機動都市X_黎明に咲く花   作:リゾッ糖

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大会編 第6話 × I

大会編 第6話 × I

 

「あの……ロムさん」

「なんだ?」

 

「この状況、どうにかなりませんか……。」

 

僕とロムさんは、ガチガチにムチムチな背広にサングラスコーデの、まさにSPなお兄さん達に連行されていた。

 

左右から腕を組まれ、周囲は全て固められている。何やら無線でしきりに指示を飛ばしているし、行く先行く先信号はずっと青なのだ。

 

──僕の本能はとっくにレッドアラートだというのにも関わらず。怖い。怖すぎる。

 

「あー?こんなのいつもの事だ。こんな護衛に預かる事なんて人生で滅多にないだろうから楽しめ楽しめ少年」

 

「護衛というより護送だと思うんですが……僕が何をしたって言うんですか」

 

「しいて言うなら俺と関わったことかな?ハハハ!」

 

「…………」

 

ロムさんのあんまりな態度にため息しか出ない。心無しか、お兄さん達の腕に力が入った気がする。痛い。

 

やっぱり知らない人《ロム》に付いてきたのは失敗だった気がしてならない。

 

「少年──少年、そういや名前聞いてなかったな。なんていうんだ?」

 

「倉木、アスです」

 

「アスか、よろしくな。──ところでアス、SMCは観戦しただけって言ってたが、実際どれくらい知ってるんだ?」

「ロムさんとニン選手の試合と、動画観戦を少しだけです」

 

「うーん。それだと知らないのと同義だな……いよし、連行されるだけってのも暇だし、道すがら説明してやるよ」

 

連行って自分で言ってしまったよこの人。

そうだよね。

どう見ても護衛じゃない。

ハッハッハと高笑いするロムさん。強面のお兄さんの腕の力がさらに強まる。

痛い。痛いです。

 

「スーパーメカチャンピオン、通称SMC。元は携帯端末で出来るゲームって事だったらしいんだが、今はVRと、SARA──つまりは拡張現実を用いたものの2つにシフトしてる」

 

「SARA、ですか」

 

「ああ、ソリッド・オーグメント・リアリティ・エリア。観戦で見たろ?ビル群の都市を。あれが代表的な、機動都市アルファってエリアだ。──簡単に言えば何も無い空間に物質を投影する技術って言えばいいのか?詳しいところはアイツに聞かねぇと分からん」

 

「す、凄いですね。じゃあ、あの都市は実際には無いんですか?」

 

「無い。データの集合体だから、壊れてもすぐ直せる。」

 

「それなら、Arthurとか、Firefoxみたいなロボットも架空なんですか?」

 

「いや、メカに関しては別だ。SAR《拡張現実》はシステムへの負荷が高くてな。仮に、動き回るメカ全てに適用したら絶対にショートしちまう。だからメカそのものは本物だ。当然俺のアーサーも、これから行く場所に格納されてるぜ 」

 

「え、み、見たいです!」

 

しなやかながら重厚感のある、あのデザイン。──大剣と共に白一色。ロボットながら美しいとすら思った。

 

「まあ、見る機会ならいくらでもあると思うぜ。んで、こっからSMCそのものについてだ」

 

「は、はい 」

 

「SMCは大きく分けて2つの組織が開発・運営を担ってる。まず、一つ目がSMC連盟。

ルール改定や広報といった細々としたものから、大会運営なんて大きなイベントの実行まで、運営に関わるもの全てを担当してるのがこれだ 」

 

「SMC……連盟ですか。」

 

「そうだ。まあこっちらそんなに重要じゃない。運営母体が連盟ってだけだ」

 

「じゃあ、大事なのは」

 

「そう。開発を担う、ノースポートコーポレーションだな。連盟の定めた厳密なメカ基準の枠組みで各社がメカを作ってるんだが、その査定なんかは北港がやってる。もちろん新メカの開発だって各国に劣らねぇ。」

 

まあ、少々癖の強いのが多いがなと呟くロムさん。そして、天を貫くビルの前で止まり、仰々しく傅《かしず》いた。

 

「ってことでお待たせしたな 」

 

「ここが、SMCの開発及び各社の総括に携わる……ノースポートコーポレーション、本社だ 」

 

 

::::::

 

 

::::::

 

 

 

僕とロムさんは黒服に囲まれたまま、あまり広くはない部屋に通されていた。

調度品は必要最低限という感じだが、ソファーはふかふか。流石巨大企業という感銘を受けた。

 

正直、こんな企業のそれも本社に来ることなんて初めてだった。外観に圧倒され、エントランスを恐る恐るくぐり、そしてまた内装に圧倒され。

 

気がついたらこの部屋だったという感じだ。

緊張しない方がおかしいと思うが、ロムさんは慣れているようで口笛を吹きながら闊歩していた。ロムさんは北港とどういう関係なんだろう。

 

 

 

そうこうしていると、秘書っぽい女性が盆を持って現れた。

 

そして何故か一人分、僕の分だけ茶菓子が提供された。それを、ロムさんが貪り食らう。

 

 

──お姉さんが盆でロムさんを攻撃する。自然な動きだ。一流の武人のもの。このお姉さん、出来る。しかし避ける。攻撃する。避ける。ロムさんのドヤ顔にとてつもなく腹が立つ……。

 

ついにお姉さんは肩を怒らせて出ていってしまった。

 

僕のお茶菓子……。

 

 

 

そして。

入れ替わるように茶髪の男性が現れた。年の頃は三十後半程だろうか。にこやかな笑顔が印象的だった。

フランクに笑顔を向けてくれたので一礼する。それに頷きながら、男は口を開いた。

 

「よっ、ロム。昨日はお疲れ様だったな」

 

「いい歳して鬼ごっこはさすがに疲れるものがあったぞ……」

 

「お前が逃げなきゃ済む話だ。おかげで業務にどれほどの支障が出たことか 」

 

「まあ、そこは、すまん。こうして手土産持って帰ってきたんだし許してくれ。な? 」

 

そう言って僕の背を叩くロムさん。手土産……?と首をかしげていると、

 

「そうだそうだ、本題だ。話は聞いているよ、倉木アス君。私はスズカ。こいつの上司みたいなものだ。」

 

「よろしくお願いします…!」

 

多分、僕の名前は連行されていた時に報告されたんだろう。と、それより。

 

「スズカさんって、確か…!」

 

「あらら、バレてた?そうだね、私が北港の社長だよ 」

 

流石の僕でも知ってる。北港の社長はあまりメディア露出しないことで有名だったが、SMCについての説明で紹介されていたのを思い出した。

 

「──まあ、前座はここまでだ。SMCをやってみたいんだって?」

「……はい。やりたいです……!」

 

「うん。──どうしてだい?」

 

どうして?どうしてなんだろう。

あのエキシビションマッチで心打たれたから…?ロムさんに誘ってもらったから?

 

──僕自身がやりたいと願ったから?

 

「僕も分かりません。ロムさんに聞かれて、気づいたら願っていました。来年受験で、遊んでる暇なんて無いはずなのに」

 

「遊び……か」

 

「あっ…!すみません。もちろん、ロムさん達が本気で戦ってらっしゃるのは分かりますし、感じました。」

 

「でも、僕が今更努力したところでそれは遊びの範疇を出ないと思うんです。そんな覚悟なのにその場の勢いだけでやりたいだなんて言ってしまって、少し後悔もしてます。」

 

 

ロムさんに似た、しかし探るようなスズカさんの視線。僕の葛藤を探り当てられたようで、正直に話してしまっていた。

──馬鹿だなと思う。ありきたりな理由を並べ立てていれば、体験なりはさせて貰えたかもしれないのに。

 

「ふむ 」

 

「確かに、学生の本分は勉強だ。勉学を疎かにして、遊びを優先させるものでもない 」

 

鋭いスズカさんの言葉に抉られる様だった。

僕だって分かってはいる。

この気持ちは持っては行けないものだ。

漠然とした不安感から逃げるための、そんな心の揺らぎに過ぎないんだ。

 

……今すぐ家に電話をして謝れば、両親も許してくれるだろう。

 

「そうだな── 」

 

「勉強は大事だ。君たちの年齢でそれが出来るかどうかで将来は変わってくる。本質としてやりたくないことをやることはそのまま職業訓練だと言ってもいい 」

 

 

 

 

「だが 」

 

「君は本当にそれだけか。やりたくないことをやるだけの人生でいいのか──!?」

 

否定したい。

やりたい事はあるはずだ。いい大学に行って、いい会社に入る。そうしたら時間の余裕も出来るはずだし、SMCの観戦ももっと楽しめるはず。

 

休日に体験だって出来るはずだ。

 

でも。

チクリと、どこかで心が傷んだ音がした。

 

観戦は楽しい。SMCで正当に努力してきた選手達の姿を見られるから。同時に強い羨望で身を焦がされる様な思いに陥る。僕も、僕だって、と。

 

いつかこの思いも忘れられるときが来るのだろうか……?

 

 

 

「──嫌だ!!」

 

 

気がついた時には叫んでいた。

我ながら衝動的で嫌になる。それでも本心からの言葉だった。

 

「嫌……です。叫んでしまってすみません。」

 

 

 

「フフ。嫌か。」

 

「なら、答えは自ずと出るだろう。まずはやってみろ。沙耶花、案内してやれ 」

 

そうして、スズカさん相手に怒鳴ってしまい状況が理解できないまま僕は、もう一度配膳しに来ていた先程の女性に連れられゆくのだった。

 

 

::::::

 

 

「うへぇ、苦ぇ」

 

「いや、この味こそがコーヒーというものだ 」

 

「にしても、濃すぎだ。舌壊れてんじゃねぇの。」

 

 

アスが部屋を出たあと、ロムとスズカだけが部屋に残り、会話を続けていた。

 

 

「──なかなか面白い人材を連れてきたじゃないか、ロム 」

 

「まあ、俺だってただ逃げてたわけじゃないってことよ 」

 

「そうか、俺にはただ逃げてるだけのように見えたが、お前も成長してるということなんだろう 」

 

実際にはたまたまぶつかっただけなのだが、それは黙っておこうと思うロム。

 

「だが、どうにもチグハグだな。冷静に物事を見ているかと思えば、ふとしたきっかけで直情的だ。扱いづらさで言えば断トツだろう 」

 

「だからこそ、だよ。アスならあの機体も使いこなせるんじゃねーかとも思って、な。」

 

「デュオ、か──。確かにな。適任かもしれん 」

 

「だろ?」

 

「まあ、話は模擬戦のあとだ。ちょうどニンの方も一人連れてきてくれていてな。戦わせてみようと思う 」

 

「そいつは楽しみだ!俺も観戦するしかないな!」

 

「そう言ってサボりたいだけだろう。──ハァ、本当は山積した仕事をやらせるつもりだったんだが……今回は許そう 」

 

──あ、危ねぇ……ロムは内心で冷や汗をかく。

そもそもデスクワークは苦手なのだ。ことある事に押し付けないで貰いたい。

 

「それで、本題だ。 」

 

スズカの声に、意識を切り替える。

 

「例の組織が本格的に動き始めた。沙耶花を通じて清水家の方も警戒を強化しているが、いつ行動に移すかわからん 」

 

「マジか……まあ、そうだろうよ。こっちの準備はまだまだだと言うのにな」

 

「だが、こちらのXも両機ともに基本の整備は完了している。武装まで完成しているのはXIIIだが……あれも難しい機体だ。ニンの連れてきた候補に期待と言ったところだろう 」

 

「そうか……まあ、俺は俺の仕事をやるだけだ 」

 

「任せたぞ。だが、くれぐれも気をつけてな。教団にも、彼らにも気取られないよう 」

 

「へいへい。分かってるよ 」

 

そう言うなりロムはコーヒーを飲み干し部屋を出る。

後に残ったスズカはただ一人、重苦しい沈黙ののち口を開いた。

 

「私は、ほかの何を犠牲にしても……!」

その言葉の続きは綴られない。

 

しばしの瞑目の後、残った男も部屋を出た。

ロムやニンの連れてきた僅かな希望に想いを馳せながら。

 

 

 

それぞれが、それぞれの思惑を胸に暗躍し始めた。

──そして少年は少女と出会う。激動の大会編、いよいよスタート。

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