残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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スタートラインの一歩前

 その日タクマは、学校を早退した。

 

 体調が悪かった訳ではない。とてつもなく残酷な理由だ。

 

 “人を殺す道筋に無意識のままに体が動いているから”だ。

 

 今日、メディがいなければ間違いなく何人かの命を奪っていただろう。特に理由も意味もなく。鬼子と呼ばれる者の生き方通りに。

 

 そうして、タクマは病院までバイクを走らせるのだった。

 

『マスター、カウンセリングの予約を入れますか?』

「……あんま効果ないんだよな。なんとなく死がどうでもよくて、なんとなく殺したいだけなんだから」

『でしょうね。なので私が止めてみせましょう』

「AIに行動を制限されるとかディストピアかな?」

『AIに心臓を握られているマスターの言うセリフではありませんよ』

「それもそうか」

『ええ。それと否定も、ほかのAIがどう感じるかは知りませんが、私はマスターを支配するつもりなどありません。あなたとのこの関係を私は気に入っているのですから』

「メディさん、感情感情」

『……と、客観的な事実に基づいて発言させていただきます』

「取り繕い方雑か」

『いいじゃないですか、たまには』

 

 そう話しながらも、今から手動運転に変えてストーキングすればあの警戒心のない男性なら殺せると無意識に体が動きかけた。メディの警告と即座の自動運転への切り替えにて事なきを得たが。

 

『マスター、いつも思いますがあなたの殺る気スイッチは軽すぎます』

「いや、いつもはもうちょい自重するから」

『その言葉がすでに社会不適合者のものなのですがね』

「未遂だからまだセーフセーフ」

『行動を起こしたら殺意の籠り切った計画性のために娑婆に出てこれないですからね、マスターは』

「なんとなくだから殺意はまだないんだけどな」

『率直に言って先ほど頭に浮かんだ計画を練るには、一般的な思考では数週間はかかるものかと』

「でも氷華なら簡単にやるぞ?」

『彼女は別枠です』

「AIに別枠扱いされるのかあの女……」

 

 と、いつも通り過ぎる会話の末に病院に到着する。

 

 琢磨の脳裏には、”問診を躱して学校に戻ろう”という欲望もあるのだが、さすがに友人たちを殺してしまいかねない今ではやめた方がいいと思いがあった。

 

 鬼子にも、一般的な友情はあるのだ。

 

 ■□■

 

 そうして検査を受けた琢磨は()()()()()()()という結果にため息を吐いた。何となくわかっていたことである。

 

 現在時刻は昼の12時ちょうど。デスペナが明けるまでにはあと2時間ほど。

 

『たまには、ゲームなどしないで映画でもどうですか?』

「なんか見たいのあるのか?」

『はい。宇宙進出した人類の軍人がワープゲートによってかつて地球だった星に転移してしまうという話だそうなのですが……』

 

 そうしてメディの映画語りを聞きながら琢磨は家に戻った。

 ちなみに映画はとても面白かったが、互いの考察で脳内はうるさかった。二人でそのことも楽しんではいたが。

 なお、途中から口とスピーカーに出していたので旧世代のシアターではこうはいかなかっただろう。VR時代万歳だ。そう琢磨とメディは思った。

 

 ■□■

 

 そうしてデスペナルティ明けからすぐにワールドにログインしたタクマ。ひとまず目的はロックスとイレースに”死んじまったぜ”と告げることなのだったが、それは難しそうだ。

 

 なにせ、気づいたら鞘を左手で持っているのである。こんな危険人物をどうして野放しにできようか。

 

 なので今日も今日とて修行の日々だ。先日あれだけの泥騎士が出てきたのだから、あの通路にはいっぱいいるだろう。

 

 ”殺してもいい奴”が。

 

「てか、周回で生き返るんだしだし幾らでも殺していいんじゃないか?」

『マスター、それをすると現実での自制心が緩むかと』

「それもそうか」

 

 そう話しながらきな臭い街を歩いてあの通路の入り口の建物に向かおうとしていると、ふと見知ったような顔が目に入った。

 

 新人戦士として先輩に指導を受けながらも頑張っているその人物の顔は、初めて狼を殺したその日に鉄パイプで闘うことを選んだ出た彼だった。

 

「……すみません、ちょっと良いですか?」

 

 気付けば、タクマは彼に話しかけていた。

 

「構わな……手配書の男! 稀人のタクマか!」

「あ、俺指名手配されてたんだ」

『考えなしすぎましたね』

 

 その言葉と共に近くの戦士たちが集まってくる。義侠心からの行動なのか、その魂には濁りはなかった。

 

 ……鉄パイプの彼以外みな死人だと、理解できるほどにはあの泥のことを理解できてはいるのだが。それでも、その魂に今濁りはなかった。彼の近くにこう言う人がいるなら、きっと色々大丈夫だろう。タクマは、死人を想うその気持ちでそれを思った。

 

「なんか、大丈夫そうだな」

『はい。マスター、心残りだったのですか?』

「まぁ、少しな」

 

 タクマはその姿を目に焼き付けて、風踏みにて空を駆け逃げる。

 

 しかし、ただ逃げるだけのそれなのに、とても自由な気がしていた。

 

 もっとも、様々な生命転換(ライフフォース)の攻撃がすぐに飛んできて自由など感じている暇はなくなったのだけれども。

 

 ■□■

 

 そうしてちょっとどころではなく楽しい楽しい空の旅(対空砲火付き)から逃げ延びてやってきたその祠。

 

 そこからは、不思議なことに魔物があふれたりなどはしていなかった。

 

『何か仕掛けでもあるのでしょうか?』

「この辺りに流れてる生命転換(ライフフォース)が怪しいな。スクショ撮っとこ」

 

 などと無駄なことをしてから空戦で昂った心のままに地下通路に侵入する。

 

 そうしていると、ゴブリンなどの雑魚の魔物がわらわらと湧いていた。最も、ゲートを使われたら出力では互角以上になる強すぎる雑魚ではあるのだが。

 

「……雑魚しかいないな。この辺に泥騎士置いとけば確殺できるってのに」

『カモフラージュか、あるいはラズワルド王にリソースを使いきっているのでは?』

「うわ、ありそう」

 

 と、会話をしながらゴブリンたちが()()()()()()()()()()

 

 使わせないのではダメなのだ。使わせたうえで殺さなければアルフォンスにもその先のラズワルド王にも届かない。

 

 それでは、いずれ来るあの黒騎士や泥を纏わせるマリオネティカの使い手にも、まだ見ぬ敵たちも殺すことはできないのだ。

 

 だから強くなる。

 

 自身の異常性はもう慣れている。どうせこれは一生付き合っていくことだ。これは植え付けられたものではなく、自分のうちにもとからあったモノなのだから。

 

 だけれど、それではダメだと教えてくれた先生がいるのだ。

 それ()()では駄目だと。

 

 抜き身の刃では、肝心な時に殺せない。だからこそ鞘に入っていなくてはならないのだ。この衝動()は。

 

「さぁ、始めようか!」

 

 泥を纏ったゴブリンたちが尋常でない力で切りかかってくる。それも小柄な元の姿を活かしての7体同時。

 

 それに対して、殺人衝動を解き放ちその意志に体委ねる。力の強い小柄なものに対しての剣理を選択。姿勢を低くし攻撃に備えながらも近づく速度を落とさない。

 包囲網に捕まったらおしまいだ。数は基本力なのだから。

 

 だが、風踏みの加速は使わない。あの加速は強力であるが、それでは”観察しながら”戦うことはできないからだ。

 

「メディ!」

『はい、戦闘時の精神パターンを集積します。どうぞ思う存分お暴れになってください』

 

 まず、2体のゴブリンが足を狙って剣を振るってくる。その剣速は十分早いが、腕で振っている。この泥のゲートは本人に持っていない技術を与えることはできない。

 

 次に、泥の動きと筋肉の動きの祖語。見えない。丹田にコアのある量産型だろう。

 

 それを見抜いたのならもう迷わない。戦闘ロジックは構築し終わった。

 

 小さく飛んで剣を躱し、振り向きざまに風の刃を纏わせた剣で切り裂く。二体の丹田を通すように。

 そしてその背中を狙う3匹の剣を風纏に込める力を切り替えて剣を背面に構えて受け流す。見えてはいないが、剣の振りかぶる姿などは見えていたので軌道も剣が到達するタイミングは計算しなくても殺しの衝動には理解できていた。タクマ自身の頭でもそれは認識できていたが、それよりも衝動の方が早かった。急場のアドリブは衝動に従った方が間違いはないとタクマは思う。

 

 そして、受け流した剣に体を流された泥の3匹を返す刀で切り殺し、大きな一撃を溜めていた残りの2体に相対する。2体が放つのは、泥の濁流。自身を爆発させて作り出す必殺技のようだ。

 

 その濁流は通路全てを飲み込むかに思えた。風踏みで退避するべきと理性は思い、前に行けると衝動は言った。

 

 事前に確認したように、ここは衝動に体を任せる。すると、するりと自然に生命転換(ライフフォース)を剣に込めることができた。最大出力のモノをだ。

 

「これだけやってスタートラインに立ててないってのが泣けるね!」

 

 その解き放たれた風の巨刃にて濁流は切り裂かれ、ついでに溶けていたコアも切り裂かれた。

 

 昨日の戦いにて、基本はつかめたようだ。ゲートの会得というタクマの思うスタートラインにはたどりつけてはいないが。その一歩前にはたどりつけたと自覚できるほどには自信を持てている。

 まだまだラズワルド王の剣技をモノにし切れていないが、たった一日でタクマは強くなった。確実に。

 

 

 

 

 

 ただしそれは、鬼への道を突き進むものだったが。

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