツ等を放置して大丈夫なのかよ? 」

「構わん、今は”ファティマの書”を回収するのが先決だ。」

「俺は納得出来ねぇぞ! このまんまじゃ俺等13機関(イスカリオテ)が舐められちまうじゃ・・・・。」

 

何時までも駄々をこねる番を、ケンは一睨みで黙らせる。

いくら番関係であろうと、その力の差は歴然。

ケンが本気になれば、ZEROなど跡形もなく燃やし尽くされるであろう。

 

「奴等に報復するなら何時でも出来る・・・しかし、経典を失う事になれば、それこそ我々13機関(イスカリオテ)の名に泥を塗る事になるぞ。」

「・・・・わ、分かったよ・・・。」

 

これ以上の問答は、流石に命に関わる。

ZEROは、大分不本意ではあるが、頷くより他に術が無かった。

 

 

 

 

魔剣教団、降臨の間3階。

魔剣教団騎士団長、クレドは、沈痛な面持ちで白亜の巨神を見上げていた。

 

(ライドウ・・・・。)

 

脳裏に思い浮かぶのは、神の心臓へと捧げられた友の事ばかり。

 

初めて出会った時から、浮世離れした彼の美しさに心奪われた。

当時、クレドは副団長を務め、若い騎士達をまとめ上げる立場にあった。

”ソロモン12柱の魔神”の一人である堕天使アムトゥジキアスが出現し、団長のヨハンと共に、討伐に向かったが、強大な魔力を誇る魔神の前に成す術も無く敗退。

ヨハンの活躍で、死傷者を最低限まで留めたが、彼の悪魔を再封印する力が当時の魔剣教団には無かった。

事態を重く見た前教皇のバルムングが、魔導師ギルドに増援を要請。

そこで派遣されて来たのが、遠い異国の地から来た悪魔召喚術師であった。

 

(思えば・・・・アレが運命の出会いだったな。)

 

17代目・葛葉ライドウの力は、クレド達魔剣教団の想像を遥かに超えていた。

教団の中でも最強と謳われるヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーを番とし、たった二人で”ソロモン12柱の魔神”を封印してしまったのである。

あの時は、喜びよりも寧ろ、友であり幼馴染みであるヨハンに対する嫉妬と羨望が強かった。

 

魔剣祭終了時に行われる『夜会』での出来事が鮮明に想い出される。

フォルトゥナ城、光の間2階でのライドウとヨハンの逢瀬。

まるで恋人の様に抱き合い、口付けを交わす二人の姿に、クレドは激しい怒りを覚えた。

 

何故、そこに立っているのが自分では無いのだろうか?

何故、こんなにも努力しているのに、自分は奴より劣っているのか?

何故、何故、何故、何故・・・・。

 

その答えなど、既に出ている。

奴は、魔剣士・スパーダと霜の巨神・ヨトゥンヘルムの血を併せ持つ超人。

自分には何も無い。

只の平凡な人間なのだ。

 

(だが、今は違う・・・・この戦争が終わり、我等”フォルトゥナ公国”が勝てば、君を永遠に私のモノに出来る。)

 

神の心臓へと捧げられた愛しい人。

でも、哀しむ必要など一切ない。

自分もいずれ神へと同化し、永久に添い遂げる事が出来るのだ。

それは、何とも甘美な事か・・・・。

 

「ご苦労だったな? クレドよ。」

 

物思いに耽るクレドを、老獪な声が現実へと引き戻した。

見ると3階出入口付近に、数名の従者を従えた現教皇、サンクトゥスが立っている。

 

「流石、我等魔剣教団、最強の騎士だ。 あの人修羅を捕らえるとはな? 」

 

超国家機関『クズノハ』最強と謳われる悪魔召喚術師(デビルサマナー)を無事捕縛した事に大分、ご満悦らしい。

その皺だらけの顔には、野心の暗い炎が燃え滾(たぎ)っているのが、見て取れた。

 

「いえ・・・運が良かっただけです。」

 

自分の実力だけでライドウを捕らえた訳では無い。

あの時は、ライドウが捨て身でヴァチカンの戦闘機からの攻撃にクレドを護ったお陰で、捕まえる事が出来たのだ。

それが理解出来ぬ程、クレドは己自身の力に溺れてはいない。

 

「教皇陛下、今こそカトリックの狂信者共に、我等の力を示す時かと・・・。」

 

そう進言したのは、サンクトゥスの背後に控えていた諜報部責任者、オイレであった。

恭しく教皇、サンクトゥスに頭(こうべ)を垂れ、目の前に鎮座する巨大な白亜の巨人を指し示す。

 

「ウム、確かにその通りだな。 」

 

サンクトゥスが、徐に両腕を広げる。

すると、ヴェスチャーと呼ばれる法具が二つ現れ、まるで主を護るかの如く、障壁を造り出し、サンクトゥスを包む。

 

「見ているが良い、ヴァチカンの蛆虫共が、誰がこの世界の王に相応しいか教えてやる。 」

 

ヴェスチャーの力によって魔力を増幅されたサンクトゥスが宙へと浮かぶ。

遥か上空へと浮かんだ教皇は、白亜の巨人の頭部へと移動した。

その姿を満足そうに眺めるフードの修道士。

少し離れた位置に立つクレドも、無言で神と一体化するサンクトゥスを見つめていた。

 

「二人共、ちょっと良いかしら? 」

 

神聖な場を邪魔する第三者の声。

訝し気にクレドが振り返ると、そこに臍(へそ)の辺りまで大胆に開いた教団の制服を着る浅黒い肌の美女が立っていた。

最近、教団幹部に昇進したばかりのグロリアという名の妖艶な女だ。

凍てつく様なアイスブルーの双眸が、クレドと少し離れたオイレへと向けられる。

 

「面白いネズミを捕まえたの。アグナスの私室に居るからどっちか来て貰えると有難いんだけど。」

 

口元に皮肉な笑みを浮かべた女が、意味あり気にクレドの方へと視線を向ける。

どうやら、オイレよりもクレドの方をご指名らしい。

 

「分かった・・・私が行こう。」

 

オイレに後の事を任せ、クレドがグロリアと共に降臨の間を退出する。

 

「ネズミとは一体誰の事だ? もしかしてディヴァイド共和国の侵入者か? 」

「ふふっ、残念だけど違うわ。 貴方の息子さんよ。」

「何? 」

 

予想外の言葉に、クレドの双眸が驚愕で見開かれる。

てっきり、妹のキリエと同じく、何処かのシェルターに入って隠れているものとばかり思っていたからであった。

 

 

二人が技術局長私室に到着すると、何処か上機嫌な部屋の主であるアグナスと、拘束椅子に縛り付けられている銀髪の少年がいた。

ご丁寧にも猿轡まで噛まされている。

怒りと戸惑いの色を宿したアイスブルーの瞳が、義理の父親とその傍らにいるエキゾチックな美女へと向けられた。

 

「おい、オイレはどうした? 何故、よりによってクレド何て連れて来たんだぁ? 」

 

クレドが自分の私室に来たのが、余程、不服だったらしい。

アグナスは、浅黒い肌の美女の腕を乱暴に掴むと部屋の隅へと連れて行き、小声で詰(なじ)った。

 

「オイレは、教皇陛下と一緒に居るわ・・・彼には、重要な仕事があるもの。それと・・・クレド団長を連れて来たのは、息子さんと感動的な再会を演出したかっただけ。」

 

内心の苛立ちを隠そうともしないアグナスに対し、グロリアは何処までも傲岸不遜な態度を崩さない。

軽蔑しきった皮肉な笑みを口元に張り付かせ、自分より頭一つ分大きな、技術責任者を見上げていた。

 

一方のクレドと椅子に拘束されている義理の息子のネロ。

義理の父親は、諦めたかの様な溜息を一つ零すと、口に噛まされているロープを外してやった。

 

「一体どういう事なんだよ!父さん!コイツ等は一体何者なんだ!それとヴァチカンの軍隊がフォルトゥナを襲って!! 」

「・・・・・落ち着くんだ・・・ネロ。 ちゃんと説明してやるから。」

 

猿轡を外された息子は、矢継ぎ早に義理父へ今迄溜めていた疑問を一気に吐き出す。

そんな息子をクレドは静かに窘めた。

 

「ネロ・・・・これから話す事は全て真実だ・・・・戸惑うかもしれないが、しっかりと聞いて欲しい。」

「父さん・・・・・。」

 

有無を言わせぬ父親の強い眼光に、ネロは、仕方なく押し黙る。

そんな息子に、義理父であるクレドは、物事の詳細が分かり易い様にゆっくりと話し始めた。

 

今から17年以上前、”ソロモン12柱の魔神”がフォルトゥナ公国を襲撃する少し前に、フォルトゥナの首都から離れた港町で、某大国のモノと思われる大型貨物船が座礁した事。

そこに住んでいた住民達が、タンカーに積んでいた『ある物』のせいで癌が発症した事。

フォルトゥナが国連に再三、某大国が極秘裏に積んでいた『ある物』のせいで、漁村が壊滅した事を説明したが全く取り合わなかった事。

挙句、経済制裁を行い、国が疲弊した事などをかいつまんで話して聞かせた。

 

 

「それじゃ・・・・キリエが病気になったのは・・・・? 」

「そう、某大国がヨーロッパへ運ぼうとしていた『毒ガス』のせいだ。 アレには発癌性の物質が多量に含まれていた・・・・幼いキリエや私の両親はそうと知らず、ソレに汚染された魚を食べてしまったのだ。」

 

当時、クレドは魔剣教団の騎士団に入団したばかりで、フォルトゥナ城の近辺にある寄宿舎で生活していた。

そのお陰で、アウトブレイクに巻き込まれる憂き目は回避出来たが、その代わり、大事な家族を失い、妹も骨髄性白血病という病を患ってしまったのである。

 

「長年に渡り、我々はあらゆる差別を某大国から受けて来た・・・故に正義を執行する義務がある。」

「だから・・・悪魔を使って隣の国と・・・・ディヴァイド共和国と戦争するのか? 大勢の人達を犠牲にして・・・・? 」

「大儀を成す為には、多少の犠牲は矢無負えん。 お前も、教皇陛下の”奇跡”を授かれば、私の気持ちが分かる。」

 

父親の口から”奇跡”という言葉を聞いた刹那、ネロは信じられないと言った表情で目の前にいるクレドを見つめた。

 

”奇跡”・・・・? ”奇跡”って一体何だよ?

もしかして、悪魔(バケモノ)になれって言ってるのか?

分からない・・・・何も分からない・・・。

目の前に居る、父親の言っている意味が理解出来ない。

本当に、この男は、自分に”誇り高き騎士道”を解いた心優しい父親なのだろうか?

 

急に口を閉ざし、下へと俯く義理の息子。

そんなネロを暫く眺めていたクレドは、何かを諦めたのか、徐に立ち上がった。

 

 

 

 

深い森の中に響く、刃同士がぶつかり合う耳障りな音。

橙色の火花が散り、二つの影が微妙な間合いを取りながら対峙する。

 

「三太・・・頼むから抵抗しないでくれ! 俺はお前や月子を傷付けたくない!」

「甘いよなぁ・・・・・十二夜叉大将(殺し屋部隊)に入ってから、何度も注意しただろ? そんな甘い考えを持ってると死ぬってさ。」

 

未だに親友と戦う事を躊躇うナナシに、情け容赦無く百地三太夫が攻撃を繰り出す。

やや反り返った小刀から、発生される真空刃(ソニックブレード)。

何とか致命傷は避けたが、右肩と左太腿を切り裂かれ、地面に鮮血が飛び散る。

 

「どうした? お得意の魔法を使ってみろよ? 」

「三太・・・。」

 

左脚に走る激痛に立っていられなくなり、ガックリとその場で片膝を付く。

流れ出る血で、白く積もった雪が真っ赤に染まる。

呪術帯で覆われた唇を、ナナシは悔し気に噛み締めた。

 

「非力なお前が、俺達、剣士(ナイト)に唯一対抗出来るのが、体術と魔法の併用だ。見た所、番の玄武もいないみたいだしな・・・ダラダラ時間を掛けてちゃ、お前が不利だろ? 」

 

三太が指摘する通りであった。

ナナシは典型的な『魔力特化型』の悪魔召喚術師である。

”魔力の大喰らい”であるナナシは、番がいなければ本来の力を発揮出来ない他、最悪、魔力切れで動けなくなる可能性すらある。

戦闘を長引かせるのは、ナナシにとって不利である事は明白。

ならば、魔法の多重発動&体術で短時間で三太を仕留める必要がある。

 

「・・・・これが、最後通告だ・・・・”16代目の御息女”を返せ。」

「ハッ・・・・又それかよ・・・・お前って本当に馬鹿が付く程、お人好しなんだなぁ。」

 

血塗れ、動けぬ親友を侮蔑を含んだ視線で見下ろす。

 

何処までも、人間としての甘さを捨てきれないかつての番(あいぼう)。

しかし、だからこそ憎み切れない自分がそこに居た。

 

反り返った小刀を構え、狙いを友の細い首へと定める。

いくら同じ釜の飯を喰い、お互い生き抜こうと励まし合った親友でも譲れぬモノはある。

今、此処で、友に討たれてしまったら、彼女を・・・・愛する女性とその腹の中に宿る赤ん坊を護る事は出来ない。

 

口内で友への謝罪の言葉を呟き、思い切り地面を蹴る。

大丈夫、一瞬で終わらせてやる。

苦痛など一切感じさせる事はしない。

 

だが、そんな三太の表情が、驚愕に歪んだ。

見ると地面から突き出した氷の槍が、己の腹を抉っている。

幾度も伸びる鋭い凍てつく槍。

肩が、両脚が、胸が、腕が、次々と貫かれていく。

飛び散る血飛沫。

霞む視界の中、三太が見たモノは、地面に描かれた魔法陣に右掌を付くナナシの姿だった。

 

「へっ・・・・やれば出来るじゃねぇか・・・・化け物。」

 

どうやら、自分はまんまと敵の罠にハマってしまったらしい。

見ると、三太が立っている足元に、呪式が刻まれた棒手裏剣が突き刺さっていた。

ナナシは、予め、氷の術式が組まれた棒手裏剣を地面に突き刺し、三太をそこへ巧みに誘導したのだ。

 

口から大量の血を吐く三太。

氷の槍が半ばから折れ、力無く雪が積もった地面へと倒れる。

 

「三太・・・・・。」

 

こんな結果を望んではいなかった。

本心を言えば、彼等二人を『葛城の森』から逃がしてやりたかった。

しかし、師である16代目の事を考えるとソレが出来なかった。

ライドウの血筋を・・・・・『神上げ』の血を絶やす訳にはいかない。

 

「いやぁあああああああああ!! 」

 

痛む身体に鞭打ち、何とか立ち上がろうとするナナシの耳に、少女の悲鳴が聞こえた。

見ると、叢(くさむら)から15・6歳ぐらいの少女が出て来る。

16代目・葛葉ライドウの愛娘・・・・月子だ。

 

「サンタ!サンタ!! 急に眼が見えなくなったよ! 」

 

まるで暗闇を歩く様に、細い両腕を前へと突き出し、覚束ない足取りで三太夫の姿を探す。

 

彼女は、先天盲(せんてんもう)である彼女は、強い『稀人(まれびと)』の血を持っており、その優れた精神感応力を使って、他者の目を借りる事が出来る。

どうやら、一緒に『葛城の里』から出奔した三太夫(さたゆう)の目を借りていたらしい。

彼が死亡した事により、視界が奪われてしまったのだ。

恐慌をきたし、泣き叫びながら愛する男を探す少女の姿に、ナナシは言葉を失い呆然と眺めるより他に術が無かった。

 




今回はちこっと短め。
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