残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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入植者たちの牙

 朝食を食べ終えて、琢磨がどこかに行こうとするところで待ったをかけるのは高砂姉妹。

 

「一宿一飯の恩を返さずにどっか行ってまうん?」

「そうですわ! この際ですからあれこれこき使って差し上げます! お覚悟はよろしくて?」

「……あれこれとは?」

「……あれこれですわ!」

 

 考えてなかったのだなと思うこの場の全員。

 

 だが、その優しさに触れて琢磨は逃げられなくなった。

 恩義は返す、そうしたい。

 一晩寝て、朝食を食べた。それだけの日常の一幕は、迷い傷ついていたタクマの心にしみたのだ。

 

 そして、それは”もしも”の時にプリンセス・ドリルこと高砂瀬奈を殺すのに有利であるという合理的考えも浮かんでいる。

 

 故に、琢磨はこの二人の優しさに甘えるのだった。

 

「じゃあ、少しの間よろしくお願いします」

「言質は取りましたわ! さぁ、まずは部屋の掃除からです!」

「……ええの?」

「はい」

 

 そうして、わーわーと騒ぐ瀬奈に引きずられ家のことをパパっと済ませる琢磨。

 その手際の良さは、家事能力ゼロであった義父凪人との暮らしの結果である。

 

 そしてあらかたの家事が終わったので、昼食をとることにする3人。その空気は、和やかであった。

 

「女子力ウチより高いんとちゃう?」

「いや、長いことやってりゃこれくらいは普通ですよ」

「……それは、暗に私のことを罵ってはいませんか?」

「まぁ、少し」

「お姉未だにロボット掃除機に曲芸させるやん」

『基本モードで起動させるだけできちんと掃除をしてくれる機種だったのですが……』

「私は、ちゃんと私の指示で動かしたいのですわ! それが掃除機であったとしても!」

「何言ってるのかわからんわぁ」

 

 そんな会話の中で、ふと気になったことがあった。

 

 高砂姉妹の両親の話だ。

 

 掃除をした限りでは仏壇の類は存在しなかった。という事は両親ともに健在背あるはずなのだが……

 そう琢磨が思った所で玄関の鍵が開く音がする。

 

「「あ」」

 

 そんな言葉を姉妹で発したので、これは忘れていただけだなと琢磨は思い、さして散らかしていない荷物をまとめて帰り支度を済ませるのであった。

 

「帰ったぞー娘たち!」

「お、お帰りなさいお父様。早かったのですわね」

「ああ、向こうでの用事が早く終わってな、サプライズってやつだ。母さんは少し買い出しをしてから帰ってくるからもう少し待っててくれな」

「……そうやったんやー」

 

 そして、琢磨は昼食を終え、流しにそれを片付けた後に、トイレに隠れる。

 

 そして高砂一家がリビングに入ったのを音で確認してから、この家を離れるのであった。

 

『急用ができたので失礼します。昼食ごちそうさまでした』そうメディの声でメッセージを残して。

 

 ■□■

 

 近所にあったネットカフェにて再び《Echo World》にログインする琢磨。

 

 そして、自身のログインと共に開かれたゲートの中へと歩いていく。

 そこには、ダイナと管理AIのマテリアが待っていた。

 

「首尾はどうだった?」

「……しっかり肉眼で捉えました、高砂瀬奈の姿を」

『こちらが、そのデータになります』

「……マテリア、これでいいのか?」

「はい、十分にデータは取れています。……やはり、彼女には聖剣の使い手としての祝福がありますね。しかし、今まで見たどのパターンの祝福とも違います。……これが、生命(いのち)の聖剣?」

「なら、盗むか?」

「……それが手っ取り早いでしょうね。とはいえこの武器はもう魂に紐づいてしまっているので、私の権限で盗むことは不可能です」

「そこは、タクマがうまくやるさ」

「他力本願やめてくださいよダイナ師匠。師匠が行けばいいじゃないですか」

「だから動けねぇって言ってんだろ。行けるなら俺が一人で行くっての」

「……わかりましたよ、やりますよ師匠」

「それではタクマ、これを」

 

 そうして渡されたのは水晶のようなもの。透き通った中身に魂が込められているのがわかる。

 

「これは、私のゲートの力を結晶化したものです。ここに魂を込めればこの空間への扉が開くでしょう」

 

「なら、ドリルさんをここに連れてくればいいんじゃないですか?」

「あなたがそれでいいのなら構いません。ですが……もしも彼女が生命の聖剣の持ち主だったなら、あなたが殺すしかありません。手口はあまり見せないほうがいいかと」

 

 その言葉に、本能が「当たり前だよなぁ」と告げているのを感じる。

 

 そうしてその作戦を受領したタクマは、ワールドへと転移するのだった。

 

 ■□■

 

 そうしてタクマが向かったのは、プリンセス・ドリルの良く行く孤児院だ。この辺りにいれば見つかるだろうという安直な考えだったが、その考えは的を射ていた。

 

 確かにドリルはいた。彼女に率いられた子供たちもいる。

 

 しかし、それを囲むように大勢のプレイヤーと入植者が居るのは、想定外だった。

 

「良いから言えよ! あの殺人鬼はどこにいる!」

「俺はわかってるんだ! 俺はあいつに殺された! けど、あいつを殺せば帰れるんだ! 俺の、家に!」

「何を言ってるのかちゃんちゃらわかりませんわ! ゲームの中でどうこうしようとしても現実に影響はありませんわよ!」

「何言ってやがる!」

 

「現実であいつを殺すに決まってるだろ!」

 

 その言葉に、言葉を発した彼の目に、確かな狂気を感じた。

 

 あれはもう敵だろう。そう断言していいのだと、琢磨は思った。

 

「すいません、話題に上がった殺人鬼ですけど、何か御用ですか?」

「ッ!? テメェ!」

 

 その言葉と共に切りかかってくるプレイヤーの男、その拙い剣を受け流し、腕を切り飛ばす。

 

 この程度は、タクマにとって児戯だった。

 

「いろいろ面倒なので、ここで殺しましょうか?」

「……上等だ、異界殺人鬼!」

「俺たちが、お前を殺してやる!」

「お前が、すべての元凶だ!」

「お前の、命は許されていない!」

 

「うっせぇ死ね」

 

 そうして、タクマに襲い掛かってくる多くのプレイヤーと入植者たち、いずれも生命転換(ライフフォース)の力で琢磨を攻撃しようとしてくる。

 

 しかし、タクマにとってそれは遅すぎた。動きではなく、殺す、攻撃すると決めてから行動に起こすまでの速度が遅かったのだ。故に攻撃全て見切られた。

 

 それからは、作業のような戦いだ。プレイヤーの首はことごとく叩き切り、入植者は腹打ちにて気絶させていく。

 

 そして、きっかり10分で片付いた男たちを放置して、大丈夫かとドリルと少年少女たちに声をかけようとした時に、背後から異音が聞こえる。

 

 気絶していた入植者たちがその体を奇怪に動かしながらこう言った。

 

「「「死ね、風見琢磨」」」

 

 そうして動き出すのは15の狂人たち。ほとんどは白目を剥いているのにしっかり琢磨を捉えている。

 

 またしてもマリオネティカのような洗脳系かとタクマは思ったが、その割には本人の意識がしっかりしていた。

 そして、その剣はみな鍛えた武芸の証であると琢磨は見切っていた。

 

 そうして、襲い来る15の剣士たち、コンビネーションはさして恐ろしくはないが、数が多い。

 これは、入植者の腕くらいは奪うべきかとスイッチを切り替えようとしたところで

 

 入植者の一人が、あの日病院で殺した一人であることに気が付いてしまった。

 

 その意識の隙は、タクマにとって致命的だった。

 

 襲い掛かってくる入植者、その剣は力強いが単調で、あっさりと回避することができてしまい。

 

 ()()、タクマは入植者の一人を殺してしまった。首を撫でるように頸動脈を切り裂いて。

 

「この、殺人鬼め」

 

 そんな捨て台詞を残して、一人目の死人が出た。

 

 そこからは狂乱だ。恐怖に狂って技もない剣は味方に当たり死人を作り、生命転換(ライフフォース)の暴走でまた死人ができ、最終的にその場に立っていたのはすべての攻撃を回避したタクマ一人だけだった。

 

「……タクマくん」

「すいません、騎士団を呼んできます」

 

 その気遣うような、咎めるような視線に耐え兼ねられずにタクマはこの場を去っていく。

 

 殺したことには何も感じない。だがその目は、かつて琢磨を、琢磨の日常のすべてをひっくり返したあの異物を見る目に思えて、心が痛かった。

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