残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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天狼と鬼剣

『先ほどから栗本様からの連絡が止まりません』

「全部無視でいいよな」

『いえ、語るべきかと』

「その心は?」

『何も言わないままでは……」

 

 そうして、急停車するバイク。警察の運転停止プログラムだ。

 

「あ」

『当然、こうなります。周囲一帯に警戒ラインが敷かれて居ますね』

 

 これは警察の交通管理システムだ。自動操縦プログラムに干渉して、周囲一帯の乗り物を止めるというこの時代の包囲網。

 

 それにより、目の前にはARビジョンにより立ち入り禁止とデカデカと描かれている。

 

 これから逃れる為には、降りて足で進むか、()()()()()()()しか存在しない。一瞬、メディは悩む。それをして良いのかと。しかし琢磨は言う。「頼むぞ、相棒」と。

 

 琢磨の背後からパトランプの音が聞こえて来る。この異界の事情も考えるならば、有人パトカーだろう。そうなれば、もう必ずこれからの裏技はバレる。バイクのこの緊急プログラムはもう使えないだろう。

 

「あー、訴訟事にならなきゃ良いんだけど」

『やるのですか?』

「そりゃ、命には変えられない。俺の命で誰かの命が救えるなら、それは差し引きプラスだ」

『それでは私が死んでしまうので、マスターは生き延びて下さいね』

「……そこは、すまん」

『考えていなかったのですねマスター。わかっていましたが。では、しばしお待ち下さい。その間、マスターは足柄様とのご歓談を』

「歓談ってノリじゃないだろ……」

 

 そうして、パトカーから降りた足柄さんは、俺の方にやってくる。

 

「明太子、さっさと戻れ。僕たち警察は一般人を見捨てられないし、見捨てたくない」

「じゅーじゅんさん。いえ、足柄さん。ちょっと黙って見ていてくれませんか? ここで行かなきゃ、後味が悪いんですよ」

「君が感じる後味の悪さは自分に対してのものだけだろう? だったら、耐えろ。ここから先は僕がなんとかする」

「じゅーじゅんさんも突っ込むつもりじゃないですか……」

「ついさっき、近くにいて警戒していた先輩が飲まれた人を助けようと入っちゃって、二次遭難。このまま死なせない為に、僕は行かなきゃならない。けれどそれに、一般人は巻き込めない。それがルールだ」

 

 そうして平行線を語る琢磨と足柄。

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()

「ええ、学びました。けど、あいにくと俺はゲームと現実の区別がつかない最近の少年なんですよ。だから」

 

 そうして、鳴り響く端末からのアラート音。そして、ライト上にパトライトが現れる。

 

 それは、体にハンデのある人への機能。自車の救急車化だ。

 

 それをすれば、健康管理AIの操作のもとで乗り物は動くことができる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐっ」

「明太子!」

「このままだとマジで、死ぬので、行きますね。病院はこの先なんですから」

「逃がさないよ、明太子!」

 

 そうして、始まるバイクとパトカーのチェイス。それは互いのスペックの全てを出した最速の戦いであり。

 

 当然、その()へとたどり着く前に終わるものではなかった。

 

 それは見えていない。しかしそこに壁があると生きるものは本能で理解できる、異常なものだ。

 

 そこにトップスピードで突っ込む2台。それは、壁に触れた瞬間に消失し、この世のどこからも観測できなくなった。

 

『心肺機能のコントロールを戻します。お疲れ様でした』

「あー、本当に俺の心臓クソすぎるわ! なんでテンポ良く普通に動かないかね!」

 

 メディのやった事は、心臓のコントロールの一時的放棄。メディという外付けデバイスがなければ、琢磨の心臓は容易に狂い、死に至る。それは心臓の移植を行ったとしても治る事はなかった、琢磨の神経由来と思わしき原因不明の病気である。

 

「そこ! 潜ったとたんに元気にならない!」

「猿芝居に付き合ったんですから許して下さいよ!」

「とっさに思いついたにしてはマシだったろ!」

『控えめに言って、然程名案という事ではなかったかと』

 

 そうして、バイクとパトカーのランプの音を鳴らしながら爆走する。

 

 しかし、そうなっている現在でも助けを求める声は聞こえない。

 

 それはそうだろう。なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「明太子! 生き残りは結構いる! 潰れた建物の中!」

「じゃあ、下手人を止めます! それで世界が戻れば、皆さん生き延びられますから!」

 

 そして、戦力として確保したいという思いから向かっていた柴田奏、筆ペンの元に向かった琢磨たちは、そこでの惨憺たる現状を見た。

 

 命を奪われた2人の大人。その血化粧で体を赤く染めて包丁で天狼と殺し合う1人の少女。そして、そんな少女と戯れている1匹の天狼。

 

 それは、間に合わなかったという証拠だった。

 

 本当に、後味が悪い。どうしてこの時に怒りや悲しみの感情が浮かんでこないのか。

 

『マスター、今は』

「わかってる。生命転換(ライフフォース)!」

 

 そうして琢磨は、天狼へと突っ込んだ。

 

 以前と違い、今度は命の籠もったバイクで。

 

 その一撃は天狼を捉え、その体を吹き飛ばした。

 

 バイクもお釈迦になったが、死にかけていた奏を救う事はできた。

 

 そして抜いた木刀を構えて、真っ直ぐに天狼を見る。

 

 そこには、害意といったマイナスの感情はなかった。ただ、自分を超えて見せろと言っているような気がした。

 

 命を奪う者が、それをするな。そう琢磨の心は熱く冷えて、どうやってこの天狼を殺すかに思考をシフトさせていた。

 

「お嬢ちゃん、無事? なら、これ貸してあげる。使い勝手は悪いだろうけど、包丁よりはマシだと思うよ」

 

 そして、今はまだ命を使えない足柄は、少女を解放して、普通なら下がらせる所であるにも関わらず、携行していた特殊警棒をもたせた。

 

 それが、今足柄に出来ることだった。

 

 

 そして、2人は思う。獲物が必要だと。こんなものじゃない、自分の魂が染み込んだ自分の武器でないと意味がないと。

 

 そのイメージのもとで一度武器を振るうと、その手にあるものは《Echo World》におけるそれぞれの武器、臆病者の剣(チキンソード)と上質な曲剣へと姿を変えた。それは魂が作り出した、思い入れのある獲物の顕現である。

 

 その事に疑問を思う前に、2人は声をかける。過程など、もはやどうでも良いのだ。

 

「行けるか? 筆ペン」

「大丈夫、殺せる」

 

 そうして、2人の剣が天狼に襲いかかり、この夜の本当の戦いが始まった。

 

 ■□■

 

 天狼は、最終戦で見せたほどの力を使う事はできない。なぜなら彼はここに一人で現れたから。

 

 魂の命令通り適当に暴れ、適当に殺し、適当に戦った。

 

 すると、ようやく現れた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その出会いに感謝をして、その力に感謝をして、ここにシリウスの居ない事に一抹の寂しさを覚えつつ天狼としての最後の戦いをここにすると決めた。

 

 

 それが、あの世界に生き残った最後の人狼の、最後にするべき事だと信じて。

 

 ■□■

 

 四足歩行でのトリッキーな動きから、カポエラに似ている動きで起き上がり爪か噛みつきで命を狙いに来る。それがこの天狼の戦い方の基本だった。

 

 それは、ゲームでの戦い方とあまりにも違だていたが、相対している二人には違和感を感じさせなかった。

 

 何故なら、この方がこの天狼らしいからだ、と武の道に足を踏み入れた者として感じることができたらからだ。

 

 そして、これまでの雑なコンビネーションではいずれ崩されると感じた奏は見に回る。これまであまり見ていなかった明太子の、琢磨の剣を。

 

 それは、トリッキーに愚直な剣。殺意でのフェイント、命を使った小手先。そういったものを全て見せ札にして殺すための一撃を確実に叩き込める状況を作り出すという剣理。

 

 それを理解できた為に。自然と前線が入れ替わる。

 

 奏の剣は、流れている水のように綺麗な型をしている。自身の技をいくつものパターンの型に嵌めているからだ。しかし、それぞれが必殺であり、それぞれが必殺につなげられるように作られた型であった。

 

 その型の中から、天狼を殺し得るいくつかを盗み取った琢磨は、奏の隣に出る。

 

 

 

 そして、自然と呼吸が合う。

 

 お互いの全てを知ったわけではないけれど、お互いの剣はもう知った。だから、その心が全て殺意で満ちている事で繋がっている二人は熟練の連携を発揮できたのだ。

 

 このまま攻め続ければ、天狼の命は絶たれるだろう。

 

 だが、それは凪の剣士が万全だった場合だ。

 

 彼女の剣の根幹を支えていた凪の心は、愛しい両親を目の前で殺された事で怒り狂って乱れている。それは当然一つの技をに影響を与え、一つの型に影響を与え、積み上がって一つの隙が生まれた。

 

 完全に躱された致命の一太刀。そこから放たれる絶殺の爪撃、瞬時に判断できまった。それが致命傷になると。己は怒りに狂い、故に負けたのだと。

 

 だが、奏の中に不安はなかった。

 

 何故なら、彼が自分の死を前提にした剣をもう構えているからだ。その、いつも混じり気のない殺意の中にある一筋の暖かさが、きっと彼なりの者なのだと理解できて。ただの剣狂い死狂いでないのだとようやく理解できて、奏は笑って爪を受け入れようとした。

 

 しかし、忘れてはならない事がある。

 

 この戦いは、天狼を殺す為のものであり、この場に命の力を使える人間は2人しか居ないが

 

 ()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()()

 

 縮地にて踏み込んで足を払い、上昇した身体能力を最高効率に活かして足柄は、HNじゅーじゅんというプレイヤーは純粋な格闘の技能だけでシリウスの人外のパワーを放り投げた。

 

 自身のなってきたパトカーの方に。

 

「一応教えておくけどさ。パトカーって暴徒鎮圧用の装備も乗せてたりするんだよ。だから、パトカーのフロントって結構危ないんだよ? オオカミくん」

 

 そして開くフロントから放たれるリミッターギリギリの電磁パルス弾。しかしそれは当然に魂を持たないが為に天狼の命を奪うには至らず。

 

 しかし、この場にやってくる2人に一撃を与える隙を作り出した。

 

「行け! 乾!」

「ああ! ジョーさん!」

 

 パトカーのフロントに立っている裕司が、2弾式ロケットのように跳び、固まっている天狼へ炎の拳を叩き込む。

 

 その炎は天狼を焼いたが、まだ天狼は生きていた。

 

 そして、生物の本能と命令に従って一時の逃走を選ぼうとしたその時に。

 

 これまでの短い時間で命を救われた少女は、己の心に問いを投げた。

 

 これまでのように怒りのないままにいられるのかと。

 

 それは、無理だと魂で理解した。もうこれまでのように水をただ作り出すだけという優しい力は出来ないだろう。そう思って

 

 どこか狂った人間でありながら、守る為に戦う者達の背中を見た。

 

 一人はきっとまだ答えもなく。一人はきっともう答えを出している。

 

 そんな道の途中にいる自分を、彼らは受け入れてくれるだろう。そう思い、その形を確信した。

 

生命転換(ライフフォース)放出(ディスチャージ)

 

 その一閃は、その一閃から放たれた水の刃は瞬く間に天狼に到達し、その胴を両断した。

 

 その後、初めて天狼はその命を使って己を守った。

 再生。それが天狼になった人狼個人の本来の、命の形を。

 

 

 それにより、瞬く間に身体は再生した。その生命は煌めいていて、なにより生命を感じさせる輝きだった。

 

 その力に、この戦いを見ていた者たちは見惚れて膝を屈する。戦っていた者も、勝てるのかどうかの確信を無くしてしまう。それが、生命(いのち)の属性の威光だ。

 

 だがしかし、そんな事をカケラも感じずにただ殺すために動いている少年がこの場にはいる。

 

 自分の策が通じなくなったと分かった瞬間に、これからの味方がやってくれるであろう事を直感し、それが通じないだろう事を確信して動き出したのだ。

 

 後の先を突くことのできる、その瞬間を狙って。

 

「お前も天狼なんだから、それくらいはすると思っていた。だから、ここからはもう何もさせない。お前が死ぬまで、殺し続ける」

 

 そうして、琢磨の連撃が始まる。奏の型を盗んだ剣を自分の中で噛み砕き、その理だけを掴み取った琢磨の剣技。それはもはや鬼の剣。その力は本当のもので、何十度に渡って続く天狼の再生を苦にせずに繋がり続け、その命を殺し続けた。

 

 そして、ついにその再生は終わった。

 

 琢磨は生命転換(ライフフォース)の使いすぎで倒れ伏した。

 

 

 そして

 

 天狼の死と、破れるような音と共に世界の理は元に戻った。

 

『ゲームオーバーです』

「二度と来るなよ、ファンタジー」

 

 

 その言葉を最後に、気絶した琢磨を見送るように、天狼は笑って逝った。

 

 その心の内は、誰が理解できるものではないだろう。彼は最後の人狼。その心のあり方すらもはや唯一だったのだから。

 

 

 それが、本当の第一戦最終戦の顛末だった。

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