焦燥バレンタイン   作:野生のムジナは語彙力がない

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2話でまとめられなかったので3話に続きます。

あと、すみません先に謝らせていただきます。
「本物のバレンタインイベを書く」ってどこかで言いましたが、ぶっちゃけ面白さに自信はありません。すっごい大口叩いちゃったなと後悔しております。

指揮官様がそれでも読みたいと思うのであれば、では……続きをどうぞ


第2話:消えたバレンタイン!?

バレンタインデー当日。チョコレートを貰うべく、ベカスがグニエーヴルを探して基地の中を歩き回っている、その一方で……

 

 

 

基地ーダイニングホールー

 

宿舎の近くには、基地で働くスタッフのために作られたダイニングホール……いわゆる、食事処があった。

一度に100人を超える基地のスタッフが同時に食事を摂ってもまだ椅子に余裕のあるその場所は、デパートやショッピングセンターの中に設置されたフードコートを思わせるような広々とした空間だった。

最も、基地の中ということもあり料理を提供するテナントはたった1つしかなく、一般的なフードコートと比較すると単調で素っ気ないように見られた。

だが、素っ気ないその見た目に反して提供される料理のバラエティは無駄に豊富で、頼めばメニューにはないマイナーな郷土料理さえ提供されるほどだった。

 

ダイニングホールの一角……壁に面した一等席に、少し早めの昼食を摂っているグループがいた。それは、まだ少年と呼んでも過言ではない若い顔立ちの3人組だった。

 

100人が同時に食事をすることができるほどの広い空間を擁しているとはいえ、そもそも基地のスタッフは常駐のものだけでもその倍近く存在している。そのため、完全なお昼時になってしまえば混雑は免れず、万が一にでも混雑に巻き込まれてしまえば、午後の職務に支障をきたす恐れもあった。

それを避けるため、賢い3人組は早めの昼食を摂ることを選択していた。なお、その甲斐あってダイニングホールはガラ空きの状態であり、3人はのんびりと食事を楽しむことができた。

 

「そういえば、今日はバレンタインデーか」

 

3人組のうちの1人、青髪の少年……アルトは壁にかかった大型のテレビから流れるバラエティ番組を見て誰に言うでもなく呟いた。

番組の中では、この日に誰とどのように過ごすのか? もしくはチョコレートを渡すのか? ……について街角調査の結果が発表されていた。

 

「ん? そうか……もうそんな季節か……」

 

上手な箸捌きで基地の名物である『たぬきうどん(並盛り)』を啜っていた少年、グルミがそれに反応した。

 

「お、君もそう思うかい? 実は僕もなんだ」

 

アルトはフォークに刺したウィンナーを小さく振って、グルミの言葉に同意見だということを示した。

 

「何というか、時間が経つのが早く感じるよね? ここに来たばっかりの頃は、色んなことがありすぎて1日が長く感じたけど、今ではそれがつい昨日のことのように思えるよ」

 

「フッ……そうだな」

 

アルトの言葉に、グルミは小さく笑った。

 

「そういえば、歳を取ると時間が経つのが早く感じるようになると聞いたことがある。もしかしたら、それが影響しているのかもな」

 

「そっか……じゃあ、僕らももう若くはないんだね」

 

「いやいや、アンタら……何言ってるんだよ」

 

2人の導き出したその結論に、今まで黙々と魚料理を食べていたもう1人の少年……佐伯楓がようやく口を開いた。

ちなみに、本来なら箸の存在すら知らないはずのグルミに箸の使い方を教えたのは佐伯である。

 

「この中で1番歳下なオレからしてみても、アンタらはまだ十分に若いよ。というか、何だよこの会話……まるで、現役の頃と比べて疲れやすくなったのを実感してそこで初めて自分が老いたなって気づいた中年男性みたいな会話じゃないか……」

 

佐伯はため息混じりにそう告げた。

 

「あはは、やけに具体的だね!」

 

「面白い例えだな」

 

淡々とした佐伯のツッコミに苦笑いを浮かべた2人だったが、グルミはふと何か気になることでもあると言いたげに「ん……?」と、唇に手を置いた。

 

「そういえば佐伯、聞いていて1つ思ったことがあるんだが?」

 

「ん? 何?」

 

「お前、この中で1番歳下なのか?」

 

「え?」

 

グルミの言葉に、佐伯は疑問符を浮かべた。

 

「え、でもだってオレ……まだ学生だしてっきりそうだとばかり、え? というか、2人って今何歳なんだ?」

 

「え?」

「あれ?」

 

佐伯の言葉に、今度は2人が疑問符を浮かべる番だった。

「…………」

「…………」

それから、2人は無言で何かを考え始めた。

 

「なあ、アンタらまさか……」

 

「……違うからな」

「そ、そう! まさか自分の歳を忘れてしまったなんて、そんなことあるわけないよ!」

「……そうだな、あるわけがない」

 

グルミとアルトは口を揃えてそう告げた

「…………」

しかし、自身がないのか2人とも少しだけ無言だった。

 

「い……一応、酒場に入れる年齢だったとは……」

 

「アルト、あそこはもう酒場じゃない……喫茶店だ」

 

「あ、そうだった!」

 

そこでアルトは口を噤んだ。

代わりにグルミが話し始める。

 

「まあいい、それで……俺たちは喫茶店がまだ酒場だった頃には、今で言うところの『黄色い飲み物』つまりビールを飲んでいた筈だ。で、佐伯……お前は……?」

 

「お、オレはソーダだ! ノンアルコール! 学生が飲んでもいい飲み物!」

 

「そうか?だが、あんたらのところの……水原って言ったか? この前、佐伯が飲んでいたものと同じ飲み物を飲んでいるのを見かけたが、酷く泥酔していたような気がし……」

 

 

 

(ビ〜ル〜、泡〜〜〜えへへへぇ〜〜〜)

 

 

 

「そ……それは違う! あれは……そう、プラシーボ効果(思い込み)だ! というか、あの人がそんな飲酒だなんてするはず……とにかく、オレたちはまだ未成年の学生で……」

 

「というか、佐伯は今……何年生なの?」

 

慌てる佐伯に、アルトは小さく尋ねた。

 

「え? ああ、確かプロフィールでは……」

 

「それって、A.D.何年のプロフィール?」

 

「…………」

 

佐伯はそこで押し黙ってしまった。

それにより、ダイニングホールは不気味な静寂に包まれてしまった。周囲に漂う気まずい雰囲気に、3人はなんとも言えない表情を浮かべた。

 

「もう、いいだろ」

 

「そ、そうだね」

 

「この話はもうこれくらいにして、何か飲むか」

 

そう言って深く考えることを諦めたグルミ、アルト、佐伯の3人は気分を変えるために飲み物を確保するべく席を立った。

 

 

 

(とまあ、こんな感じにあやふや解釈でメタ発言も多数盛り込まれている本作ですが、温かい目でどうかご容赦ください。時系列も若干無視しております)作者より

 

 

 

それから約1分ほどでダイニングホールの隅からそれぞれ飲み物を持ってきた3人は、何食わぬ顔をして同じ席に座り、飲み物に口をつけた。

 

ちなみに、かつてアルトは特殊部隊の兵士だったのだが、パクチーにボコボコにされ色々あって現在は賞金ハンターとして活躍している。

 

グルミは元々、とあるヤバイ姉がいる国の王子だったのだが、現在は足の臭い女船長がやっている海賊団の一等航海士として活躍している。

 

それに対し、佐伯は日ノ丸最大の学園とも称されるA.C.E.学園の生徒である。まだ学生であるがゆえに、ここへは高橋龍馬と同じくインターンシップとして派遣されている。つまり、ただの民間人

 

所属する国も違えば立場も真逆なこの3人だったが、ひょんなことから短期で働くことが決まったこの基地で偶然出会い、歳も近かったためか瞬く間に意気投合し、気がつけば食事を共にしたり、時には仲良く遊びに出かけたりする間柄となっていた。

 

「そういえば、どうしてこんな話の流れになったんだ?」

 

沢山の果実を組み合わせて作った、その名もミラクルジュースを口にして、グルミはふと思ったことを口にした。

 

「確か……歳を取ったとか、そういう話だったよね」

 

アルトはブレドンコーヒーを、湯気とともに放たれる芳醇な香りを楽しみながらそのことを口にした。

 

「いや、その前に何かなかったか? そう、歳を取ったっていう話になるキッカケのようなものが……」

 

佐伯はそう言いつつ、熱々の巌流茶を冷ましている。

 

その時、付けっ放しになっていたテレビが映し出していたバラエティ番組はいつのまにかエンドロールに入っており、それが終わるとテレビは次にニュース番組を映し出した。

 

番組では、しばらく世界各地の紛争や株取引に関する報道していたのだが、それらが終わると突然雰囲気が明るくなり、地方のバレンタイン特需の報道を始めた。

 

「「「あ」」」

 

そして3人は、今日がバレンタインだということを思い出した。

 

「そういえばそうだったね!」

 

事の経緯を思い出したアルトは、気を取り直して続けた。

 

「ところで、グルミは誰かからチョコレートを貰う予定ってあったりする?」

 

「なんで、俺にそんな事を聞くんだ?」

 

「いや、なんでってその……」

 

アルトの質問を、グルミは挑戦的な視線とともに質問で返した。その瞬間、アルトはギクリとしたように体を震わせた。

 

「フッ、相変わらずアルトは分かりやすいな」

 

そんなアルトの様子を見て、グルミはニヤリと笑った。

 

「ああ、そういうことか」

 

つられるようにして、佐伯も小さく笑う。

 

「わ……分かりやすいって、それに2人してそんな笑うなんて! ば、馬鹿にしないでよ!」

 

「ああ、いや……馬鹿になんてしてないさ」

 

「そうだな、むしろ微笑ましいというか何というか」

 

照れるアルトに、2人は畳み掛けるように笑った。

アルトは「うう……」と唇を噛んだ。

 

「そうだな。安心しろアルト、俺はシャロからチョコレートを貰うつもりはない。というか、貰えない……貰ったら貰ったで状況が危うくなるだけだからな……」

 

「ああ、そうだったね……」

 

「そういえば……」

 

チョコレートを貰わないというグルミの言葉に、その理由についての心当たりがあるのかアルトと佐伯は納得したように頷いた。

 

「そうだ。あの人たちは、俺がいらないって言っても無理矢理(チョコレートを)くれるだろうし……それに、邪魔者は全力で排除しに来るだろうから……シャロの安否を考えると遠慮した方が良さそうだ」

 

グルミは執念深い姉の作る愛情(・・)がこもったチョコレートと、船長の作るゲテモノチョコレートの味を思い出して震えた。2人とも、毎年のようにそれを無理矢理食べさせに来るのだ。

 

「あははは……そう、今年も……」

そこで、彼の瞳は光を失った。

 

「き、気をしっかり持って!」

 

「何かあったら連絡してくれ、必ず助けに行くから!」

 

そんなグルミに、2人はしっかりフォローを入れた。

恋愛についてちょっとした対立がありつつも、3人は互いに力を認め合い、その境遇を理解し励まし合える、良き友人関係にあると言えた。

 

「ありがとう、2人とも……」

 

そんな2人の友情に支えられて、グルミは正気を取り戻すことができた。

特に、海賊に入る前は塔の中に(ヤバイ姉のせいで)幽閉されていたグルミにとって、2人は初めてできた歳の近い友人であり、親友とも呼べる存在であった。

 

なんでも気兼ねなく話せるようになり、グルミは自分でも最近、よく笑うようになってきたなと自覚するまでになっていた。

 

「そういえば佐伯はどうなの?」

 

「俺? 俺は……まあ、遥あたりから貰えたらいいなーって……」

 

「そっか、貰えるといいね!」

 

(本当にありがとう、2人共……)

屈託の無い笑みを浮かべるアルトと、少しだけ照れた様子をみせる佐伯。そんな2人を見て、グルミは2人に感謝の念を抱くのだった。

 

そして、もう1人……

 

(ありがとう)

今、この場にはいない人物を……自分と、自分のことを理解してくれるこの2人とを引き合わせてくれた恩人(・・)に対して、グルミは感謝の言葉を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式季節イベント「焦燥バレンタイン」

第2話:忘れられたバレンタイン!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベカスは、廊下の奥に見知った人影を見つけた。

 

「エイル、みーっけ」

 

医務室の扉を開けて出てきたグニエーヴルを見て、ベカスは軽い口調でそう呟いた。そこで腕時計を確認すると、龍馬と別れてから1時間以上が経過していた。

今日は非番で暇だったこともあり、ベカスはグニエーヴルを探して今まで広い基地の中を歩き回っていたということになる。

 

(何やってるんだろうな、オレ……)

 

ベカスは少しだけ、自分のやっていることにセルフドン引きしつつも「いや、オレはただ話し相手が欲しかっただけなんだ」と言い聞かせてグニエーヴルの接近を待った。

 

そして、偶然出くわした風を装って彼女へと近寄った。

 

「よお、エイル」

 

「あ、ベカス」

 

ベカスはいつものような口調で話しかけた。

すると、グニエーヴルもいつもと同じ調子で返事をした。

 

(いきなり本題を出すのもアレだしな……)

 

自分のやっている事の厚かましさを感じたベカスは、まずは外堀から埋めていくことにした。

 

「エイルは今、何してるんだ?」

 

「あ、はい。今は医薬品の補充と古くなったものの廃棄作業を行なっています。それが終わったら、ここのスタッフ100名分の健康診断書のチェックと、今度は注射器やマスクなどといった備品の管理と不足部の購入申請の手続きを行って、その次は午後の予約に対応する為の……」

 

「おぉ……凄いな、そんなに……?」

 

「いえ、今日はこれでも少ないくらいです」

 

「そうなのか……」

 

ベカスは軽く驚いた様子を見せつつも、どのタイミングで切り出そうかと見計らっていた。

 

「ベカスは今、何をしているんですか?」

 

「オレは……今日は非番で暇なんだ」

 

「そうですか。なら、今のうちにゆっくりと休んでいてくださいね? 休める時に休まないと、後から動けなくなっても知りませんよ?」

 

「いやー、そうしたいのは山々だけどさぁー……もう暇で暇で仕方なくて、そっちは忙しいみたいだし、よければ手伝おうか?」

 

親しい仲だからこそ見せるベカスの軽い言葉遣いに、グニエーヴルは慎ましげに笑った。

 

「ベカス、お気遣いありがとうございます。でも、この仕事は自分1人に与えられた仕事です。与えられた役割を一つ一つ、しっかりとこなしてこその医者なので、ですからそのお気持ちだけで十分です」

 

グニエーヴルの瞳には力強いものが宿っていた。

それを見たベカスは「そうか」と、静かに頷いた。

 

「医者としての矜持ってことかな? まあ、よくよく考えたら……オレは薬の種類とか保管方法とか、とにかくそういう知識は全然なかったことを思い出したよ」

 

「個人情報保護の観点から、健康診断書やカルテのチェックとかもダメですからね」

 

「はは……力になれなくて悪いな」

 

「いえ、医者としてあなたの元気な姿を見られただけでも大変良かったと思っています。今日はゆっくり休んでくださいね、それでは……」

 

「ああ、頑張れよ」

 

お互いにエールを送りあって、2人はそのまま廊下をすれ違った。

 

(あれ……?)

 

それから2、3歩ほど歩いたところで、ベカスは自分の中に流れる違和感に気づいた。こんなはずじゃなかったような気が……

 

 

 

『だから、チョコレートを貰えなかった奴は、負け犬なんだよぉ!』

 

 

 

「あ」

ベカスの脳裏にカルシェンの言葉が蘇った。

 

「え、エイル!」

 

慌てて振り返り、グニエーヴルを呼び止める。

 

「はい?」

 

呼び止められ、反射的に振り返ったグニエーヴルは不思議そうな表情でベカスを見つめた。

 

「今日って、何月の何日だっけ?」

 

咄嗟に、ベカスはそこまで言って……

(あ、やっちまった!)と、心の中で絶叫した。

 

(こ、これじゃあ……まるでオレがカルシェンみたいにチョコレートを待ち望んでいるみたいじゃねーか!)

 

それは実際その通りなのだが、思わず漏らしてしまった本音に、ベカスは強烈な焦りを覚えた。

 

「今日は、えっと……2月14日ですね」

 

グニエーヴルは手元の資料に記された日付を見て、ベカスにそう伝えた。

 

(こうなったらもうやるしかねえ!)

 

今の質問で自分の意図を感づかれたのは間違いないだろう、ここまで来ると攻めるしかない! ……そんなことを考えながら、ベカスはご自慢のポーカーフェイスを一切乱すことなく

 

「今日って何の日だっけ〜?」

 

グニエーヴルに対し、核心に迫る質問を投げかけた。

 

「え?」

グニエーヴルは疑問符を浮かべた。

 

「い、いやほら……オレ、前に売り子としてバイトしたことあるし、でも今年はやらなくていいのかなーって思ってさ、暇で」(例の着ぐるみの件)

 

 

 

「えっと……今日、何かありましたっけ?」

 

 

 

「…………え」

グニエーヴルの口からその言葉が飛び出した瞬間、ベカスは全身が凍りつくような感覚に苛まれた。

 

「え?」

 

「…………え!?」

 

ベカスは訳も分からずグニエーヴルを見つめた。

 

「もう、ベカスったら……ふふっ、おかしな人ですね」

 

「そ……そうかな、はは……オレ、おかしいのかも」

 

グニエーヴルの微笑みに、ベカスは反射的に微笑み返す

 

「それでは、またお会いしましょう」

 

「ああ、それじゃあ…………また」

 

ベカスはこちらに背を向けて廊下の奥へと消えていくグニエーヴルの姿を、ただただ見送ることしかできなかった。

 

「そ、そんな……」

 

やがてグニエーヴルの姿が完全に見えなくなると、ベカスはまるで全身から力が抜けてしまったかのように勢いよく廊下に両膝をついてしまった。

 

冷たい風がベカスの横を通り過ぎて行った。

 

(まさかグニエーヴルの奴、今日がバレンタインデーだってこと忘れているんじゃ……いや、そんなことよりも!)

 

「ハハッ!」

 

廊下に何者かのそんな嘲笑が響き渡った。

 

「だ、誰だ!?」

 

ベカスは声の聞こえてくる方向……自身の背後を素早く振り返った。そこには、フォーマルな黒いスーツを身につけた屈強な男が佇んでいた。

 

「お前は……ウッド!?」

 

それは合衆国出身の軍人……ウッドだった。

 

「無様だな、ベカス!」

 

「何がだ?」

 

ベカスの問いに、ウッドは「愚問だな」とばかりにニヤリと笑った。

 

「グニエーヴルさんから、チョコレートを貰えなくて」

 

「ぐっ……!?」

 

その言葉に、ベカスは少なからずダメージを受けた。

 

「おっと、とぼけても無駄だ。貴様の狙いがグニエーヴルさんからのバレンタインチョコだということは、貴様のグニエーヴルさんの不自然な会話の流れからハッキリと断定することができた」

 

ウッドは嬉々として声高々に続ける。

 

「貴様の意図はバレバレなんだよ。この俺にも分かったようにな……それはつまり、グニエーヴルさんにも貴様の意図はハッキリと伝わっているということ! であるにも関わらず、グニエーヴルさんは貴様を邪険に扱った」

 

邪険に……その言葉がベカスをさらに苦しめた。

 

「これが意味することはたった1つ! 最初から、グニエーヴルさんは貴様にチョコレートを渡す気はなかったということだ!」

 

「そ……そんな、でも……」

 

反論しかけて、そこでベカスはカルシェンの例を思い出して震えた。

 

「前回以降のバレンタインデーでは貰えたのに……とでも言いたいのか? ベカスよ、残念ながら人というものは良くも悪くも変わるものだ」

 

それまでは普通にチョコレートを貰えていたカルシェンが、ある日を境に突然チョコレートを貰えなくなるという現象。

彼はその理由を、長年に渡る粗暴な態度が影響してしまったのではないのかと推測していた。そのパターンがこの場面にも適用されるとしたら……それはつまり、ベカスが……

 

「つまり……貴様はグニエーヴルさんから、飽きられてしまったということになるな」

 

「あ……飽き……!?」

 

その言葉に、ベカスはショックを受けた。

 

「だ、だが! オレがバレンタイン云々の話を切り出す前は、普通にオレとの会話に応じてくれたし。それに、エイルのやつ全然嫌そうな顔をしていなかったし……」

 

「社交辞令」

 

「ぐっ!?」

 

ベカスの心がさらに抉られる。

 

「まだ分からないのか? ベカス、長年に渡る貴様のクソムーブに対して、グニエーヴルさんはついに愛想を尽かしてしまったのだろう」

 

「そ、そんな……」

 

ライフがゼロになったベカスには、最早顔を上げるだけの力すら失われてしまった。orz……そのような形で、愕然とショックを受けている。

 

「完全敗北だな、ベカス!」

 

床にうずくまるベカスを、ウッドは冷ややかな視線で見下ろした。

 

「そこで、俺の出番だ」

 

ウッドは力強く右腕を上げた。

 

「この時を待っていた! グニエーヴルさんの心が完全に貴様から離れた今、俺とグニエーヴルさんの仲を阻むものは何一つとして存在しない!」

 

「な……なに……!?」

その言葉を聞いて、ベカスは内心居ても立っても居られなくなってしまった。脱力している体を無理矢理言い聞かせて、なんとか顔を上げる。

 

「メイクと服装に異常はなし、導入の天気デッキも問題なし、こんな時のためのシミュレーションも完璧。ククク……バレンタインチョコも! グニエーヴルさんの心も! 全て俺のものだ!」

 

そうして、ウッドはベカスの脇を通り抜けて、グニエーヴルが消えていった通路の奥に向かって歩き始めた。

 

「ま……待て……ッ」

 

少しだけ体の力を取り戻したベカスはズルズルと床の上を這うようにして、ウッドの姿を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

数分後……

 

 

 

「なぜだーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!」

 

 

 

ベカスは角を曲がった先から響き渡る、そんな絶叫を耳にした。

 

相変わらず床を這いながら角を曲がると……そこにはつい先ほどのベカスと同様、地面に両膝をついてorzの姿勢でショックを受けているウッドの姿があった。

当然のことながら、ウッドの周囲にチョコレートらしき物体は落ちていない。

 

それを見て、ベカスはニヤリと笑った。

 

「お……俺の完璧な計画が……何十回、何百回とシミュレーションを繰り返したにも関わらず、全くの脈なしだと? くっ……どういうことなんだ!? 一体何がッ!? 俺に足りないというのだ!?」

 

ウッドは真っ青な顔をして何やらブツブツと呟いている。

 

「『好き』の反対は『嫌い』ではなく『興味がない』であるという話は聞いたことがある……彼女が俺を嫌う理由はないし、会話に応じてくれた時点で興味がないということはないはず……その言葉に間違いはないはずだ、しかし、ここまで軽くあしらわれてしまうとは一体……? ハッ!? まさか、この俺やベカスの他に彼女の心を魅了した別の男が……?」

 

「ぶ、無様だな……ウッド」

 

少しだけ気が軽くなったベカスは、中腰の姿勢でウッドの側へ近寄った。

 

「ど、どの口が……わざわざこの俺を笑いに来たのか?」

 

「それもあるが……なあ、何かおかしくないか?」

 

そう言って、ベカスはまるでスクラムを組むかのようにウッドの肩を掴んだ。それから顔を近づけ至近距離での会話を始めた。

 

「さっき龍馬から聞いた話によると、近年はバレンタインデーにチョコレートを渡す女の数が減ってきているっていう統計があるらしい……」

 

「な、なんだと!? して、龍馬くんが言っていたその統計情報のソースはどこなのだ……!?」

 

「『め◯ましテレビ』だそうだ」

 

「なんと!『め◯テレ』だと! なるほど……街頭調査を徹底しているあの番組の情報は、確かに信頼に値する……」

 

ウッドは苦しそうに頷いた。

 

「ああ、だからオレ……最初はエイルのやつも今年はそういう方針にしたとばかり思っていた。だが、何かがおかしい……」

 

「と言うと?」

ウッドはベカスのことをチラリと見た。

 

「これは俺のカンだが……エイルのやつ、今日がバレンタインデーだってことを完全に忘れてるんじゃないのか?」

 

「ば、馬鹿な……いくら世界的にバレンタインデーが下火になりつつあると言っても、世間では未だバレンタインデームードに溢れているのだぞ! それにも関わらず、バレンタインデーを忘れるということは、それは即ちクリスマスの日にクリスマスのことを忘れるも同然だ! しかし、それはあり得ないぞ、なにせこの俺ですら戦地でクリスマスパーティーを開いたこともあるくらいだからな」

 

「……い、言いたいことは色々あるが、とにかく確証はねえ。だが……いや……なんだか、今日のグニエーヴルは俺が知っている普段のエイルとは違う気がするんだ」

 

「ベカス……!? それはどういうことだ?」

 

「いや、分からねえ。ただ、一つ言えることがある」

 

ウッドの視線がベカスに集中する。

そうして、ベカスはゆっくり言葉を続けた。

 

 

 

「何かが……起きている。オレたちが知らないところで、オレたちの知らない、何かが……」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「はい、グニエーヴルです」

 

『…………』

 

「はい、本日はお誘いいただきありがとうございます」

 

『…………?』

 

「ええ、こちらは仕事を完遂させ次第……すぐそちらへ向かいたいと思います。いえ、お手伝いの方は無用ですので」

 

『…………』

 

「はい。ですので……先に下準備の方をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか? それと、例の物の処分も……」

 

『…………?』

 

「ええ、つい先ほどベカスとウッドさんから接触がありましたが、なんとかやり過ごしました。はい、何も問題はありません。2人とも、まだこちら側の思惑には気づいていないでしょう」

 

『…………』

 

「ありがとうございます。それでは、また……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は……逃さない」

 

そう言って、グニエーヴルは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話:「消えたバレンタイン」ー了ー

第3話:「男たちのレクイエム」へ続く




アルトの一人称に関して、諸事情によりここではあえて「僕」を使用しています。(まあ、大した理由ではないんですけどね)そもそも「僕」が素のアルトくんなのでは?

では、また次のお話でお会いしましょう
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