残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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病室への来訪者/魂の研究者

 同日深夜、琢磨と青年、“乾裕司(いぬいゆうじ)”は即座に駆け付けた栗本の判断により救急車で病院に送られ、緊急検査を受けに行った。そしてどちらも極度の疲労で点滴を打たれて入院という運びになった。

 

 それは、生命転換(ライフフォース)の原理を考えれば当然のことである。あれだけ命を使い倒したのだから体にガタが来ていないほうがおかしいのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもだ。

 

 人の魂は苦難を受けることで成長する。故に生まれながら心臓に爆弾を抱えながら、時に爆発しかけて死にかけながら生きてきた琢磨の魂は常人よりも強いのである。

 

 だが、それでも死にかけてしまうほどに今回の戦いは激戦であった。それは大きな苦難だったはずだ。だから琢磨と裕司の魂に大きな変化が訪れるだろう。

 

「だからこのアプリをいれテ、魂の変化状態を確認させテほしいんだけどナ」

「すまない風見、誰だこの白衣の女は」

「帝大の牧野さん。魂に関係する研究をしているそうです」

「よろしくネ。お二人さん」

 

 どうして牧野がこんなところにいるのかはものすごく単純に説明できる。メディが治療用にと彼女らの研究データを親父に渡したので、そのアドバイザーとして呼ばれたからだ。

 

 よりにもよってストッパーの末吉さんが別行動の時にだ。

 

 なんて面倒なんだろうと、彼女と最初に接触した時のことを思い出しながら琢磨は思う。

 

 早く来てくれ末吉さん、と。

 

 ■□■

 

「君が風見琢磨クンだね?」などと格好をつけて話しかけてきた白衣の女、牧野は当然に琢磨に警戒された。だがしかし、二人の間に末吉が入ることでなんとかとりなした。善人とはこういうところが強いのだ。

 

 そうして場所を移したそこは、琢磨の家から少し離れた場所にある喫茶店。あの会話の後に、鳴ってしまった琢磨と白衣の女性の腹の音からとりあえず飯にしようと琢磨の行きつけのこの店に案内することになったのだ。もちろん彼女たちの奢りで。

 

「先輩、格好つけてないで事情話しましょうよ。風見君困ってるじゃないですか」

 

 だが、そこから先が続かない。お互いにランチタイム用のホットサンドセットを頼み、お互いに同じおすすめの紅茶を頼み、お互いに無言で食事を食べ終える。そして声をそろえて言う。「ごちそうさまでした」と。

 

「じゃあ、君が風見琢磨君でいいのヨネ? さっきは当てずっぽうだったんだけド」

「はい、そういうあなた方は?」

「私は帝大で院生やってる牧野ダヨ。こっちは後輩の末吉。昨日の事件のことを勝手に調べてる者サ」

 

「あれ? なんで突然フレンドリーに?」と困惑する末吉さん。だが、仕方がないだろうと琢磨は思い、そもそも全く気にしてないのが牧野だった。

 

 要するに、末吉が食べていないホットサンドがとても美味しかったのでこの“基本的に食べ終わってから話すタイプ”の二人はとりあえず食べるのを先にしようというのをアイコンタクトで交わしたのだ。常識からのはぐれモノ同士気が合うのだろう。その方向性は別にしても。

 

「デ、昨日の狼の話どこまで本当? キミがそんなに動ける子じゃないのは見てわかったんダケド」

「どこからその話を?」

「後輩の矢車ちゃん、一緒にいたカップルの生き延びた方ネ」

「じゃあ、俺視点での話はこんな感じです」

 

 そうして本日何度目かわからない説明を牧野達に行う琢磨。今回はだいたい聞いているだろうから大雑把なものだ。それでも彼女たちは証言に確証が持てたのか少しの喜びを感じていた。しかし、それ以上に義憤を感じていた。

 

「それで、君の言うゲーム、《Echo World》はどんなゲームなノ?」

「まだわからないですね。なにせチュートリアルは“その世界で死ね!”でしたから」

「え、何それ」

 

 その琢磨の言葉に引く二人。まぁ普通の感性ならそんなものだろう。そう琢磨は納得した。二人が納得していないのは琢磨の精神性に関してだったのだが、そこはお互いに知らないほうが幸せだったのだろう。

 

「それで、お二人は何をしていたんですか? バイクの反応がどうとか」

「アァ、それは……あんまり好きな言い方じゃあないんだけど、付喪神って知ってるカイ?」

「大切され続けたモノが神様になるっていう奴ですか?」

「おおむね合ってるよ。私達はその研究をしてるのサ。もっと正確に言えば、物質への魂の定着現象への考察が私のテーマだよ。末吉クンは魂の強度と極限状態での装備の損耗率を研究してるね。マァどっちもモノへの魂の強さが関係しているから、こんなノをちょっと作っタのサ」

 

 そうして見せられるのはハンドメイドで作られた機械。なにやらいろいろ言っていたが、要するにモノの魂の有無を識別する機械らしい。

 

「で、俺のバイクからそれが出てきたと」

「そうだヨ。さすがにおかしいと思って考えたらピンとキタのサ。矢車ちゃんを助けてくれた少年がバイクをぶっ壊してたってね」

 

「後は勘サ」と白々しく言う牧野。ほかにも多くの言っていない理由があるのは明白だった。

 

 が、そこはツッコむ必要はないので今のところ琢磨は放置している。

 

「で、その魂が俺にどう関係するんですか?」

「……昨日の夜の状況サ。矢車ちゃんはお世辞にも運動ができる子とは言えなくてネ、狼に追われたなんてことになったら真っ先に死ぬところだったんだヨ。けれど彼女は走りぬけた。体に何の不調もなくネ。そんなのは普通じゃない。だからこっそり彼女の《Soul Linker》に独自開発のアプリを入れて調べさせて貰ったのさ。そしたら彼女の魂はかなり疲弊していた。つまり、()()()()()()()()()()()()と私達は推測したのサ。君の話でそれは確信に変わったヨ」

 

 それは、一つの異界への解釈。あの異界は《Soul Linker》で見ている夢のように、魂で物事が決まる異空間なのだという推論だ。

 

 そして異界を実際に体感した琢磨は、それがそう的外れではないことを知っている。あの異界は、生と死が現実よりも身近だった。そんな気がしているからだ。

 

「まぁ、私からの推論はこれくらいかな? あとは末吉クン、補足頼むよ」

「補足と言われても、先輩のは証拠が出そろってない暴論じゃないですか。どこを補えと……まぁ、とりあえずウチの研究室でやってる研究の概要くらいは送っておくね。端末お願い」

「じゃあメディ、ファイル分けよろしく」

『了解ですマスター』

 

 そうして、メディのことで少し驚かれつつも琢磨は魂についての資料を受け取るのだった。

 

 その時、琢磨は少し思った。末吉さんから感じる違和感はどういうことだろうか? と。これまで気にもしなかったその青年は、まるで研がれた刃が鞘走るのを抑えているような不思議な、ある意味現実より慣れているもの(良くなじんだゲームでの殺意)に似ている空気を感じ始めていた。

 

「それじゃあ、《Echo World》の詳細を教えてくれるかい?」

「まぁ、詳しくは話すより見たほうが早いですね。600円なんで奢ります。昼代浮いたついでに」

「……んー、わかんないナ。君にメリットないよねこれ以上のお節介ッテ」

「そうですか? あると思いますけど」

「へー。どんナ」

「俺はそれなりの善人のつもりで生きているんですから、義憤くらいは感じますよ」

 

 その薄っぺらい言葉に、牧野さんは納得し

 

「それは、違うだろ」

 

 そう、これまで平静を保っていた末吉さんにぶった切られた。なんとなく、そう言われる気がした。

 

「……確かに違います。けど、一応外面を気にして生きてるんですよ俺は」

「うん、わかってる。けれど、これから共に事件を追いかけていく仲間として、君の本音が知りたい」

「末吉クン、さすがにそれは飛躍しすぎてルと思うヨ」

 

 突然の仲間発言に驚く琢磨。対してそんなに驚いていない牧野。どうにもこの二人と話し合うのなら、注意するべきはきちんと鞘に入ったままの彼のほうだったようだと今更ながらに思い、そもそも敵じゃないという考えが頭をよぎって内心苦笑する。そして、正直にその言葉を返す。琢磨にしては本当に珍しく。

 

「仲間云々は置いておいて、俺の理由は簡単ですよ。……あんな風に消えるのが身内だったなら、俺はどうなるかわからない。それが嫌だからです。一年かけて友人も作れたこの仮面、まだ捨てたくはないんですよ」

 

 その言葉に納得したのか、末吉は先ほどまでの意を鞘にしまい、情けないが優しい青年へと戻った。変心とは違う、そのままで変わるものだった。

 

「うん、なら安心した。驚かせちゃってごめんね」

「末吉クンのコレは慣れてないとビビるからネ」

「確かに。先にある程度事情を知ってないと勘違いしそうな剣気でした。居合ですか?」

「実家がね」

 

 そんな会話を最後に3人は分かれていく。帝大の2人はネットカフェに、琢磨は自宅へと。

 件のゲームのことを教えるために。

 

 ■□■

 

 そんな二人のうちの一人が、ストッパーのいない状況に浮かれて面白おかしく動いている。とはいえ魂を調査するアプリはほしいと言えば欲しいのだ。自分のような鬼子の魂を知るために。

 

 そんな言葉を発しそうになった時に病室のドアが開く。牧野のストッパーの末吉だ。

 

「はいそこまで。二人は疲れてるんだからいったん引来ましょう先輩」

「……せっかくの機会なのに勿体ナイ」

「院長先生が落ち着いたら()()に対して検査をしてもいいって言ってくれたんですから、横道にこれ以上逸れるのはやめましょう。それで琢磨くん。今回消えた5人の方はどうだった?」

「消える様子のことは、俺にもメディにも良くわかりませんでした。ただ、光になっていくくらいで」

「そっか……生きてるなら生きてるってはっきり言ってほしいんだけどね」

「本当に生きてる可能性ってあるんですか?」

「あの異界での損耗は魂だけなんだろう? なら残った肉体が存在していないのはおかしい。だから、そこには肉体を必要とする理由があると僕らは思ってる。まぁただの仮説でしかないんだけどね」

 

 そんな言葉を残して、二人は去っていった。何か言いたげな乾を残し、次の来訪者へと交代するように。

 

 そうして病室にやってきたのは、つい昨夜もお世話になった刑事2人だった。

 

「やぁ、2人とも辛いのにごめんね、話聞かせてもらいに来たよ」

 

 足柄は、そう言って二人への事情聴取を始めるのだった。

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