残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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修行開始

 今回の周でのダイナの行動をタクマは思い出す。酒場に入る前、いつのことかはわからないが入植者の少年たちのスリにあったと本人は言っていた。という名目の人助けだが、そこは良い。

 

 ダイナが前回の記憶を持っている特別なNPCだとしても、人情があるのならそこは変えないだろう。故に張り込むべきは酒場近くの区画にある孤児院だとタクマは当たりを付ける。

 

「で、メディ。知場所知ってる?」

『あいにくと』

「なら、聞きこむか」

 

 そう言ったタクマは近くに来た前回の周の一戦目の相手である透過の騎士の三人組に話しかける。いずれも量産型の鎧を着ているので誰が誰かは魂でしかわからないが、透過剣士が小隊長で、一撃ぶっ放してくれた弓使いは平の騎士のように思える。立ち振る舞いだからの連想ではあるのだが。

 

「すいません、ちょっといいですか?」

「……気づいていたか。王子の友人を名乗るのならば当然か」

 

 完全にカンニングであるとは言いだし辛い状況だが、こういう時は強キャラムーブをするとそれっぽいとのヒョウカの談から不敵に笑うだけに留めておくタクマ。悪役としてのRP(ロールプレイ)が妙に似合う男である

 

「あいにく俺は今回の件に関わるつもりはないですよ。やらなきゃならないことがあるんで」

「それは?」

「修行です。今まで経験したことがなかったんですよ、悔しさっての」

 

 そういってタクマは殺意を内側に向ける。鬼子としての在り方は自分の本質だと思っていた。だからこそ多くの仮想世界でその衝動を衝動のままに発散していた。

 

 だが、その生まれ持ったモノだけでは勝てないものが現れた。勝たなくてはならないその時に。

 

 死んでもそれまでだと思っていたタクマの強さへの執着を、友への思いが変えたのだ。

 強く在ろうとする、鬼へと。

 

「負けて死ぬならそれでいい。けれどそれで終わりじゃないなら俺は殺して勝たなくちゃならない。そのために強くなる。その邪魔をするのなら」

 

 タクマは、剣を引き抜き脇に剣を構える。

 

「殺してでも押し通る。来るなら来い。糧にしてやる」

 

 その剣気に、その殺気に、そしてその鬼の在り方に騎士たちは半歩あとずさり、ゲートを開こうと声を上げ。

 

 その前に風で踏み込んだタクマの剣が透過の男の喉元に突き立てられていた。

 

「オレ程度に命を懸けるほど、あなたの命は軽いですか?」

「……わかった、見逃そう。鬼の少年」

「ありがとうございます。では、これにて」

 

 そういってタクマは剣を収めてゆったりとした足取りで、しかしどんな奇襲にも対処できるような力の抜き方で去っていく。

 そんなタクマに透過の騎士言う。

 

「……孤児院は、逆方向だ」

 

 その言葉のあんまりさにタクマはずてっと躓きかけ、『そもそも格好つけてどこに行こうとしていたのですか』とさらにメディから追い打ちを受ける。

 

 鬼の端にたどり着いてしまったとしても、タクマはまだ14歳。年頃の少年らしい抜けは多いのである。幼少期よりメディのサポートの元で生きていた分むしろ普通より抜けは多いかもしれない。

 

 そんな締まらない少年が、鬼子の剣士明太子タクマなのであった。

 

 ■□■

 

 そうして、なんだかんだと監視という名目でタクマに付いてきた小隊長のイービーは、状況に困惑していた。1354

 

 それはそうである。なにせそこは入植者が多く入っている孤児院であった。そして、そこでは泣いている少年たちと不思議な雰囲気の落ち武者が居た。そして、可憐なバトルドレスの女性が、その落ち武者と組みあっていた。

 

 タクマは”華麗なる四文字固め! 奴の本職はレスラーなのか!? ”とバカなことを考える。

 もちろんそんなことはなく、バトルドレスのプレイヤー、プリンセス・ドリルはただ昔からそういうのが得意だったというだけである。彼女の本職は教育学部の大学生だ。

 

 だけれど、その会話内容を聞いてみると、バカらしいことでの喧嘩だと理解できてしまった。

 

 曰く「あなたのような不審者にこの子たちは預けられませんわ!」

 曰く「お前保護者ならもっとちゃんと見てろや!」

 そして少年たちと孤児院の職員曰く「どっちも知らない人です!」

 

 つまり、子どもたちの目の前で4文字固めているドリルも、いいことして子供たちを返したダイナ師匠も、ここでは部外者なのである。

 

「すいませんイービーさん。あの台無し師匠のこと引っ張るのでドリルさんの方お願いします。

「……あぁ、任された」

 

 そうして現れたイービーさんの騎士の権力(パワー)。ドリルさんはあえなくお縄につきプレイヤーの一人として牢屋に入ることになった。大した罪ではないのだが、身元不明者の扱いなど基本こんなものである。

 

 そしてそのことを目隠しにしてダイナを連れ去るタクマ。辻斬りし続けて実戦の手ほどきを死ぬほど行うつもりだったが、この分なら恩を着せて手ほどきしてもらえるかもしれない。そんな打算と、”この人はちゃんと見ていないとどうにかなってしまう”という使命感にも似た何かだった。

 

 それは、タクマが義父凪人に感じているものと同質のものだった。タクマはダメ人間に弱い男なのである。本人もかなりのダメ人間なのではあるが、それはそれ。

 

「ありがとよ少年。まさかあの嬢ちゃんあんな技持ってるとはなー。足が痛いのなんのって」

「……ダイナ師匠ならどうにでもできたでしょうに。生命の生命転換(ライフフォース)の使い手なんですから」

「あー……生命の使い手とやりあったのか。よく生きてんなお前」

「生かされました。負けたんですよ勝たなきゃいけない殺し合いで。だから師匠、お願いがあります」

 

 そうして姿勢を正すタクマ。その言葉を聞かず「断る」と言うダイナだった。

 

 ならばと本来のやり方で技を盗むのみ。故にタクマは剣を抜いた。

 

「一手御指南願います」

「話聞かねぇな最近の若いのは!」

 

 そう言いながらタクマは正眼の構えを取る。その構えにある強さへの真摯さと、剣の中にのみ存在する殺すという意思。その二つが”これは自分に届きうる”と感じさせてダイナもまた正眼の構えを取った。

 

 二人の距離は一歩で剣の間合いに入るほど。周囲は空き地であり、人はいない。蹴り上げられる石なども存在しない。純粋な剣の戦いだった。

 

 そうして構えを取り合っているタクマとダイナだったが、タクマの方には精神的疲労が見えてきた。

 

 考え得るすべての剣が、届かないと分かるのである。構えを変えれば、その隙を突かれるだろう。風の刃を作るにも、命を込める一瞬で命が飛ぶだろう。

 

 刺突、袈裟切り、切り上げ、切り返し、同切り、逆胴、殺気のフェイント、踏み込み音のフェイント、タクマの得意とするすべてが通じないそれが魂で理解できてしまう。

 

 強さの一端をつかめる程度にタクマが強かったが故の事だ。剣の力量において、タクマはダイナの足元に及んでいる。そして、今回の戦いでは、否これから想定する戦いでは()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 当然だ。タクマの戦うと決めた場所は命の変えの効かない現実世界。もし死ねば、次のアルフォンスを殺せなくなる。それは、嫌なのだ。

 タクマは、友人を殺すなら自分がいいと感じている。自分がやるべきだと思っている。

 怒りではなく、敬意をもって友を殺すために。

 

 その願いがタクマの鞘になって、その心の刃と共にあった。刃を収め、時にさせる剣士の鞘だ。

 その姿をダイナはまぶしく思い、剣を鞘に納めた。

 

「……男子三日会わざれば、ってか」

「師匠?」

「ついて来い」

 

 そういってダイナはタクマに背を向け歩き出す。

 

「場所を変えるぞ、タクマ」

 

 それはダイナが、タクマを認めたという事。

 一人の人切りではなく、一人の剣士としてタクマを認めた証。

 

 そのことを理解したタクマは、「ハイ!」と返事をした。

 そんな姿を、その心をずっと見てきたメディは温かい気持ちで見ていた。

 

 ■□■

 

 そうしてタクマがダイナに連れてこられたのは城の北にある祠から伸びる地下道。

 

 王城方面に向かっているのはわかるが、そこには確かに魔が漂っていた。

 

「タクマ、お前に足りないのは魂の使い方だけだ。だから戦って覚えろ。指南はしてやる」

「了解です」

 

 その言葉と共にタクマは前に出る。地下道はそこそこに広く、剣を振るうのに問題はない。

 

 目の前には、闇の魔物としか言いようのない者たちが多くいた。ヒトガタ、狼、大蛇、小鬼など様々だ。

 

 そしてタクマが何かの境界を越えたことで、認識された。すべての魔物に一斉に。

 

 初めに闇のヒトガタが影の剣を握ってやってくる。それを受け流して首を撥ねる。

 

「初太刀は受けるな! 触れて発動する生命転換(ライフフォース)なら死んでるぞ! よく視ろ!」

 

 その言葉に内心頷き、次にやってきた闇の狼の魂を魂視にて見極める。

 魂の意が集中しているのは右の爪。生命転換(ライフフォース)の力はそこにあるのだろう。故に狼の左側へと立ち位置をずらして、突撃を回避して、風の刃を纏わせた剣をもって両断する。

 

 しかし、剣を振り終えた瞬間に狙いを付けられた感覚がタクマを襲う。咄嗟に振りぬいた勢いのままに殺気から逃れると、先ほどまでいた場所には4本の矢が突き刺さっていた。

 

「目の前の魂に集中しすぎるな! 囮の使い手は多いぞ!」

 

 その言葉を受け取って、剣から離した左手から放った風の刃にて力の込められた5人目の最後の一射を逸らし回避する。

 だが、大蛇はそこを狙っていた。タクマの手札が尽きる瞬間を。タクマの命を刈り取れる瞬間を。

 

 体全体をばねにした神速の突撃。魂視をしなくてもわかるその牙に込められた魂の毒。それを喰らえばはタクマは死ぬだろう。

 

「メディ、一応マーカー頼む」

『はい、良き空を』

 

 しかしその程度で死ぬような軟な戦いはしていないのがタクマだった。

 

 風の力を使っての跳躍と姿勢制御。

 大蛇の噛みつきに剣を合わせて最も鋭くした風の刃を置く。

 

 その剣に衝突した大蛇は、その鋭さに鱗の硬さでは抗えずに頭から両断され死亡した。

 

「ラストォ!」

 

 そして最後の小鬼一人。矢は通じないと理解したのか短剣を構えて突撃してくる。

 明かな相打ち狙いの攻撃だった。

 しかしよく見て、実際によくやったタクマにはそれは通じない。魂視で見た限りでは魂は短剣に集中している。アレが触れたら死ぬタイプの生命転換(ライフフォース)なのだろう。つまり掠りすらしなければいいだけの事。

 

 天井を風の加速と共に蹴り、壁を風のクッションと共に蹴り、鋭角の機動にて小鬼を叩き切った。

 

『第一陣は全滅です。お疲れさまでした』

「だが、課題は多いな。風の踏み込みができるようになったの最近だろ。剣への生命転換(ライフフォース)と併用できてないぞ」

「わかってます。それで、どうでしたか?」

「生きてるんだから及第点だよ。満点はやれないがな」

 

 その言葉に、タクマは「ありがとうございます」と礼をした。

 

「じゃあ次な、行くぞタクマ」

「はい!」

 

 そうしてタクマは、ダイナと共に戦いに赴くのだった。地上での暗闘とは全く関わり合いのない、ただの戦いへと。

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