TSヤンデレ配信者は今日も演じる   作:龍流

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原作の方でいろいろありましたが、とりあえず続けていこうと思います。よろしくお願いします


銀河鉄道の夜編
登山配信


 見上げれば、雲一つない青い空。

 青々とした緑が、目にとても優しい。

 デスアイランドで見た、景ちゃんと千世子ちゃんの演技。あの二人の世界へ、自分も飛び込みたい、と。心機一転、役者になる決意を新たにしたわたしは、今……

 

「……あ~、ほんと、自然はいいねぇ」

 

 山登りをしています。

 山登りをしています。

 ええ、はい。

 大事なことなので二回言いました。

 

『これはいい景色』『絶景かな』『ゆあゆあの声と美しい大自然、ベストマッチ!』『ほんとか? この山絶対手入れされてないだろ。草ボーボーじゃん』『詳しいな』『登山自信ニキ、解説オナシャス』『いや、これ明らかに一般の登山道じゃねーもん』『へー、そうなんだ』

 

 ああ、すでに勘のいい視聴者の方は気付いていらっしゃるね。コメント欄の登山ニキが仰る通り、わたしが今登っているのは一般向けの登山道ではなく、わりと……というか、かなり荒れ果てた急勾配だ。景ちゃんと同じく、わたしもそれなりに体力には自信がある方だけどこの斜度は中々足腰にくるものがある。

 

「はぁ~、きっつ……」

 

『がんばれゆあゆあ』『負けるなユアユア』『ビール飲みながら応援してるぞ』『クズ』『酒カス』

 

 かーっ、わたしもビール飲みてぇ~。舐めたことしかないけど! 

 

「わたしはスポドリで充分かなぁ……」

 

 山登りでは、水を飲み過ぎると逆に疲れてしまう。ほどほどに休憩しつつ、脱水にならないようそれなりに水分を補給しながら、前に進む。

 さて、ここでわたしの装備を説明しよう。下は動きやすいガゼットクロッチが施されたハーフパンツに、撥水速乾性に優れたブラックのスポーツタイツ。上は白のトレッキングシャツに加え、薄手のマウンテンパーカーを着ている。髪の毛は編み込んでまとめて、帽子を被った。ここまでなら普通に登山を楽しむ森ガールなんだけど、わたしは片耳にイヤホンを仕込み、ついでに背中のリュックから小型カメラを覗かせている。言うまでもなく、この登山の様子を配信するためだ。

 

「……ふぅ」

 

『さすがのゆあゆあも口数が少ないな』『そりゃそうだろ』『むしろ配信しながら登山する体力が異常』

 

「あはは~、口数減ってごめんねぇ。まあ、しばらくはわたしの息遣いと大自然を楽しんでよ」

 

 耳に仕込んだイヤホンは、コメントを倍速で読み上げるように設定してある。画面を見ずに安全に配慮しつつ、首もとにつけたマイクで楽しく会話をしながら、登山ができるという寸法だ。他に登山客がいれば、きっとわたしは独り言をぶつぶつ呟く不審者に見えたに違いない。

 ま、この山、全然他の登山客とすれ違わないんですけどね~! わはははは! ……はぁ

 

 どうして、わたしが山登りをする羽目になったのか? 

 事の発端は、デスアイランドから帰ってきた直後まで遡る。

 

 

 

 ★★★★

 

 

 

「ひげのおじちゃん! ただいま! 帰ってきて早速なんだけど……わたし、このままじゃダメなの! もっとちゃんとしたお芝居がしたいの!」

「そうか。じゃあ山登ってこい」

 

 

 

 ★★★★

 

 

 

 やっば。

 回想するほど中身がないわこれ。概要を簡潔にセリフだけ書き出したら、四行分くらいしかないわこれ。

 もう少し、ちゃんと思い返してみよう。

 

 

 

 ★★★★

 

 

 

「はぁ!? 登山?」

 

 山に登れ。

 いきなりそんなことを言われて「はいそうですか、じゃあ行ってきます」と返す人間がこの世にいるわけがない。

 当然だ。おじちゃんの話に脈絡がないのはいつものことだけれど、さすがに意味がわからない。説明しろ! 説明! 

 

「あのさぁ、おじちゃん……映画の撮影見学から帰ってきて、やる気に満ち満ちている今のわたしに、いきなり登山しろ、はないでしょ。なに? 大自然の景色に触れて表現力を養おう、みたいなスピリチュアルな試み? そういうのは間に合っているんだけど」

「まあ、当たらずも遠からずだな」

「当たってんの!?」

 

 このひげ、わたしがコネをゴリ押ししてデスアイランドに旅立ったから、腹立てて適当なことほざいてない? 大丈夫? 

 

「べつに適当ぶっこいてるわけじゃねぇよ。良かったな、()()()()()()()ができて」

 

 ……なぁんだ。お見通しか。

 わたしがデスアイランドの撮影を見学して、何を得て戻ってきたのか。

 ひげのおじちゃんは、ちゃんとわかっているようだった。もしかしたら、プロデューサーがそれとなく伝えていたのかもしれない。

 

「……まあ、こっちの事情をある程度理解してくれているのはわかったけどさ」

「おう」

「せめて、何をしに行けばいいかくらいは教えてくれない?」

「そうだな……俺が前に居酒屋で話したこと、覚えてるか?」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「おまえに足りないものは何だと思う?」

「お芝居の実践経験」

「まあ、そうだな。間違ってはいない。60点の解答だ」

「平均ギリギリくらいじゃん。低くない?」

 

 

 ────────────────────

 

 

「ああ……あの60点ってやつ」

「それだ。役者としてお前に足りないもの、残りの40点をきっちり拾ってこい」

「さっき言ってた『役者をやる理由』は40点分にはならないの?」

 

 当たり前のことかもしれないけど、わたしとしては結構大きな変化だったんだけどな。

 でも、おじちゃんはまた首を横に振った。

 

「それじゃまだ半分だ」

「じゃあ、山に登れば、残りの20点分が見つかるってこと?」

「ああ。その山には、ちょうど舞台のために山籠もりしている役者がいる。そいつに会って『役作り』について学ぶのが、次のお前の課題だ」

 

 は? 

 舞台のために役作り? 

 実際に山に登って? 

 噓でしょ? 

 

「名前は明神阿良也(みょうじんあらや)。最近、お前が世話になってる劇団天球の主演俳優で、巌のじいさんの秘蔵っ子だよ」

 

 

 ★★★★

 

 

 それにしても、それにしても、だ。

 千世子ちゃんと比べてわたしに芝居の実践経験が不足しているのはそりゃもう痛いほど理解しているつもりだけど。しかしかといって、こんな山の中にまで役者さんに会いに来る価値が、本当にあるのか。甚だ疑問である。

 もしかしたら体力作りみたいな別の目的や意図があるのかもしれないけど……うーん、でもなぁ。わたし、元々体力にはそこそこ自信あるしなぁ。意味があるとは思えないんだよなぁ。

 まあ、世の中には女児向けアニメのテーマソングを流しながら有り得ない急斜度を進んでいく登山家の人とかもいるらしいし。今回の登山も、配信者として貴重な経験になるって考えるべき……なのかなぁ。

 悶々と思考を回しながら黙々と歩いていくと、そこそこ開けた場所に出た。隅の方には、こじんまりとした小屋もある。もしもこの山がもっと整備された登山道だったなら、休憩所とかがありそうな雰囲気だ。ちょうどいいので、ここで一休みしていくことにしよう。

 

「よいしょっと……ここらへんでちょっと機材の整備とか兼ねて、休憩しまーす。マイクとカメラも一回切っちゃうから、みんなまた後でね~」

 

『おつかれ~』『ユアユア、乙』『休憩大事』

 

「ふぃ~、結構登ったなぁ……」

 

 マイクとカメラをオフにしてリュックサックを下ろし、大きく伸びをする。さっきまでは鬱蒼と茂っていた木々で視界を遮られていたけど、ここまで登るとさすがに眺めがいい。

 ちょうど休憩もしたかったところだし……うん。本当に、()()()()()()()()

 

 

 

「配信用のマイクとカメラは切ったよ。いい加減、隠れていないで出てきてくれないかな?」

 

 

 

 誰もいない茂みの奥に向かって、語りかける。

 草の濃い緑に紛れて何も見えなかったけど、こちらに向かって刺さる『驚愕』と『困惑』の感情が、そこに人がいることをはっきりと示していた。

 まったく。

 わたしにかくれんぼで勝てるわけがないんだから、早く出てきてほしい。

 

「……驚いたな、いつから気づいてた?」

「あなたがわたしの後をつけはじめた、最初から」

 

 がさごそ、と。茂みの奥から陽炎のように、一人の男が顔を出す。

 背丈は、180ほどの痩せ形。背中の中ほどまである、ぼさぼさの艶のない黒髪を括っていて、目元も隈が濃い。顔立ちは端正な部類に入るだろうけれど、草と泥にまみれた今の彼を見て、一目惚れするような女の子はいないだろうと断言できる。

 ただ、その瞳には惹かれるものがあった。

 決して大きいわけではない。造形が特別整っているわけでもない。それでも、こちらを品定めするかのように爛々と輝くその瞳は、思わず見入ってしまうような不可思議な魅力に満ちていた。

 なるほど、役者だな、と。思わず納得する。

 

 彼が、明神阿良也。

 

 演劇の世界で賞を総なめにしている、巌裕次郎の秘蔵っ子。

 とりあえず、印象が良くなるように笑みを貼りつけて、わたしは会釈した。

 

「……はじめまして、明神さん。万宵結愛です。舞台役者としては駆け出しですが、七生さんや亀太郎さんにお世話になってます」

「うん。聞いてる」

 

 大きく足を上げて草むらから出てきた明神さんは、手に猟銃を持っていた。そう、動物を撃ち殺すための『猟銃』だ。

 

「……それ、本物ですか?」

「……? 当然だろ。俺は今度、マタギの役をやるんだ。本物の銃じゃないと、本物のマタギの経験を喰えないじゃないか」

 

 経験を喰う、と。

 当たり前のように、彼は言った。

 なるほどね……こういうタイプか。なんとなく、おじちゃんの狙いが読めた気がするよ。

 

「……それにしても、巌さんの考えていることがわからないな」

 

 無造作に猟銃をぶら下げたまま、明神さんはゆっくりとこちらに近付いてくる。

 その動きは、まさしく獲物を仕留めるために品定めするマタギのようだった。

 

「どうしてきみが『巌さんのお気に入り』なのか。こうして、実際に会ってみればわかると思っていたんだけど」

 

 視線に交わる感情から『好奇心』が消え失せていく。

 逆に、色濃く、ねっとりと絡みついてきたのは『嫌悪感』と『嫉妬』だ。

 

「やっぱり、理解できない」

 

 ていうか、わたしが……巌裕次郎のお気に入り? 

 実際に会ったこともないのに? 

 明神さんは、何を言っているんだろう……? 

 

「いい役者は臭う。たしかに、きみからは独特の()()がするよ」

 

 パーソナルスペースを、完全に割って。

 そのまま舌を伸ばせば、わたしの頬を舐め取ることができそうなほどに顔を近づけて、明神さんは囁いた。

 

 

「本当に……鼻が曲がりそうな、ひどい臭いだ」




女の子の臭いを嗅いだあらやくんの感想一覧

景ちゃん
きみ、いいね。すごく臭う!(多分いい臭い)

千世子ちゃん
こわいな……(無臭だったのに急に臭ってきた)

結愛ちゃん
くっせぇなてめぇ(鼻が曲がりそう)
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