TSヤンデレ配信者は今日も演じる   作:龍流

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期間終了したので匿名解除しました
ご指摘を受けたので、景ちゃんのTシャツを『アサガヤ』から『東京』に変更しました


バトロワ配信と天使の布石

 配信者の夜は遅い。

 わたしだって花の17歳。ぴちぴちの女子高生である。昼は学校があるわけで、自由な時間っていうのは中々存在しない。お勉強して配信して学校行って寝て起きてごはん食べて景ちゃんとイチャイチャして学校行って……。わたしの毎日は、中々に多忙である。

 時間は作るものっていうけど、いやほんとその通りだと思うね、うん。ちゃんと時間を作らないと景ちゃんに会いに行けないし、自分の趣味の時間も作れやしない。まったく世知辛い世の中だぜ……

 なのでまあ、とりあえず。趣味の時間は仕事を兼ねるに限ります。

 

「あー、みんなどこ降りるのかな~」

 

 こうして今晩も、わたしはお仕事(ゲーム)に勤しんでおるわけですよ。

 本日の配信用にセレクトしたのは、パラシュートで降下して武器や装備を拾い、最後の一人まで殺し合う……いわゆる『バトロワ系』のゲームだ。わたしは『ミッドナイトデビル』という中二病コテコテのプレイヤーネームで遊んでいる。そこそこやり込んでいるし、運営への感謝も込めてかわいい衣装スキンにお金も貢いでいる。とはいっても、決して廃人ではないし、廃課金でもない。断じて、断じて違うのでそこんところよろしく。

 このゲーム、スマホでやれるお手軽さもあってか、(ちまた)でも結構流行っていて、視聴者の反応がいい。なので、ネタに困った時なんかによく重宝している。プレイヤーを募集して同じチームでワイワイやったり、あとは他の配信者さんとコラボ企画をやったりもできる。まあ、今日は1人でチーム戦に潜っているんだけど……なかなか勝てない日ですね、これは。

 

「さてさて、どうしよっかな、と」

 

『そろそろドン勝が見たい』『眠くなってまいりました』『ユアユアの顔はずっとみてても飽きないわ』『都心降りようぜ都心』『明日も社畜のつらみ』『ニートデビューしようぜ』

 

「ドン勝したいよね~。あ、眠くなった人は寝ちゃっても全然大丈夫だからねー。明日もあるし」

 

 まだまだコメント欄は元気だけれど、わたしも明日があるし、ちょっと眠くなってきたのは否定できない。眠気を押し殺しつつ、降下準備までの時間を雑談しながら潰す。

 と、そこに。わたしのキャラの周りをぐるぐると回る変なキャラが1人、やってきた。あー、待機所で煽ってくるヤツ、鬱陶しいんだよなぁ……この人、同じチームみたいだけど、Tシャツにパンツの初期装備だからマジで初心者っぽいし。これは今回も、勝つのは厳しいかな……? 

 画面がヘリコプターに切り替わり、島の全体図をマップで確認する。野良のマッチングでもボイスチャットはつけられるし、普通に知らない人と喋るプレイヤーさんもいるんだけど、まあみなさんボイチャは切っていらっしゃいますね、仕方ない。

 

「めんどくさいから、都心降ります~」

 

 マップにピンを立てて、他のプレイヤーに降りる場所を示す。

 わたしが指定したのはマップのど真ん中の市街地。武器も物資もいっぱいあるけど、その代わり人もうじゃうじゃ降りるクソみたいなエリアだ。死亡フラグ全開ってやつである。

 

『勝負投げたぞ』『死亡フラグ乙』『こういう思い切りいいとこすき』『誰もついてこないだろ』

 

 若干冷めていたコメント欄の熱が再燃する。

 

「うるさーい。わたしは都心で無双するんじゃ! 見とけよ見とけよ~?」

 

 ちなみに今回、わたしが選んだのは『スクワッド』。4人チームで協力して戦い抜いていくモードだ。でも、野良のマッチングはそんなに連携に期待できない。案の定というべきか。わたしの指定したポイントで降下してくれるプレイヤーさんは……

 

「あ。降りてくれた」

 

『やさしい』『自殺に付き合う優しさ』『ユアユア、そこそこ上手いからワンチャンあるっしょこれ』『あるか? ほんとにワンチャンあるか?』『これ初心者だからついてきただけだろ』『死んで得る絆』

 

 さっき、待機所でわたしの回りをぐるぐる回っていた、あのプレイヤーさんだ。えーと、名前は……サウザンドエンジェル? 強そうだなオイ。

 

『名前草』『ユアと同じくらいの痛さ』『これは同類』

 

「うるさいよ!」

 

 コメントを拾ってツッコミつつ、わたしと似たようなネーミングセンス(?)をお持ちの『サウザンドエンジェル』さんに「ありがとう」とメッセージを送る。

 

「よいしょっと。うーん、天使さんちょっと距離離れてるかな~」

 

 さてさて、降下完了なわけですが。あの天使さん、悪い人ではないみたいだけど、やっぱり初心者さんみたい。なんか全然、狙った場所に降りることができてないみたいだし。できればもうちょい近くにいてほしかったんだけど、まあ……致し方なし。ここは1人でがんばるとしましょう。

 

「うわ……足音めっちゃ聞こえる。絶対たくさんいるじゃんもうやだ~」

 

 マンションの屋上に降りてみたのは良いけれど、さすがはマップの中心というべきか、わんさか敵がいらっしゃる。考えなしに1人で突っ込んで死ぬほど馬鹿ではないので、わたしは屋上から隣のマンションへジャンプ。窓の縁に飛び移った。ちょっとした高等テクニックである。

 

「……って、こっちにもいっぱいいるし! 足音しか聞こえないし! もぅ~!」

 

『よくある』『まわりは敵だらけ』『知ってた』

 

 逃げた先が安全な場所とは限らない。さっきのマンションと変わらない足音の多さにうんざりしつつ、わたしは窓を叩き割って部屋の中に入った。

 ヘルメットはレベル1。ベストもレベル1。リュックはなし。あと……

 

「武器は……これだけね、はいはい」

 

 足音が近づいてくる。

 画面越しに『期待』の感情が突き刺さる。

 唯一、落ちていたサブマシンガンを拾い上げるのと、同時。迂闊に部屋の中を覗き込んできた敵の顔面に向けて、弾丸を一連射分、浴びせかけた。ヘッドショットで即死。

 

 ニヤっと。声のトーンを意図的に抑えて。わたしは低く呟いた。

 

「1人目、おわり」

 

 瞬間、肌を撫でる感情の感触が、目に見えて変化する。

 

『ナイスー』『実に鮮やか』『性格変わってる』『イケボ』『この顔すき』『鍛え上げられた鮮やかなエイム』『べつにこれくらい普通でしょ』『でも顔と声が良い』『気持ちいい』『いけいけー!』

 

 うん。やっぱりこれで正解だ。

 反応を確かめて、少し満足する。

 倒した敵から物資を奪いたかったけど、欲張るとろくなことにならないのは目に見えているので、さっさと窓枠に退避する。壁にはりついていると、また足音が聞こえてきたので、室内に入ってきたところを狙って、窓から攻撃。即死じゃないけど、ボディにしこたま弾丸を食らって膝をついた。これで2人目っと。

 

『マジで無双』『ナイスー』『うまい』『窓待ち陰キャ戦法』『これをリアタイで顔色変えずにやれるのがすごい』『声と視線がマジ』『2人目ナイス~』『あと何人だ?』『ワンパじゃないよね』『まだいるっしょ』

 

「そうなんだよね。今回スクワッドで降りてるから、まだいるよね絶対。少なくともあと2人はいるはず……多分隣のやつかな~?」

 

 殺したやつから物資を漁って、手早く装備する。

 

「物資あんま強くないな~ていうか、9ミリないのがすごいつらい……」

 

『それはしかたない』『がんばれー』『片方アサルトだからまだマシ』

 

 室内で撃ち合いならサブマシンガンの方が好きなんだよなあ。もう弾があんま残ってないのが悲しいところだ。

 

「べつの階、もう漁ったあとかな?」

 

 淡い期待を抱きながら下に降りてみると、隣のマンションの2人組がもうこっちを見つけていた。

 

「やっば……」

 

 嵐のような銃撃が降りかかる。

 何発か受けながらも、ギリギリで建物の影に隠れた。

 

「うひゃぁ……回復もあんま持ってないんだよね……これはしんどい」

 

 このまま隠れてやり過ごしていれば、とりあえず死なないけれど……それにも、限界がある。さっきまでわたしが複数人相手に有利を取れていたのは、居場所を悟られずに不意打ちに徹していたからだ。絶え間ない射撃で釘付けにされてしまうと、もうどうしようもない。

 

『オワタ』『ピンチ』『これ無理だろ』『手榴弾で終了』『2人は倒したからがんばったよ』『投げ物あったら死ぬ』『逃げればワンチャン』『これはしんどい展開』『よくがんばった』『最後突っ込もうぜ』

 

 もうダメか……と。わたしが玉砕覚悟で、どう死ぬのがおいしい展開か考えを巡らせ始めたその時。

 

「へ?」

 

 敵の1人の頭が、背後からの銃撃で吹っ飛んだ。

 独特な発砲音。散弾銃だ。

 

「……マジか」

 

 状況をさばくのに必死で……というか、そもそも頼りにしていなかったから、気にしていなかった。

 ぎょっとする敵の後ろには、初期装備でヘルメットも被っていない初心者丸出しのキャラが1人。サウザンドエンジェルさんが、敵の後ろに回り込んでいた。しかも、散弾銃一本を持って突撃するという、あまりにも男らしい突撃。わたしを助けようと動いてくれているのは、明らかだった。

 

「ありがとう! 天使さん!」

 

 案の定、振り向いた敵の銃撃でサウザンドエンジェルさんは倒れてしまったが、そこはそれ。背中を見せた迂闊極まりない敵に鉛弾をぶち込んで黙らせて、わたしは猛ダッシュ。倒れた天使さんの救助に向かった。

 

「今助けに行くからねー!」

 

『神展開キタ』『これはビギナーズラック』『この人初心者?』『初心者っぽいけど、度胸あるわ』『芋り陰キャのお前らより強いよ』『ユアユアめっちゃテンション上がってて草』『これはテンションぶち上がるっしょ』『エンジェルさんマジ天使』

 

 さて。

 サウザンドエンジェルさんは、助けた後の動きを見ていても、間違いなく初心者だった。ただし、初心者でもなんというか……度胸があって思い切りが良い動きをしていた。これは、ゲーム続けていけば確実に伸びるタイプだ。間違いない。助けてもらったわたしが保証しよう。

 結局、このあとめちゃくちゃがんばって3位まで粘った。サウザンドエンジェルさんにフレンド申請をして、わたしは大きく伸びをした。

 

「ん~、みんなおつかれさまでした! 最後盛り上がってよかった! おやすみ~!」

 

 今日の配信は楽しかった。

 そういえば、明日は景ちゃんがスターズの『俳優発掘オーディション』に行く日だ。

 ちょっと眠いしつらいけど、明日は少し早起きをして、神社へ景ちゃんの合格祈願に行こう。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 百城千世子は、決して時間を無駄にしない。

 共演するキャストの出演作、その全ての事前確認。小まめで徹底したエゴサーチ。ちょっとした休憩時間であっても、千世子は芝居に繋がる努力を怠らない。

 だからこそ。星アキラはスマートフォンを横持ちで。しかも忙しなく指を動かしている千世子を見て、少し驚いた。

 

「千世子くん」

「ん、なに?」

「それは……何のゲームをやっているんだい?」

「人を撃ち殺して生き残るゲーム」

「それは……おもしろいのかい?」

「それなりにおもしろいよ」

 

 スマートフォンを持ちながら。膝の上に載せたタブレット端末でその配信を流し見ていた千世子は、薄く笑って首を傾げた。

 

「ちゃんと、友達になれたし」




千世子ちゃんには散弾銃とかスコップ使ってほしい

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