残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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捨ててきたモノ

 琢磨は、篠崎からの情報で氷華の体に変わりはないことは聞いている。

 

 だが、今の氷華の様子はかつて病院で初めて会った時を思わせるほどの弱弱しさがあった。

 

 普段なら、拒めない状況で放ってくる”愛している”という言葉を投げかけてきたのはそのためだだろう。そのことにタクマは困惑を覚えた。

 

 ”自分など放っておけばいいのに”と。

 

『それができないからこその愛なのでしょう。AIの私にわかることをどうしてマスターはわからないんでしょうかね?』

 

 そんなメディの言葉を受け止めながら、タクマは改めて周囲を確認する。

 先ほどの愛しているという言葉を聞いた多くのプレイヤーたちが、ヒョウカのことを敵視し始めているように見えた。

 

 これ以上は、ヒョウカの首を絞めるだけだろう。そうタクマは思い、立ち上がって無言でログアウトをした。

 

 背中からの「待って!」という言葉を聞こえないふりをして。

 

 ■□■

 

 そうして琢磨がゲームから戻ってくると、そこは地方の小さなカプセルホテルの中だった。金庫の中のモノを確認するも荷物で盗まれたものは何もない。そのことに少し安堵してから、琢磨は端末を取り出す。

 

 位置情報の追跡を切るために電源を落としていた端末を起動させると、そこには氷華からの5000件を超える不在着信の履歴があった。

 

 そうして、今またもう一件増えそうになったが、あの弱弱しい氷華の様子を見た琢磨は、気まぐれに電話に出ることにした。

 

「もしもし?」

「……たくま、くん」

 

 そんな声が聞こえる。その声は、涙声で、迷子の女の子の声でしかなかった。

 

 そのことが、ひどく痛い。琢磨の行動の結果を、俺は受け止めなくてはならない。殺したものなのだから。

 だが、氷華がこうまで弱る理由が琢磨にはわからない。彼は命を奪う才能を持っているが、他人の心を殺す才能も邪悪さも持っていないのだから。

 

「……どうしたんだ?」

「私、ダメみたい。琢磨くんが側にいないだけでこんなにも弱さが表に出てきちゃってる。やっぱり、琢磨くんみたくはじめから強い人とは私は違うのかな?」

「俺みたいないかれと氷華は違う。そんなことは前からわかってたろ」

「私は! ……それでもちょっとはわかりたかったの、大好きな人のことを」

 

 そんな言葉で会話が途切れる。氷華は、今ままで無理して琢磨(異常者)の歩調に合わせていた。だが、それができていたのは目の前に見本になる人物がいたからこそだったのだ。

 

 しかし今、氷華の側に琢磨はいない。それが今の氷華の不調の全てだった。

 そんなことを、琢磨は感じていた。

 

「……ちょっとだけ、アテはできた。それをもとにあの世界の謎を解き明かして、殺した人の安否がわかったなら、逮捕される前にちょっとだけお前の元に帰る。それで、頑張れるか?」

「信じられると思うの? 今のタクマ君の慰めの言葉なんて」

『ならば、私が保証します。健康管理AIの誇りに賭けて、マスターを必ず氷華様のところへお返しいたします』

「……メディ」

 

 その言葉が、氷華の心を少しだけ立ち直らせたのか、氷華は涙をぬぐった。

 

「ありがとうメディ。琢磨くんのことをお願い」

『はい』

 

 そうして、氷華はいつもよりは弱いが、それでも慇懃無礼で傍若無人なMrs.ダイハードへと戻っていった。

 

「それで、琢磨くんのアテって何?」

「……言わない方が良いって話だったよな?」

『はい、送られたデータによると、聖剣(アレ)は自身がそうであると自覚すると成長が止まってしまうようです。厄介な話ですね』

「蚊帳の外の気分は、あまり良くないわよ?」

「すまん、だけどこっちもいろいろ面倒みたいなんだ。だから、これだけは聞く。前の周で、誰か生命転換(ライフフォース)で説明できない力を示した奴はいなかったか? それが手掛かりらしいんだ」

「ゲートでも、ないのよね?」

「ああ」

「わかった、探してみる。けどその前にいいかしら?」

「……なんだ?」

「お義父さまと、ちゃんと話をしてあげて。私と同じくらい辛そうだったから」

「……ああ」

 

 そうして、琢磨は凪人へと通話をする。

 

 休憩時間だったのか、あるいはもう家に帰っていたのかわからないが、珍しいことに2コール程度で凪人は通話に出た。

 

 そうして、かけられた第一声は「大丈夫か!」だった。

 

 その、当たり前に心配されていることに温かさを感じてしまいながらも、この暖かさを曇らせたのは誰かと自嘲する。そうして、表面上は普段通りに、「大丈夫だよと答えた」

 

「……飯は、食っているか?」

「ちゃんと食べてるよ、親父」

『今の言葉に嘘はありません。取っておいた食事ログを提出しましょうか?』

「いや、構わない。大丈夫だ」

「それで、親父の方は大丈夫?」

「……ああ、お前の方が気落ちしているとは思っていたが、杞憂だったか?」

「なんとか……は、多分なってない」

「琢磨?」

 

 だが、親の温かさに触れることは必ずしもいいことばかりではない。

 無意識に張りつめていた緊張の糸が、音を立てて切れてしまう事もあるのだから。

 

「なぁ親父、どうして殺した俺だけに悪意は向いてこないのかな?」

「……それが、人間だからな」

「そっか、そうだよな」

「ああ」

 

 その言葉に、納得して琢磨は通話を切る。

 

 人間だから。その感性は琢磨にはわからない。なにせ、琢磨は根本的な精神性が人間のモノとはかけ離れているのだから。

 

 異界殺人鬼には、人の心はわからない。それでも、その根底にある者は良いものだと信じて憧れてきた。

 

 そこが、揺らいでしまった。そんな何気ない”人間だから”という言葉で。

 

 不思議と、魂で理解できてしまった。今のタクマはもうゲートを開けないのだと。

 

 人間の日常に対する憧れに一歩踏み出す勇気、それが鍵だった。だが、日常へのあこがれが揺らいだ今、そこに踏み込むのに勇気が必要ではなくなってしまったからだ。

 

 それを受け入れるには、今のタクマには余裕がなさ過ぎた。

 

「……行かなきゃ」

『マスター?』

「探そう、聖剣を。まずはやらなきゃならないことを終わらせないと」

 

 

 そうして琢磨はか細い情報網をたどり、プリンセス・ドリルへとたどり着くのだった。

 

 

 ■□■

 

 

 

「安心しましたわタクマくん。あなたは、理由なく人を殺して喜ぶ人ではない、そう確信できましたから!」

「……そんな上等なもんじゃ、ないですよ」

 

 不思議と友好的だったドリルに対して戸惑いを覚えながらも、どうにか情報を得ることに成功した琢磨。

 

 現状手に入れた情報では、プリンセス・ドリルの槍が生命の属性の閃光剣(レイブレード)を浄化したということ。

 

 その理屈がが、生命(いのち)の聖剣の他の生命を支配する力であるのなら、いきなり当たりであるという事だ。

 

 その場合の対処法は、指示されている。

 

 聖剣は、その持ち主と運命で引かれ合い続ける。破壊しても形を変えて必ず戻ってくるのだそうだ。

 

 だから、聖剣を消すためには聖剣と共に持ち主も殺さなくてはならない。

 

 そこまでやれとダイナは言っていないが、この資料を作った者はそこまでやらなくてはならないと知っているのだろう。

 

 そして、今それができるのは琢磨しかいない。それが、変わらず迷い道の中にいる琢磨の現実だった。

 

 

 そして、琢磨は管理AIマテリアからの情報をもとに、プリンセス・ドリルのいる京都へと流れついたのだった。

 

 ■□■

 

 その翌日、再びワールドが開く。

 

 その向こうは変わったソルディアル王国だ。

 

 多くの殺された人たちが流れ着き、移住したその国では

 

 ”民主主義”という毒が国を蝕み始めているのだった。

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