偽典・女神転生~フォルトゥナ編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

後藤・・・・・内閣防衛相事務次官。文部科学省が内密で所有していた研究施設から奪われた魔具の奪還、並びにフォルトゥナ公国が行っている悪魔の実験を調査する様にライドウに依頼した人物。元自衛官で、かなりの野心家。


アラストル・・・・”マレット島”でライドウ達が出会った上位悪魔。当初は、オルフェウスと契約していたが、後に、ライドウを主人とする事になる。かなりのドスケベで、ライドウにぶちのめされてからは、彼に一目惚れする事に・・・現在は、玄武の代わりに代理番を務めている。



第2話 『魔剣祭』

長い地下実験棟へと続く階段を降り、研究施設に潜り込んだ悪魔使いは、その光景を目にした途端、言葉を失った。

 

壁に幾つか設置された培養液には、解体された悪魔の死骸が浮かんでいる。

中には、明らかに人間(ヒト)のモノと思われる死体も混じっていた。

しかし、ライドウが一番、注意を惹かれたのはそこでは無かった。

研究所に置かれた大きなデスク。

その上に、ラグビーボールの様な形をしたカプセルを発見したのだ。

気付かれぬ様、気配を完全に消し、音も無く台の上に置かれたカプセルへと近づく。

覗き込むと、地上に生息している植物とは、違うグロテスクな形状をした植物が咲いていた。

 

「クリフォトの種籾・・・・何でコイツが此処に? 」

 

冥府に生息する、人の生き血を糧とする魔界樹。

かつて、魔界を放浪していた時に、パトロンとして番契約していた4大魔王(カウントフォー)の一人、反逆皇・ユリゼンが”賢者の石”生成の為にこの植物を大量に育てていた。

そして、10数年前、前の番、ヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーと共に”壁内調査”をしていた時に、一族を悪魔使いに殺された黒エルフの兄弟が、復讐の為に、調査隊の生き血を使って”クリフォトの果実”を不完全ながらも実らせた。

 

 

「人修羅様!!」

 

アラストルの叫び声。

後ろも振り返らず、ライドウが殆ど条件反射で真横へと飛ぶ。

刹那、巨大な剣が振り下ろされ、魔界樹の種籾が入ったカプセルごと大きなデスクを真っ二つに破壊する。

砕け散るフラスコやビーカーのガラス片。

室内を数十枚の研究書類が舞う。

 

「成程、優秀なセコムを付けてるな。」

 

片膝を付いたライドウが、そんな軽口を叩く。

悪魔使いの視線の先には、白を基調とした鎧を纏う魔剣教団の騎士がいた。

否、騎士ではない。

人と悪魔の魂を封じ込めた悪魔・・・・・アルト・アンジェロだ。

鎧の悪魔、アルト・アンジェロの背後には、複数の騎士・・・ビアンゴ・アンジェロが待機していた。

 

「早速、試運転だ・・・アラストル、手を貸せ。」

「アイアイサー!」

 

主の指示に応え、漆黒の蝙蝠が眩く輝く。

光の球体となったアラストルは、二つに分かれ、ライドウが広げる両掌へと集まる。

すると、瞬く間に二つの球体は、電雷の蛇が刀身に纏う双剣へと姿を変えた。

 

 

 

「くしょん! 」

 

フォルトゥナ城正門前。

見事な銀の髪をした少年が、寒さのあまり大きなくしゃみをする。

魔剣教団の若き騎士、ネロだ。

先程、晩餐室前の窓辺から見つけた蝙蝠の後を追い掛けて、こんな所まで来てしまった。

空から降る粉雪は、風に煽られ容赦なく少年の頬を叩き、躰の芯を凍えさせていく。

 

「くそぉ、一体何処に行きやがったんだぁ? 」

 

そんな悪態を吐きながら、周囲をぐるりと見回すが、当然、何処にも蝙蝠の姿は無い。

吹雪で視界は悪くなる一方だし、此処は諦めて寄宿舎に戻った方が良さそうだった。

 

(はー・・・・何やってんだろうなぁ? 俺。)

 

蝙蝠一匹に振り回されて、馬鹿みたいだ。

侵入者が、偵察の為に放った使い魔だと勘違いした自分が馬鹿みたいに思えてくる。

それもこれも全てあの掲示板のせいであった。

 

ネロは、今時の子供らしくスマホゲームにハマっている。

DDS(デジタルデビルサーガ)と呼ばれるMORPG(マルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム)だ。

このゲームは、自分で悪魔を育成し、様々な悪魔の種族と交配させて、より強力なモンスターを造り出し、他プレイヤーと育成した悪魔同士でバトルする事が出来る。

相手に勝つ事が出来れば、経験値と装備、マジックアイテムや賞金も手に入る。

特に賞金は、実際、仮想通貨として使用する事が可能で、サイト内で販売されているゲームを買ったり、時には通信販売で食料品や衣類等を買う輩も居る。

ネロも、そこで稼いだ通貨で音楽ソフトを何本か買っていた。

 

そのDDSには、ゲーム内の情報を交換する掲示板なるものが存在しており、そこで、自分が住んでいる国、フォルトゥナ公国の事が書かれていたのである。

内容は、『フォルトゥナ公国は、悪魔を崇拝するイカレたテロ国家で、隣国のディヴァイド共和国に喧嘩を吹っ掛けて戦争を起こそうとしているヤバイ所だ』という、根も葉もない噂であった。

その他にも、『悪魔を生体兵器に使用している。』とか、『教皇はドクズで、国家の財政を食い潰している。』とか嘘か誠か分からない内容が、辛辣に書かれていた。

 

流石に、腹が立ったネロが、匿名で『そんな出鱈目誰が信じるんだよ?いい加減にしろ。』と書いたところ、あるグループがしつこく絡んで来た。

 

「嘘じゃねぇーよ。 ちゃぁんと証拠もあるんだぜ? 」

 

チャーリーなるハンドルネームの奴が、そう言ってある写真を添付して寄越した。

そこには、両国の国境付近で撮影されたと思われる映像が映されており、写真の中には異形の怪物の姿があった。

 

「こんなの合成だ。 」

「合成じゃねぇよ、アメリカ国防総省の衛星カメラをハッキングして手に入れたまじもんの写真だぜ。」

「それ以外にも、乞食国家で有名なんでしょ? 何か都合が悪くなると戦争の時は、アレされたコレされたとか被害者ぶってさ。 マジあったまわるぅwwww」

 

ストロベリーというハンドルネームの奴が、フォルトゥナは輸出出来る特産物が無い乞食国家だと蔑む。

 

「私も・・・・あの国は、好きにはなれません。」

 

レイコというハンドルネームが、国民の4分の1が公務員で占められているのはおかしいと述べる。

曰く、公費を徹底的に無駄遣いし、国庫は借金だらけ、国の通貨が大暴落し、その深刻さを国民の誰もが理解していないという。

それでも、歴史的建築物や世界遺産が豊富な為、観光客が殺到し、お金を落してくれるから何とか国として運営出来ているが、それすらも分かってはいない。

 

「全ては、信仰している神、魔剣士・スパーダのお陰とか・・・・邪教徒集団の危ない人達だと思われても仕方ないですね。」

「ナニソレwwwwヤバすぎwwワロタ。」

「国連はなにやってんだよぉ、そーんなテロ国家、粛清しねぇと駄目じゃんかよぉ。」

 

悪し様に、ネロの住んでいる国を嘲笑する三人。

そればかりではなく、教皇・サンクトゥスの事や、ネロの育ての親、クレドの事まで話が及んだ。

 

教皇は、国費を食い潰し、ロシア連邦のラジコンになる無能者。

国民は、税金と言う存在を理解出来ない上に「国家公務員法違反」を繰り返している馬鹿集団。

そして、魔剣教団の騎士団長は、かつて国が大悪魔に襲われた時、たった一人でそれを倒したと吹聴する虚言癖の持ち主とまで悪口を書く様になった。

もう、これ以上、コイツ等と会話をしていたくない。

ネロは、舌打ちするとさっさとログアウトする。

それ以降、あのグループと関わり合いになるのを避け、掲示板どころか、DDSにすらもアクセスしてはいなかった。

 

 

「クソ・・・・戦争何て起こる筈ないんだ・・・・キリエだって言ってたじゃねぇか。」

 

ネロは、忌々し気に舌打ちする。

キリエの兄、クレドは教団内でも穏健派で有名だ。

戦争経験者の彼は、その悲惨さを誰よりも理解している。

二度と起きてはならないと、幼いネロに何度も話して聞かせた。

しかし、それでも拭いきれない不安と、教団に対する不信感がしこりの様に残っている。

あんな顔も姿も分からない掲示板の連中を信じる気持ちは更々無いが、フォルトゥナ公国と隣国のディヴァイド共和国が20数年前に戦争を起こしていた事は事実だし、この国の財政が余り良くない事も知っている。

 

その時、遠くで何か悲鳴が聞こえた様な気がした。

 

 

 

 

双剣の刃が、深々とビアンゴアンジェロの胸に突き刺さる。

悪魔の弱点である核(コア)を破壊され、バラバラに崩れる鎧の怪物。

突き出される槍の切っ先を巧みに避け、小柄な悪魔使いが、ビアンゴアンジェロの持つ盾を足場に跳躍。

そのまま天井を蹴りつけ、漆黒の弾丸となった悪魔使いは、双剣の刃を何度か閃かせる。

躰を両断される騎士達。

研究所の床へとバラバラに崩れ落ちる。

 

「さて、残るはお前一人か。 」

 

白い鎧を纏う、アルトアンジェロに向かって雷神剣『アラストル』の切っ先を突きつけた。

コイツの中身も、先に倒されたビアンゴアンジェロ同様、中身は空っぽなのだろう。

誰がこんな馬鹿げた怪物共を造ったのかは知らないが、人間の魂と悪魔の魔力を融合させるとは、随分と酷い真似をしてくれる。

 

仲間を全て倒されたアルトアンジェロは、身の丈程もある大剣を構えた。

バイクのハンドルを連想させる柄を握り、剣に内蔵されているエンジンを何度か吹かす。

これは、イクシードと呼ばれる装置で、柄を何度か回す事で、攻撃力を爆発的に増加させる機能があった。

最大値までに溜めたイクシードを、解放するアルトアンジェロ。

凄まじいスピードで、悪魔使いとの距離を一気に詰める。

しかし、その鋭い刃がライドウの躰を両断する事は叶わなかった。

刃を振り抜いたその先に、悪魔使いの姿が無かったからだ。

獲物を見失い、慌てて周囲を見回す白い騎士。

その背に衝撃が走った。

見下ろすと、自分の胸に大剣へと姿を変えた雷神剣『アラストル』の切っ先が、突き出されている。

紫電の蛇を纏いつかせた大剣の切っ先は、そのままアルトアンジェロの右肩口へと抜けて行った。

鎧に内在されたエネルギーを放出し、バラバラに崩れるアルトアンジェロ。

その白い騎士に背を向ける形で、大剣を両手に持つ白銀の魔狼が立っていた。

アルトアンジェロが、己の刃を突き出す僅かな瞬間に、ライドウが魔鎧化し、光速で敵の背後へと移動していたのだ。

敵の気配が完全に消失したのを確認し、魔鎧化を解くライドウ。

アラストルも、大剣の姿から、神父服の浅黒い肌を持つ青年へと変わる。

 

 

「何なんスかねぇ? こいつ等。」

 

神父姿の青年が、バラバラに崩れたアルトアンジェロの兜を足で転がす。

 

「ネクロゴーレムの一種だ。 人間の魂を抜き出し、魔力の結晶体である鎧へと定着させたんだ。」

 

ポケットから、ライター型の超高性能カメラを取り出したライドウが、塵と消える鎧の悪魔と、床に散乱する”クリフォトの種籾”を撮影する。

 

この研究所で、造り出されていた悪魔とその証拠は、しっかりと画像に収めた。

後は、八王子と横浜で強奪された魔具、”パンドラ”と”ギルガメス”を回収すれば、任務は無事完了となる。

 

悪魔使いと神父姿の青年は、誰かが此処へと来る前に、一旦、外へと出る事にした。

 

 

「人修羅様、俺っちまだご褒美貰って無いッス。」

 

地下研究所から、衛兵墓地へと移動した二人。

振り返ると、憮然とした表情で番が立っている。

 

「帰ったら、キャンディーやるって言ってんだろ? 」

「嫌ッス! 俺っちは今すぐ、人修羅様のベロチューが欲しいッス!」

 

そんな子供の様な駄々をこねて、アラストルが突然、ライドウの両肩を掴む。

 

「バッカ!お前! こんな所で止めろ! 」

「止めないッス! 地獄の刑執行長官を務めた俺っちを舐めすぎた、人修羅様がいけないんッス!」

 

両腕を抑え付けたアラストルが、呪術帯で覆われたライドウの口元に、無理矢理キスをして来ようとする。

慌てて顔を背けて、番の暴挙から逃れ様とする悪魔使い。

そんな彼等の背後に、第三者の影が現れた。

魔剣教団の若き騎士、ネロである。

教団の人間とは明らかに違う不審者を見つけた少年は、護身用に常に持ち歩いている大型ハンドガン、ブルーローズを構えた。

 

「何者だ? お前等!? 」

 

ネロの声に一瞬、動きを止める二人。

まさか、地下研究所の一件が、もう教団の人間にバレてしまったのだろうか。

 

「おい、アラストル。」

「何スか?人修羅様。」

「お前、きっちりと責任取れよな? 」

「はい? 」

 

神父姿の青年が、そう聞き返した時であった。

掴んでいた筈のライドウの躰が、腕の中から忽然と消える。

何事だ? と訝しむアラストルの躰が、宙を舞った。

番の懐に潜り込んだライドウが、華麗な一本背負いを決めたのだ。

 

「うわぁつ!! 」

「ぐえぇっ!! 」

 

神父姿の青年と、銀髪の少年の見事な二重奏。

避ける間もなく、投げ飛ばされた青年にぶち当たり、ネロは、受け身も取れず硬い地面へと叩き付けられる。

頭を強(したた)かに打ち、意識が昏倒。

眼を回す少年の胸の上には、蝙蝠の姿へと戻ったアラストルが同じく気絶していた。

 

 

 

 

懐かしい夢を見る。

遠い遠い昔の記憶。

キッチンから微かに香るシチューの匂い。

マッシュルームシチューと、水餃子のペリメニは、母さんの得意料理だった。

 

「ネロ・・・・・。」

 

遠くで、誰かが自分の名を呼ぶ。

とても優しい声。

記憶の端に微かに残る、母、アンヌ。

当時は、あまりにも幼過ぎて、母の容姿も声すらも忘れてしまった。

 

「ネロ・・・・ネロ・・・・・しっかりしろ!目を醒ますんだ! 」

 

優しい母の声が、突然、野太い男のソレへと変わる。

弾かれた様に、跳び起きる銀髪の少年。

声のした方向に顔を向けると、魔剣教団騎士団長のクレドが腕組みして自分を睨み付けていた。

 

「く・・・クレド? え? 一体どうなってんだよ? 」

 

今、現在置かれている状況が、全く把握できない。

唯一分かるのは、自分がフォルトゥナ城の城主の私室におり、厚いダウンジャケットを着た状態で、キングサイズのベッドに寝かされていたという事だけだ。

 

「それは、コッチが聞きたいな・・・・お前こそこんな所で一体何をしているんだ? 」

 

背後に複数の部下を引き連れたクレドが、困り果てた様子で、眉間に手を当てる。

白を基調とした礼服に身を包み、腰には教団から支給されているイクシードが内蔵された特殊な剣を下げていた。

 

「何って・・・・蝙蝠を追い掛けて・・・・そしたら、声が聞こえて・・・・。」

 

昨日までの出来事を、声に出して反芻(はんすう)する。

深夜、どうしても寝付けなかったネロは、酒が隠してある晩餐室へと向かい、そこで、満月を背に冬の空を跳ぶ蝙蝠を見つけた。

不審に思った彼は、蝙蝠を追い掛けたが途中で見失い、フォルトゥナ城の正門前まで来てしまった。

そして、そこで何者かの声を聴いて、衛兵墓地まで来た所を、二人組の不審者を見つけ、護身用の銃を向けた。

 

「二人組の侵入者? 」

「うん・・・・一人は、黒髪の神父みたいな恰好をしてた・・・もう一人は、女だったのかなぁ・・・・暗くて二人共、顔は分からなかった。」

 

 

ベッドに腰掛けたネロが、痛む頭をさすりつつ、昨日の経緯(いきさつ)を上司に報告する。

息子程も歳が違う部下の話を聞いたクレドは、途端、険しい表情へと変わった。

 

 

 

数時間前、フォルトゥナ公国の首都、”ヴァイス”のホテル。

 

『クリフォトの種籾・・・・・? 』

「そうです。冥府にしか生息しない魔界樹で、人の生き血を糧にする植物の事です。」

 

フォルトゥナ城の地下研究所から、宿泊しているホテルの自室へと戻ったライドウは、早速、事の経緯を依頼主である後藤事務次官へと連絡した。

因みに、代理番のアラストルは、フォルトゥナ城での一件が、余程腹に据えかねたのか、ベッドの上で不貞腐れた顔をして棒付きキャンディーを舐めている。

勿論、蝙蝠の姿をして・・・・だ。

 

 

「まさかとは思うが、”クリフォトの果実”を造ろうとしているんじゃないだろうな? 」

 

防衛省市谷地区の庁舎にいる後藤は、スマートフォンを片手に自室の窓辺へと歩み寄る。

広いグラウンドには、二十歳を過ぎたばかりの若い自衛隊員達が、教官から近接格闘術の訓練を受けていた。

 

『否・・・・それよりもっと質が悪い、奴等は”ゼブラ”を生成している可能性があります。』

「”ゼブラ”・・・・・人間を悪魔に変えると言われる魔薬か・・・。」

 

その薬の名前なら聞いた事がある。

最近、香港マフィアを中心に、市場に出回っている麻薬だ。

筋肉増強の作用があり、アスリートや格闘家、果てはミュージシャンまで、この薬に手を出している輩がいる。

依存性が強く、過剰摂取すると骨格や外見が変異し、悪魔の様な姿になってしまう。

又、痛覚も鈍感になり、激しい食人欲求に駆られるのだ。

 

『詳しく研究室の書類を調べた訳ではありませんが、奴等は、軍事利用を目的として”ゼブラ”を造っています。もしかしたら、あの国事態が、巨大な実験場である可能性もあります。』

「成程、早速、君が送った映像を調べてみるよ。」

 

後藤は、室内に展開されている3D映像に視線を向ける。

デスクに内蔵されている光学機器から映し出されたモノで、ライドウが小型カメラで撮影した地下研究所の写真がホログラフィーとして浮かんでいた。

 

「ところで、横浜と八王子の研究施設から奪われた魔具の件だが・・・。」

『残念ながら、地下研究施設にはありませんでした。 でも、魔具の在処は大体、分かります。』

 

防衛省の直通電話を掛けていたライドウは、スマートフォンを片手に、窓辺からベッドへと移動する。

ベッドの上には、充電されたGUMP(ガンタイプコンピューター)が置かれており、ライドウは腰掛けると片手でGUMPを起動させた。

 

「エネミーソナーに強い魔力の反応が三つ・・・・私の予想が正しければ、そこに魔具があると思われます。」

 

蝶の羽の様に展開する液晶パネル。

そこに映し出されるフォルトゥナ公国の地図に、強い魔力を示す三つの光点があった。

 

『流石は、17代目だ・・・・期待以上の働きをしてくれて非常に助かる。』

「褒めるのは、魔具を無事回収してからですよ・・・。」

 

ライドウは、今後の活動方針を後藤に告げ、スマホを切った。

溜息を一つ吐き、GUMPを元に戻すと、ベッドへと寝転ぶ。

 

さて、此処からが問題だ。

クレドは、先程、フォルトゥナ城で起こった一件を、部下であるネロの口から聞くだろう。

それを踏まえて、敢えて『脳侵食(ブレインジャック)』で記憶を改竄(かいざん)しなかった。

全ては、クレドを説得する為・・・・。

この馬鹿げた戦争を起こさない為には、親友の協力が必要なのだから。

 

 

 

翌日、フォルトゥナの首都”ヴァイス”では、一年に一度行われる『魔剣祭』で盛り上がっていた。

 

 

「良く似合っているよ・・・キリエ。」

 

”グリューン”歌劇場。

フォルトゥナ公国を代表するドーム型のコンサートホールの裏方に、魔剣教団の紋章が縫われたドレスを着るキリエと、黒い皮のジャケットとズボンを履いたライドウがいた。

 

「そんな・・・・・恥ずかしいです。」

 

憧れの君に見つめられ、キリエが顔を首元まで真っ赤にさせる。

 

宝石が散りばめられた王冠を頭に付け、ウエストの切り替えから裾に向かって、スカートが大きくふんわりと膨らむプリンセスラインと呼ばれるドレスを着用したキリエは、その整った容姿から、何処かの姫君の様に見えた。

普段、学習塾で教鞭に立っている講師とは、とても想像出来ない。

 

「頑張ってね?キリエ。 私、一生懸命応援するから。」

 

 

主人の頭に乗った小さな妖精が、目をキラキラさせて歌姫を見つめる。

 

「有難う、マベル。 」

 

にっこりと柔和な笑みを口元に浮かべるキリエ。

この小さな友達とは、自分が幼い時からの付き合いだった。

17年前、ソロモン12柱の一人である堕天使”アムトゥジキアス”の襲撃を受け、不安でたまらなかった自分を優しく慰め、常に傍に居てくれた。

 

手を振り、舞台袖へと去って行くキリエの後ろ姿。

それを同じく手を振りながら見送るライドウは、背後に人の気配を感じた。

見なくても分かる。

魔剣教団騎士団長のクレドだ。

 

「よぉ、酷い顔色だな? 大丈夫か? 」

 

鋭い視線で此方を睨み付けている友人に、ライドウは態ととぼけた軽口を叩く。

 

「分かっている癖に、知らない振りをするのか? 君は。」

 

騎士団長の礼服に身を包んだクレドは、黒いジャケットと同色のズボン、そして顎まで覆われた真紅の呪術帯を付ける悪魔使いを見下ろす。

 

「今は、キリエの初舞台を邪魔したくない。」

「そうだな・・・・式典が終わったら、何処かでゆっくりと話をしよう。」

 

お互い、軽口を叩き合いながらも、その表情は何処か冷たい。

主の頭に乗った小さな妖精は、そんな主人とその友人を不安そうに眺めていた。

 

 

 

 

フォルトゥナ城、地下研究施設。

真っ二つに割れた大きなデスクと、床に散らばる砕けたビーカーとフラスコ。

大事な研究書類は散乱し、酷い有様を晒していた。

 

「ち、ちちちちち・・・畜生、大事な・・・・け、けけ研究素体を台無しにしやがって・・・・・。」

 

破壊され、グロテスクな中身を晒している培養容器の前に跪き、化学技術局の局長、アグナスは忌々しそうに舌打ちした。

 

「落ち着け、”人修羅”がこの国に来るのは想定内だ・・・・それより、ちゃんとシナリオ通りに事が運んでくれるか、其方の方が心配だな。」

 

修道士が着用する、スカプラリオと呼ばれる肩からぶら下げる衣装と外套のフードを目深に被った男が言った。

その傍らには、大分、肌が露出した教団の制服を着る妖艶な美女が、壁を背にして立っている。

 

「て、手筈に抜かりはない・・・・あの馬鹿教皇は、私の言葉をすっかり信じ込んでいる。後は、花火が上がるのを待つだけだ。」

 

ゆっくりと立ち上がったアグナスが、背後にいるフードの男と浅黒い肌をした美女を振り返る。

その口元には、大分、歪んだ笑みを浮かべていた。

 

 

 

商業区、”グリューン”通り。

国を挙げての一大祭、『魔剣祭』目当てに、各国から多くの観光客が押し寄せていた。

皆、思い思いに露天商の商品を物色したり、飲食店で一息付いたり、歴史的建造物を背景に記念撮影をしたりしている。

 

その通りを、左腕の上腕部分をギブスで固定され、黒のアームホルダーで肩から吊った10代後半辺りの少年が走っている。

見事な銀色の髪をした少年は、魔剣教団の若き騎士、ネロだった。

深夜、就寝時間であるにも拘わらず、寄宿舎から抜け出し、挙句、フォルトゥナ城へと忍び込んだ事を咎められ、上司であるクレドから、『魔剣祭』が終了するまで自室で謹慎していろと命令されていた。

しかし、素直にはいそうですかと従っているネロではない。

内心では、侵入者に良いようにあしらわれた事と、クレドにそれを報告しても全く相手にされなかった事で、腸が煮えくり返っていた。

 

(祭典が終わるまで、自室で謹慎してろだと? ふざけんじゃねぇよ!)

 

通行人を巧みに避けつつ、上司であり、育ての親であるクレドに悪態を吐く。

 

幼い時から、クレドに教団の堅苦しい戒律を叩き込まれ、厳しく育てられてきた。

実母が『娼婦』であり、ネロが2歳の誕生日の時に、自宅から忽然と消えた事も、同年代の子供達よりも厳しく躾けた理由の一つなのかもしれない。

クレドの存在をウザいと感じつつも、悪い方向へと曲がらず、一応、真っ直ぐに育ったのは、一重に彼と彼の妹のキリエが居たからだと言える。

 

その時、突然、ネロの視界に人影が映った。

避け切れない絶妙のタイミング。

強かに身体を打ち付けた両者は、勢い余って硬い地面に尻餅をついてしまう。

衝撃で、尻ポケットに押し込んであった蒼い包みが道路へと落ちた。

 

「いってぇ・・・・。」

 

痛みに低く呻くネロ。

時刻は、既に10時を軽く回っている。

早く、”グリューン”歌劇場へと向かわないと、キリエの讃美歌が始まってしまうというのに、本当についてない。

 

「ごめーん、大丈夫? 君。」

 

低い20代半ば頃と思われる男性の声。

目の前に、キリエに送る予定の蒼い包みが差し出される。

ネロが見上げると、そこには如何にも人が良さそうな赤毛の青年が、困った様子で見下ろしていた。

 

「怪我とか無い? 立てる? 」

 

日本からの観光客だろうか? アジア人特有の顔と肌をした青年は、心配そうに、未だ地面に座り込む少年の側へと腰を屈める。

 

「だ、大丈夫だよ、これぐらい。」

 

本当ならば、人で混雑している通りを走った挙句、不注意でぶつかったのはネロの方である。

素直に謝るのが筋なのだが、何故かそれが気恥ずかしくて出来ない。

差し出された蒼い包みをひったくる様に受け取ると、ネロは、そそくさと立ち上がり、挨拶もそこそこに”グリューン”歌劇場に向かって走って行ってしまう。

その後ろ姿を黙って見送る赤毛の青年。

 

「ふーん、アレがヨハンさんの隠し子か・・・・父親と同じ匂いがするねぇ。」

 

人込みの中へと消えていく16歳ぐらいの少年を、赤毛の青年・・・・・十二夜叉大将の一人、摩虎羅大将こと猿飛佐助が見つめていた。

 




ちこっと短くなっちまいました。
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