偽典・女神転生~フォルトゥナ編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

スコット・ゴードン・・・・1年前にキザフに出現したソロモン12柱の魔神の一人”堕天使パイモン”討伐の折、ダンテと同じ部隊にいた兵士。
討伐作戦の功績が認められ、USSFに移籍する事になった。
代々続く魔導師の家計であり、魔導の知識に明るく、医師免許を持っている。

リン・クロサワ・・・・USSF、13分隊隊長。
階級は中尉。 対悪魔用の強化人間であり、闘気術と合気道を武器に戦う。
クールな見た目と違い、頭の中身はメルヘンチック。
スカーを慕っており、彼の功績が記された記憶素子は穴が開く程繰り返し見ている。

ダッチ・シェーファー・・・・USSF司令官。
階級は、中将。
リンと同じく、対悪魔用の強化手術を受けている。
大変面倒見が良く、部下達からも慕われている。
また扱い辛い性格をした隊員達を上手く操縦する手腕も持っている。
USSFのオカン的存在。


第20話 『 銀の翼を持つ天使 』

その異変は、あまりにも唐突に始まった。

 

無駄と知りつつも、それでも時間稼ぎの為に砲撃を繰り返す巨大空中戦艦『アイアンメイデン』。

全てを拒絶する呪力の壁に阻まれ、電磁投射砲(レールガン)から放たれるレーザーが悉(ことごと)く弾かれていく。

 

「艦長! 呪力干渉結界が限界です! 船が持ちません! 」

「ぶ、ブラボーチームからの連絡が途絶えました! 」

 

絶望的な通信が、あちこちで飛び交う。

メインデッキ内は、蜂の巣を突いた様な状態であった。

 

「教授、最早限界です。 早急に”ロンギヌス”の使用許可を。」

 

巨大ディスプレイに映る魔神”カルキ”を睨み据えつつ、空中戦艦『アイアンメイデン』艦長、マウア・デネッガーは、ホログラフィに映る瓶底眼鏡の博士に言った。

 

『うーん、仕方ないこれ以上の・・・・。』

 

諦めたかの様に、化学技術開発局、総責任者である射場・流が言い掛けたその時であった。

対峙する魔神”カルキ”が突然、藻掻き苦しみだす。

躰が罅割れ、そこから眩い光が漏れる。

断末魔の如き咆哮を上げる”カルキ”。

その肉体が四散し、中から光の球体が姿を見せる。

 

 

 

「あれは・・・・・。」

 

ダンテの肩にしがみつく小さな妖精、マベルの双眸が驚きで見開かれた。

 

機械的光沢を持つ二つの巨大な翼。

重厚な鎧に身を包み、乙女の様な整った容姿に、金色の光を放つ輪を冠の様に頭上へと乗せている。

17代目・葛葉ライドウが持つ最上級悪魔(グレーターデーモン)の一人。

大天使・メタトロンである。

 

その場にいた全員が、声も無くその神々しき美しさに魅入られていた。

常に冷静で、滅多な事では感情を露わにしないダンテですら、その光景に目を奪われている。

まるで一枚の宗教画を見ている様な気分であった。

 

「ライドウっ! 」

 

マベルの声に、ダンテが漸く我を取り戻す。

見ると、純白の大天使の胸元に、小さな人影がいる。

真紅の呪術帯で口元を覆い、革の黒いバッファローレザーに同色のパンチングレザーを身に着けている。

左眼には蒼い炎が宿り、顔には蒼いラインが入った文様が浮かび出ていた。

 

 

「凄いね・・・・本物の天使だよ? 」

 

フォルトゥナ上空を跳ぶ、二機のタクティカルアーマー。

白い装甲の機兵に乗ったギメルが、七色に光る翼を広げた機械仕掛けの天使を眺める。

 

「天使・・・・あれが? 」

 

子供の様にはしゃぐギメルに反し、ダレスは何処か冷めた様子で、機械仕掛けの天使を見つめる。

彼女の中にある『天使』とは、中性的な美貌を持つ白い翼の生えた御使い達しか思い浮かばない。

故に、今、目の前に広がる光景を、ギメルの様に素直に受け入れられないでいた。

 

 

 

「ほう、大天使・メタトロンを召喚したのか。」

 

上質な黒い背広と高価なフェルトハットを被った紳士が、フォルトゥナ上空を漂う機械仕掛けの天使を見上げる。

永久機関である、魔具”アバトン”を使い、ライドウから魔神”ヴィシュヌ”を奪ったウィリアム・グリッグスである。

フォルトゥナ上空を舞う美しい機械仕掛けの天使を、老紳士は口元に微かな笑みを浮かべて眺めていた。

 

 

代理番である魔神・アラストルの力と己が内在する魔力全てを使い切り、最上級悪魔(グレーターデーモン)である大天使・メタトロンを召喚したライドウ。

大天使の力を借り、何とか亜空間から脱出する事が出来たが、彼等の体力と気力は既に限界値を越えていた。

特に代理番であるアラストルは酷く、悪魔本来の姿が保てず、小さな黒毛の蝙蝠へと変わっている。

意識を失い、小さな蝙蝠へと変わった番をライドウは、大事そうに両手で抱(いだ)く。

 

トクン、トクン、と規則正しい鼓動が両手から伝わる。

無理をさせてしまった。

辛うじて生きてはいるが、適切な措置をしなければ、いくら魔神であろうとも死んでしまう。

己自身、相当な深手を負っているにも関わらず、考える事は代理番の事でいっぱいであった。

痛む身体を何とか動かし、腰に吊るしてあるガンホルスターから、愛用のGUMPを取り出す。

蝶の羽の如く、液晶パネルを展開させると、『悪魔召喚プログラム』を機動させて、番であるアラストルをGUMPのストック内へと戻した。

それと同時に、大天使・メタトロンの神々しい姿が霧散する。

地面へと落下するライドウの華奢な躰。

意識が暗闇の中へと堕ち、遥か上空から真っ逆さまに地上へと落ちていく。

その身体を何者かが受け止めた。

魔人の姿となったダンテである。

小さな妖精・マベルの力を借り、落ちていくライドウのすぐ近くへと瞬間移動したダンテは、その逞しい腕で、自分より二回り以上小さな躰を抱き留める。

真紅の翼を広げ、上空を飛翔するダンテは、腕の中の想い人を見下ろした。

 

「ライドウ・・・・良かった。 」

 

魔人化したダンテの肩に座るマベルが、思わず涙ぐむ。

結果はどうあれ、ライドウとアラストルの二人は辛うじて生きている。

早く国連軍のキャンプに連れて行って、適切な治療を受けさせてやらなければならない。

 

 

同時刻、アルブム大橋。

硬い石畳の上に寝かされたネロは、微かな呻き声を上げて、閉じていた双眸をうっすらと開く。

視界の中に、自分を心配そうに見下ろす赤毛の若い男の姿が映った。

組織『クズノハ』の暗部・十二夜叉大将が一人、摩虎羅大将こと猿飛佐助である。

 

「良かった・・・やっとこさ起きてくれたよ。」

 

身体中を走る激痛に呻きながら起き上がるネロに、佐助は安堵の溜息を零す。

スカーからの通信で、麻酔薬で眠らされたネロを無理矢理押し付けられてしまったのだ。

周りには、未だに悪魔の群が、我が物顔で徘徊している。

流石に見捨てる気にもなれず、こうしてネロが目覚めるまで待っていたのであった。

 

「・・・・・糞・・・・畜生ぉおおおおおおお!! 」

 

置かれた状況が分からず、暫く混乱して黙っていたネロは、意識を失う最後の瞬間を思い出し、腹腔から湧き出る怒りのマグマを吐き出す。

悪魔の右腕”デビルブリンガー”を振り上げ、石畳を思い切り殴りつけた。

硬い石の床に幾つもの穴が穿たれる。

何度も何度も、己の中にある怒りをぶつけるかの様に、ネロは石畳を殴り続ける。

 

「ちょっ!ちょっと待ちなって! 橋を壊すつもり!? 」

 

殴る度にグラグラと揺れる橋を見た佐助が、流石に拙いと思ったのか、振り上げるネロの右腕を掴む。

どんな手品を使っているのか知らないが、掴まれた右腕がピクリとも動かない。

闘気術を使い、膂力を底上げしているのだ。

ネロが忌々しそうに赤毛の青年を睨み付ける。

 

「何があったか知らないけどさ、弱い事は別に恥でも何でも無いよ。」

「何ぃ? 」

「そのまんまの意味、昔のダチが口癖みたいに言ってたんだよ。 ”怒りを糧に必ず強くなる”ってね。」

「・・・・・。」

 

佐助の言葉を黙って聞くネロ。

未だ石畳の上に座り込む銀髪の少年を眺め、佐助は困った様子で頬を掻く。

 

スカーからネロを引き渡された状況を鑑みるに、恐らく、ヴァチカンの異端審問官達といざこざを起こしたのだろう。

彼の養父は、確か魔剣教団の騎士団長をしていた人物だった。

義理父が、異端審問官に殺害される現場を目撃し、それに逆上して襲い掛かった。

そう考えると、全ての辻褄が合う。

 

項垂れるネロの姿を眺め、佐助は大きな溜息を吐いた。

 

 

 

数時間後、フォルトゥナ公国、魔剣教団本部前。

国主であるサンクトゥスが討たれ、指示系統を全て失った魔剣教団は、全てヴァチカン13機関(イスカリオテ)の手によって征伐(せいばつ)された。

破壊された地獄門(ヘルズゲート)から実体化した悪魔の群は、僅かな数を残して滅せられ、残りの残党達は、散り散りとなって何処かへと逃げた。

時期に国連の要請を受けた狩人(ハンター)達が到着して、狩り尽くされるであろう。

 

意識を失ったライドウと番であるアラストルをIFRC(国際赤十字赤新月社連盟)が派遣した医療班へと渡すダンテ。

担架に運ばれ、装甲救急車へと乗せられる悪魔使いを無言で見送る。

隣国のディヴァイド共和国は、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)から多数の研究員が派遣されている。

そこに行けば、最先端の魔導医療措置を受ける事が出来るだろう。

 

「ダンテ・・・・? もしかしてダンテ伍長ですか? 」

 

国連軍が派遣したヘリや、装甲車が次々と現場に到着し、魔剣教団本部前は、忽(たちま)ち喧噪の中へと包まれる。

そんな中、誰かが銀髪の大男の背に声を掛けて来た。

振り返ると黒の防弾ベストに同色のズボン。

革のブーツに、肩にはUSSF(アメリカ陸軍特殊部隊)のワッペンが縫い付けられたシャツを着る20代半ばぐらいの青年が立っていた。

 

「ゴードン・・・・・? 」

 

青年の顔には見覚えがある。

今から丁度一年前、アフガニスタンのキザフで出現した”ソロモン十二柱の魔神”の一人、堕天使”パイモン”討伐の折、同じ部隊に居たのがこの青年、スコット・ゴードンであった。

彼は、由緒正しき魔術師(ソーサラー)の血族であり、主に魔道医師(ドクター)を専門にしていた。

礼儀正しく、実直で、温厚な人物である。

 

「どうして此処に? 軍を除隊した後は、レッドグレイブ市で便利屋をすると言ってたじゃないですか? 」

「仕事だ。 ブラウン大佐の依頼でな。」

 

久し振りに再会したかつての仲間に、ダンテの口元に自然に笑みの形が出来る。

このゴードンという男。

一見するとひ弱で軟弱なイメージに見られがちだが、実際は、結構肝が据わっており、タフな神経をしている。

魔術師の家柄という事もあり、魔導にも知識が明るく、パイモン討伐時では、それで結構助けられた。

 

「USSFに入ったんだな。」

「はい、キザフでの功績が認められて・・・僕の他に、バスクエスとハドソンもUSSFに入隊しました。 」

「懐かしいな・・・二人共元気にしてるか? 」

「はい、今は二人共別の任務についていますが・・・・・。」

 

ウィリアム・ハドソンとジェニット・バスクエスも、キザフの作戦で同じ部隊にいた人間だ。

共に銃剣使い(ベヨネッタ)の資格を持っており、特にハドソンは手先の器用さから、工兵としても優秀である。

 

「・・・・やっぱり、USSFに入るつもりは無いんですか? 」

「ゴードン? 」

「無理なのは十分分かっています・・・でも、隊長が、USSF(うち)に来てくれたら、あの二人も喜ぶし・・・・・デルタフォースや他の特殊部隊に行った仲間の士気も高まると思うんです。」

「・・・・・。」

 

ゴードンは、誰よりもダンテの秘められた才能を買っている。

否、今も何処かで悪魔と戦っているかつての仲間達は、彼と同じ気持ちなのかもしれない。

一介の、薄汚い街角の便利屋に納まっているには惜しいと思っているのだ。

 

「俺は、軍に戻るつもりは無い。」

「隊長・・・。」

「すまねぇ・・・・お前等の事は大事だし、隊の連中を一度だって忘れた事はねぇ・・・だがよぉ・・・どーにも軍の水ってのが俺には合わなくてな。」

「・・・・・。」

 

規律や国に対する忠誠心等、ダンテにとっては煩わしい以外の何者でも無い。

それは、ギザフの作戦で、共に戦ったゴードン自身が良く知っている。

 

「ちょっと、スコット? 貴方、医療班の責任者でしょ? もうすぐミーティングが始まるわよ? 」

 

気まずい空気が二人の間に流れる中、同じUSSF隊員と思われる女性が近づいた。

第13分隊隊長、リン・クロサワ中尉だ。

元海兵隊特殊対応チーム(SRT)出身で、全身に機械的サポートを施された強化兵士である。

 

「同じチーム(班)の連中が、貴方を探していたわよ? 」

「ご、御免。すぐ行く。 」

 

ゴードンは、かつての上司に一礼すると、踵を返して医療班がいる方向へと走って行った。

後に残されるダンテとリン。

 

「スコットの奴に、USSF(うち)に入ってくれって言われたんでしょ? 」

「・・・・・ああ、俺が軍に戻れば、仲間のやる気が出るとか言ってたな。」

 

医療班の仲間と合流するゴードンの背中を眺めながら、リンが困った様子で腰に手を当てた。

 

「貴方も知ってると思うけど、この仕事をしてると日常生活に中々適合出来なくなる。例え一般人に戻れたとしても、すぐ此方側の世界に帰って来るわ。」

 

生まれた時から特殊能力を持っている人間は、普通の人間との違いに激しい葛藤を覚える。

自分は、普通の人間ではない。

異質な存在なのだと、恐怖にも似た気持ちを持つのだ。

かつてダンテが所属していた部隊も、その殆どが特殊能力を持った連中で構成され、過去に一般生活に適合出来ず、深いトラウマを持つ者達ばかりであった。

 

「彼等は仲間意識が強いわ。 だから余計に、貴方に戻って欲しいと願っているのよ。」

「・・・・・アイツ等の気持ちは痛い程分かる。 でも、国の玩具になるのはもう、ウンザリなんでね。」

 

4年間従軍し、国の為に様々な”汚い仕事”に手を染めて来た。

便利屋家業をしていた時に、禁忌と決めていた『殺し』の仕事にすら手を出した。

全ては、17代目・葛葉ライドウの隣に立つ為である。

 

「そういや、ダッチのオッサンは元気にしてるか? 」

 

久し振りにリンの顔を見たダンテは、自分達の鬼上司であるダッチ・シェーファーの事を思い出していた。

リン同様、対悪魔用の強化手術を施されており、USSFの司令官で階級は中将である。

 

「相変わらずよ。 アメリカ本部で大人しくして貰いたいのに、未だに現場にしゃしゃり出て来るから、厄介極まりないわ。」

「誰が厄介極まりないだと? 」

 

突然、鬼上司の声が遥か頭上から聞こえて来て、リンの小さな躰が、思わず飛び上がった。

恐る恐る見上げると、腕組みをした巨漢の男が自分を見下ろしている。

 

「だ、だだだだダッチ中将!? い、いらしてたんですか????? 」

 

ダッチから発する威圧感に、リンは慌てた様子で今更ながらに敬礼する。

そんな部下に海よりも深い溜息を吐き出すダッチ。

戦闘服に身を包むリンと違い、右胸に幾つかの勲章を付けた米陸軍の制服を一分の隙も無く着込んだダッチは、彼女の隣に立つダンテに視線を向ける。

 

「ダンテか・・・・・フォルトゥナ侵攻作戦時の報告書を読んだぞ。 随分と派手に暴れ回ったらしいな。」

「暴れ回ったは心外だな? 俺は、俺なりに効率良く仕事をしただけだが? 」

 

2メートル近い自分の身長より、更に高いかつての鬼上司に、ダンテはおどけた様子で肩を竦めた。

 

「まぁ、仕方ない・・・・未曽有の大惨事を防いだのはお前のお陰だ・・・後、”人類の護り手”を救ってくれた・・・・感謝している。」

 

”人類の護り手”とは当然、17代目・葛葉ライドウの事である。

悪魔との長い戦いで、常に後手に回り、防御一辺倒であった人類にとって、ライドウの存在は、起死回生を図る大事な手駒だ。

 

その時、3人の前に光学迷彩機能で姿を隠した何者かが近づいた。

慣れた手付きで右腕に装着されているコンピューターガントレットを操作し、機能を解除する。

可視化したその姿は、後頭部まで覆うヘルメットを被った巨漢の怪物であった。

CSI(超常現象管轄局)に所属する悪魔、ベルセルクのスカーである。

 

「スカー少佐! お久しぶりです! 」

 

ダッチの時とは打って変わり、何故か気合の入った敬礼をするリン。

彼女にとってスカーは、憧れの存在であるのだから仕方が無いと言える。

 

「また説教でもしに来たのか? 石頭。」

「・・・・・違う、大事な遺物を回収しに来た。 」

 

ダンテの軽口など一切取り合わず、スカーは、左腕を便利屋の前に突き出す。

 

「ボーグから渡された魔具(デビルアーツ)を返せ。 アレは、ペンタゴンと日本の防衛省が研究していた貴重な代物だ。」

 

ミティスの森で、ライドウに惨敗した折、かつての仲間であるドルイドの戦士、ボーグから餞別にと魔具『ギルガメイス』を渡されていたのであった。

律義にも、スカーはソレを引き取りに来たのである。

 

「ちっ、 だったら俺の集めた魔具(デビルアーツ)を返せよ。 俺が持っているには過ぎた代物だと、一方的に取り上げたじゃねぇか。」

「魔具(デビルアーツ)は扱い方を間違えれば、大惨事を引き起こしかねない危険な遺物だ。 それに、お前には”リベリオン”と”フォースエッジ”があるだろ。」

 

呆れた様子で溜息を吐き出すと、スカーはマスク越しに銀髪の大男を冷たく睨む。

 

「分かったのなら、大人しく返せ。 私は事を荒立てるのは好きじゃない。」

「へぇ? そんじゃ嫌だ。 力づくで取り返してみろよ? 」

「・・・・・・・私の言った言葉が理解出来んのか? 猿め。」

 

一触即発な状態になる二人。

従軍時代、事あるごとに二人は対立して来た。

任務を優先し、どんな汚いやり方でも眉根一つ動かさず遂行するスカーに対し、異を唱え続けたのがダンテであった。

仲の悪さは天下一。

米陸軍内でも有名である。

 

「いい加減にしろ、二人共。 私が見ている前で私闘など絶対に許さんぞ。」

 

そんな二人に、不機嫌な様子を隠しもしないダッチが割って入った。

巨漢の大男の隣では、華奢な女中尉がオロオロとした様子で、事の成り行きを見守っている。

 

「ダンテ、スカーに”ギルガメイス”を返してやれ、アレは米国防相と日本の防衛省が合同で研究していた遺物だ。 」

「ちっ、分かったよ。 」

 

ダッチに窘められ、ダンテが『封魔管』と呼ばれる管をスカーに投げ渡す。

これは、ミティスの森でスカーの同族であるボーグから、渡されたマジックアイテムであった。

中には、魔具『ギルガメイス』が封じられている。

 

ダンテから管を投げ渡されたスカーは、僅かに中を開き、魔具が入っているのをしっかりと確認する。

 

「確かに・・・”ギルガメイス”を確認した。 後は、お前が素直にこの国から出て行けば問題は無い。 」

「何だと? 」

「止せ! 」

 

怒りを露わに一歩前に出るダンテの肩を、ダッチが押さえる。

どうしたものかと考えあぐねるリンの視界に、光学迷彩の機能を使って此方へと近づく一団に気が付いた。

ディヴァイド共和国の悪魔殲滅特殊部隊の隊員達である。

正体は、ヴァチカンの強化歩兵の試作体達であり、脳内に埋め込まれたチップによって感情を制御されていた。

 

「隊長、悪魔の残党共をミティスの森西区に誘い込みました。」

 

光学迷彩機能を解除し、厚い装甲で覆われた姿を露わにする。

まるでロボットの様に、無機質に報告する兵士の言葉に、スカーは満足そうに頷いた。

 

「良し、直ぐに現場に向かう。 お前は、Navy SEALs(ネイビーシールズ)に連絡して重装甲部隊の出動要請をかけろ。」

「了解。」

 

再び、光学迷彩機能を使用して不可視化する強化歩兵部隊達。

部下達の後を追い、背を向けるスカーに、リンが慌てて声を掛けた。

 

「しょ、少佐! 私達13分隊もお手伝いします! 」

「おい! クロサワ中尉! 私の許可なくUSSFの部隊を動かす事は・・・・。」

 

あまりにも勝手過ぎるリンの言動に、ダッチが苦言を呈そうとするが、振り返った女中尉の双眸に思わず言葉を呑み込んだ。

涙をいっぱいに溜めて、必死に「行っても良いでしょ? 」と、訴え掛けている。

某消費者金融のCMに登場するチワワの様な女中尉の姿に、ダッチは何故か激しい罪悪感を覚えた。

 

「・・・・・し、仕方が無いな・・・・出動を許可しよう。」

「やったぁー! 40秒で支度をするので、ミティスの森入り口で待っていて下さいね!」

 

ダッチの許可を得たリンは、まるで飛び跳ねる様に、その場を後にする。

一瞬だけ白けムードになる一同。

スカーが、ワザとらしく咳払いをすると、部下達にミティスの森入り口で一時待機を命じ、光学迷彩を起動させて姿を消した。

ドルイド族の戦士と、特殊部隊の気配が完全に消え、後に残されるダッチとダンテ。

 

「はぁ、あんな頭でっかちの陰険野郎の何処が良いのかねぇ。」

 

女の趣味は、全く理解出来ないと、ダンテが大袈裟に肩を竦める。

 

「・・・・・彼女の母親は、サン・ドラドの唯一の生存者だ。 当時、母親の体内にはまだ形にもならないクロサワ中尉がいたそうだ。 」

「・・・・。」

 

海上都市『サン・ドラド』を襲った悲劇は、ダンテも良く知っている。

未曽有の悪魔によるアウトブレイクが引き起こされ、そこに住んでいた市民達が殆ど殺害された。

サン・ドラドに出現した悪魔達を従えていたのが、ソロモン12柱の魔神の一人・魔王・アイペロスであり、スカーはたった一人で悪魔共を殲滅し、アイペロスを討ち取った。

 

「ふん、気に入らねぇな・・・・英雄だか何だか知らねぇが、元は人間だったんだろ? 人間に嫌気が刺して悪魔になったのに、まだ人間に縋ってやがる。 そういう中途半端な態度が気に喰わねぇ。」

 

スカーが、実は元人間であったという事実は、生粋のドルイド族であるボーグからそれとなく聞いている。

 

「奴には奴なりの考えがあるんだろ? こういう仕事をしていると、人間の残虐性や下劣さに嫌気が刺して、自ら悪魔になろうとする輩が居る。実際、私の知り合いの何人かが人間(ヒト)である事を捨ててしまった・・・・・。」

 

スカーの様に、人間(ヒト)である事を捨てても尚、人間側に立って悪魔と戦う者は大変珍しい。

人間を嫌悪しつつも、人間の可能性を信じる。

相反する矛盾した感情だと言える。

 

「中将・・・・アンタに一つ頼みたい事があるんだが・・・・。」

「何だ? 」

「17代目・葛葉ライドウが何処に収容されるのか聞きたい。 」

 

ダンテのその言葉を聞いた瞬間、ダッチの表情が固まった。

元々、感情を余り表に出さないタイプであるが、その顔には未だに17代目に未練を持つダンテに対する呆れ返った様子が、伺い知れた。

 

「止めておけ、スカーの言う通り、面倒事に巻き込まれる前にこの国から出るんだ。」

「俺が何の為に4年間も従軍していたと思ってる? 」

「・・・・・。」

「アンタ等、愛国者の為にどれだけ汚い仕事に手を染めて来たか分かってんだろ? 見返りを一切求めず、国の言われるがままにどんな事もやって来た。」

「・・・・・。」

「アンタは、俺の頼みを聞く義理がある。 違うか? 」

 

燃える様な蒼い双眸。

身勝手で不条理な国に対する怒りで、轟々と燃えている。

そんな魔狩人を暫く眺めていた巨漢の男は、諦めたかの様に、大きな溜息を吐き出した。

 

「ミティスの森を東側に抜けた先・・・・国境沿いにディヴァイド共和国が運営する国立病院がある。 17代目はそこだ。」

「そうか・・・・恩に着るぜ? シェーファー中将。」

 

巨漢の男に背を向け、早速、国境付近にある国立病院へと向かおうとするダンテ。

そんな魔狩人の背を、ダッチが呼び止める。

 

「・・・・・17代目に手を出せば、”人喰い龍”が黙ってはいない。 ブラウン大佐から奴の事は聞いているな? 」

「超国家機関『クズノハ』暗部、”八咫烏”の長、数千年も生きる怪物・・・・だろ。」

「そうだ・・・・ケビンもお前と同じ事をしようとして奴に躰と人生を滅茶苦茶にされた・・・・出来る事なら、お前には戦友(とも)と同じ道を辿ってほしくない。」

 

血を吐く様な懇願。

同期であり、又、長年USSFのスペシャルエースの座を狙って競い合ったライバルでもあるケビンが、”八咫烏”の長・骸と関り、軍人としての誇りと矜持をズタズタにされた。

そのショックは、当然、ケビンのライバルであるダッチには筆舌し難く、軍を去る友を救えなかった悔恨の想いが未だに彼を苛んでいる。

かなり手を焼かされたとはいえ、ダンテは、ダッチにとって大切なかつての部下だ。

ケビンと同じ様に、躰と心を壊されるのを黙って見ている訳にはいかないのだ。

 

「悪ぃ・・・・もう決めちまったんだ。 17代目を必ずモノにするってな・・・。」

 

師であるケビンとかつての上司に散々止められた。

17代目と関われば、必ず地獄を見ると。

しかし、この溢れ出る熱い想いは止められない。

 

 

 

ディヴァイド共和国とフォルトゥナ公国の国境沿いから少し離れた位置にある、国立記念病院。

そこには、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)から派遣された研究員が大勢詰めており、忙しなく業務に従事している。

戦争によって多くの負傷兵や市民達でごった返す中、魔剣教団の若き騎士、ネロは、3階の個室にいた。

フォルトゥナ公国の重要人物という為、特別に個室を割り当てられたそこには、義理の姉、キリエが人工透析を受けて静かに眠っていた。

 

丸一日、食事どころか水分すらもロクに取らず、眠ってもいない。

疲労の色が濃い、落ち窪んだ双眸で、ベッドに眠る義理の姉を見つめている。

魔剣教団前、アルブム大橋で、十二夜叉大将が一人、猿飛佐助に助けられたネロは、一時、国連軍に身柄を預けられた。

軽い尋問を受け、事件には全く関りが無いと判断されると、義理姉が収容された国立病院へと連れて来られた。

此処まで来る道中、衛生兵から食事と睡眠を取る様にと勧められたが、憔悴しきったネロはその言葉に全く反応しなかった。

 

口煩く、堅物で、真面目だけが取り柄だった義理父・クレドを目の前で惨殺された。

自分と幾つも歳が変わらぬ異端審問官の凶刃が、父親の躰を貫くシーンが、何度も何度も脳裏を過る。

 

結局、自分は何も出来なかった。

父親の仇を討つ事も、義理姉を救う事も・・・。

 

落ち窪んだ双眸が、悪魔の右腕へと落ちる。

ソロモン12柱の魔神の一柱・”堕天使・アムトゥジキアス”。

ソロモンの魔神の中でも、強大な力を持つ悪魔ですらも、肉親一人救えない。

魔剣教団で気のいい友人達も、皆死んだ。

ネロの周りには、何も残らない・・・・。

全て、戦争という業火が焼き尽くしてしまった。

 

「うっ・・・・うううっ・・・・・。」

 

頭を抱え、切れる程、唇を噛み締める。

涙が後から後から零れ落ち、噛み締めた歯の間から嗚咽が漏れる。

 

「泣かないで・・・・・ネロ。 」

 

寝ていた筈の姉の声に弾かれた様に顔を上げる。

見ると、キリエが此方を見て微笑んでいた。

 

「キリエ・・・・・? 」

 

真っ赤に腫れた目で、ベッドに横たわる姉を見つめる。

そんな弟に対し、柔和な笑みを浮かべるキリエ。

心電図のモニターの音と、ネロが鼻を啜る音が暗い室内を満たす。

 

「兄さんが・・・死んだのね。 」

「・・・・っ!? 」

 

ネロの様子に、義理姉は全てを悟ったらしい。

紙の様に血の通わぬ肌をした手が、そっとネロの悪魔の右腕に触れる。

 

「実を言うとね・・・・貴方が病院(此処)に来る前に、ボーグさんから全て聞いたの・・・兄さんの事・・・・貴方の事・・・そして、私達の国がどうなったのか・・・・。」

 

ボーグとは、魔剣教団本部内で、慢性骨髄性白血病特有の貧血症状で苦しむキリエを軍の医療班へと引き渡した恩人である。

悪魔である筈だが、妙に人間臭い奴だった。

 

「キリエ・・・・俺・・・・どうして良いのか・・・・父さんが・・・父さんが死んで・・・俺・・・・。」

「ネロ。」

 

騎士として又、人間として尊敬していた父親を失い、狼狽する弟を見た姉が、寝ていたベッドから上半身を起こす。

優しく温かい手が、ネロの銀色の髪を撫でてやる。

 

「貴方のせいじゃない。 兄さんが道を過ったのは、全て私のせいなの・・・私がもっと早く、兄さんを止めていたら・・・・こんな事には・・・・。」

 

誰よりも兄・クレドの傍にいたキリエは、彼の異変を逸早く察知していた。

しかし、中々、ソレを話しに切り出せなかった。

理由は唯一つ。

兄が闇へと堕ちたのは、他ならぬ自分のせいであったからだ。

20数年前に、フォルトゥナの小さな港町で起こった”石油タンカー事件”。

それが兄を凶行へと走らせた原因であった。

 

「キリエは・・・・全部知っていたのか? 自分の病気の原因も・・・。」

「ええ・・・最初は、生まれつきの病気だとばかり思っていたけど・・・父さんや母さんの事を知って、自分なりに色々調べたの・・・。」

 

当時の自分は、余りにも幼く、事件の真相をまるで知らなかった。

両親の死に、不審な点があるのを気付いたのは、大学院を卒業して、生まれ故郷であるフォルトゥナへ帰って来た時である。

兄の書斎を掃除している時に、偶然、書斎机の上に新聞の切り抜きがあるのを見つけた。

その新聞は、フォルトゥナの外れにある港町で起こった”タンカー座礁事件”の詳細が記されていた。

 

「ネロ・・・・お願いだから、兄と同じ間違いを犯さないで・・・・私を・・・・姉さんを一人にしないで・・・。」

「・・・・。」

 

”デビルブリンガー(悪魔の右腕)”にポタポタと落ちるキリエの涙の雫。

彼女は、最も卑怯な手を使い、愛する弟を引き留め様としている事を自覚している。

自分の愚劣さに嫌気が刺し、吐き気を覚えても尚、キリエはこれ以上、家族を失うのが恐ろしかったのだ。

 

 

 

 

ノワール国立記念病院。

その4階にある特別治療室。

 

心電図のモニターを確認したスコット・ゴードンは、手に持ったIPADに慣れた手付きで記録を残す。

不意に視線を傍らにあるベッドへと向けた。

そこには、10代後半辺りと思われる東洋人の少年が眠っており、その胸元には使い魔である小さな妖精が膝を抱えて座っていた。

 

「綺麗だね? 君の主は・・・。」

「・・・・? 」

 

清潔な白いシーツの上で、深い眠りへと就く小柄な悪魔使いを見つめ、ゴードンは思わず呟いていた。

訝し気にマベルが見上げると、妖精と視線があったUSSF隊員が気恥ずかしそうに頬を僅かに染める。

 

「あ、嫌・・・噂と大分違うからビックリしてるんだ。 魔導士(ぼくたち)の間じゃ、17代目・葛葉ライドウは雲の上の人だからね。」

 

ゴードン達、魔導師(マーギア)の間では、17代目は歴史に名を遺す魔術師達と同じぐらい偉大な存在だ。

故に様々な噂に尾ひれが付いてしまうのは、仕方の無い事なのかもしれない。

 

「凄く光栄だ・・・・こんなに凄い人の担当医になれたんだから、彼は魔導医でもかなり有名だし、彼が書いた論文や講演の記録素子は全て拝見させて貰ってる。」

「そう・・・・何だ。」

 

ライドウが、現場で悪魔討伐に明け暮れている傍ら、若き魔導師達の育成の為に活動していた事は知っている。

寝る間を惜しむ程に精力的に活動し、時には大学院の講演にも参加していた。

ライドウの残した多くの偉業に憧れ、彼を慕う魔導師候補生は多い。

ゴードンもかつては、そんな生徒達の一人であった。

 

その時、病室の出入り口に人の気配を感じた。

ゴードンとマベルが其方に視線を向けると、廊下の照明に照らされ、銀髪の大男が立っている。

魔剣教団本部前で分かれた、便利屋のダンテだ。

 

「た、隊長? どうして此処に? 」

 

IPADを片手に、ゴードンがダンテの傍へと近寄る。

ライドウが此処に収容されているのは、極秘事項だ。

いくら、軍に所属していたとはいえ、除隊したダンテは一般人と同じ。

誰かに聞かない以外、ライドウの居場所は知らない筈であった。

 

「と、兎に角、中に入って下さい。 誰かに見られたら拙い。」

「悪いな? ゴードン。」

 

周囲に誰かが居ないか、廊下を見渡したゴードンは、ダンテを病室内へと入れ、ドアを閉める。

 

「隊長・・・・あの・・・・。」

「ゴードン、俺とライドウを二人っきりにしてくれないか? 」

 

予想通りのダンテの申し出に、ゴードンは、思わず唇を噛む。

悪いと思ったが、ダンテが軍に入隊した経緯は、記録で調べていた。

レッドグレイブという街で、荒事専門の便利屋をしていた事。

イギリスのとある海域にある孤島で起こった事件。

それをきっかけに、17代目と暫く行動を共にしていた事。

 

「無理です。 僕は彼の担当医だ。 意識不明の重体の患者を放置なんて出来ない。」

「安心しろ、別に爺さんに危害を加える気なんてねぇよ。」

「それでも許可は出来ません。 大人しく本国に帰還して下さい。」

「30分で良い・・・頼むよ。」

「隊長・・・・。」

 

懇願され、どうして良いか考えあぐねる。

いくら信頼し、尊敬するかつての上司とはいえ、今は軍とは何ら関係の無いいわば一般市民と同じだ。

ダンテの内に秘める激情を知っているからこそ、ゴードンは素直に従う気にはなれなかった。

 

「30分だけなら良いよ。 但し、ライドウには指一本触れないで。」

 

逡巡する魔導医師の肩に小さな妖精が乗った。

挑む様な鋭い視線で、眼前に居る便利屋を睨み付ける。

 

「何かしたら直ぐ分かるからね。 もし、そんな事したら病院内に居るUSSFの連中を此処に呼んでやるから。」

「・・・・・分かった。」

 

妖精にキツク睨まれ、ダンテが降参する様に両手を上げる。

そんな便利屋の姿に納得したのか、マベルは若い魔導医を促し、集中治療室から廊下へと出た。

 

 

「良いのかい? 今の彼は非常に危険だ。 」

「分かってる・・・・でも、アイツがライドウの事が大好きで、認めて欲しくて頑張っていたのは知ってるから・・・・。」

 

二人は、ライドウが眠る集中治療室から少し離れたラウンジに来ていた。

気分を落ち着かせようと、自販機でコーヒーの缶を買ったゴードンは、ガラス壁へと近づく。

夕闇へと沈む、国境沿いの街”ノワール”。

他国への窓口でもあるこの眠らない街は、種々雑多な人々が絶えず行き交いしていた。

 

「確かに、従軍していた時のダンテ隊長は、何か執念みたいなモノを感じた。 部隊の仲間達も、ソレを知りつつ敢えて聞かなかった。」

 

ゴードン達、特殊能力を持つ人間達も、大なり小なりダンテと同じ妄執を抱いている。

誰かに自分を認めて貰いたい。

上にのし上がり、自分を見下した連中に思い知らせてやりたい。

そんな激しい情念が、絶えず渦巻いている。

 

「僕の場合は、”家族”だったけど、ダンテ隊長は、”17代目・葛葉ライドウ”だったんだね・・・・成程、確かに険しい棘(いばら)の道だ。」

 

ライドウは、平安時代から続く由緒ある組織、『クズノハ』の創立者、葛葉四家の当主の一人だ。

一介の荒事師に過ぎないダンテが、そんな相手に認めて貰う等、並大抵の労力では済まされないだろう。

 

 

「爺さん・・・・・。」

 

ライドウが横たわるベッドへと近づき、傍らに腰を下ろす。

鋼の義手は、取り外され、代わりに太いチューブと首筋には、幾つもの電極が繋がれている。

躰に巻かれた白い包帯と心臓の辺りには、バイタルを調べる為のパッドが付けられていた。

 

頬に触れようと伸ばされる指先。

しかし、何かを躊躇っているのか、ソレが途中で止まる。

 

あれ程、憧れ、手に入れたいと強く願っていたモノ。

4年間、従軍し、それなりの功績を残して来たのは、全てライドウの為であった。

彼の隣に立つに相応しい存在になる。

その一念だけで此処まで来た。

 

「知ってるか? 爺さん。 ”眠り姫”ってのは、何時も王子様のキスで眼が覚めるんだぜ。 」

 

微かに振るえる指先を、意識の無い、ライドウの頬へと触れる。

身を屈め、規則正しい呼吸を繰り返すライドウの唇へ、自分のソレをそっと重ねた。

名残惜し気に離れる唇。

その時、ライドウの口から微かな呻き声が聞こえた。

瞼が痙攣し、うっすらと開く。

 

「ヨ・・・ハ・・・ン? そうか・・・・俺は、夢を見て・・・・。」

 

未だ、意識は微睡の海を漂っているのだろう。

目の前で、自分を見下ろす銀の髪の若い男が、失った愛しい男と重なっている。

 

「お前が死ぬ何て・・・・ハッ・・・・悪い冗談。」

 

ダンテの大きな手に頬を寄せる。

暫くすると、再び、夢の世界へと堕ちたのか、安らかな寝息が聞こえた。

 




一応、これにて終了です。
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