偽典・女神転生~フォルトゥナ編~ 作:tomoko86355
魔神・カルキ・・・・ヴィシュヌ神が持つ10番目の分身体。
その意味は、「永遠」「時間」又は「汚物を破壊する者」と言われている。
神話では、白馬に乗った英雄として伝えられているが、作中では、馬の様な四つ足を持った怪物として登場している。
魔剣教団本部前、”ミティスの森”。
その森の一区画に聳(そび)え立つ巨大な石柱・・・・地獄門(ヘルズゲート)。
高層ビルを連想させる黒い墓石には、幾何学模様の古代”ルーン文字”が刻まれ、そこから異界の怪物達が、次々と這い出して来る。
「ちぃ! これじゃ地獄門(ヘルズゲート)に近づけねぇ!! 」
ヴァチカンの科学技術部が開発した二足歩行ロボット兵器、タクティカル・アーマーに乗り込んだ『ドミニオンズ』部隊のブラボー・チームリーダー、ヒメネスが、思わず舌打ちをする。
最新鋭の戦闘機材を装備したヒメネス率いるアーマー部隊は、地獄門(ヘルズゲート)から吐き出される悪魔の群によって、その進路を大きく阻まれていた。
中級・下級からなる烏合の衆にしか過ぎないが、いかせん数が多すぎる。
対悪魔用の特殊合金で造られた厚い装甲のお陰で、致命的なダメージは受けずに済んでいるものの、この物量の前では、いずれ圧し潰されてしまうだろう。
「うわぁ!! 」
その時、ヒメネスが付けているインカムに、部下の悲鳴が聞こえた。
見ると、数体のタクティカル・アーマーが、悪魔の集団に圧し掛かられ、横倒しにされたり、重量に耐え切れず、片膝を付いている。
「糞ぉ! 何が最新鋭のパワード・スーツだよ! 餓鬼が乗ってちゃ意味ねぇだろうが!」
崩れた右翼をサポートする為、部下の一人に左翼を任せたヒメネスが、悪態を吐きつつ其方へと向かう。
この部隊の大半は、士官学校を卒業したばかりの新人達で構成されていた。
所謂(いわゆる)、上流階級の坊ちゃん達ばかりであり、兵役中に家名の武勲を上げるという、実に下らない理由で入隊した餓鬼共である。
ヒメネスが、右翼と合流するよりも早く、光学迷彩を纏った何者かが、無数の悪魔に圧し掛かられている機体の一機を救った。
右手に持つ”スラッシャー・ウィツプ”を手足の様に操り、悪魔達を薙ぎ払っていく。
「いよぉ♪ 随分、苦労しているみたいだな? ヒメネス。」
ヴァチカンが使用している特殊回線に、何者かが割り込んで来た。
相手は勿論、部隊の危機に助太刀したドルイド族の戦士だ。
「そのムカつく声は、ボーグか。」
相手が知人であると知り、思わずヒメネスの口元に皮肉な笑みが浮かぶ。
「これで貸しがまた一つ増えたな。」
「馬鹿言え、リビアじゃ何度もお前を助けてやったろうが! 」
光学迷彩を解除した仮面の大男と、悪態を吐き合いつつ、背中合わせに立つ。
「何時、泣く子も黙るサイェレット・マトカル(イスラエル国防軍)出身のお前が、保育園の園長なんかやる事になったんだぁ? 」
「頭がお花畑な上からの命令だ。うちの女王様は嫌だと言ったんだが、どうしてもと押し切られてよ。」
陸軍士官学校を卒業したばかりのヒヨッコ共を押し付けられ、相当フラストレーションが溜まっているらしい。
確かに、ヒメネスが嘆くのも道理で、彼等の動きは酷いの一言につきた。
最新式のタクティカル・アーマーを装備していても、操縦しているのが素人に毛が生えた程度の連中では、その優秀な性能を溝に捨てているのと全く同じだ。
「ま、今更文句言っても仕方がねぇよなぁ。」
ブツブツと愚痴を零すヒメネスを他所に、ボーグは腰に吊るしてある長い筒状のカプセルを一つ取り出した。
開閉のスイッチを押すと、マグネタイト独特の緑色の光が溢れ出す。
瞬く間に、光は漆黒のアタッシュケースへと姿を変えた。
「・・・・・? 魔具(デビルアーツ)? 」
「ホレ、他所見している暇はねぇぞ? 」
ボーグの指摘通り、巨大な地獄門(ヘルズゲート)から、新たな悪魔が姿を現した。
でっぷりと太った醜悪な姿の牛蛙・・・・邪龍・ダゴンだ。
数十体はいるであろう牛蛙の群は、口から汚水を吐き散らしながら、地獄の門から次々に現世へと実体化していく。
正に悪夢の様な光景であった。
「勘弁してくれよ・・・。」
流石に、新人ばかりで編成されたこの部隊で、上級悪魔の軍団を相手にするには無理があり過ぎる。
しかし、そんなヒメネスの隣に立つドルイド族の戦士は、まるで意に介している様子は無かった。
鼻歌交じりに漆黒のアタッシュケースを頭上へと翳す。
するとケースが眩く光り、巨大なロケットランチャーへと姿を変えた。
「先ずは、キツイボディブローをぶちかます。」
ロケットランチャーから発射されるミサイル。
醜悪な牛蛙の群がいる丁度中央へとミサイルが着弾し、大爆発が起こった。
爆風により、空高くへと舞い上がる肉の群。
再び、ボーグの持つ魔具が光輝く。
すると今度は、四方に鋭い刃を付けたブーメランへと姿を変えた。
「次は、ミンチの刑だ。」
マスクの下で皮肉な笑みを浮かべたボーグが、ブーメラン形態へと変化した魔具を投擲。
凶悪な刃を備えた魔具が、高速回転しながら、宙へと打ち上げられたダゴンの群を切り裂いていく。
「そして、最後はド派手に決める。 」
手元に戻って来たブーメラン状の魔具が、再びアタッシュケース状へと戻る。
ボーグが、ケースを背負うと再び形態が変化。
今度は、四方に砲台を備えた移動兵器に姿を変える。
「何なんだよ? その魔具(デビルアーツ)? 」
「へっ!イカスだろ? 周囲の状況によって形態を変化させる魔具(デビルアーツ)、パンドラ様だよ。」
傍らにいるヒメネスに説明しつつ、ボーグはレバーを引く。
すると、四方に装備されている砲台から、小型のミサイルが発射された。
寸分違わぬ正確さで、魔具”パンドラ”から吐き出された小型ミサイルが、切り刻まれたダゴンの群と、その後ろにある巨大な地獄門(ヘルズゲート)へと着弾。
大爆発が巻き起こり、爆風と土煙が周囲を覆い隠した。
轟音と共に崩れる巨大な柱―地獄門(ヘルズゲート)。
白亜の巨人の上に立つ、豪奢な司教の祭服を纏うフォルトゥナ公国、教皇・サンクトゥスは、驚嘆の思いで凝視していた。
「ば、馬鹿な・・・・何故、地獄門(ヘルズゲート)が破壊された? オイレは?グロリアの奴は一体何をしている!? 」
全般の信頼を寄せる魔剣教団の幹部達。
しかし、どういった訳か、彼等と全く連絡が取れない。
一方的に有利だった戦況が、糸も容易く覆り、焦りと恐怖で老獪の額から嫌な汗が流れ落ちた。
『あの自衛官なら、とっとと逃げちまったぜ? それと、アグナスって頭のイカレた科学者は異端審問官にぶっ殺されちまった・・・もう少し役に立つかと思ったんだけどな。』
「く・・・黒井慎二か・・・!? 」
唐突に、右耳のインカムから、使役者の声が聞こえた。
大分、ノイズ交じりではあるが忘れ様も無い。
東京都の千代田区にある神田神社で、眠っていた自分を無理矢理起こし、強引に仲魔にした召喚術師(サマナー)であった。
「グロリアだっけ? あの女は最初から裏切る事は分かっていたからな・・・魔剣教団の騎士団長は、馬鹿正直に突っ込んで異端審問官にやられちまったから、残りはお前一人って訳だ。」
フォルトゥナ城、地下実験棟の最下層・・・魔剣の間、そこにある制御室に15・6歳ぐらいの少年が、壁全体に設置された無数の監視モニターの前に陣取って椅子に座っていた。
黒のマウンテンパーカーに、同色のニューエラのキャップを被っている。
肩には、邪鬼・グレムリンがケタケタと笑いながら座っていた。
「頑張れよぉ? スクナビコナ。 その悪趣味なヴァチカンの船をぶっ壊したら、特別報酬を払ってくれるってクライアントが言ってるからな。」
制御パネルに両足を投げ出し、だらしなく座る少年が、目の前に映し出される3D映像を眺めながら、皮肉気に笑う。
空中に展開される数々の映像には、ヴァチカンの艦隊と激戦を繰り広げる魔剣教団の姿がリアルタイムで映されていた。
『コッチは粗方、掃除が終わったわよ? チャーリー。』
無造作に制御パネルに置かれているスマートフォンから、白川由美の声が聞こえた。
由美と玲子は現在、フォルトゥナ城にある資料展覧室に忍び込んでいる。
慣れた手付きで、電子キーボードを操作し、二人がいる展覧室に映像を切り替える。
すると、護衛役として残していたビアンゴアンジェロ達の無残な姿と、そこに立つ由美と玲子の二人が映った。
「さっさとセキュリティーを解除して、もたもたしてるとディヴァイド共和国の特殊部隊が来ちゃうわ。」
まだ生きているのか、由美の足元で倒れている鎧の悪魔が上半身を起こす。
その頭部が、突然、吹き飛んだ。
額には、玲子が放った光の矢が半ばまで刺さっている。
『了解、3秒だけ待ってくれ。 』
由美の持つスマホ越しから、何処か上機嫌なチャーリーの返事が返って来た。
フォルトゥナ公国の市民と観光客と共に、市街地のシェルターに居た彼等は、現在、観光スポットの一つであるフォルトゥナ城へと移動している。
目的は、資料展覧室に隠されている部屋、”宝物庫”の中にある”モノ”を手に入れる為だ。
数秒後、チャーリーの言葉通り、壁に設置された本棚が、重い音と共に横へとずれた。
そこから人一人分が通れる小さな扉が、姿を現す。
『おい、偉出夫の姿が見えないけど、一体何処へ行きやがった? 』
室内に、由美と玲子の二人しか見えない事にチャーリーが不審に思ったのか、そう問いかける。
「偉出夫なら、魔剣教団本部に向かいました。 もっと”ショー”を良く見たいと言って。」
『はぁ? マジかよ・・・なるべく、他の連中に俺等の姿を見られるなと言ったのは、アイツなんだぞ。』
「ぎゃーぎゃー騒がないでよ。 偉出夫には偉出夫なりの考えがあるんでしょ。」
呆れるチャーリーに肩を竦めた由美が、扉を潜り宝物庫の中へと入る。
するとそこには、何かの研究機材と幾つものPC、そして簡易な机と椅子。
壁には冷凍保存機が数台、設置されていた。
由美は、その冷凍保存機の一台に歩み寄る。
慣れた手付きで開閉する為の暗証番号を保存機のパネルに打ち込むと、冷却装置から発生される冷気と共に鉄のカバーが開く。
その中には、幾つかのカプセルが収まっており、由美はその中の一つを取り出した。
「ふうん、これが噂の”クリフォトの種籾”ってヤツね。」
ラグビーボール大の透明カプセルの中には、醜悪な姿をした魔界樹の種が、培養液に浸かっていた。
此処の研究責任者は、この魔界樹の種から抽出される樹液を使って、魔薬を造り出していたらしい。
「それじゃ、貰うものは貰ったから、さっさと帰りましょうかね? 」
「ですね。」
同じ様に保存機の中にあったマグネタイトを大きなリュックサックに仕舞った玲子が、重そうに背負って立ち上がる。
その肩には、大型の弓から悪魔形態へと戻った夜魔・モコイが乗っていた。
魔剣教団本部前、フォルトゥナ上空。
偽神の周辺を取り囲む様にして浮遊する足場の一つに、銀の髪と真紅の長外套(ロングコート)を纏う巨漢の男と、漆黒のカソックに異端審問官を表す真紅のストラを両肩に垂らした少年が対峙していた。
「聞こえないんですかぁ? さっさと下級悪魔を排除しに行けって言ってんですよぉ? 」
巨大な大鎌―”アダマスの鎌”を右手に持つ銀髪の少年が、呆れた様子で数歩離れた位置に立つ男に言った。
「悪いがな?坊や、お前と問答している暇はねぇ・・・とっととママの所へ帰りな。」
ダンテは、何時もの傲岸不遜な態度を一切崩す事はしなかった。
相手が、世界最強の金持ち一族だろうが、階級が遥かに高い人間だろうが関係ない。
それに、大人を完全に舐め腐ったその態度が気に入らなかった。
「そうですか・・・じゃぁ、死んで下さい。」
一向に従う素振りを見せないダンテに、気の短いアレフは、あっさりと強制排除に移った。
”アダマスの鎌”に闘気を込め、音速の速さで斬撃を繰り出す。
無数に襲い掛かる真空の刃(ソニックブレード)。
それを”トリックスター”で躱そうとするが、斬撃から発生する衝撃波が、ダンテの躰を情け容赦無く叩いた。
(糞!この餓鬼、本当に人間か? )
大剣・リベリオンを盾代わりにするが、威力を軽減するまでには至らない。
一撃、一撃が馬鹿みたいに重い。
まるで、大砲の弾をぶち当てられている様な気分だ。
刹那、背後から凄まじい殺気を感じた。
激しくぶつかり合う大鎌の刃と大剣の刃。
橙色の火花が散り、浮遊する足場の地面が大きく陥没する。
「へぇ、予想通り、貴方も悪魔でしたか。」
「・・・・・っ、この糞餓鬼! 」
条件反射でアレフの繰り出す斬撃を受け止めたが、その時、本能で魔人化もしていた。
それ程までの実力を、この年端もいかない少年は持っているのである。
大剣『リベリオン』を握り直し、裂帛(れっぱく)の気合と共に、自分より遥かに小さい体躯をした少年を振り払う。
宙で華麗にトンボを切るアレフ。
銀髪の少年が地面に着地するよりも速く、ダンテが魔力を刀身に込め、必殺の真空斬り(ソニックブレード)を放つ。
しかし、その真紅の刃が異端審問官の少年を両断する事は叶わなかった。
アレフの躰を護る様に、障壁が現れ、ダンテの放った斬撃を弾き返す。
物理反射防壁魔法(テトラカーン)だ。
舌打ちし、真横に跳んでダンテが躱す。
その四方を取り囲むかの様にして、無数の蒼い魔法陣が急速展開。
鋭い刃を持つ氷の槍が、まるでガトリング砲の如く吐き出される。
氷結系中級魔法・・・・マハ・ブフーラだ。
(魔法の多重発動だと? )
咄嗟に、双子の巨銃”エボニー&アイボリー”を脇のホルスターから引き抜き、襲い掛かる凶悪な氷の刃を弾丸で次々と砕いていく。
しかし、撃ち洩らした数本の凍てつく槍が、ダンテの脇腹と右大腿部を大きく抉った。
「ぐぁああああっ!! 」
鮮血が飛び散り、石畳の床を真っ赤に染める。
立っている事が叶わず片膝を付くダンテ。
その姿を、アレフが口元に冷笑を浮かべて眺める。
「だから言ったのに・・・・・素直に従わない貴方が悪いんだ。」
階級も上ならば、実力も当然、自分の方が遥かに上。
見た所、剣豪(シュヴェアトケンプファー)級の実力者らしいが、天賦の才を持つ自分の足元にすらも及ばない。
アレフの冷酷に光る蒼い双眸が、片膝を付く血塗れの魔人から、その背後にいる白亜の巨人へと移った。
何時までも、こんな所で無駄に時間を潰している暇は無かった。
早く愛しの姫君を救いに行かねば、醜悪な魔物に喰われてしまう。
一方のダンテ。
抉り取られた箇所から夥しい血が流れ落ち、地面に血の水溜りを作る。
悪魔の持つ再生能力により、脇腹と右大腿部の傷は塞がりつつあるが、また同じ攻撃を喰らえば、いくらタフが売りのダンテでも無事では済まない。
「どうするんだよ? ダンテ。 あの餓鬼、滅茶苦茶強すぎるぞ? 」
アラストルの言う通り、ダンテとアレフの実力差は歴然としていた。
剣豪(シュヴェアトケンプファー)を超える剣技に、ライドウと同じ魔法の多重発動。
降臨の間、3階で対峙した坂本晋平二等陸佐と、ほぼ同クラスの実力者である事は間違いないだろう。
「へっ・・・・だが、あの自衛官のオッサンよりかはやり易い。」
出血は何とか止まったものの、腹と大腿部の傷は未だに塞がりきれてはいない。
派手に大立ち回りをすれば、傷口が開いてしまうだろう。
立ち上がり、大剣『リベリオン』を構える。
アレフが『初陣だ。』と言っていたが、その通り、ダンテの眼から見ても動きに甘さが目立つ。
自分の方が実力があるという驕(おご)りが、そのまま態度に現れているのだ。
追撃をするべきタイミングにソレをせず、引くべき所を引かない。
その経験の未熟さを突けば、必ず勝機は見える。
「・・・・・っ!? 」
不図、巨大な魔力の塊が此方に急接近して来るのを感じた。
弾かれた様に其方を振り向く、ダンテとアレフ。
と、突然、巨大な魔力の塊が、銀髪の異端審問官に襲い掛かった。
ネロの魔力の残滓(ざんし)を辿り、ハイピクシーのマベルは、魔剣教団の悪魔軍団とヴァチカンの機械歩兵部隊が激しくぶつかり合う戦火の最中を飛ぶ。
すると、視界に見知った姿を見つけた。
「ネロ! 」
魔剣教団の若き騎士、ネロだ。
マベルが其方へ近づくと、無残な光景が視界に飛び込み、思わず言葉を失う。
ネロのすぐ傍に、変わり果てた姿となったクレドを見たからだ。
純白の騎士団長の礼服は、鮮血で真っ赤に染まり、胸から右の肩口に掛けて切り裂かれている。
最早助からないであろう事は、一目で分かった。
「・・・・? マベル? 父さんが・・・・・父さんが・・・。」
自分の傍らへと近づく気配を感じ、ネロが泣き濡れた顔を上げる。
必死に出血を止めようとしたのか、その両腕は義理父の血で真っ赤に染まっていた。
「ネロ・・・・落ち着いて・・・。」
今のネロはとても危険な状態だ。
大事な家族を失い錯乱状態になっている。
下手をすれば、折角、”閻魔刀”で封じているアムトゥジキアスの力を解放し兼ねない。
マベルは、懸命に言葉を選び、少年をなるべく刺激しない様に務める。
血塗れ、最早虫の息であるクレドへと近づき、改めて状態を確かめる。
悪魔の弱点である心臓は、自己再生不可能な程、破壊されていた。
この状態では、再生魔法(サマリカーム)を唱えても、助かる見込みは無いだろう。
「ま・・・マベルか・・・・? 」
せめて苦痛を和らげようと、治癒魔法を施す小さな妖精の魔力を感じ取ったクレドが、薄っすらと閉じていた双眸を開く。
「す・・・すまない・・・私は、君の大事な主を・・・・。」
そこまで言い掛けたクレドが、咳き込み大量に吐血する。
「く、クレド! お願いだから喋らないで!! 」
相当、肺に血が溜っているのだろう。
泡の混じった血が大量に吐き出され、純白の礼服を真っ赤に染めていく。
「す、全ては・・・・私の責任だ・・・・つまらぬ復讐心と嫉妬に目が眩み・・・大事な友を生贄に捧げてしまった・・・・。」
死を目前にして、クレドは漸く人の心を取り戻したのだろう。
邪気が取り払われ、かつての心優しい一人の男へと戻っている。
「ね・・・ネロ・・・・お、お前に伝えなければならない事が・・・・。」
「と、父さん・・・・? 」
「お前の実の父・・・・ヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーは、生きている・・・ら、ライドウを・・・・彼を助けるんだ・・・お前の父は、必ず彼の所に・・・。」
それがクレドの最期の言葉となった。
双眸から命の灯が消え、がっくりと首が後ろへと仰け反る。
実体化が保てず、光の粒子へと変わる父親の肉体。
ネロの腕の中に居た父は、影も形すらも残さず、光となって消えて行った。
魔剣教団本部前、フォルトゥナ上空。
怒りの咆哮を上げ、鬼神と化したネロが、右手に持つ魔具”閻魔刀”を銀髪の異端審問官へと振り下ろす。
それを神器”アダマスの鎌”で受け止めるアレフ。
しかし、その勢いを殺す事が叶わず、後方へと吹き飛ばされる。
「一体、何が起きていやがるんだ? 」
鍔迫(つばぜ)り合いの状態のまま、浮遊する足場から落下し、消えていく二人の少年の姿をダンテは暫し、呆然と眺める。
邪魔な障害を排除してくれたのは有難いが、何だか消化不良になってしまった気分だ。
「ダンテ! 」
「チビ助か? 」
続いて銀髪の魔狩人の前に姿を現したのは、小さな妖精であった。
必死に、蒼い魔神を背後に従える銀髪の少年を追い掛けて来たのだろう。
息が乱れ、疲労困憊といった様子であった。
「忍者野郎は一体どうした? それと、あの餓鬼は一体何者だ? 」
「せ、説明は後! それより、一刻も早くあのデカブツの中からライドウを引きずり出さないと大変な事に・・・・。」
そう、マベルが言い掛けた時であった。
ダンテの背後・・・・数メートル離れた先で、ヴァチカンの空中要塞と激しい戦闘を繰り広げていた白亜の巨人に変化が起こる。
閉じられていた偽神の両眼が開き、突如苦しみだす。
躰に走る無数の罅。
ボロボロと石膏(せっこう)が崩れ落ち、その下からどす黒い皮膚が姿を現す。
両肩から突き出す鋭角的な突起物。
秀麗な顔も剥がれ落ち、そこから三つの眼と鋭い嘴(くちばし)、そして額と蟀谷(こめかみ)から雄々しき角が生える。
「なっ・・・・何だよ? ありゃぁ・・・・? 」
フォルトゥナ上空の大気を大きく震わせる程の咆哮を放つ四つ足の怪物。
かつて、魔剣教団が崇めた神の変わり果てた姿に、ダンテは低く呻いた。
「ま、魔神・カルキ・・・・ライドウが完全に邪神・アバトンと融合したのよ。」
一番、恐れていた事態になってしまった。
偽神の体内に寄生していた邪神・アバトンは、その心臓の贄として捧げられた悪魔使いを完全に取り込み、更なる進化を遂げたのである。
「ふぅん・・・・あれが魔神・ヴィシュヌが持つアヴァターラ(分身)の一つか。」
魔剣教団本部前、ミティスの森にある”捨てられし教会”の一区画。
そこに蹲るキメラシードの一体に腰を下ろした一人の少年が、目の前に浮かぶホログラフィーの映像を眺めていた。
周囲には、無数の悪魔達が、少年を中心に集まり、皆傅(かしず)いている。
優雅に組んでいた脚を組み替え、狭間偉出夫は、思案気に形の整った顎に指を当てた。
「貴方は、この”祭り”に参加しないんですか? 」
リアルタイムで映し出されているホログラフィーから視線を外すと、偉出夫は柱の陰に声を掛けた。
「悪いが、乱痴気騒ぎに興味は無い。」
陰・・・・頭の頭頂部から顔全体に包帯を巻いた男、ジャン・ダー・ブリンデは、エナメル質のアタッシュケースを足元に置き、柱に背を預けていた。
「此処は貴方の故郷だ・・・・何か思う所は無いんですか? 」
素っ気なく返す包帯男に、偉出夫は呆れた様子で溜息を一つ吐く。
「私には、悪夢でしかない・・・・それより、君の御友人達は何時、此処に来るのかな? 」
「やれやれ・・・・せっかちな人だな。」
偉出夫は、大袈裟に肩を竦めると、ホログラフィーの映像を仲間の居るフォルトゥナ城へと切り替えた。
ライドウが目を覚ますと、視界に薄汚れ、所々罅の入った天井が映った。
背にシーツの感触。
僅かに身体を動かすと、激痛が脳天を貫いた。
「此処は・・・・・? 」
身体中に巻かれた白い包帯。
どうやら、自分はベッドの上に寝かされているらしい。
スプリングがロクに効かない質素な寝具に、硬いベッドマット。
全身を襲う苦痛に呻きながら上半身を起こす。
物があまり置かれていない寝室・・・・何処かで見た事がある光景だった。
「糞っ・・・・また、夢の中に引きずり込まれたか・・・。」
己の不甲斐なさに舌打ちする。
全身に巻かれた包帯以外、何も着衣を身に着けてはいなかった。
寝ていたベッドから降りようと、素足をフローリングの床へと降ろす。
すると、寝室のドアが開き、中からバスタオルを頭に被った大男が入って来た。
「はぁ・・・・全く、タフな爺さんだぜ。」
「ダンテ・・・・・? 」
バスタオルを頭から被り、何も着ていない上半身に、下にはビンテージジーンズ。
見事に鍛え上げられた上半身には、無駄な筋肉など一切無かった。
呆れた様子で溜息を零すダンテは、濡れた躰を乱暴に拭いつつ、ライドウが寝ているベッドに腰を下ろす。
痛む躰を引きずり、ベッドから降りようとするライドウ。
その包帯が巻かれた腕を、ダンテが無遠慮に掴み、再びベッドの上へと引き戻す。
「・・・・っ! 離せ! 俺はこんな所に居る訳には・・・・・っ!! 」
「大事なお友達なら死んだぜ? 」
「・・・・!!? 」
自分を組み敷く男の言葉に、ライドウの躰が固まる。
驚愕に右の隻眼を開き、自分の上に覆いかぶさる男の顔を見上げた。
「ついでに言うと、フォルトゥナ公国は戦争に負けて隣国のディヴァイド共和国に吸収された。 教皇のサンクトゥスも奴に従っていた国の上層部も・・・そこに住んでいた市民達の殆どが死んだ。」
「・・・・・嘘だ・・・・。」
自分の苦労は、全て徒労となって終わった。
友が命懸けで護ろうとした愛すべき祖国は、大国同士の薄汚い争いによって消滅してしまったのである。
「アンタ・・・・最初から分かってたんだろ? こういう結果になる事が。」
酷薄な笑みを浮かべる薄い唇が、ライドウの白い首筋へと埋まる。
ねっとりと舌を這わされ、その余りの嫌悪感にライドウが覆い被さる男の顔を打とうと拳を振り上げた。
しかし、不利な体勢から放たれる一撃が当たる筈も無く、男の丸太の様に太い腕によって、あっさりと阻まれてしまう。
「諦めろよ・・・・アンタは誰も護れやしない。」
「うぐっ!! 」
鋼の義手と一纏めにされ、頭上で縫い留められる。
男の力は恐ろしい程、強く、華奢な悪魔使いの躰では、跳ね飛ばす事すらも叶わなかった。
「離せ!! この下種野郎!! 」
「ハハッ、 その下種野郎に半年間も好き勝手させてたのは何処のどいつだ? 」
空いている男の手が、ライドウの引き締まった臀部を撫でる。
太い指が無遠慮に秘部へと触れた。
「・・・・・っ!! 」
「男に抱かれるのは慣れてるんだろ? 何時までも生娘みたいな反応するなよ。」
硬く閉まった秘部をマッサージする様に撫でる。
予想外に優しい男の手腕に、ライドウは悔し気に唇を噛み締めた。
「俺を拒絶するのは、ヨハンって野郎への操を立てているからか? 」
耳元で囁かれる残酷な言葉。
抵抗する術を全て奪われたライドウが、隻眼を薄く開き、己に覆い被さる男を睨む。
「俺はソイツの代わりだったんだろ? だから、大人しく抱かれた。」
「違う! 」
太い指が一本、体内へと侵入し、ライドウの躰が仰け反る。
傷だらけの躰に、ダンテが舌を這わせた。
「相変わらず臍曲がりだな・・・躰は、こんなにも素直だっていうのによ。」
「・・・・っ!黙れ!! 」
ダンテの指摘通り、ライドウの躰は既に反応を示し始めていた。
己の意思に反して、性器が固くなっていくのが分かる。
性感帯を知り尽くした太い指が、第二関節まで入り、前立腺をゴリゴリと刺激する。
「分かるか? 此処が、アンタの良い所だ。」
「ううっ!! 」
男に抱かれる事に慣れた躰が、あっさりと太い指を二本受け入れる。
悔しいのに・・・・。
心はこんなにも拒絶しているのに・・・快感を受け入れる己の躰が恨めしい。
ザシュ・・・・。
望まぬ快楽に悔し気に顔を歪め、唇を噛み締めるライドウの耳に、肉を断つ音が聞こえた。
顔に降り掛かる熱い液体。
固く閉じていた目を開くと、視界に喉を鋭利な刃物で刺し貫かれた銀髪の大男が映った。
驚愕にダンテの双眸が見開かれる。
「その汚い手で、俺っちの大事なご主人様を触ってんじゃねぇよ。」
刺し貫かれた喉から流れ落ちる夥しい鮮血で、顔を濡らしたライドウが、自分を組み敷く男の背後へと視線を移した。
ダンテの背後に覆い被さる様に立つ神父服の若い男。
ライドウの代理番、魔神・アラストルであった。
どうしても、最後にエロを入れたくなりました。