TSヤンデレ配信者は今日も演じる   作:龍流

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しばらくお待ちください……


景ちゃんと雑談配信

 さて、勝負の時間だ。

 黒のパーカーを目深に被って、配信を開始する。

 

「はーい、みんなこんばんは! 元気してた~?」

 

『こんばんは!』『まってた』『この日のために生きてた』『お前ら!アレはもうみたか!?』『アレって?』『ああ!それってシチュー?』『コイツはゆあゆあ、おれたちの天使さ』『カードに封印されろ』『罰ゲーム!』『いつもより盛り上がってて草』

 

 続々と、コメントが流れ始める。

 刺さる感情がいつもより多い。そして、濃い。

 プロデューサーの予想通りだなぁ……と、内心で苦笑しつつ。わたしは微笑む口元が目立って写り込むように調整しながら、視聴者のみんなに手を振った。

 

「たしかにいつもより視聴者さん多いね~。はじめましてのみなさんもいらっしゃい! ユアユアでーす。いつもよりちょっと騒がしいけど、ゆっくりしていってね~」

 

『どうも、にわかです』『パーカーかわいい』『ご新規さんいらっしゃい』『楽園へようこそ』『パーカーかわいい』『ご新規さんはCMを見て来た口かな?』『お前ら!CMはもうみたか!?』『見てないわけがないんだよなぁ』

 

「はいはーい。今日は雑談配信だけど、いろいろとお知らせがあります! まず一つ目! なんとわたし、ウェブCMに出演することになりました!」

 

『知ってる』『知ってる』『もうみた』『最高』『CMおめでとう!』『恥ずかしながらCMから来ました』『いいぞ、このかわいさを広めろ』『同志よ増えろ』

 

 今日の配信の前に、この前撮影したウェブCMが公開された。自分で言うのもなんだけど、結構話題を呼んでいる。わたしの視聴者さん達も、当然のようにみてくれているみたいだ。いやぁ、熱心なファンがいてくれて、わたしは幸せ者だなぁ……

 

「みんな、みてくれてありがと~! 商品の方もよろしくね!」

 

『宣伝がうまい』『あざとい』『だが、それがいい』『くっ……買っちまうぜ』『俺ら単純か?』『そうだよ』

 

 反応は上々。

 本当は公開される前にわたしの配信で告知したかったんだけど、それはプロデューサーに止められてしまった。なんでも「こういった宣伝には最適なタイミングがあります」とかなんとか。こういうのって公開前に宣伝した方が絶対いいと思うんだけど……まあ、わたしが勝手におじちゃんのCMに出演した件も(おじちゃんといろいろ話し合って)、便宜をはかってくれたらしいし。プロデューサーが『売り出し方』を間違えたことなんてないから……きっと何か考えがあるんだろうね、うん。そういうところは、ほんとに信用しているよ。そういうところだけは。

 

「さてさて~、今日はなんとみんなに嬉しいお知らせが、追加でふたつもありまーす」

 

 ざわざわ、と。困惑がカメラ越しに伝わってくる。

 それはそうだろう。CM出演という結構インパクトのある告知を差し置いて、まだお知らせがふたつもあるというのだ。困惑もするし、何だろう?と期待も煽られるに違いない。

 だが、安心してほしい。今から告げる『お知らせ』は、わたしのCM出演なんて軽いニュースが軽く吹っ飛ぶほど、ビッグでスペシャルなのだから。

 

「まずひとつめは~! なんと、今日の放送にはスペシャルゲストがきてます!」

 

『スペシャルゲスト?』『雑談回でスペシャルゲストか』『珍しくね?』『来てるってことは、顔出して一緒に配信やるってこと?』『そうでしょ』『珍しいっていうか、はじめてだろ』『誰だろ?』『芸能人とか?』『俺たちのユアユアも遂に芸能界入りか……』『お父さん鼻が高いよ』『おまえのものじゃない定期』『お父さんじゃない定期』『わかったK子ちゃんだ!』

 

 いつもよりコメントの流れも速いし、人数も多い。いい傾向だ。

 目に入った最後のコメントに、わたしはニヤリと笑った。

 

「お、勘のいい人もいるね……じゃあ、紹介します! どうぞ~、入ってきて~」

 

 わたしが合図すると、ガラッとドアが開いた。

 わたしよりもフードを目深に被ったその子は、ちょっと緊張した様子で隣にぺたん、と。女の子座りで腰を降ろす。

 さて。

 カメラから一瞬、目線を外して……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をみる。手元のパソコンで目の前の配信映像をリアルタイムで確認していたおじちゃんは、やはりつまらなそうに軽く頷いて、右手の人差し指で頭を軽く叩いた。

 

 合図だ。

 

 フードで目線が隠れていても、わたし達は目配せでタイミングを合わせられる。

 

「せーの……じゃーん!」

 

 ばさりと、フードを上げる。わたしの顔なんて見慣れてるだろうからあんまり意味はないけど……これは演出だ。おじちゃんがやる気のない顔で考えた、けれど効果的でインパクトのある演出。

 

「今日のゲストはなんと! わたしの幼馴染であり大親友の『K子ちゃん』こと……夜凪景ちゃんです! イェーイ!」

「い、いぇーい……」

 

 強張った笑顔で、ぴすぴす、と。フードをおろして美人極まりない素顔を晒した景ちゃんは、カメラに向かって笑いかけた。

 効果は絶大だった。

 わたしに刺さる感情が、明らかに目減りする。それだけで、カメラの中から飛び出す感情の多くが、景ちゃんの方に向かっていることがわかった。

 さすがは景ちゃん。人の目を惹きつける。スターのオーラというやつだ。

 コメントの反応も、また激烈だった。

 

『は?』『んんん?』『かわいい』『マジか』『夜凪景じゃん!』『え、ちょっとまって』『急展開』『理解が追いつかん』『まってまって』『え? 夜凪景がK子ちゃんなの?』『そういうことでしょ』『マジかよ』『はあ!? CMのもう片方の子じゃん』『まってくれ、くそ美人では?』『美人だよな』『CMでも美人だったけど、カメラ近いともっと美人だわ』『わかる』『黒髪美少女』

 

 コメントを見た景ちゃんが、あわあわとわたしの肩を揺さぶった。

 

「ゆ、結愛ちゃん……美人って私のことかしら? どうしよう?」

 

 あー、もう~。景ちゃんはかわいいな~。

 

『かわいい』『かわいい』『かわいい』『かわいい』

 

 コメント欄一体感ありすぎじゃないの? 

 

「はいはーい。そんなわけで……前から声だけはちょこっと出てくれていた『K子ちゃん』こと夜凪景ちゃんが、今回、わたしと一緒にCMデビューということで、顔出ししてくれることになりました! みんな、びっくりした?」

 

『びっくりとかそういうレベルではない』『ゆあゆあのCMデビューがふっとんだわ』『ユアユアのCMデビューの事実はふっとばないだろいい加減にしろ!』『画面内顔面偏差値が高すぎて溺れる』『CM勢はわからんけど、ユアユア古参勢はK子ちゃんをずっと知ってるからな』『すげぇ初期の配信から話してたもんな』『古参勢マウント乙』『まって夜凪ちゃんめっちゃ好きなんだけど』『わかる』

 

「それじゃあ、景ちゃんに簡単に自己紹介してもらうね~。景ちゃん、お願い」

「よ……夜凪景です。や、役者です。よろしく」

 

『かわいい』『かわいい』『かわいい』『かわいい』

 

 いやほんとコメ欄の一体感すごいね。仲良しか? 仲良しなのか? 

 

「じゃあみんな、景ちゃんにガンガン質問してっていいよ~」

「え?」

「景ちゃんもドンドン答えてね~」

「ちょ……ちょっとまって結愛ちゃん! 急に困るわ!」

 

 ぐへへ……テンパる景ちゃんかわいすぎて顔緩みそうになっちゃうね。

 

『かわいい』『かわいい』『かわいい』『かわいい』

 

「おいコメント。景ちゃんかわいいのはわたしが一番よく知ってるから、はやく質問出して」

 

 いい加減進行しないので、声のトーンを一段下げる。

 

『ひえっ……』『ブラックユアユアだ!』『これは彼氏』『尊い』『尊い』『尊い』『イケメンか』『ちょっと男子~、夜凪さんいじめないでー』『ちょっと男子ぃ、質問しなよー』『夜凪ちゃん、好きな食べ物は?』『ふつーに無難なのきたな』

 

「えっと……魚と納豆?」

 

『おばあちゃんか?』『渋くて草』『これは日本美人』『景ちゃん、料理めっちゃうまいからな』『清楚だわ』

 

「景ちゃん、ひじきも好きでしょ?」

「あ、そうね! ひじきも好き……です」

 

『すかさず補足するの草』『ゆあゆあ……お前』『なんなの? ユアユアは景ちゃんの彼氏なの?』『そうだよ』『尊い』『初回からこれとかやばいわ』『尊い』『尊い』『積み重ねが違うからな』『満を持して登場した幼馴染が黒髪美人なの、あまりに解釈一致すぎる』『それな』

 

「景ちゃん、好きなのは和食だけど、まだ兄弟が小さいから洋食のリクエストが多いんだよね」

「そうね……結愛ちゃんにはこの前のCMの撮影のあと、シチューを作ってご馳走したわ」

 

 ようやく緊張がほぐれてきたらしい。景ちゃんはドヤ顔で控えめな胸を張った。

 

「うん! 景ちゃんのシチュー、すごいおいしかったよ!」

「ふふっ……よかった」

 

『俺たちは何を見せられてるんだ?』『美しい友情です』『初回からイチャつきすぎでは?』『かまわん。続けてくれ』『最高か?』『仲良すぎて嬉しくて泣いてる』『尊さフルマックス』

 

「はいはい。わたしと景ちゃんが仲良いのは当然だからね~」

 

 コメントをあしらいながら、またおじちゃんの方を確認してみると……あのひげ、スマホいじってやがる。わたしが様子を確認したことには気が付いたのか、ひらひらと手を振った。どうやら、あとは勝手にやれ、ということらしい。さては、もうやる気ないなアイツ……

 まあ、どうせ序盤の演出もプロデューサーに無理矢理頼まれたんだろうし、ここから先、トークを回していくのはわたしの領分だ。おじちゃんの助けがなくても、特に支障はない。

 

「じゃあ、次の質問どうぞ」

 

『景ちゃんの特技を教えて!』

 

 うーん、またオーソドックスな質問で攻めてくるね。

 

「た、短距離走、とか? あ、走り幅飛びも得意……です」

 

 微妙に緊張が抜けきってないからちょっと敬語混ざるのかわいいな景ちゃん。

 

「景ちゃんは運動神経めちゃくちゃいいんだよね~。走るフォームとかもすっごいきれいだし。あ、でも球技とかはちょっと苦手だよね」

「うん。球を使ったスポーツはちょっと苦手かもしれないわ……」

 

『美人で運動神経いいとか完璧か?』『背高いし、運動神経はたしかに良さそう』『ふむ、球を使った遊びは苦手、と……』『おい』『おい』『自重しろ』『ゆあゆあがおこだぞ?』

 

「戯言をほざいてる人はほっといて、次の質問いくね~」

 

『こわい』『こわい』『ユアユア、笑顔のままなのがこええよ』『彼氏怒らせるな』『すいませんでした』『謝ってて草』『いや草』『次の方、どうぞ』『好きな映画聞きたいわ』

 

「お、いい質問きたね! 景ちゃん、好きな映画お願いします」

「好きな映画? そうね……よく観直すのは『ローマの休日』だわ。女優さんが綺麗な作品が好き。あと『カサブランカ』とか『風と共に去りぬ』も外せなくて……あとは『東京物語』も」

 

 うんうん。いい感じにスイッチ入ってきたね。

 

『おお、手堅いラインナップ』『ちょっと古めのラブロマンスが好きって感じか?』『ローマの休日いいね。おれも好き』『変にマニアックな名作持ってこないのが好感度大』『わかるわー』

 

「よしよし。景ちゃんも調子出てきたし、ガンガン次の質問いってみよう!」

 

 調子が出てきた。これなら、次のビッグなお知らせに入る前に、もう少し盛り上げられそうだ、と。わたしは完全に油断していた。

 

『景ちゃんは、ゆあゆあのことが好きですか?』

 

「なっ……!?」

 

 直球。ストレート。ど真ん中にきた質問に、思わず思考が固まる。

 その質問が流れてきた瞬間に、ぞわっと。『好奇』に満ちた感情が、肌をくまなく撫でまわした。

 まったく、この視聴者ども……せっかく、景ちゃんの緊張がほどけてきたのに。こんな質問したら、また景ちゃんが恥ずかしがって固まっちゃうでしょ! まったくもう……!

 

 

 

 

「大好き。親友だから」

 

 

 

 だが、景ちゃんは即答した。

 即答、してしまった。

 これまでのどの質問よりも、はっきりと。前を見据えて。

 

「…………へ!?」

 

 待ってました、と言わんばかりに、コメントが流れる。

 

『ユアユアと景ちゃんの親善関係の前途をどうお考えですか?』

『永続を信じます。人と人との間の友情ですから』

 

 それは『ローマの休日』のワンシーン。主人公とヒロインのやりとりを皮肉ったもので、

 

 

「め……名作の名言で茶化すなぁ!」

 

 

 赤面を隠し切れず、わたしは思わず叫んだ。

 




※次回に続く
魔王軍参謀裏ボスプロデューサーとひげのおじちゃんのやりとりや、もう一つのお知らせは次の回です

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