残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります- 作:気力♪
「儂、なんも知らん。マジで」
その言葉は、タクマ達をフリーズさせるのに十分なものだった。
『……一応聞きますが、あなたは何をしていたのですか?』
「ずっと弟子を育てておった。儂と同じ、作物を成長させられるこの娘をな」
「えっと、
その少女の歳の頃はタクマとそう変わらない。だが、よくよく見れば優しく、しかし強かな魂を持っていると感じられた。
「それは、ジュリアス殿にしかできない事ですね。では、民主主義については?」
「入植者の権利をしゃんとさせようと思って協力しておる。メグミはこの通り親もなく、施設にも入れなかった子じゃ。たまたま儂が見つけられなかったら、死んでおったじゃろうな」
『なるほど。ならば、現在の内戦へ向かう状況を止める意思はあると?』
「儂とて元騎士じゃ、民草が無駄に死ぬ事を良しとはせぬよ」
その言葉を聞いたアルフォンスは「よし、ジュリアス殿と共に敵本陣に向かおう」と言った。
その言葉にメグミ以外は納得し、メグミも渋々同意しようとした時。
タクマとアルフォンス、そしてジュリアスは反応した。その
「タクマ! メグミ殿を!」
「言われなくても!」
「では、久方ぶりに抜くかの、儂の剣を!」
その言葉と共に抜かれるアルフォンスとジュリアスの二本の剣。その輝きは
「「
そうして放たれた二本の光剣が、ここに飛来してきた誰かの放ってきた飛来物を消滅させる。
タクマは恵を抱きかかえ、状況を見る。
まず、2本の
放たれたのは、強弓による連射。それを放ったのは、黒い装束の女弓兵。
その右手には、アルフレシャのコアが宿っている。
「こいつか……ッ!」
「名乗りはないな。今のうちに仕留めるべきだろう」
「……気を付けい! こやつのゲートは!」
その女に対して何か知っているジュリアスは警告をしようとしたが
「遅い」
という言葉とともに、
ただの一撃で、あっさりと。
「お爺ちゃん!」
「タクマ! 何が⁉︎」
『転移です! 放たれた矢が消え、ジュリアス様の背後に現れました!』
「アルフレシャのコアを奪ったのもその力か! 転移のゲート!」
その言葉と共に、タクマは腹を括る。射手は一人だが矢は360度どこからでも飛んでくる。
逃げるしかない。タクマの理性と本能は同じ事を言っていた。
「アルフォンス! 別れるぞ! 二手に分かれて兎に角逃げる!」
「ああ! 遮蔽物がなさ過ぎて戦いようがない!」
「待って、お爺ちゃんが、お爺ちゃんが!」
『恵様、今は落ち着いてください』
「……逃すと思うの?」
その言葉とともに、再び矢が放たれる。今度の着弾点はタクマとアルフォンスの間。
そこに
その衝撃により飛ばされるアルフォンスとタクマ。二人とも衝撃をそのまま受けて初速としたが、それでも射手の狙いから逃れることはできていない。そう、直感できている。
故に、アルフォンスは最短で事態を収束するべく、切り札を切った。
「
その蒼炎の鎧は、高速で真っ直ぐに射手の元へと向かっていった。
しかし、敵に動きはない。しっかりとアルフォンスを見据えており、しかしタクマのことを魂で捉えている。
そして、変わらずに強弓を構えている。
現在、見えているのは四本の矢。それの一発一発にアルフォンスを
そして、その矢は放たれたと同時に消え、アルフォンスに着弾する。
一発目は、アルフォンスの右足を狙って。
アルフォンスはゲートの身体能力と防御能力でそのまま突貫した。
多少のダメージが受けたが、スピードは落ちていない。
しかし、二発目は特攻を決めたアルフォンスの右足の膝裏に着弾した。
それにより、一発目によって力を受けていた足に逆方向からの力がかかる。
信じがたいことに、それは二本の矢を使った膝を破壊するための
「ガッ⁉︎」
「アルフォンス⁉︎」
そしてその関節技はアルフォンスの右足を鎧越しに破壊したのだ。
そして、残りの二発は同時に着弾して、爆発。その衝撃でアルフォンスは中に浮かさた。
そして矢が続いて着弾していく様を見て、タクマは気づいた。
「あいつ、空中で時間切れまで貼り付けにするつもりか!」
『マスター、援護を!』
「わかってる! 風よ……ッ⁉︎」
そしてタクマが風を吹かせてアルフォンスを助けようと魂を込めると、強弓がタクマに向かって放たれてくる。
ゲートを通さない矢だったが、
回避するしか、手はない。
そして今、タクマとアルフォンスには状況の打開のために打てる手が完全になくなった。
アルフォンスは空中で
タクマが接近、あるいは離脱しようとして風を踏もうとすると、風を踏んだ直後の初速により軌道修正できない瞬間を狙い撃たれて爆ぜ散るだろう。
そして、そもそも強弓の正確性により回避以外の行動を取ることが出来ていない。
「メディ! 何か策を思いつかないか⁉︎」
『現状取りうる手段の全てが潰されています! 誰かの救援がなければ1分以内に私たちは殺されます!』
そうして、手詰まりとなった時に抱えている少女、メグミはその魂を解放した。
そこにある感情は、怒り。
先ほどまで理不尽による悲しみに打ちひしがれていた少女は、しかしそれでも強い
「お前が、いるからぁああああ!
その言葉とともに、メグミから魂が流れ出た。
それは、まるで聖域が生まれたかのようだった。暖かく、育む力を持つ魂の聖域、それが
そして、暴走するかのように育つ作物たち。それが意思を持つかのように強弓の女に群がっていく。
流石にまずいと思ったのか、女は跳びのき宙を泳ごうとする。
それは、ほんの一瞬程度。しかし、隙を伺っていた二人の剣鬼にとっては十全過ぎる隙だった。
「すまん!」
その言葉を残してタクマは恵を放り捨て、アルフォンスの元に風を踏み続けて接近する。
そして、アルフォンスも同時に剣を構え、必殺の一刀の準備を整える。
射手もさるもの、飛翔しているタクマに対して矢を放つ。それは当然のように着弾してタクマを爆散させた。
しかし、タクマの放った風の足場は、しっかりとアルフォンスの左足に届いていた。
「……
そして、その足場を使って踏み込んだアルフォンスの閃光の剣は巨大化し、射手のいた空域をまとめて光で消し飛ばした。
「……手応えがない、逃したか?」
そう言ったアルフォンスであるが、しかし残されたゲート展開時間を考えてメグミを拾い、この区域から離脱するのだった。
それは、現状取り得る最良の選択肢だった。しかし、その姿はしっかりと見られていた。
転移のゲートにて極光を回避した黒衣の射手リコリスによって。
■□■
タクマが気付くと、そこはいつものロビーであった。
あれからのアルフォンス達の事が気がかりではあるが、それよりもまず今の事だ。
周囲に人はまばらだが、居ないわけではない。
しかし、その者たちはタクマを見てすらいなかった。厳密には何人か見ていたが、行動に移る事はなかった。
直接何かされるという事はなく、それを不気味に思う。
今ならば、集団リンチの一つや二つ起きてもおかしくないとタクマは思っているからだ。
そうして、タクマは起き上がろうとするも、体が動かない。
魂のダメージが重かったのか? と口に出そうとするも、それが音になる事はない。
そして、その理由に気が付いた。
タクマは今、無機質な手をしている。
その手は、第0形態アバターのものだった。
タクマは今、誰に触れる事も、誰に話す事も、誰に影響を与える事もないまま、ロビーに現れているのだった。
『これ、どういう事?』
『私が知っているわけないじゃないですか、馬鹿マスター』