残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります- 作:気力♪
午後10時。電灯は無く明かりの少ないこのソルディアル王国では出歩く者は少ない……というわけではなかったりする。
流石に小さな子供が出歩く事はないが、魂でモノを認識できる者達にとっては、明かりの有無などさして関係はないのだ。
そんな事を、ある程度の情報を持って実際に歩いてみる事でヒョウカは理解した。
「……なるほど、アバターは魂が露出している姿で、魂を見ること、魂で見ることを無意識に行なっていたから夜目が効く。気持ち悪いくらい現実にも繋がる設定ね殺気の感知とか」
「いや、殺気の感知とかは技術だから。こんなファンタジーと一緒にするな」
「そもそも殺気とか感じられる方がおかしいと思うのだけれど」
「あのな。それ雑に言ってるだけだから。風の動きや視線の偏り、音の不自然さに力の入れる動き、そういうのを総合的に見て殺気って言ってるんだからな?」
「なんでそんなに多くのことを一瞬で判断できるのよ」
「そりゃ、経験が導く思考を超えた合理的判断とかで」
「それ勘じゃないの」
などと会話をしつつも位置取りを整える。こちらを見ている男女1組。無骨な大男にどこかふらついている小柄な女性だ。
戦士団の生き残りの二人に思えるが、確信は持てない。
雰囲気が違う上に、あからさまに獲物を握り続けているからだ。
「タクマくん、何かやった?」
「まぁ、今日ちょっと迷惑をかけた」
などと言われながら、先ほど覚えた魂視を試してみる。
そうして視ると、手に持っている短剣とショートソードにあからさまな
他人の魂、そう言った方がいいかもしれない何かだ。それが、獲物から逆に身体に入っているのが視える。
「……洗脳能力?」
『可能性は高いかと。しかし彼らの本来の武器は大盾と弓。それを持たないということは、意識はさほど残っていないかと』
「面倒そうね。私はロビーに戻る?」
「いや、30秒守れるとは思えない。ある程度自力で逃げてくれ」
「どうしてここで“俺が守ってやる! ”とか言えないのかしらこの男。そういうところも実は好きだけど」
「無条件で好感度上げないで下さいなヒョウカさん」
そうして、ふらりと前に出てくる二人。
だが、その剣は鋭くも型通り。一目でその剣の短調さが見える。
だが、その剣に込められた魂の力は強い。
男の剣を弾こうとしたタクマは、その剣の重さに逆に弾き返される。そして、その隙を狙った女性の短剣による刺突が放たれる。
その短剣に込められた魂は強く、掠ったら致命傷になるとタクマの勘は告げていた。
だから、その持ち手を蹴り上げた。
多少体勢が崩れた程度では、考えなしでの型通りでしかない剣などタクマにはさほど脅威ではないのだ。対人戦の経験値は彼の人生の半分以上を占めているのだから。
そうして、弾かれた体を戻して二人とまた向き合う。追撃がないのが不自然だったが、洗脳の類だろうと当たりをつけて一呼吸置く。
「……
『ですが、力は割れました。男性の方は重力操作で剣を重くする事。女性は、一撃での必殺の使い手でしょう』
「ゲートは、使って来るか?」
『おそらくないかと。彼らは天狼との戦いでゲートを開きませんでした。恐らくそれが騎士団と戦士団の違いなのでしょう』
「開けないから戦士団なのか。まぁ順当だな」
そうして、もう一度やって来る剣戟と刺突。
今度は迷わずに剣を振るおうとして、タクマは違和感に気付く。
そうならば、敵狙うは仕留めたと安心した瞬間だ。
「ヒョウカ! お前ならどこから狙撃する⁉︎」
「……これは恐らく遭遇戦よ。だから狙撃ポイントは簡単に入れる単純なところ。周囲の建物の屋上を警戒して!」
「了解!」
『見つけました! 6時方向! まだ登っている最中です!』
「なら、ポイントに着く前に!」
回避した二つの剣戟を尻目に、タクマは剣を振るう。
剣を直接弾くのは、どちらも能力的に難しい。片方は重過ぎて、片方は台風のようなものだから。なので、手を砕く。本来ならなら操られているだけの人に後遺症を残したくないが、そうも言っていられないだろう。そうタクマは思う。
何故なら、
攻撃を振るい終わったそこに、タクマはロングソードでの腹打ちを叩き込む。流れるような連撃だった。
もっとも、籠手があれば無意味な攻撃だったがこの二人の服装は普段着だ。問題はない。
『位置に着きました!』
「ヒョウカ!」
「とっくに逃げてるわよ!」
その言葉に、ちゃっかりと狙撃地点から死角になっている場所に逃げているヒョウカを思って動き出す。
視線は合っている。敵方は、闇に溶けるような黒い衣装に仮面。その中で矢を抜き打ちで放って来る。
恐ろしい量の魂を込めている抜き打ちの連射だった。
数は5射その三本は確実に急所を狙っており、もう2射はそれを回避した先で当たるように放たれている。
この場合の正解は、こちらの
ならば、ダメージ覚悟で突っ込むのがタクマにとっての正解だった。
全て躱すのは不可能だと判断して、致命の一撃を弾きつつ身体を縮め、残りの二射を躱そうとして
殺意と共に、魂が何かの干渉を受けたのを感じた。
「ガッ⁉︎」
『マスター⁉︎」
タクマの剣は、命を狙う一矢を弾いた。しかし、その瞬間に走った激しすぎる
それによりタクマは絶命し、光となって消えていった。
「……今のは、何かのネタがありそうね」
そう呟いたヒョウカは、ここにいては自分も無駄にデスペナになるだけだと感じ早急にロビーへと転移しようか迷った。しかし、さしてここで命を落とすリスクが無いことと、タクマが自分以外に殺されて普通にムカついていることを鑑みて、いつも通りに博打に出る。
「……角度的には、こうね。
そう言いながら、つい今ポイントを使い
その石に、相当量の
「即席の閃光手榴弾……のつもりだったのだけれど」
そうして、手元から離れたことで減衰した
起きた現象は、光と氷結の二重奏。輝きに目が焼かれた者を凍らせる力が襲ったのだ。
これまでヒョウカが自覚していたのは光の力のみ。故に敵方狙撃手の両眼を焼き潰そうとしたのだった。
「……まぁ、結果オーライね」
そんな言葉を呟きながら、もう一つ石を拾って投擲機にセットし、そこに命を込める。
そして、これまで押さえ込んでいた
「一つ、言っておくわ。私手加減は苦手なの」
その言葉と共に、悠々と、自信満々に出てくるヒョウカ。
その姿を見て、狙撃主は引き絞っていた弓を戻し、よるの闇に消えていった。
「……一体どういう事だ?」
「ああ、手が砕かれても喋れるのね。なんでも剣が洗脳の元のそうだから、捨てて置いた方がいいわ。それで、貴方達はどうしてタクマくんを襲ったの?」
その言葉を話すヒョウカの顔には、氷のような笑みしか浮かんでいなかった。
それは、愛が故にならどれほどにも非情になれる女の、少しだけの八つ当たりであった。
■□■
「……痛かった」
『お疲れ様ですマスター。あの激痛の理屈はお分かりになりましたか?』
「わからない。正直痛みが酷すぎてな」
そうして、素振りをして体の調子を整えながらタクマは待つ。自分がデスペナした後には大体博打に出るヒョウカの結果待ちだった。
そうしていると、そこまで時間をかけずにヒョウカがロビーへと転移してきた。
「おかえり、長かったな」
「ええ、少し話をしたからね」
「……ああ、戦士団の二人か」
『疑問、彼らはこれからどうなるので?』
「さぁね。けれど、助けたお陰で大事な情報をくれたわ」
そう言ったヒョウカは、ニヤリと不適に笑いながらこう言った。
「マリオネティカという道具。それが、今回の敵の使っているネタよ」