残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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人魚アルフレシャ

 荒野の西風亭、そこに突然現れたヒトガタ。

 

 その顔は、間違いなく”天仙女アルフレシャ”のものだった。

 

 そんな彼女は、ものすごくどうでもいいこだわりから危機に陥っていた。

 

 

 財布を、忘れたのである。

 

「いやちょっと待てや」

「何?」

「律儀に金払って飯食いに来たのかよお前は」

「当然。対価を払わない食事は大罪だから」

『この世界の敵対者とは思えない様子ですね』

「それはただの命令。私はやる気ない」

「『やる気の問題!?』」

「当然」

 

 などと言いつつも、彼女はおもむろにポケットに手を入れると、メキメキっといった音と共に鮮やかな鱗を取り出した。

 

「そこの人」

「……タクマだ。一体なんだ?」

「私はアルフレシャ。ちょっと売りたいものがある」

 

 そうして、アルフレシャはタクマの手に鱗を握らせる。

 その鱗の裏側には、血がついているままだった。

 

「この鱗あげるから、食事を奢ってほしい」

「せめて血は拭けや」

「人魚の血って、栄養にいいんだよ?」

「……え、そうなの?」

『一応、人魚を食べることで不老不死になれるという言い伝えは現実にも伝わっていますが……』

「さすがにそこまで期待されると困る。けれど元気になるのは確か」

 

 そんな様子に戸惑いを覚えるタクマであったが、その後も力尽くで鱗を押し付けられしぶしぶとその提案を受け入れた。

 

 それは、現在自分が抜剣していないことと、アルフレシャの超パワーの射程に自分たちがいることを考え、ここでの戦闘は避けるべきだという判断からのモノである。

 

「というわけで女将さん、さっきからいい匂いをさせているそのスープとパンをお願い」

「飲み物はどうすんだい?」

「んー……ビールで」

「昼間かっから他人の金で酒飲むのか……」

「だっておいしいし」

『他人の金で飲む酒は美味しいという奴ですね。私たちに経験はまだありませんが』

 

 などと会話を行うタクマ達。

 

 そこには、敵意も殺意も存在しなかった。

 

 それはアルフレシャの感性と、タクマの戦闘論理と、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『それでは、アルフレシャ。聞きたいことがあります』

「なに? メディ……だっけ?」

『……あなたはどうしてそんなにも怠惰でいられるのですか? 私と同じ命令で縛られている存在だというのに』

 

 その言葉にアルフレシャは少しだけ考えこんだ後、こう言った。

 

「だって、今のマスターの事そんなに好きじゃないし」

『好き嫌いの問題で、そう在れるのですか? しっかりと自我を持ち、自身の存在理由を否定しながらも拒絶していないなどという人間のような存在に?』

「うん。私はあいつの”残響”で生み出された存在だけど、それに縛られるだけじゃあ一日に彩りがないじゃん。せっかく生きてるんだから、楽しんで死にたくない?」

『……それは』

「メディ。たぶん考えすぎだ」

「そだね。メディは多分今が噛み合いすぎてるからそんな外れたことを考えるんだと思う。メディは自分を縛っている命令が自分の”やりたいこと”と一致しているから考えたことがなかっただけだと思うよ。──昔は私もそうだったし」

 

 その言葉にメディは押し黙る。メディ自身もそこまで深く悩んでいるわけではないのだ。ただ、メディはこの自由な敵を見て、タクマの心を無視してもタクマの命を守ろうとすること正しいのだろうかと考えてしまっただけなのだから。

 

「ところで、タクマとメディはなにか食べないの?」

「あいにく、もう食った後だ」

「残念」

 

 それから、タクマたちは他愛のない話をしながら食事をして、店を出た。

 

 メディに浮かんだ悩みは解消したわけではないが、それでこのコンビが戦いに支障をきたすようなことはない。だからこそ、戦いのために抜剣しようとしたその時。

 

「いたぞ、人魚だ!」

 

 そんな声が突然に響いてくる。そこには、民兵と思わしき装備の整いきっていない集団が、血走った目でアルフレシャを見ていた。

 

「……今回の周はここまでかな?」

『ここまで、とは?』

「戦いになると私は止まらないタイプだから、皆殺しにするか殺されるかになるんだよ」

 

 そんなことを寂しげに言ったアルフレシャは、息を吸い込み戦闘態勢を整え始めていた。だが、その顔に歓喜の表情はない。どうしようもないことに対しての諦めだけがそこにあった。

 

『なるほど、つまり』

「お前を戦わせなければいいんだな」

 

 その行動に至った理由は、単純だった。

 

 その諦めが、”殺したいほど気にくわない”だけだった。

 

 アルフレシャを下げて、民兵たちに鋼の剣を向けるタクマ。

 

「ここから先は通さない。アイツはそのうち殺すけど、アイツが(日常)を過ごしている間だけは俺たちはアルフレシャの側に着く」

『一度止まり、その欲望で血走った頭を冷やしてからお帰りください』

 

「うるせぇ! そいつの肉を食えば、俺たちは”生き返れる”かもしれないんだよ!」

「大切な誰かが、待ってるんだ!」

「約束があるの! 絶対の絶対に破っちゃいけない大切な約束が!」

 

「「「だから、そいつを殺させろ!」」」

 

「交渉決裂だな」

『私たちの話術では、致し方ないことかと』

 

 そうして、民兵である3人を観察する。

 

 武器の質は良質だが、異様な力は感じない。

 武器は、ショートソード2人に槍が1人。立ち振る舞いから言って達人というわけではない。

 

 だが、気迫は本物以上だ。意志の力、魂の力が戦いに影響を及ぼすこの世界ではそれは強い武器になる。

 

 だから、生命転換(ライフフォース)を抜かせないためにタクマは神速で踏み込み、先頭にいたショートソードの男の顎を揺らした。

 

 それに反応したショートソードの女性は、タクマに向けて炎の刃を放ってくる。大振りの大上段だ。

 

 それをダメージ覚悟で剣で受け流し、肘を入れてから柄で頭を殴り飛ばした。

 

「貰った!」

 

 しかし、その勢いのままでは最後の一人の槍が躱せない。数の暴力とはそういう事だ。一人の処理限界を優に超えてくる。人間相手ならこれほどに有利に働くものはない。

 

 だが、それはその突きが予想されていなければの話である。

 

 タクマは女性の体を足場にして一歩上り、風を踏んでもう一歩高く飛び上がる。そうして突きの射程から逃れたタクマは、そのまま槍使いの背後に着地して、側頭部に柄での打撃を繰り出す。それは入りが浅かったのか気を失わせることはできなかったが、ダメージは与えられた。

 

 それだけで十分なのである。

 

「逃げるぞアルフレシャ!」

『マスター、先ほど視界に入りましたが街の外への道は民兵や市民によって封鎖されています。逃れるなら内側に」

「この近くで匿ってくれそうな所なんて……あるな」

『はい、せっかくですからドリル様達も巻き込んでしまいましょう』

 

 そうして、アルフレシャの手を引いてドリルの入り浸っている孤児院へと向かうのだった。

 

 

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