偽典・女神転生~フォルトゥナ編~   作:tomoko86355

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登場人物紹介

アグナス・・・・魔剣教団技術部門の責任者。
ネロ達、魔剣教団の騎士が装備している機械仕掛けの大剣の製造者でもある。
現、教皇・サンクトゥスに取り入り、非人道的な人体実験を繰り返し、魔薬『ゼブラ』の精製も行っていた。

グロリア・・・・魔剣教団の幹部。
諜報部責任者・オイレの紹介で数か月前に幹部へと昇進した正体不明の女。
人間離れした運動能力と卓越した体術を持つ、浅黒い肌をした妖艶な美女。



第6話 『 グロリア 』

炎獄の王”バアル”との凄まじい激戦の爪痕を、深々と残すフィルムの丘。

その採石場から、少し離れた小高い丘に、ソレはあった。

 

 

「これは地獄門(ヘルズゲート)じゃないですか。」

 

眼前にある巨大な石碑。

それは、魔界と人間界を繋ぐ通路・・・・地獄門であった。

地獄門の形状は様々あり、古の塔”テメンニグル”では鏡の姿、そして”マレット島”では、孤島そのものが門の役割を担っていた。

 

 

「これは誰かが人工的に創り出したモノ・・・だな。 オリジナルは多分、この国の何処かに眠っている筈だ。 」

 

アラストルの言葉に、呪術帯で左眼と口元を覆ったライドウが、補足説明をする。

そして石板の横に設えられた台座に、右腕を翳した。

すると台座が眩く光り、そこに金属の両翼を持つ髑髏の肩当が姿を現す。

魔具(デビルアーツ)の一つ”サルガダナス”だ。

 

 

「これが1か月ぐらい前に、横浜と八王子の研究施設で奪われた魔具なんですかい? 」

「否、違うな。 これは後藤事務次官の記録には無いヤツだ。」

 

ライドウは、腰のウェストポーチから封魔管と呼ばれる、横に長い円形状の筒を取り出す。

中には、悪魔が実体化する為に必要なエネルギー・・・マグネタイトで満たされており、筒を開けると緑色の光が溢れ出た。

台座に鎮座している魔具が、管の中へと吸い込まれていく。

完全に、魔具を封印し終えると、管は自然と閉まった。

 

 

「取り敢えず、これでこの地獄門は機能を停止する筈だ。」

 

数メートルはあるであろう巨大な石碑を見上げる。

元黒エルフの”スヴァルトアーブル”族、バアルは、この門を通って現世に出現した。

門が閉じた以上、バアル以外の悪魔が実体化する危険性は無いだろう。

 

 

「それにしても、あの餓鬼一体どうするつもりなんですか? 」

 

神父姿に変身したアラストルが、丘のすぐ下で此方の様子を伺っている銀髪の少年・・・ネロを親指で示す。

魔剣教団の若き騎士の肩には、小さな妖精・・・マベルが座っていた。

 

「不本意ではあるが、連れて行くしか他に方法が無いだろ? 」

 

ライドウが、溜息を一つ吐くと、そう応えてやる。

 

「本当、ダンテの野郎と言い、魔剣教団の餓鬼と言い、人修羅様は甘すぎるんですよ。」

 

流石に我慢が出来なくなったのか、アラストルが不満たっぷりの視線で、小柄な主人を睨み付ける。

 

「ハッキリと言わせて貰いますけどね、あの餓鬼は危険ですよ? ”ソロモン12柱の魔神”、アムトゥジキアスはべらぼうに強い上に、執念深いんですから。」

 

呆れた様子で、両手を腰に当てた浅黒い肌の青年が、どれだけ堕天使”アムトゥジキアス”がヤバイ悪魔なのか、懇切丁寧に説明してやる。

 

29の悪魔の軍団を従え、12柱の中で6番目に数えられる大悪魔。

一角獣の姿にトランペットを手に持ち、音楽を嗜むが、その性格は限りなく狂暴。

雷と風の魔法を駆使し、12柱の中で、大総裁という異名を持つ、堕天使”オセ”と同じぐらいの強大な魔力を持つ。

大変、執念深い性格をしており、自分を討伐したライドウに対し、相当な恨みを抱いている事は間違いなかった。

 

「知ってる。 ”悪魔の左腕(デビルブリンガー)”を調べている時、ちびっちまうぐらいの殺気を当てられた。」

「だったらどうして・・・・? 」

「俺がどんなに断ったところで、あの子が諦める訳が無いだろ? 周りをウロチョロされるのも迷惑だし、だったら目の届く所で監視した方が遥かにマシだ。」

 

魔具”サルガダナス”が封印されている封魔管を腰のポーチへと仕舞うと、ライドウはもうする事は無いと、さっさと丘を降りてしまう。

仕方無しに、主と同じく丘を降りるアラストル。

その顔は、不満と猜疑心の色を露骨に表していた。

 

 

 

 

フォルトゥナ城の裏門にあるフォルスの滝2階。

通路中央にあるオブジェに背を預け、ダンテが右腕に巻いた超小型高性能通信機で、依頼主に途中経過報告を行っていた。

 

 

『あれ程、慎重に動けと命令したのに・・・・まさかボスのサンクトゥスのドタマをぶち抜くとはな・・・・。』

 

通信相手である依頼主のケビン・ブラウンが、大分、呆れた様子で応える。

しかし、こうなる事は想定内だったのか、その声は何処かのんびりとしていた。

 

「騒ぎに乗じて、地下の研究施設に潜り込めるかと思ったんだよ。 」

 

全く悪びれた様子が無いダンテ。

 

実は、”グリューン”歌劇場を襲撃する前、一度、フォルトゥナ城の地下研究施設へと忍び込んでいた。

しかし、その前にライドウが侵入し、ビアンゴアンジェロとそれを率いるアルトアンジェロと交戦した為、警備がより厳重になってしまったのである。

それと、ライドウへの意趣返しという意味もあるが・・・。

 

 

『まぁ、やっちまったモンは仕方ねぇ・・・それより、ちゃんと俺の依頼はこなしてくれるんだろうなぁ? 』

「心配すんなよ?師匠(せんせい)。 アンタの依頼通り、”ゼブラ”の製造工場の場所と顧客データは、手に入れてみせるぜ。」

『頼むぜ、お前さんだけにしか任せられない仕事なんだからな。』

 

麻薬密売の犯罪を行っているのが、国である以上、外交上の問題で、ケビン達CSI(超常現象管轄局)は、手が出せない。

しかし、人間の護り手であるCSIが、人間を悪魔に変えてしまう危険な薬物を放置出来る筈が無かった。

それ故、凄腕と評判の便利屋であるダンテに依頼をしたのだ。

 

ダンテは、依頼主であるケビンとの定時連絡を終了すると、アームバンド型の超小型高性能通信機を切る。

先程、教皇暗殺と突如、市街地を襲った悪魔の騒ぎに乗じて、再度フォルトゥナ城へと侵入したが、目ぼしい成果を手に入れる事が出来なかった。

侵入者を警戒して、材料である”クリフォトの魔界樹”と研究データを丸ごと何処かに移したらしい。

ダンテの予想が正しければ、ミティスの森を通った先にある”魔剣教団本部”だろう。

銀髪の便利屋は、一度だけフォルトゥナ城を一瞥すると、ミティスの森へと続く洞窟の中へと入った。

 

 

 

フィルムの丘を抜け、第二採掘場へと足を踏み入れたライドウとネロ。

そこで、坑道内を徘徊している外道、スケアクロウの群に襲われた。

主の命令で、双剣へと姿を変える魔神・アラストル。

電雷の蛇を纏った刀身が、案山子の怪物を切り裂き、悪魔使いの火炎魔法が焼き尽くす。

そのすぐ傍らでは、小さな妖精を肩に乗せた若き魔剣教団の騎士が、機械仕掛けの大剣を巧みに操り、一匹一匹、確実に屠(ほふ)っていた。

 

 

(ちっ、やっぱり凄ぇなぁ・・・。)

 

スケアクロウの躰を真っ二つに両断したネロが、少し離れた位置で戦う悪魔使いを盗み見る。

舞う様に双剣を振るう悪魔使いの姿は、舞踊の様で美しく見る者を虜(とりこ)にさせた。

ネロも訓練校時代から、17代目・葛葉ライドウの噂ぐらい耳にしている。

5大精霊魔法を操り、三体の最上級悪魔(グレーターデーモン)を従える、魔導師職を全て取得した到達者(マイスター)。

上位悪魔と融合し、絶大な魔法力を手に入れ、悪魔特有の不老長寿の特性を持つ怪物。

何もかもが自分とはかけ離れている。

 

数分後、採掘場内を我が物顔で徘徊していた案山子の怪物は、影も形も消えてなくなった。

 

「何すかそれ? 」

 

双剣から蝙蝠へと姿を変えたアラストルが、手押し車に山と積まれた石の塊を手に取る主に言った。

 

「石油鉱(オイルシェル)だ。 この鉱物の中には微量ながら石油が混じっているんだ。」

 

ライドウの説明によると、この石油鉱は、特殊な抽出方法を使い、石油として生成する事が出来るらしい。

産出するモノが乏しいフォルトゥナ公国にとって、これが唯一の収入源となる。

 

(だが、妙だ・・・・この鉱石から微かだが魔力を感じる。)

 

まるで灰長石の様な形状をした石くれ。

しかし、その鉱物から微かではあるが、魔力の波動を感じた。

腰のウェストポーチから、筒状のカプセルを取り出す。

中には、トルマリンの様な鮮やかなネオンブルーの石が収まっていた。

 

「ソレ、もしかして”精霊石”スかぁ? 」

 

流石、魔王クラスの大悪魔だけあり、アラストルは魔導の知識に明るい。

カプセル内に入っているネオンブルーの石を見ただけで、ソレが一体何なのかあっさりと言い当てた。

 

「ああ、ちょっと試したい事がある。 」

 

ライドウは、右手に持っている筒状のカプセルを左手の義手で握っている鉱石に近づけた。

すると、灰色の鉱物に変化が起きる。

表面上の所々が、淡く光り始めたのだ。

 

「ま、まさかコレって・・・・。」

「ああ、間違いない、”精霊石”だ・・・しかも、この採掘場全体がな・・・・。」

 

同色の光を放つ石を見て、全てが理解出来た。

この石油鉱(オイルシェル)には、極微量ではあるが精霊石が混じっているのだ。

左手の義手が持っている石だけではなく、採掘場全体が同じ、ネオンブルーの光で瞬(またた)いていた。

 

「な、何だよ?コレ・・・・初めて見たぞ? 」

 

ネロは、周囲の異変に驚いていた。

友達がいないネロにとって、この採掘場は貴重な遊び場であった。

街の広場や公園に行けば、周囲の者達から奇異の目で見られる為、何時も此処で一人遊びに耽っていた。

義理の父親であるクレドに叱られた時とか、何か嫌な事があった時は、何時も此処に来て気分を落ち着かせていた。

 

「精霊石ね・・・・多分、ライドウの持っている結晶体に反応しているみたい。」

 

ネロの肩にすわる小さな妖精が、採掘場の天井に展開される大パノラマを見て、感嘆の溜息を零す。

ライドウの持っている精霊石は、彼の成分が含まれている鉱物から抽出したモノだ。

恐らく、ソレに共鳴したのか、この採掘場全体に含まれている精霊石が反応したのだろう。

 

「凄ぇ・・・・魔界でもこれだけの”精霊石の鉱脈”なんて無いっスよぉ。」

 

精霊石とは、各エレメンタルの精霊達が寿命を迎え、死ぬ事によって発生するエネルギーの塊だ。

それが地中へと染み渡り、結晶となる。

あらゆる魔法を吸収する能力があり、又、吸収した精霊石を敵にぶつけると同じ効果の攻撃を行う事が出来る。

魔導師達は、その特性を生かし、前もって各エレメンタルの魔法を吸収させ、護身用としていざという時に使用するのだ。

 

「ネロ、この採掘場が石油だけじゃなく、精霊石を抽出していた事を知っていたか?」

「し、知らねぇよ・・・餓鬼の頃から此処で遊んでいるけど、こんなん初めて見た。」

 

ライドウの問い掛けに、ネロがぶっきらぼうに応える。

悪魔使いは、その返事を聞くと粗末な手押し車に石油鉱を戻した。

 

ネロの様子を見れば、フォルトゥナ公国に莫大な精霊石の鉱脈がある事を知らなかったのが分かる。

恐らく、この国に住む一般市民達も知らないだろう。

その事実を打ち明けず、国の上層部が秘匿し続けていたからだ。

その理由は、一体何か?

 

「兎に角、今はフォルトゥナ城に行くしかない。」

 

腰のウェストポーチに精霊石が入っているカプセルを仕舞うと、フォルトゥナ城へと続く狭い通路へと向かう。

魔剣教団の若い騎士も、天然のプラネタリウムが消失したのを確認すると、悪魔使いの後に従った。

 

 

 

 

長いトンネルを抜け、フォルトゥナ城正門前に辿り着いた悪魔使い達。

途中、氷の悪魔”フロスト”に襲われ、行く手を阻まれたが、それでも大した怪我もせず、退(しりぞ)ける事が出来た。

 

城へと続く巨大な橋を渡る。

橋の中間辺りを歩いていた一同の目の前で、突然、城の上階から窓ガラスを突き破って何かが躍り出る。

空中を華麗に舞うソレは、外道・スケアクロウを器用に足で挟んだ一人の女性であった。

モデル並みに見事なプロポーションを持つその女は、宙で一回転すると逆エビ固めの状態で悪魔諸共、石造りの橋へと落下する。

凄まじい轟音と共に叩き付けられる悪魔。

その周りを、仲間を殺され怒りの雄叫びを上げるスケアクロウの集団が取り囲む。

悪魔をエビ固めの状態のまま、何処となく楽し気に見回す女。

襲い掛かるスケアクロウの群を華麗な後方宙返りで躱すと、眼前に突き出された巨大な刃の先端を両脚で挟み、一回転して地面に叩き付ける。

そして、ブーツに仕込んだ半月型の小型ナイフを取り出すと、躰の下に居る案山子の怪物に突き刺し、返す刃で別のスケアクロウの躰を切り裂く。

人間には、到底不可能なアクロバティックな動きだ。

恐らく、膂力(りょりょく)を魔法で底上げしているのだろう。

半月刀で、案山子の怪物を両断する。

そんな浅黒い肌をした美女の背後から、最後の一体であるスケアクロウが躍り掛かった。

その身体が突如、爆散する。

悪魔使いの投げたクナイが、寸分違わぬ正確さで、悪魔の弱点である心臓を貫いたのだ。

投げたクナイが、女の足元へと突き刺さる。

ゆっくりと背後にいるライドウ達へと振り返る女。

身に着けている服装から、魔剣教団側の人間である事が分かる。

 

「どうも、助かったわ。 」

 

女は、足元に突き刺さっているクナイを引き抜くと、ライドウ達の所へと近づいた。

胸元は臍の辺りまで開き、大胆に肌が露出した制服を着ている。

エキゾチックな色香を持つ浅黒い肌の女は、クナイの柄をライドウの方に向けた。

 

「教団の人間らしいが、見た事が無い顔だな? 」

 

クナイを受け取るライドウから少し離れた位置に立つネロが、訝し気に女を眺める。

 

「グロリアよ・・・・最近入団したばかりなの。 」

 

グロリアという女は、茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。

黒い毛並みの蝙蝠へと姿を変えたアラストルが、女の色香に当てられ、生唾を呑み込む。

一方、ネロの頭に座っている小さな妖精は、この女が気に入らない様子で、リスの頬袋みたいに膨らませていた。

 

「貴方が、”人修羅さん”とネロ君? 噂は色々と聞いてるわよ? 」

 

薄いアイスブルーの双眸が、呪術帯で左眼と口元を覆う悪魔使いと、若い教団の騎士を交互に眺める。

 

「噂ねぇ・・・・どうせ、悪い事しか聞いてないんだろ? 」

「そんな事無いわ、貴方はかつてこの国を凶悪な悪魔から救った英雄だと言われてる・・・17代目・葛葉ライドウさん。」

 

軽口を叩くライドウに、グロリアは悪戯っぽい笑みを口元に浮かべた。

 

「それにしても、コイツ等は一体何処から湧いて出るんだろうな? 」

 

女から視線を外したライドウが、足元に転がるスケアクロウの死骸を見下ろす。

死んだ悪魔は、実体化が保てず塵へと返る。

その例外に漏れず、案山子の怪物達も、跡形もなく塵へと変わり消えていた。

 

「不思議よねぇ・・・倒しても倒してもキリがないんだから。」

 

身を屈めた女が、ブーツに半月刀を収める。

露出したグロリアの太腿(ふともも)を見てしまったネロは、微かに頬を赤らめると慌てて視線を外した。

 

フィルムの丘では、人工的に創り出された地獄門があった。

もしかしたら、このフォルトゥナ城にも、同じ地獄門があるのかもしれない。

 

「俺達は、別の任務がある・・・・ソッチは君に任せるよ。」

 

女が敵か味方か分からない以上、余計な情報を与えるのは危険だ。

ライドウは、それだけをグロリアに告げると背後にいるネロ達をフォルトゥナ城へと促す。

そんな悪魔使いの背を静かに見守る浅黒い肌の女。

 

「どうか、神のご加護が貴方達にありますように・・・・。」

 

独り言の様にそれだけ呟くと、市街地に居る同胞達と合流するべく背を向けた。

 

 

 

光の広間1階。

室内の中央に、棺の様なオブジェが安置されているその場所に、悪魔使いとその仲魔二人、そして魔剣教団の若い騎士が脚を踏み入れた。

 

「ねぇ・・・・さっきの女ってさぁ・・・。」

「分かっている、彼女が何を企んでいるのか知らないが、今はダンテの後を追いかけるのが最優先事項だ。」

 

先程まで乗っていたネロの頭から離れた小さな妖精が、主である悪魔使いの耳元まで近寄る。

マベルが言いたい事は、何となく察する事が出来る。

ライドウ自身も、フォルトゥナ城門前で出会った女の正体を知っているからだ。

”グロリア”と名乗った女は、魔剣教団の人間ではない。

擬態魔法(シェイプシフター)で、別人に変身した何者かだ。

そして、その相手をライドウは良く知っている。

 

一同は、2階に上がって自画像の裏に隠された通路を通って、地下研究施設に向かう事にした。

 

「・・・・俺の親父ってどんな奴だったんだ・・・・? 」

 

大回廊を通った先、修練の塔1階。

それまで、黙って悪魔使いの後ろに従っていた銀髪の少年が、徐に口を開いた。

振り返ると、蒼い双眸には、大分、躊躇いの色が浮かんでいる。

 

「俺・・・餓鬼の頃から独りぼっちで、親父やお袋の悪い噂しか聞いて来なかった。”お前の親父は女にだらしないロクデナシ”で、”母親は、淫売の娼婦”だ・・・て・・・。」

 

幼い頃から、胸の中にずっと秘めていた想いを悪魔使いに吐露する。

何故、ライドウにこんな事を聞いてしまったのか、自分自身、良く分からなかった。

でも、父親とパートナーを組んでいたというこの悪魔使いならば、もっと違う一面を知っているかもしれない。

 

「俺に聞くよりも、幼馴染みのクレドからヨハンの事を聞いた方が良くないか? 」

 

クレドとヨハンは、互いの幼少期から魔剣教団に入団するまで、兄弟の様に過ごしている。

当然、3年弱しか付き合いの無い自分より、クレドの方がヨハンに詳しい。

 

「・・・・・親父が、ヒュースリー家の王位継承を叔父のサンクトゥスに譲り渡したのは、アンタが原因だって聞いてる・・・アンタが、親父を誘惑して自分の番にした・・・って・・・。」

 

大分、顔を紅くしたネロが、恨めしそうにライドウを睨む。

ヨハンが王位継承を自ら捨て、日本という異国の地に渡った事が、大分、腹に据えかねているのだろう。

もし、父親がフォルトゥナ公国に留まり、祖父であるバルムング卿の後を継いで次期教皇として収まれば、母・アンヌが蒸発する事も無かったかもしれない。

故に、ネロにとって父を誘惑し、日本へと連れて行ったライドウが、怨敵に見えても仕方が無いと言えた。

 

「おいおい、出鱈目もいい加減にして欲しいぜ・・・・俺は、お前の親父を誘惑した覚えはない。 アイツが勝手に王位継承を蹴っ飛ばして、日本に付いて来たんだ。」

 

呆れた様子で溜息を吐くと、ライドウは大袈裟に肩を竦める。

 

確かに、ヨハンとは”ソロモン12柱の魔神”討伐の為に、一時、仮番の契約は交わしていた。

しかし、討伐後は、契約を解除しているし、魔力供給を得る為の性行為も、お互い理解したうえで行っている。

身重のアンヌをこの国に置いて、日本に付いて来たのは、ヨハンの勝手な行動であり、決して自分が誘った訳ではないのだ。

 

 

「親父がどうしようもない糞野郎だってのは知ってる・・・・クレドも親父は騎士としては優秀だったけど、私生活に関してはだらしない所があった・・・って、でも、アンタならもっと違う親父の面を聞けると思ったんだ・・・・。」

 

思った以上の事が聞けなくて悔しいのか、ネロは唇を噛み締めてライドウから視線を外す。

物心ついた時から、顔も知らぬ父親。

母親も、2歳になるかならないかの時に、姿を消し、気が付けばネロの周りには誰も居なかった。

彼にとって、誹謗中傷に近い周囲の大人達の言葉だけが、父親と母親の事を知る唯一の情報だったのである。

 

「・・・・・っ!」

 

その時、殺気を感じたライドウとネロが、殆ど条件反射で左右に跳ぶ。

振り下ろされるスケアクロウの凶悪な刃。

気が付くと、周囲を外道・スケアクロウの集団に取り囲まれていた。

 

「アラストル。」

「了解ッス!」

 

悪魔使いが、黒い毛並みの蝙蝠、アラストルに命令する。

蝙蝠は、すぐに二振りの双剣へと姿を変え、主の両手に収まった。

一方のネロも、背負っている機械仕掛けの大剣を抜き放つ。

奇声を上げ、二人に躍り掛かる案山子の怪物達。

ライドウが、舞う様に悪魔の核(コア)を貫き、ネロが柄の部分を握り、推進剤を噴射させたレッドクィーンで、怪物を真っ二つにする。

 

 

「確かに、君の父親は、女性にだらしなくて、何時もバルムング卿にぶん殴られてた。」

 

自然と背中合わせに立つ二人。

ネロに背を向けるライドウが、遠い過去を懐かしむ様な目になる。

 

「でも、俺にとっては恩人だ・・・・彼は、人間(ひと)の道を外れた俺を元に戻してくれた。」

「親父が・・・・・? 」

 

ライドウの口から出た予想外の言葉に、ネロが驚いて目を見開く。

 

今迄、周囲の人間達から、両親の誹謗中傷を聞いて育って来た。

義理の父親であるクレドも、実父・ヨハンは、剣の技量こそ騎士団随一の実力を誇るが、私生活面では、異性にだらしがなく、幾ら注意しても聞く耳すらも無かったと聞いていた。

キリエは、”ソロモン12柱の魔神”から、この国を救った英雄の一人だから、周囲の心無い言葉に惑わされず、誇りに思った方が良いと言ってはくれるが、やはり、一度も顔を見た事も無い父親を信じる事等出来なかった。

 

 

「俺がこの国で”彼”に出会っていなかったら・・・きっと”人殺し”のままだったろうな・・・。」

 

スケアクロウの最後の一体を、難なく倒したライドウは、少し離れた位置に立つ銀髪の少年に笑い掛ける。

裏も表も無い、心からのその笑顔に、ネロは何故か救われた様な気がした。

 

 

 

修練の棟1階を突破し、2階へと上がった一同。

そのまま光の広間2階へと進み、壁一面を締める現教皇・サンクトゥスの自画像前に立つ。

その裏にある隠し通路へ行く前に、ライドウは背後にいる銀髪の少年へと振り向いた。

 

「一言忠告しておく・・・この先には、魔剣教団の秘密が隠されている。 つまり、この国の裏の顔を知る訳だ・・・・覚悟は出来てるか? 」

 

一応、確認だけは取る。

いくら魔剣士・スパーダと”霜の巨神”ヨトゥンの血を引いているとはいえ、ネロはまだ15歳になったばかりの少年だ。

幼い時から、教団の厳しい戒律に従って生きて来た彼にとって、フォルトゥナ公国の裏の顔を知るのは辛いだろう。

 

「アンタに付いていくって言った時から、覚悟は出来てるよ。 」

 

しかし、そんな悪魔使いの危惧を他所に、シニカルな態度はそのままに、ネロが肩を竦める。

 

「分かった・・・此処から先は、悪魔のスキルも段違いに上がる。 気を引き締めておけよ? 」

 

クレド達、魔剣教団に自分が、この地下研究施設に一度、忍び込んでいるのは当にバレている。

警備が厳重になっているのは当然として、もしかしたら大事な資材は別に移しているかもしれない。

昨日の今日だから、資材全ての移動は無理だが、”クリフォトの種籾”は、安全な場所に保管している筈だ。

 

 

長い螺旋状の階段を降り、地下研究棟へと足を踏み入れたライドウ達は、巨大な地下通路、技術局管轄区域へと進んだ。

 

刹那、殺気を感じたライドウが後方へ大きく跳ぶ。

間髪入れずに床から鋭い刃状の背びれを持った怪魚が飛び出した。

4年前、マーコフ家が所有していた薬品研究施設で、ライドウに襲い掛かった人造の悪魔、”カットラス”だ。

剣と魚を交配させ、魔導の技術で創られた人造の怪魚達は、悪魔使いと銀髪の少年の周りを取り囲む様に泳いでいた。

 

「何なんだよ? コイツ等・・・・? 」

 

魔剣教団の指示で、多くの悪魔達を戦って来たが、こんな形状の悪魔を見たのは初めてだ。

背負っている機械仕掛けの大剣を引き抜き、戸惑いの表情を浮かべて構えるネロ。

 

「悪魔と魔力を宿す武器で造り出した”ホムンクルス”だ。 」

「”ホムンクルス”? 」

「そうだ。 誰かが此処で人工的に悪魔を生み出している。」

 

代理番のアラストルを双剣へと変え、両手で構えるライドウ。

襲い掛かるカットラスの一体を巧みに躱し、カウンターで弱点である核(コア)を破壊する。

ネロもアクセル状の柄を捻り、推進剤で噴射量を極限まで高めた。

振り下ろされる機械仕掛けの大剣。

推進剤により倍加した斬撃が、カットラスの躰を真っ二つに切り裂く。

 

 

 

研究所地下、最下層-『魔剣の間』。

そこに右眼に金のモノクルを掛けた大柄な男がいた。

魔剣教団の技術局の総責任者、アグナスである。

 

彼は技術局管轄区域に設置されている、幾つかの監視カメラに映る小柄な悪魔使いと銀の髪を持つ10代後半辺りの少年を眺めていた。

 

「ううっ・・・・わ、私が長年研究し、作り上げて来た作品達をこうも簡単に破壊するとは・・・・・。」

 

アグナスが喉の奥で低く唸る。

 

闇社会に身を置くアグナスも、当然、17代目・葛葉ライドウこと”人修羅”の逸話は聞いた事がある。

誰もが成しえなかった”異界送り”の荒行を無事完遂し、『神殺し』という名を持つ魔王”アモン”を従えた最強の悪魔召喚術師。

左眼に全ての因果律を操る魔眼”帝王の瞳”を宿し、五大精霊魔法を操り、三体の最上級悪魔(グレーター・デーモン)を持つ怪物。

 

「予想通り、”人修羅”は此処に来たか・・・。」

「オイレ・・・・・。」

 

歯ぎしりしながら監視カメラの映像を眺めるアグナスの背に、聞き覚えのある声が掛けられた。

魔剣教団の諜報部主任、オイレだ。

目深にフードを被り、顔を隠した壮年の男は、自分より一回り以上デカイ、アグナスの真横に立った。

 

「ふむ? ”人修羅”と一緒に行動している小僧は何者だ? 見た所、我々と同じ教団の人間らしいが・・・? 」

「確か、ネロとかいう名前の騎士だ。 クレドが養子にしている・・・。」

 

それ程詳しい訳ではないが、クレドが養子として育てている少年の名前は聞いた事がある。

先代教皇、バルムング・ハインリッヒ・ヒュースリーの孫で、両親が死亡後、父親の幼馴染みであるクレドが引き取り育てた。

性格は、糞生意気の一言で、誰とも馴れ合わず、騎士団内でもかなり浮いていると聞く。

 

「そんな事より、教皇猊下はどうなった? ディヴァイド共和国の刺客にやられたと聞いたが。」

「案ずるな・・・”帰天の儀”が上手く行ってな・・・先程、目を醒まされたばかりだ。」

 

金のモノクルの下で、鋭く此方を睨む大男を、オイレが軽く窘める。

 

サンクトゥスは、自分達が描いたシナリオ上、無くてはならない大事な駒だ。

襲撃者の存在は、予想外ではあるが、”帰天の儀”を早目に執り行っていたのが不幸中の幸いと言えるだろう。

 

「全ては我等の計画通り進んでいる・・・お前は自分の与えられた仕事をちゃんとこなしてくれればそれで良い。」

 

オイレはそれだけを告げると、あっさりとアグナスに背を向ける。

そんな修道士の後ろ姿を、巨漢の科学者が忌々しそうに睨んでいた。

 

 

 

 

 

カットラスの群を全滅し、無事に技術局管轄区域を抜けたライドウとネロ。

暫く先へと進むと、二人はドーム型になっている実験室らしき場所へと辿り着いた。

 

「・・・・っ! 」

 

唐突に、左眼の魔眼が疼く。

 

「どうしたんスか? 人修羅様。」

 

主人の異変に、敏感に察知した黒い毛並みの蝙蝠が、心配そうに左眼を抑えるライドウの顔を覗き込んだ。

そんな、蝙蝠を他所に、魔眼が反応する場所へと視線を向けるライドウ。

自分達がいる実験施設の隣の部屋。

防弾ガラスで覆われた制御室と思われるその場所に、柄の部分で折れた日本刀の姿が確認出来た。

 

「・・・・? アレは、確かバージルが持っていた・・・・。」

 

培養槽に浮かぶその魔剣に見覚えがある。

古の塔”テメンニグル”。

その呪われし塔を復活させた、ダンテの双子の兄、バージルが持つ刀”閻魔刀”がそこにあった。

 

「ふっ・・・ふん、やはり此処まで来たか・・・まさに私の予想通りだな。」

 

折れた”閻魔刀”の前に一人の巨漢の男が現れた。

この研究所の責任者を務めているアグナスだ。

手には、数枚の研究書類が挟まったバインダーを持ち、右手に握ったペンで何かを書き込んでいる。

 

「ほう・・・どうやら、アンタが此処の責任者ってところかな? 」

 

軽口を叩くライドウ。

しかし、唯一覗くその隻眼は鋭く、自分達を見下ろしているアグナスを睨み付けている。

 

「わ、私の名は、アグナス。 う、裏方専門なのでね?教団内で私の事を知る人間は少ないのだよ。」

 

そんな悪魔使いを小馬鹿にしたかの如く、自己紹介をする巨漢の科学者。

恭しく一礼をすると、口元に残忍な笑みを浮かべた。

 

「ううっ・・・・・!! 」

 

そんな二人の会話を他所に、突然苦しみだす銀髪の少年。

呪術帯で巻かれている右腕を抑え、床に両膝を突く。

 

「どうしたの!? ネロ!!」

「わっ・・・・・分かんねぇ・・・・急に右腕が激しく疼いて・・・・。」

 

蒼白く明滅を繰り返す悪魔の腕。

自分では、コントロール不能な力の放流に翻弄され、ネロは亀の様に躰を丸めて、例える事が出来ぬ苦痛と恐怖に耐える。

 

「ま、拙い!!」

 

ネロの躰に起こっている異変に、逸早く気付くライドウ。

特殊な強化ガラス越しに、実験場を見下ろすアグナスも、この不足な事態を興味津々で眺めている。

 

悪魔化し、呪術帯で覆われた右腕の明滅は、実験場を眩く照らす程、激しくなっていた。

ゆらりと少年の躰から立ち上る蒼白いオーラ。

それは、雄々しき一本角を持つ鎧を纏った人馬へと姿を変える。

真紅の双眸が、右眼にモノクルを掛ける巨漢の科学者の背後。

培養槽に浮かぶ、真っ二つに折れた魔具”閻魔刀”へと向けられる。

 

『力・・・・・・我ガ求メタ力ヲ感ジル・・・・。』

 

人馬は、鎧で覆われた右腕を培養槽に浮かぶ折れた魔具へと向ける。

開かれる掌、ソレに反応するかの如く、折れた”閻魔刀”も強烈な光を放つ。

 

「いっ、いいいいい一体何事? 」

 

極度の興奮状態で、吃音が更に酷くなるアグナス。

巨漢の科学者が背後へと振り返るのと、培養槽の強化ガラスが砕け散るのは、ほぼ同時であった。

余りの衝撃で、吹き飛ばされる大男。

光の球体となった”閻魔刀”が、特殊強化ガラスを破壊し、蹲る銀髪の少年へと向かう。

 

「ネロ!! 」

 

ライドウとマベルの悲痛な叫び。

真っ二つに折れた”閻魔刀”が瞬く間に再生し、銀髪の少年の右腕へと収まる。

 

蒼白いオーラを纏った若き騎士が、ゆらりと立ち上がる。

感情の無い、能面の様な相貌。

真紅の瞳が、少し離れた位置に立つ悪魔使いと番である黒い毛並みの蝙蝠へと向けられる。

そこに少年自身の意志が無い事は一目で分かった。

”閻魔刀”の力で、呪術帯の呪縛から解き放たれた悪魔の腕には、しっかりと再生した刀が握られている。

 

『久し振りダナ? 人修羅・・・・。』

「・・・・・っ、アムトゥジキアス。 」

 

ネロの肉体を借り、凶悪な笑みを浮かべる”ソロモン12柱”の魔神。

今から約17年前・・・・・12柱の中でも強の者として知られる己自身をあの小さな霊廟へと封じ込めた憎き悪魔召喚術師が目の前にいる。

絶対に逃がさぬ。

我が受けし屈辱を、その身体で思い知るが良い。

 




投稿が大分遅れてしまいました。
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