残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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公園の二人

 現在時刻、午前3時。

 

 タクマは、いつ異界がやってきても良いようにプロテクターをすぐにつけられるように準備しながらガレージにいた。裕司が冗談半分で買った重厚な木刀を持ち込んで。

 

 現在、凪人は相変わらずの激務の中にいる為、病院の中だ。

 

 だから、琢磨はいつでも動けるのようにしていた。どこにいても、凪人と氷華を守る事ができるように、自分が死なない程度に関わらないように。

 

 尚、琢磨は現在位置を正確に把握している栗本に文句を言われるが、“バイクのメンテナンスは自動でほとんど終わるが、だからといって何もしないというのはバイク好きの主義に反する”なんて事を言い訳にして、寝袋で横になって。端末で周辺の通信障害の情報を監視していた。バイクのメンテナンスはかなりの頻度でしているので問題は起きないのだ。

 

 これまでの2回の戦いから、ゲームが終わった時に異界が発生すると見てそう間違いではないだろう。そう事情を知っている皆は考えている。足柄の漏らした、どこか知らない所で異界が起きていないという情報を信じるならば、だが。

 

 ならば、ゲームの第一戦がクリアされた今日もまた何かあると思って、琢磨はいつでも動ける準備をしていた。基本的には逃げる為、逃す為。

 

 そうでないなら、敵を殺すために。

 

 そうして、半ば眠りながらその日を待っていたが。

 

 

 その日は、何も起きなかった。

 

 

 ■□■

 

「お疲れ様でした」

「お疲れ」

「ええ、とりあえず昨日は何もなかっのね」

 

 そうして、病院内の食堂で集まる琢磨と氷華と裕司。3人ともあのシリウスとの激闘の後にあまり眠れなかったので疲れ気味だった。

 

 現在時刻は、昼の1時。土曜日。

 あんまりにも何もなくて拍子抜けしたと事件に関わった全員は言った。絶対に何かあると確信していたのだから。

 

 だから、“ゲームがクリアされた場合はアレが発生する事がないのだろう”ととりあえず結論付けて、ゆっくりと休んでいる。

 

 ひとまずの祝勝会のティータイムだった。

 

「美味いなこのお茶」

「そうね。私も美味しいと思ってるわ」

「結構良いやつ出されるんですよ。氷華はVIP患者なんで」

「あー、そういうのあるのか」

「ええ、私に出ていかれると病院は困るもの。だから精一杯機嫌を取ってくれているのよ」

「手術終わるまでちゃんと居るつもりだってのに良くも言う」

「私は義父様(おとうさま)が手術をなさるからこの病院にいるのよ。どこの馬の骨とも知らない人に命を預けるほど愚かではないつもりだわ」

「琢磨の親父さんって、なんか凄い医者らしいな。帝大附属のゴッドハンドって」

「そりゃ私が何度も生き延びているもの。奇跡の手として見られるのは当然よ。もちろん、相応の実力のある名医である事に疑いはないけどね」

「そうだそうだ、もっと褒めろ」

「何でお前が偉そうにしてんだよ」

 

 そんな緩い雰囲気の中で、氷華の検査の時間になって今日はお開きとなった。

 

 安全が確認できた訳ではないが、少なくとも自身の体調管理を怠ってまで何かをするような必要はない。そのくらいの緩さで各々動いた。琢磨につられて。

 

 楽観視している訳ではないが、さりとて過剰に警戒している訳でもない。琢磨のその雰囲気に釣られて裕司と氷華は平常心を保っていた。

 

 そして帰り道、琢磨は相変わらずの様子で空を見ている少女を見つけた。

 

 アレが凪の剣士だとは思えない、不思議なポヤポヤ感を醸し出している。

 

 幸い時間はあるのだし、プラクティスエリアで死合いでも挑んでみようかと琢磨は思い、バイクを止めてベンチに向かう。自販機でコーヒーとジュースを買ってから。

 

「そこの剣士さん。コーヒーとジュースどっちが良い?」

「……どうしてお汁粉じゃないの?」

「そこでボケてくるのか」

「本気でお汁粉飲みたかった」

「ボケじゃない⁉︎」

『先ほどの自販機のラインナップにはお汁粉はありませんでした。周辺の者も同様です』

「世知辛い」

「春だしな」

 

 独特な雰囲気で話を続ける筆ペンさん。やはり変わった人なのだなと琢磨は思う。

 

 少女は、「貰うね」と一言告げてジュースを受け取り、ゆるりと蓋を開き口をつけた。

 

 琢磨も残ったコーヒーを開けて、一口飲み始めた。

 

 どこかゆったりとした空気が、そこにはあった。それが鞘に入った刃同士である事に誰も気付かずに。

 

「それで筆ペンさん、今日何時くらいから《Echo World》入れる?」

「今日は無理。家庭の事情」

「なら仕方ないか。じゃあ次やり合う時用にフリーのアカウントで連絡先交換したかない?」

「口説いてるなら、半年前くらいに出直して」

「どういう断り方だよ」

「私スタイル」

 

 渾身のドヤ顔を見せる女子。その奇妙さに呆れつつも、琢磨はその中にある強さを探していた。

 

 結論は何故虎が強いのか、というのと同じものに至るあたりがこの少女の強さを物語るだろう。元々が強いのだ。

 

「じゃあ、私の連絡先」

「ども……ってメインの奴じゃないですか」

「面倒だから一つに纏めてる」

「せっかくの匿名性を棒に振ってますね」

「名乗らなくても恥は恥」

「うわメンタルも剣道してやがる」

「? これは元から」

「あ、本当に元から強いわこの人」

 

 連絡先に書いてある名前は、“柴田奏(しばたかなで)。書道で大人に混じっての段位を持っているのだと資格欄に記されていた。

 

 年齢は琢磨と同じ14歳。まさかの4月2日生まれの同期での最年長だ。背丈は普通程度だというのに。

 

「んで筆ペンさん。何でHNはそれなの?」

「筆ペンは素晴らしい」

「コイツも同類(バカ)だったか……」

 

 そしてなんとなくぷらぷらし始める2人。奏は本当に特に理由もなく。琢磨は奏について行っているだけという無計画さだった。

 

「明太子、時間ある?」

「まぁ、ありますよ筆ペンさん」

「お腹すいた、奢って」

「待てや、さっきジュース奢っただろ」

「それは勝者の特権。私が一回勝ったから」

「いや踏み込み盗まれただけだし。まだ死んでないからノーカウントだ」

「敗者の声が心地いいね」

「やろうぶっころしてやる」

 

 琢磨は珍しく、自然の殺意でそれに返す。

 

「あ、やべ」と琢磨は内心で思うが、奏はそれに自然に返す。あたかも気にしていないかのように。

 

「こわかった。慰謝料としてラーメンを所望する」

「……わかった。流石に今のはヒトとしてダメだ。ラーメンくらいなら奢ってやるよ」

「言ってみるもの」

 

 その言葉に唖然とする琢磨。実際気にしていないのがこの凪の少女なのだが、それは今の琢磨にはわからないことだった。

 

 だが、その強かさはやはり女性のものであり、尻に敷かれるタイプに調教された琢磨は、逆らえなかった。

 

「んで、本気で殺そうとしてたらどうしたんだ筆ペンさん」

「別に今の明太子ならどうとでもできる」

「まぁ、確かに俺はリアルだとクソ雑魚ナメクジだけれども」

「対して私は健康優良児。書道の稽古だって名目で鍛えさせられている。辛い」

「うるせー、筋肉ムキムキに憧れてるのに運動制限かかってる奴だって世の中にはいるんだぞコラ」

「隣の芝生だね」

「本当にな」

 

 自然と口調が砕ける2人。そして数分後、琢磨のバイクで近くのラーメン屋へと向かった2人は、つけ麺を楽しんで帰っていった。

 

「送らなくて良いのか?」

「構わない。どうせまだ外に居ないといけないし

「……事情を聞かれたいのか?」

「どっちでも」

「じゃあ一つだけ。柴田、お前は大丈夫か?」

「勿論。私は私の気遣いで家から離れてるだけだから。夕飯時には帰るよ」

 

 そんなどうでも良い会話を最後に、2人は分かれた。

 

 そして、琢磨が家に帰ってからすぐに次の死合いの約束をしていない事に気がついて通話をかける。

 

 すると奏はすぐに出て、気遣いのおかげで再婚した両親は新居でラブラブできていたそうだという話をしてくれた。その事に感謝もしてくれたのだとも。

 

 とても嬉しくて、それを俺に語ってしまったらしい。当人のことはあまりよく知らないが、かなり珍しい事のように思えた。

 

 そんな会話からぐだぐだ中学生らしく話していると、不意に通話が切れた。

 そして、すぐに栗本刑事から連絡が来た。

 

「おい風見! 無事か!」

「……はい。通信障害ですか⁉︎」

「ああ。……今回は無事みたいだな。ならそのまま家でじっとしてろ。中心は西区の方だから今は安全な筈だ」

「わかりました。努力します」

 

 そんな心にもない言葉を、琢磨は栗本へと告げた。

 

 そして同時に裕司へとメッセージを送ってバイクに跨る。

 

 括り付けた木刀と、しっかりと身につけたプロテクターを確認して、琢磨はエンジンをかけた。

 

「メディ。目的地はわかるよな」

『はい、藤田様の自宅でございますね』

「そのついでに狼を殺して回るさ」

『本来なら止めるべき事なのでしょうが……、私は私の思ったことを信じて全力でマスターをサポートします』

 

「じゃあ、決まりだな」

 

 そう言って、琢磨はバイクを走らせる。

 

 時は日暮れ、太陽が沈み月明かりが昇る時。

 

 多くの人々の安寧ではなく、さっきまで会話していた少女のことを想って琢磨は行く。

 

 形にならない、なにかを胸に抱きながら。

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