残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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第二戦 最終戦前

 残されたカウントは、7128。

 

『これまでの時間から逆算すると、現実に現れるのは3日後になりそうですね』

「随分とゆっくりに出てきてくれるな、今回は」

 

 琢磨とメディは、自室でのメディカルチェックを終えて、“Soul Linker”により視界の隅に映るそれを見ていた。

 

 これまでの間隔から、上2桁が時間を、下2桁が分を表しているように見える。だが、それは正確に時を刻んでいるわけではない。

 

 なんらかの要因に基づいてカウントダウンの進む速度は変わっている。

 現在は、カウントの進む速度は標準の時間の進みよりゆっくりだ。

 

「夜だから、休んでる?」

『……誰が、ですか?』

「敵が」

『流石にそれは楽観視が過ぎるかと』

「冗談だよ」

 

 そんな会話と共に、メディにカウントダウンの監視を任せて眠りにつくタクマだった。

 

 そして翌日。

 

 タクマが起きるとカウントは2409まで減少していた。

 

「いやペース!? どういう事だよ⁉︎」

『不明ですが、仮説を一つ』

「なんだ?」

『氷華様からは急ぎ伝えるなとの話でしたので今。容態が変化しました。命に関わる事ではないそうでしたが、対癌用ナノマシンに不具合が起きたようです』

「……あのダイハードは最後までダイハードなのか……」

『ええ。そして氷華様の容態の変化とともにカウントダウンは急速に進みました。つまり、そういう事かと』

「……現実での体調が異界の発生のきっかけになる? ……足柄刑事の言う通り、MVPが鍵か」

『はい。前回の周にて、戦闘と作戦立案の二冠を取った氷華様が敵側から見たマーカーなのでしょう。……強い方をターゲットにするというのは、なんだか違和感を感じる異界の広げ方ですが』

 

 ちなみに、そんな会話は氷華の容態が変化したときに既に雇い主の篠崎には伝えているという。

 

 琢磨は思う。琢磨にとってメディは必要不可欠だが、案外メディにとってはそうではないのかもしれないと。

 

 今度何かで機嫌を取ろうと、琢磨は思うのだった。

 

 

「じゃあ、今から帝大病院行くけど、封鎖とかされてないよな?」

『顔パスで通れるそうです。ボランティアなので』

「便利だな、ボランティア」

 

 そうして琢磨はライダースーツを纏いプロテクターを付けて、バイクに乗って帝大病院へと向かう。バイクにはいつもの鉄パイプを収納しながら。

 

 ■□■

 

 前回の襲撃があってから、帝大附属病院は警察の手によって封鎖されている。が、流石に最後まで生き残った氷華をすぐに転院させる事は出来ずにいた為に、氷華はVIPルームにまだ居座っていた。

 

 清々しいまでのふてぶてしさ、というだけではない。氷華は元から今回のMVPを自分で取るつもりだったようだ。だからこそボランティアの話を病状の最中にあるのに受け入れたのだろう。

 

 確実に敵を潰す為に。

 

 今回の作戦は単純。要塞化した帝大病院にて敵を待ち構えて殲滅するそのために氷華は餌としてこの病院に残っているのだ。

 

 そんな末恐ろしい婚約者(仮)の病室に向けて琢磨は歩き出した。

 

 すると、琢磨の目には同じボランティアスタッフと思わしき人物が見えた。缶コーヒーを握りしめているその人物の顔は、ほぼあの真面目リーダー”アサカ”のものだった。

 どうにも病院の警備の手伝いをしているようだったので、琢磨は先に話をしてみることに決めた。

 

「ボランティアの風見琢磨です。話通ってますか?」

「ああ、通っている……しかし本当に中学生なのだな」

「すいませんね、こんなんで」

「いや、敵ならともかく味方なら頼りになる。俺もボランティアの一員として君と共に戦うつもりだ」

「よろしくお願いしますね、アサカさん」

「ああ。よろしくタクマくん」

 

 そうして、ボランティアスタッフの皆が各々にそろっているロビーを抜けて、琢磨はいつものようにVIPルームへと向かうのだった。

 

 ■□■

 

 VIPルームにて、氷華は様々な医療器具に繋がった状態にて横になっていた。

 それは、痛ましいと感じるのが普通であっただろうが、琢磨と氷華にとってはいつもの光景だった。

 

「あら琢磨くん。お帰りなさい」

「……悪い、今日は土産は持ってきてない」

「構わないわ。その鉄パイプが重かったんでしょう?」

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

 そうして、いつも以上にいつも道理に二人は会話を続ける。

 カウントダウンは残り20時間ほど。作戦決行までだとあと6時間ほど。もっとも、この不安定なカウントダウンではどちらが先になるのかわからない。だからこそ、ボランティアスタッフたちは可能な限りこの病院の近辺にいるのだが。

 

「それで琢磨くん。死亡フラグを立てたままにしておくつもり?」

「……立てた覚えはないんだが」

「私の恥ずかしい告白、聞いていたでしょう? そんなのを聞いたことが心残りになって走馬灯が走る……なんてよくあるシチュエーションじゃない」

「そう言われても、そういうものかと納得したくらいだよ」

「つれないのね」

「……悪い、俺はまだお前に対して責任を果たしてない。そんな奴が告白に変事をするってのは、不義理だろ」

「誰に対してよ」

「俺の馬鹿と、お前の命に全部賭けてくれた人たちにだよ。……結構、死んじまったけどさ」

「そうでもないと思うわよ?」

「そりゃまたどうして」

 

「だって私が琢磨くんのこと好きになったのって、婚約したその時からだから」

 

 その言葉に、”ああ、だから態度の変化とかそういうのは特に感じられなかったのか”と琢磨は納得し、そしてそんなにも長い間好意に気づかないでいた自分に対して嫌悪感を抱いた。

 

「私の病気との戦いの先には、琢磨くんとの婚約破棄がある。それは約束だから守るわ。けれど、私はその次の瞬間に新しい婚約届を叩きつけるつもりでいたの。私の、全部を叩きつけるつもりで」

 

 そしてそれに対して恋を語る氷華の姿は病床の上にあるのに華やいで見えた。これが恋というものなのだろう。

 

「羨ましいな、少し」

「……けど、琢磨くんだって私のこと好きじゃない」

「……否定はしないけどさ、自分で言うか?」

「だってそうなるように琢磨君のことをずっと調教したのは私だし」

「さらっとエグいこと言うなよお前!? 調教って!?」

『マスター、自覚はなかったのですか?』

「……なかった」

 

 そうして琢磨は思い返す。琢磨は氷華からヒトの生き方を学んだわけだが、もしそこに知識の意図的な偏りがあったならどうだろうか? 

 それを計算してやってくる女であると琢磨は氷華を理解している。

 

 そして、フラットに自分の”好きな女の子のタイプ”を考えた時に、9割以上の性質が氷華に当てはまることに今気が付いた。

 

 

 

 その時点で、琢磨は脳内で白旗を上げた。どうやら自身は10年以上の計略により追い詰められていたのだと分かってしまったからだ。

 

「氷華、俺人間不信になりそうなんだけど」

「良いじゃない。私だけはあなたの味方よ? 琢磨くん」

『……確かに絶対にマスターの陣営にいるでしょうね、氷華様は』

「ありがとう、メディ」

 

 メディは極めて冷静に、この小さな女傑は琢磨のためならどんなことでもしてのけるだろうと認識を改めた。琢磨の本質から他者を守ったのは氷華の教えた生き方だが、他者から琢磨の本質を守ったのもまた氷華の教えた生き方なのだ。

 

 琢磨の本質を、”殺す”ことも含めて氷華は愛している。そういう事なのだろう。

 

『氷華様、どうしてそんなことを今言ったのですか?』

「……確かに、言われなきゃメディはともかく俺は気付かなかったぞ」

「なんてことはないわ」

 

「ちょっと私も死亡フラグを折ってみたくなっただけよ」

 

 そんな言葉を最後に妙な空気は消し飛び、いつもの琢磨と氷華の駄弁りが始まった。

 

 ■□■

 

 そして現在時刻22時、カウントダウンは途中で妙な速度で進んだが、現在は0135を示している。

 

 現在集まったボランティアは50人全員。この時間を逃すと次にこの数が動員できるのは正式に対異界部隊が結成された後だ。その確信がアサカにはあった。

 

「では、御影くん。良いんだね?」

「はい。私の体内の抗癌ナノマシンを停止させます。それで、カウントはゼロになるはずです」

「……そういうわけだ! 我々のコンディション! 周辺区域の封鎖! そして戦うための武器! それらがそろっているのは今しかない! ……我々で、守るぞ!」

 

「「「おう!」」」と叫ぶボランティアスタッフたち。

 

 その中で琢磨だけが支給された特殊警棒だけを見ていた。

 

 そして、警棒を配布していたスタッフに返し、鉄パイプで武装しなおした。

 

 不思議と、こっちの方がしっくり来たのだ。

 

 そうして、氷華の健康管理AIがナノマシンの操作をした結果、氷華はベッドの上に倒れこんだ。

 

 それと同時に発生する異界。中心点は氷華本人の胸。しかしそれは氷華の生命転換(ライフフォース)に弾かれて、黒い何かは空へと吹き飛ばされていった。

 

 そして、異界が急激に広がっていき、計算通り病院の敷地内全てを覆う程度で収まった。

 

 異界の展開が終わるころ、誰のものかわからない生命転換(ライフフォース)が抜き打ちで放たれる。

 

《Echo World》第二戦、最後の戦いの始まりだった。

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