残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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高砂瀬奈の聖剣

 篠崎に情報を伝え、バイクに乗って高砂姉妹の自宅へと向かう琢磨。

 周囲には避難警報が出ている。その中から地元の警察が高砂瀬奈を護送車に移動させて異界の起点を変えるというのが基本的作戦だ。

 

 琢磨の役割は遊撃。護送車に追走して敵を迎え撃つのが琢磨の役目である。

 

「風見琢磨、お前の行動は私のの指示だ。無様は晒すなよ?」

「……了解です」

 

 そう通話を終えて、拡張機能のタイマーを見る。カウントゼロまでの時間はまだ有りそうだった。

 

 

 周囲の避難は十分、戦意は上々。

 護送車により瀬奈は移送され、確保できている。

 

 

『マスター、残りカウントは約10分です』

「ああ、今回は待ち構えられた。さっさと殺そう」

 

 そうして、護送車が作戦エリアの採石場にたどり着いたところで自衛隊のヘリなどが続々と採石場へと到着していく。

 

「物々しいが、頼もしいのな」

『この視線に晒されてもそう思えるマスターは本当にどうかしていると思います』

「自業自得だし」

『さすがに過剰だと私は思いますがね』

 

 周囲から琢磨への目線は、殺人者を見るものと気遣わしげに見るものが8:2ほど。

 2割は、実働部隊の者たちだ。共に戦った者たちであり、琢磨の戦いを見ていた者たちだ

 琢磨が、無駄な殺人を()()()()()()()ということを理解している者たちだった。

 

 そんな彼らに会釈をしつつ護送車の側にバイクを付ける。

 

 すると護送車でなにやら揉め事が起こっているのが見えた。

 

 そして、気づいた。どういうわけかそこには高砂()()がいるという事を。

 

「何やってんだ美緒さん?」

『マスター、残り時間のカウントダウンが加速しています。この加速度のままだと残りは2分ほどです』

 

「やから! ちゃんと説明してくれんとお姉を預けられないんやて!」

「そう言われましても……」

「すいません、そろそろ時間です。死にたくないなら適当に逃げてください」

「……琢磨くんも、ちゃんと説明してほしいわぁ」

「……待ってください美緒、琢磨くんがいるという事は、まさか! 異界ですの!?」

 

 そうして驚く瀬奈たちを置いたままで突然に世界が変わる。

 

 それは採石場を覆い、街を覆い、果てがどこにあるのかすら見えない異界だった。

 

 そして、瀬奈から飛び出した黒いモノが空に飛び、鮮やかな魚が空を泳ぐ。

 

 その額に黒い結晶はあるが、ゲームで見た時よりもその色はどこか薄いよう思えた。

 

 そうしてアルフレシャの”名乗り”と共に、統率された自衛隊や対策部隊の号令がかかる。

 

 そして数多の弾丸がアルフレシャへと放たれる。

 その弾丸にはそれぞれの機体に搭乗している生命転換(ライフフォース)を使える対策部隊の者の命が込められているのがわかる。

 

 だが、アルフレシャはその弾丸を躱すことすらしない。すべてを鱗で弾いている。

 

 現在敵の高度はビルの3階程度、上昇のそぶりは見せずにどこを見ているのかもわからない状態で、歌を歌った。

 

 とても綺麗な、天女の声と間違えてしまうだろうその歌声は聞く人の魂を揺さぶってならない。

 

 ずっと聞いていたいと思う気持ちと、殺したいという気持ちが琢磨の中で混ざっていく。

 

 そして今回は、目の前の魚を切り殺したいという琢磨の衝動が上回った。

 

「……行くぞ」

『マスター、精神が興奮状態にあることを忘れないでください。クールに行きましょう』

 

 そうして琢磨は鉄パイプを上質な鋼の剣に変換して行動を起こす。風を踏んで高度を稼ぎ、コアを砕くために一撃を入れようとする。

 

 しかし、それは通らなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ある者は、跳びついて足を引っ張ろうとし、あるものは銃口の先を琢磨へと向けたのだ。

 

『ッ!? マスター!』

「わかってる! 殺しはしない!」

 

 琢磨は、湧き上がる”殺したい”という感情を意識して抑え、風を踏みその妨害のすべてを回避していく。

 

 だが、その攻撃に込められた心を琢磨は感じとってしまう。

 

 この攻撃の中には、極わずかだが”琢磨を殺したい”という思いが存在していた。

 

「直接こうしてくれる分には、結構好きなんだけどな!」

 

 そして、琢磨の中に殺し合いの喜びが生まれる。誰とでもいいから殺し合いたいそんな思いが琢磨の中に生まれる。

 だがしかし、琢磨のソレが表に出る前に現れた者がいた。

 

「殺人鬼も化け物もみんな俺が殺してやる!」

 

 そんな声と共にヘリから降りてライフルを琢磨に向ける自衛隊員。

 それを止めようと拳を振るう特殊部隊の一人。

 

 

 

 

 それが、その自衛隊員の命を奪った。

 

 

「仲間を殺してどうする! 貴様!」

「そんな、自分ははただ殴っただけで……」

 

 それから下は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

 琢磨には、自身の魂を客観視してくれる相棒(メディ)が居た。しかし、彼らにはそれが居ない。自身の様々な感情のタガが外れ、増幅させられていることを頭で理解はしていても心が納得していないのだ。

 

 そうして、その地獄が生まれ、何人もの命が散っていこうとしたその時に、彼女の声は轟いた。

 

 金色の髪にバトルドレス、そしてドリルのペイントのされたランスを持った彼女の声だ。

 

「皆さま! いい加減にしてくださいまし! 敵は上で雑音を響かせているあの魚であり、隣にいる方々ではありません!」

 

 その声と、その掲げた槍から放たれた命の波動により、この空間のナニカが変わった。

 

 それが、反撃の狼煙だった。

 ────────────

 

 高砂美緒がその護送車に乗りこんだのは、ほとんど我が儘に近いものだった。

 瀬奈が「美緒が乗らなければ私も行きません!」と言い張らなくては乗ることはできなかっただろう。けれど、乗れてしまった。

 

 それが、高砂姉妹の不運であった。

 

「なんなん!? ねぇなんなん!?」

「落ち着いてください美緒! ここが異界なら、死の危険があるという事です!」

「わからんのお姉! お姉こんな状況で落ち着けるわけないやん!」

 

 美緒はこの天の歌により”不安”の感情が増幅されている。

 

 今、それをただの雑音として聞き取ることができるのは、瀬奈だけだ。

 そして、ゲームで歌に聞き惚れた民衆に自身の妨害をされたことがある瀬奈は気付いた。今の美緒も同じような状態になっているのだと。

 

 だからこそ、瀬奈は妹を抱きしめた。大丈夫だと心で伝えるために。

 

 その、家族を想う気持ちが彼女の心のゲートの鍵を開けた。

 そして歌うように彼女はその真言を言の葉にした。

 

聖剣抜刀(ゲート・オープン)

 

 その言葉は、彼女の手にゲームで使っていたランスを無意識に物質化させる。

 

「……これは?」

「……お姉、なんかさっきまで聞こえてた歌が変な音に変わったんやけど」

「そもそも歌とはなんですの? 私には変化など感じられないですが」

「もしかして、最初からお姉にはこれがこう聞こえてたん? 配信でもきれいな声やったけど」

「……つまり、私のゲートならばどうにかできるのですね! この雑音を!」

「まぁ、考えるのは後で一緒にやろなお姉」

「ところで、不安だったのは大丈夫ですの?」

「お姉がそうなったなら、不安はないかなー」

 

 美緒の心は増幅させられていた恐怖よりも、姉への信頼が勝っているいつもの状態に戻っていた。

 そのことが瀬奈の心に勇気を与える。自分のゲートならば、可能なのだと。

 

「行きますわよ相棒! 私の螺旋で、皆に思いを伝えましょう!」

 

 その言葉に、ドリルの絵が描いてあるだけのランスは一瞬だけ()()()()応えた。

 

 それが、彼女の聖剣が導いた、プリンセス・ドリルのゲートだった。

 

 ────────────

 

 突如として放たれた命の波動、それが自分たちの魂に作用したのがわかる。

 

 天の歌が、醜悪な雑音にしか聞こえなくなったのだ。

 

「……なんだこれ?」

『私にもわかりません。けれど、これも聖剣の力なのかもしれませんね』

「歌が雑音になったくらいじゃないか? 変化って」

『下の方々の統率が戻っています。おそらくそういった効果なのかと』

 

 そんな雑談をしながら、琢磨は風を踏み、空を駆け、アルフレシャの上を取る。

 それと同時に、下からの一斉射撃と、ドリルの閃光剣(レイブレード)の構えが取られる。

 

 そして、今のドリルの槍はなぜか回転していた。そんな機能があったのかとも琢磨は思うが、それは後で良いと上空からアルフレシャを叩き落すべく剣を振る。

 

 風を纏った鋼の剣はアルフレシャの体に傷をつけるが、その肉の硬さによって鋼の剣は押しとどめられる。

 

「けど、これでお前は動けない。ありったけだ」

 

 そして琢磨の現在の生命転換(ライフフォース)のほぼすべてを使った加速によりアルフレシャは地面に向かって押され、そこにドリルが突き立てられる。

 

 プリンセス・ドリルの魂が作り出した、暴風を作る螺旋と、ドリルの駆動音を鳴り響かせる彼女の槍だ。

 

「スパイラル・レイ・ドリル!」

 

 その高らかに叫ぶ技の名と共に、アルフレシャは鱗と肉のほぼすべてをドリルに巻き取られ、露になった急所に魂の籠った弾丸たちが命中してアルフレシャは息絶えた。

 

 そして、その体の中から人魚が現れるようなことはなく、空は割れ、異界は消滅した。

 

「何が何だかわかりませんが、私たちの勝利ですわ!」

 

 そう言った彼女の手には、()()()()()()()()()()()()()()()()()が存在した。

 

 異界のなくなった、現実世界において。その聖剣は物質化したままだった。

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