偽典・女神転生~フォルトゥナ編~   作:tomoko86355

8 / 21
魔具紹介

『閻魔刀』・・・・バージルが父・スパーダから譲り受けた魔剣。
”人と魔を分かつ”力があり、時空すらも両断する。

魔槍 ゲイ・ボルグ・・・・『エリンの四秘宝』の一つ。
今回は出番なし。


第7話 『堕天使・アムトゥジキアス 』

私はイスラエルの王に従えし、12柱の魔神の一人であった。

神から授けられし、優れた知識を持つ我が主は、東地中海沿岸の地を支配し、強大なヘブライ王国を築いた。

しかし、あれ程繁栄の詠歌を極めた主の大国は、愚かな息子、レハブアムによって潰された。

ヘブライ王国は、積もりに積もった不満を噴出させた俗物共によって、南北に分裂し、崩壊してしまったのだ。

私は、他の同胞達と同じ様にレハブアムを見限り、新たな主を求めて各地を転々とした。

そして数百年後、北の最果ての地で腰を据えたのである。

 

 

『我ニ屈辱ヲ与エシ憎キ敵・・・・・コノ積年ノ恨み晴ラシテクレル。』

 

青い炎によって焼き払われる深紅の呪術帯。

その下から、魔具”閻魔刀”を握る禍々しい悪魔の腕が姿を現す。

 

「ヤバイっすよぉ・・・あの餓鬼、完全に意識を乗っ取られている。」

 

ライドウの傍らにいる黒い毛並みの蝙蝠が、主である華奢な悪魔使いに小声で耳打ちする。

一目見て、ネロが正気で無い事は明らかであった。

赤く光る双眸が、少し離れた位置に立つ小柄な悪魔使いを見つめている。

 

「ネロ!ネロってば!お願いだから正気に戻って!! 」

 

主の傍へと避難した小さな妖精が、懸命に呼び掛ける。

しかし、その声が少年の心に届く事は決して無かった。

アムトゥジキアスの瘴気が、少年の精神を覆い隠し、分厚い壁となってマベルの声を阻む。

 

 

一方、そんな彼等のやり取りを魔剣の間で眺める巨漢の科学者。

懐から出した分厚い手帳を取り出し、ページを捲る。

 

「やっ・・・・やはり、アレは”ソロモン12柱の魔神”、堕天使・アムトゥジキアスか・・・。」

 

ページに貼り付けられてある古文書のイラストと、銀髪の少年の背後に立つ魔神の姿を交互に見比べ、アグナスが呻く様に呟く。

 

堕天使・アムトゥジキアスは、今から17年前に、フォルトゥナ公国に突如として現れ、多くの市民を殺害した恐るべき悪魔だ。

当時、この国を統治していたサンクトゥスの兄、バルムングは事態を重く見て、外部から救援を要請した。

多くの秘密結社を束ねる魔導師ギルドは、一人の悪魔召喚術師をフォルトゥナに派遣する。

それが、17代目の銘(な)を襲名したばかりのライドウであった。

 

「し・・・しかし、あの悪魔は”ミティスの森”にある霊廟に封じられていた筈? 」

 

記録が正しければ、17代目・葛葉ライドウとクレド達魔剣教団の騎士達、そしてネロの実父であるヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーによって、堕天使・アムトゥジキアスは、霊廟へと封印された事になっている。

それが何故、ヨハンの息子であるネロに憑依しているのか。

 

「だ、だが、これはこれで面白い・・・・・き、きききき記録に残さねば!」

 

”ソロモン12柱”の魔神など、滅多にお目に掛かれる代物ではない。

何時もの研究意欲へと取り憑かれた巨漢の科学者は、急いで立ち上がり、何処かへと姿を消した。

 

 

 

「マベル、手を貸してくれ・・・・”脳侵食(ブレインジャック)”を仕掛ける。」

「ら・・・・ライドウ。」

 

主の予想外の申し出に、小さな妖精は思わず戸惑う。

誰の目から見ても、ネロがソロモンの魔神に支配されているのは明らかであった。

悪魔化は、右腕だけに留まらず、右肩から頬にまで及んでいる。

このまま放置すれば、完全にアムトゥジキアスに乗っ取られ、怪物になってしまうだろう。

 

「むっ、無茶ッスよ! そんな事したら、今度は人修羅様が帰って来られなくなっちまう! 」

 

悪魔使いの番である漆黒の蝙蝠が、慌てて止める。

当然だ。

あんな状態のネロに精神ダイブなど、自殺行為に等しい。

 

「分の悪い賭けだってのは百も承知だ。」

 

殺意に濡れた真紅の双眸を此方に向ける少年を、ライドウは静かに見据える。

その視線が、ネロが右腕に持つ魔具『閻魔刀』へと移動した。

 

『閻魔刀』の能力は、”人間”と”魔”を断つモノ。

ならばその力を利用すれば、堕天使アムトゥジキアスからネロの精神だけを切り離す事が出来るのではないか?

上手くいくかどうかは、正直分からない。

しかし、多少のリスクを冒してでも試してみる価値は必ずある。

 

 

 

大きな柱時計の音。

その音にネロは、閉じていた目を見開いた。

 

「此処は・・・・・何処だ・・・・・? 」

 

今迄、自分は魔剣教団の地下研究施設に居た筈だ。

見ると、六連装大口径リボルバーの”ブルーローズ”と愛刀の機械仕掛けの大剣”レッドクィーン”が影も形も無く消え失せている。

 

「ネロ、そんなに走ったら転ぶわよ? 」

 

聞き覚えのある女性の声に、ネロは伏せていた顔を上げた。

視線の先に、リビングルームで幼子を抱き上げる女性の姿が映る。

見事な金色の髪に、新雪の如き白い肌。

美しく整った容姿に、ネロは見覚えがあった。

実母、アンヌだ。

 

狭いリビングルームをヨタヨタと覚束ない足取りで走る幼い自分を、母がその腕で優しく抱き上げる。

 

「母さん・・・・・。」

 

自分をあやしながら、リビングルームにある質素な椅子に座る母。

無意識に足が、母親の側へと近づく。

しかし、そんな成長した息子の姿が見えないのか、アンヌは腕の中に居る我が子に柔和な笑みを向けているだけであった。

 

「パパ・・・・パパ・・・。」

 

覚えたての言葉を何度も繰り返す幼い自分。

そんな息子の姿に、一瞬哀しそうな瞳をしたアンヌが、椅子の傍に置かれているテーブルへと視線を向けた。

 

「パパは今、遠い異国の地にいるの・・・・大事なお仕事の為にね・・・・。」

 

独り言の様にアンヌが呟く。

いくら籍を入れていないとはいえ、アンヌにとってヨハン・ハインリッヒ・ヒュースリーは、愛する夫だ。

その夫は、今現在、海を越えた島国、日本に居る。

理由は唯一つ、”人修羅”という通り名を持った17代目・葛葉ライドウを追い掛けてだ。

王位継承権を捨て、そればかりか愛する家族であるネロとアンヌをも捨てた酷い人。

否、本人にそんなつもりは毛ほども無いのかもしれない。

ちゃんと近況報告を知らせる手紙を送るし、電話での連絡も怠ってはいない。

彼は自分が決めた事を必ず行動に移し、そして最後までやり遂げている。

ヨハンは、『本物の天才』であり、周囲の人間の迷惑など一ミリとて汲み取れない、ある種不器用な男なのだ。

 

哀し気な表情で、テーブルの上に乗った手紙を見つめる母親と、その腕に抱かれた幼い自分の姿が掻き消える。

一瞬の暗転。

次に目を醒ますと、そこは生まれ育った生家ではなく、フォルトゥナの首都に近い児童養護施設らしき場所の一室であった。

 

足元に殴り飛ばされた10歳未満の少年が、大の字に倒れる。

慌てて後ろへと一歩下がるネロ。

見ると視線の先に、右頬に絆創膏を貼った銀の髪をした少年が立っていた。

7歳に成長した自分自身だ。

怒りの形相で、顔面を血で朱に染め、大の字に倒れて気絶している年上の少年を睨み付けている。

そして、その視線が倒れている少年の仲間と思われる数人の子供達へと向けられた。

皆、怯えた表情で、倒れている少年とネロを遠巻きにして見守っている。

騒ぎを聞きつけて来た指導員らしき教師達が数人、室内へと入って来た。

血塗れになって倒れ伏している少年を目の前に、大人達は一斉に非難の視線を銀色の髪をした少年、ネロへと向ける。

 

「離れるんだ!ネロ! 」

 

大柄な体躯をした男性教師が、ネロと少年の間に割って入る。

それを合図に、同じ男性教諭二人が、ネロの躰を抑え付けて怪我をした少年から遠ざけた。

 

「何故、こんな事をしたんだ?ネロ。 どんな理由があったのか知らないが、暴力を振るうのは最低な人間がする事なんだぞ? 」

 

黒縁眼鏡をかけた、温厚そうな男性教諭がネロの視線の高さまで身を屈めると、優しくそう諭す。

しかし、ネロは一言も応えない。

切れる程、唇を噛み締め下に俯いているだけだ。

 

「ソイツがいきなりミハイルを殴ったんだ! 何にもしてないのに!やっぱり悪魔なんだよ!! 」

 

遠巻きに事の次第を見守っていた野次馬の一人が、ネロを指差しそう言った。

教室内に居る子供達も同意見なのか、非難の視線を一斉にネロへと向けている。

 

”悪魔・・・化け物・・・・ヒュースリー家の忌み子・・・・。”

 

辛辣な言葉が無数の槍となって、ネロの幼い心を容赦なく抉る。

 

「そうか・・・・君は、実の両親に捨てられちゃったんだね? 」

 

周囲から、云われなき誹謗中傷を受ける幼い自分自身を黙って見つめているネロの背に何者かの声が掛けられた。

振り返ると、室内に置かれた馬のヌイグルミがネロを見上げている。

 

「可哀想に・・・・父親は”人修羅”の魔性に魅入られ、君とお母さんを捨てた・・そして、今度は子育てと日々の生活に疲れ果てた母親が蒸発・・・同情するよ。」

 

馬のヌイグルミは、器用に二本足で立ち上がると、ネロの傍らまで近づく。

 

「お前は・・・・・? 」

「僕? 僕は、君自身さ・・・・ホラ、あそこを見てごらん。」

 

ヌイグルミが前脚で、前方を指し示す。

釣られてそこへ視線を向けるネロ。

見ると真紅の呪術帯で右眼以外を覆った小柄な悪魔使いの姿があった。

 

「アイツが全ての元凶だ・・・・君の大事な家族を滅茶苦茶にしただけでは飽き足らず、今度は、クレドとキリエ・・・そしてこの国に住む人々にまで不幸を撒き散らそうとしている。」

「・・・・・・・。」

「アイツを放っておいたら皆が不幸になる・・・・そうなる前に・・・・分かるよネ?」

 

そこまで告げた馬のヌイグルミが、コテンと横に倒れる。

唇を噛み締め、下に俯くネロ。

ゆっくりと上げたその双眸は、禍々しい真紅の色へと変わっていた。

 

 

 

戦いは、あまりにも唐突に始まった。

怒号を上げ、右手に持った魔具『閻魔刀』を一振りするネロ。

刃から発生する衝撃波を、ライドウが真横に跳んで躱す。

続く、第二撃と第三撃。

それら全てを紙一重で躱したライドウが、八角棒手裏剣を地面に突き刺す。

 

「左青龍避万兵 (させいりゅうひまんぺい)」

 

口内で低く呪文を呟き、大きく跳躍。

魔法によって膂力を倍にした悪魔使いが、銀髪の少年の頭上を跳び越え、反対側へと降り立つ。

 

「右白虎避不祥 (うびゃっこひふしょう)」

 

手首に仕込んである棒手裏剣を引き抜き、呪文と共に地面に突き刺す。

そんな悪魔使いに怒りの雄叫びを上げる少年。

『閻魔刀』から無数の斬撃を放つが、そのどれもが悪魔使いに致命傷を負わせる事は敵わなかった。

悉く躱され、実験室内の壁や床を抉るだけ。

 

「前朱雀避口舌 (ぜんすざくひこうぜつ)」

 

斬撃を躱し、着地した床に八角棒手裏剣を深々と突き刺す。

一向に此方に攻撃を加えぬ悪魔使いに、怒りの咆哮を上げる銀髪の少年。

ありったけの魔力を『閻魔刀』の刃先に込め、小柄な悪魔使いに向かって解き放つ。

辛うじて躱したものの、衝撃波をまともに浴び、大きく吹き飛ばされるライドウ。

容赦なく実験室の硬い壁に叩き付けられ、そのまま床に落ちる。

 

 

「人修羅様!! 」

 

蝙蝠の姿から、元の悪魔の姿へとアラストルが戻る。

漆黒のキャソックを纏った浅黒い肌の青年が、主の元へと近づこうとした瞬間、倒れていたライドウが手で制止した。

 

「来るな! 俺の事なら心配ない!! 」

 

何処かで斬ったのか、額から血を流し、顔を覆う真紅の呪術帯と襟元を汚す。

壁に手を突きヨロヨロと立ち上がるライドウ。

流石、魔剣士”スパーダ”と”霜の巨神”ヨトゥンの血を色濃く引いているだけはある。

斬撃の余波だけで、これ程のダメージを負ってしまった。

 

「こんな所で終わらせるには惜しい・・・・・。」

 

右手首に仕込んだ八角棒手裏剣を取り出し、構える。

狙う場所は既に決まっている。

 

そんな悪魔使いと対峙する、銀髪の若き魔剣教団の騎士。

ソロモン12柱の一人に精神を支配された彼に、最早誰の声も届く事は無かった。

 

「後、もう一か所・・・・・。」

 

堕天使アムトゥジキアスに支配された銀髪の少年を目の前に、悪魔使いは素早く周囲に視線を巡らす。

すると、ある一点に視線が止まった。

 

「そこだ!!」

 

何の迷いも無く、棒手裏剣を投擲する。

少年の頬を掠め、寸分の狂いも無く、棒手裏剣が壁の四隅へと突き刺さる。

 

「馬鹿メ・・・何処ヲ狙ッテイル・・・・? 」

 

最早、人間としての思考すらも奪われたネロが、皮肉な笑みを口元に浮かべる。

しかし、見当違いな場所へと手裏剣を投げた悪魔使いに、一切の動揺の色は見られなかった。

逆に、大胆不敵な笑みを口元に浮かべ、右手人差し指をそこに当てる。

 

「狙いは、ドンピシャだよ・・・・・後玄武万鬼 (ごげんぶばんき)、急々如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!!」

 

刹那、先程投げた棒手裏剣を始点に光の線が走る。

それは各所に突き立つ棒手裏剣を巡り、堕天使に支配された少年を取り囲んだ。

 

「コ・・・コレハ、四神封印ノ結界!! 」

 

結界の丁度中央に立つソロモンの魔神は、身動きが一切取れず、狼狽する。

無意味に只逃げ回っていたかの様に見えたライドウであったが、その実、自分の動きを封じる為に、結界を作っていたのだ。

 

怒りの表情を浮かべた魔神が、結界に力を奪われ、力無く片膝を突く。

そんな堕天使の傍らへとライドウが、音も無く近づいた。

 

「待ってろ、今助けに行くからな・・・・?」

 

跪く銀髪の少年と同じ高さに身を屈めた悪魔使いが、その額に右掌を置く。

そして、精神ダイブのサポート役である小さな妖精に目配せした。

 

『脳侵食(ブレインジャック)!』

 

双眸を閉じ、ネロの精神世界へとハッキングする悪魔使い。

一筋の光すらも刺さぬ暗闇の谷底へと落ちていく感覚。

怒り、恐怖、嫉妬、妬み。

ありとあらゆる負の感情が、ライドウの躰を容赦なく貫く。

 

流されては駄目だ・・・・・感情の暴風に抗わねば、二度と現実世界に戻れなくなる。

歯を喰いしばり、耐えるライドウ。

すると、落下する感覚が突然、消え失せた。

どうやら目的の場所へと到着したらしい。

ゆっくりと閉じていた双眸を開く。

すると、罅割れたアスファルトの大地が、ライドウの視界に広がった。

 

「此処は・・・・まさか”フォルトゥナ”か・・・・?」

 

俯いていた顔を上げ、破壊され尽くした街並みを見渡す。

あれ程、美しかった首都”ヴァイス”の街は、見るも無残な姿へと変わり果てていた。

ガラス窓が全て砕かれた店、道路には壊れた車が乗り捨てられ、人影すらも何処にも見当たらない。

 

これが・・・・若き魔剣教団の騎士、ネロの情景なのだ。

 

 

「こんな所まで乗り込んで来るなんて、本当、感心するね。」

 

聞き覚えのある声に、ライドウが背後へと振り返る。

するとそこには、巨大な肉の塊の上に座る一人の少年がいた。

魔剣教団の騎士、ネロだ。

 

「アムトゥジキアス・・・・か・・・・。」

 

鋭い探知能力が、肉の塊の上に座る少年がネロではない事を知らせる。

恐らく、憑依している相手の姿形を似せたのだろう。

 

「ネロは何処だ・・・・? 応えろ。」

「ふん、相変わらず無礼な奴だな・・・・お前の探している餓鬼は、僕の真下に居るよ。」

 

嫌悪感丸出しに秀麗な眉根を寄せた堕天使が、自分が座る肉の塊の真下を指差す。

ライドウが、そこへ視線を向けると、肉の塊に下半身を呑み込まれた銀髪の少年の姿があった。

 

「ネロ!」

 

思わずネロの傍らへと近づき、だらりと力無く垂れた両腕を掴む。

懸命に呼び掛けながら、腕を引っ張るが、当の少年は白目を剥いた状態で、正気に戻る様子は無かった。

 

「ネロ!しっかりしろ!自分自身を保たなければ、悪魔に喰われちまうぞ!!」

 

ガクガクと激しく痙攣を繰り返すネロに、ライドウが大声で呼び掛ける。

しかし、それでも、少年は堕天使の呪縛から逃れる事が出来なかった。

 

「無駄だよ・・・コイツの心は、半分以上、僕に喰われている。」

 

無駄な足掻きを繰り返す悪魔使いに、アムトゥジキアスは軽蔑しきった眼で眺める。

そして、指をパチリと鳴らした。

地面から無数に生える肉の槍。

悪魔使いの躰を容赦なく抉る。

 

「ガハッ!! 」

 

右肩、左脇腹、そして右の太腿を貫く肉の槍。

鮮血がアスファルトの地面を汚す。

 

「お前も取り込んでやるよ・・・人修羅。その”アモンの瞳”は僕が有効的に使ってやる。」

 

口元に醜悪な笑みを浮かべ、肉の塊の上に座るネロと瓜二つの姿をした魔神が見下ろす。

口元を覆う真紅の呪術帯が、吐き出された血でどす黒く染まる。

躰を深々と抉る肉の槍。

しかし、ライドウは決して若き魔剣教団の騎士の両腕を離す事はしなかった。

 

「へっ・・・・お前如き三流悪魔じゃ無理さ・・・・・”アモン”を支配出来るのは、俺だけだ・・・。」

 

呪術帯に覆われた左眼から、蒼い炎が噴き出す。

それに呼応するかの如く、アムトゥジキアスが座している肉の塊の一点。

そこから蒼白い光の刃が貫いた。

 

「何!? 」

 

予想外の出来事に、ネロと瓜二つの姿をした魔神が驚いて双眸を見開く。

光の刃の正体は、魔具『閻魔刀』であった。

肉の塊から突き出た魔剣に右掌を向けるライドウ。

『閻魔刀』はそんな悪魔使いに応えるか如く、開かれた掌へと吸い込まれた。

魔剣の柄をライドウがしっかりと握る。

 

「知ってるか? この魔具の能力は”魔と人を分かつモノ”・・・つまり、貴様とこの子の心を切り離す事が出来るんだよ!」

 

何の躊躇いも無く、地面に『閻魔刀』を突き立てる。

そこを始点に大きく罅割れる大地。

フォルトゥナの首都”ヴァイス”の街が、真っ二つに切り裂かれる。

 

「うっ・・・・嘘だ・・・・魔具にこんな能力何てない。これじゃ・・・・これじゃまるで”神器(デウスオブマキナ)”じゃないか!」

 

自ら創り出した世界が、あっけなく崩壊していく。

ボロボロと砕けていく自らの手を驚愕の表情で見つめる魔神。

怒りの形相で、肉の塊から銀髪の少年を引きずり出そうとする悪魔使いを睨み付ける。

 

「くそぉ!その餓鬼が駄目なら、お前を取り込むまでだ!!」

 

ライドウの躰を貫く肉の槍が、触手へと変わり、悪魔使いの四肢へと巻き付く。

触手から生える植物の様な管。

ソレがライドウの躰へと突き刺さり、毒の液を吐き出す。

 

「アハハハハハハッ! どうだぁ? 苦しいだろ? 僕の瘴気を直接お前の体内に流し込んでいるんだからなぁ。 直に精神が腐り爛れ、まともな思考すらも保てなくなる。そうなったら、この餓鬼の躰を捨てて、お前に乗り換えてやるよ。」

 

悲鳴を上げ、のたうち回るライドウを、実に楽しそうにアムトゥジキアスが眺めていた。

だが、その表情が一瞬で凍り付く。

ゆっくりと視線を悪魔使いから、己の胸元へと移す。

するとそこには、鈍色に光る刀の切っ先が貫いていた。

 

「そんな事させるかよぉ・・・この糞悪魔が!! 」

 

何時の間にアムトゥジキアスの背後へと忍び寄っていたのか、魔神の背後に銀色の髪をした少年が立っていた。

手には、魔具『閻魔刀』をしっかりと握り締めている。

 

「俺の中から失せろ!糞堕天使!! 」

 

『閻魔刀』の力によって正気に戻ったネロが、尚も刃を魔神の躰へと捩じり込む。

少年の魔力に反応し、眩く光る刀身。

それは『ソロモン12柱』の魔神を包み、更にはネロの精神世界全てを真っ白に染めていった。

 

 




投稿が大分遅れた上に、文章が短くなってしまいました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。