TSヤンデレ配信者は今日も演じる   作:龍流

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あけましておめでとうございます&おまたせしてごめんなさい



天使を()

 天使のような美少女が、血のような夕焼けをバックに、わたしに刃物を突きつけている。

 いや、すでにそれらは刺さっていると言っていい。

 

 殺意が刺さる。

 敵意が刺さる。

 嫌悪が刺さる。

 害意が刺さる。

 

 可視化できないそれを、わたしは手に取るように感じることができる。

 普通の人間なら押しつぶされてしまいそうになるほどのプレッシャーを、真正面から浴びせかけられて。

 

「で?」

 

 わたしは、きょとんと首を傾げた。

 その光景はどこまでも現実離れしていて、どこまでも美しくて、そしてだからこそ、わたしにそれがお芝居であることを、強く認識させた。

 

「よくできてるね、この包丁」

 

 真っ赤な刃物を、素手で掴む。

 べっちゃりと手のひらに付着したのは、血糊だろうか、それとも特殊な絵の具か何かだろうか。いずれにせよ、その作り物の冷たさが、今のわたしにはどこか心地良かった。

 

「あーあ。やっぱり気づいてた?」

 

 くしゃっと。

 天使の仮面が、歪んで崩れる。けれどそれは以前無理矢理、わたしが剥がした時のような笑みではなく、自然に癒着していたものが剥がれ落ちるような、やわらかい笑みだった。

 その笑顔は百城千世子のものというよりも、一人の女の子のものだった。

 

「うん」

「いつから?」

「えーと、みんなで着替え終わって、景ちゃんの家の玄関から出た時、かな」

「なにそれ。最初からじゃん」

 

 わたしに掴まれた包丁の刃を、わたしに掴ませたまま、ぽいっと放り出して。千世子ちゃんは気が抜けた自分の気持ちを表すかのように、くるくると回った。おいおい、ハサミを渡す時は人に向けちゃいけないって、この天使習わなかったのか? まあ、ニセモノの包丁だからいいけど。

 

「私の次の役。人を殺したことを隠して遊ぶ、女子高生の役なんだ」

「ああ、なるほどね。だから、今日は遊びながらずっと殺気立っていた、と。わたしたちを利用しながら、役作りしてたわけだ」

「うん。そういうこと」

 

 この天使、ちっとも悪びれないな。

 ペロッて舌を出してもかわいいのは、同性から見てもずるいと思う。

 わたし? わたしも時々やります。自分の顔の良さは積極的に利用していくべきだと思うので。

 

「そっかー、バレちゃったかぁ。ちょっと残念」

「なんで? 殺気を忍ばせながら笑って遊ぶ、なんて上手い役者さんでもなかなかできないと思うけど?」

 

 事実、わたしはプリクラを撮ったりゲーセンに行きながら、隣にいる千世子ちゃんから濃厚な殺気のようなものを感じ取っていた。わたしにそう感じさせる、ということは。表面上は穏やかに振る舞いながら、わたしたちと遊びながら、バッグにナイフを隠して楽しんでいた、ということは。つまりそういう感情を作りながらリアルタイムでコントロールして、役作りをしているということだ。

 相変わらずだな、と。感心してしまう。

 百城千世子という役者は、この高みにあってなお、わたしと景ちゃんを丸ごと喰らおうとしている

 

「千世子ちゃんは、やっぱりすごいなぁ」

 

 だから、人の心を覗きながら会話を回すわたしにしては、本当にめずらしく。

 素直に、思ったことがそのまま口をついて出た。

 

「ふぅん」

 

 ずるり、と手を引かれた。

 するり、と指先が首まで伸びた。締めたわけではない。掴んだわけでもない。ただ、指先がわたしの喉笛に触れられただけ。

 しかし、ただそれだけで、わたしは目の前の天使に、心の臓まで掴まれた気持ちになった。

 

「そう言ってもらえるのはうれしいけど、でもわたしはまだ、自分がすごいとは思えないな」

 

 誰もが憧れる天使が。

 スターズの頂点に立つスターが。

 わたしの目の前でどろりと本心を開いて、その心の内を吐露する。まるで、自分の体に刃を突き立てて、内臓と血を見せびらかすように、本心を曝け出す。

 

 赤色の嫉妬が、そこにあった。

 

「私はね、万宵さん。贅沢かもしれないけれど、もっと上を目指しているんだ」

「もっと、上?」

「うん。もっと上だよ」

 

 比喩ではない。

 心を、掴まれる。

 

「私はあなたに殺意を抱いて、でも、あなたは私が心の内に抱いたこの殺意に気づかない。これが最上。私は演じる役の仮面を被りながら、万宵さんに気付かれない。それが、目標だったの」

 

 だから、今日は失敗、と。

 天使はいっそ清々しいほどの笑顔でカラカラと笑った。

 

「繰り返しになっちゃうけど。わたしは、十分すごいと思うよ?」

「うん。万宵さんはそう言ってくれるよね。でも、すごいだけじゃ、だめなの」

 

 指先は、首筋にかかったままだ。

 吐息が唇に触れる。とても、蠱惑的で、それでいて貪欲な、天使の心。

 

「万宵さんは、夜凪さんをいつも見ているよね?」

「うん」

 

 即答する。

 

「私もね、見てほしいんだ。たくさん見てほしい。万宵さんが夜凪さんを見ているみたいに。夜凪さんが万宵さんを見ているみたいに。たくさんたくさん、私のことを見てほしいの」

 

 きれいな唇からさらさらと紡がれる言葉は、強欲で、嫉妬に満ちていて、浅ましくて。

 けれど、千世子ちゃんからわたしに刺さる感情は、そんな言葉の印象とは裏腹に、どこまでも澄んでいて、とてもとても綺麗だった。

 

「だからさ、ライバルに塩を送るっていうわけじゃないけど。立ち止まってるところ見ると、私が困っちゃうんだよね」

 

 首から、手が離れる。

 くるりくるりと千世子ちゃんは回りながら「悩んでる時はたくさん遊べば発散できるかな、なんて思ったけど。いまいち乗り切れなかったみたいだし」と、こちらの顔を覗き込んできた。

 

「私でよければ、話聞くよ?」

 

 問い。見た目が天使の超絶美少女に「大丈夫? 話聞こか?」というテンプレイケメンお持ち帰りムーヴをされた場合、抵抗することはできるだろうか? 

 回答。不可能である。

 

「えっと、あのね」

「うんうん」

 

 わたしは洗いざらい、悩んでいることを話した。

 わたしが昔から、景ちゃんの側で景ちゃんのことを支えてきたこと。

 でも、わたしが景ちゃんのことを気遣っていたように、景ちゃんもわたしのことを気遣ってくれていたこと。

 ルイくんやレイちゃんが大きくなったら、わたしの居場所はなくなっちゃうんじゃないか、という浅ましい不安。

 結局、そんな自分本位の考えに押し潰されそうになってる、わたし自身の身勝手さ。

 わたしは、人の心が見えるから。人の考えていることが、ある程度わかってしまうから。

 だからこそ、丁寧に自分の気持ちを、相手に隅々まで触れてもらえるように、気をつけて喋った。

 

 喋ったのに……

 

 何故か、千世子ちゃんの瞳からはどんどん光が消えていく……というか。ハイライトがなくなって冷たくなっていく……というか。

 明らかに後半になるにつれ、呆れに近い感情が漏れ出してきた。

 

「ねえ、千世子ちゃん、ちゃんと聞いてる?」

「ああ、うん。聞いてる聞いてる」

「うそ! 絶対ちゃんと聞いてない!」

 

 言ってから、自分でもそれが重くてめんどくさい女のテンプレみたいなセリフであることに気づいて、なんとも言えない気持ちになる。

 

「じゃあ、はっきり言っていい?」

「う、うん」

「万宵さんのそれ、悩みじゃないよ。ていうか、なにそれ惚気(のろけ)? 夜凪さんとの仲、自慢してる?」

「わたしは真剣に悩んでるんだけど!?」

「万宵さんって基本的にめちゃくちゃ小器用なのに、夜凪さんが絡むとバカみたいにポンコツになるよね? そういうとこ、弱点みたいで私は良いと思うよ」

「よくはないっ!」

 

 まるでちっちゃい子どもを宥めるかのように、頭の上に手をのっけられた。

 

「大丈夫。大丈夫だよ。さっき夜凪さんとも話したけど、そんなに心配する必要はないと思うよ」

 

 されるがままに、決して大きくはない千世子ちゃんの手のひらに、頭を撫でられる。

 

「万宵さんは夜凪さんのことをたくさん考えて、なるべく側にいようとして。夜凪さんも自分に寄り添ってくれる万宵さんのことを、とっても大切にしていて……」

 

 まんまるのアーモンドみたいな目が、すっと細められる。

 

「お互いに、本当の(さいわ)いを祈っている」

 

 それは明らかに、銀河鉄道の夜から引用した言葉だった。

 

「だってそれ、はじめから両想いってことじゃん。勝手に壁作ってつまんない悩み方しちゃって──」

 

 千世子ちゃんは、天使だ。

 それは、疑い様のない事実。

 

 

「──かわいいね」

 

 

 けれど、寄せた耳元で、囁くようにそう言われて。

 鏡を見るまでもなく、自分の顔色が朱色に染まったのを自覚して。

 間近でいたずらっぽく笑う千世子ちゃんの表情は、申し訳ないけれど、小悪魔のそれにしか見えなかった。

 

「ゆ、結愛ちゃん!? 千世子ちゃん!? なにしてるの!?」

 

 唐突に。響くように通る声が聞こえて、はっとなる。

 そこには、わなわなと震えてわたしたちを見詰める景ちゃんの姿があった。

 

「あ、夜凪さん」

「千世子ちゃん、なにしてるの!? どうして包丁持ってるの!? なんでそんなに結愛ちゃんとくっついてるの!?」

「あ、違う! 違うよ景ちゃん! べつにこれは浮気とかじゃなくて」

「浮気!? 千世子ちゃんに浮気したの!?」

「してない! してないってば! むしろわたし、包丁突きつけられてたからね!? 殺意向けられてたからね!?」

「私に隠れてお芝居の練習してたの!?」

 

 ああ言えばこう言うなもう!?

 

「あははっ!」

「ちょっと千世子ちゃん! なんでもっとくっついてくるの!?」

「え、ダメ?」

「あ、いや、えっと。ダメ、じゃないけど」

「ずるい! じゃあ私もくっつくわ!」

 

 ぷくーっと。頬を膨らませた景ちゃんがぱぱーっと寄ってきて、ひしっとくっついてくる。

 必然的に、わたしと景ちゃんで千世子ちゃんをサンドイッチする形になった。

 

「うん。2人とも、もう大丈夫そうだね」

 

 挟まれたサンドイッチエンジェルが、上目遣いでそう聞いてくる。

 やれやれ。

 どうやらやっぱり、わたしはまだこの役者の大先輩には、勝てそうにない。

 

「お腹空いたね。ご飯食べに行こうよ」

「なに食べる?」

「牛丼いこ。牛丼」

「牛丼! 最近食べてないわ!」

「いいね。じゃあ、夜凪さんには私のオススメの食べ方を教えてあげるよ」

 

 

△▼△▼

 

 

 明神阿良也は、稽古場の入口が開く気配を感じて、振り返った。

 阿良也は、常識を重んじるタイプではないが、常識が皆無というわけではない。舞台の芝居は1人ではできないチーム戦であり、最低限の礼儀や礼節は、師である巌から叩き込まれた。

 だから昨日、夜凪家で自分がやったことはとんでもなく礼を失した行動であることを、阿良也は自覚していた。場合によっては、謝罪をしなければならないとも思っていた。

 ただし、阿良也は夜凪景と万宵結愛という役者を、その芸歴に反して、とても高くかっている。

 

「ほら、景ちゃん。やっぱり阿良也くんいたよ」

「そうね」

 

 良い役者とは、総じて飲み込みが早く、そして立ち直りも早い。

 入ってきた2人の少女は、まるで昨日の出来事がなかったかのように、お互いの手を固く握りしめていた。

 その様子はまるで、連れ立って銀河鉄道に乗る、ジョバンニとカムパネルラのようで……本番では自分が景の隣に立つジョバンニにならなければならないことを、阿良也に強く意識させた。

 

「昨日はごめん。でも、大丈夫そうだね」

「うん」

「もう平気」

 

 顔つきが変わっている。

 雰囲気が変わっている。

 何らかのきっかけがあって、それが2人の迷いを断ち切ったのは、明らかだった。

 

「何を喰ったの?」

 

 顔を見合わせてから、景と結愛は笑顔で答えた。

 

「「牛丼アタマの大盛り汁だくキムチとろろ添え」」

「ごめん。なんだって?」




コーヒーフラペチーノ→牛丼アタマの大盛り汁だくキムチとろろ添え

よくわかるアクタージュ解説

①「コーヒーフラペチーノだよ」
原作4巻より。原作屈指の名言の一つ(作者調べ)。まるで卍解みたいなキメ顔で景ちゃんが言っているが、実際卍解しているようなものなので、問題はない。

②「アタマの大盛り。汁だくで卵とキムチととろろで流し込むの」
原作8巻の千世子ちゃんの食事シーンより。基本的に、外ではイメージを損なわないようにちまちま食べているので、お家でしかやらないらしい。ワイルドエンジェル

おまけ
つかささんよりいただきました。百合サンドイッチ(景ちゃん真ん中バージョン)です。ツイッタの更新カードはこちらに切り替わってます。全員えっちな雰囲気でかわいいですね

【挿絵表示】


こちらは紫猫侍さんよりいただきました。『クリスマス配信ではじめたゾンビゲームが思ってたのと違うユアユア』だそうです。どういうこと? かわいくて好き

【挿絵表示】
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