TSヤンデレ配信者は今日も演じる   作:龍流

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やめて!デスアイランドの収録で景ちゃんと離れ離れになっちゃったら、幼少期の出来事で景ちゃんと精神で繋がっている結愛の精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで結愛!あんたが今ここで倒れたら、七生さんとの約束や巌さんのサインはどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、千世子に勝てるんだから!

今回「万宵結愛、死す」。アクトスタンバイ!


万宵結愛、死す

 映画『デスアイランド』のあらすじを説明しよう。

 修学旅行に向かう途中、24名の生徒を乗せた飛行機が嵐に遭い、墜落してしまう。無人島の浜辺で目を覚ました12名の生徒の傍らには、海に流されたはずのスマートフォンがあった。その中には、謎のアプリ『デスアイランド』がインストールされていた。定期的に発せられる奇妙な指令。行方知れずとなった残り12名の生徒達。絶海の孤島で、クラスメイト達の命を賭けたデスゲームが始まる……! 

 まあ、大まかにこんな感じである。よくも悪くも最近流行りの、王道デスゲームものって感じのマンガだ。ただ、あらすじはありがちでもストーリーそのものは結構おもしろく、特に三巻からの展開はヤバい。わたしは主人公のカレンが好きだったので、今回の実写化は正直複雑な気持ちだ、べつに百城さんが嫌いとかそういうわけじゃないし、主演である以上百城さんは完璧に『カレン』を演じるんだろうけど。なんだかなぁ……って感じである。もちろん、景ちゃんの記念すべき初出演映画だし、公開されたら三回観に行ってブルーレイも買うつもりなんですけどね~。

 

 閑話休題。

 

 わたしにとってなによりも重要だったのは、撮影期間と場所だ。南の島で一カ月の撮影。その間、わたしは当然景ちゃんと会えないわけで、物理的に離れ離れになってしまう。

 ぶっちゃけつらい。

 めちゃくちゃつらい。

 この世の地獄か? っていうくらいつらい。

 一カ月も景ちゃんと会えないなんて、わたしにとって拷問以外の何ものでもない。いやもうマジで吐きそう。想像しただけで無理。

 とはいえ、これから一人で撮影に向かう景ちゃんに、余計な心配をかけるわけにはいかない。

 

「結愛ちゃん、本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫! 安心して! ルイくんとレイちゃんのことは、わたしが責任を持ってお預かりするから!」

 

 景ちゃんがいない以上、ルイくんとレイちゃんの面倒を見るのはわたしの役目だ。あと、ひげのおじちゃんと雪さんも手伝ってくれるという話だったので、そこに関しては特に問題はなさそうだ。

 

「結愛ちゃん」

「ん?」

「私、がんばるから」

 

 景ちゃんの『がんばる』という言葉には、主語がなかったけれど。その裏にはたしかな決意が滲んでいて。

 だったらわたしも、親友として笑顔で送り出してあげるしかないだろう。

 

「うん。気をつけてね」

 

 よーし! 

 一カ月間。

 景ちゃんががんばっている間、わたしも負けないようにがんばろう! 

 

 

 

 △▼△▼

 

 

 

 結論から言えば、万宵結愛は一週間で限界を迎えた。

 スタジオ大黒天、美人制作の柊雪は困惑していた。

 

「墨字さん……なんですかアレ」

「知らん。俺に聞くな」

 

 雪が指さした先には美少女……否、美少女だったモノが、精も魂も尽き果てた状態で机に突っ伏していた。仕事から帰ってきたと思ったら、まるで電池が切れたように事務所の隅ですみっこぐらしをはじめたのだ。

 結愛の姿は、それはもうひどいものだった。

 いつも艶やかな輝きを保っていた茶髪はうっすらとくすんでいて、ゆるくかかったウェーブは少女の柔らかな印象を形作っていたはずが、今ではあちこちから飛び出している枝毛で明らかにイメージを損なっている。

 

「あぁ……ううぅ……ああ」

 

 セーラーの制服姿のまま、ぐったりと不気味な呻き声をあげる少女の様子は、人間というよりももはや獣に近い。

 

「うぅ……景ちゃん、景ちゃん景ちゃん景ちゃん……景ちゃん景ちゃん」

 

 いや、怨霊と言ってもいい。

 うわ言のように名前を呟く声は、最近舞台で鍛えられているためか、妙な迫力と背中を撫でられるような質感を伴っている。そこらへんのホラー映画が裸足で逃げ出すような不気味さで満ちていた。

 雪は顔を青くしながら、黒山の袖を引く。

 

「ちょっと墨字さん。どうするのアレ。完全にダメでしょアレ。けいちゃんに会えない寂しさで、理性がぶっ壊れちゃってるよ」

「どうもこうも仕方ないだろ。俺も、まさか配信少女の夜凪好きがここまで重症だとは思ってなかったんだよ」

 

 最初の数日は、まだよかった。

 結愛もスタジオ大黒天の事務所に泊まり込んで、レイやルイと楽しく過ごし、何事もなく舞台の仕事に行っていた。それが段々と、明らかにぼーっとする時間が増えていき、四日目の朝には「景ちゃんのお味噌汁が飲みたい」と呟き始め、五日目の昼には景の写真を暇さえあれば眺めるようになり、六日目の夜には一晩中「景ちゃん景ちゃん景ちゃん景ちゃん……」と寝言が止まらなくなり雪の安眠を大いに妨害し、そして七日目の今朝は「あれ? 景ちゃんがいないよ? 景ちゃんはどこ?」とうわ言をほざきはじめたので、雪が尻を蹴って事務所から送り出した。

 

「ただいま~」

「ただいまー! あ! ゆあねーちゃん、やっぱりしょげてる~」

 

 帰ってきたレイとルイは、やれやれといった様子で顔を見合わせた。

 

「さみしがりやさんね! ゆあねーちゃん、おいで~」

「うう……! 二人とも……わたしを、わたしを癒やして~!」

「しょうがないわね~」

「ね~、しょうがないね~」

 

 机から顔をあげた結愛は、そのまま恥も外聞もなく小学生二人の胸に飛び込んだ。

 今では、結愛がレイやルイの面倒を見るのではなく、結愛の方がレイやルイに面倒を見られている始末である。

 

「はぁ……景ちゃんのDNAを感じる……落ち着く」

 

 二人に抱きついて大きく深呼吸をし、精神安定を図る美少女の姿に、雪はどん引きした。

 

「墨字さん墨字さん。あれヤバいよ絶対。友情を超えた何かが二人の中にはあるよ。絶対普通じゃないよ」

「役者のそういう趣味が倒錯しているのはある意味普通だろ」

「言い方ァ!」

 

 とはいえ、このまま放置しておくわけにもいかない。

 黒山は身を乗り出して、双子を抱きしめて精神安定剤代わりにしている結愛に声をかけた。

 

「おい、配信少女。お前、どんな手を使ってもいいからその状態なんとかしろ」

「その状態って?」

「だから、夜凪に会えなくて寂しくて何にも手がつかない、自分のそのコンディションをなんとかしろって言ってんだよ」

「え……? おじちゃん、なんでわたしが景ちゃんに会えなくて寂しくて仕方がなくて死にそうだってわかったの!?」

「おい柊。鏡もってこい。なるべくデカいやつ」

 

 本当に、予想以上に重症である。

 昔からの幼馴染だとは聞いていたが、まさかここまで結愛の景に対する依存が大きいとは。発言の節々や普段の関係性を見る限り、景が結愛に甘えているものだと黒山は思っていたが……むしろこの様子を見る限り、どうやら逆だったらしい。

 

「お前、来週はたしかスケジュール空くだろ? 配信やるかどうかは自由だが、とりあえず芝居の方は少し休めよ。気分転換してこい。行きたい場所があるなら、車くらいは出してやる」

「車出すとかパパ活みたいですね墨字さん」

「ぶっとばすぞ柊」

 

 結愛はしばらくきょとん、とした様子で黒山の話を聞いていたが、レイとルイを抱きしめたまま器用にスケジュール表を開き、そして頷いた。

 

「ん……わかった」

 

 

 

 

 

 そして、数日後。

 

「おじちゃん。車出してもらっていい?」

「おう。柊、ちびどもの世話頼むぞ」

「はーい」

 

 結愛を乗せて、黒山は事務所のワゴンのハンドルを握った。

 

「それで、どこまで送って行きゃいいんだ? 映画館とかか?」

「景ちゃんが一緒じゃないと、映画観ても楽しくないよ」

「お前なぁ……」

「この住所までお願い」

「ん? ああ、わかった」

 

 結愛が示した住所を、カーナビに入力する。どんな場所か確かめようかとも思ったが、今日の目的は気分転換だ。本人の行きたい場所に連れて行ってやればいいか、と黒山は運転に集中することにした。

 そして、運転に集中して行き先の詳細を聞かなかったことを、すぐに深く後悔した。なぜなら、到着したビルの前で、顔を合わせたくない男が笑顔で待っていたからだ。

 

「……天知」

「やあ、黒山」

 

 プロデューサー、天知心一は車から降りた黒山と結愛を、両手を広げて出迎えた。

 

「なんでお前が出てくるんだよ? 俺は仕事以外でお前と顔は合わせたくないんだが」

「それに関しては、私も同意見だ。しかし、今日は彼女の方から私に『お願い』をしてきたものでね。とても嬉しくなったから、直接出迎えてしまったんだよ」

「配信少女が?」

 

 真偽を確かめるために顔色を伺ってみると、結愛は意外なほどあっさり頷いた。どうやら、天知が言っていることは噓ではないらしい。

 

「さあ、こちらへどうぞ」

 

 天知に連れられて、ビルの中に入る。屋上まで直通のエレベーターに乗り込むと、すぐに扉がしまった。

 

「一体どこに連れて行く気だ?」

「べつに、君を呼んだつもりはないのだけどね。まあ、途中までならいいだろう」

「途中まで?」

 

 答えを聞く前に、エレベーターが屋上に到着する。

 都内の、それも高層ビルの屋上なだけあって眺めはとてもよかったが、特に何があるわけでもない。何の変哲もない殺風景なビルの屋上だった。

 

「それにしても……困るよ黒山。預けた役者のケアはきちんとしてもらわないと」

「あ? ちゃんとケアしてるだろうが。こうして休日に車まで出してやってんだぞ」

「君は毎日が休日のようなものだろう? そもそも、車を一台出した程度で胸を張ってほしくないね」

 

 天知がそう言った瞬間、轟く爆音が黒山の耳に入った。

 最初は上空を通り過ぎるだけだと思っていたその音は、しかし次第に圧力を増し……強烈なダウンウォッシュを伴って、結愛の長い髪を揺らした。黒山のひげは揺れるほど長くないので、特に揺れなかった。

 

「……は?」

 

 空中に滞空した『それ』は、ゆっくりと降下してくる。普段、乗る機会がない『それ』の登場に、驚くなという方が無理な話だった。

 しかし、一流のビジネスマンであり、金の亡者であり、そして自分の見いだした原石を磨くために、金には糸目をつけない男……天知心一は、平然と言い切る。

 

 

 

「こちらは、ヘリを一機チャーターしたんだ。車一台とは比較にもならないだろ?」

 

 

 

 呆然と立ち尽くす黒山に対して、結愛は間近に降りてきたヘリに、数日ぶりに目を輝かせ、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 

「プロデューサー、すごい! ほんとに用意してくれたんだ!?」

「もちろんですよ。あなたの『お願い』を、私が無下にするわけがないでしょう?」

 

 やはりいつものように、天知は胡散臭い笑みを顔いっぱいに貼り付ける。

 

「これで、南の島だろうとどこだろうと、あなたの望み通り……夜凪景に、すぐに会いに行けますよ」

「うん! ありがとう! 景ちゃんの島まで、これでひとっ飛びだよ!」

 

 黒山は思った。

 

 

 

 ──いや、アホかコイツら。




やめて!天知心一の特殊能力で、ヘリコプターを召喚されたら、闇のゲーム(合同配信)でボコボコにされた千世子ちゃんの精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで千世子ちゃん!あなたが今ここで倒れたら、アリサさんやアキラくんとの約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、結愛に勝てるんだから!

次回「天使、堕つ」。アクトスタンバイ!
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