日番谷(偽)でFGO 作:あたらんて
我々は涙を流すべきではない
それは心に対する肉体の敗北であり
我々が心というものを
持て余す存在であるということの
証明にほかならないからだ
――朽木白哉
オルガマリーが話し始める。
「その…私は、アニムスフィア家というところの当主なんだけど…。
ここ、カルデアの前所長が私の父だったの。それで、1月前に父が亡くなって、私が所長に就任したの。それで…」
そこでオルガマリーは一度言葉を切ってまた話し始めた。
「その、仕事の引継ぎをしているときに父のやっていたことを知って…。
かなり非人道的なことをやっていたの。その中の1つなんだけれど、人間を作り出してあなたのような英霊を召喚して、融合させて強い人間を作り出すのが目的なんだけれど、その結果、その子の寿命はとても短くなってしまったの」
そこまで話すと、オルガマリーは震え始めた。
「それで、私、怖くなって…。その子が、マシュが、私に復讐に来ると思って、それで、怖くなって…」
何故だろうか。繋がりを感じるからだろうか。俺がこの子の
俺はオルガマリーを抱きかかえて言葉をかけていた。
「大丈夫だ。俺がいる。それにその子も復讐しようなんて思っちゃあいない。君は大丈夫だ」
抱きかかえたオルガマリーの体は、とても細かった。
「ええ。ありがとう…。もうしばらく、このままで…」
しばらくすると、オルガマリーの震えは止まった。
「ありがとう。それでね、私にマスター適性が無いことも発覚して、ご飯も喉を通らなくなっていたんだけど…。ヤケになって、召喚を試してみたの。心の中では無理だろうと思ってて、実際一度は失敗したのだけど…というか、小さな石のような、宝石のようなものが出てきたの。
その後、あなたの召喚に成功して本当に、嬉しかったわ。私の召喚に答えてくれて、ありがとう。
そういえば、あなたを召喚した後あの石は見てないけれど…。何だったのかしら」
1つ、心当たりがあった。
天才、浦原喜助が生み出し、天才、藍染惣右介と融合を果たした「周囲に在るものの心を取り込み具現化する」、つまりは願いを叶えるという能力をもつ意思をもった道具。
崩玉だ。
俺の状況の全ての鍵になるかもしれない。見つけ出さなければ――
「な、なあマスター。その石を探しに行ってみないか?俺の召喚と多分深い関係がある」
「え?そうなの?じゃあ、行ってみましょうか」
結局、その日崩玉が見つかることはなかった。
俺はマイルームで崩玉について一人考えていた。
オルガマリーも不審に思ったのか調査はしてくれるとは言ったが…。
崩玉が不完全ですぐに消滅してしまったのか、またどこかに召喚されたのか、そもそも崩玉ではないのか、それはわからない。
おそらくオルガマリーが俺の召喚に成功したのは崩玉によるものだと思うが…。
ダメだ。一人で考えていても何も始まらない。
そう思い、俺はやろうと思っていたことの1つ、「刃禅」を始める。
刀を膝に置いて座禅を組む。
刀一つに心を絞る。
何千年とかけて編み出された斬魄刀との対話方法である。
次第に心が落ち着いて、意識が飛んでゆく――――――
声が聞こえる
こだましている
圧し潰すような 包み込むような
この掌に落ちる 雷鳴のような
氷の竜が、目の前にいた。
「小僧!!貴様が我の使い手だ!!我が名は氷輪丸!!」
氷輪丸との対話に成功したらしい。
「お前は…俺が日番谷じゃないってわかってるのか?」
「否!!貴様は確かに貴様の知っている日番谷冬獅郎とは違うが今の貴様は日番谷冬獅郎である!!そして我も貴様の知っている氷輪丸とは別物だ!!」
「ど…どういうことだよ!?」
「我は貴様の斬魄刀だということだ!!我に貴様が持っているような主との記憶はない!!我はまだ貴様を主と認めていない!!卍解を使いたくば我を屈服させてみろ!!」
「な…」
唖然としていると、目が覚めていた。追い出されたのだろう。
氷輪丸の言っていたことを整理すると、どうも俺の持っている氷輪丸はBLEACHの氷輪丸とは別物のようで、まだ日番谷と出会う前のようだ。
第一サーヴァントは全盛期の姿で呼ばれるらしいが日番谷の全盛期は俺の知ってる限りでは少し老けた状態だ。それで呼ばれていないということでまず齟齬が発生している。これもまた崩玉によるものだろうか。召喚に不具合が起きてもおかしくない。
そして…まだ氷輪丸は俺のことを主と認めていないといっていた。まだ卍解は使えないらしい。
この先戦いになることも多いだろう。修行を積まなければいけない。
そう思って部屋を出てオルガマリーにシミュレーションを頼もうとした矢先、誰かがオルガマリーについて話しているのが聞こえた。
あまり良くないと思ったが、気になったので霊体化して聞いてみた。
「それにしてもこの先新所長の元でやっていく思うと不安だよなー」
「ええ、そうね。どうも今日はサーヴァントの召喚に手を出したらしいし。実験とか言って魔術協会への言い訳はできるでしょうけど…もしかしたらしばらく資金援助とかが減るかもしれないわね。協会に対して隠蔽する気もあまり無いようだし…」
「どうもサーヴァントの能力は高いらしいからそこだけは救いだよな。これで低級なサーヴァントが召喚されてたらなあ…」
「まあそこは流石にアニムスフィアの当主といったところね。ただ…あのキリシュタリア・ヴォーダイムと比べると片手落ちはするけどね」
「まあ色々と心配だよ。昨日とか相当癇癪がひどかったんだぜ?この召喚でちっとは収まってくれると良いけどなあ」
「そうね」
どうもオルガマリーの愚痴だったらしい。評判は中々悪いようだ。
俺の召喚もその要因の1つとなっているのならどうにかしてオルガマリーの評判を上げなければいけないな…。
そんなことも考えつつオルガマリーを探していると、ロマニを見つけた。
霊体化を解いて話しかける。
「おう、ロマニ」
「あ、日番谷くん。そうだ、ちょっと時間あるかい?」
「ん?ああ、別に構わないけど…」
「ああ、じゃあ僕が担当している患者というか…まあそんな子がいるんだけどさ、ちょっと会って欲しいなって。その子にはちょっと複雑な事情があって…マシュっていうんだけど」
マシュ…先程オルガマリーが言っていた子か。
「ああ。先程オルガマリーから聞いた」
「!そっか…。それでも、カルデアに残ってくれるんだね」
「ああ。俺はマスターのサーヴァントだからな」
「じゃあ、この先の部屋にいるんだけれど…」
「ああ。行こうか」
その部屋はかなり厳重に閉められていた。というより清潔さを保とうとしていた。
「ここは無菌室でね…。君はサーヴァントだから問題ないけれど、僕は色々やらなきゃ入れないんだ。やあマシュ、こんにちは。元気にしてたかい?レコーダーは止めてあるよ」
「はい。こんにちは、ドクター・ロマン。そちらの方は?」
そう言ったのは、薄紫の髪を持つ少女だった。
霊圧が安定していない。永くはないだろう。
「俺は日番谷冬獅郎。セイバーのサーヴァントだ。よろしく」
「はい、私はマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします。日番谷さん」
その少女は、無垢なだけで想像してたより普通の、女の子だった。
それは、きっと残酷なことだ。