名前が……
いつもの街の、いつもの通学路。
でも、今日はいつもより早い時間に家を出ました。
理由は当然。今日はSMCという大会があって、その大会を盛り上げるための大事な試合…エキシビションマッチに私の友達であるニンちゃんが出場するからなのです。
とはいえ、ニンちゃんに教わるまでSMCじたい知らなかったので、今からドキドキです。
ウェキペディアによると、ロボットと人が入り乱れて戦う、本格派ロボットバトルロイヤルとのこと。
バトルロイヤルってことは、最後の一人になるまで戦うってことだよね?
普段のニンちゃんからは想像もつかないなあ。
昔はともかく。
街頭に設営された、大きな特設ディスプレイでリアルタイム中継される様で、既にたくさんの人で賑わっています。
私は知らなかったけど、いま一番人気なコンテンツというのも納得です。
画面では今日ニンちゃんが戦う相手であるロムさんが試合前インタビューを受けているようでした。
『本日はSMCエキシビションマッチへの出場ありがとうございます! お相手のニン選手とは今まで何度も戦ってきたとのことで、なにかお一言ありますでしょうか……! 』
『まず、栄えあるSMCエキシビションマッチへ出場させて頂けること、光栄の極みです。』
『そうですね、ニン選手は間違いなく──SMCのこれからを担う人材であると考えています。
天性のセンスで繰り出される一撃は鋭く、類まれなる勝負勘の持ち主でもある。これまで幾度となく手合わせしてきましたが、ギリギリの戦いも多く気が抜けない相手です』
『更なる成長が楽しみな好敵手ということでよろしいでしょうか!』
『──はい。本日もSMCの開始に相応しい戦いが出来ることでしょう。ぜひご期待ください! 』
落ち着いていて、
インタビュアーの質問ににこやかに応対している姿に、声援は高まるばかり。
それにしても、ニンちゃんロムさんにすごく褒められています!
そこそこよ、って言ってたけれど、絶対違う気がします。
そしてインタビューはついにニンちゃんの番です。カメラに映るニンちゃん。
今日も可愛いです。こういう子をクールビューティーと言うらしいですね。
と、今度は打って変わって野太い声援が。
ニンちゃんも人気みたいです。冬なのに半袖を着て、ニンちゃん♡と書かれたうちわを全力で振ってる人達の様です。
ニンちゃんを応援してくれるのは嬉しいけど、この様子を見たらニンちゃん凄く嫌な顔しそう。
けれど画面上のニンちゃんは
それでも、この質問に対する返事だけはすごく本気の熱を感じました。
『ニン選手はなんのためにSMCをやっているのでしょうか──? 』
『私がここにいる、その理由を証明するためです。私とFirefox君で誰よりも強く在ることが私の目標であり、私の全てです。』
ここまで言い切ってから。
ニンちゃんは少し俯き、言葉を選びながら、言葉を
『──全てでした。』
『でも、今はそれだけじゃなくて、そういう私の生き方を見てもらいたい人達がいます。そういう人達に恥じない戦いを、私はしたい。』
そう言ってニンちゃんはウインクしました。
それはずるいよニンちゃん。
いつもは
オタクの人達は揃って「尊い……」と
なんだか気持ちがわかるので、後で話しかけてみようかな。
そしてつつがなくインタビューは終わり、大会のルール説明に移りました。
『会場はシステムを用いた【機動都市アルファ】となります! 今回はエキシビションマッチですので、その一部区画となるCBDエリアが舞台です! 』
なんでも、あの巨大企業である北港と、SMC連盟が共同開発した【SARA-ソリッド・オーグメント・リアリティ・エリア】と呼ばれる拡張現実空間内で戦うのだそうです。
都市そのものや、木々などのほぼ全てが拡張現実によって
メカと人だけは実体であるものの、使用される弾丸も
攻撃にはダメージ量が設定されていて、規定値を超えるとメカが破壊され、パイロットはメカからパラシュート射出される仕組み。
人間状態のときも同様にHPの概念があり、ダメージを受けて、0になった時点で強制回収されてしまうようです。
ニンちゃんにメカや銃で撃ち合うのだと言われてからとても心配だったので、安全ということを聞けて一安心です。
『それではSMCエキシビションマッチがいよいよ開始いたします! 』
『もちろん実況はわたし! rikoちゃんにおまかせーっ! ! 』
実況の女の子の元気なアナウンスが響き、10秒のカウントが始まります。そして、豪華な演出のニンちゃんとロム選手のカットインが入ってから、ついに試合開始のブザーがなりました。
「休み時間の楽しみだから、いい勝負待ってるぜー!」
「気の抜けたメカ戦すんじゃねーぞ!帰ったら配信すぐ見るからなー!」
「ロムくーん!」
街頭にも関わらず、背広を着たサラリーマンや学生が足を止めて応援しています。
「ニンちゃん頑張れー! ! 」
周りの歓声に負けないくらい私も頑張って声を上げます。私の友達は可愛くて、強くて、綺麗だけど、同時に寂しがり屋で、実はすごく乙女な部分もあります。
だから私も全力で彼女を応援してあげたいのです。
今でこそお友達の私とニンちゃんですが、入学当時は話すことすらありませんでした。
むしろニンちゃんが自ら壁を作っていたような気がします。
中国からの特別留学生ということで、クラスのみんなも最初はみんな話かけようとしていたのですが、彼女の氷のような視線に射すくめられ二の足を踏むばかり。
長いストレートの黒髪と、人形の様に整った顔立ちから放たれる圧力は凄まじく、まことしやかに「近づいたら殺される」と噂されていたくらいです。
そんなニンちゃんが人前でウインクなんて、なんだか妙な感慨に駆られます。
彼女自身、吹っ切れた所もあるのでしょう。
今日のお相手はよく話に聞いていたロム選手ですし、彼の言通り良い戦いを見せてくれそうです。
CBDエリアのいずれかにパラシュート降下するという特別ルールにのっとって、ニンちゃんはすぐに降り、ロム選手はしばらくしてから、表示されているマップのギリギリに降りたようでした。
観戦画面はまずニンちゃんを映してくれました。
CBDエリアはとても大きなビル群の林立する都市で、機動都市アルファの代表的なエリアのひとつだそうです。
ニンちゃんはその中でも一際大きな二股のビルを選び、そのガラスに囲まれた壁のない吹き抜けの一階フロアを走っています。
『ニン選手、走ります! 速いっ!速すぎるー!? 』
『おおっと! さっそくリチャージャーを発見したようです! 』
ただ走っているだけではなく、各所に配置されたSAR物資を探し、武器や回復などを入手している様です。
聞きなれないリチャージャーという道具を使った途端、ニンちゃんの左手首に浮いていた半透明の逆
『時間経過で溜まっていくメカチャージが100%に達した時点で、皆さんお待ちかね!メカを出撃可能になります! ! ニン選手、リチャージャーで1歩リードです! 』
1個で30%たまったので、自動で溜まる分も考えると、3個あれば100%溜まる計算になりますね。
ニンちゃんの相棒は強くて可愛いと聞いているので、とても楽しみです。
「がんばれ、ニンちゃん 」
力強く走る親友を見ながら、私は再度
「頑張れ、ニンちゃん」
力強く走る友達を見ながら、私は再度呟くのでした。