リコリコにハッスルしたり、ぼざろ見て虹リョウのオタクになったりしてました。私は元気です
私事ですが、あとがきにご報告があります。ご一読いただければ幸いです
「はいはーい。みなさんこんばんは。ユアユアでーす」
『ばんはー』『こんゆあー』『こんゆあ〜』『ひさびさの配信だぜ』『実家に帰ってきたみたいだ』『テンション上がるなぁ』『は? ゲリラ配信か?』『まってくれ。今から夜勤なんだが』『やってみせろよ、社畜!』『なんとでもなるはずだ!』『ゆあゆあだと!?』『オタクが三人!』『来るぞ遊馬!』『完璧な流れでダメだった』『ばんはー』『祭りの場所は、ここかぁ?』『配信おもろいよな』『ミラーワールドに帰れ』『今日何やんの?』『知らん』『ゆあゆあの顔見れれば良いよ』『それはそう』
おうおうおう。特に事前の告知もなくゲリラ配信をはじめたというのに、コメント欄がなかなかの盛況ぶりだ。なんだか嬉しくなっちゃうねえ。
とはいえたしかに、こうして配信をするのは、とってもひさしぶりな感じだ。最近は舞台の稽古に全力を尽くしていたから、どうしても配信の回数が減っていた。それでも、待ってくれているファンのみんながいるというのは嬉しいものである。
『なんか揺れてる? 気のせい?』『前回はヘリだったからな……』『急に東京上空だったからな……』『まさか今回は海か?』
お。当たらずも遠からずと言ったところだね。
「今日はなんと、わたしが出演予定の舞台、銀河鉄道の夜の役者のみなさんとご飯に来てるよー。そして、本日は屋形船の上からお届けします!」
『マジで海上で草』『屋形船は川だろ』『阿良也くん見たい』『アキラくんお願いします』『ボクは七生さんがいいです』『落ち着けお前ら、まずは巌さんだ』『劇団天球の推し割れすぎてて草』『だってよぉ……』『誰か亀のにーさんも応援してやれ』『亀のにーさんが出てた回の切り抜き、地味に伸びてたよな』『普通にあの人の芝居の解説おもろいねん』『亀さんと絡んでる時の辛辣極まるゆあゆあ好き』『わかる』『わかる』『わかる』
「さてさて。今日は屋形船だからねえ……会場は盛り上がってるかな?」
外から勢い良く、船内の宴会場の扉を開く。
「あ、みてみてゆあーっ! アキラのち○こ!」
盛り上がり過ぎだろバカ野郎。
わたしは即座に配信画面を叩き切った。
具体的には「みてみてゆあーっ!」のあたりでアキラくんのパンツを全力でずり下ろしている七生さんを視認することができたので、ギリギリのところでセンシティブワードを排除することに成功した。
あ、あぶねぇー……まじで危なかった。
わたしがこれまで積み上げてきた配信者としての財産が、一発でBANされるところだった。
ふざけんなマジで。星アキラのちん○如きでわたしの配信者人生が終わってたまるか。
「あ! ご、ごめんゆあ!? もしかして配信してた!?」
「ん。大丈夫だよ七生さん。アキラくんのイチモツが見える前に叩き切ったから」
「ごめんゆあー」
「はいはい。よしよし」
ぐでえ、と涙目で抱きついてくる七生さんをよしよししてあげる。まあ、とても色濃い反省の感情が見て取れるし、ここは許して差し上げましょう。わたしは心が広いからね。
「ガタガタ騒ぐな、七生。ゆあゆあは配信に関してはプロだ。アキラの股関が映り込むよりも早く、配信画面を即座に切断している」
と、片手で日本酒のおちょこを傾けながら、わかりやすいドヤ顔で巌のじいちゃんが言う。
「いやまぁ……そうだけど。巌のじいちゃん、なんでわかるの」
「配信を見ていたからだ」
「なんでだよ」
巌のじいちゃんの手には、しっかりとタブレット端末が握られていた。
なんで当たり前のように飲みの席で配信見てるんだ、このボケジジイ。いつの間に使えるようになった?
本物のわたしがここにいるのに配信画面見てるんじゃないよ。ていうか、告知なしのゲリラ配信だったのに反応早すぎない? わたしのファンか? ファンだったわ、うん。
「七生さん! それよりもまずぼくのパンツをずり下げたことに関して何か言うことはないんですか!?」
赤面したままベルトかちゃかちゃと直しているアキラくんが叫んでくる。べつに感情を読み取るまでもないが、その心はかつてないほどに羞恥心に塗れていた。ちょっとおもしろい。
とろんとした表情で、小首を傾げて。まるで小悪魔のように、七生さんは言う。
「アキラ、意外とおっきいね?」
「違うそうじゃない!」
ほほう。意外と大きいと。なるほど。
「亀さんとどっちが大きかった?」
「アキラ」
「やるねえ、アキラくん」
「やめろ!」
べつにアキラくんの下半身には毛ほども興味はないが、イケメンが狼狽える様子を見るのは中々におもしろい。
「結愛ちゃん、どうしたの?」
そこで、幸いなことにお手洗いで席を外していたらしい景ちゃんが帰ってきた。自分で覗きに行ってる七生さんはいいけど、景ちゃんにアキラくんの汚らわしいエクスカリバーを見せるわけにはいかないからね。
「なんでもないよ、景ちゃん。ここにいると汚れたものを見ることになるかもしれないから、わたしと一緒に夜景楽しみに外に出ようね」
そう。夜凪景だけに。
「でも私、ご飯食べたいわ」
「それはたしかに。ちょっと亀さん、取り皿ちょうだい」
「少し待て! ゆあゆあ! 俺は今からこのいけ好かねえイケメンと男と男の真剣勝負をしなきゃならねえ!」
「なに出そうとしてんの?」
「やめときな、亀。絶対アキラの方がでかいから」
「だまれ七生ぉ! ちゃんと比べてみなきゃわっかんねーだろうがぁ!」
「うん。前言撤回。亀さん、その汚い手でわたしたちに二度と触れないでね」
「二度と……?」
まったく、男ってどうしてこう、あそこの大きさで張り合おうとするんだろうね。
いやでも、わたしも前世では昔はあそこの大きさを気にしていたような気にしていなかったような……。
「どうしたの結愛ちゃん」
「ちん○んとおっぱいの大きさのプライドって似てるかもしれない。どう思う景ちゃん?」
「どうしちゃったの結愛ちゃん」
いかんいかん。この場にいるとわたしまで下ネタに呑まれてしまいそうだ。
屋形船の中から、景ちゃんを連れて外に出る。
「夜景、きれいだねぇ」
「ええ」
川の中から、夜の街並みを見る。これはたしかに、新鮮な体験だ。
ほう、と。息を吐く景ちゃんの横顔も、きらきらと輝いているようだった。
「流れる夜景が、銀河に輝く星空に見えるだろう?」
「うわびっくりした」
いつの間にか、背後に巌のおじいちゃんが回っていた。ジジイのくせに素早い。
「ちょっとおじいちゃん。わたしと景ちゃんと二人っきりのロマンチックタイムを邪魔しないでくれない?」
「メシを取り分けてきたぞ」
「ごはん!」
景ちゃんは基本的に食いしん坊である。つまり、餌付けに弱い。とてもかわいい。
お惣菜が山盛りに盛られた取皿を渡されて、景ちゃんはご満悦の様子だ。そのまま、巌のじいちゃんはどかっとわたしと景ちゃんの間に座り込んだ。
なんかこう、わたしたちの間への挟まり方が手慣れてきやがったな、このジジイ……。
「この夜景は、死の景色だ」
「死の景色……こんなにきれいなのに?」
「ここから見える一つ一つの灯りは、そこに住む人々の営みが生んだもの。手を伸ばしたくなる、あたたかいものだ。だが、今の俺たちには、触れることすら叶わない」
三途の川、なんてよく言われるように。水が流れる河川は、昔から現世とあの世を隔てる境界だったという。
わたしたちは今、銀河鉄道に乗って死者が見る景色を味わっている。
「悪くないだろう?」
「うん。悪くないね」
そういえば、ゆっくり夜景を眺める、なんて。いつぶりだろうか。
誰の視線も、感情も気にせずに、隣で同じ景色の美しさを共有する。
それはもしかしたら、すごく素敵なことなのかもしれない。
巌のおじいちゃんを挟んで、わたしと景ちゃんは、しばらく黙って夜景を眺めていた。
◇
しばらく席を空けていただけで、お酒が飲めるみなさんはすっかり出来上がってしまったらしい。
いびきが響く宴会場の中で、几帳面にスマホを見て自分の演技を振り返っているのは、アキラくん一人だけだった。
元気づけてあげようかな、なんて。めずらしく余計なお節介をする気が浮かんだけれど、まだ起きていた七生さんと亀さんが絡みに行ったらしい。アキラくんにしてはめずらしい、ちょっと怒ったような声と、亀さんの「フルチンで演じる前から自虐してんじゃねえ!」みたいな、言い争いの声が聞こえてきた。なんだろう。下半身を絡めないと演劇の話ができないのだろうか?
とはいえ、あちらに関しては心配ないだろう。問題は、やはりこっちだ。
「ゆあゆあ」
「なに?」
「今日、話す」
「ん。わかった」
お酒が弱い阿良也さんには一杯盛って寝てもらって。アキラくんと話している亀さんたちには、わたしたちの話は聞こえない。
他の誰にも聞こえないように、巌のおじいちゃんは景ちゃんに切り出した。
「よく聞け。夜凪」
「どうしたの? 巌さん」
「俺はもうすぐ死ぬ」
きょとん、と。
景ちゃんの感情が、表情そのままの困惑に満ちた。
「……そうは見えないけれど」
うんうんだよね。わたしもそう思う。
「膵臓に悪性の腫瘍があるんだ。医者の話では、持って半年。それが俺の余命だ」
きちんと景ちゃんの目を見て語りかけながら「まあもっとも、ゆあゆあのおかげで少し寿命は伸びたがな」と巌さんは補足した。
いや、さすがにわたしの配信に寿命を伸ばす効果はないが……。
「……結愛ちゃんは、知ってたの?」
「うん」
ようやく、理解が追いついてきたらしい景ちゃんの心の内が、ぐちゃぐちゃに歪んでいく。
やっぱり、こういう時の人の心を見るのは、少しだけしんどい。
でも、見なくちゃいけない。それが、わたしの役目だ。
「だから、巌さんと一緒に生活していたの? 演技指導のためじゃなくて、病気の巌さんを支えるために?」
「それは違うよ、景ちゃん」
「ああ。俺が、ゆあゆあの手料理を食いたかっただけだ」
もうわたしが全部説明するから、黙っててくれないかな、このジジイ。
「わたしは単純に、自分の演技の質を高めるために、巌のじいちゃんの側にいることを決めたの」
「それは……でも、そんな。どうして」
「もちろん、景ちゃんの隣に立つのに、相応しい役者になるためだよ」
ボケジジイのお腹を、げしげしと肘でつつく。
ちゃんと真面目に話せ、というメッセージが伝わったのか。巌のおじいちゃんは溜息を吐きながら、景ちゃんに言った。
「夜凪。お前の役、カムパネルラは死者を乗せて走る銀河鉄道の乗客だ。生者のジョバンニとは違う。カムパネルラは自分の死を自覚している」
だから、と。
言葉を繋げて。
「お前は、俺を通じて最も死に近づかなきゃならない。そしてそれは、俺がゆあゆあに渡した配役も同様だ」
「どうして、そこまで」
「俺が演出家で、お前が役者だからだ」
ああ、ずるい。
巌さんは、自分が演出家で、景ちゃんを役者だという。
けれど、この期に及んでもまだ「お前たちが役者だから」とは、言ってくれないのだ。
「お前は、俺の死を喰って役作りをしろ」
「だめ。だめよ。ちゃんと、ちゃんとみんなに言わなくちゃ! 私や結愛ちゃんだけじゃなくて、みんなに伝えて、入院して治療して、それから……!」
「ダメだよ。景ちゃん」
「どうして!?」
めずらしくわたしに対して叫び返してきた景ちゃん。その背中に、そっとしなだれかかる。
追いつかなければならない。本番までに。
成らなければならない。一人の役者に。
認められなければならない。この演出家に。
「景ちゃんは、カムパネルラだから。カムパネルラにならなくちゃいけないから」
言い聞かせて、染み込ませる。
じわりと、涙が滲む気配がした。
「大丈夫。一人じゃないよ。わたしも背負うから」
わたしは、人でなしだ。
それで良い。
だってわたしは、景ちゃんと同じ景色を見たいから。
人でなしでなければ役者になれないのなら、一緒に落ちていこう。
夜景と一緒に、目に焼き付けよう。
大丈夫。舞台は、必ず成功させる。
「わたしたち、今日から共犯者だね」
だって、死者を想うわたしの愛する人の顔は、こんなにも美しい。
私事ではありますが、運営さんから許可をいただいたので、こちらでもお知らせさせていただきます。ハーメルン内で連載中のオリジナル作品「世界を救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった」が、TOブックス様より書籍化しました。一巻が好評発売中です。今月二巻も出ます。
それらの作業や、新生活の環境の変化に伴うゴタゴタなどで、こちらの更新が滞っておりました。申し訳ありません。
https://syosetu.org/novel/261930/
オリジナル作品の書籍化……ということで龍流も小説家の端くれになることになりました。幸い、TOブックス様からは、二次創作に関しては趣味の範囲で継続しても構わない、とありがたいお言葉を頂いております。
二次創作も一次創作も、私にとってはどちらも変わらずみなさんに応援いただいた大切な作品です。あと作者はアクタージュ大好きなので、時間はかかるかもしれませんが、絶対に最後まで書きます。今年はもう少し更新ペースもマシになる予定です。オラ、羅刹女絶対書くからよ……
というわけで、これからも「TSヤンデレ」をよろしくお願いいたします。もしよろしければ、オリジナルの方も読んでいただければ、あるいは本屋さんで龍流の名前を見たときに手に取っていただければ、作者として望外の喜びです。