焦燥バレンタイン   作:野生のムジナは語彙力がない

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バレンタインイベ、これにて完結なのです!

あと、第1話で指揮官のセリフ云々と言ってはいましたが、やはり読み辛いと思われるので、以後、指揮官のセリフは(丸カッコ)囲みで表したいと思います。
ただし、()で囲まれた部分が全て指揮官のセリフはというわけではなく、キャラクターの心の声を表している部分もあるので、そこは文章の前後を読んだ上で判断して頂きたく思います。



それでは、続きをどうぞ……


第4話:男たちのレクイエム(後編)

あらすじ

 

ベカスの計画……それは、バレンタインチョコを貰えなかった男たちだけでチョコレートを送り合うという、世紀末的かつ悪魔的(笑)なものだった!!!!!

 

用意するもの

・女装した高橋龍馬×1

・TGMを服用して性転換した誰か×1

・チョコレート×6(適量)

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ベカスの暴走を食い止めてから約1時間後……

 

 

 

「あ、おかえり〜」

 

街へ買い物に出ていたアルトと佐伯、そしてウッドがリフレッシュエリアに戻ると、和服姿の龍馬がパタパタと3人を出迎えた。

 

「うわぁ……」

 

ピンク色の和服を着た龍馬の姿を見て、頰を赤く染めたアルトの口から気の抜けたような声が漏れ出た。他の2人も同様に、唖然とした表情を浮かべて龍馬を見つめている。

 

「え? どうしちゃったの3人とも……? あ、そっか! あの……どうかな、この服? 僕に、似合うと思う?」

 

龍馬はモジモジと恥じらうような素振りを見せつつも、上目遣いで3人を見つめた。とても可愛らしいその様子に、3人は体の底から電撃が走るような気配を感じた。

 

(こ、これが、あの高橋龍馬なのか……?)

 

同じA.C.E.学園出身である佐伯は、思いもよらぬ変貌を遂げた後輩の姿に目を見開き、口をポカンと開けていた。

 

(ぼ……僕、どうしちゃったんだろ? 龍馬くんは男の子だって分かっているはずなのに、何? この気持ちは……?)

 

アルトは龍馬の姿を見て揺れ動く自身の心に戸惑っていた。

 

(かっ……可愛いッッッ!!!)

 

ウッドはボタボタと鼻血を垂らしていた。

 

「もしかして、その……似合わない?」

 

3人が何も言わなかったのを見て、龍馬の笑顔に暗い影が差し込んだ。そして、その瞳に浮かぶ水玉がキラリと光る。

 

「「「いや、そんなことはない!!!」」よ」

 

それを見た3人は慌てて首を横に振った

 

「よく似合ってると思う!」

 

「うん! それに、とっても可愛いね!」

 

「ああ、まさに天使のようだ……」

 

3人の素直なべた褒めに、龍馬の顔がパアッと明るくなった。

 

「そう? えへへ……ほんとは僕、女の子が着るような可愛い服よりも、もっと男らしい服の方が好きなんだけど、似合うって言ってくれるのは素直に嬉しいかな」

 

龍馬の顔にいつも通りの笑みが戻ってきたを見て、3人はホッと胸を撫で下ろした。

 

「ね、ねえ……龍馬くん!」

 

龍馬の姿をチラチラと見つめていたアルトだったが、ふと何かに気づいたのか顔を真っ赤にして龍馬へと声をかけた。

 

「うん、なぁにー?」

 

「その……ひとつ、聞いてもいいかな?」

 

「うん! いいよー!」

 

「じ、じゃあ聞くけど……」

 

アルトはドキドキと高鳴る鼓動を抑えるように歯を食いしばり、ゴクリと生唾を飲み込んだ後……恐る恐るこう続けた。

 

 

 

「もしかして、履いてないの?」

 

 

 

「「…………!?」」

 

絞り出したかのようなアルトの言葉に、佐伯とウッドは思わず息を呑んだ。そして2人の視線が龍馬の下半身へと向けられる。

 

「…………ぅぅ」

 

2人の視線が向けられるや否や、龍馬は頰を赤らめて恥ずかしそうに和服の裾を両手で抑えた。和服は女児向けだけあって体の小さな龍馬が着るにしてもギリギリのサイズであり、そのため彼の太ももは丸見えになっている。しかも龍馬が動くたびに和服の隙間からチラチラと腰の辺りが垣間見え、そこに本来ならあるべきはずのもの(服の下に着るアレ)は影も形も見受けられなかった。

 

「……あんまり、見ないで」

 

 

 

「「「ッッッッッッッッッ!!!!!」」」

 

 

 

それはまるで、美少女がめくれそうになったスカートを慌てて抑えているかのようだった。その光景を見て、高橋龍馬のあまりの可愛さに3人は静かに悶絶した。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「僕、知ってるよ?」

 

高橋龍馬は穏やかな笑みを浮かべて続けた。

 

「和服の下にパンツを履いちゃいけないって……それに、パンツを履かない方が男の人は喜ぶんだって……僕、知ってるんだ。少し前に……色々と教えてもらったから」

 

 

 

「目から光が……」

 

ハイライトが失われた龍馬の瞳を見て、正気に戻ったアルトたち3人は、なんとも言えないという風にお互いを見やった。

 

佐伯「誰だよ、オレの後輩にこんなこと教えたやつは」

 

ウッド「ああ! 全くけしからんな!」

 

アルト「龍馬くん、大丈夫かな……」

 

そして、3人は心配そうに龍馬を見やった。過去を思い出して遠い目をしている高橋龍馬だったが、そんな彼に対して色々なことを教えた張本人がベカスその人であることなど、彼らには知る由もなかった。

 

「……ちょっといいか?」

 

そこへ、今まで黙って様子を見ていたグルミが声をかけた。

グルミはバレンタイン用のチョコレートを買いに街へ出向いた3人とは違い、ある人物の逃亡を阻止するために基地に居残っていた。

 

「チョコレートは?」

 

「ああ、ここに」

 

佐伯はそう言って、グルミに紙袋を手渡した。紙袋の中には、これから使うことになるチョコレートが山盛りになって入っていた。

 

「……いくらなんでも多すぎだろ」

 

グルミは紙袋のズシリとした重さに呻き声をあげた。

 

「いや、その……なんか押し付けられた」

 

「高くなかったのか?」

 

「そうでもない。特需っていうのもあるんだろうが、売店の人が表示価格の半額にするって言い出してな」

 

「半額って、なぜ……?」

 

「詳しいことはわからねーけど……売店にいたおばちゃんの、オレたちに向ける視線が妙に温かいものだったことをよく覚えてる」

 

「ああ、そういうことか……」

 

ポツリポツリと告げる佐伯の肩を、グルミは優しく叩いた。

 

「だが、本当にやるのか?」

 

「何を今更……今ココでやめたら、今日恥を忍んでチョコレートを買いに行ったオレたちの苦労は一体なんだったんだよ……」

 

「ん、それもそうだが……」

 

グルミはそこでチラリと、部屋の奥に視線を向けた。

 

「そういや、あのオッサンは?」

 

「ああ。ついさっき着替え終わって、今……隣の部屋でスタンバイしている」

 

グルミの言葉に、佐伯は今自分たちがいる部屋とその隣の部屋とを繋ぐ扉を流し見た。

 

「そっか、じゃあ……あのオッサンが薬を飲んで、どう変わったのかを見させてもらうとするか!」

 

佐伯はニヤリと笑って扉へと向かった。

 

「待て、佐伯!」

 

グルミは慌ててその肩を掴み

「覚悟はできているのか?」

真面目な口調で告げた。

 

「覚悟ってお前……そんな大げさな」

 

佐伯が自分の肩を掴むグルミの手を軽く払うと、グルミはそれ以上、佐伯のことを止めようとはしなかった。

 

「女になるって言っても、せいぜい髪の毛が数センチ長くなったりする程度だろ? 薬を飲んだだけでそんな、人が変わるわけでもあるまいし……」

 

何の躊躇いもなく、佐伯は扉に手をかけた。

 

「よー、オッサン。女にはなれた……か……」

 

のんびりとした調子で扉を開いた佐伯だったが、その視線が部屋の真ん中にいる人物の姿を捉えた瞬間……彼は言葉を失った。

 

「…………っっっ!」

 

部屋の中、1人掛けの椅子に座る美少女

上はワイシャツと黒いコートを着込み、下は黒いスカートに長いソックス、そしてブーツを履いている。

 

長い銀髪、その毛先は腰の位置まで届いている。

 

シミひとつない白い肌

 

美しい赤い瞳

 

狭い肩幅

 

所々から垣間見える、程よい肉付き

 

引き締まっていることもなく、かといってだらしなく太っているというわけでもない、理想的な女性のプロポーション

 

そして、消失した喉仏

 

「…………!」

 

彼女は驚いたように佐伯を見つめていた。

 

「…………」

 

……パタン

佐伯は黙ってゆっくり扉を閉めた。

その表情は蒼白に染まっている。

 

「だから、言っただろ?」

 

そんな佐伯の後ろからグルミは気まずそうに声をかけた。

 

「なあ、グルミ」

 

「なんだ」

 

「この扉をもう一度開けたら、シュレディンガーの猫の理論でなかったことに……」

 

「現実を受け入れろ」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

1時間前……

 

 

 

「よし! じゃあお前ら全員、このクジを引け!」

 

そう言ってベカスは、ただ切った用紙を折り曲げただけの山をアルト、佐伯、グルミ、そしてウッドに向けて示した。四角形のトレーに乗せられたそれらを、4人は怪訝そうな目で見つめた。

 

「何だこれは?」

 

差し出された紙の山を見て、ウッドが呟く。

 

「これはバレンタインデーイベントの役が書かれたカードだ」

 

そう言ってベカスは紙の山から一枚だけ摘み上げ、折り曲げられたそれをゆっくり広げた。中には綺麗な字で『調達』と書かれていた。

 

「因みに、役の種類は全部で3つ……1つ目は、龍馬たち女装組の『着付け』を手伝う係、2つ目がイベント用のチョコレートを『調達』する係、それで3つ目がこの『薬』を飲んで性転換してもらう係だ」

 

そう言ってベカスは引いた紙を再び折り曲げて山に戻した。

 

 

 

ベカスの計画を要約すると、こうだった。

まず、前述のクジ引きでそれぞれの役を決める。

 

1.チョコレート調達係になった者は街で人数分のチョコレートを買ってくる。因みに、チョコレートの代金は自腹とのこと

 

2.女装組の着付け役になった者は、調達係が戻って来る前に衣装の調達と着付けの手伝いを行う。

 

3.不運なことに薬を飲むこととなってしまった者は直ちに薬を服用し、調達係が帰って来る前に着付けを行わなければならない

 

4.合流後、調達係はチョコレートを女装組に受け渡す。

 

5.その後、女装組は色々な(学校の後輩や職場の同僚的な)シチュエーションで男たちに真心を込めてチョコレートをあげる。

 

6.全員チョコレートを貰えて超ハッピー!!!

 

 

 

「……という訳だ! さあ、クジを引けよ!」

 

そうして、ベカスの長々とした説明は終わった。

 

「何が『チョコレートを貰えてハッピー』だ!」

 

それに対し、ウッドは肩をすくめてみせた。

 

「俺はそんな馴れ合いに興味はない。そもそも、何が楽しくてバレンタインデーに男からチョコレートを貰わなければならないんだ? そんなことをしても、ただ虚しくなるだけだ……くだらん!」

 

「まあまあ、そう言うなって〜」

 

そんな感じで気安くウッドの肩を掴もうとしたベカスだったが、ウッドは彼の手をどうでもいいと言う風に跳ね除け、そのまま部屋の出口へ直進した。

 

「用はそれだけだな? 俺はもう帰るぞ」

 

「いいのか?」

 

「む?」

 

その言葉にウッドが振り返ると、そこには嘲笑を浮かべたベカスの姿。

 

「この機を逃したら最後、お前はこの中で唯一、今年チョコレートを貰えなかった残念な野郎ということになる……それはつまり、負け犬ってことさ」

 

「それがどうした」

 

「いや、オレに言わせればそのまま帰ってくれても構わねぇ。だが、そうしたところでお前さんはチョコ0個っていう不名誉を賜って、来年のバレンタインまで酷く惨めな思いをするのは目に見えているんだぜ」

 

「…………」

 

「それとも何か? 合衆国のエースともあろうお前が……無様に負けて、可愛らしい女の姿になるのが怖いのか?」

 

「……怖い? 馬鹿を言うな」

 

ベカスの挑発的な視線と言葉に、ウッドはかぶりを振った

 

「俺は兵士だ。数多くの戦場を潜り抜け、既に恐怖など克服している。そんな俺が、このような些事に対して恐怖心を抱くとでも思っているのか?」

 

「そいつは、やってみないと分かんねぇな〜」

 

ベカスのあからさまな挑発に、ウッドは

 

「良いだろう。不本意だが、ここはお前の安っぽい挑発に乗ってやるとしよう……」

 

ため息と共に、そんな言葉を吐き出した。

 

「それと言っておくがだな、俺はあくまでもお前の挑戦を受けることに興味があるだけで、別にチョコレートを貰えずに惨めな思いをする云々に関しては本当にどうでもいいと思って……」

 

「あー、分かった分かった……で、お前らも勿論参加するだろ? ああ、因みにお前らに拒否権はないからな?」

 

ウッドの声を聞き流し、ベカスは残った3人へ呼びかけた。

 

「このオッサン、かなりの下衆だな」

 

佐伯はじっとりとした目でベカスを見やった。

 

「まあまあ……そう言わずに」

 

「これでも姉たちと過ごすことに比べれば幾分かマシな方かな……はぁ、程々に付き合ってやったら勝手に満足して解放してくれるだろ、それまでの辛抱さ」

 

そんな佐伯をなだめたのは、彼よりも少しだけ年上で大人なアルトとグルミだった。

 

「決まりだな! よし、クジを引こうぜ!」

 

そう言いつつ、ベカスはクジが山盛りになったトレーの上で、ワキワキと手を動かした。

 

(と言っても、クジを用意したのはオレだからな……悪いが、どの場所にどのカードを置いているのかはしっかりと記憶しているのさ〜♫)

 

ベカスは心の中で密かにほくそ笑んだ。

 

(後は……一番のハズレくじである『薬』さえ引かないようにすればいい。いや、折角だし1番の当たりクジである『着付け係』を狙ってみるか? 『調達係』は楽だがチョコレートを買うのに自腹を切る必要があるし……それに比べて『着付け係』なら薬を飲んで女になった奴の姿を1番に見れるし、何より龍馬の着付けを手伝える……まさに一石二鳥だな!)

 

短い思考の後、ベカスの視線がクジの1つに集中する。

 

「よし、まずはオレから引くぜ……ドロー!」

 

「待て!」

 

「うっ!?」

 

ベカスがクジの1枚に手をかけた瞬間、横から彼の腕を素早く捕まえる者があった。それは、先程からベカスの一挙一動をじっとりと見つめていた少年……佐伯だった。

 

「このクジはオッサンが用意したものなんだろ? なら、公平なクジ引きをするためにクジを並べ替え……もとい混ぜ直させて貰う」

 

「……そ、それもそうだな〜ハハハ……」

(チッ……このガキ……)

 

ベカスは渋々頷き、引いたクジを山の上に戻した。

それを確認した佐伯は、一度クジの山をトレーの上から取り上げて、自らの掌の中で何度もクジの前後を入れ替え、どこにどのクジがあるのか自分でも分からなくなるまでシャッフルした。

 

「よし、これならフェアだろ」

 

そう言って佐伯はトレーの上にクジを戻した。

 

(フッ……甘いな)

 

しかし、これで終わるベカスではなかった。

 

(こういうこともあろうかと、実はハズレくじの表面には傷をつけてある。それも、注意して見なければ絶対に見つけられないような小さな傷をな!)

 

ベカスは、再び心の中でほくそ笑んだ。

 

(後は、傷がついたクジを選ばないようにすれば……)

 

「おいオッサン! まさかとは思うが、前もってクジに小さな傷を付けてるとか、そんなことしてないよな?」

 

(……!?)

 

佐伯のまるで全てを見透かしたような指摘に、ベカスは口から心臓が飛び出してしまいそうになるのを感じた。だが、それでも何とか大人としての意地を見せようと見事なポーカーフェイスを披露している。

 

「まっさかぁ〜そんなことするわけねーよ!」

 

「どうだかな……というわけで悪いがオッサン、アンタがクジを引くのはこの中で1番最後だからな?」

 

「分かった分かった」

(このガキャ……とことん邪魔しやがって……)

 

ベカスはトレーを佐伯に手渡し、それから大きなため息を吐いて壁際へと移動した。

 

 

 

(まあいい、どうせオレがハズレを引く確率は5分の1……つまり20パーセント。これは中々の低確率だ……それに、残り物には福があるって言うしな、まず間違いなく……オレにハズレがまわってくることはないだろう)

 

 

 

ポケットから取り出した甘苦を咥え、余裕たっぷりな様子でそんなことを考えながら、ベカスは自分の番になるのを悠々と待つことにした。

 

楽観的なその考えが、後にフラグとして回収されるとも知らずに……

 

「何故だああああああああああッッッッッッ!!!」

 

リフレッシュエリアにベカスの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

そして、物語は今に至る……

 

 

 

「クソっ!……何でオレが、また、こんな……」

 

薬を飲んで女性になったベカスが扉を開けて姿を現した。

 

「わぁ! ベカス!」

 

まず声をあげたのは高橋龍馬だった。

 

「凄いや! 本当に女の人になっちゃったんだね!」

 

いつものクールでキザな姿は何処へやら、薬を服用したことにより、ベカスはより女性らしく、より綺麗になっていた。そんなベカスを見て龍馬は目を輝かせた。

 

「りょ……龍馬! た、頼む……そんなキラキラとした純粋無垢な瞳で、こんな風に汚れちまった今のオレの姿を見ないでくれ……!」

 

「何言ってるのさ! 今のベカス、とっても綺麗だよ! 汚れているなんて、そんなこと絶対にないよ!」

 

龍馬のその言葉に嘘偽りはなかった。

事実、男だった頃のベカスに比べると、顔にあった僅かなシミやニキビ跡は完全に消え失せ、それに加えて肌の調子もより健康的で明るいものになっている。

 

「そ、そうか……綺麗になったのか、オレ……」

 

ベカスはしきりに自分の顔に手を触れ、苦笑いを浮かべた。

 

「うーむ、本来なら喜ぶべきところなんだろうがなぁ、正直に言わせて貰うと、スッゲェ複雑な気分であんまり嬉しくねぇ……」

 

そう言って、ベカスはチラリと脇の方を見やった。そこにはアルト、佐伯、グルミの姿があり、集まった3人は可哀想なものを見る目でベカスを見つめていた。

 

「おい、何見てんだ」

 

ベカスが珍しく怒りを露わにすると、それを見た3人は気まずそうな顔をして、それぞれ別々の方向に視線を逸らした。

 

「何か言いたいことがありそうだな」

 

「ああ、正直言って引いてる」

 

詰め寄ってきたベカスに、逃げられないと悟ったのか佐伯は肩をすくめてベカスの姿を流し見た。

 

「正直言ってドン引きなんてもんじゃない! いや、オッサンがこんな姿になったからっていうのもあるが、それだけじゃない。オレが引いているのは、アンタがこれだけ強烈な効果を発揮する薬を平気な顔をしてオレたちに盛ろうとしていたことに関してだ」

 

「いや、それはまあ……つい出来心で」

 

「出来心で性転換? オッサン、アンタ……頭湧いてるんじゃないの?」

 

 

 

「まあまあ、落ち着いてよ佐伯! あっ、そうそう! 気になったんだけど……そんな姿になって、しかも喉仏も出ていないのに、声はいつもと変わらないんだね」

 

アルトは苦笑いを浮かべ、どうにかして場を和ませようと話題を切り替えにかかった。

 

「ああ、そういえばそうだな。身体がこんくらい変わるんだったら、声の質まで変わってもおかしくはずだよな……」

 

ベカスは「今まで考えもしなかった」と言いたげに自分の首に触れた。それから一度咳をして、試しに今の自分がどれだけ高い声を発することができるのか試してみるも、辛うじて発することのできた高音は普段の状態でも発声することが可能なレベルのものだった。

 

「というか、この薬って……いったいどういう仕組みでこうなるの?」

 

「そんなのオレに分かるわけないだろ。オレは半ば騙された感じでテストに使われただけだし、まあ詳しいことはこの薬を作ったオスカー製薬の人にでも聞けよ……まあ、企業秘密らしいけどな」

 

「そっか……ところで、薬の効果はいつになったら消えるの?」

 

「あー……薬のパッケージには最長10日間の持続効果って書いてあるみたいだが、前に呑まされた時はちょうど1週間で元に戻ったからなぁ……個人差があるんだろう」

 

「じゃあ、1週間その姿で生活することになるんだ……」

 

これにはアルトも苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「…………」

 

見事なまでの変貌を遂げたベカスを前にして、龍馬を除く3人がそれぞれ冷ややかな視線を浮かべる中、その中で1人……ベカスに対して他の4人とは違う視線を向けている者がいた。

 

視線の主はウッドだった。

ベカスが部屋の中に姿を現してからというもの、ここまでずっと無言を貫き、何やら一心不乱にベカスのことを凝視していた。

 

「ん? アンタ、どうしたんだ?」

 

ウッドのそんな様子が気になったグルミが声をかけると

 

「いや、何でもない……」

 

そう言ってウッドはふと我に返ったように顔を背けた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

かくして、男たちのバレンタインデーが始まった。

 

 

 

龍馬「せ……先輩! よかったらコレ、食べてください!」

 

アルト「あ、ありがとう!」

佐伯「お……おう」

グルミ「……ど、どうも」

 

 

言葉にすればそれは、調達係があらかじめ店で買っておいたチョコレートを女装した龍馬が男たちへ配るだけという話に過ぎなかった。

……なのだが、龍馬はベカスに言われた通り、やれと言われた『学校の先輩後輩』というシチュエーションを律儀にこなし、一人一人しっかりと真心を込めてチョコレートを手渡した。

 

そうして受け渡されたチョコレートは、元々は街で普通に買うことのできる安い量産品に過ぎなかったのだが、唯一無二の絶世の美少女(?)である高橋龍馬が手渡したことによりその価値は何十倍……いや、何百倍にも膨れ上がった。

 

さらに、とても演技とは思えない龍馬の初々しさと愛嬌、そして可愛らしさとてぇてぇが溢れたその振る舞いは3人の心に強い衝撃をもたらすこととなった。

その衝撃は凄まじく、シャロのアプローチにすら一切なびかなかったあのグルミでさえも、チョコレートの受け渡しが行われた際には俄かに頰を赤く染めるほどだったという。

 

 

 

「なるほど、オッサンが熱中するわけだ」

 

佐伯は今回のイベントを通じて、改めてバレンタインデーにチョコレートを貰える有り難みと、高橋龍馬の可愛さを実感するのであった。

 

 

 

その一方で、ベカスはというと……

 

「くそっ! 分かったよ、やればいいんだろ!」

 

ベカスは悪態を吐きつつ紙袋の中からチョコレートの箱を取り出すと、そそくさとウッドの真正面に移動した。

 

「おい、お前……」

 

「えっ?」

 

突然のことに、ウッドは困惑した。

 

「何呆けてやがる……これ、やるよ」

 

そう言ってベカスはウッドの腕を掴み、その手の中に持っていたチョコレートの箱を押し付けて握らせた。

 

「お、俺のために……?」

 

「べ、別に……お前のために用意したんじゃないからな! こんなのはあくまでも、ちょっとした戯れに過ぎないんだからな!……くそっ、何でオレがこんなこと……」

 

 

 

(ツンデレだね)

(ツンデレだ……)

(ツンデレだな)

 

 

 

ベカスの言葉にアルトたちは苦笑いを浮かべた

 

その時だった……

 

 

 

「可憐だ」

 

 

 

ベカスとチョコレートの箱とをしばらく見つめていたウッドだったが、何を思ったのか唐突にそんな呟きを口にした。

 

「え?」

 

「「「は?」」」

 

ベカスやアルトたちは皆一同に驚愕した。

 

「ウッド!? お前……何言って……」

 

「ひと目見た時から思っていた」

 

ただならぬウッドの様子に、嫌な予感を察知したベカスはその場から後ずさりをするも、ウッドはジリジリと距離を詰めてきた。

 

「君の……美しい銀色の髪の毛、細くしなやかな両腕、無駄のない体つき、それでいて艶やかな臀部、そして真夏の太陽よりも美しいその瞳……」

 

 

 

(ねぇ、もしかして口説いてる?)

(恐らくな……それにしても、非常にアレな光景だ)

(臀部って言ってる時点で、もう引くわ)

 

 

 

「や……やめろ! オレはそんな、男に興味なんて」

 

「ん? 男性経験がないことを気にしているのか? いや、安心しろ……そんな些細なことなど俺は一向に気にしないぞ。むしろ貞淑な女性は好まれるものだ」

 

「いやいやいや! おかしいだろッッッ! そんなこと言ってない! どうしてそうなる!? ま、待て! そもそもオレは男だ! 勿論分かってるよな!」

 

「ハハッ、おいおい何を言っているんだ? 君のような美しい女性が男であるはずがないじゃないか……」

 

「じ、冗談だよな! な!?」

 

「こう見えても、冗談は嫌いなんだ」

 

「そ、そんな……あっ!?」

 

そして、ついにベカスの背中が壁に衝突した。

もはやベカスに退路はない

 

 

 

……ドン!

その時、部屋に鈍い音が鳴り響いた。

 

 

「ひぃっ!?」

ベカスは思わず悲鳴をあげた。

 

 

 

(ま……まさか!)

(ああ、そのまさかだ!)

(あ、あれは伝説の……!)

 

 

 

壁ドンだあああああああッッッ!!!!!!

 

 

 

壁に手を突き、ウッドは至近距離でベカスの目を見つめた。あまりの恥ずかしさに、ベカスはウッドから顔を背けようとするも、ウッドはベカスの顎をグイっと持ち上げた。

 

「ベカス! 俺は……お前のことが……!」

 

そして、愛の言葉を囁こうとした……その瞬間……

 

 

 

(……なにしてるの?)

 

 

 

誰かが放った一言に、その場の空気が凍りついた。

 

「あ! 先生!」

 

部屋に入ってきたその人物を見て、龍馬が呟く

言うまでもなく、それは指揮官その人だった。

 

 

 

(り、龍馬くん? なにその格好……というか……)

 

そう言って、指揮官は周囲を見回した。

 

(え? なにこの状況……?)

 

 

 

「し、指揮官……勘違いしないでくれ!」

 

困惑する指揮官の姿を見て、ウッドは慌ててベカスの前から飛び退いた。

 

「これはその……ちょっとした戯れに過ぎないんだ! 決して、本気でベカスのことを好いていたわけでは……そう! ほんのお遊びだったんだ!」

 

「……オイ!」

 

苦し紛れにも似たウッドの言葉に、ベカスは怒り心頭した。

 

 

 

(うん、そう? まあいいや)

 

しかし、指揮官は大して気にもとめていないようだった。

 

(それに……みんないる事だし丁度いいね)

 

 

 

「丁度いい? 指揮官、何の話だ?」

 

(はい、これ)

 

そう言って指揮官は部屋の中を歩いて回り、その場にいた全員に小さな袋を手渡し始めた。袋の中にはダイヤやハートなど様々な形のチョコレートが入っていた。

 

「え?」

 

グルミは袋の中のそれを見て思わず声をあげた。

 

「指揮官……これは一体……?」

 

(チョコレートだけど?)

 

「いや、それは分かるんだが……」

 

グルミは不思議そうな目で指揮官のことを見つめた。いや、グルミだけではなく、チョコレートが入った袋を受け取った全員が同じ顔をして指揮官を見つめていた。

 

 

 

(まさか……指揮官ってそういう……?)

(ああ、前から薄々そんな気はしていたが……)

(ええ!? 先生に限ってまさかそんなこと……)

(だが、この状況ではそうとしか……)

 

 

 

(うん、みんなの言いたいことは分かるよ。でも違うから)

 

そう言って指揮官はため息を吐いた。

 

 

 

指揮官の話を要約すると、こうだった。

 

今日では恋人たちの日として広く知られているバレンタインデーだが、実はそれ以外にもバレンタインデーには、いつもお世話になっている人に普段は中々伝えることの難しい感謝の気持ちを伝えるためのイベントとしての意味合いもあるとされている。

 

それを踏まえた指揮官は、どうせならクリスマスの時と同じく自分のことを信じてついてきてくれるスタッフ及び交友関係にある全員に日頃の感謝の気持ちを伝えようと、大量のチョコレートを用意したとのことだった。

 

 

 

指揮官の話を聞いていたベカスだったが、そこでふと、ベカスは指揮官が大欠伸をしていたことを思い出した。

 

「もしかして、朝眠そうにしていたのは……」

 

(うん、実は昨日夜遅くまで全員分のチョコレート作りとラッピング作業をしていたから)

 

「ああ、それで……ん、待てよ……? つまりこれって全部、指揮官の手作りなのか……?」

 

(他の人に手伝って貰ったところもあるけど、基本的にはね。ああ、ちゃんと指揮官としての業務を果たした上でのことだから安心してね)

 

「指揮官……あんた、いい奴だな……」

 

ベカスは袋の中のチョコレートをまじまじと見つめた。

 

(手作りの方がより感謝の気持ちも伝わっていいかなって思ったんだけど……)

 

「ああ、そりゃあ伝わるとは思うが……しかし、この基地にいるスタッフだけでも何百人といるのに、全員分のチョコレートなんて作るの大変じゃなかったのか?」

 

(勿論大変だったよ、でも手伝いを申し出てくれた人たちがいたからなんとかなった……でも……)

 

そこで、指揮官はふとアルトに視線を送った。

 

(アルト、ごめん)

 

「え?」

 

何の前触れもなく謝罪の言葉を放った指揮官に、アルトは少しだけ驚いた。

 

「指揮官……なんで謝るの?」

 

(それは……)

 

「指揮官は悪くない! 謝るのはアタシの方だよ!」

 

その時、部屋に新たな乱入者が現れた。

 

「し、シャロ!?」

 

突如として目の前に現れた赤毛の少女を見て、アルトは目を丸くした。それはアルトのガールフレンドであり、命の恩人でもある賞金ハンターの少女……シャロだった。

 

「え? どういうこと……?」

 

困惑するアルトを前に、気まずそうな表情を浮かべたシャロはそこで小さく頭を下げた。

 

「アルト……その、昼間はごめん……」

 

「昼間……? 昼間って……あ!」

 

そこでアルトはつい数時間前のことを思い出した。

チョコレートを貰えるかなと思いシャロの部屋を訪ねた際に、なんだか疲れた様子のシャロとケンカになって一方的に追い返されてしまった時のことだった。

 

(実はシャロには、昨日夜遅くまでチョコレート作りの手伝いをして貰っていたんだ)

 

足りない言葉を捕捉するように、指揮官は続ける。

 

(それで寝不足になって、つい感情的になってしまったらしくてね……でも、そうなった責任はこっちにもあるから……ごめん)

 

「そうだったんだ……」

 

シャロが疲れていた原因と指揮官の謝罪の意味を把握し、アルトは小さく頷いた。

 

「うん、まあ……こっちも訪ねるタイミングが悪かったってことだよね……」

 

「許してくれるの?」

 

「勿論! というか、シャロに嫌われてしまったんじゃないかと思っていたから、むしろ安心した」

 

そこで、2人の顔がパアッと明るくなった。

 

(シャロ、アレを……)

 

「うん、そうする!」

 

指揮官に促され、シャロはポーチの中から小さな袋を取り出した。可愛くデコレーションされた半透明な袋の中には、指揮官が用意したものよりも大きめのチョコレートが入っていた。

 

「その……今回のお詫びと、日頃の感謝を込めてなんだけど……受け取ってくれる?」

 

「え? 僕に!? いいの!?」

 

シャロからチョコレートを受け取ったアルトは、そこで喜びのあまり声を出して飛び上がった。しかも、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「なによ、チョコレートを貰っただけで大袈裟な……」

 

(まあ、彼にも色々あるのさ)

 

まるで子どものように喜ぶアルトに、指揮官とシャロはくすりと笑いかけた。また、遠くから眺めていたグルミと佐伯、そして龍馬も喜ぶアルトにつられるようにして穏やかな笑みを浮かべている。

 

「ハッ、羨ましいねぇ」

 

「くっ、リア充め……」

 

しかし、そんなアルトを好ましく思わない人物が2名ほどいた。

ベカスとウッドだった。

 

「あ……ご、ごめん……」

 

2人の様子を見て、アルトは慌てて喜ぶのをやめた。

 

「何がごめんだこのヤロー」

 

「そうだ! 俺は君のことを同じチョコレートを貰えなかった仲間だと思っていたのに……酷く裏切られた気分だ」

 

2人は真顔でアルトに迫った。

それはまさしく、異端を許さぬCCC幹部の……

 

(あ、そうそう! グニエーヴルがベカスとウッドのためにチョコレートを用意しているってさ)

 

「「え!?」」

 

指揮官の発したその言葉にベカスとウッドの動きが止まった。

 

「「指揮官! それは本当か!」」

 

(うん、余ったチョコレートの材料を使って最高のものを作ってあげるんだって息巻いてた。今頃、食堂の方で待っているんじゃないかと……)

 

「「!!!」」

 

指揮官の言葉を最後まで聞くことなく、2人はまるでどちらが先にチョコレートを貰えるか競い合うように指揮官の脇をすり抜け、食堂に向かって走っていった。

 

「ねえねえ先生! もしかして僕たちも……?」

 

(うん、お姉さんが待ってるよ)

 

「やったあ!」

 

(そうそう……ついさっき遥がバレンタインデーについて教えて欲しいって言ってきたから、グニエーヴルたちが協力して作っていることを教えてあげたら友達のために作ってあげるって言ってたな……)

 

「な!? それは本当か?」

 

(うん、だから佐伯くんも行ってあげて)

 

「分かった!」

 

(それと……グルミ? 今、お姉さんと船長が基地に来ていて……)

 

「いや、俺はいい……」

 

(気持ちは分かるよ。だから、彼女たちにはちゃんと監視役と毒味役をつけておいたから安心して)

 

「指揮官、わざわざすまない……っ!」

 

「ねぇアルト! あたしたちも行こうよ!」

 

「うん! そうだね!」

 

 

 

そうして、みんなが待つ食堂に向かって、1人……また1人と、リフレッシュルームから人が消えていった。

 

 

 

「ああ、しまった」

 

シャロ、アルト、グルミの順番で並んで歩いていた3人だったが、ふと最後尾のグルミが何かを思い出して指をパチンと鳴らした。

 

グルミのそんな様子にアルトは足を止めた。

 

「え? どうしたの……?」

 

「いや、そういえば……」

 

そこでグルミはポケットからチョコレートの入った袋を取り出した。それは指揮官が全員に配ったものである。

 

「これのお礼を言うのを忘れていたなって」

 

「あ! そういえば僕も!」

 

「しまったな……お礼を言おうにも、いつの間にか指揮官の姿を見失ってしまったし……」

 

「あれ? さっきまで僕らについて来ていたよね?」

 

2人はそこでキョロキョロと周りを見回すも、指揮官らしき人物の姿は影も形も確認することができなかった。

 

「まあいい、次会ったときにでも伝えるとしよう」

 

「そうだね。ここにいる限り、会おうと思えばいつでも会えるんだから!」

 

 

 

「ちょっと! 2人とも遅いよ!」

 

遠くからシャロの声が響いた。

 

 

 

「「今行く」よ」

 

お互いのハモり具合に思わず苦笑しつつ、2人はシャロの背中を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式季節イベント「焦燥バレンタイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮官視点

 

 

 

管制塔ー最上階ー

 

 

(そろそろかな……?)

 

管制塔の最上階にある監視台で、頭上に広がる夜空を見上げつつ時間を確認していると、何者かが監視台へと続く螺旋階段を上ってくるような気配を感じた。

 

管制塔上部の空きスペースを利用して作られたこの場所の存在を知る者は少ない。そして、このタイミングでこの場所へ足を運ぶともなると、考えられる人物は1人しかいなかった。

 

「指揮官様、お待たせして申し訳ありません」

 

桃色の髪の毛の女性……べサニーが姿を現した。

 

(ううん、今来たところ)

 

商人である彼女が来たのに合わせてこちらも姿勢を正した。べサニーには闇市を通じてチョコレートの材料を調達や輸送を任せていた。

 

そして、今日は調達にかかった費用の請求に来たのだ。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「指揮官様、こちら……チョコレートの材料費と送料等の請求書です」

 

しばらくの間、監視台の中で世間話や雑談に花を咲かせた後……そろそろ日付が変わろうというところになって、べサニーは今回の本題である請求書を差し出してきた。

 

(あはは……高いね)

 

受け取った請求書に目を落としていつも通りの感想を述べると、べサニーはふんわりとした営業スマイルを浮かべた。

 

「それと、メロンです」

 

(……え?)

 

べサニーは次に綺麗な小箱を差し出してきた。

べサニーはこうしてたまに、実家の領地で取れたメロンなどを商談の度に持ち込んでくれるのだが、今回は明らかに雰囲気が違った。

 

「はい、これは私からのささやかなバレンタインチョコです。見た目は普通のチョコレートですが、中には実家の領地で取れたメロンから抽出したエキスが詰まっています」

 

(おお……凄い……!)

 

どうやら今回のメロンは趣向を変えて、いつもとは違うものにしたようだった。しかし、チョコレートの中にメロンって……合うのだろうか?

 

「バレンタインデーは恋人たちの日であると同時に、普段中々伝えることのできない感謝の気持ちを伝える日でもありますので……指揮官様、いつも私どものお店をご利用いただき誠にありがとうございます」

 

(こちらこそ、いつもありがとう)

 

礼を返しつつ、箱を開けてチョコレートの1つを摘み上げて匂いを嗅ぐと……確かに、チョコレート特有の甘い香りの奥に、うっすらと別の香りが感じられた。

 

(へぇ……凄いね。どこで売っていたの?)

 

「それは秘密です」

 

(ん……じゃあ、いつか教えて欲しいかな)

 

どこかいたずらっぽい笑みを浮かべるべサニーに、こちらも小さく笑いかけた。

 

「ふふっ……ところで指揮官様、本日はバレンタインデーですが、本命の方からはチョコレートは貰えましたでしょうか?」

 

(……何のこと?)

 

「いえ……ふふっ、そういうことにしておきましょうか」

 

べサニーは小さく笑って立ち上がった。

 

「それでは指揮官様、また会う日まで……」

 

(べサニーも、今日はお疲れ様)

 

そんな言葉を送り、階段を下りていくべサニーを見送った。

 

 

 

貰ったチョコレートを1つ口に入れると、上品な甘さが口の中に拡がった。だけど、甘さの奥に小さなほろ苦さが隠れていることに気がついた。

 

(もう少し、甘くてもいいかな)

 

次はもっと甘いものを頼もうかな? そんなことを考えていたら、いつのまにか今日という1日は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

第4話:男たちのレクイエム(後編)ー了ー

 

 

 

 




あるもの全ての魅力を全て使い切ってこそ、良い物語は作れると思うのですよ! ムジナは語彙力のないクソザコですが、というわけでクソザコなりに頑張らせていただきました。

2話のラストでグニエーヴルがなんか不吉なことを言っていますが、種明かしをするとアレは単にみんなでチョコレートを作ろうっていう話をしていただけで、処分という言葉は自分の失敗作を廃棄してほしいという依頼だったのです。なのて、そんな陰謀とかではありません。(しいて言えば、男たちに内緒でチョコレートを作るっていう陰謀)

あと、最後の指揮官とべサニーのやり取りですが……あれは敢えていくつもの解釈ができるように曖昧な形を取っておりますので、是非お好きな解釈をどうぞなのです。

ムジナからは以上です。何か質問や意見、誤字脱字などがございましたら是非コメントにて発言をお願い致します! また、このキャラで〇〇の展開を希望する……などといったリクエストも受け付けておりますので、それでは、またどこかでお会いしましょう……
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